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新通知票に対する中学生の反応と絶対評価・相対評価の概念の理解

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(1)Title. 新通知票に対する中学生の反応と絶対評価・相対評価の概念の理解. Author(s). 臼井, 博; 袋, 佑加理; 河内(干場), 京子. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 55(1): 183-194. Issue Date. 2004-09. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/354. Rights. 本文ファイルはNIIから提供されたものである。. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第55巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.55,No.1. 平成16年9月 September.2004. 新通知票に対する中学生の反応と絶対評価・相対評価の概念の理解 臼井 博*・袋 佑加理**・河内(干場)京子***. *:北海道教育大学札幌軋 **:苫小牧市立拓勇小学軋 ***:室蘭市. JuniorhighschooIstudents’reactiontowardthe”new”reportcardandtheir understandingofthetwotypesofevaluationforms一−−absolutevs.relativeevaluation HiroshiUsui(HokkaidoUniversityofEducation,Sapporo) YukariFukuro(TomakomaimunicipalTakuyuelementaryschool) KyokoKawauchi−Hoshiba(inMurorancity). 問 題 小中学校の通知票が2002(平成14)年度からいわゆる相対評価から,絶対評価に変わった.もう少し詳し く言うと,2000(平成12)年12月の教育課程審議会の答申を受けて,翌年の4月に文部科学省から通知が出 され,さらにその次の年の新学期から新たな指導要録による記録が始まったのである.指導要録はそれぞれ の学校内で保存を義務づけられている公文書であるが,この中の情報のかなりの部分をほぼ直接的な形で児 童・生徒や保護者に知らせるものが通知票である.したがって,通知票の各教科の学習の評価はほとんど指 導要録の記載内容を反映してきた.戦後から始まったいわゆる相対評価は,その後多くの問題点を指摘され るが,田中(2002)によると次のような歴史的な意義もあったようである.たとえば,戦前では教師の主観 による絶対評価(認定評価)に陥りやすかったと言われる.そのために,子どもたちは教師の挙動や視線に よる強いコントロールを受け,いわば教師の顔色をつねにうかがうことを強いられてきた.それが相対評価 では評価の規準を正規分布に求めることにより客観性を保持しようとした.その結果,教師とのこのような 束縛的な関係を離れて客観的なテストの点数による競争で評価が決まることは,多くの子どもたちにとって はある種の開放感があったらしい.しかし,その後のわが国の教育評価の歴史をみると,相対評価のシステ ムが含む固有の問題点に対して繰り返し批判を受けることになる.第一は非教育性である.相対評価では成 績の順位に基づくものであるので,7パーセントの子どもには必ず5をつけると同時に1もつけなくてはな. らない.常識的には教育はどの子どもも「できる」ようにすることを目標とすると考えると,はじめから「で きない」つまり1の子どもを決めておくこと自体が非教育的である.第二に,排他的な競争をつねに子ども たちに意識づけ,優勝劣敗的な差別的な考えを持ったり,学校での学習に対して利己的な動機づけに向けさ せやすい.そして第三に,学力の空洞化があげられる.つまり,相対評価とは自分の所属する集団の中の順 位に関する情報であって,具体的にどのような知識やスキルが身についたということが評価に反映しにくい (田中,2002). こうした批判を受けて,すでに1971年の指導要録の改訂では「絶対評価を加味した相対評価」ということ. で5,4,3,2,1の評定段階値を正規分布曲線に機械的に当てはめてはいけないことになった.この後. 183.

