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外国人散在地域の高等学校におけるJSL生徒の状況と課題 : 「見えにくさ」を超えるために必要な視座

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(1)

外国人散在地域の高等学校におけるJSL生徒の状況

と課題 : 「見えにくさ」を超えるために必要な視

著者

齋藤 昭子

雑誌名

言語科学論集

18

ページ

89-100

発行年

2014-12-01

URL

http://hdl.handle.net/10097/58226

(2)

外国人散在地域の高等学校における

J

S

L

生徒の状況と課題

一「見えにくさ」を超えるために必要な視座ー

粛 藤 昭 子

キーワード.外国人散在地域、JSL生徒、高等学校、問題の可視化、「見えにくさ」 要旨 外国

λ

散在地域の山形県の調査を通し、高等学校に学ぶJSL生徒の「見えにくさ」 が進行していることがわかった。JSL生徒の「見えにくさ」は複層的であり、JSL生 徒であることに気づかない「見えない」レベルと、.JSL生徒であることは認識してい ても「問題を見ょうとしない」、または「見ているつもりで見えていない」というレ, ベルがある。課題解決のためには、問題の原因を「個人化」することなくJSL生徒一 六ひとりの課題を見極める視座が不可欠と考える。

1

.

問題の所在と研究の目的

1

-1.

「散在地域」の外国人児童生徒の問題の本質 外国人散在地域(以下「散在地域」)においては、その多くが在籍人数

5

人未満の少数 在籍校であり、外国人集住地域(以下「集住地域」)の学校に比べ、日本語指導などの支 援体制の構築の遅れが指摘されている。 山崎・他(2009)では、「散在地域」である富山県の状況について、「外国籍年少者」も 支援者も点在しており、問題の共有化が難しく、支援をどのような形で充実させてい くのかが課題であると述べている。また、土屋・内海(2012)においては、「散在地域」の 課題として、外国人児童生徒の支援が特定の教員にゆだねられるために教員同士の 連携が生じにくく、問題が理解されない状況が続くこと等を挙げている。その他の先 行研究においても、地域によって事情は様々であるが、「支援者・指導者の連携・ネッ トワークの不足」という共通項が読み取れる。つまり、「散在地域Jの問題の本質は「外 国人児童生徒が散在していること」ではなく、「支援者」が「散在」しており、子どもた ちを取り巻く大人たちの問題意識が共有されにくいというところにあると考えられ る(園田・他2009。)

(3)

90 外国人散在地域の高等学校におけるJSL生徒の状況と課題 −「見えにくさ」を超えるために必要な視座ー

1-2.問題意臓の共有の重要性

「大人たちの問題意識の共有」の重要性は、特別支援教育と対比させることにより 一層明確に捉えられる。特別支援教育は、「少数者を対象とした教育」という点におい て、外国人児童生徒の教育と共通点をもっ。特別支援教育においては、2007年に以前 の「特殊教育」から呼称が変わり、またその主要な教育理念が、ノーマライゼーション からインクルーシブ教育へと変遷する中で、人数の多少に関わらず「個別の教育的 ニーズ」を満たす必要性が認識されつつある(高橋・松崎2014)。小学校、中学校、高等 学校のいずれの校種においても、特別支援教育は学校全体で取り組むべき課題とし て位置づけられており、該当生徒が少数でも必要な「特別支援」を行うのは当然とい う意識が教員問で共有化されつつある。 「散在地域」の外国人児童生徒の問題についても、「人数が少ないこと」はその主た る要因ではあるものの問題の本質ではない。子どもたち一人ひとりに必要な支援、指 導をしていくという周囲の大人たちの問題意識の共有が課題解決のためには不可欠 であり、その学校と地域を含めた社会全体の意識の醸成に帰する問題であると考え る。

1-3.「散在地域」の高等学校の状況と螺題

「散在地域」の外国人児童生徒の問題の中でも、特に高等学校に学ぶ生徒について は最も研究が遅れている分野のひとつである。「散在地域」の先行研究の多くが小中 学校を対象としたものであり、「散在地域」の外国人高校生の状況と課題はほとんど 明らかになっていない。筆者はこのような状況に鑑み、「散在地域

