Ⅰ.はじめに 近年,医療技術の進歩によって重症心身障害児 (者)(以下,重症児という)の寿命が長くなり,高 齢化₁ )が進んでいる。そのため,障害の程度が重 く,呼吸管理や栄養管理などの医療的ケアを受けな がらも,家庭で生活する重症児が増加₂ )しており, その生活を支援するシステムの構築が課題となって いる。これまでも,退院調整加算の新設(2008)や 障害者総合支援法(2013),在宅医療分野への報酬 の改定(2014),社会福祉士及び介護福祉士法の改 正(2014),「盲・聾・養護学校におけるたんの吸引 等の取扱いについて」の厚生労働省医政局長通知 (2004)等,法制度の改正に伴って,学校教員や介 護福祉士が実施できる医療的ケアの範囲も拡大して いる。そして,これらと並行して,子どもと家族を 支援するための医療・教育・福祉等の連携体制や在 宅医療提供体制の整備が進められてきた。 しかし,これらの制度改革が進められた2013年以 降の文献について筆者らが検討₃ )した結果では,主 たる養育は母親が担っているのが実情で,社会資源 の利用のし難さや,子どもの反応や訴えが不明なこ となどによる養育の困難さが示されていた。一方で, 在宅で重症児を養育する家族は,重症児の障害の程
重症心身障害児を在宅で養育する家族に関する文献検討
― AI 技術活用の可能性 ―
横関恵美子・池 本 有 里・児 島 知 樹・木 田 菊 惠・山 本 耕 司
Literature Review of families taking care of children with SMID at Home
― The Possibility for Utilization of Artificial Intelligence Technology ―
Emiko Y
okozeki, Yuri I
kemoto, Tomoki k
ojima, Kikue k
idaand Kohji Y
amamotoABSTRACT
In recent years, with advances in medical techniques and promotion of home healthcare, the number of children with SMID needing medical care (hereafter, children with SMID) nurtured at home has increased. However, the mothers nurturing the seriously ill children sometimes have difficulties understanding their own children due to their weak physiological reactions and unclear indication of intention. Therefore, in order to investigate the utilization of Artificial Intelligence (hereafter “AI”) to support the lives of children with SMID and their families, literature surveys
were conducted.
According to 48 literature reviewed, their families have accumulated the experiences wherein they identified and understood reactions of their children based on alarms of medical devices and minute changes in their expressions.
In this paper, we investigated the experience values of caregivers in these 48 literatures, examined AI utilization techniques for visualizing the reaction of children with SMID, and mention the possibility of effective sensing for detecting unusual conditions.
KEYWORDS: Children with SMID(severe motor and intellectual disabilities),Medical Care,Home,
