〈論文〉大分市「人権に関する市民意識調査」の分析
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(2) 人権問題研究所紀要. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. り深い関心を寄せてきた。また調査は多数の市民の協力によって成り立ってお り、それによって得られたデータは貴重なものである。従ってこれを多方面か ら分析することは調査の目的にも合致するものであると判断される。こうした 立場から、先の報告書とは独自に今回の調査結果を分析することにした。先の 報告書の参照資料として活用されればありがたい。. (3)分析の進め方 筆者の分析は以下の3つの観点から進めることにする。 第一は、調査の中において取り上げられた人権課題のうち、同和問題に関わ る調査結果を分析の対象とした。本調査は大分市内で発生した部落差別事象を 契機として実施されることになったという経緯を有しており、その結果、同和 問題に関する設問が調査の中心をなしている。そうした本調査の意味をふまえ てのことである。 第二は、 「部落差別の現実が今なお大分市において存在しているのか否か」を 検証することである。 「差別の現実」が取り組みの前提であり、同時に克服すべ き取り組みの対象となる。市民意識調査という限られた領域ではあるが、調査 データからまずはこの点を見つめ直す。 第三は、市民の態度や行動にかかわる調査結果を最重視した。部落差別の現 実に対して市民がどのような態度や行動を示すのか、それが決定的に重要なこ とであるからである。教育や啓発の目的もこの点にある。そこで、市民の態度 や行動にかかわる設問を目的変数として、どのような要因がこれに影響を与え ているのかを分析する。そこから今後の課題を見つけ出したい。. - 22 -.
(3) 人権問題研究所紀要. 第2章. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. 部落差別の現実、あるのかないのか. (1)日常生活における忌避 日常生活において、同和地区出身者と接することに対する忌避意識を尋ねて いるのが問 7 と問 8 である。問 7 は、アパートを借りる際に、隣に同和地区出 身者が住んでいたらそのアパートを借りるかどうかを質問している。結果は図 1 の通りで、 「借りる」との回答した者に「条件が合えば借りる」を合わせても 74.6%であった。約 4 人に 1 人が、 「借りない」「よくわからない」「無回答・不 明」などとして「隣に住むこと」を逡巡していることが示されている。 問 8 は、同和地区出身者と同じ職場で働くとしたら不安になるかどうかを質 問している。結果は図 2 の通りで、 「ならない」 と明確に否定している人は 49.1% と、半数を割っている。 近隣や同じ職場に同和地区出身者がいることへの違和感が一定の割合の市民 をとらえている。日常生活において、同和地区出身者に対する忌避意識が存在 している。. 図1. 隣に同和地区出身者が住んでいる ときアパートを借りますか. 借り ない, 5.3%. 同和地区出身者と同じ職場では 働く時不安になりますか. とてもな る, 1.1%. 無回答・ 不明, 5.6%. よくわか らない, 14.5%. 図2. なる, 3.2% どちらと もいえ ない, 15.6%. 無回答・ 不明, 6.3%. 借りる, 45.4%. ならない, 49.1%. 条件が合 えば借り る, 29.2%. - 23 -. あまりな らない, 24.7%.
(4) 人権問題研究所紀要. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. (2)結婚における忌避 問 11 では自分の結婚相手を考える際に、「相手が同和地区出身かどうか」が 気になる(気になった)かどうかを質問している。また問 12 では、自分の子ど もの結婚相手を考える際に、 「相手が同和地区出身かどうか」が気になる(気に なった)かどうかを質問している。結果は図 3 の通りであり、自分の結婚にお いて気になる(気になった)人の割合は 9.0%、自分の子どもの結婚において 気になる(気になった)人の割合は 10.0%であった。 結婚は人生における大きなできごとであり、その際「気になる」ことは放っ ておかれることはないであろう。 「気になる」ことは「確かめられる」のであり、 今日なお結婚における身元調査が広く行われていることをうかがわせている。 しかも「気になる」ことの中身は、「単に知りたい」ではなく、「同和地区出 身者であれば避けたい」ということであり、結婚差別に直結する意識である。 同和地区出身者に対する結婚におけるこうした忌避意識が市民の 10 人に 1 人に およんでいる。 また年齢階層別にその割合を見ると、50 歳代が最も高く、子どもの結婚にお いて気になる人は 13.3%と 7.5 人に 1 人となっている。この年齢階層が子ども が結婚を迎える時期の親世代であることを考えるとき、その影響は大きい。. - 24 -.