J

である山形県の高 等学校のJSL(=Japaneseas a Second Language)生徒の状況を把握するため、2003年

から3回にわたって調査を実施した(粛藤2004、務藤2005、園田・他2009。)文部科学省 では、全国の公立学校を対象に「日本語指導カ子必要な児童生徒の受入れ状況等に関す る調査」(以下「文科省調査」)を実施しているが、山形県の調査の結果、高等学校にお いては「文科省調査」のデータで示されている人数より も多くの日本語指導が必要な 生徒が潜在している可能性が見出され、教員・支援者同士のJSL生徒に関する問題意 識の共有の重要性について指摘した。

1-4.研究の目的

「散在地域

J

の問題を解決するためには、「問題を解決するための具体的な方策の提

(4)

案」(日本語指導の教材や方法、支援体制の構築の仕方などの情報提供、方法論の提示 等)とともに、「大人たちの問題意識の共有を目指し、問題を可視化すること

J

の双方 が必要と考える。両者は別々のものではなくそれぞれ絡み合って構築されていくも のであるが、「散在地域」においては特に後者が重要であると考える。よって今回は、 山形県の高等学校を中心に調査を実施し、①「散在地域」である山形県の高等学校に 学ぶJSL生徒の「問題の可視化」、②生徒一人ひとりに必要な支援、指導をしていくた めにどのような視座が必要か、というこ点について考察する。なお、「外国人児童生 徒」については、様々な呼称が用いられているが、本論文では日本語指導の問題に焦 点をあてるため、「JSL生徒」と呼ぶ。

2

.

山形県の全高等学校を対象とした調査 2-1.調査①の概要と結果のまとめ 最初に山形県の高等学校に学ぶJSL生徒の在籍状況と課題を把握するために、山形 県内のすべての高等学校を対象に調査を実施した(後述する調査と区別するために 調査①とする)。対象は山形県の高等学校63校(公立高校49校、私立高校14校、分校も 含む。ただし通信制課程を除く。)で、調査方法は質問紙調査である。内容はJSL生徒の 在籍人数、日本語指導や学習指導の状況、配慮していることや困っていること等であ り、過去のデータと比較するために過去の調査とほぼ同じ調査項目に設定した。調査 期間は2014年5月∼7月で、回収率は100%である。 2-1 -1. JSL生徒の在籍状況 調査①の結果、2014年度は山形県の高等学校には少なくとも37名のJSL生徒が在籍 していることがわかった(表1。)JSL生徒在籍校の割合は、全体では63校中19校で約 30.2%である。 表1 山形県の高等学校におけるJSL生徒の在籍状況(2014年) 高等学校数 在籍高校/全高校数 在籍校数の割合 JSL生徒の人数 公立高校 49 11/49 22.4o/c 17 私立高校 14 8/14 57.lo/c 20 合計 63 19/63 30.2o/c 37

(5)

92 外国人散在地域の高等学校におけるJSL生徒の状況と課題 一「見えにくさ」を超えるために必要な視座ー 各高校の

J

S

L

生徒の在籍人数については、「

6

名」という高校が

l

校あった他は

1

3

名 の在籍であり、ほとんどの高校が

J

S

L

生徒少数在籍校であった。また、山形県内の四 地域(村山・置賜・庄内・最上)のすべての高等学校に

J

S

L

生徒が在籍しており、四地域 の中では山形市のある村山地域の私立高校において比較的人数が多かった。母語別 にみると、中国語が18名で最も多く、ついで韓国語が9名、その他はフィリピン語、ネ パール語、タイ語で合わせて

7

名のほか、「不明」という回答が

3

名であった。

2-1-2. JSL

生徒の日本語指導等の状況 各校の

J

S

L

生徒に対する日本語指導については、特別な指導を実施している学校 は見られなかった。次に、「配慮している点、困っている点」等については、

8

校で記載 があり、その内容をカテゴリー化すると、「配慮している点

J

としては、「国籍に触れな いよう配慮

J

l

校、「日常会話時の話し方に配慮

J

l

校、「気質の違い・文化的違いに配慮

J

2校、「困っている点」としては「教科指導に苦慮」2校、「保護者と学校の意思疎通が困 難民校、等の記載があった。

2-2.結果の分析と考察

2-2-1. JSL

生徒の在籍および日本語指導の状況の変化 調査①の結果について、「日本語指導」の状況と課題を中心に分析する。今回の調査 結果で最も注目されるのは、各校において日本語指導を受けている

