Kobe Shoin Women’s University Repository
Title
白山・山村住居の古代的性格
―住空間の史的展開過程に関する研究(その1)―
Antiquity of Haku-mountains' huts
Author(s)
島村 昇(Noboru Shimamura)
Citation
生活科学論叢(Review of Living Science)
,
No.19:1-46
Issue Date
1987
Resource Type
Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
URL
Right
白山 ・山 村 住 居 の 古 代 的性 格
住 空 間 の 史 的 展 開 過 程 に関 す る研 究(そ の1)島
村
昇
目
序 1.建 築 形 態 の 古 代 的 性 格 1.1デ ツ ク リゴ ヤ の 形 態 的 特 異 性 1.2フ セ ヤ の 形態 的 古 代 性 1.3フ セ ヤ の 事 例(1) 1.4フ セ ヤ の 事 例 ② 1.5フ セ の 形 態 的解 釈 1.6ヤ の 建 築 的 初 源 性 2.架 構 方 式 の 古代 的 性 格 2.1放 射 状 サ ス構 造 2.2平 行 サ ス 構 造 2.3複 合 サ ス 構 造 2.4オ イ ザ ス 構 造 2.5タ ル キ構 造 2.6ネ ブ キ柱 建 て 構 造次
3.平 面 形 式 の 古 代 的 性 格 3.1平 面 型 の 古 来 性 3.2フ セ イ ホ の 内 部 状 況 3.3ト コ の 状 況 3.4ネ ブ キ ゴ ヤ の 事 例(1) 3.5ネ ブ キ ゴ ヤ の 事 例 ② 3.6ア マ の 状 況 4.空 間 呼 称 の 古 代 的 性 格 4.1オ ミヤ 呼 称 の 特 異 性 4.2オ ミヤ 呼 称 の 古 来 性 4.3オ ミヤ 呼 称 の 残 存 性 4.4オ モ ヤ 系 空 間 呼 称 4.5主 屋 の 呼 称 法 4.6ジ ロ 呼 称 の 古 来 性 結 〔注 〕、 後 記 、 謝 辞 序 秀 峰 白 山連 峰(標 高約2,700m)の 峰 々 か ら流 れ 下 る渓 流 に そ っ て 、山深 い村 々 が 散 在 して い る。 急 峻 な 山腹 斜 面 に 立 地 す る村 々 は 、里 方 の よ うに水 田 を開 くこ とが あ た わ ず、永 ら く山腹 斜 面 に 焼 畑 農 耕 を営 み、 ヒエ ・ア ワ ・ア ズ キ ・ソバ ・大 豆 等 を栽 培 して きた 。 そ の ため 、 当 地 で は近 年 まで ヒエ が 常 食 と され た。焼 畑 農 耕 は 、水 稲 農 耕 に先 行 す るわ が 国 の農 耕 形 態 と して 注 目 さ れ て お り(佐 々木 高 明 『稲 作 以前 』日本 放 送 出版 協 会 、 昭 和46年)、 村 々 の営 む 農 耕 形 態 か ら も、 当地の 古 代 的性 格 が 想 定 さ れ る。 また 当 地 は全 国有 数 の 豪 雪 地 帯 で あ り、積 雪 深 さ3∼4mに 及 ぶ こ と もめ ず ら し くな い。冬 季 に お け る豪 雪 は、村 々 を里 方 か ら完 全 に孤 立 させ た 。そ の ため 当地 で は 、上 記 の 食料 以 外 の 生 活 用 品 も 自給 す る こ と を余 儀 な く され た 。 自給 自足 の 生 活 は、 当 地 に 固有 の 山 方 文 化 を育 み 、進 行 す る里 方 文 化 と一 線 を画 して 現 代 に至 っ た。 そ して 、 里 方 か らの孤 立 性 ・隔 絶 性 は 、 当地 に 予 想 外 に 古 式 を と どめ る住 居 を も残 存 させ た。本 稿 は 、 それ ら をめ ぐっ て の 一 考 察 で あ る が 、そ の 際 、 対 象 と な る住 居 を、① 建 築 形 態 、② 架 構 方 式 、③ 平 面 形 式 、④ 空 間 呼 称 の 各 側 面 か ら考 察 した い 。 1.建 築 形 態 の 古 代 的 性 格 山深 い 山村 住 居 の 古 代 的性 格 を示 す もの と して 、まず 外 観 か らす る建 築 形 態 の 問題 が あ る が 、 山 村 住 居 は大 き く分 け て2つ に分 類 さ れ る。1つ は ジゲ(地 下 ・母 村)と よば れ る村 の 住 居 、2 つ は こ の村 か ら出 か け い く出 作 り地 の住 居 で あ る。 こ の う ち古 代 的性 格 を もつ の は 、出 作 り地 の 住 居 で あ り、 これ をデ ツ ク リゴヤ(出 作 り小 屋)と よん で い る 。 出作 り地 は 、す な わ ち 焼畑 をお こ な う耕 作 地 で あ る が 、 ジゲ か ら毎 年5∼10月 の 期 間 出 か け る 季 節 出作 り と、年 間 を 通 して居 住 す る永 久 出作 りが あ る。 永 久 出 作 りの 場合 は 、「出作 り」とい う の もお か しい が 、そ の よ うに よば れ て い る。 そ して 、 いず れ の 場 合 の 住 居 も、 デ ツ ク リゴ ヤ で あ る。 「出 作 り」 な る用 語 は 、 ジ ゲ か らみ て の概 念 で あ る か ら、 こ の 用 語 は ジゲ の成 立 以 降 の 用 語 で あ る。 ジゲ の 成 立 以 前 、 焼 畑 を お こ な う 山の 民 が い た な ら、 「出作 り」な ど とは い わ な い。 デ ツ ク リゴ ヤ な る用 語 も同様 で あ る 。建 築 形 態 か らみ た対 象 地 域 の 古代 的 性 格 は 、そ れ く らい の 初 源 性 を示 して い るの で あ る。 1.1デ ツ ク リゴ ヤ の 形 態 的 特 異性 水 田 の 広 が る平 野 部 か ら隔 絶 され た 山深 い 山村 の 住 居 につ い て は、す で に近 世 に お い て 人 の 目 にけ を 惹 く も の が あ っ た 。 『白 山 遊 覧 図 記 』 に 次 の 一 節 が あ る 。 夏 月 妻 子 を率 い て 山 に 入 る、近 きは 五 、六 里 、遠 きは 十 余 里 に 至 る。盧 舎 を結 び て 之 に居 り、 此 を 出小 屋 と 日 う又 出 作 小 屋 と 日 う。夫 耕 し、婦 蚕 し、九 月 に至 っ て盧 を収 め て 家 に還 る。 これ は季 節 出 作 りの状 況 を叙 した もの で あ る。 夏 に な る と一 家 を挙 げ て ジ ゲ(地 下 ・母 村)か ら山 に 入 る。 近 い もの で も5、6里 、遠 い もの で は10里 もあ る。 そ れ く らい 山奥 に入 る。 ジ ゲ そ の もの が 山 中 に あ る の だ か ら、焼 畑 を お こ な う場 所 は さ らに 山 深 い と こ ろで あ る 。そ の よ うに 山
深 い とこ ろ に盧 舎 を結 ん で生 活 す る。 この 盧 舎 を 当地 で は デ ゴ ヤ(出 小屋)ま た は デ ツ ク リゴヤ (出 作 小 屋)と よん で い る 。 原 文 は漢 文 で あ るの で 「盧 舎 」 とい っ た 表 現 を とっ て い るが 、 こ の 盧 舎 は後 に述 べ る平 地 式 サ ス 構 造 の ネ ブ キ ゴヤ(根 葺 き小 屋)の こ とで あ る。 断 面3角 形 の 屋 根 だ け の住 居 で あ る 。 この よ う な 形 態 の 住 居 は近 年 ま で 当 地 に 存 在 した。 『白 山遊 覧 図 記 』に著 わ さ れ た 時 期 の デ ツ ク リゴ ヤ は、 ほ とん どが 屋 根 だ けの ネ ブ キ ゴヤ で あ っ た だ ろ う。 ち な み に 、デ ゴヤ な い しデ ツ ク リゴヤ は ジ ゲ 図1-1 出 作 り 地 の 土 地 利 用
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Nl8°W 資 料)佐 々 木 高 明 『稲 作 以 前 』(日 本 放 送 出版 協 会 、 昭 和46年 、P.113)に よ り筆 者 作 図 。 こ の 図 は 白峰 村 河 内 谷T氏 の 出 作 り地 の 状 況 を示 す(昭 和40年)。 注)原 図 に記 載 さ れ て い る 出 作 り小 屋 の 平 面 図 は 省 略 して い る。 ス ケ ー ル は 平 面 図 に 合 せ て 筆 者 が 修 正 し て い る 。 な お 、原 図 に 記 載 さ れ て い る 平 面 図 は 、 出 作 り小 屋 の も の で あ る が 、 間 口5.5間 、奥 行9.0間 、2階 建 て の 立 派 な も の で 、著 者 も述 べ て い る よ う に 、 出 作 り小 屋 と い う に は 造 りが 立 派 す ぎ る。し か し、当 地 の 出 作 り小 屋 の 発 展 過 程 か らみ る と 、 近 代 以 降 に は 旧 来 の ネ ブ キ ゴ ヤ か ら こ の 例 に み られ る よ う な 住 居 建 築 に移 行 し て い た。 い わ ば ネ ブ キ コ ヤ の 到 達 点 とみ な す こ とが で き る。 ま た 、 居 住 者 は こ の 住 居 を 「ウ チ 」 と よん で い る。 これ を 「ウ チ 」 と よぶ こ とに つ い て は 、 本 論 で 述 べ る 。か ら出 か け て 行 って 生 活 す る コヤ を 意味 して い る こ とは い うまで もな い 。現 代 に お い て も、当 地 でデ ツ ク リゴヤ とい う用 語 は使 わ れ て い る。 だ か ら、デ ツ ク リゴ ヤ とい う用 語 は 、18世 紀 の末 か ら現 代 まで 変 る とこ ろ が な い。 次 に 「夫 耕 し、 婦 蚕 し」は 、 出作 り期 間 中 の労 働 につ い て の 記 述 で あ るが 、 「耕 し」は と うぜ ん と して 、養 蚕 もお こな われ て い る。 とす る と焼 畑 以 外 に桑 園 も営 ま れ な けれ ば な らな か った 。 