(5) 人権問題研究所紀要. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. 図3. 結婚に際して相手が同和地区出身者かどうかが気になるか(気になったか) 13.3% 12.8% 11.7% 11.3% 12.0% 11.2% 10.6% 10.0% 10.0% 9.0% 8.4% 8.0% 6.5% 6.1% 5.7% 5.6% 6.0% 3.1% 4.0% 14.0%. 2.0% 0.0%. 自分の結婚相手が同和地区出身者かどうか気になる(気になった) 自分の子どもの結婚相手が同和地区出身者かどうか気になる(気になった). (3)同和地区出身者に対するイメージ 問 19 では、 「あなたは、同和地区出身者について次のような言葉を聞いたと き、どのような感じやイメージを持ちますか」との質問を行ない、図 4 に表示 しているA群およびB群のそれぞれの言葉を対にして提示している。 回答において、 「非常にAに近い」に 5 点、 「ややAに近い」に 4 点、 「どちら ともいえない」に 3 点「ややBに近い」に 2 点、 「非常にBに近い」に 1 点を与 え、その平均点を算出した。その結果が図 4 である。 本来「同和地区出身者」ということだけで「上品な-下品な」などのイメー ジを持つことはできず、結果として「どちらともいえない」の 3 点に収束され なければならない。それは「大分市民」と聞かされて、 「上品な-下品な」など のイメージを持つことができないとの同じである。ところが、 「同和地区出身者」 という言葉に対して、 「働きもの-なまけもの」の項目以外は、 「下品な」 「不潔 な」「貧しい」「遅れている」というマイナスイメージに傾いている。市民の中 に、同和地区出身者に対するマイナスイメージが広く存在している。 - 25 -.
(6) 人権問題研究所紀要. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. 図4. 同和地区出身者に対するイメージ. (4)差別的情報の流布 本調査では、市民の意識だけではなく、実生活において同和問題がどのよう な登場の仕方をしているのかという実態も調査されている。それが問 20 の「あ なたは『同和地区出身者はこわい』というような話を聞いたことがありますか」 という質問である。 それによると、「話を聞いたことがある」とした人は 34.6%に上っている。 これは市民 3 人に 1 人以上であり、こうした差別的なうわさが広く流布されて いる状況があることが明らかにされた。 さらに、こうした話を聞いたことがあるとした人に、「その話を聞いたとき、 どう感じましたか」と質問したところ、「その通りと思った」が 9.0%、「そう いう見方もあるのかと思った」が 61.5%となっている。一方、「反発・疑問を 感じた」は 10.8%にとどまっている。 言うまでもなく同和地区出身者には、相手に「こわい」と感じさせる人もお れば、 「やさしい」と感じさせる人もいる。それは、大分市民の場合においても 同じである。従って、 「同和地区出身者はこわい」というような一方的な話を聞 いた場合、「なぜそんなことを断定するのか」と疑問に感じたり、「そんな風に - 26 -.