J

S

L

生徒が全く 見られなかったという点である。この結果は何を意味するのであろうか。以下、これ までの調査との比較を行いながら、この点について分析する。これまでの調査はいず れも山形県内の全高等学校が対象で質問紙調査である(斎藤2004、斎藤2005、園田・他 2009)。 表

2

日本語指導を受けている

JSL

生徒の人数とその割合 調査年度 公立高校 私立高校 合計 生徒の割合 2003 4/37名中 8/27名中 12/64名中 18.8% 2004 4/39名中 1/29名中 5/68名中 7.4% 2008 8/42名中 6/27名中 14/69名中 20.3% 2014 0/17名中 0/20名中 0/37名中 0.0% 上記の表2は、調査①での

J

S

L

生徒の人数と日本語指導を受けている

J

S

L

生徒の人

(6)

数を、これまでの調査のデータとともにまとめたものである。これまではJ

SL

生徒が 60名強で推移していたのに対し、今回の調査では生徒数が3

7

名とほぼ半減しており、 日本語指導を受けている生徒は見られなかった。

2-2-2

.

.

J

S

L

生徒の日本語指導の状況の変化 ここで問題となるのは、調査①で得られた「日本語指導を受けていない」3

7

名の

J

S

L

生徒の中に、「日本語指導が必要ぜ生徒は本当にいないのか」という点である。多くの 先行研究によって、日常生活に必要な「生活言語

J

は1∼

3

年で定着するが、教科学習等 に必要な「学習言語Jは定着までに

5

∼7年の長い時聞を要することが指摘されてい る。よって

JSL

生徒の「日本の学校に入学してからの経過年数」(以下「経過年数」)を調 べることにより、日本語指導の必要性の有無がおおまかに推測できる。 表

3 JSL

生徒の日本の学校に入学してからの経過年戦

l

:

S

:

:

言十

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12不明 2003年 7 5 11 8 11 4 3

5 2 1 3 3 64 2004年 4 2 7 9 14 2 8 5 3 6 1 3 3 68 2008年 5 2 7 11 9 5 5 3 5

3 2 6 64 2014年

2 3 3 6 2

。。。

17 37 上記表3は、過去の調査のデータとともに、J

S

L

生徒の「経過年数」をまとめたもので ある。表

3

によると「経過年数」が4年以下の生徒が在籍しており、「学習言語」が定着す るまでに5∼7年必要で、あることを考えると、これらの生徒は少なくとも「学習言語」 の指導の必要性がある可能性が高いと考えられる。また、これまでの分布状況と比べ ると、今回は「経過年数

J

がO∼

l

年で「生活言語」も定着していない、いわば「誰の目に も日本語指導が必要であることがわかる

J

生徒が少なくなっているということ、また 学校側が「経過年数」が「不明」と回答してきた生徒が17名と、多くなっていることが わかる。

2-2-3.

調査結果の考察 ここまでの分析に基づき、調査①の結果について考察する。日本語指導を受けて

(7)

94 外国人散在地域の高等学校におけるJSL生徒の状況と課題 一「見えにくさ」を超えるために必要な視座ー いるJ

S

L

生徒が今回全く見られなかったという点については、「日本語指導を受ける 必要のある生徒がいない

J

ということは意味しないと考える。「経過年数

J

の分析に より、「学習言語

J

としての日本語が定着していない生徒がいる可能性があること、ま た自由記述において、「日常会話時の話し方に配慮J「教科指導に苦慮Jという回答が あったことからも、

JSL

生徒の日本語力の不足を認識している学校があることは明ら かである。今回のように、「経過年数」が少ないにも関わらず指導を受けていない生徒 の存在は2

0

0

3

年度の調査時より継続して確認されており、JSL生徒を取り巻く 日本語 指導の状況が10年間改善されていないことがわかる。 次に指摘できるのは、

J

S

L

生徒の「見えにくさ」の進行である。「経過年数」が少なく 「誰の自にも日本語指導が必要であることがわかる j生徒が少なくなっていること、 学校側が「経過年数

J

が「不明」と回答してきた生徒が多くなっていること、また生徒 の母語が「不明」と回答した学校があったことから、学校側に

J

S

L

生徒の課題が意識さ れにくい状況が進んでいるという可能性が考えられる。

3

.