度による支援の違いや制度上の制約の中で,重症児 の状態に合わせて適切な支援を提供してくれる社会 資源を選択しようと努力していることを確認した。 しかし,その支援が重症児にとって適切でないと判 断した時は,実際には困っていたとしても利用を望 まないことも確認した。そして,その一方で,重症 児の生命の安全や状態に応じたケアの提供及び緊急 時の対応を受けられる社会資源を強く望んでいた₄ )。 海外においても,重症児のケアのスケジュールに 合わせて家族の生活を調整する必要があり₅ ),家族 の生活を制限₆ )し,社会的孤立₇ , ₈ )や精神状態に も影響すること₉ )が報告されている。 このような背景を踏まえ,現在ある社会資源を活 用しながら,在宅での生活が継続できている重症児 を持つ ₇ 名の母親の体験を調査した結果,「母親の ケアによって重症児が喜んでくれる」,「母親のケア の方法を認めてくれる」,という成功体験が必要で あることがわかった。しかし,一方で,初期の段階 では「子どもの反応の意味に気づかせてくれる専門 職者」の存在が必要であることがわかった10)。また, 母親が,自信を持って子どものケアを行うためには, 子どもの反応に対する理解が必要であり,理解でき るまでは支援が必要であることがわかった。 先行文献によると,反応や訴えが微細であること が重症児の特徴であるため,重症児のわが子とのコ ミュニケーションの難しさ11)や,体調の良し悪し の見極めの難しさ12)などが認められている。また, 家族の関わりに対して期待どおりにいかず親を喜ば せる反応が少ない13)ともあり,鯨岡14)は重い障害 のある子どもは,養育者からのケアを引き出すため の十分な力,例えば笑顔や心地よい声などをもって いないため,養育者からの関わりを持続的に引き出 し難いと述べている。一方で,Rubin15)は,母性行 動の形成には,母親の関わりに対する子どもからの 肯定的なフィードバックと,他者からのサポートが 重要であると述べている。 さて,近年は蓄積されたデータをもとに,次の知 識を定義する要素(特徴量)を機械学習によって 自ら修得し,判断基準を最適に設定するディープ ラーニング(深層学習)の登場により,人工知能 Artificial Intelligence(以下,AI)は様々な産業での 応用に期待が寄せられている16)。 AI が果たす機能は,図 ₁ に示すように「識別」,「予 測」,「実行」に分類できるが,いずれもこれらの精度 をあげていくことで,実用性が上がることになる17)。 AI 技術は,現在既に様々なサービスに組み込ま れ,インターネットの検索エンジンやスマートフォ ンの音声応答アプリケーション,音声検索や音声入 力機能など,日々の生活の中で無意識に活用されて いる18)。このような AI 技術を重症児のケアに応用 する場合,子どもの声や呼吸音,心音などの音声認 識,表情変化などの動画認識による識別に期待がで き,これらを一定時間計測することにより,いつも の状態モデルを時系列データの学習によって確立す ることが可能となる。そして,重症児の状態の違い を検出すると,いつもと違う兆候を検知し,状態変 化を予測することが可能となる。そして,その予測 値をトリガーとする最適機能の自動的な実行によ り,アラームを鳴らす等のお知らせを発するといっ た,図 ₁ の機能領域の組み合わせが考えられる。 このように,AI 技術を活用することで,子ども の微細な反応を捉え,その反応を理解できるように なれば,母親は自分のケアに自信を持つこともでき, 養育を担う家族の負担軽減につながることが期待さ れる。そこで,具体的な AI 技術の活用を検討する ために,本論文では重症児を養育する家族を調査し た文献の検討を実施する。 図1.人工知能(AI)の実用化における機能領域17)
Ⅱ.目的 本研究では,重症児を養育する家族の負担軽減を 目的に,家族の体験を明らかにして AI 技術活用の 具体的なシーンや方法について検討する。 Ⅲ.用語の定義 1 .重症心身障害児: 重症心身障害児の概念は,重症児とその家族が社 会的サポートを受けられるようにすることを目的に 生まれたものであり,昭和38年 ₇ 月の厚生省次官通 達を始まりとしている。その後の変遷を経て,「重 度の肢体不自由と重度の知的障害が重複している児 童および18歳以上のもの」と定義され,対象は児者 一貫,すなわち全年齢を対象とするものである19)。 2 .AI(Artificial Intelligence): 人間の知的ふるまいの一部を,ソフトウェアを用 いて人工的に再現したものをいう。