山 の斜 面 を切 開 い た幾 許 か の 土 地 に 菜 園 や 桑 園 を営 み な が ら焼 畑 を お こ な う 出 作 り地 の 生 活 は 現 代 もほ とん ど変 らな い(図1-1)。 出 作 り地 で の労 働 が 終 る9月(旧 暦)に な る と 「盧 を収 め て 家 に 還 る 」。 盧 は 先 に 盧 舎 と表 現 さ れ て い たデ ツ ク リゴヤ で 、こ れ を閉 め て ジ ゲ の 家 に 戻 るの で あ るが 、 こ の場 合 ジ ゲ の 住 居 は盧 舎 や 盧 で な く 「家 」 と表 現 さ れ て い る とこ ろ に 注 意 し た い。 後 にみ る近 世 古 文 書 の 中 に は 「家 」 が 多 く現 れ るが 、 こ れ は柱 建 ての 住 居 を意 味 す る。 した が っ て 、出 作 り地 の 盧 舎 な い し盧 が平 地 式 サ ス構 造 の ネ ブ キ ゴヤ を意 味 す るの に 対 して 、 ジゲ の 家 は柱 建 て の ク ズ ヤ(カ ヤ 葺 き)を 意 味 す る。 『白 山遊 覧 図 記 』の 著 さ れ た18世 紀 末 、 ジゲ の 住 居 は柱 建 て の ク ズ ヤ で あ った が 、 出作 り地 の デ ツ ク リゴヤ は ネ ブ キ で あ っ た 。 柱建 て の クズ ヤ は近 世 以 降(あ るい は も う少 しさ か の ぼ るか も 知 れ な い)の もの で あ る が 、 ネ ブ キ は そ れ よ りず っ と古 い建 築 形 態 を もつ 住 居 で あ り、 それ は ま さ し く盧 舎 な い し盧 と表 現 され て し か るべ き存 在 で あ った 。 す で に近 世 に お い て 「盧 舎 」 や 「盧 」 と 「家 」 は 明確 に対 照 され るべ 建 築 形 態 を も っ て い た の で あ る。 1.2フ セ ヤ の形 態 的 古 代 性 す こ し降 るが この 盧 舎 な い し盧 に つ い て歌 った 明 治 期 の歌 が あ る。 ロ ラ み ね 高 くさ と よ り出 て つ く りお く伏 屋 に ひ と もす まぬ 冬 か な くヨコ 秋 の 田 にか ま しつ く りて冬 こ もるふ せ や さ び し き風 嵐 の 村
①
②
① は デ ツ ク リ ゴヤ の 冬 の 情 景 を歌 った もの で あ る。 さ と(里 、 ジ ゲ ・母 村)か ら出 か け て い っ た 高 い 山 の み ね に つ くっ た 「伏 屋 」 に は冬 の 間 は 人 影 もな い。 こ こ で デ ツ ク リゴヤ は フ セ ヤ(伏 屋)と 表 現 さ れ て い る 。② は 近 世 ・白 山麓+八 ケ 村 の一 つ に数 え られ た風 嵐 村 の秋 の情 景 を歌 っ た もの で あ る 。 秋 の 田 に か ま し(鴨 足 、 シ コ ク ビエ)を つ くっ て 越 冬 の 準 備 をす る淋 しい 村 の 情 景 で あ る。 「冬 こ も る」と あ る か ら、 こ の場 合 は一 年 を通 して居 住 す る、 い わ ゆ る永 久 出作 りの住 居 を指 して い るが 、 そ れ もフ セ ヤ(ふ せ や)と 表 現 され て い る。① は季 節 出 作 りの 住 居 、 ② は永 久 出 作 りの住 居 を指 す が 、 いず れ もデ ツ ク リゴヤ に相 違 は な い。 そ して この デ ツ ク リゴヤ は い ず れ もフ セ ヤ と表 現 され て い る。以上 に 現 われ た住 居 関 連 用 語 を こ こで 整 理 す る と次 の よ うに な ろ う。 (1)デ ツ ク リゴヤ(出 小 屋 、 出 作 小 屋)ジ ゲ(母 村)か ら 山 中へ 出 作 り にで か け て居 住 す る小 屋 。出 作 りに は 季 節 出作 り と永 久 出作 りが あ るが 、 いず れ の 住 居 もデ ツ ク リゴヤ と よ ば れ る。 ② 盧 舎 、盧 粗 末 な小 屋 を意 味 す る漢 語 で あ るが 、文 脈 か らい って デ ツ ク リゴ ヤ を意 味 す る こ とは確 実 で あ り、サ ス 構 造 の ネ ブ キ を指 す とお も え る。 (3)フ セ ヤ(伏 屋)ネ ブ キの デ ツ ク リゴヤ の形 態 的 表 現 とみ られ る が 、 この こ とに つ い て は、 次 項 以下 で 検 討 す る。 (4)イ エ(家)ジ ゲ に あ る柱 建 て の クズ ヤ(カ ヤ 葺 き平 屋建)を 指 す(後 述)。 一 方 、 ジ ゲ の豪 農 の 住 居 に つ い て は 『白 山紀 そ手1)に次 の よ うに述 べ ら れ て い る。 十 郎 右 衛 門 は 此 谷 中 の魁 首 にて 、 白 山下 公 領 一 万 石 の 支 配 す る由 也 。 屋 敷 は石 垣 積 廻 し、両 扉 の 門大 小 三 つ 建 た り。 家 は三 階 作 り、 土 蔵 五 つ 、 家 内の 者 四 十 人 計 と云 。 十 郎 右 衛 門 に限 らず 、 此 村 に は三 階 造 りの長 さ十 四 、 五 間 もあ る大 家 多 し。 十 郎 右 衛 門 は 白 山麓 十 八 ケ 村 の取 次 元(大 庄 屋)を つ とめ た 大 地 主 で あ る が 、 その 偉 容 は 上 記 の とお りで あ る。そ う した大 家 が他 に 多 く建 並 ん で い る景観 は 、里 方 の 目 を み は らせ る もの が あ っ た 。後 にふ れ る よ うに 、こ れ らの 大 家 は3階 建 、長 さ14∼15間 の 長 大 な もの で 、ま た大 壁 造 で あ った か ら、 ひ とき わ 目立 っ 存 在 で あ っ た。 フ セヤ の よ うな粗 末 な 小 屋 か ら、豪 壮 な大 家 まで 、当 地 の 階 層 分 化 は 住 居 の 面 で も きわ め て 大 き な もの が あ っ た。当 地 は、原 始 的 な構 造 を もつ ネ プ キ ゴヤ か ら柱 建 の そ れ も3階 建 に 及 ぶ 大 住 居 まで 、お そ ら く1000年 を越 え る住 居 の発 展 過 程 を包 含 す る地 域 で あ り、そ の 状 態 を ご く近 年 まで 伝 えて きた稀 有 な地 域 とい うこ とが で きる 。それ も里 方 か ら隔 絶 され た 山 深 い立 地 条件 が 大 き く 作 用 して い よ う。 さ て 、こ う した 各 種 の住 居 種 を含 む 当地 を対 象 にす る に 当 って 、 ま ず も って もっ と も古 代 的 な 性格 を もつ と考 え られ るデ ツ ク リゴヤ か ら考 察 対 象 と した いが 、 そ れ は先 に み た よ うに 、盧 舎 ・ 盧 ・伏 屋 な ど と表 記 され て い る も の で あ る。 就 中 、 フセ ヤ に つ い て は 、 『岩 波 古 語 辞 典 』 に、 「屋 根 を地 に打 ち伏 せ た よ うな低 い 家 。貧 しい 人 の 小 さ い家 。」と解 説 さ れ て お り、対 象 地 域 の ネ ブ キ ゴヤ とひ じ ょ うに類 似 した形 態 を もっ て い る。 そ して 、同辞 典 に は フ セ ヤ の 用 例 と して 次 の万 葉 歌(431)が 挙 げ ら れ て い る。 ふ せ や 立 て 妻 ど ひ しけ む 葛 飾 の真 間 の 手 こな が お くつ き を
先 に 挙 げ た明 治期 の 歌2首 に み え る フ セ ヤ も、 この 万 葉 歌 にみ え る フ セ ヤ もた ん に 用 語 が 同一 で あ るだ け で な く、住 居 形 態 や 構 造 の 上 で ひ じ ょ うに近 い もの を もっ て い る とお もえ る。 フ セ ヤ に関 して建 築 学 的 に ふ れ た もの と して 、木 村 徳 国 『古代 建 築 の イ メー ジ』(日 本 放 送 出版 協 会 、 昭 和54年)が あ り、 次 の よ うに述 べ られ て い る(同 書 、P.157)。 (フ セ ヤ は)万 葉 集 歌 中 に 「盧 屋(431)、 厘 入(1809)」 の 形 で み え る 。 フ セ と い う 語 や 「厘 」 と い う 用 字 よ りみ て も 、 イ ホ ・カ リ ホ に 類 す る仮 設 的 な 貧 し き 建 物 と解 さ れ る 。 関 連 し て 、 万 葉 集 歌 中 に は タ ブ セ(田 盧 。1592、3817)が あ り、 こ れ は 田 を 刈 り に 一 時 的 に 宿 泊 す る カ リ ホ(刈 魔)と 解 さ れ る 。 フ セ ヤ ・タ ブ セ ・イ ホ ・カ リホ を 通 じ て 、 高 級 建 造 物 の ま っ た く 反 対 例 と な っ て い た 。 先 の 『白 山遊 覧 図 記 』 にみ え た 盧舎 や 盧 、2首 の 歌 に み え た フ セヤ は 、 い ず れ も上 記 引 用 文 に 含 まれ て お り、近 世 か ら近 代 に ま たが る文 人 達 の万 葉 歌 に対 す る素 養 が うか が え る 。 よ り正 確 に は 、 フ セ ヤ の 「ヤ 」が 万 葉 歌 で は 「屋 」 「八 」で あ るが 、 同 『図 記 』で は 「舎 」に な っ て い る。 「舎 」 もま た ヤ と よ ま れ る か ら大 きな 差 と は い え な い 。『図 記 』の盧 舎 は フ セヤ で あ る。文 人 た ちが 山 深 い 白 山 山 中 の デ ツ ク リゴヤ(ネ ブ キ ゴヤ)を み た と き、 それ は ま さ に フ セ ヤ だ っ た の で あ る。 そ の と き、万 葉 の 時 代 か ら1000年 余 の 時 間 が 経 過 して い る こ とは 何 ら問題 に な らな か っ た 。そ れ く らい こ の 山 中の 住 居 は 古 式 を と どめ て い た の で あ る 。 さて 上 記 引用 文 は 、 フ セ ヤ に類 似 の 用 語 と して タブ セ、 イ ホ、 カ リホ を挙 げ 、 これ ら の共 通 性 と して 「仮 設 的 な貧 し き建 物 」 をイ メー ジ して い る。 確 か に、 こ れ らの 建 物 は 「高 級 建 造 物 」 と は考 え られ ず 、 そ の 「反 対 例 」で あ るだ ろ う。 しか しな が ら、 よ り具 体 的 に そ れ らの 建 物 が どの よ う な もの で あ った か を概 観 し てお くとは 、デ ツ ク リゴ ヤ の 古 代 的性 格 を理 解 す る上 にぜ ひ 必 要 な こ と と考 え られ る。 以下 万 葉 集 に み え る2例 の フ セヤ に つ い て み る。 1,3フ セ ヤ の 事 例(1) ま ず 最 初 に 万 葉 歌(431)に み え る フ セ ヤ は 、 次 の よ う で あ る 。