インタビュー調査

3-1.

調査②および調査③の概要 以上、高等学校を対象とした調査①によって、(

1

)「日本語指導が必要であるにも関’ わらず指導を受けていない生徒がいるという状況の継続J、及び(

2

「)

J

S

L

生徒の見え にくさの進行

J

の二点を問題点として提示した。次にこの二点の問題を中心に、

J

S

L

生 徒の日本語支援者(調査②) ・外国人相談員(調査③)へのインタビューによってより 詳細に把握する。調査②の調査協力者のA先生は長年にわたり、村山地域の小中学生 を中心にJSLの子どもたちの日本語支援に携わっている。調査日は2

0

1

4

年7月

2

4

日で ある。調査③の調査協力者は山形県内の支援団体の相談員Bさんである。Bさんは村 山地域を中心に外国人窓口の相談員を務めてUγる。調査日は

2

0

1

4

8

2

日である。

3-2.

村山地域の日本語指導が必要な

JSL

生徒 まず(1)のJ

S

L

生徒の日本語指導の問題に関わって、

A

先生は「昨年度支援した子ど もたちの中には中学

3

年生とハイティーンがおり、内複数名は高校進学後も引き続き 日本語指導が必要な子どもたちである。jと述べている。A先生の回答により、今年度

(

2

0

1

4

年度)村山地域の高等学校に進学した

J

S

L

生徒の中には引き続き日本語指導が 必要な生徒が存在していることがわかる。

(8)

Bさんへの聞き取りによっても、この点について確認ができた。Bさんによると、件 数はそれほど多くはないものの、「学業」「進学」に関わる相談は近年コンスタントに 続いているという。 表

4

「教育」関係のうち子どもの「学業

J

「進学

J

に関わる相談の具体的内容 平成23年度 連れ子さん(外国人配偶者の前婚の子)の日本語支援 (全8件) ・外国で中学校を卒業した子どもの日本への留学 平成24年度 −連れ子さんへの日本語サポート(ハイティーンの場合、義務 (全23件) 教育の場合) 高校へ進学したい(教育委員会への対応について、中卒認定 試験の紹介、サポート等) ・ハイティーンだが日本の中学校に入って学習したい 平成25年度 ・ハイティーン。高校に進学したい。 (全31件) −連れ子さんの学校への編入に係る日本語支援について ・中卒認定試験の申込など 海外の中学校を卒業した。日本の高校に入りたい。 −高校受験について −高校合格後のサポートについて 上記の表4は、平成23年度から平成25年度の3年間に窓口に寄せられた「教育関係」 の相談のうち、子どもの「学業」「進学」に関わる相談の具体的な内容である(

B

さんが 作成した資料より抜粋)。相談者は村山地域在住の外国人(外国籍の他、日本国籍も含 む)である(年度の下の「件数」は教育関係の全件数を示す)。表4をみると、高校進学な どについての相談が村山地域では継続してなされていること、昨年度も高校への進 学希望のハイティーンの子どもの相談があったことがわかる。 Bさんの支援団体では、学業や進学の相談が寄せられた時に、村山地域(4市2町)の 子どもたちの日本語支援を行っている支援団体「山形子ども日本語サポートネット」 (以下「サポートネット」)につなぎ、支援が受けられるようにサポートを行っている。 Bさんによると、昨年度も「サポートネット」の日本語支援を受け、高校に入学した

J

S

L

生徒がいるという。そこで「サポートネット」に問い合わせを行ったところ、昨年 度支援に関わった子どもで今年度高等学校に入学した

J

S

L

生徒が、村山地域の高等学 校で、公立高校3名、私立高校8名、合計11名いることがわかった。

(9)