(3) 臼井 博,袋 佑加理・河内(干場)京子. さらに1980年と1991年の2度の改訂がなされ,観点別学習状況の欄を設け,各教科の目標の達成状況を評価 する方法の導入を図っている.今回の改訂ではさらにこのことの徹底を目指し,目標に準拠した(到達度) 評価を特に強調している.この評価の方法を「絶対評価」と呼び,悪名高い相対評価と対比的に扱おうとし ているように見える.しかし,依然としていくつかの問題がまだ残っている.一つの問題は,絶対評価イコー ル到達度評価だといわれても,絶対評価の言葉そのものが一人歩きをして,その意味するところは教育関係 者にとっても,保護者にとっても共通理解がなされていたとは言い難い.同様なことは,教育系大学に学ぶ 大学生にとっても同じかもしれない.相対評価の概念もよく理解されているかどうか疑問であるが,少なく とも次のような点で絶対評価の概念の方が理解しにくいところがありそうである.たとえば,東(1979)は 相対評価の対立概念として比較的安易に用いられていると警告している.長さや重さが「ゼロ」といえば, 長さも重さも「ない」状態というようにいわば絶好的に決めたポイントがある.ところが,人の能力では計 算のテストで点数がゼロだとしても,その人の計算力が「ゼロ」であることを示すものでは決してない.こ のように「絶対」という概念そのものが,個人の能力の評価にとってのなじみにくさがある. また,目標に準拠した評価とか,設定した目標にどれくらい到達したのかに即して評価するのが絶対評価 だといわれても,特定の単元の目標の設定がその教科のカリキュラムの中の目標のシステムの中でどのよう な位置づけがなされているのか,また子どもにとってもそうした目標がどのような意味があるのかについて 知っていることが必要である.さらに,到達したかどうかの判断そのものが教師の主観に基づくことから, 寛大傾向やハロー(光背)効果などの心理学の評定法の恒常誤差が働く可能性が高い.これとゆとり教育に 対する批判とが結びついて,絶対評価に対する逆風も出てきている(田中,2003). この新しい通知票,つまり絶対評価による通知票の導入前後の状況を伝える新聞記事から少し拾ってみよ う.絶対評価では個々の子どもが学習目標をどの程度達成したかどうかで評価し,その評価の基準作りが各 学校に委ねられてきた・しかし,それが十分に完成しないままに見切り発車した感が強い.たとえば,新指 導要録(新通知票)の巽施の2002年の約一月前の2月28日に国立教育政策研究所が各学校が参考にすべき指 針を公表し,評価の客観性を保つために判断基準を教貞の間で共有し,子どもや保護者にも説明するように 求めている(朝日新聞,2002.03.01).このように実施ぎりぎりになっても判断基準が確立した状態にはなっ ていなかったこと,そして現場の中でも,子どもや保護者の側でも不安や混乱があったことを物語?ている. ところで,1学期が終わり新しい通知票を受け取った子どもたちはどのように感じたのだろうか.同年の. 7月20日付の記事では「通知票,初の絶対評価 子ら好意的に受け止め 公立校終業式/高知」の見出しの もとに,「中学校の生徒らは,今年度から始まった絶対評価方式による通知票を受け取った.全員が『オー ル5』も理論上は可能な成績評価方式に,内申書を作成する教師側からは不安の声が強かったが,『納得で きる評価』と喜ぶ子どもたちが多かった.絶対評価方式は,教科ごとの目標に対し,生徒それぞれがどれほ ど到達できたかによって成績を判断するのであらかじめ成績ごとの配分率を設ける従来の相対評価よりも, 正しい評価が期待できるとされ『授業に積極的に参加すれば,テストが良くなくても成績が上がった』『納 得できた』『やる気が出てきた』などと好意的に受け止めて†、た.」(朝日新聞)と好意的に書いている.そ の一方で現場教師の側の不安についても言及している. 「教師からは『粋がなくなり,頑張った子をきちんと評価できるのは賛成だが,うちの評価基準が他校の と追っていたらという不安がある』『しっかりした評価基準を設けないと,内申書に意味がなくなるのでは』 という声が出ていた.」(同新聞) そして,しばらくたち通知票の評価についての基準をめぐる不安が現実の問題となって浮かび上がってい る.一つは相対評価の時に比べて甘くなりやすい,つまり恒常誤差で言う寛大傾向の誤差が働きやすいとい う指摘である.たとえば,愛知県の例をあげてみよう.. 184.

(4) 新通知票に対する中学生の反応と絶対評価・相対評価の概念の理解. 「愛知県の中学校で絶対評価が相対評価に比べて高めになる傾向が,1学期より2学期でさらに顕著になっ ていることが,業者の模擬試験を受けた中学3年生のデータでわかった.同県でも来春の高校入試から,調 査書の評定(内申点)に絶対評価が導入される.今回の調査結果に,教育関係者から「思ったより評価にば らつきがある」「過渡期ゆえの混乱」といった声が出ている.‥・通知表の合計点(9教科5段階評価で45 点満点)を二つの評価方法で比べたところ,『相対』より『絶対』の方が高かった生徒は,1学期には全体. の60%だったが,2学期は64%に増えた.絶対評価の合計点の方が2点以上高かった生徒の割合も,1学期 の38%から2学期は42%となり,絶対評価の成績は,1学期以上に高めになっていた.」(朝日新聞, 2003.02.08). 