(7) 人権問題研究所紀要. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. 決めつけるものではない」と反発するのが通常であろう。ところが、こうした 当たり前の反応は 10.8%にとどまっている。差別的なうわさを無批判に受け入 れる偏見がそこに垣間見える。. 図5. 「同和地区出身者はこわい」という話を聞いた経験とそのときの感じ 特に何も思わ なかった, 14.3%. 話を聞いたこと がある. 無回答・不 明, 4.4%. 34.6% 反発・疑問を 感じた, 10.8%. 話を聞いたこと がない 無回答・不明. その通りと思っ た, 9.0%. 60.9% 4.6%. そういう見 方もあるの かと思った, 61.5%. (5)不動産の賃貸や購入における忌避 問 27 では、不動産の賃貸や購入において同和地区を避けることがあるかにつ いて質問している。結果は図 6 の通りで、「避けると思う」が 23.3%に達して いる。逆に「こだわらない」は 18.7%であった。 同和地区の不動産が忌避されるなかで、近年では「土地差別調査事件」が発 覚している。こうした状況が、大分市においても存在していることを調査結果 は示している。. - 27 -.
(8) 人権問題研究所紀要. 図6. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. 不動産の賃貸や購入における同和地区への忌避 無回答・不明, 5.1%. 避けると思う, 23.3%. よくわからない, 30.3%. 条件があえば こだわらない, 22.6% こだわらない, 18.7%. (6)市民の実感とまとめ 1.住居や職場といった生活現場における同和地区出身者への忌避意識の存在 2.結婚における忌避意識の存在 3.同和地区出身者に対するマイナスイメージの存在 4.差別的な情報が広く漂っている状況と、それを安易に受け止める偏見の 存在 5.不動産の賃貸や購入における同和地区の物件に対する忌避的態度 など本調査が明らかにしているデータは、今日なお部落差別の現実が根強く 残されていることを示している。この大分市の町に「部落差別の現実があるの か、ないのか」と問われれば、それは「ある」と答えねばならない事実が本調 査によって明らかにされた。 問 23 では、「あなたは、同和問題に関して、現在、どのような問題が起きて いると思いますか」と尋ねている。回答結果は図 7 の通りである。これを見る. - 28 -.
(9) 人権問題研究所紀要. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. と市民自身が部落差別の現実がなお残されていることを認識していることがわ かる。市民の実感と調査の結果は一致している。. 図7 同和問題に関して現在起きていると思う問題 0%. 5%. 10%. 15%. 20%. 25%. 30%. 35%. 40%. 結婚問題で反対されること. 50% 46.8%. 就職・職場で不利な扱いをされること. 22.7%. 差別的な発言があること. 25.6%. 差別的な落書きがあること. 7.1%. 身元調査をされること. 24.9%. 地域の活動やつきあいで不利な扱いをされること. 11.9%. 同和地区への居住が敬遠されること. 21.8%. インターネットにおいて差別的な情報が飛びかっていること その他. 45%. 5.8% 1.4%. 特に問題はない. 8.0%. わからない. 35.2%. 第3章 態度や行動に影響を与えているもの(形成要因)の探求 (1)「同和問題に関する態度や行動」(目的変数)の設定 市民に対する教育や啓発活動の目的は、つまるところ、差別の撤廃に向けた 市民の態度や行動の育成にある。市民の態度や行動に結びついてこそ教育や啓 発活動は意味をなす。そこで、同和問題に関する態度や行動に影響を与えてい るものについていくつかの仮説を設定して検証していくこととする。 なお「同和問題に関する態度や行動」として取り上げる質問項目(目的変数) には、近年発覚した「土地差別調査事件」を通じてクローズアップされている 「住宅購入における態度」(問 27)と、同和問題のもっとも深刻な課題である といわれる「結婚に関わる態度」(問 30)をとりあげた。. - 29 -.