特に近年の機械 学習を取り入れた AI では,経験から学び,新たな 入力に順応することが自動的にできるようになり, 人間が行うように柔軟にタスクを実行するように進 化している20)。 Ⅳ.研究方法 1 .文献の抽出 医学中央雑誌 Web 版 Version5,メディカルオン ラインを用いて2000 ~ 2018年の文献検索を行った。 キーワードは,「重症心身障害」と「コミュニケー ション」,「体験」,「障害」,「家族」,「子ども / 小児」 の or 検索として該当する文献を抽出した。そして, それらの文献の抄録内容を確認し,「重症児を養育 する家族の体験に関する内容」について記載のある 原著論文及び研究報告に絞り込み,本研究における 分析の対象とした。 2 .分析方法 まず,Ⅳの ₁ で分析の対象として絞り込んだ文献 の抄録内容について,「研究協力者」,「データ収集方 法」,「研究方法」で分類した。そして,重症児を在 宅で養育する家族をどう支援するかを明らかにする という観点で,「重症児を養育する家族の体験に関す る内容」における鯨岡14)と Rubin15)の理論に基づき, 「①重症児との関わり」,「②重症児と生活すること」, 「③社会資源に関すること」に分類し,考察した。 Ⅴ.結果 1 .検索結果(表 1 ) Ⅳの ₁ で検索した文献数は116件(最終検索日 2019. ₆ .30)あり,これらの抄録内容を確認し,目 的にあった原著論文と研究報告の絞込みを行った結 果,表 ₁ に示すように,分析対象として抽出した文 献数は48件となった。 2 .文献の概要 Ⅳの ₂ で示した抄録内容の分類ごとに,以下にそ の特徴を述べる。 ₁ )研究協力者 研究協力者は,家族・養育者・父親と母親両者を 含むという文献が21件,母親のみの文献が24件,父 親のみの文献が ₃ 件であった。家族,養育者,親と いう用語で検索した場合,両親を対象とした文献が 多かったが,父親のみを対象とした文献に比べると, 母親のみを対象とした文献が圧倒的に多かった。 ₂ )データ収集方法 分析対象とした48件の文献を,そのデータ収集方 法で分類すると,質問紙調査20件,面接調査22件(半 構造化面接21件,構造化面接 ₁ 件),半構造化面接と 質問紙調査を用いた文献 ₄ 件,フォーカスグループイ ンタビュー ₁ 件,機器を使用した計測 ₁ 件であった。 3 )研究方法 研究方法は,質的研究27件(グラウンデッド・セ オリー・アプローチ,コード化・カテゴリー化等), 量的研究12件(単純集計,多変量ロジステック回帰
表 1 .文献検討一覧 文献 番号 タイトル 著者名 資料名 巻(号)ページ発行年 1 重症心身障害児の母親が障害を受容する過程における看護師の役割 田桑礼子,遠藤芳子 北日本看護学会誌 20(2),37-47,2018 2 医療的ケアを要する在宅重症心身障害児(者)の母親におけるレジリエンスとソーシャルサポートの関連 岩田直子,名川勝 小児保健研究 77(4),328-337,2018. 3 在宅重症心身障害児の家族エンパワメントに関する実証的モデルの構築 涌水理恵,藤岡寛 , 他 小児保健研究 77(5),423-432,2018. 4 障害児通所支援を利用する医療的ケアが必要な重症心身障害児の成長に関する母親の認識 2 名の母親の語りから 伊藤千尋,佐藤朝美 , 他 日本重症心身障害学会誌 43(3),507-514,2018. 5 超重症児をもつ母親の NICU 退院から小児専門病院受診に至るまでの体験 杉本裕子,松倉とよ美,他 人間看護学研究 16,9-17,2018. 6 重症心身障がい児をもつ主養育者の在宅移行期における意識 子どもへの思いおよび影響要因に焦点を当てて 浅井佳士,浅野みどり 日本小児看護学会誌 2 6 ,1 5 9 - 1 6 5 ,2017. 7 夜間に医療的ケアを必要とする在宅療養児者の母親の睡眠時自律神経活動の特徴 松井学洋,木原健二,他 日本重症心身障害学会誌 42(3),367-374,2017. 8 母親の重症心身障害者の表現に対する捉え方 坂本幸繁 日本重症心身障害学会誌 42(3),391-397,2017. 9 重症心身障害児の反応に関する母親の内面的支え体験 田中美央,西方真弓 , 他 新潟大学保健学雑誌 14(1),69-78,2017. 10 医療的ケアを必要とする子どもの親の体験 親であることや自分自身を感じること 上原章江,奈良間美保 日本小児看護学会誌 25(1),43-50,2016. 