害 菩 宥蒙義実乏 倭支旛あ 箒蘇春話 薩屋笠 萎商為象畿 藤荘鹿あ 貢簡乏羊免茗
ノ オク ツ キ ヲ 之 奥 榔乎 歌 中 の 盧 屋 を フ セ ヤ と読 む こ とにつ い て は、 同 じ く万 葉 歌(3817)の 中 に類 似 の 田盧 な る語 が タ ブ セ み え、 そ の 歌 の 末 尾 に 「田盧 者 多夫 世 反 」 と注 さ れ て お り、 「盧 」は 「フ セ」 と読 む こ とが わ か る。した が って 、 上 記 歌 中 の 塵 屋 は フ セ ヤ と読 ま れ る。 くヨコ こ の フ セ ヤ につ い て は 次 の よ うに 解 され て い る。 妻 を迎 へ る為 に 新 に小 さ い 屋 を造 る の で あ る。 古 義 に 「今 も土 佐 ノ国 に て 、 少 し城 府 離 りた る里 の 風 俗 に は薇 、イ饒 キ著 とて も、妻 迎 せ む とて は、二 人 稽 ら る るば か りの 、甚 ち ひ さ き屋 を 造 りか ま へ て 、 さ て 妻 を 迎 て 、 其 ノ 屋 に 率 寝 る な り、 こ れ 上 古 の 風 習 の 、 辺 鄙 に 遺 れ る な る べ し、」 と あ る 。 フ セ ヤ は こ の場 合 、 ツ マ ドヒ(妻 問 、 結 婚)の た め に新 し く建 て られ た小 さ な仮 設 的 建 物 を意 味 す る よ うで あ る。 しか も歌 の 内 容 は 「イニ シヘ ニ ア リケ ム ヒ トノ」に よ って もわ か る よ うに 、 こ の歌 が つ く られ た時 点 に お い て 、す で に遠 い 昔 の こ とが歌 われ て い るの で あ る。 され ば 歌 中 の ツ マ ドヒの た め の フ セ ヤ が 、 解 釈 の 「上 古 の風 習 の 、 辺 鄙 に 遺 れ る な るべ し、」とな るの は と うぜ ん とい え る。 フ セ ヤ は上 代 、 い な そ れ を さ らに さか の ぼ る古 い時 代 か ら存在 した建 物 で あ り、 ツ マ ドヒの た め の建 物 で あ る か ら に は 、 た とえ 小 さ くて も ま た仮 設 的 で あ っ て も一 種 の 住 居 で あ る。 以 上 か ら、こ の場 合 の フ セ ヤ は ① 太 古 的 性 格 を もつ こ と、② 仮 設 的 で は あ る が 居 住 用 の建 物 で あ る こ と、③ と くに ツマ ドヒ と関 連 す る建 物 で あ る こ とが み て とれ る。 こ れ らの こ とが い え る と す れ ば 、フ セ ヤ は万 葉 の 時 代 を さ ら に遡 及 す る太 古 に お い て 常 設 的 な住 居 で あ った 可 能 性 もつ よ い 。万 葉 の 時代 に は す で に 高 床 式 住 居 や 基 壇 の あ る高 級 な住 居 が あ っ た か ら、フ セ ヤ は相 対 的 に そ の 地 位 を下 げ て い た 。 そ こ に フ セ ヤ の 貧 し さや 仮 設 的 性 格 が現 れ て くるの で あ る。 1.4フ セ ヤ の 事 例(2) フ セ ヤ に 関 す る い ま ひ とつ の 万 葉 歌(1809)は 、 次 の よ うで あ る 。
智秘壬壬 牽秦昆荘宝ガ 薩λ擦 嶺輔磁
箱籍婚
この 文 だ けで は分 りに くい が 、チ ヌ ヲ トコ とウ ナ ヒ ヲ トコの2人 の 男 が フ セ ヤ に火 を焚 い て1 人 の 美 女 に競 っ て求 婚 す る場 面 で あ る。 フ セ ヤ で 火 を焚 く と煙 で ス ス(煤)が で るの で 、次 の ス ス シ キ ホ ヒ(進 み 競 い)の ス ス にか か る枕 詞 と され て い る。 そ の た め に この 歌 の フ セヤ は 、 「旅 」 の 枕 詞 「草 枕 」 と同 じよ うに 訳 解 の場 合 に は姿 を消 して し ま う。 つ ま りフセ ヤ タ キが 次 の ス ス シ キ ホ ヒに吸 収 さ れ て しま うの で あ る 。 しか しな が ら、結 婚 の た め の 新 居 と して の フ セ ヤ が 風 習 と して 一 般 的 で あ っ た時 代 に は 、 フ セ ヤ タ キ は も っ と実 在 感 の あ る もの で あ っ た だ ろ う とお もえ る。この あ た りの 解 釈 につ い て は 、 次 が 参 考 に な ろ 乳 伏 せ 屋 で 火 を焚 け ば煤 が垂 れ るか ら 「す ・」 とつ"け た枕 詞 か と思 ふ が 、 「伏 せ 屋 で … … 」と い ふ 意 味 を単 に 「ふ せ 屋 た き」 と云 っ た か 少 し疑 問 で あ る。 お そ ら く2人 の 男 は フ セ ヤ を建 て 、 そ こ に 常 駐 し、 中の 炉 か カ マ ドで 火 を焚 き生 活 を しな が ら 女 に求 婚 をつ づ け た。 そ して 、 も し求婚 が 成 功 した とき に は、 この フ セ ヤ に女 を招 き入 れ る予 定 で あ っ た。 さ ら に一 歩 を進 め れ ば、 ス ス が 垂 れ る くら いの 期 間 求婚 をつづ け た。 い ず れ に して も 2人 の 男 の求 婚 に対 す る熱 意 は、この フ セ ヤ タ キ と い う行 為 に か な り見事 に表 現 され て い る よ う に お もえ る。 そ れ は 先 に述 べ た 実 在 感 、 あ る は現 実 感 と して読 む 者 に追 っ て くる強 さ を も って い る。 さ れ ば次 の ス ス キ ホ ヒが 一 段 と生 きて くる の で は な い か 。 以 上 に み る よ うに 、万 葉 集 中の フ セ ヤ2例 は い ず れ も結 婚 に 関 す る建 物 で 、新 妻 を迎 え る た め に新 し く建 て る住 居 を指 して お り、 それ は 上 代 あ る い は そ れ 以 前 か ら の 風 習 と し て 存 続 して い た。 ツ マ ドヒ(妻 問)や ヨバ ヒ(結 婚)に フ セ ヤ をつ くるの は 、新 世 帯 の創 設 と い っ た 大 きな 意 味 で な く、ほ とん どが 単 室 住 居 で あ っ た 当 時 の 住 居 にお い て は 、結 婚 した 男 女2人 だ けの 隔 離 さ れ た空 間 が 必 要 と され たか らで あ る。今 日の 住 居 に お い て 、 夫婦 の 就 寝 室 を1室 と る よ うに 、当 時 は別 にフ セヤ を1棟 つ くった とい うこ とで あ る。 この 場合 の フ セ ヤ も先 の例 と 同 じよ うに 、① 太 古 的 性 格 、② 居 住 用建 物 、③ 結 婚 に 関 連 す る建 物 とい った 属 性 が み とめ られ る。 1.5フ セ の 形 態 的 解 釈 万葉 集 歌 中 に あ る2例 の フセ ヤ に つ いて み た が 、こ の居 住 用 の建 物 は 万 葉 の 時代 に お い て もす で に古 い昔 の建 物 で あ って 、当 時 に お い て は ツ マ ドヒや ヨバ ヒの た め につ くられ る仮 設 的 な粗 末 な建 物 で あ っ た 。 こ れ ら に よ って 、 この フ セ ヤ な る建 物 の ① 歴 史 的 属 性(太 古 性 、初 源 性)、 ② 性 状 的属 性(貧 しさ 、 粗 末 さ)、 ③ 用途 的 属 性(仮 設 的 居 住 用 建 物)が あ き らか に な っ た が 、 い ま だ 建 築 的 な形 態 的 属 性 が あ き らか で な い。 こ れ に つ い て は 、 す で に フ セ ヤ の フ セ(伏)か ら ネ ブ キ ゴヤ を連 想 す るの で あ るが 、 これ に関 して は 同 じ く万 葉 歌(3817)の タ ブ セ が 参 考 に な る。 同歌 は 次 の よ うで あ る。 カ ル ウ ス ハ タ ブセ ノ モ ト ニ ワ ガ セ コ ハ ニ フ ブ ニ ヱ ミ テ タチ マ セ リ ミ ユ ハ タ 可 流羽 須波 田盧乃毛 等ホ 君兄 子者 二布夫 ホ咲而 立 在(麻 為)所 見(注)田 鷹者 多 ブ セ トヨ ムナ リ 夫世 反 カ ラウ ス こ の 歌 は 、 「唐 臼 は タブ セ の も とに あ り、 わ が 君 が に こ に こ と笑 っ て 立 っ て お られ るの が 見 え