次の例は一部の中学校の評価の偏りが懸念されたために,県教委が改善指導に当たっている. 『小中学校の絶対評価,県教委が改善指導 共通理解欠く学校も/埼玉 県内の小中学校で今年度導入された通知票の、絶対評価で,一部の中学校の評価に偏りが懸念され,県教委 が改善指導していたことが10日の県議会一般質問で明らかになった.・‥一部で「5」が過度に多かった り,「1」をつけなかったりした学校があったため,県教委は10月未,各市町村教委に対し「再調査が必要 と思われる中学校を訪問し,評価方法などを確認する」よう依頼した. この結果,一部の学校で,教員間で評価方法についての共通理解が図られていなかったり,各授業時間ご との評価計画が作成されていなかったりしたという.』(朝日新聞,2002.12.11) さらに,絶対評価に対する逆風は意外にも生徒の側からも出てきている.栃木県の県立高校の理科の教師 が3年生約40名に調査したところ,4分の3が相対評価を支持したという.県立の進学校の多くが学力試験 をより重視し,内申書の比重を下げる動きがあるが,「絶対評価による調査書では中学校間の格差が出やすく, 公正さを欠く」と高校側でみているからである(朝日新聞,2002.12.22). 最後に今回の指導要録の改訂を受けた新しい通知票の目指すものをもう一度確認してみよう.この通知票 では,努力がより報われることを目指しているように思われる.通知票の成績は個人間の競争に基づくもの ではないので,自分の努力がよりストレートに成績に反映されやすいからである.また,目標にどの程度到 達できたかどうかのフィードバックであるので,何がわかったか,どこがわからなかったか,できなかった のかがわかる.換言すると,学習の内容や学習材料の習得に即して客観的に自分の学習状況を判断できるこ とになる. その一方で,教育目標の設定それ自体が指導する教師の間で違いが生じやすいし,できたかどうかの判断 も教師にゆだねられるわけであるから,極端な場合には戦前のような教師の主観的な判断に基づく「絶対評 価」(認定評価)になってしまう危険性も無視できない(梶田,2002).このことについて,田中(2003)も 絶対評価という用語が過去には「認定評価」「個人内評価」「目棟準拠評価」の3つの意味で使用されてきた ことのために,その意味の解釈に混乱があることを指摘している. ともあれ,いわゆる絶対評価に基づく新しい通知票に対して,中学生たちはどのような受け止め方をした. のだろうか.また,絶対評価と相対評価についての概念や知識の習得を発達的にみるとどうなっているのだ ろうか.この報告では,次の二つを目的とした. ① 新しい通知票に対して中学校の生徒はどのような反応をするのだろうか. ・以前の通知票(いわゆる相対評価)と比べて,どのような点がプラスであり,マイナスであるととら えているのだろうか. ・学年の進行に伴い生徒の通知票に対する認知的評価はどのように変化するのだろうか. (② 相対評価と絶対評価に対する知識の発達. ・相対評価と絶対評価の概念についての理角牢は学年進行に伴いどのように変化するのだろうか.. 185.

(5) 臼井 博・袋 佑加増巨河内(干場)京子. 方 法 対象者 札幌市内の公立中学校3枚の1,2,3年生であり,学年および性別の内訳は表1に示すとおりである. なお,この3校は札幌市のできるだけ代表性のあるサンプルを得るためにすべて異なる地域(区)にあるよ うにした. 表1 対象者の学年と性別の内訳(かっこ内は%). 手続き いわゆる「絶対評価」に基づく新通知票になった2002年12月に調査を実施した.この時期を選んだのは, 新しい通知票を1学期に受け取り前の通知票との比較が可能であり,かつそれから敷か月が過ぎ2度目の新 しい通知票を受け取る直前であり通知票に対する関心が増すとともに,ある程度客観的に以前の通知票との 比較ができる頃だと考えたからである. 実施の方法は,『学習と評価についての調査』という質問紙を学級担任の教師に学級単位で行った.質問 紙の構成としては,①前の通知票と比べて今の通知票についての感想,②相対評価と絶対評価についての知 識,③勉強(学習)の目的認知の3つの部分からなっている.. 結果と考察 1.新通知票に対する感想 生徒たちは新しい通知票を受け取って,どのような感想を持ったのだろうか.そして,以前のものと比べ てどのような違いを感じているのだろうか.. 1.1 全体傾向 表2 新通知票に対する生徒の印象 項. 目 一 内. 容. 平均値 標準偏差. 1.自分のがんばりがよく評価された. 3.37 0.97. 2.前より公平な感じがする. 3.38. 3.具体的に何をがんばればよいかわかるようになった. 3.34. 1.13 1.06. 4.自分の良さがわかるようになった. 3.04 0.98. 5.今の評価になったことで前よりもやる気が出た. 3.31. 1.22. 6.今の評価になったことで前よりも成績が上がったと思う. 3.37. 1.24. 7・自分が予想していた成績と実際の成績が一致していた. 2.89 1.08. 8.どれくらいできれば5(4,3,2,1)がつくのかの評価基準がわかりやすくなった 3.25 1.21 9.自分がどのくらいできるのかがわかった 10.今の評価のしかたに満足している. 186. 3.42. 1.03. ・18ト1,24.