11 医療的ケアが必要な在宅療養児を育てる母親が体験した困りごとへの対応の構造 大久保明子,北村千章 , 他 日本小児看護学会誌 25(19),8-14,2016. 12 医療的ケアを必要とする子どもの親の体験 : 親であることや自分自身を感じること 上原章江 ,奈良間美保 日本小児看護学会誌 25(1),43-50,2016. 13 地域の小学校で学ぶ医療的ケアを要する子どもの親からみた看護師の役割 清水史恵 日本小児看護学会誌 24(1),9-16,2015. 14 医療的ケアの必要な重症心身障害者とその家族が求める在宅支援 横浜市におけるサービス利用の調査から 田中千鶴子 ,濱邉富美子 , 他 日本重症心身障害学会誌 39(3),405-414,2014. 15 富山県の在宅重症心身障害児(者)の主介護者における介護負担感に関する要因 高木園美,桶本千史 , 他 小児保健研究 73(3),403-408,2014. 16 在宅重症心身障害児(者)をもつ養育者の「生活の質」に関する研究 牛尾禮子 日本重症心身障害学会誌 39(3),441-446,2014. 17 在宅重症心身障害児(者)の母親が語る「医療処置」の決断に対する評価 佐藤朝美,小倉邦子 , 他 日本重症心身障害学会誌 39(1),93-98,2014. 18 在宅重症心身障害児(者)の「医療処置」の決断において、母親が望む医療者からの支援 佐藤朝美,小倉邦子 , 他 日本重症心身障害学会誌 39(1),99-104,2014. 19 在宅重症心身障害児主介護者のレスパイトケア利用希望に関連する要因 西垣佳織,黒木春郎,他 小児保健研究 73(3),475-483,2014. 20 重症心身障害児の胃瘻造設による親のケアの負担の変化 小泉麗 日本重症心身障害学会誌 38(3),471-478,2013. 21 在宅重症心身障害児の父親が父親役割を遂行するための調整過程 下野純平,遠藤芳子 , 他 日本小児看護学会誌 22(2),1-8,2013. 22 人工呼吸管理中の障がいの重い子どものコミュニケーション力に対する親の認識 鈴木真知子 小児保健研究 73(3),403-408,2014. 23 在宅の重症心身障害児・者と家族のレスパイトケア利用に関する研究(第 2 報) 別所史子,入江安子 , 他 小児保健研究 72(3),427-434,2013. 24 在宅の重症心身障害児・者と家族のレスパイトケア利用に関する研究(第 1 報) 山田晃子,入江安子 , 他 小児保健研究 72(3),419-426,2013. 25 在宅医療児を抱える家族の心理的側面の実態調査 家族の心理的負担の軽減と親子の関係性の育みのために 山本悦代,位田忍,他 大阪府立母子保健総合医療センター雑誌 29(1),96-102,2013. 26 在宅生活をしている重症心身障害児の母親による体調に関する判断の構造化 沢口恵 日本重症心身障害学会誌 38(3),507-514,2013. 27 重症心身障害児を含む障害児の母親の抑うつと予防的支援の検討 岸野美由紀,武内典恵 , 他 日本重症心身障害学会誌 37(3),401-406,2012. 28 愛媛県東予地域における在宅重症心身障害児(者):Ⅱ.居住形態の希望 三田岳彦,岩井正一,他 日本重症心身障害学会誌 37(3),413-418,2012. 29 愛媛県東予地域における在宅重症心身障害児(者):Ⅰ 社会資源の利用実態 三田岳彦,岩井正一,他 日本重症心身障害学会誌 37(1),171-177,2012. 30 人工呼吸器装着児(者)の家族の医療的ケアをめぐる危機~ ABC-X モデルを用いた視覚化~ コリー紀代 小児保健研究 71(5),723-730,2012. 31 医療的ケアが必要な子どもを育てる家族の社会資源に対する捉え方 横関恵美子 ,浜百合 , 他 日本重症心身障害学会誌 37(3),449-456,2012. 32 医療的ケアの必要な重症心身障害児(者)と家族が求める在宅支援の現状と課題(第 2 報)横浜市におけるサービス利用の調査から 田中千鶴子 ,濱邉富美子 , 他 日本重症心身障害学会誌 36(1),141-146,2011. 33 医療的ケアの必要な重症心身障害児(者)と家族が求める在宅支援の現状と課題(第 1 報) 横浜市におけるサービス利用の調査から 田中千鶴子 ,濱邉富美子 , 他 日本重症心身障害学会誌 36(1),131-140,2011. 34 重症心身障害児を養育する家族の抱える不安とニーズの変化 家族のエンパワメントプロセスに照らし合わせ 涌水理恵 ,藤岡寛 日本重症心身障害学会誌 36(1),147-155,2011.