る 。」 と い っ た 単 純 な 内 容 の も の で あ る が 、 こ の 歌 の 面 白 み の 一 つ と し て 、 「カ ル ウ ス は タ ブ セ ノ ロ ロ ア ラ モ トに あ り、 ワガ セ コ は タ チ マ セ リ とい う対 照 」 が 指 摘 され て い る 。つ ま り 「伏 す 」 と 「立 つ 」 が 対 照 さ れ て い るの で あ る。 「伏 す 」、 「立 つ」は 本 来 、 人 間 の 姿 態 に関 す る もの で あ るが 、 これが 建 物 の 形 態 に も及 ぼ さ れ た もの と解 さ れ る。万葉 の 時 代 に あ っ て は 、す で に 柱 建 て の建 物 は 存 在 して お り、 柱 建 て の 建 物 を 「立 つ 」 とみ る と、 ネ ブ キの 建 物 は い か に も 「伏 す 」 よ うに み え る。 高 床 の 建 物 と比 較 す れ ば 、 なお さ ら 「伏 す 」 よ うに み えた に ち が い な い 。 以 上 が フ セ ヤ の 形 態 的 解釈 で あ る 。 フ セ ヤ は 「伏 し た よ うな 形 を した 建 物 」 とす るの で あ る 。 そ して 、 そ の 「伏 せ た よ う な形 」 が デ ツ ク リゴヤ に み られ る ネ ブ キ な の で あ る。 さて 上 記 引 用文 の 中 の タ ブ セ につ い て す こ し言 及 して お か ね ば な ら な い。タ ブセ は 田 に お け る 農 作 業 の た め に 一・時 的 に使 用 す る、 い わ ゆ るデ ゴヤ(出 小 屋)で あ るが 、 この よ うな仮 設 的 な建 物 は 万 葉 の 時代 以 降 も 日本 各 地 に伝 承 さ れ て 来 た とこ ろ で あ り、本 論 の 対 象 とす る地 域 に お いて は 、 先 の 『白 山遊 覧 図 記 』に もみ え た 山 中 の デ ゴヤ や デ ツ ク リゴヤ が それ で あ り、 さ らに 山 麓 の 水 田 地 帯 に残 存 す る ヒル クイ ゴヤ(昼 喰 い小 屋)が そ れ に 当 る。 ヒル ク イ ゴヤ は農 作 業 時 の昼 食 を と る小 屋 に 由来 す る名 称 で あ るが 、農 繁 期 の 宿 泊 や 休 息 場 所 、作 物 の 暫 定 的 な保 管 場 所 、農具 の収 納 場 所 な どに利 用 さ れ る小 屋 で あ る。本 宅 とは 別 に建 て られ た 小 屋 で あ る。この ヒル クイゴ くの ヤ の 中 には ネ ブ キ の もの も近 年 まで 残 存 して い た 。 対 象 地 域 の デ ツ ク リゴヤ や ヒル ク イ ゴ ヤ は 、建 物 の 用 途 、形 態 と も に タ ブ セ と近 似 して い る。 い な 同 一 とい っ て も よ い。 タブ セ は 「田の フ セヤ(伏 屋)」 で あ る 。 ネ ブ キ の デ ゴヤ で あ る。 そ う す る と、万 葉 集 に歌 わ れ た フ セ ヤ や タ ブ セ は 、以 降1000年 余 、 い な さ ら に そ れ 以 上 の古 い 時 代 か ら今 日 まで 対 象 地 域 に伝 承 され て き た こ とに な る。一 般 に住 居 は 時 代 と と もに変 化 発 展 す る。 し か し、 それ は地 域 差 、階 層 差 を考 慮 す る と、 い ち じ る し く践 行 的 な 変 化 発 展 を な し とげ て きた と い わ ざ る を え な い。 以 上 の タブ セ は次 の 万 葉 歌(1592)に もみ え る。
蕪霧
晶 袖 て
蒔
競ミ
乱 醸 碍 暑 景1繍窓
こ の歌 の タブ セ は 、あ き らか に 田小 屋 で あ る 。稲 の刈 り と りの 「亡し い農 繁 期 に使 用 す るデ ゴヤ で あ る。 そ れ は ま さ し く対 象 地 域 の ヒル ク イ ゴ ヤ その もの で あ る。 しか もそ の デ ゴ ヤ は 田 の フセ ヤ で あ っ た 。 図1-2は 、上 記 の ヒル ク イ ゴ ヤ を図 化 した もの で あ る 。同 図 は フ セ ヤ や タ ブ セ の 形 態 を示 す と同 時 に 、逆 に デ ツ ク リゴヤ や ヒル クイ ゴヤ に み られ る ネ ブ キ の 古 代 性 を も示 す もの とい え る。図1-2ネ ブ キ の ヒ ル ク イ ゴ ヤ 正 面 図 側 面 図 資 料)『 尾 ロ村 史 ・第2巻 ・資 料 篇2』(P.670)の 写 真 に よ り筆 者 作 図 。 尾 添 ・深 谷 地 内 、 山 田 与 吉 家 ヒ ル ク イ 小 屋 。 同 書(P.677)に 次 の 説 明 が あ る。 「ヒ ル ク イ小 屋 の 役 割 は 、 田起 し ・田 植 え ・田 の 草 取 り ・ラ チ マ ワ シ ・水 の 管 理 ・一 連 の 収 獲 作 業 等 に は 、 村 を往 復 して 仕 事 を す る が 、 そ の 際 休 憩 し た り、昼 食 を と る の に 利 用 す る の で あ る。 尾 添 川 奥 地 の 高 冷 地 の 水 田 は 、 田 起 し ・田 植 え期 は 肌 寒 く、 加 え て 水 仕 事 の た め に は 体 は 冷 え るの で 、休 憩 時 に は 暖 を と ら ね ば な ら ず 、小 屋 内 に ジ ロ を作 っ て あ る 。」 1.6ヤ の 建 築 的 初 源 性 フ セ ヤ の 「フ セ 」 に つ い て は 以 上 の よ う で あ る が 、 残 る 「ヤ 」 に つ い て は 、 前 出 『古 代 建 築 の イ メ ー ジ 』(PP,149∼166)に 、 記 紀 万 葉 古 風 土 記 に 出 る 用 語 例31例(イ ハ ヤ ・石 屋 、 ウ マ ヤ ・馬 屋 、 ウ ブ ヤ ・産 屋 、 ヒ トヤ ・人 屋 、 ム ロ ヤ ・室 屋 等 々)を 挙 げ 、 ヤ が ひ じ ょ う に 広 い 範 囲 に 使 用 さ れ て い る 事 実 か ら 次 の よ う に 論 じ て い る 。 太 古 、ほ とん ど一 種 に か ぎ られ て い た ヤ が 、文 化 の発 展 に と も な っ て機 能 分 化 し、次 々 に新 し き種 を加 えて 、 ヤ(語 尾)類 の ひ ろ が りを形 成 して い っ た の で あ っ た 。 そ し て 、 そ の ヤ の 太 古 的 性 格 を 示 す も の と し て 、 ヤ が メ(目)、 ケ(毛)、 テ(手)、 ハ(歯)、 キ(木)、 ネ(根)、 ナ(菜)、 ヒ(火)、 タ(田)、 ヤ(矢)の よ う な 一 拍 一 音 の 語 で あ る こ と か ら 、 それ だ け で は た だ ち に基 礎 日本 語 とは な し得 ぬ と して も、 ヤ(建 物)も ま た、 悠 久 の 縄 文 時 代 の昔 か ら、古 代 人 の 生 活 と切 りは な し得 ぬ もの で あ っ た こ とを思 う と、 こ とば と して 、 き わめ て 古 き来 歴 を持 つ こ とが 推 定 さ れ る。 と し て い る 。す な わ ち 、建 物 を指 示 す るヤ に、 そ の ヤ の もつ 属 性 を冠 して ○ ○ ヤ とい う語 が 生 成
図1-3「 家 屋 文鏡 」 に み え る4種 の建 物 A棟 B棟 自 目 C棟 D棟 日 目 目
㊧
田 困 資 料)前 出 『古 代 建 築 の イ メー ジ』(P,21)に よ り筆 者 作 図 。 同書 に そ れ ぞれ の 建 物 の 解 釈 が あ り、 主 要 な 部 分 を抜 葦 す る。 A棟:こ の よ う な形 式 を もつ 建 物 の 実 体 を 考 え る と、ほ とん ど疑 い な く、考 古 学 で 住 居 遺 跡 と して 発 掘 さ れ る も の の 中 心 を な す 、竪 穴 住 居 と解 釈 さ れ る。竪 穴 住 居 の 例 は 、 縄 文 時 代 か らは じ ま り、 弥 生 ・古 墳 の 両 時 代 に もっ と も一一般 的 で あ り、 数 は す くな く な る が 、平 安 時 代 鎌 倉 時 代 の 例 さ え み ら れ る。(略)簡 単 に い い き れ ば 、 竪 穴 住 居 と は 、わ が 国 古 代 初 期 の 中 心 を な し た住 居 建 築 で 、農 耕 民 衆 と対 応 す る も の で あ っ た 。(pp.22∼23) B棟:こ の建 物 の き わ だ っ た特 色 は 、主 要 な床 が 上 階 部 に あ っ た こ とで 、 この よ う な建 築 形 式 を 「高 床 式 」 と呼 ぶ 。A棟 の 「竪 穴 」 と ま っ た く対 立 す る 形 式 で 、 現 在 で もマ レー 半 島 や イ ン ドネ シ ア に み られ る よ うに 、南 方 系 の 建 築 形 式 と推 定 さ れ て い る 。(p.25) C棟:第 一 に 、上 階 部 分 が 居 住 部 と して あ き らか に 表 現 さ れ て い る こ と。(略)第 二 点 は 、 左 方 に 突 き出 し た 露 台状 の もの の 存 在 で あ る。(略)関 連 して 第 三 点 。 こ の サ ズ キ をお お う よ う に 、A棟 に もみ え た キ ヌガ サ が 、 よ り大 き く さ しか け られ 、 リボ ン の よ う な飾 り も垂 れ て い て 、居 住 者 の 身 分 の 高 さ が 、は っ き り表 現 され て い た 。 (P.27) D棟:こ のD棟 を、 基 壇 の 上 に 立 ち 、 大 陸 風 の 扉 装 置 を そ な え た 建 物 で 、A・B・C三 棟 と は 系 統 を別 に した 形 式 と想 像 す る 。(p.30) な お 、4棟 の 訓 み と して 、A棟:ム ロ、B棟:ク ラ ・ホ ク ラ 、C棟:ミ ヤ ・ミア ラ カ 、 D棟:ト ノ とす る こ とが 述 べ られ て い る。(p.31) した と考 え るの で あ る。そ の 生 成 は 古 い 時代 で は あ るが 一・定 の 時 間 的 経 過 の過 程 にお い て 、次 第 に 語 彙 を増 加 させ て い っ た。 上 に引 用 した 用 語 例 に つ いて み る と、 イハ ヤ(石 屋)は 材 料 、 ウマ ヤ(馬 屋)・ ウ ブヤ(産 屋)・ ヒ トヤ(人 屋)は 用 途 、 ム ロヤ(室 屋)は 形 状 を示 す 、 それぞれの属 性 を冠 した 語 に な っ て い る。 こ う した ヤ(語 尾)類 の ひ ろが りの 中 で 、 フ セヤ も また ヤ 類 の 一 員 た る 資格 を もっ もの で あ る が 、 そ の フ セ が 、 タ ブ セや フ セ イ ホ に もみ られ る 「伏 せ 」 た よ うな を示 す 形 態 的 な属 性 を指 示 す る もの とす れ ば 、フ セヤ も また 或 る時 期 にヤ 類 の 中 に新 し く生 成 した語 と い う こ と に な る。 