(10) 人権問題研究所紀要. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. 問 27「あなたが、住宅を購入したり、マンションを借りたりするなど住宅を選 ぶ際に、同和地区を避けることがあると思いますか」 (住宅購入における 態度) 1.避けると思う 2.家やマンションの条件があえばこだわらない 3.こだわらない (4.よくわからない は、相関係数算出において欠損値扱いとした). 問 30「仮に、あなたのお子さんが、恋愛をし、結婚したいといっている相手が 同和地区出身者だとわかった場合、あなたはどんな態度を取ると思いま すか」 (結婚にかかわる態度) 1.まったく問題にしない 2.迷いながらも、結局は問題にしないだろう 3.迷いながらも、結局は考え直すように言うだろう 4.考え直すように言う. (2)第1の仮説:「状況認識」の影響 では、こうした「住宅購入における態度」や「結婚に関わる態度」が何によ って影響を受けているのだろうか。第1に取り上げたのは「状況認識」である。 同和問題を巡り、自分の周囲や社会はこの問題をどのように受け止めているの か、その理解が自分の態度や行動に影響を与えているとの仮説を設定した。 「自分の周囲の状況認識」として取り上げたのは問 30(2)の結婚における 予想される親戚の態度であり、「社会の状況認識」として取り上げたのは問 31 の同和地区出身者に対する社会動向認識である。 問 30(2)仮に、あなたのお子さんが、恋愛をし、結婚したいといっている相 手が同和地区出身者だとわかった場合、あなたの親戚はどんな態度を取 ると思いますか。 1.とんでもないと反対する親戚がいるだろう 2.口に出して反対する者はいないが、喜ばない親戚がいるだろう 3.誰もそれを問題にしないだろう (4.よくわからない は、相関係数算出において欠損値扱いとした). - 30 -.
(11) 人権問題研究所紀要. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. 問 31 同和地区出身者に対する差別について、A、B二人の意見が次のように 分かれました。 Aの意見:今日では差別は許されない状況にあり、差別する人がやがて 孤立してしまう。 Bの意見:世間ではまだまだ差別が残っており差別をなくそうとする人 が孤立してしまう。 あなたは、A、Bどちらの意見に近いですか。 1.Aの意見に賛成 2.どちらかというとAの意見に賛成 3.どちらかというとBの意見に賛成 4.Bの意見に賛成 (5.わからない は、相関係数算出において欠損値扱いとした) 表 1 は、これら2つの質問の結果と「住宅購入における態度」および「結婚 に関わる態度」との相関係数である。相関係数の絶対値はいずれも大きく、明 らかに強く相関していることがわかる。 同和地区出身者との結婚に反対するであろう親戚がいると受け止めている状 況があればあるほど、住宅購入や子どもの結婚における同和地区および同和地 区出身者に対する忌避的態度が増すことを示している。親戚の影響は大きい。 また同様に、 「世間ではまだまだ差別が残っており差別をなくそうとする人が 孤立してしまう」と認識している人ほど、同和地区および同和地区出身者に対 する忌避的態度が増すことを示している。社会動向認識が忌避的態度に直結し ている。. 表1. 状況認識と忌避的態度の相関係数 問27 住宅購入におけ 問30 子どもの結 る態度 婚における態度. 問30(2) 子どもが同和地区出身者と結婚するときの親戚の態度 問31 同和地区出身者に対する差別の動向. 0.356. **. 0.408. **. -0.177. **. 0.226. **. (相関係数についての注釈) ・調査データの分析において、調査項目間に「関係があるか無いか」を確 - 31 -.
(12) 人権問題研究所紀要. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. かめるためには様々な分析方法があるが、相関係数の算出はその分析手 法の一つである。ここでは調査項目間の「スピアマンの相関係数」と呼 ばれるものを用いて検証している。 ・計算では、調査票の回答番号をそのまま使用しているので、相関係数の 符号がプラスであれば、一方の質問で小さい番号を選択している人ほど、 もう一つの質問においても小さい番号を選択している傾向があることを 示している。例えば、問 31 で「1.Aの意見に賛成」や「2.どちらか といえばAに賛成」という小さい番号を選んだ人ほど、問 30 で、「1. まったく問題にしない」や「2.迷いながらも、結局は問題にしないだ ろう」を選択する傾向にあり、忌避的態度が弱いということを示してい る。 ・逆に相関係数の符号がマイナスであれば、例えば、問 31 で「1.Aの意 見に賛成」や「2.どちらかといえばAに賛成」という小さい番号を選 んだ人ほど、問 27 で番号の大きい、「3.こだわらない」を選択する傾 向にあり、忌避的態度が弱いということになる。 ・相関係数の絶対値はその強さを示しており、絶対値が大きいほど相関関 係は強いといえる。 ・相関係数の末尾に記している「*」や「**」の記号は、その係数の統 計的な有意水準を示しており、 「*」は 5%水準で有意、 「**」は 1%水 準で有意である。これらの記号が付いていない場合は、統計的に有意な 相関関係は認められないといえる。 ・なお、取り上げる質問の回答番号において、「わからない」「無回答・不 明」は欠損値扱いとした。. (3)第2の仮説:「差別についての考え方」の影響 第 2 に取り上げたのは「差別についての考え方」である。差別に関してどの - 32 -.