分析,重回帰分析等),方法内トライアンギュレー ション ₉ 件に分類された。 ₄ )重症児を養育する家族の体験に関する内容の分 類におけるカテゴライズ化 対象48文献の「重症児を養育する家族の体験に 関する内容」については,Ⅳ. ₂ に示す通り「重 症児との関わり」,「重症児と生活すること」,「社 会資源に関すること」について分類し,さらにこ れらは表 2 に示すようにカテゴリー化,さらにサ ブカテゴリー化をすることで詳細化を行った。Ⅵ の考察では,【 】はカテゴリー項目,< >はサ ブカテゴリー項目を示す。 Ⅵ.考察 在宅で重症児を養育する家族を支援するために, Ⅰ.で述べた AI 技術の機能である「識別」,「予測」, 「実行」に着目し,重症児の家族を研究協力者とし た48文献の内容を概観した。そして,それらの結果 をもとに, ₁ .「データ収集方法」と「研究方法」 について, ₂ .カテゴリー間の関係性と AI 技術活 用の具体的な方法について,以下に考察する。 1 .「データ収集方法」と「研究方法」 データ収集の方法については,半構造的面接,質 問紙調査を実施しているが,大部分は面接調査であ り,グラウンデッド・セオリー・アプローチ,コー ド化・カテゴリー化による内容分析方法による質的 研究となっていた。これは,在宅で重症児を養育す る家族の支援のための方法を検討する上で,まず, 個々の体験を具体的に捉え,そこから支援の方向性 を探ることが求められ始めたためと考えられる。質 問紙調査も質的研究になっているものもあり,量的 研究においても単純集計に留まっているものが多 かった。 今後は,これまで「概念」として蓄積され,理論 化されてきた養育者の知見について,蓄積されてき た情報を視覚化数値化する方法を検討し,統計学的 に検証することも必要と考えられる。 2 .カテゴリー間の関係性と AI 技術活用の具体的 な方法 対象48文献の「重症児を養育する家族の体験に関 する内容」について,「重症児との関わり」,「重症 児と生活すること」,「社会資源に関すること」に分 類したカテゴリー間の関係を,「重症児との関わり」 35 重症心身障害児と家族の在宅生活維持における母親の認知モデルの構築 長谷美智子 日本重症心身障害学会誌 35(3),371-376,2010. 36 重症心身障害のある子をもつ「高齢の父親」の養育態度と心情に関する研究 牛尾禮子 日本重症心身障害学会誌 35(1),131-136,2010. 37 在宅療養中の重度障害児保護者の子育て観 鈴木真知子 日本看護科学会誌 29(1),32-40,2009. 38 障害のある子どもと社会をつなぐ家族のプロセス 濵田裕子 日本看護科学会誌 29(4),13-22,2009. 39 気管切開を有する在宅重症心身障害児(者)の吸引の実態と家族のQOL 家族に対する援助の方向性 コリー紀代,平元東 小児保健研究 68(6),700-707,2009. 40 “重症心身障害児(重症児)を育てること”に対する母親の認識変化のプロセス―在宅で障害児を養育する家族を取り巻く地域ケアシステムに焦点を当てて― 涌水理恵 , 黒木春郎 , 他 小児保健研究 68(3),366-373,2009. 41 在宅療養を行う子どもの家族の生活の落ち着きまでの過程 平林優子 日本小児看護学会誌 16(2),41-48,2007. 42 在宅で重症心身障害児を養育する母親の養育負担感とそれに影響を与える要因 久野典子,山口桂子,他 日本看護研究学会雑誌 29(5),59-69,2006. 43 先天性疾患を持つ子どもの母親における育児上の困難とその関連要因 矢部和美 日本小児看護学会誌 1 4 ( 1 ) ,8 - 1 5 ,2004. 44 脳性麻痺の子どもを持つ父親の意識と行動の変容 平野美幸 日本小児看護学会誌 13(1),18-23,2004. 45 医療的ケアを必要とする在宅療養児の家族の困難と援助期待 内正子,村田恵子 , 他 日本小児看護学会誌 12(1),50-56,2003. 46 患児の家族による医療的ケアの習得に関する調査:習得の経緯と家族の思いについて 宮谷恵,小宮山博美,他 日本小児看護学会誌 11(1),44-50,2002. 47 障害児を抱える母親の養育体験に関する研究 宮崎史子 小児保健研究 61(3),421-429,2002. 48 医療的ケアを要する乳幼児をもつ母親のソーシャルサポートに対する認識 高橋泉 日本小児看護学会誌 8(2),31-37,1999.