その 生 成 が いつ 頃 で あ っ た か は 、 早 急 に 決 定 され る もの で は な い が 、 た と えば 、著 名 な 「家 屋 文 鏡 」 (4世 紀)に み え る4種 の 建 物(図1-3)は 、 基壇 上 に建 つ 柱 建 て の 建 物1棟 、 高 床 式 の建 物2 棟 、そ して フ セ ヤ1棟 で あ る。こ れ ら4棟 を比 較 す る と、前3者 は い ず れ も柱 建 て の建 物 で あ り、 フ セ ヤ とみ られ る1棟 の み 屋 根 を地 に伏 せ た形 態 をみ せ て い る。 こ う した建 物 の 際 立 っ た形 態 上 の 差 異 は 、当 時 の 人 々 の 目 に も当然 つ よ い 印象 を与 えた で あ ろ う し、 柱 建 てや 高 床 式 の 新 規 性 ・先 進 性 とフ セ ヤ の 古 来 性 ・保 守 性 が 明 確 な コ ン トラ ス トを成 し て 印 象 づ け られ た で あ ろ うこ とは 、推 測 に か た くな い 。 これ は ま た 、渡 来 系 と在 地 系 と換 言 す る こ と もで き る。 なお 、 こ こで 、 「家 屋 文 鏡 」に み え る4種 の 建 物 は 、 当 時の 上 層 に位 置 す る階 層 の建 物 とみ られ る。 それ は ど の建 物 も大 きな妻 こ ろ びの あ る逆 台 形 の屋 根 をの せ て い る こ とで もわ か るが 、一 般 の 庶 民 住 居 は 先 に 図 示 した 対 象 地 域 の ヒル ク イ ゴ ヤ の よ うに単 純 な ネ ブ キ で あ っ た だ ろ う。そ れ は ま た 、妻 こ ろ び の つ よい 屋 根 が南 方 系(渡 来 系)の 建 築 形 態 を示 し、 単 純 な寄 棟 形 式 の ネ ブ キ が 北方 系(在 地 系)の 建 築 形 態 を示 す とい う こ と に も な ろ う。 また 、 フセ ヤ に類 似 す る語 と して 、 フ セ イ ホ(後 出)な る語 が み え る。 フ セ イ ホの フ セ につ い て は 、す で に述 べ た 通 りで あ るが 、 イ ホは どの よ う な 内容 を もつ の か 。 そ し て 、ヤ とイ ホ は ど の よ うな 関 係 に立 つ の か 。 こ れ に つ い て は 、 『岩 波 古 語 辞 典 』の 「いへ 」(家)の 項 に 、 「類 義 語 ヤ(屋) は 、 家 の 建 物 だ け を い う。 イへ は イ ホ(盧)と 同根 か 。」 とあ る。 ヤ は ハ ー ドな建 物 を指 し、 イ ホ は イへ と同 じよ うに建 物 の 中 、 と くに住 居 の 中 の家 族(人 間 集 団)や 生 活 等 の ソフ ト面 を指 す とす れ ば 、 イへ の 上 代 東 国 方 言 イハ か ら さ らに イ ハ ヤ(岩 屋 、石 室)や ハ ワ ム(聚 む 、 多 くあつ ま る、 屯 聚 居)な どの 古 い 用語 が 連 想 され る。 そ う した系 譜 を も つ とす れ ば 、 イ ホ は 「人 々 が住 む 」 こ とに重 心 をお い た語 で あ り、ヤ は そ れ を容 れ る器 と して の 建 物 を指 す 。 後 の 「貧 窮 問答 歌 」 にみ られ るフ セ イ ホ 、 マ ゲ イ ホ は 貧 し く もれ っ き と した 住 居 で あ り、 ネ ヤ ドで もあ った か ら、こ の場 合 の イ ホ は そ の 中 の 家族 や 生 活 等 を も包 含 した 内容 を も って お り、こ の 意 味 に お い て は 、 イハ ム や イへ の 系 譜 に 連 な る もの とい え よ う。一 方 、 フ セ ヤ は結 婚 の た め の 仮 設 的 な建 物 で あ り、居 住 用 の 建 物 で は あ る が 常 設 的 な もの で な く、 イ ホ の よ うに家 族 や 生 活 の 意 味 が つ よ くな い 。 い わ ば建 築 的 ・形 態 的 な意 味 が つ よ レ㌔ フ セ ヤ は 伏 せ た よ うな形 を した 小 屋 、フ セ イ ホは 伏 せ た よ う な形 を した 住 居 とで も い お うか 。 い ず れ の 場 合 に お いて も、 フ セ は 「伏 せ た よ うな」 を示 す 形 態 的 用 語 で あ る。
2.架 構 方 式 の 古 代 的 性 格 上 記 の よ うに 、フ セ ヤ や ネ ブ キ と称 され る外 観 を もつ 住居 は、形 態 的 に み て もす で に古 代 的 性 格 が 認 め られ るが 、 そ の よ うな 形 態 を示 す骨 組 は どの よ うな もの か 。 こ こで は 、骨 組 の さ れ 方 、 架 構 方 式 につ い て み る。 対 象 地 域 で採 集 され た事 例 に よ っ て、 もっ と も シ ンプ ル な放 射 状 サ ス構 造 の ズ キ マ ル ゴヤ(円 形 平 面)、 これ に平 行 サ ス 構 造 を導 入 した 複 合 的 な サ ス構 造 を示 す ネ ブ キ ゴヤ(小 判 形 平 面)を み 、 そ の後 、棟 持 柱 に よ っ て支 え られ る タル キ構 造 につ い て ふ れ る。 いず れ も古 代 的 な 架 構 方 式 を示 す もの で あ る が 、架 構 方 式 は住 空 間 の 規 模 や 形状 を決 定 す る 大 き な要 素 で あ る。 2.1放 射 状 サ ス 構 造 ネ ブ キ ゴヤ とよ ば れ るサ ス構 造 の 単 室 住 居 は 、そ の架 構 方 式 そ の もの が 古 代 的 、あ る い は そ れ を は るか に さか の ぼ る太 古 の構 造 を現 代 ま で伝 承 して き た数 少 な い事 例 で あ る と考 え られ るが 、 これ の 構 造 的 特 質 に つ いて 検 討 す る ま え に、同 じ くサ ス構 造 で は あ る が放 射 状 の骨 組 を もつ ズ キ 図1-4ズ キ マ ル ゴヤ の 外 観 お よび構 造
一
4,2M
資 料)『 尾 口村 史 ・第2巻 ・資料 篇2』(p.629)の 写 真 に よ り筆 者 作 図 。 同 所 に 次 の 説 明 が あ る 。 「(昭和)49年 、 東 二 口 ・表 正 記 家 で 発 見 した もの は 、 床 は 直 径 約4.2メ ー トル の 円 形 で 、 杉 の 丸 太 を数 本 、骨 組 み と して 円 錐 状 に 立 て 、 茅 を 地 面 よ り葺 き あ け 、全 体 と して 背 の 高 い 円 錐 形 に した 特 色 的 な も の で あ っ た 。 こ の よ う な構 造 の 小 屋 造 りを 「ズ キ マ ル 小 屋 」、 ま た は 「ツ ン ブ リ小 屋 」と言 っ た。 機 能 的 に は 、 養 蚕 を 盛 ん に 行 っ た 時 に で る コ ク ソ(蚕 糞)を 肥 料 用 に 蓄 え る もの で あ る。 コ ク ソ は真 夏 に は 、 醗 酵 して 熱 と、 異 常 な 臭 気 を発 して 不 快 な の で 、 生 活 場 面 の 母 屋 よ り離 し て別 棟 に し て 蓄 え た の で あ る。」 注)上 記 引 用 文 で は 、サ ス 丸 太 は 数 本 と記 録 して い る の で 、正 確 な 本 数 は分 ら な い が 、4∼5 本 と考 え 、 右 図 を 作 成 して い る 。マ ル ゴヤ を み て お き た い(図1-4)。 ズ キマ ル ゴヤ(突 丸 小 屋)は 、丸 太 を数 本 カ サ 状(放 射 状)に 組 ん だ 簡 単 な コヤ で あ る。 全 体 の 形 状 は、図1-4に 示 す よ うに 鋭 角 の 円錐 状 をな し、頂 点 か ら地 面 ま で カ ヤ で 葺 きお ろ した 、 も っ と も シ ンプ ル な架 構 を もつ コヤ で あ る。 この コ ヤ は 住 居 で な く、 コ ク ソ ゴヤ(蚕 糞 小 屋)と よば れ る蚕 糞 の貯 蔵 を 目的 とす る コヤ で 、養 蚕 の 最 盛 期 に は 、各 家 の オ モ ヤ 近 くに つ く られ た 。 ズ キ マ ル ゴヤ は住 居 で は な いが 、架 構 の シ ンプ ル さお よび 放 射 状 サ ス構 造 に よ る円 錐 状 形 態 と い う点 で一 考 に値 す る 。お そ ら く後 の よ り複 雑 な、 ま た大 規 模 な 住 居 の 架 構 に先 行 して 、 こ の ズ キマ ル ゴヤ にみ られ る よ うな放 射 状 サ ス 構 造 の 単 純 な カサ 状建 物 が 存在 した で あ ろ う こ とは容 易 に推 測 で き る。住 居 の 架 構 方 式 が よ り高 度 な もの に移 行 して い く過 程 に お い て 、 コ ク ソ ゴヤ の よ うな仮 設 的 な コヤ に お いて は、太 古 の 来 歴 を もつ 原 始 的 な架 構 方 式 が 継 承 さ れ て き た と考 え ら れ る。 こ の場 合 の サ ス丸 太 は 、頂 点 を 中心 とす る放 射 状 に配 置 され るの で 、平 面 は 円 形 とな る。対 象 地 域 の デ ツ ク リゴヤ の 平 面 に も、こ の 円 形 平 面 の残 遺 が み とめ られ 、 円錐 形 の ズ キマ ル ゴヤ が 、 さ らに そ れ に先 行 す る架 構 方 式 で あ る こ とを 暗 示 す る もの と考 え られ る。 群 馬 県 ・中筋 遺 跡 で は全 国初 め て の6世 紀初 頭 とみ られ る円 形 平 面 の平 地 式建 物 が発 掘 され て く ラ お り、内部 に カ マ ドを設 けて い る 。 円 形 平 面 を もつ 建 物 の架 構 方 式 は 、ズ キ マ ル ゴ ヤ に み られ る よ うな放 射 状 サ ス構 造 に よ る場 合 が もっ と も合 理 的 に理 解 され る 。