(13) 人権問題研究所紀要. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. ような考え方を持っているのかが態度や行動に影響を与えているとの仮説を設 定した。なお「差別についての考え方」は問 16 の質問を用いた。. 問 16. 一般的に「差別」について、あなたはどのようなお考えをお持ちですか。 回答番号 1.そう思う 2.どちらかといえばそう思う 3.どちら ともいえない 4.どちらかといえばそう思わない 5.そ う思わない ①差別は人間として最も恥ずべき行為のひとつである ②差別は法律で禁止する必要がある ③あらゆる差別をなくすために、もっと行政は努力する必要がある ④差別だという訴えを、いちいち取り上げていたらきりがない ⑤差別問題は、差別されている人の問題で自分には関係ない ⑥差別を問題化することによって、より問題が解決しにくくなる ⑦差別されている人は、差別されないように、まず、自分たちが努力す ることが必要だ ⑧差別の原因には、差別される人の側に問題があることも多い. 表 2 は、これら問 16 のそれぞれの回答結果と「住宅購入における態度」およ び「結婚に関わる態度」との相関係数である。 ④差別だという訴えを、いちいち取り上げていたらきりがない、⑤差別問題 は、差別されている人の問題で自分には関係ない、⑥差別を問題化することに よって、より問題が解決しにくくなる、⑦差別されている人は、差別されない ように、まず、自分たちが努力することが必要だ、⑧差別の原因には、差別さ れる人の側に問題があることも多い、という考え方が強ければ強いほど、住宅 購入における忌避的態度が強くなり、結婚での忌避的態度も増していることが 示されている。差別の問題を「当事者の自己責任の問題」であるととらえ、自 分たちとは「無関係な課題である」と受け止める考え方を持っている人ほど、 忌避的態度が強い傾向にあることが示された。 逆に、①差別は人間として最も恥ずべき行為のひとつである、という考え方 が強いほど、忌避的態度が弱くなる傾向にあることを示している。 - 33 -.
(14) 人権問題研究所紀要. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. ②差別は法律で禁止する必要がある、および、③あらゆる差別をなくすため に、もっと行政は努力する必要がある、という考え方については、これが強い ほど結婚における忌避的態度が弱くなる傾向があるがそれほど大きいものでは ない。. 表2 差別についての考え方と忌避的態度の相関係数 問27 住宅購入におけ 問30 子どもの結 る態度 婚における態度 問16 差別についての考え方 ①差別は人間として最も恥ずべき行為のひとつである. -0.126. **. 0.135. **. ②差別は法律で禁止する必要がある. -0.044. 0.053. *. ③あらゆる差別をなくすために、もっと行政は努力する必要がある. -0.038. 0.061. *. ④差別だという訴えを、いちいち取り上げていたらきりがない. 0.145. **. -0.150. **. ⑤差別問題は、差別されている人の問題で自分には関係ない. 0.155. **. -0.180. **. ⑥差別を問題化することによって、より問題が解決しにくくなる. 0.098. **. -0.125. **. ⑦差別されている人は、差別されないように、まず、自分たちが努力 する必要がある. 0.220. **. -0.223. **. ⑧差別の原因には、差別される人の側に問題があることも多い. 0.225. **. -0.219. **. (4)第3の仮説:講演会・研修会の受講経験や学習経験の影響 これまでの検証をつうじて、 「状況認識」や「差別についての考え方」が、 「住 宅購入における態度」や「結婚に関わる態度」に影響を与えていることが明ら かになった。しかしこれらはいずれも、人が生まれながらにして持っているも のではない。むしろ、成長過程における学習や生活体験などを通じて個々人の 「認識」や「考え方」は形成されるものである。 そこで、人権や同和問題についての学習や研修の受講経験の影響をはかるこ ととする。人権問題に関する講演会や研修会への参加経験(問 13)や学校・職 場・地域などでの同和問題についての学習経験(問 24)があるほど、差別撤廃 への社会動向を感じ取り、差別についての建設的な考え方が育成され、結果と - 34 -.