96 外国人散在地域の高等学校におけるJSL生徒の状況と課題 一「見えにくさ」を超えるために必要な視座ー 以上により、日本語支援を受けて高等学校に入学した

J

S

L

生徒が山形県の高等学校 に確実に在籍していることが明らかになった。

3-3. JSL

生徒の「見えにくさ

J

次に、(

2

)「

J

S

L

生徒の見えにくさの進行」という点に関わって、

A

先生は、(「村山地 域では)2005年あたりをピークに外国人児童生徒が減ってきている。特に近年では 来日

O

l

年という(日本語指導が必要ということが)『わかりやすいj子が減り、日本 生まれの子が多くなってきている。」と述べている。

A

先生によると、日本生まれ、ま た幼児期に来日した子どもの場合、家庭内の言語環境によっては、言葉のハンデイ キャップが見られることがあるという。A先生が小学校入学当初の授業見学をした 際に、「わからない言葉が多い」「反応・理解が遅い」「日本語の誤用(親の日本語の影 響)がある」などの状況が観察されたということである。その中には今年度高等学校 に入学し、引き続き見守りが必要な生徒もいるという。 以上の

A

先生の回答から、日本生まれの子どもが増えたことにより

JSL

生徒の言 葉の課題が見えにくくなっていること、中には言葉に課題を抱えながら学校生活を 送っている子どもがいる可能性があることがわかる。 さらに、調査①の結果と照らし合わせることにより、

JSL

生徒であること面体、学 校側に把握されていない生徒が在籍していることが明らかになった。上述のように、 「サポートネット」のデータでは、村山地域の公立高校

1

年生の

J

S

L

生徒は

3

名であった が、調査①の村山地域の公立高校の結果をみると、

l

年生の

JSL

生徒はl名となってい た。つまり、

J

S

L

生徒であること自体学校側に把握されていない生徒が公立高校には 少なくとも

2

名在籍していることになる。 以上のことから、「

JSL

生徒の見えにくさ

J

には二種類あり、

J

S

L

生徒であることは 認識していても「日本語指導の必要が見つえないjというレベルと、文字通り「

J

S

L

生徒 であることそのもの

J

が学校側に把握されていないというレベルがあると考える。

4

調査結果の総合的考察

4-1.

第一のレベルの「見えにくさj 今回の三つの調査結果より、山形県の高等学校においては

J

S

L

生徒を取り巻く日本 語指導の状況が

1

0

年間改善されていないこと、また「

JSL

生徒の見えにくさ

J

が近年進 行しており、問題そのものが学校側にますます意識されにくい状況になっているこ

(10)

とが確認できた。ここでは、今回見出された「JSL生徒の見えにくさ」という点に注目 し、それが何に由来するものなのかという点について考察する。 上述のように,

JSL

生徒の「見えにくさ」は二つのレベルがあると考える。第一は、文 字通り

JSL

生徒であること自体「見えない」「気づかない」というレベルである。そして 第二の「見えにくさjは、

JSL

生徒として認識しているにも関わらず「見えにくい」とい うレベルのものである。 第一のレベルの「見えにくさ

J

は、特に「散在地域」に多く見られる。特に山形県にお いては中国・韓国にルーツをもっ

JSL

生徒が多く、そのほとんどの生徒が日本名を名 乗っていると思われる。今回の調査①の中にも、「日本語が母語でない生徒だとは入 学するまで気づかず、住民票を見て初めて認識した

J

という回答が見られた。それに 加えて、進学時の情報伝達の不足が一層「見えにくさ」を助長している可能性がある。 A先生はこの問題について、「小学校から中学校への申し送り(子どもの事情や支援 状況などの引き継ぎ)は必ずしてください、と学校に言うようにして山る。そうでな いとその子のことを中学校側で把握できなくなる」。と述べている。進学時の引き継 ぎは「見えにくい」子どもたちを「可視化」させる重要な手段であるが、逆に言えば、学 校側が意識的にこのような対策をとらない場合、

JSL

生徒の問題が把握できない状況 が生じることを示唆している。

4-2.