中 筋 遺 跡 の場 合 、遺 跡 は深 さ 1.5M程 度 の方 形 タ テ 穴住 居 、円 形 タ テ 穴 住 居 、祭 祀 跡 、周 堤 帯 、周 溝 、道 、溝 等 を含 む 集 落 跡 と して発 掘 され て い る。 こ れ らの 遺 跡 の うち、建 物 に関 して は 、 タ テ 穴 式 と平 地 式 、 円 形 平 面 と方 形 平 面 が 同 一 集 落 に 共 存 して い る こ とは 、両 形 式 の 移 行 期 に あ る こ と を示 す もの とお もえ る。 い ず れ に して も、6世 紀 初 頭 に 円 形 平 面 の平 地 式建 物 が 存在 し た こ とは 、ズ キマ ル ゴヤ との 類 縁 関 係 を想 定 させ る もの で あ る 。 また 、 上 記 ズ キ マ ル ゴヤ は ツ ン ブ リゴヤ(頭 ・つ む り小 屋)と も よば れ る。 平 面 が 正 方 形 の 寄 棟 の場 合 、屋 根 は宝 形 に な り4つ の 陵 線 が 頂 点 に 集 中す る 。 こ の よ う な宝 形 屋 根 の こ と を も、 当 地 で は ツ ン ブ リ屋 根 とい って い る 。 この 場 合 、陵 線 とい って も カヤ 葺 きの場 合 は 丸 味 を帯 び 、全 体 と して 屋 根 は 円 錐 形 に近 い もの とな る。 ツ ン ブ リは 、 こ う した 丸 味 を もっ た 屋 根 を頭(つ む り) に な ぞ ら え た もの ら しい 。 屋 根 形状 の 擬 人化 で あ る。 円 形 平 面 を もつ 住 居 の架 構 方 式 につ い て言 及 した もの に 、 太 田博 太 郎 『日本 の 建 築 』(1968年 、 筑摩 書 房 、P.32)が あ り、 そ こ に次 の よ うに述 べ られ て い る。 こ こ で竪 穴 住 居 跡 を振 りか え っ て み よ う。そ れ に は古 墳 時 代 の もの の よ うに 、ほ とん ど矩 形 とい っ て も よ い ぐら い 、隅 の きち ん と し た もの も あ る が 、縄 文 ・弥 生 両 時代 の もの は 、円 か 、 隅 を大 き く丸 め た 形 で あ る。
こ の よ うな円 み を も っ た平 面 は 、垂 木 を平 行 移 動 した もの で は な く、放 射 状 配 置 の もの で な け らば な らな い。 そ うす る と、遺 跡 か らい って 切 妻 造 の屋 根 は 考 え られ ず 、錐 状 あ るい は 寄 棟 状 の 屋 根 で あ っ た と推 測 され る。 こ こ で も、や は り円形 平 面 を実 現 す る架 構 方 式 と して 円錐 状 の 屋 根 、す な わ ち放 射 状 の サ ス 構 造 が 想 定 され て い る。 た だ しこ の場 合 、 引 用 文 で は タル キ(垂 木)な る語 が 用 い られ て お り、 こ れ は柱 や 桁 に 掛 け られ て い る こ と を暗 に想 定 して い る ため と考 え られ る。事 実 、円 形 平 面 や 隅 丸 平 面 を もつ 住 居 跡 か らは 柱 穴 が 検 出 され て お り、柱 と桁 で組 ん だ 架 構 体 の 上 に タ ル キ が放 射 状 に 掛 け られ て い る架 構 方 式 が 考 古 学 や 建 築 史 学 の分 野 で 復 原 さ れ て い る。 しか し、一 方 柱 穴 の検 出 され な い住 居 跡 もあ り、 ズ キ マ ル ゴヤ に み られ る よ うに 、 サ ス 構 造 は 本 来 、柱 や 桁 を必 要 と し な い 自立 的 な構 造 体 で あ る。例 と した ズ キマ ル ゴヤ は 、住 居 で は な いが 円 形 平 面 の 直径 が 約4mあ り、面 積 に して 約12㎡ あ るか ら、人 間3∼5人 が 寝 る こ とは 可 能 な広 くユの さで あ る。 太 古 の 昔 、この よ うな放 射 状 サ ス構 造 の シ ン プ ル な 住 居 が 存 在 した可 能 性 もっ よ い。 狩 猟 採 集 を 生 活 と した移 動 性 の つ よい 時 代 に は 、 この よ うな 単 純 な テ ン ト状(あ る い は カ サ 状) の 仮 設 的 な簡 易 住 居 が 営 まれ た と も考 え られ る。そ して 、そ れ は 住 居 の もっ と も基 本 的 な シ ェル ター(覆 い)と して の 機 能 を最 小 限 度 に有 す る もの で あ っ た 。 ズ キマ ル ゴ ヤ の よ うに シ ンプ ル な 自立 的 放 射 状 サ ス構 造 は架 構 方 式 か らみ て 、初 源 的 な 性 格 を も って い る こ とは 明 らか で あ る。柱 や 桁 を組 ん で 、そ の 上 に放 射 状 の タ ル キ を配 す る架 構 方 式 は 、 これ に比 べ る と構 造 的 に は よ り進 歩 し た手 法 とみ な け れ ば な ら な い。両 者 を区 別 す るた め 、本 論 で は 前 者 をサ ス 構 造 、 後 者 を タ ル キ 構 造 と よぶ(図1-5)。 この よ うに サ ス 構 造 と タル キ構 造 を区 別 す る理 由 は、これ らの 架 構 方 式 の歴 史 的 成 立 年 代 が お そ ら く異 る で あ ろ うこ とが まず 第一 に あ る が 、一 見 タル キ構 造 に み え て も、実 は サ ス構 造 で あ る 場 合 も あ り う る こ とが 指 摘 した い か らで あ る(後 述)。 そ して 、 も しサ ス構 造 が タ ル キ構 造 に移 行 した とす れ ば 、 それ に は 次 の よ う な理 由 が 挙 げ られ 図1-5サ ス 構 造 と タ ル キ 構 造 サ ス構 造
よ う。 (1)屋 根 荷 重 が大 き くな り、 サ ス を途 中 で支 え る必 要 が 生 じた場 合 ② 大 き い床 面 積 を え る ため 、 サ ス を長 くした 場 合 ③ サ ス丸 太 が細 くな り、 こ れ を補 強 す る 必要 が 生 じた場 合 (4)サ ス丸 太 の 地 面 に対 す る仰 角(屋 根 勾 配)が 小 さ くな った 場 合 こ れ ら につ い て 、 それ ぞ れ を検 討 す る こ とは 、本 論 の範 囲 を 出 る の で 、理 由 を列 挙 す る に と ど め るが 、 住 居 の発 展 過 程 に お け る架 構 方 式 の役 割 と して は重 要 な問 題 を含 ん で い る。 次 に 、 放 射 状 サ ス 構 造 か ら平 行 サ ス構 造 に 移 る。 2.2平 行 サ ス構 造 本 論 の 対 象 地域 に は 、 ネ ブ キ(根 葺 き)ま た は ネ ブ キ ゴ ヤ(根 葺 き小 屋)と よ ば れ る住 居 が近 年 まで み られ た 。こ れ は カヤ 葺 きの屋 根 を地 面 まで 葺 き お ろ した 断 面3角 の 住 居 で 、サ ス構 造 で あ る。 この よ うな構 造 を もつ 住 居 は 山 深 い 山 中 の デ ズ ク リゴ ヤ に 多 くみ られ た が 、焼 畑 農 耕 の衰 退 と と もに現 代 に お い て は ほ とん ど消 滅 して い る。 しか し、 こ の ネ ブ キ につ い て は 、す で に石 原 憲 治 『日本 農 民 建 築 』に報 告 され て い る(同 書 複 刻 版 第5輯 、南 洋 堂 書 店 、1973年 、PP.39∼40)。 そ の 中 に次 の記 述 が あ る。 白峰 村 の 山 中 に は 、根 葺 と称 す る合 掌 造 が 、谷 間 の開 墾 地 に建 っ て 居 る の が 見 られ る。(略) 小 屋 の構 造 は 極 め て原 始 的 で 、恐 ら く古 代 の 原 始 的 住 家 の面 影 を伝 へ て ゐ る もの で は な いか と思 は れ る 。(略)又 構 造 的 に見 て 、屋 根 を支 へ る為 に合 掌 を 円錐 形 に組 合 せ る事 は 、最 も原 始 的 な形 と見 るべ きで あ ろ う。 い ま とな っ て は 、 ま っ た く貴 重 な記 録 で あ るが 、大 正 末 か ら昭 和 初 年 頃 に お こ な わ れ た 調 査 時 点 に お い て は まだ ネ ブ キ も 多 くみ られ た で あ ろ う。そ して 、サ ス構 造 とその 原始 的 性 格 が 指 摘 さ れ て い る。 同書 に収 録 さ れ て い るネ ブ キ の 図 面 を参 考 に して 、ネ ブ キ の 基 本 的 な姿 を 図 示 す る と 図1-6の よ うで あ る。 ネ ブ キ の特 色 は 、サ ス構 造 で あ る。断面 が3角 形 を な し、地 面 に対 して サ ス は約60°の 仰 角 を な す 。 したが って 、 断面 の3角 形 は ほ ぼ 正3角 形 に な る。サ ス の上 部 に は クツ ワ ギが わ た され サ ス を固 め て い る。サ ス の 脚 部 は玉 石 に置 か れ 、地 中 に埋 め 込 ま れ て い る の で は な い。玉 石 は地 面 に 置 か れ て い るの で 、 内 部 の 床 は 地 面 盤 に な り、平 地 式 住 居 と な る。 この 点 、 タ テ穴 住 居 の よ うに 床 面 が 地 中 に 堀 込 ま れ て い な い の で 、 タ テ穴 住 居 と同一 視 す る こ とは で きな い が 、先 の 群 馬 県 中 筋 遺 跡 の よ うに タ テ 穴住 居 と平 地 式 住 居 が 同 一 場 所 に 共 存 して い る例 もみ られ るの で 、す くな く と も架 構 方 式 は タ テ 穴 住 居 と時代 を 同 じ くす る上 古 的 性 格 を もつ も の と考 え られ る 。な お 、床 面