(15) 人権問題研究所紀要. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. して、 「住宅購入における態度」や「結婚に関わる態度」における忌避的態度が 和らいでいるのではないかという仮説の設定である。. 問 13 あなたは、次にあげる人権問題に関する講演会や研修会に参加したこと がありますか。 1.市や県主催の講演会・研修会 2.学校やPTA主催の講演会・研修会 3.地区公民館、地区(校区)人権教育推進協議会主催の講演会、研修会 4.職場での研修会 (5.その他 6.参加しことがない は相関係数算出において欠損値扱いとした). 問 24 あなたは、これまで、学校・職場・地域などで、同和問題についての学 習を受けたことがありますか。 1.小学校で受けた 2.中学校で受けた 3.高校で受けた 4.大学で受けた 5.公民館等の講座で受けた 6.職場の研修で受けた (7.はっきり覚えていない 8.受けたことはない 9.その他 は相関係数算出において欠損値扱いとした) この仮説に基づき、問 13・問 24 と「住宅購入における態度」や「結婚に関 わる態度」との相関係数を算出した。表 3 はその結果である。結果は予想外で あった。 人権問題に関する講演会や研修会の参加経験との関係では、 「住宅購入におけ る態度」や「結婚に関わる態度」との間に統計的に有意な相関関係は認められ なかった。つまり、講演会や研修会の参加が態度や行動に影響を与えるものに はなっていないことを調査は示している。 一方、学校・職場・地域などでの同和問題についての学習経験については、 「住宅購入における態度」に対して「小学校での学習経験」が忌避的態度を和 らげる傾向を示しているが、他における学習経験との有意な相関関係は認めら れていない。また、「結婚に関わる態度」に対しては、「小学校、中学校」での 学習経験は比較的はっきりと忌避的態度を弱める力を発揮している。 「高校、大 - 35 -.
(16) 人権問題研究所紀要. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. 学」での学習経験も、弱いながらも忌避的態度を弱める力を発揮している。し かし、 「公民館等の講座、職場の研修」経験には、有意な相関関係は認められて いない。 小学校や中学校での取り組みが一定の成果を示しているが、市民啓発や職場 での職員研修が態度や行動に効果を与えるまでにはなっていないことがわかる。. 表3. 講演会・研修会の受講経験や学習経験と忌避的態度との相関係数 問27 住宅購入におけ 問30 子どもの結 る態度 婚における態度. 問13 人権問題に関する講演会や研修会への参加 1.市や県主催の講演会・研修会. 0.019. -0.005. 2.学校やPTA主催の講演会・研修会. 0.026. -0.025. 3.地区公民館、地区(校区)人権教育推進協議会主催の講演会・研 修会. 0.023. 0.005. 4.職場での研修会. 0.009. -0.021. 問24 同和問題の学習経験 1.小学校で受けた. 0.063. -0.131. **. 2.中学校で受けた. 0.052. -0.092. **. 3.高校で受けた. 0.030. -0.067. *. 4.大学で受けた. 0.046. -0.063. *. 5.公民館等の講座で受けた. 0.014. 0.007. -0.120. -0.043. 6.職場の研修で受けた. *. (5)第4の仮説:日常生活での同和問題に関する経験の影響 次に、 「状況認識」や「差別についての考え方」の形成に反映し、結果として 「住宅購入における態度」や「結婚に関わる態度」に影響を与えているのでは ないかと設定したのが「日常生活での同和問題に関する経験」である。第 4 の 検証作業は、この点について調べた。 「日常生活での同和問題に関する経験」として取り上げたのは問 15 の④の同 和地区出身者とのふれあい、問 20 および問 21 の同和地区出身者や同和問題に - 36 -.