第二のレベルの「見えにくさ」 第二のレベルの「見えにくさ」は、

JSL

生徒と認識しているにも関わらず、その生徒 の状況やその課題を把握していない状況を意味する。第二のレベルの「見えにくさ」 には更に二つの種類があると考える。この点について、先行研究と今回の調査結果に 基づいて述べる。 志水・清水(

2

0

0

1

)は、小学校に学ぶニューカマーの子どもたちへの参与観察に基 づき、「見えにくさ

J

の理由とその問題について述べている。志水・清水によれば、 ニューカマーの子どもたちがもっ課題を、家庭の事情や個人の性格に由来するもの と考える「個人化

J

という戦略が学校側に採用されているという。「個人化」によって、 ニューカマーの子どもたちは日本人の子どもたちと同列に扱われる。その結果とし てニューカマーの子どもたちの社会的差異やニューカマー特有の課題などが見えに くくなっているという。 志水・清水の知見は「散在地域」の問題に引き寄せて考えることができる。特に高等

(11)

98 外国人散在地域の高等学校におけるJSL生徒の状況と課題 一「見えにくさ」を超えるために必要な視座ー 学校においては「適格者主義」という言葉に象徴されるように、「教育を受けるに足る 能力のある者」(=適格者)が「選抜」されているという意識が学校側にあり、特別な配 慮を「しない」ことが「公平

J

と見なされる。

J

S

L

生徒は他の日本人生徒と「同様」に扱わ れることによって問題は「個人化」し、その結果、「散在地域」においては、

J

S

L

生徒の問 題は多数の日本人生徒の中に埋没し、必要な支援がなされにくい状況が生じる。 一方で、高橋(

2

0

1

3

)は、日本生まれの「中国帰国児童」に対する考察から、学校側が 「見えにくい子Jを「差異化Jすることによって、結果的にその子どもが「見えなくな る」危険性を指摘する。例えば学校側がその子どもに民族的な行事への参加を強要す ることによって、「日本人と同質化しなくてもいいかわりに『中国にルーツをもっ子 どもjとして同質化しなくてはいけない」(p.

1

9

)という事態に陥る。つまり、教師が子 どもの多様性を見ずにルーツの枠にはめることにより、多様化している子どもたち 一人ひとりの状況が見えなくなることを意味する。この場合の「見えにくさ」は、

J

S

L

の子どもとして「見ているつもりで見えていない」と言い換えられよう。 高橋が述べているような、その子ども の「差異」を強調し「ルーツ」の枠組みに あてはめることによって指導が類型化 するような例は、一見「散在地域」では見 出しにくいように思われる。その子ども の差異を取り上げて「特別」に指導する 体制の構築そのものが進んでいないか らである。しかし今回の聞き取り調査に おいて、

A

先生によって語られた次のよ うな例は、「見ているつもりだが見えて いない」例に当たると思われる。 【第一のレベル] 「見ょうとしな い』 『見ているつもり で見えていないJ 図

1 JSL

生徒の「見えにくさ」 A:ある先生が、(中国帰国児童という)その子の事情を知らず、連れ子として来日し た子と同じような捉え方をしていた。「あの子はそうではない」と伝えると

J

そ うだったのかJとちょっとぴ、っくりしていた。 教員が、「中国から来た子」という視点で生徒をひとくくりにして見てしまうこと で、生徒の来歴や課題が一人ひとり異なっていることに気づいていなかったという

(12)

例である。このように、「意識」の上で生徒のルーツに固執し先入観をもって見てしま うということは、「散在地域」においてもあり得る。 以上で述べたように、ひとくちに「散在地域」の

J

S

L

生徒の「見えにくさ」といっても その原因は複層的であると考える(図1)。

4-3.