(6) 新通知票に対する中学生の反応と絶対評価・相対評価の概念の理解. 上記表2から新通知票に対する感想の10項目それぞれに対する生徒の反応の全体的な傾向をまず見てみよ う.ここでは各項目に対して「全く当てはまらない(1)」「あまり当てはまらない(2)」「どちらともいえない(3)」 「少し当てはまる(4)」「よく当てはまる(5)」の5件法で回答を求め,1から5に得点化した.その平均値を 項目ごとに示した(表2). この表2を見る限り,新しい通知票が従来のものと比べて日立って違ってはいないと受け取っているよう であるが,わずかであるが肯定的な反応が多くなっている.次に,この10項目について肯定的な反応(「よ く当てはまる(5)」と「少し当てはまる(4)」の合計%)と否定的反応(「全く当てはまらない(1)」と「あまり. 当てはまらない(2)」の合計%)を算出して図示した(図1). 肯定的な反応が否定的な反応に比べて際だって多いのが9(自分がどのくらいできるのかわかった)であ り,新通知票の特徴である到達度についてかなり明確に伝えられているようである.また,1(自分のがん ばり),2(前より公平),3(何をがんばればよいかわかるようになった),5(前よりもやる気が出た),6(前 よりも成績があがった),8(評価基準がわかりやすくなった)と6項目で肯定的な反応が20%以上も否定的 な反応を上回っている. これに対して,4(自分の良さがわかった)では新旧の通知票の間でほとんど違いがなく,7(予想と実際 の成績の一致)では否定的な反応の方が多くなっている.. 1.自分のがんばりがよく評価された 2.前より公平な感じがする 3.何をがんばればよいかわかるようにな 4.自分の良さがわかるようになった 5.前よりもやる気が出た 6前よりも成績が上がったと思う. 7.予想と実際の成績が一致していた 8.評価基準がわかりやすくなった 9.自分がどのくらいできるのかがわかっ 10.今の評価のしかたに満足している 0. 10. 20. 30. 40. 50. 60. %. □当てはまる 団当てはまらない 図1新通知票に対する肯定的な反応と否定的反応(中学生全員,N=656) これらのことから,生徒たちは全体に新通知票に対して肯定的な受け止め方をしている.特に,新通知票 の目指すところに関して生徒たちは好意的に受け止めているように見える.これは学校側で新通知票の導入 に際して事前にかなりていねいに生徒たちに説明をしていることを物語っているのではなかろうか.. 1.2 学年による違い 次に,10項目の新通知票に対する印象についての肯定的な反応の%について,学年ごとにまとめた(図2). 6(前よりも成績が上がった)では3年生の肯定的な反応の比率が非常に高く,59.9%にも達している. このほかにも1(がんばりが評価された:48.7%),5(前よりもやる気が出た:57.0%)が半数を超えるか, それに迫っている.1年生では9(どのくらいできるのかわかった:61.2%)が目立って多い.半数近い肯 定率では1(がんばりが評価された:45.7%),10(今の評価のしかたに満足:44.8%)である.肯定率は高. 187.

(7) 臼井 博・袋 佑加理・河内(干場)京子. 1.自分のがんばりがよく評価された 2.前より公平な感じがする 3.何をがんばればよいかわかるようにな 4J自分の良さがわかるようになった 5罰よりもやる気が出た. 6.前よりも成績が上がったと思う. 7.予想と実際の成績が一致していた 8.評価基準がわかりやすくなった 9.自分がどのくらいできるのかがわかっ 10.今の評価のしかたに満足している. 図2 新通知票に対する肯定的な反応の学年比較 くはないがほかの学年の比べて高いのは4(自分の良さがわかるようになった:39.0%)である.また,2 年生で肯定率が比較的高かったのは2(前よりも公平:49.1%)と6(前よりの成績が上がった:47.7%)の 2項目であった.. ここで,学年を独立変数とする一要因の分散分析をおこない,その後で,最小有意差(LSD)による posthocの群間の検定をおこなった.分散分析の結果,有意な主効果がみられたのは10項目中6項目であっ た.. 1 自分のがんばりがよく評価された(F=6.13,df=2,p<.01:1年生>2年生,3年生>2年生) 4 自分の良さがわかる(F=9.54,df=2,p<.01:1年生>2年生&3年生) 5 前よりもやる気が出た(F=11.51,df=2,p<.01:1年生>2年生,3年生>2年生) 6 前より成績が上がった(F=9.74,df=2,p<.01:3年生>1年生&2年生) 9 どのくらいできるのかがわかった(F=4.64,df=2,p<.01:1年生>2年生&3年生) 10 今の評価法に満足(F=8.32,df=Z,p<.01:1年生ゝz年生&3年生) 多重比較で有意な学年差があったペアは,1年生>2年生が5項目,3年生>2年生で3項目,1年生> 3年生で3項目,その道の3年生>1年生で1項目であった.