から抽出した ₂ つのカテゴリーに着目して,【重症 児の反応を理解できる】場合と【重症児の反応を理 解できない】場合について,「重症児と生活するこ と」,「社会資源に関すること」にどのように関係し ていくのか,そして,その関係性の中でどの部分に AI の技術活用が可能であるのかを考察する。 ₁ )AI 技術の機能である「識別」の活用 養育者は重症児の微細な反応の変化を自身の感覚 で読み取り,機器の示す数値やアラームを活用して 意味付けを行う。そして,時間とともに変化してい くパターンを捉え,重症児の特徴や反応について, 自分の考えと専門職者の判断に相違ないかを確認 表 2 .重症児を養育する家族の体験に関する内容 カテゴリー サブカテゴリ― 重症児との関わり 重症児の反応を理解できる 微細な変化やサインを親自身の感覚で読み取る 機器を活用して子どもの変化や反応を読み取る 時間を追って変化していくパターンを捉える 関わりが増える 自信や喜び 愛情 子どもの特性を他人が理解するのは難しい 重症児の反応を理解できない 成長発達が捉えにくい コミュニケーションが難しい 生きる楽しさをイメージできない 重症児と生活すること 思い描いていた子育てと違う 慣れない重症児に必要とされるケアの実施 一般的な成長発達の目安にあてはまらない重症児 重症児の養育に伴う身体的疲労・精神的負担・社会的孤立 重症児の養育によって生じる養育者の身体的疲労・精神的負担 養育者の周囲からの孤立 家族全体への影響 重症児の兄弟姉妹の生活を制限する 一家の生計を担う父親の役割や負担 重症児との在宅での生活を構築する 今できることをとにかくやる 仕事も子育ても継続できるよう調整する サポートを受ける 重症児を社会参加につなげる 社会資源に関すること 社会資源の選択の基準 重症児にとって楽しみと感じられる 家庭と同じレベルのケアが受けられる 医療的ケアが確実に実施される 社会資源の活用を抑制 重症児の変化に対応しにくい 重症児とのコミュニケーションが難しい ケアのコツがあり重症児のストレスになる 医療的ケアがあるために利用が制限される 使いたい社会資源が地域内に整備されていない 安全で確実なケアの実施ができない サポートの効果を実感 子どもの表情が豊かになった 子どもが楽しんでいた 子どもが成長していることがわかる 読み取れない表情や理解できない反応に気づかせてくれた 情報や経験を共有する 教えてもらったことを実践したらうまくいった 養育者自身の成長・技術の上達を実感できる 重症児の QOL が向上した 養育者や家族の時間が確保できる 求める社会資源 健康と安全が保持されている 計画的に利用できる 緊急時に利用できる 重症児の特性に配慮してケアしてくれる 相談できる人がいる 相談できる場となる
し,重症児の反応を認識し,関わっている。その経 験の中で,重症児に実施したケアに対して返ってく る笑顔などによって,自身の養育する喜びや自信に つなげていた。 ただし,重症児の微細な反応を読み取ることは, 感覚だけでは難しく,経験や知識が十分でないと分 かりにくい。一方,画像や音声についてはカメラや レコーダーなどの機器を用いて捉えることができ る。また,機器は数値データとして記録することも 可能で,時系列化したデータとして表情筋の緊張度, 心拍数,音声等を同期して収集することにより,【思 い描いていた子育てと違う】という思いの中,睡眠 や休息も十分でなく,【重症児の養育に伴う身体的 疲労・精神的負担・社会的孤立】を感じながら,重 症児の<微細な変化やサインを親自身の感覚で読み 取る>ことを行なっている現在の状況に比べ,正確 で膨大なデータの収集ができることになる。 また,重症児の変化を感覚で捉え,言語化してい るような調査文献の研究状況では,十分な情報の共 有が難しいと考えられる。正確に時系列データとし て示された「いつもの状態」を捉えたモデルは,何 か重症児の変化が起こる前に,わずかな変化を究明 していくことも可能であると考える。 これまでは,重症児の生活場面をよく観察するこ と21)で,その微細な反応を理解してきた。しかし, 図 ₂ に示す認識の場面において,AI 技術の「識別」 機能を活用し,パターン認識を用いて視覚化・時系 列化することにより,【重症児の反応を理解できな い】場合に対しても有効に機能するものと考える。 ₂ )AI 技術の機能である「予測」の活用 重症児との日々の関わる中で,養育者はケアのコツ を培い,その自信が【重症児との在宅での生活を構 築する】ということにつながっている。しかし,他方 では,自分以外の人には<重症児の変化に対応しに くい>,<重症児とのコミュニケーションが難しい>, <ケアのコツがあり重症児のストレスになる>という マイナス思考が生まれたり,<安全で確実なケアの実 施ができない>という体験から,【社会資源の活用を 抑制】することにつながったりしていた。 そこで,普段の重症児の状態をモニタリングする 機器(センサー)によって識別した重症児の声や呼 吸音,心音などの音声データ,表情筋の動きなどの 動画認識を一定時間計測し,いつもの状態としてそ れら時系列データを学習する。そして,図 ₃ に示す ように,養育者にも専門職者にも気づき難いような 図 2 .AI 技術の機能である「識別」の活用 認識 体験の蓄積&学習 意味付け