図1-6ネ プ キ に み られ るサ ス 構 造 1 」 一 一 放 射 状 サ ス 構 造 3間 程 度 に は カ ヤ を敷 き、 そ の 上 に ム シ ロ を敷 く、 い わ ゆ る土 座 ず ま いで あ る。 サ ス の 上 に は ヨ コサ オ を わ た し、そ の 上 に カヤ を葺 く。カ ヤ は 地 面 か ら棟 まで 葺 きあ げ る の で 、 ネ ブ キ は屋 根 だ け の建 物 とな り、垂 直 な壁 面 が な い。 そ の た め ネ ブ キ の 外 観 は 、 ま さ に 「伏 せ 」 た よ うな 形 にみ え る。 フセ ヤ とネ ブ キ は酷 似 して い る。 ま た ネ ブ キの 妻 面 は 放 射 状 の サ ス に な り、 中 間 は平 行 サ ス で あ る。す な わ ち 、ネ ブ キ は全 体 と して サ ス構 造 で あ るが 、放 射 状 サ ス と平 行 サ ス が 同 時 に使 わ れ て い る。先 の ズ キマ ル ゴ ヤ に み ら れ た放 射 状 サ ス構 造 の建 物 は、平 面 が 円 形 とな り、床 面 積 を拡 大 す る ため に は建 物 を高 くし な け らば な らず 、架 構 手 間 や 風 圧 な どの 面 か ら不 利 な構 造 で あ る。 そ の ため 、床 面積 拡 大 に は放 射 状 サ ス に平 行 サ ス が 導 入 され 、円 形 平 面 に矩 形 平 面 が合 さ って 全 体 と して 小 判 形 の 平 面 に な って い る。 平 行 サ ス もや は り放 射 状 サ ス と同 様 高 さは 制 約 され るの で、サ ス の 幅 は一 定 の 限界 を もつ が 、 奥 行 方 向 は い く らで も長 くす る こ とが で き る。す な わ ち、 間 口長 さ は制 約 され るが 、奥 行 方 向 の 面 積 拡 張 は 自由 で あ る。 2.3複 合 サ ス構 造 以 上 の よ うに、ネ ブ キ は 平 行 サ ス と放 射 状 サ ス の 合 体 した もの とみ なす こ とが で き る が 、放 射 状 サ ス か ら平 行 サ ス な い しそ の複 合 形 へ の 移 行 に つ い て、 若 干 の 推 論 を行 って お きた い 。 (1)ま ず 、放 射 状 サ ス は 自立 す るサ ス構 造 で あ る が 、最 小 限3本 の サ ス 丸 太 に よ って 自立 す る (3点 支 持 の 法 貞げ 。3本 以 上 あ れ ば 一 段 と安 定 す る。 ② 放 射 状 サ ス構 造 に よ っ て え られ る平 面 は 円 形 とな る 。床 面 積 を拡 大 す るた め に は 、建 物 が
高 くな り、 建 築 手 間 や 風 圧 等 の 面 で い ち じ る し く不 利 で あ る。 (3)そ れ ゆ え床 面 積 を拡 大 す るた め に は、 頭 初 は2組 の放 射 状 サ ス構 造 体 を連 結 す る こ とで 解 決 し たか も知 れ な い。 (4)し か しよ り大 き な床 面 積 を え る ため に は、2組 の放 射 状 サ ス 構 造 体 の 間 に、平 行 サ ス を導 入 す る必 要 が あ っ た。 (5)平 行 サ ス の導 入 は 、 床 面 積 拡 大 の 可 能 性 をい ち じる し く大 き な もの と した 。 サ ス幅(建 物 の幅)は 一 定 の 限 界 を もつ が 、棟 方 向 の長 さ(建 物 の 長 さ)は 無 制 限 で あ る。 以上 を図 示 す る と、 図1-7の よ うに な ろ う。 図1-7放 射 状 サ ス 構 造 か ら平 行 サ ス構 造 へ の移 行
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(]∋一(D一
放射状サ ス構造 (円形 平面) 放 射状 サ ス構造 の合体 (楕円形平面) 放 射 状 サ ス と平 行 サ ス の合 体 (小判形 平 面) 2.4オ イ ザ ス 構 造 放 射 状 サ ス と平 行 サ ス の複 合 形 式 の ヴ ァ リエ ー シ ョ ン と して 、 オ イザ ス(追 叉 首)構 造 に つ い て ふ れ て お か ね ば な ら な い。 オ イザ ス構 造 は、 図1-8に み る よ うに 、妻 側 の クツ ワ ギ に オ イ ザ ス を掛 けた 構 造 で あ る。オ イザ ス は放 射 状 に掛 け られ るの で 平 面 は 円 弧 を描 くこ と に な る。 した が っ て平 行 サ ス部 分 の 長 方 形 平 面 とオ イ ザ ス 部 分 の 円 弧 平 面 が 合 さ って 、全 体 と して は 小 判 形 の 平 面 形 とな る。 こ の よ う な オ イザ ス 構 造 が使 用 さ れ る の は 、妻 側 上 部 に煙 出 し を と るた め で あ ろ う。 ネ ブ キの 住 居 に は 必 ず 炉 が あ り、火 の使 用 は 生 活 上 不 可 欠 で あ っ たか ら、そ の 必 然 の結 果 と して 排 煙 は 火 の 使 用 と同 じ重 要 性 を もっ て い た。妻 側 の サ ス を棟 で 組 む と屋 根 は完 全 な寄 棟 とな り、煙 出 しは とれ な い 。 しか し、棟 よ り一 段 下 の ク ツ ワ ギ に オ イ ザ ス を掛 け る な ら、煙 出 しを と る こ とが 可 能 とな り、図1-8オ イ ザ ス 構 造 資 料)前 出 『日本 農 民 建 築 ・第5輯 』(p.40)の 中 山 岩 三 郎 宅 の モ ヤ の み を 、 整 合 的 に 筆 者 作 図 。 また ク ツ ワ ギ の位 置 に よ り煙 出 しの 大 き さ を加 減 す る こ とが で き る。事 実 、対 象 地 域 の屋 根 形 式 は寄 棟 か入 母 屋 か 判 別 し に くい場 合 が 多々 あ る。そ れ は 、専 ら こ の ク ツ ワ ギ の位 置 と関 連 して い る。 ク ツ ワ ギの 位 置 が 棟 に近 け れ ば 、煙 出 し穴 は ほ とん ど 目立 た ず 、屋 根 形 式 は 寄 棟 に み え る。 ク ツ ワ ギ の位 置 が 棟 か らか な り下 って い れ ば 、煙 出 し穴 も は っ き り認 め られ屋 根 形 式 は 入 母 屋 に み え る。 しか し、 こ の場 合 で もや は り寄 棟 の ヴ ァ リエ ー シ ョン(変 形)と み るべ きで 、 入 母 屋 と す る に は躊 躇 す る。 ま た、対 象 地 域 の 場 合 、 一 方 の 妻 側 に は 煙 出 し をつ け、他 方 は 煙 出 し を もた な い もの が あ り、 一 方(た い て い正 面 側)が 入母 屋 風、他 方 が 寄 棟 と な る こ と も 多 い。 こ う した屋 根 形 式 を み るに つ け、本 来 妻 側 は放 射 状 の サ ス 組 で あ っ た もの が 、煙 出 し穴 を設 け るた め に、 オ イザ ス に した も の と判 定 さ れ る。 そ して この 場 合 の オ イザ ス は 、 ク ツ ワ ギ に 差 掛 け られ るの で 、 ム ナ ギ に 掛 け るタ ル キ の場 合 と 同 じ架 構 に な り、本 来 の 自立 的 な サ ス組 とは 構 造 的 に 異 った もの に な っ て い る。つ ま りオ イ ザ ス とは い っ て い る もの の 、部 材 は タル キ と して 使 用 され て い るの で あ る。 しか し、放 射 状 で あ り、 そ の 結 果 平 面 が 円 形 の 名 残 りを とど め て い る とこ ろ に前 時代 性 が 認 め られ る。 2.5タ ル キ構 造 サ ス の み に よ っ て構 成 さ れ るネ ブ キ に対 して 、い まひ とつ 柱 建 て の ネ ブ キが あ る。 こ の柱 建 て の ネ ブ キ は 図1-9に 示 す よ うで あ るが 、外 観 はサ ス の み の ネ ブ キ と変 らな い。そ の た め いず れ
図1-9柱 建 て ネ ブ キ の 構 造
一
3間
資 料)『 尾 口村 史 ・第2巻 ・資 料 篇2』(p.671)に よ り筆 者 作 図 。 同 所 に 次 の 説 明 が あ る 。 「ま ず 、3間 ・4間 の 長 方 形 に 、 先 端 が 二 股 状 に な っ た 「コ マ タ 」 と よ ぷ 自 然 木 の 柱 を 8本 立 て 、つ い で 桁 に 当 た る ヨ コ ケ タ を ソ ネ で 結 束 す る。次 に 先 端 が 二 股 状 に な っ た棟 持 ち柱=セ ン ダ チ を2本 立 て 、股 の 上 に 棟 木 を乗 せ 、棟 木 と タ テ ケ タ に7組 の 合 掌 を 立 て 掛 け 、 天 地 根 元 風 に して 、茅 を地 面 よ り葺 き あ げ る。 妻 側 に は2本 の 追 合 掌 を 組 む の で 、 床 は 全 体 と して 小 判 型 に 近 い 形 とな る 。」 の 架 構 方 式 に よ っ て もネ ブ キ と よば れ る。 しか し なが ら、架 構 方 式 の 差 異 に つ い て は一 見 して お く必 要 が あ ろ う 。 この 柱 建 て の ネ ブ キ は 、 『日本 書 記 』 に み え るム ロ ホ キ(室 寿 ・新 築 祝 い)の 詞 章 と関連 す るの で 、 次 に そ の祝 詞 を挙 げ 概 略 の 図 化 を試 み る。蘂タ
翌 繕 曇績
ツキ ヲツ ル ハ シ ラバ コノ イヘ キ ミノ ミ コ コ ロ ノ シヅ マナ リ 築 立 柱 者 此 家 長 御心之 鎮 也 トリア グル ハ シ ラバ ハ ヤシ ナ リ 取 挙 柱 者 此家長 御心之 林 也 トリオケ ル ハ ヘ キ ハ 取 置 橡 僚者 此 家長①
トトノ ホ リナ リ 御心 之 斉 也 取 置 童雀著 此家長 御心之 夕輩カナ笹 り 最i繕 縄 慧著 此家長 釦寿 乏 蜜 樹 トリフケ ル カ ヤ ハ ミ ト ミ ノ ア マ リナ リ 取 葺 草 葉者 此家長 御 富之 絵 也②
③
④
⑤
⑥