(17) 人権問題研究所紀要. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. 関する話を聞いた経験の 3 つである。. 問 15. あなたは、これまでの生活の中で、次の方とふれあうこと(一緒に働い たり、活動したり、交流会に参加したりすること)がありますか。 回答番号 1.よくある 2.時々ある 3.ほとんどない 4.まっ たくない ①同和地区出身者. 問 20 あなたは、「同和地区出身者はこわい」というような話をきいたことが ありますか。 1.ある 2.ない. 問 21 あなたは、「同和問題には関わらないほうがよい」というような話をき いたことがありますか。 1.ある 2.ない 表 4 はその結果である。同和地区出身者とのふれあいがある人ほど、住宅購 入や結婚における忌避的態度は弱い傾向にあることを示している。 さらに、 「同和地区出身者はこわい」や「同和問題には関わらないほうがよい」 という話を聞いたことのある人ほど、住宅購入や結婚における忌避的態度がは っきりと強くなる傾向が明らかにされている。しかもこうした話は図 8 の通り、 市民の 34.6%の人が聞いたことがあるとしている。またその話し手は、友人が 20.1%、家族が 19.6%、職場の人が 17.0%などとなっており、生活の様々な場 でこうした噂が飛び交っていることがわかる。また、2.3%の人は学校の先生や 市町村の職員から聞いたと答えていた。広がっている偏見の流布は、市民の態 度や行動に大きな影響を与えている。. - 37 -.
(18) 人権問題研究所紀要. 表4. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. 日常生活での同和問題に関する経験と忌避的態度との相関係数 問27 住宅購入におけ 問30 子どもの結 る態度 婚における態度. 問15④ 同和地区出身者とのふれあい. -0.099. **. 0.063. **. 問20 「同和地区出身者はこわい」という話を聞いた経験. 0.245. **. -0.224. **. 問21 「同和問題に関わらないほうがよい」という話を聞いた経験. 0.241. **. -0.208. **. 図8. 「同和地区出身者はこわい」という話を聞いた経験とその話をした人 無回答・不 明, 6.4% その他, 11.2%. 話を聞いたこと がある 話を聞いたこと がない 無回答・不明. 第4章. 34.6%. 60.9%. 家族, 19.6%. 知らない人, 5.9% 学校の先生・ 市町村職員, 2.3%. 親戚, 7.1% 職場の人, 17.0% 友人, 20.1%. 4.6%. 近所の人, 10.3%. まとめ(課題提起). (1)分析の構図とまとめ 2010 年大分市による「人権に関する市民意識調査」を市民の態度や行動に焦 点を当てて分析を進めてきた。その分析の構図は図 9 の通りである。 図の一番下に設定している「部落差別の現実」は第2章の作業を通じて明ら かにした通りである。部落差別はなお厳然と存在している。そしてこれは社会 的に作り出された現実であるがゆえに、社会的な取り組みによって変革するこ と以外には解決の道はない。すなわち、市民の態度や行動による実践である。 分析作業の第 3 章では、 「住宅購入における態度」や「結婚に関わる態度」を. - 38 -.