重症児の反応を理解できない場合
微細な反応の変化を手掛 かりに感覚で読み取る 機器を活用して読みとる 時間を追って変化していく パターンを捉える コミュニケーションがとれない 自信の喪失 社会/家族からの孤立 時間的制約感 重症児との生活が イメージできない 精神的負担AI技術の活用
視覚化・時系列化することによって,パターンが認識重症児のいつもと異なる値を検出した場合には,そ の兆候を検知し,状態変化を「予測」することが可 能となる。この採取したデータからいつもの状態を 表すモデルを構築することで,わが子である重症児 のいつもの状態を知らない専門職者に対しても,適 切な対応を促すことが期待できる。 このことは,家族の【社会資源の選択の基準】で ある<重症児にとって楽しみと感じられる>,<家 庭と同じレベルのケアが受けられる>,<医療的ケ アが確実に実施される>ことを可能とし,安心して 社会資源を活用できるため,【重症児の養育に伴う 身体的疲労・精神的負担・社会的孤立】の解決につ ながると考える。 ₃ )AI 技術の機能である「実行」の活用 重症児の状態がいつもと異なるといったセンサー の値を検出すると, ₂ )に述べたように危険な状態 に陥る前にその兆候を察知し,その後に訪れる状態 変化を予測することが可能となる22)。この状態をト リガーとして,緊急を知らせるアラームやモニター 表示,決められた相手にメールを発信するなど,最 適機能を自動的に「実行」し,お知らせを行うこと が可能となる23)。これは,重症児を養育する家族の, 常時子どもに寄り添っていなければならないという 精神的かつ肉体的な負担からの解放を意味し,家族 の重症児ケアの持続に力を与えるものと期待できる。 3 .まとめ 重症児の反応は微細であり,理解することが難し い。そのため,体調の良し悪しの見極めが難しく, ケアに対する評価も得難いことから,養育者から持 続的なケアを引き出すことも難しい14)。今回,養育 者のケアにおける課題に言及した48文献を調査した ことにより,重症児の微細な反応をセンサーで捉え, 児のいつもの状態を AI 技術で学習しておくことが, 重症児のいつもと違う微細な反応を検知・視覚化す ることにつながり,養育者と専門職者の情報共有が できるため,重症児ケアを行う上での養育者の持つ 課題解決に有効であるという見識を得た。 Ⅶ.結論 重症児の微細な反応の認識,体調変化などの予測, 確実なケアの実施や情報の共有に,AI 技術の活用 が有効である。 図 3 .AI 技術の機能である「予測」の活用 養育者 認識 体験の蓄積&学習 意味付け 微細な反応の変化を手掛 かりに感覚で読み取る 機器を活用して読みとる 時間を追って変化していく パターンを捉える 関わりが増える 喜び・自信・愛情が増す 論理的に 言語化できない 専門職者 社会資源の効果的な活用 専門職者のサポート
AI技術の活用
重症児の反応を理解できる場合
状態変化を予測 することが難しい文献 ₁ )三上史哲・三田岳彦・三田勝己他:公法人立重症心 身障害児施設入所者の実態調査の分析―性別,年齢―, 日本重症心身障害学会誌40(1),117-126,2015. ₂ )前田浩利:いま,なぜ子どもの在宅医療なのか,チャ イルドヘルス18(12), ₆ - ₉ ,2015. ₃ )横関恵美子・小川佳代:医療的ケアが必要な子どもを 在宅で養育する養育者に関する文献検討―2013以降―, 四国大学紀要人文・社会科学編47,79-86,2016. ₄ )横関恵美子・浜 百合・渡部尚美他:医療的ケアが 必要な子どもを育てる家族の社会資源に対する捉え 方,日本重症心身障害学会誌37( ₃ ),449-456.2012. ₅ )Mendes, Michele A:Parents' Descriptions of Ideal Home Nursing Care for Their Technology-Dependent Children, Pediatric Nursing, 39 ( ₂ ),91-96, 2013. ₆ )Heaton J,Noyes J,Sloper P,Shah R:Families'
experiences of caring for technology-dependent children: a temporal perspective,Health & Social Care in the Community,13 ( ₅ ),441-50,2005.
₇ )Wang KK; Barnard A:Technology-dependent children and their families: a review, Journal of Advanced Nursing, 45 ( ₁ ),36-46, 2004.
₈ )Cockett, Andrea:Technology dependence and children: a review of the evidence, Nursing Children & Young People, 24 ( ₁ ),32- ₅ ,2012.