また,10項目のそれぞれの項目同士の相関が すべてプラスで有意であったので,各項目の標準得点を合計して新通知表に対する全体的な肯定的態度とし て,学年を要因とする分散分析をおこなったところ,有意な学年の違いが見られた(F=5.02,df=2,. p<.01).下位グループ間の多重比較では,1年生(0.60(6.13),n=195)>2年生(rl.17(6.32),n=207), 3年生(0.49(6.70),n=217)>2年生で有意差があったが(数値は各学年の平均値(標準偏差)と対象者 数),1年生と3年生の間には有意差は認められなかった.これらのことより,今回の通知表に対しては1 年生と3年生が2年生に比べて好意的な態度を示していることがわかる. 全体傾向として3年生がもっとも好意的な認知をしているのはなぜだろうか.通知票の評価点は内申書の 評価点と同一と見てよいだろうから,これがそのまま高校受験の時の内申書に反映される.中学校の教師た ちは,自分の学校の生徒たちがほかの学枚の生徒たちよりも内申書で不利になることにもっとも気をつかう ために,寛大傾向の誤差がより生じやすいのではなかっただろうか.また,3年生は自分のがんばりがよく. 188.

(8) 新通知票に対する中学生の反応と絶対評価・相対評価の概念の理解. 評価されることについてもほかの学年よりも高く評価しているし,2年生よりも自分の良さがわかり,やる 気が出たととらえている.高校受験を目前にした3年生ではほかの学年の生徒よりも,内申書にストレート に影響する通知票の結果により強い関心を持つようになるとともに,学年の教師たちが生徒たちの不安を抑 えるために新通知票のプラス面,特に個性を重視し,努力の価値が強調されていることをいろいろな機会に 伝えたのかもしれない. また,3年生に次いで1年生が高いのはどのような理由からであろうか.小学校では担任がすべての教科 について評価を行うので,いわゆる光背効果が働きやすくなる.特に,一般的には6年生の担任は5年生の 時も担任であることが多いので,個々の子どもについての深い理解ができる反面,それぞれの子どもに対す る固定的な評価にもつながりやすい.その結果,子どもの視点からすると自分が努力したり,それなりの成 績を上げても担任の教師は気づいてくれないと見る子どもは少なくないかもしれない.中学校では教科ごと にすべて教える先生が異なるので,こうした評定の誤差が働くことは小学校よりも少なくなる可能性が高い. 生徒にとっては,自分のがんばったところや良さについて中学校の先生の方がより敏感に評価してくれる見 やすいのではないか.このことが,自分の良さがわかると感じたり,やる気が出たり,到達度がわかりやす かったり,全体としての通知票に対する満足感が高くなっているのかもしれない.. 1.3 性 差 一般に男子に比べて,女子の方がいわゆる「努力型」が多いといわれる.つまり,日常的にこつこつと勉 強する傾向である.また,平常点に含まれる提出物を期限内にきちんと出す,ていねいな作業や仕事をする なども点においても女子の方が有利だと思われる.そう考えると,努力が報われるタイプの通知票では男子 よりも女子の方が好意的に受け取るのではないかと予想できる. 下の図3は,「よく当てはまる」と「少し当てはまる」の両方を合計した%であり,それぞれの項目に対 する肯定的な反応である. 図3を見ると,項目7と8を除く8項目ですべて女子の方が肯定的に評価する傾向が高いことがわかる. 実際に性別を要因とする分散分析をおこなうと,主効果があったのは次の4項目であった.. 1.自分のがんばりがよく評価された 2.前より公平な感じがする 3.何をがんばればよいかわかるようにな 4.自分の良さがわかるようになった 5.前よりもやる気が出た 6.前よりも成績が上がったと思う. 7.予想と実際の成績が一致していた 8.評価基準がわかりやすくなった 9」∃分がどのくらいできるのかがわかっ. 10.今の評価のしかたに満足している 0. 10. 20. 30. 40. 50. 60. %. □男子圏女子 図3 新通知票に対する肯定的反応の男女比較. 189.