(19) 人権問題研究所紀要. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. 取り上げて、これらに影響を与えている要因の分析に取り組んだ。その第 1 の 仮説は「状況認識」の影響であり、第 2 の仮説は「差別についての考え方」に よる影響であった。結果はいずれも、これらが「住宅購入における態度」や「結 婚に関わる態度」に影響を与えていることを示した。 分析作業はさらに、こうした「状況認識」や「差別についての考え方」がど のような社会的経験によって得られているのかを検証した。それによると、同 和地区出身者とのふれあいや部落問題に関する話の入手など、日常的な経験が プラスマイナスそれぞれの影響を与えていることが明らかになった。しかし学 校教育をのぞき、市民啓発活動による影響は予想外に明確ではなかった。. 図9. 調査分析の構図. - 39 -.
(20) 人権問題研究所紀要. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. (2)分析結果から提起される課題 ここでの分析結果から提起される課題は次のような点である。 1.部落差別の現実について、今日なお根強く存在している。この事実につ いての共通認識の形成が必要である。今後の取り組みに関する意見の相 違は、差別の現実認識の相違に起因している場合が多い。スタートライ ンの確認は重要である。 2.部落差別についての社会動向認識が、態度や行動に影響を与えている。 国内外ともに、時代と社会は確実に差別の撤廃と人権の伸張に前進して いることは確かである。 「今日では差別は許されない状況にあり、差別す る人がやがて孤立してしまう」現実を、様々な事実を取り上げながらし っかりと市民に伝えていくことが求められる。 3.同和地区出身者と子どもが結婚するに際して、親戚の態度が大きく影響 していることが示された。このことは、親戚の中に結婚差別をするべき ではないとの態度を取る人がおれば、それは逆に大きな支えになること を教えている。反差別の意識をもった啓発リーダーがもっともっと市民 の中に育ち、網の目に存在する状況を作り上げていくことが大切である。 4.「差別についての考え方」が態度や行動に直結している。とりわけ、「差 別だという訴えを、いちいち取り上げていたらきりがない」、「差別問題 は、差別されている人の問題で自分には関係ない」、「差別を問題化する ことによって、より問題が解決しにくくなる」、「差別されている人は、 差別されないように、まず、自分たちが努力することが必要だ」、「差別 の原因には、差別される人の側に問題があることも多い」という考え方 が、差別的な態度に結びついていることに注意を払いたい。人権の伸張 は被差別当事者の訴えから一歩一歩前進してきた歴史的事実を再確認し、 当事者の声を丁寧に受け止めていくことが大切である。同時に、 「被差別 当事者の自己責任論の克服」を教育や啓発の取り組みにおいて徹底して - 40 -.
(21) 人権問題研究所紀要. 大分市「人権に関する市民意識調査」の分析. いかなければならない。 5.学校教育が一定の成果を示しているのに対して、社会教育や企業での取 り組みの弱さが調査において示された。とりわけ、様々な生活現場にお いて、 「同和地区出身者はこわい」や「同和問題には関わらない方がよい」 といった差別的な話が流布されており、こうした話が差別の助長に影響 を与えている事実を踏まえるとき、市民に対する啓発活動の一層の充実 は待ったなしで求められている。PTAや地区別のきめ細かな研修会、 さらには企業における職場での研修活動の一層の推進が求められている。 なお学校教育においても、今回の調査結果を踏まえてさらにその充実が 期待される。 6.今回は同和問題が中心となった人権意識調査であった。様々な人権課題 を一度に羅列した調査では、いずれの課題においても中途半端なデータ しか得られないからである。しかし意識調査の必要性が求められている のは同和問題だけではない。そこで、今後は他の人権課題に関する意識 調査もそれぞれの主管部局において実施されることが望まれる。こうし た意識調査が、課題ごとに順繰りにたとえば 5 年おき定期的に実施され ていけば、データの経年変化を読みとることができ、取り組みの効果測 定や課題抽出にさらに有効なものとなろう。 本調査が、これからの取り組みに十分に活用されることを心より願っ ている。. - 41 -.
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