梯子型強相関電子模型における光照射効果
著者
橋本 博志
学位授与機関
Tohoku University
梯子型強相関電子模型における
光照射効果
東北大学大学院理学研究科
物理学専攻
橋本博志
平成
24
年
目次
第1章 序論 5 1.1 はじめに . . . 5 1.2 梯子格子銅酸化物Sr14-xCaxCu24O41 . . . 6 1.2.1 梯子格子銅酸化物の電子状態 . . . 6 1.2.2 梯子格子銅酸化物における理論研究 . . . 9 1.3 梯子格子銅酸化物Sr14-xCaxCu24O41 における光誘起現象 . . . 12 1.3.1 銅酸化物における光誘起現象. . . 12 1.3.2 梯子格子銅酸化物Sr14-xCaxCu24O41 における光誘起現象 . . . 14 1.4 本研究の目的と構成 . . . 15 第2章 模型と手法 17 2.1 理論模型 . . . 17 2.2 計算手法 . . . 18 2.2.1 ランチョス法の原理 . . . 18 2.2.2 基底状態のおける動的相関関数 . . . 20 2.2.3 ランチョス法による実時間ダイナミクス . . . 21 2.3 光学電気伝導度とドルーデ・ウェイト . . . 22 第3章 計算結果 27 3.1 基底状態の電子状態 . . . 27 3.2 光励起状態 . . . 34 3.2.1 静的物理量の時間依存性 . . . 35 3.2.2 光学電気伝導度スペクトルの時間依存性 . . . 44 3.2.3 一粒子状態密度スペクトルの時間依存性 . . . 60 第4章 結論 65 参考文献 67 謝辞 69第
1
章
序論
1.1
はじめに
強相関電子系とは電子相関が物性を強く支配する物質系である。典型的な強相関電子系の物 質群として遷移金属酸化物が挙げられる。特に 1980 年代の高温超伝導の発見以降、電子相関 効果の研究が精力的に行われてきた。このような物質群において物性を決める d 電子は軌道 半径が狭くバンド幅は小さいため、電子間に働くクーロン相互作用が有効的に大きくなり、電 子相関は重要な役割を果たす。電子相関の重要性は初めに NiO、CoO などの絶縁体の説明に おいて指摘された [1]。強いクーロン相互作用が働く系では、電子の遍歴性と局在性が拮抗し 金属絶縁体転移を起こす。このように強相関電子系は 2 つの異なる性質が競合する舞台であ り、そこでは多彩な物性を示す。また複数の相の競合が存在するとき、その相境界近傍で大き な揺らぎが観測される。そのため相境界近傍では外場に対して非線形な応答を示したり、系全 体の性質が変わるなどの劇的な変化が期待される。 近年、光照射による強相関電子系の非平衡現象の研究が盛んに行われている。光照射効果は 半導体においてはホール電子対の生成であり金属的な状態変化を起こすが、モット絶縁体にお いてはダブロン(電子二重占有サイト)・ホロン(電子非占有サイト)対の生成であり、これ までに多くの物質において光誘起金属転移が観測されている [2–4]。また強相関電子系では電 荷自由度の他に、スピン、軌道、格子などの自由度が重要となり、これらの自由度は密接に結 びついているため光照射効果は電荷自由度による金属転移のみならず、スピン・軌道状態を大 きく変える可能性が示唆されている。光照射による応答の観測にはフェムト秒オーダーの幅を 持つパルス光の技術の進歩、普及が大きな役割を果たしてきた。系の応答は相互作用のエネル ギースケールによりフェムト秒からピコ秒の超高速な時間スケールで起こる。超短パルス光の 技術発展はこのような時間スケールでの応答の観測を可能にさせ、強相関電子系の研究に非平 衡ダイナミクスという新たな視点を与えることが期待される。近年では X 線源や測定技術の 更なる進歩により、ピコ秒オーダーの時間分解の X 線分光、X 線回折や光電子分光が可能と なってきており、複数の自由度の非平衡ダイナミクスが直接観測できるようになった [5]。こ れらの技術進歩に伴い光誘起現象は銅酸化物における光誘起超伝導転移 [6] やマンガン酸化物 における隠れた秩序相の発見 [7] など新たな広がりを見せている。このような強相関電子系に6 第1章 序論 おける非平衡現象は量子効果や多体効果が重要になり、それらの正確な扱いが不可欠であると 予測される。
1.2
梯子格子銅酸化物
Sr
14-xCa
xCu
24O