(9) 臼井 博・袋 佑加理・河内(干場)京子. 1(自分のがんばりがよく評価された)(F=8.31,df=1,p<.01:Ma=3.26(0.99),Fe=3.48(0.93)), 2(前より公平な感じがする)(F=5.70,df=1,p<.02:Ma=3.28(1.26),Fe=3.49(1.21)), 6(前よりもやる気が出た)(F=5,49,df=1,p<.02:Ma=3.26(1.10),Fe=3.49(1.21)), 7(予想と実際の成績が一致いていた)(F=4.75,df=1,p<,03:Ma=2.80(1.14),Fe=2.98(1.00)) であり,いずれにおいても女子の方が当てはまる程度において高く感じていた.しかし,10項目の標準得. 点の合計では性差による有意な違いは見られなかった.(F=1.16,df=1,n.S.:Ma=−0.29(6.67), Fe=0.26(6.17))(Ma,Feは男子,女子の平均値(標準偏差)). 今回の通知票に対しては,男子に比べると女子の方が日常的な努力がより影響力を持つととらえられやす い見ている.そのために,子どもの予想と実際の成績とのずれが少なく感じるし,公平感が以前よりも増し て,やる気も出てきたというように女子の方が好意的にとらえる傾向がある.. 2.相対評価と絶対評価についての理解 2.1 全体傾向 生徒たちにはいわゆる「絶対評価」「相対評価」という概念がどのように理解されているのであろうか. いくつかの教育評価に関する教科書など(東,1979;梶田,2002;鎌原・竹綱,1999;多鹿,2001)の記述 を参考にして相対評価あるいは絶対評価(到達度評価)の特徴について次の18項目を作成した(表3).そ れぞれの特徴を表す項目が9項目ずつからなっている.表の中で絶対評価に関する項目は(A)となってい る.. 表3 絶対評価と相対評価に関する項目内容. 回答は,「絶対に絶対評価だと思う」を1,「どちらかといえば絶対評価だと思う」を2,「どちらとも言 えない」を3,「どちらかといえば相対評価だと思う」を4,「絶対に相対評価だと思う」を5というように コード化した.そこで絶対評価の特徴に関する項目では,回答のコードの1,2とその累積%を,相対評価 に関する項目では4,5とその累積%を正答率として難易度順に並べて図4として記す.. 190.

(10) 新通知宗に対する中学生の反応と絶対評価・相対評価の概念の理解. 9A.客観的な基準が決まっている. 8A.評価の基準は学校ごとに任されている 18.小人数の集団の評価には適さない 17A.評価をする人の主観が入りやすい 12A.目標の達成度の判断基準が必要である 15A.達成すべき目標が決まっている 16.自分がどのくらいの位置かの情報を与える 13.他の人の成績も上がると評価が変わらない. 4A.自分がよければそれだけよい評価がつく 1A.目的を達成したかどうかで成績が決まる 5.クラスや学年の中の順位で成績が決まる. 14.自分の結果だけでは成績が決まらない 11.人よりよくなければよい成績がつかない 7A.努力が成績としてそのままあらわれる 2.他の人との比較で自分の成績が決まる 10.「1」のつく人が必ずいなくてはならない 3.全長が5であったりすることがありえる. 6.5や4などの人数の割合が決まっている 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 正答率(%). 図4 絶対評価と相対評価に関する項目の正答率 一目してわかるように,雛易度の高い項目,換言すると正答率の低い項目は大半が絶対評価に関するもの である.具体的に言うと,雉易度の高い上位9項目のうち絶対評価に関する項目がその3分の2を占めてい る.9(成績をつけるための客観的な基準が決まっている)については,正答率はわずか22.4%にすぎない. また,8(評価の基準は学校ごとに任されている)が37.0%で絶対評価である.これに対して,相対評価の18 (少人数の集団の評価には適さない)も40,0%というように低い.その反面,正答率の高いものでは,6(5 や4の人数の割合ははじめから決まっている)が77.4%,3(全貞が5であったり,1がいないことがあり 得る)が76.4%,10(1がつく人が必ずいなければならない)が75.6%,そして2(他の人の成績の比較で自 分の成績が決まる)が71.6%と7割を超えている.ここでは,3だけが絶対評価に関するものである. 絶対評価と相対評価のそれぞれ9項目の正答数の合計の平均 値を図5に示す.ここでは,「絶対に」あるいは「どちらかと いえば」で関連する評価タイプのいずれかを選んでいれば,1 と得点化し,「どちらとも言えない」と誤った評価タイプの特 徴として「絶対に」あるいは「どちらかといえば」を選んだ場 合には0と得点化した.絶対評価,相対評価に関する項目はそ れぞれ9ずつあるので,すべてに正答すれば9点である.絶対 評価の項目の正答数は,平均しておよそ半分であり,相対評価. 全体の正答数よりも1項目分以上も低く,有意差があった (t=一11.18,df=483,p<.01).しかし,この両者の間の 相関は.63(p<.01)であり,かなり高くなっている.中学生 絶対評価 図5 正答数. 相対評価. においては一般に絶対評価の概念の理解の方が難しいが,双方 の評価の概念に関する知識はかなり関連性が強いことも確かで ある.. 191.