まず 最 初 の ワ カム ロ の ム ロは 竪 穴 を意 味 す る で あ ろ う。対 象 地域 の 住 居 に も、今 日まで ム ロが 伝 承 さ れ て い る。 対 象 地 域 の ム ロは 住 居 内 の 一 画 に 食料 貯 蔵 用 の 穴 を土 中 に つ く っ た もの で あ る。 ま た 当地 方 に は ヒ ム ロ(氷 室)な る用 語 が 残 っ て お り、 それ は地 中深 く掘 っ た 雪 氷 保 存 の た め の 穴 を意 味 す る。 これ らの ム ロは いず れ も土 中 の竪 穴 で あ る。 次 の カ ヅ ネ は ち ょ う どネ ブ キ の 語 順 を逆 に した もの で あ る。 いず れ も ネ(根)な る 語 が 含 まれ て お り、 こ の ネ は 大 地 に しっ か り と根 差 して い る状 態 を表 わ して お り、 先 の フ セ ヤ の 「伏 す 」が イ メー ジ され る。 ネ ブ キの フ キ(葺 き)、 カ ヅ ネ の カ ヅ(葛)は 、 い ず れ も 「屋 根 を葺 く」 こ と を 意 味 して お り、 日本 書 記 の カ ヅ ネ と現 代 の ネ ブ キ は、 そ の 意合 い が 重 な り合 う。 した が って 、 目頭 の ツ キ タ ツ ル ワ カ ム ロ カ ヅ ネ は、土 を掘 って ム ロ をつ く り、 そ の ム ロの 上 に 上 屋 とな る カヤ 葺 きの屋 根 を建 て る こ と と解 釈 され る。 な お 、 上 記 ム ロ を た ん に閉 鎖 さ れ た 空 間 、竪 穴 で な く平 地 式 の 開 口部 の 少 な い(た とえ ば 出 入 口 の み の)閉 鎖 的 な建 物 を指 す こ と も考 え られ な い で は ない が 、ツ キタツルの ツキが気 にかか る。 次 の 詞 章 に ツ キ タ ツル ハ シ ラハ とあ り、 この 場 合 のハ シ ラ は掘 立 柱 で あ ろ うか ら、 い っ た ん 土 を 堀 って 柱 脚 を穴 に差 し込 ん で 、再 び 土 を埋 戻 して柱 を建 て る こ と を意 味 して い る。 この 場 合 の 土 工 事 の 部 分 が ツ キ(築)に 当 り、 タ ツ ル は い う まで もな く柱 を直 立 させ る こ と を い う。 ツキ タツ ル を こ の よ うに 解 釈 す る と、 ツ キ タ ツ ル ワ カ ム ロ カヅ ネ も、 土 を掘 る(ム ロづ く りの土 工 事)部 分 と、 部 材 の架 構(カ ヅ ネづ く りの建 築 工 事)部 分 が あ る と した い。 引 用 の 祝 詞 は さ ら に次 の よ うにつ づ く。
麓藷 燧
遡 芝二
擁 箱 職 嬢 罐着 ウ箕
嵌軍 竈
当初 の 出 雲 は 、太 い 掘 立 の棟 持 柱 を もつ 伊 勢 神 宮正 殿 を連 想 させ る し、 ま た ニ イ ハ リ(新 墾) や トツ カ シネ(十 握 稻)は 、 社 会 的 背 景 と して の 水 稻 農耕 を展 望 させ る。 2.6ネ ブ キ柱 建 て 構 造 さて 、 こ の詞 章 を建 築 的 に み る と、 次 の こ とに気 付 く。 (1)建 物 を構 成 す る部 材 が ほ とん どす べ て 挙 げ られ て い る。 そ れ らの 部 材 は 、① ハ シ ラ、② ム ネ ウ ツハ リ、 ③ ハ ヘ キ、 ④ エ ツ リ、⑤ ツ ナ カ ヅ ラ、 ⑥ カ ヤ で あ る。 ② これ らの部 材 を建 築 に際 して どの よ うに 扱 っ た か と い う、工 法 が 示 さ れ て い る。工 法 は、 ① ツ キ タ ツル(ハ シ ラ)、 ② トリア グ ル(ム ネ ウ ツハ リ)、③ トリオ ケ ル(ハ ヘ キ)、 ④ ト リ オ ケ ル(エ ツ リ)、 ⑤ トリユ エ ル(ツ ナ カ ヅ ラ)、 ⑥ ト リフ ケル(カ ヤ)で あ る。 すべ て 人 力 で 行 っ た 当 時 の建 築 作 業 に 際 す る工 人 の 行 為 が ひ じ ょ うに具 体 的 に 示 され て い る。 (3)各 部 材 が 上 記 の よ うな工 法(行 為)に よ っ て所 期 の とお り施 工 さ れ る と、各部材 はそれ ぞれ に 固有 な性 状 を示 す 。 そ の性 状 は 、① ハ シ ラは シ ヅ マ 、② ム ネ ウ ツハ リはハ ヤ シ 、③ ハ ヘ キ は ト トノ ホ リ、④ エ ツ リはタ ヒラカ、⑤ ツナ カヅ ラはカ タマ リ、⑥ カヤ はアマ リで あ る。これ らの性 状 は 、コ ノイ ヘ キ ミの コ コ ロや イ ノチや トミの 状 況 祈 願 とか け られ て い る。 (4)最 後 に 、 この 祝 詞 の 流 れ は建 築 工 程 の 流 れ と一 致 して い る 。建 築 工 程 は、① まず 堀 立 柱 を 建 て る、 ② そ の柱(先 端 が 二 股 に な っ て い る と都 合 が よ い)の 上 に棟 梁 を の せ る 、③ こ の 棟 梁 に 向 って 斜 にハ ヘ キ(現 代 の タ ル キ)を 立 掛 け る 、④ この ハ ヘ キ に直 角 に(す なわ ち 水 平 に)エ ツ リ(現 代 の 民 家 に も この エ ツ リな る名 称 は 残 って い る)を お く、 ⑤ ハ ヘ キ と エ ツ リは ツナ カ ヅ ラ で 緊 結 す る、⑥ 最 後 に 、エ ツ リの上 に カヤ を 葺 く。 以上 で ム ロ の 上 屋 は完 成 す る。 以 上 か ら、 この ワ カ ム ロ を図 化 す る と図1-10の よ うに な ろ う。 図1-10ワ カ ム ロ の 構 造 推 定 断 面3角 形 の 屋 根 を地 に 伏 せ た よ う な外 観 を呈 す る ネ ブ キ も、架 構 方 式 か らす る と上 記 の よ う に2通 りの 方 式 が 存 在 す る。 サ ス構 造 と柱 建 て構 造 の2通 りで あ る。 サ ス構 造 は 斜 材(サ ス)と 水 平 材 の み に よ っ て構 成 され る構 造 体 で あ り、柱 の よ うな垂 直 材 は使 用 され な い。とい う よ りは、 サ ス 構 造 の場 合 は垂 直材 を必 要 と し な い構 造 体 で あ る と い うべ きで あ ろ う。 2本 の 丸 太 を組 ん だ1組 の サ ス は 、そ れ 自体 で は 自立 す る こ とは で き な い が 、2組 以 上 のサ ス を ム ナ ギ で繋 ぐ と 自立 す る構 造 体 と な る 。 しか し、 この 場 合 の ム ナ ギ は サ ス 組 を頂 点 の 部 分 で 固 定 す る こ とが 主 目的 で あ るか らア タマ ツ ナ ギ(頭 繋 ぎ)と で もい う方 が適 し い。 一 般 に こ の サ ス 頂 点 部 の 水 平 材 をム ナ ギ と よ ん で い るが 、棟 の とこ ろ に あ る 木 とい う意味 にお い て それ は首 肯 さ れ る もの の 、屋 根 荷 重 を受 け るか 否 か の 観 点 か らみ る とム ナ ギ とは よぴ に くい 。ア タマ ツ ナ ギ が サ ス 組 の 上 に 置 か れ て い るの を み て もこ の こ とは 明 瞭 で あ ろ う。
一 方 柱 建 て の場 合 は、柱 の 上 にム ナ ギ が乗 り、 その ム ナ ギ に斜 材 が 立 掛 け られ る の で 、 い ち お うム ナ ギ は屋 根 荷 重 を受 け る こ とに な る 。 この 場 合 の 斜 材 もサ ス とか ガ ッ シ ョ ウ(合 掌)と か よ ば れ るが 、 ムナ ギ に 力 を伝 え る斜 材 で あれ ば タ ル キ と よぶ 方 が分 りよ い。 そ して こ の場 合 の ム ナ ギ は タ ル キ の頂 点 の 下 に位 置 す る。 資料 に お い て ム ナ ギ と呼 称 され て い る部 材 は 、棟 の と こ ろ に あ る水 平 材 とい った 程 度 の位 置 を 現 わ す 部 材 名 称 で あ り、 構 造 力 学 的 な観 点 か らの 呼 称 で は な い。 以 上 の 観 点 を図 示 す る と図1-11の よ う にな ろ う。 図1-11サ ス 構 造 と タル キ構 造 以 上 の2通 りの 構 造 に つ い て 、 前 出 『日本 の 建 築 』(P,27)に 次 の よ う に あ る 。 この よ うに み て くる と、 古 墳 時 代 の 日本 の 住 宅 は 、 板 敷 切 妻(平 行 垂 木)垂 直 材 で棟 木 を支 え る貴 族 住 宅 と、 土 間 寄 棟(放 射 状 垂 木)サ ス 造 の 庶 民住 宅 の 二 系 統 で あ っ た と考 え られ よ う。 こ こ で は 日本 住 宅 の 流 れ が 、明確 に2系 統 の もの と して把 え られ て お り、縄 文 時代 の 太 古 か ら くる放 射 状 垂 木 構 造(本 論 で い うサ ス構 造)と 、 弥 生 時代 の水 稻 耕 作 伝 来 以 降 の 平 行 垂 木 構 造(本 論 で い う タル キ構 造)が 区別 され て い る。 そ うす る と、 サ ス構 造 は タ ル キ構 造 に先 行 す る架 構 方 式 とい う こ とが で き るが 、 サ ス 構 造 は 、本 来 柱 を必 要 と しな い構 造 で あ る に もか か わ らず 、縄 文 時 代 の住 居 遺 跡 で は 柱 穴 が検 出 さ れ、柱 の 存 在 が 有 力 で あ る。 た だ し、 この 場 合 の 柱 穴 は建 物 平 面 の周 辺 に位 置 し、 ム ナ ギ を支 え る もの で は な い 。 図1-9に み られ る コマ タ とよ ば れ る堀 立 の 短 柱 は、 位 置 及 び工 法(堀 立)か らみ て竪 穴 住 居 趾 の柱 穴 とよ く一 致 す る 。 この 短 柱 が上 に タ テ ケ タ をの せ 、そ れ に ヨ コ ケ タ が わ た る の も 旧来 の 竪 穴 住 居 の 構 造 推 定 と よ く一 致 して い る。 しか し、再 三 述 べ て い る よ うにサ ス構 造 は本 来 的 に柱