41 高温超伝導の発見以降、銅酸化物は強相関電子系における最も興味ある物質の 1 つとして 多くの研究者の注目を集めてきた。梯子格子銅酸化物 Sr14-xCaxCu24O41 は2 次元的な格子 構造を持たない銅酸化物として初めて超伝導転移を起こした物質であり、スピンギャップの存 在など 2 次元銅酸化物と大きく異なる性質を示すためこれまでに多くの研究がなされてきた。 この節では梯子格子銅酸化物 Sr14-xCaxCu24O41 の電子状態に関するこれまでの実験と理論 を説明する。1.2.1
梯子格子銅酸化物の電子状態
梯子銅酸化物 Sr14-xCaxCu24O41 はCu2O3 による梯子格子面と CuO2 による 1 次元鎖面 の2 つ面によって構成されている。これらの 2 つの面は Sr/Ca 面によって分けられており、 図1.1 のように交互に積層した結晶構造を持つ物質である [8]。梯子格子と 1 次元鎖の構造は(a)
(b)
図1.1 Sr14-xCaxCu24O41 の格子構造 [8]。(a) Sr14-xCaxCu24O41 の 3 次元格子構造。 (b) 梯子格子面と1 次元鎖面の2 次元格子構造。 CuO4 の基本構造で表される。1 次元鎖は CuO4 が辺を共有した構造であり、梯子格子は同 一の梯子内では 2 次元銅酸化物と同様に CuO4 が頂点共有し、梯子間では辺を共有した構造 である。 Sr とCaの形式価数は共に +2 価であり Ca置換によって全体のホール濃度は変わらずCu イオンの平均価数は +2.25 価であり、Sr14-xCaxCu24O41 は全ての x においてホールドープ 系である。Cu イオン間の遷移積分は O イオンの共有の仕方によって大きく異なる。同一梯 子内のCu イオン間では CuO4 は頂点共有しており、Cu - O - Cu の結合角は約 180 度である。このとき Cu イオンの原子軌道 dx2−y2 とO イオンの原子軌道 px,y の重なりから Cu イ オン間の電子遷移積分は大きな値を持つ(t ∼ 0.35 eV [8])。一方、梯子間と 1 次元鎖におけ る Cu イオン間のように CuO4 が辺を共有している場合、Cu - O - Cu の結合角は約 90 度 であり近接する Cu イオン間で同じ O イオンの 2p 軌道を共有することができないため、Cu イオン間の電子遷移積分は小さい。このため梯子脚方向の伝導は梯子格子が主に担うと考えら れる。また梯子横木方向の伝導性は低いことが予想される。 図1.2 (a) Sr14-xCaxCu24O41 の電気抵抗率[8]。左図は c 軸方向、右図はa軸方向の測 定結果。(b) Sr14-xCaxCu24O41 の梯子脚方向の光学伝導度 [9]。 図 1.2 (a) は Sr14-xCaxCu24O41 の電気抵抗率の温度依存性である。x(Ca) < 8 では抵抗 率は c 軸(脚方向)、a 軸(横木方向)ともに絶縁体的であり、x(Ca) > 9 以上で脚方向に金 属的な振舞い( dρ/dT > 0 )が現われている。図 1.3 (b) は各 x における光学伝導度であ る。光学伝導度にはドルーデ成分と見なせる 1 eV以下の構造と2 eV のエッジ構造、3 eV の ピーク構造の 3 つの特徴が見られる。2 eV の構造は梯子格子の電荷移動型ギャップであり、 3 eV は 1 次元鎖面の電荷移動型ギャップである。Ca 置換によりドルーデ・ウェイトの増加 と2 eV 付近の電荷移動型ギャップの減少を示しているが、これらは 2 次元銅酸化物における ホールドーピングによる振舞いと似た振舞いである。 Ca 置換による梯子方向の電気抵抗の減少に対して Osafune らは1 次元鎖面から梯子格子 面へのホールの再配置を提案した [9]。Osafune らは梯子脚方向の電気伝導度から有効電子 数を Neff(ω) = 2m0V πe2 ∫ ω 0 σc(ω′)dω′ (1.1) を定義し、1 次元鎖面と梯子格子面のホール分布の解析を行った。ここで m0 は自由電子の質 量であり、V は単位格子の体積である。図 1.3 (a) に有効電子数の結果を示す。梯子脚方向の
8 第1章 序論
(a)
(b)