(11) 臼井 博・袋 佑加理・河内(干場)京子. 飢.客観的な基準が決まっている 18.少人数の集団の評価には適さない 4A.自分がよい点を取ればよい評価がつく 肌.評価の基準は学校ごとに任されている 12A.目標の達成度の判断基準が必要 15A.達成すべき目標が決まっている 13.他の人もあがれば自分の成績は変化な 17A.評価する人の主観が入りやすい 16」∃分の集団内の位置の情報を与える 1A.目的達成の程度で成績が決まる 5.クラスや学年の順位で成績が決まる 11.他の人よりよくなければ、よい成績がつ 14.自分一人の結果だけで成績が決まらない 肌努力の成果がそのまま成絹にあらわれ Z他の人の成績の比較で自分の成績が決ま 10.1のつく人は必ずいなければならない 3A.全員が5や、1がいないこともある 6,5や4などの人数の割合は決まっている 0. 1. 2. 3. 4. 判断の正確度(5=絶対に・・). 図6 絶対評価と相対評価のそれぞれの項目に対する判断の正確度 また,それぞれの項目に対して「絶対に絶対評価だと思う(1)」から「絶対に相対評価だと思う(5)」までの 5件法で答えてもらっているのだが,生徒の絶対評価あるいは相対評価の判断の正確度についても分析した. 相対評価項目では,正確度はそのままの1から5の得点化を行ったが,絶対評価項目に関しては得点の逆転 を施した(図6). 結果は,図、4とほとんど同じであり,「5や4などの人数は決まっている」と「1のつく人はかならずい なければならない」のは相対評価の特徴であるという判断に関しては平均4.27と4.04であり,かなり確信を 持って正確に判断している.その道の評価点ごとに配分される人数は固定化しないという項目3も4.21と高 い.このような相対評価に関する特徴は学校の中だけではなくと、も,日常的に偏差値という言葉がよく使わ れる文脈でよく出てくるのであろうか.しかし,同じ相対評価に関することであっても,「少人数の集団の 評価には適さないことがあるq射では正答率も低かったし,判断の正確度も低い.生徒たちにすれば,実際 には一つのクラスの中でも偏差値が使われることもあるので,小集団という意味がよくわからなかったのか もしれない.. 2.2 学年による違い まず,絶対評価と相対評価に関するそれぞれの項目に対する正答率について見てみよう.学年の要因で分 散分析をおこなうと,絶対評価の9項目の中で6項目が有意であった.相対評価に関しては,7項目で有意 であった(図7).最小有意差により多重比較をおこなうと,3年生>1年生のペアで11項目(絶対評価で5,. 相対評価で6),3年生>2年生のペアで9項目(絶対評価で3,相対評価で6),2年生>1年生のペアが 2項目(相対評価:6と13),2年生>3年生のペアが1項目(相対評価:13)であった.2年生が1年生 と3年生よりも正答率が高い3項目を除けば,3年生が1,2年生に比べて正答率に関して学年の主効果が あったすべての項目で上回っていた.とくに,絶対評価に関して有意差があった6項目においてはそのすべ ての項目で3年生が1,2年生よりも正答率が有意に高かった.このことは相対評価でも共通していて,項. 192.

(12) 新通知票に対する中学生の反応と絶対評価・相対評価の概念の理解. 2.他の人との比較で自分の成績が決まる 3.全員が5であったりすることがありえる 5クラスや学年の中の順位で成績が決まる 6.5や4などの人数の割合が決まっている 8A.評価の基準は学校ごとに任されている 9A.客観的な基準が決まっている 10.「1」のつく人が必ずいなくてはならない 12A.日練達成度の判断基準が必要である 13.他の人の成績も上がると評価が変わらない 14.自分一人の精巣だけでは成績が決まらない 15A.達成すべき目標が決まっている 16.自分がどのくらいの位置かの情報を与える 17A.評価をする人の主観が入りやすい. 図7 学年で有意差のあった項目の正答率 目13を除く7項目の中で実に6項目までが 3年生の正答率が最も高くなっている.こ れらのことから,二つのタイプの評価に関 する知識は3年生になって急速に習得が進 むことがわかる.. 最後に,絶対評価と相対評価のそれぞれ 9項目の正答数の合計について,学年の比 較をしてみよう(図8).学年を問わず, つねに相対評価の方が絶対評価よりも正答 1年生. 2年生. 図8 正答数の学年比較. 3年生. 数が多くなっている.また,発達的に見る と2年生から3年生にかけての増加が見ら れる.実際に学年を要因とする分散分析を. おこなうと,絶対評価と相対評価の双方とも有意であった(F=3.88,df=2,p<.02:F=5.75,df=2, p<.01).また,最小有意差法による学年間の多重比較でも双方とも3年生>1&2年生で有意であった.. 結論と今後の課題 1.絶対評価と相対評価の概念の理解の難しさの違い 既に何度もふれてきたように,中学校のいずれの学年のおいても相対評価に比べると絶対評価の特徴につ いての理解が低くなっている.その理由について少し考えてみよう.一つは,新通知票の導入から日が浅い ことで絶対評価の考えについてはまだなじみが少ないことによるのかもしれない.第二に,絶対評価の概念 の複雑さがあるかもしれない.相対評価はテストの内容とはあまり関係なく,個人間の順位に基づく点で単 純で,わかりやすい.それに比べて,客観的な基準の設定が必要なこと,その基準は学校ごとで決めること, あくまで設定した目標に照らして各自がどれくらい到達したのかなどの絶対評価に関する特徴は一見すると. 193.