「散在地域」の課題解決のための視座 それでは、「散在地域」の

J

S

L

生徒の課題解決に向けて、子どもを取り巻く大人たち はどのような視座をもつべきであろうか。松尾(

2

0

1

3

)は、ニューカマーの子どもたち の考察を通し、不平等社会から多文化共生社会へと再構築していくためには「人間と してのまなざし」と「差異に対応するまなざし」が必要と述べ、日本人の子どもも含め た「教育Jのユニバーサルデザインを提案している。松尾の知見を参考に「散在地域」 の

J

S

L

生徒の日本語教育の問題を考えると、「散在地域」においては、喫緊の課題はま ず「差異に対応するまなざし」をもつことによって指導・支援を行うことであろう。し かしそのまなざしをもつために必要なのが、実は「人間としてのまなざし」であると 考える。「人間としてのまなざし」とは、人聞は誰でも必要な教育を受ける権利がある という意識であり、多様化する

J

S

L

生徒一人ひとりの課題を見極める視点を意味す る。このまなざしがあってこそ、「該当生徒がたとえクラスに一人しかいなくても必 要な支援は行う」という意識をもつことができる。「散在地域」の課題解決のために見 逃されがちなのは後者のまなざしであり、「差異に対応するまなざし

J

の前提となる 視座であると考える。 「散在地域」の例をとると、

J

S

L

生徒に見られる問題として長年蓄積された言葉の ハンデイキャップが学習遅滞の形で現れる場合が挙げられる。特に深刻なのは、母語 も日本語も十全に育たない「ダブルリミテッドjという状況である。「ダブルリミテッ ド」は複数の言語間移動によって生じる場合がある。今回の調査においても、母国と 日本を複数回移動している生徒が複数名みられ、特に注意して観察する必要がある と思われる。

J

S

L

生徒に学習遅滞が現れた場合は、原因を「個人化」する前に、学力の低 さに「学習言語」の不足が関係していないかという問題意識をもって、生徒の来歴や 言語環境、母語能力の把握に努める必要があり、その前提として必要なのが「人間と してのまなざし」、つまり

J

S

L

生徒一人ひとりに必要な支援・指導は何か、見極めよう とする意識であると考える。

(13)

100 外国人散在地域のE高等学校におけるJSL生徒の状況と課題 一「見えにくさ」を超えるために必要な視座ー

5

.

まとめと今後の課題 以上、山形県の高等学校における

J

S

L

生徒の日本語指導の問題を提示し、「散在地 域jの問題解決に向けて必要な視座について述べた。今後はこの視座を根底に据えた 教育を「散在地域」の学校でいかに具現化すべきかという問題に取り組みたい。 司書考文献 松尾知明(2013)「ニューカマーの子どもたちの今を考える一日本人性の視点からー」『異文化問教育J37, pp. 63-77 3野藤昭子(2004)「山形県における高等学校レベルの『日本語指導が必要な生 徒jの現状と課題」『山形大学日本 語教育論集J6, 即 日ー27. 策藤昭子(2005)「山形県の高等学校における日本語教育の現状について 教科指導との連携のためにー」『東 北公益文科大学総合研究論集J9,pp. 75-87 志水宏吉・清水陸美(2001)『ニューカマーと教育 学校文化とエスニシティの葛藤をめぐってj明石書店 園田博文・中村孝二・粛藤昭子・横山優子(2009)「JSL児童生徒に対する日本語指導の現状と課題 散在地域・ 山形県のケースー」『山形大学紀要(教育科学)J14(4), pp. 5781. 高橋純一・松崎博文(2014)「隊害児教育におけるインクルーシブ教育への変遷と課題Jr人開発達文化学類 論 集J19, pp. 13-26. 高橋朋子(2013)「中国帰国児童の主体的な関係性の構築を目指してJr異文化問教育J37, pp. lシー31 土屋千尋・内海由美子(2012)「外国につながる子どもの教育支援をめぐる大人のネットワーク形成ー外国人 散在地域山形県からの発信一」『帝京大学文学部教育学科紀要J37,pp.23-33 山崎けい子・深津のぞみ・中河和子・田上栄子(2009)「外国籍年少者のための日本語学習環境デザイン、散在地 域の学習を支えるために」『富山大学人文学部紀要J51, pp.Iー15 鮒辞 調査にご協力いただいた山形県内の各高等学校および調査協力者の方々に感謝申し上げます。 一 東北大学大学院生ー

参照

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