図1.3 (a) 光学伝導度から求めた有効電子数のエネルギー依存性。(b) 有効電子数から求 めた梯子格子面、1 次元鎖面それぞれの銅原子の価数。 伝導性が梯子格子に由来することから1.2 eV での有効電子数の増加を1 次元鎖面から梯子格 子面へのホール移動によるものと仮定し、梯子格子面と1次元鎖面の銅原子の価数を解析した 結果を図 1.3 (b) に示す。結果から Ca 置換によって梯子格子に分布するホールが増加する様 子が見られる。これらはセルフドープと呼ばれる。Mizuno らは梯子格子と 1次元鎖の銅原子 の結晶場ポテンシャルの Ca 置換による変化を調べ、x の増加に対して梯子格子のホールが増 加する方が安定的になることを示し [10]、理論的にセルフドープの可能性を示した。以上から 図 1.2 の Ca 置換による脚方向の抵抗率の減少は 1 次元鎖から梯子格子へのホールの再配置 によるものであると考えられる。 Uehara らはSr14-xCaxCu24O41 がx = 13.6 のとき圧力3 GPa 下において超伝導転移を起 こすことを示した [11]。その後、x = 10 以上の領域でも高圧下で超伝導転移をすることが発 見された。Nagata らは高圧下における電気抵抗率の異方性を調べ、電気伝導への圧力の効果 は1 次元的な伝導から 2 次元的な伝導へのクロスオーバーであることを示した [12]。また超 伝導の転移温度は伝導性の異方性が最も小さいとき最高値を取ることからSr14-xCaxCu24O41 で見られる超伝導は梯子格子に由来した機構を持つものではなく、異方的2 次元系での超伝導 であると考えられている。 また梯子格子を持つ銅酸化物に共通した特徴としてスピンギャップの存在が挙げられる。 梯子格子を持つ銅酸化物の研究は 1990 年代初期から SrCu2O3 により行われた。SrCu2O3 の帯磁率測定では図 1.4 (a) のように低温領域に向かって連続的な減少が発見され、スピ ン励起にギャップがあることを示唆している [13]。この帯磁率の温度依存性は梯子横木方 向のサイトを独立に扱う Troyer 模型を用いた解析結果(図 1.4 (b) )とよく一致してお り [14, 15]、スピンギャップは梯子格子に由来したものであると考えられている。図 1.4 (a) で示すSr14-xCaxCu24O41 の帯磁率には 1 次元鎖面と梯子格子面の両方の寄与がある。1 次 元格子を持つ銅酸化物の帯磁率は反強磁性的な相関を持つ 2 サイトを独立なダイマーと見な す反強磁性ダイマー模型でよく説明できることが示されており、図 1.4 (b) に示すように反0 200 400 600 800 0 1 2 3 4 5 Temperature (K) Sr14Cu24O41 dimer model + Troyer model dimer model J = 11.2 meV ND = 2.0 Troyer model L= 32.5 meV 0 200 400 600 800 0 1 2 3 4 5 Temperature (K) Sr14Cu24O41 SrCu2O3 ) b ( ) a ( χ (10 -4 emu/Cu-mol) χ (10 -4 emu/Cu-mol)
(a)
(b)
図1.4 梯子格子銅酸化物の磁気帯磁率 [14]。黒丸はSr14Cu24O41 の結果、白丸はCurie 項を除いた結果であり、逆三角はSrCu2O3の結果(Curie項は除く)である。(b) 模型解 析による計算結果。 強磁性ダイマー模型と Troyer 模型を併せた結果は実験結果をよく再現している。このことか らSr14-xCaxCu24O41 においても梯子格子には有限のスピンギャップがあると考えられてい る [14]。1.2.2
梯子格子銅酸化物における理論研究
銅酸化物を対象とする理論研究としてCu のd 軌道とOの p軌道を考慮した強相関模型で ある d-p 模型や、その有効模型である t-J 模型による解析が行われてきた。また電子遷移項 とクーロン相互作用の競合する 2つの相互作用をを含むHubbard 模型の研究も強相関電子系 の基本的な模型として盛んに行われてきた。それぞれの模型において次元性は電子状態を大き く変える要素である。格子構造において 1 次元と 2 次元の中間的な存在である梯子格子を持 つ模型ではその物理的性質も 1 次元系と 2 次元系の中間的な状態になると予想されるが、偶 数本の脚を持つ梯子型模型では 1 次元の結果とも 2 次元の結果とも異なる特異な状態を持つ ことが知られている [16]。また 1 次元系は Bethe 仮説など様々な解析手法が適用できること から多くの知見が得られてきたが、2 次元系は有効な解析手法が限られ、十分な理解が得られ ていないのが現状である。このような状況の中、梯子型模型は 1次元系と同様に多くの有効な 解析手法が適用できると共に、次元性の理解や2 次元系への示唆を与える模型としてこれまで 大きな注目を集めてきた。