(13) 臼井 博・袋 倍加理・河内(干場)京子. 相互に関係がなさそうに見える. しかし,その反面努力が報われやすいとか,がんばって目標を達成すれば誰でも5をとれる,というよう なことはよく理解されている.同様に相対評価に関することでも,サンプリングのバイアスに注意すべきこ となどはあまりよく理解されていない. また,絶対評価の概念の複雑さについては,そのワーディングの困難さにも反映している.絶対評価に関 する特徴のひとつの客観的な基準があることでは「相対評価」に関することだと判断した生徒が22.4%もい た.それに対して,「絶対評価」だと考えたのは27.9%であり,かなり接近している.そして,半数(49.8%) の生徒が「どちらとも言えない」と答えている.生徒の視点に立って考えてみると,「客観的な基準」は成 績の処理やテストの採点の手続きだと思ったのかもしれない.要するに,教師の主観で窓意的にテストを作っ たり,その採点をしてはいけないことでは,絶対評価も相対評価も同じだと考えたのかもしれない.. 2.発達的な変化について 新通知票に対する感想では,3年生がもっとも好意的に受け止めていた,通知票の各教科の成溝の記載内 容はそのままストレートに高校受験のための内申書に反映しているので,この学年の生徒たちが新通知票に 対してもっとも関心が高いのは当然である.問題のところで述べたように新しい通知票の導入をめぐっての 新聞報道によると,評価基準の客観性についてその保証が十分ではなかったために,評価が甘くなる傾向が 強いことが指摘されていた.この研究でも3年生の6割が「前よりも成績が上がった」ことを肯定していた. その割合は2年生では半分に達していないことから,卒業学年の生徒に対しては教師の側でやはり特別の意 識が働いたのかもしれない.このように3年生に対してわずかであろうが,寛大に評価した可能性はあるが, 3年生の生徒たちは他の学年の生徒たちに比べて「前よりもやる気が出た」と感じる割合も15%から20%も 高くなっている.1年生も比較的好意的に受け止めているのは,既に述べたように一人の担任教師がすべて の教科の評価を行う小学校に比べて,教科担任制をとる中学校の方が生徒自身の伸びや努力に対してより敏 感に評価できるためかもしれない.1年生の反応には教科担任システムのメリットが出ているかもしれない が,このことについてはさらに詳細な検討が必要であろう.また,2年生の好意的な態度が最も低いことも 気になることである,学校適応に関する調査研究でも2年生に落ち込みが出やすいという印象を持っている が,これについても十分な検討が必要であろう. また,絶対評価と相対評価の概念の理解問題の正答数で見ると1年生と2年生では本質的に変化は見られ ないが,3年生になると双方の概念の理解とも急速に進んでいる.今回の調査では12月であり,高校受験を 目前にした時点であった.たとえば,1学期であったらこのような学年の違いが出たであろうか.今後は1 学期から2学期にかけての短期的な縦断データで変化の様相についてより正確に把墟することが課題であ る.. 引用文献 東 洋1979 子どもの能力と教育評価 東京大学出版会 梶田叡一 2002 教育評価(第2版補訂版) 有斐閣 鎌原雅彦・竹綱誠一郎1999 やさしい教育心理学 有斐閣 多鹿秀継 2001教育心理学−「生きる力」を身につけるために− サイエンス社 田中耕治 2002 指導要録の改訂と学力問題一学力評価論の直面する課題,三学出版 田中耕治 2003 「目標に準拠した評価」の世界を拓く一基礎概念の吟味を通じて−,指導と評価,VOl.49,7,38−41. 194.

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参照

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