₉ )Toly VB, Musil CM, Carl JC:A Longitudinal Study of Families with Technology-Dependent Children,Res Nurs Health 35( ₁ ),40-54,2012. 10)横関恵美子:医療的ケアが必要な子どもの在宅での養 育を継続した母親の経験に関する現象学的研究,四国大 学大学院看護学研究科看護学専攻,看護学修 第 ₅ 号. 11)鈴木真知子:人工呼吸管理中の障がいの重い子ども のコミュニケーション力に対する親の認識,小児保健 研究72( ₅ ),713-720, 2013. 12)田中千鶴子・濱邉富美子・俵積田ゆかり他:医療的 ケアの必要な重症心身障害者とその家族が求める在宅 支援 横浜市におけるサービス利用の調査から,日本 重症心身障害学会誌39( ₃ ),405-414,2014. 13)高木園美・桶本千史・嶋大二郎他:富山県の在宅重 症心身障害児(者)の主介護者における介護負担感に 関する要因,小児保健研究73( ₃ ),403-408,2014. 14)鯨岡峻:原初的コミュニケーションの諸相,第 ₁ 版 第 ₇ 刷,ミネルヴァ書房,東京,198,2013. 15)Rubin, R:Maternal Identity and the Maternal
Experience,1984,新道幸恵,後藤桂子(訳),母性論 ―母性の主観的体験―,医学書院,東京, ₉ ,1997. 16)総務省 平成28年版情報通信白書 ICT 白書,特集 IoT・ビッグデータ・AI ~ネットワークとデータが創 造する新たな価値~,第 ₂ 節人工知能(AI)の現状 と 未 来,235.https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/ whitepaper/ja/h28/pdf/n4200000.pdf 17)総務省「ICT の進化が雇用と働き方に及ぼす影響に 関する調査研究」(平成28年),19.https://www.soumu. go.jp/johotsusintokei/linkdata/h28_03_houkoku.pdf 18) ₁ )前出,233 19)武智信幸・鈴木康之・浅倉次男(監):重症心身障 害児のトータルケア―新しい発達支援の方向性を求 めて―,第 ₁ 版第 ₄ 刷,へるす出版,東京, ₄-25, 2012. 20)松尾豊:人工知能は人間を超えるか ディープラー ニ ン グ の 先 に あ る も の,KADOKAWA, 東 京,61, 2018. 21)岸さおり・岡田喜篤(監):新版重症心身障害療育 マニュアル,第 ₁ 版第 ₂ 刷,医歯薬出版株式会社,東 京,90,2015. 22)横関恵美子・池本有里・児島知樹・小川佳代・山本 耕司:重症心身障害児における微細な反応を知らせる システム構築に向けた生体モデルの確立,電気学会知 覚情報/次世代産業システム合同研究会資料,67-72, 2020. 23)横関恵美子・池本有里・児島知樹・小川佳代・木田 菊惠・橋本俊顕・岩本優子・山本耕司:重症心身障害 児の微細な反応の理解に関する情報の共有化,第21回 医療情報学会看護学術大会論文集,19-22,2020. 本研究の成果は,国立研究開発法人情報通信研究機構 の委託研究により得られたものです。
抄 録 近年,医療技術の進歩や在宅医療の推進によって,医療的ケアが必要な重症心身障害児(者)(以下,重 症児という)を在宅で養育する数が増加している。しかし,重症児は生理的反応や意思表示が微細なため, 養育する家族は,わが子を理解することに困難を感じている状況がある。そこで,重症児と家族の生活を, 人工知能 Artificial Intelligence(以下,AI)技術を活用した支援によって,養育の負担軽減が可能かどう かを検討するため文献検討を行った。 関連する48件の文献を調査した結果,重症児が使用している医療機器のアラームと重症児のわずかな表情 の変化をもとに,家族は児の反応を読み取り,理解するという体験を積み重ねていた。筆者らは,重症児の 反応や意思表示の仕方を養育者や専門職者が共通に理解するための AI 技術を活用したセンシング手法を検 討している。 本論文では,これら48文献において明らかにされた養育者の経験値をもとに,重症児の訴えを可視化する うえでの AI 活用技法について検討し,いつもと違う状態の検知に有効なセンシングの可能性について言及 するものである。 キーワード:重症心身障害児,医療的ケア,在宅,家族,人工知能技術,文献検討