ここでは本研究と大きな関わりを持つ梯子型強相関電子模型の定常 状態の理論研究について紹介する。 梯子格子の持つ特異なスピン状態を初めて示した梯子型t-J 模型を紹介する。梯子型 t-J 模10 第1章 序論 型は H =J∑ i,α Si,α· Si+1,αJ′ ∑ i Si,1· Si,2 − t ∑ i,α,σ (¯c†i,α,σc¯i+1,α,σ + H.c.)− t′ ∑ i,σ (¯c†i,1,σ¯ci,2,σ + H.c.) (1.2) で与えられる。ここで i は梯子格子における横木の座標を表すインデックスで、α(= 1, 2)は 梯子格子を構成する 2 本の鎖を表すインデックスであり、σ(=↑, ↓) はスピンのインデックス である。また ¯ci,α,σ はホールの消滅演算子であり、Si,α はスピン演算子である。梯子格子の 特徴はJ′ ≫ J の極限でよく理解される。この極限で基底状態は図1.5 (a) で表すように梯子 (a) ハーフフィリング (b) 低濃度ドーピング 図1.5 J′/J が大きい極限での梯子格子の基底状態を表した模式図。(a) ハーフフィリン グの場合。緑枠はシングレット状態を表す。(b)低濃度ドーピングの場合。丸はホールサイ トを表す。 横木方向のシングレットが梯子脚方向に並んだ状態である。このような状態ではスピン励起に 対してシングレット・トリプレット励起に対応するJ′ のオーダーのギャップが生じる。また ホールがドープされた場合、ホールが同じ横木に属するサイトに対でドープされることにより 壊されるシングレットの数が1 つとなりエネルギー的に安定であると考えられるため、図 1.5 (b) のように2 つのホールが同じ横木に属するサイトに入ることが好まれることが予想され る。これは梯子格子ではドープされたホールはホール対束縛状態を形成することを意味してお り、その束縛エネルギーは J′ のオーダーであることが予想される。 Dagotto らは式 (1.2) で定義される梯子型 t-J 模型の図 1.5 で表されるような描像の妥当 性をLanczos 法による厳密対角化を用いて解析した [17]。ハーフフィリングの基底状態にお
いてスピンギャップの大きさを∆S = E(0, 1)− E(0, 0) (ここで E(n, S) はホール数 n 、
全スピン S における基底状態のエネルギー)によって評価し、図 1.6 (a) のように相互作用
が等方的な領域 J′/J ∼ 1 においてもギャップが開くことを示した。このような有限のスピ
(a) (b) (c)
図1.6 梯子型t-J 模型の厳密対角化による計算結果 [17]。(a) ハーフフィリングにおける
スピンギャップのJ′/J 依存性。破線はバルク極限へのサイズ外挿を行った結果。(b) ハー
フフィリングにおけるホール対束縛エネルギー。(c) クォーターフィリングにおける超伝導
相関関数。各線は下からJ’=0.4, 1.6, 4, 40 の結果[17]。
ホール対束縛エネルギーとして∆E = E(2, 0)− E(0, 0) − 2E(1, 1/2) を評価し、図 1.6 (b)
のように有限の値を持つことを示し、スピンギャップと同様に J′/J が等方的な領域までホー
ル対が形成されることを示した。またホール対の形成はそれらがクーパー対として働き超伝
導転移を起こす可能性を示唆している。超伝導相関関数としてC(m) =∑i⟨∆†i∆i+m⟩ /N で
定義される同時刻 ”pair-field” 相関関数の J′/J 依存性を図 1.6 (c) に示す。ここで ∆i は
∆i = (¯ci,1,↑¯ci,2,↓ − ¯ci,1,↓¯ci,2,↑)/
√ 2 で定義される pair-field 演算子である。J′/J の増加に対 して 計算したクラスターにおける最大距離の相関 C(m = 4) に増加が見られ、梯子格子の効 果により超伝導相関が発達することを見出した。以上のように、梯子型 t− J 模型は梯子格子 に特有なスピンギャップとともに新規超伝導体の候補として注目を集めた。 しかし以上の解析は現実的ではない t′ > J′ のパラメータ領域でのみ行われており、特異 なスピン状態が現実的なパラメータで実現するかは議論できていない。Noack らは梯子型ハ バード模型の基底状態を密度行列繰り込み群法(DMRG)を用いて解析した [18, 19]。梯子型 ハバード模型は H =−t ∑ i,α,σ (c†i,α,σci+1,α,σ + H.c.)− t′ ∑ i,σ (c†i,1,σci,2,σ + H.c.) + U ∑ i,α (ni,α,↑ni,α,↓) (1.3)
で与えられる。ここでci,α,σ は電子の消滅演算子であり、ni,α,σ = c†i,α,σci,α,σ は電子の数演
算子である。t-J 模型はハバード模型において二重占有サイトを排斥した模型と等価であり、 そのときスピン相互作用の大きさはJ = 4t2/U, J′ = 4t′2/U である。Noack らはハバード模 型においても t′/t = 1.0, U/t = 8.0、ハーフフィリングで有限のスピンギャップが開くことを 明らかにした。またホールドープ時でもホール密度が nh = 0.25 までスピンギャップが残る ことを示した。さらに図 1.7 (a) のスピン相関関数の距離依存性から減衰がいずれも指数関数 的であり相関長が有限であることから、基底状態がギャップのあるスピン液体状態であること
12 第1章 序論
を主張した。図 1.7 (b) で示す各横木に属するサイトごとのホール密度の結果ではピークの数
(a) (b)
図 1.7 梯子型 Hubbard 模型の密度行列繰り込み群による計算結果 [19]。(a) ハーフ
フィリングにおけるスピン相関関数 (−1)|i−j|⟨Mi,λz Mi,1z ⟩ , Mi,λz = ni,λ,↑ − ni,λ,↓ の計
算結果。(b) 各フィリングにおける局所ホール密度 1− ⟨ni⟩ の計算結果。パラメータは U/t = 8, t′/t = 1.5 がホール対の数に対応していることを示し、ハバード模型においてもホール対が形成されるこ とを示唆した。また梯子型t-J 模型と同様にハーフフィリングの系においてホール対束縛エネ ルギーが有限になることを示し、これらは梯子型ハバード模型においてもホール間に有効的な 引力相互作用が働くことを示唆している。
1.3
梯子格子銅酸化物
Sr
14-xCa
xCu
24O
41における光誘起現象
強相関電子系では強い相関効果に起因すると考えられる多彩な物性、例えば巨大磁気抵抗や 高温超伝導が発現する。これらの現象は化学ドーピングによって引き起こされ、物性が劇的に 変化することが知られている。このため遷移金属酸化物は特異な光照射効果が現れることが期 待され、強相関電子系における光誘起現象を調べる適当な物質群であると言える。この節では 絶縁相における強相関電子系における光誘起現象の典型的な例を示し、その後、本研究と最も 関係のある梯子格子銅酸化物の光誘起現象を述べる。1.3.1
銅酸化物における光誘起現象
これまでに遷移金属酸化物における光誘起現象の研究は盛んに行われてきた。Kiryukhinら によってマンガン酸化物の光誘起絶縁体金属転移が観測されて以来 [2]、モット絶縁体からの 光誘起金属転移は多くの系で報告されている。近年 Okamoto らによって本研究と関連の強い2 次元銅酸化物Nb2CuO4 と La2CuO4 における光照射実験が行われた [4]。図 1.8 (a) の実 線は定常状態の光吸収スペクトルである。Nb2CuO4(La2CuO4)において1.65 eV(2.2 eV)
のギャップ的な振舞いが見られており絶縁体的な特徴が現われている。このギャップは O 原
0.20
0 09
-0.6
(b)
1 58 eV
2 25 eV pump
1% electron
dope
2% hole
dope
0 027
-0.10
0
0.10
0.1 ps
0.5 ps
1.0 ps
5.0 ps
-0.06
-0.03
0
0.03
0.06
0.09
0.1 ps
0.5 ps
1.0 ps
5.0 ps
O
D
O
D
1.58 eV
pump
0.027
(ph/Cu)
2.25 eV pump
0.055
(ph/Cu)
0
1
2
-0.05
0
0.05
0.10
1.0 ps
5.0 ps
0
1
2
-0.03
0
0.03
0.06
Photon energy (eV)
[OD(340 K)−OD(292 K)] ( ×2.1) [OD(340 K)−OD(292 K)] ( ×2.5)
O
D
O
D
(c)
FIG. 2. (Color online) (a) OD spectra of NCO and LCO. The
0.20
0 09
-0.5
0
0.5
1.0
-0.6
-0.3
0
0.3
0.6
(b)
1 58 eV
2 25 eV pump
(a)
O
D
,
O
D
O
D
,
O
D
OD
NCO(
×4)
1% electron
dope
OD
LCO(
×4)
2% hole
dope
0 027
NCO
LCO
-0.10
0
0.10
0.1 ps
0.5 ps
1.0 ps
5.0 ps
-0.06
-0.03
0
0.03
0.06
0.09
0.1 ps
0.5 ps
1.0 ps
5.0 ps
O
D
O
D
1.58 eV
pump
0.027
(ph/Cu)
2.25 eV pump
0.055
(ph/Cu)
0.05
0.10
1.0 ps
5.0 ps
0.03
0.06
O
D
O
D
(c)
図1.8 (a)(左)Nb2CuO4 と(右)La2CuO4の定常状態での光吸収スペクトル。破線は (左)Nb1.99Ce0.01CuO4、(右)La1.98Sr0.02CuO4 とのスペクトルの差分。(b) 光照射後 のスペクトルの差分 [4]。 型ギャップである。図 1.8 (a) の破線は化学ドープによる光吸収スペクトルの変化であるが、 ギャップ内の低エネルギー領域においてスペクトルが増大し、キャリアドープによる金属的な 特徴が現われている。図 1.8(b) は光照射による光吸収スペクトルの変化である。0.1 ピコ秒 において電荷移動型ギャップ以下の低エネルギー領域のスペクトルが増大している。光照射に よるスペクトル変化は化学ドープによるスペクトル変化と類似しており、光照射による金属転 移が起きていることを示唆している。2 次元銅酸化物を始め、多くの遷移金属酸化物では光照 射によってダブロンとホロンが対生成され、それらが伝導キャリアとして働くと考えられる。 このような光照射実験に関連してハバード模型における光照射効果に関する理論研究が行わ れている。Maeshima らは時間発展ダイナミクスを直接扱わず基底状態から光学遷移可能な 最低エネルギー状態を光照射状態と見なす近似により、1 次元ハバード模型におけるハーフ フィリングの場合の光照射状態の光学電気伝導度スペクトルを計算した [20]。図 1.9 (a) は 光照射前後での光学電気伝導度スペクトルである。光照射前において ω/t = 3 程度のギャッ プが開いているが、光照射後ではギャップ内に新たなピークが発達している。Filippis らは 2 次元ハバード模型を用いて光照射による時間発展ダイナミクスを解析した [21]。図 1.9 (b) は光照射前後の光学電気伝導スペクトルである。光照射前の光学電気伝導度スペクトルでは
14 第1章 序論
pumping: the kinetic energy gain, that isindependent in the ground state, quickly reduces by increasing[37].
The oscillation behavior with characteristic phonon frequencies predicted here, has not been observed in ex-periment [5‒7,9‒11]. To our mind, the difference lies in the pump width to phonon period ratiopump=Tphwhich
is small pump=Tph 1 in our calculation and large pump=Tph> 1 in experiments [5‒7,9‒11]. This
interpreta-tion is supported by numerous PPEs in charge-transfer organic compounds [12‒14], where the relation
pump=Tph 1 holds, and the oscillations of physical
quantities with phonon period are observed. Moreover, experiments on highTc materials with record ultrashort
pump¼ 12 fs pulse [8] do observe oscillations with the
frequencies of bond-bending and apical oxygen phonons. In addition, the wavelet transformation of time dynamics of the OC shows that the energy transfer into the lattice system is associated with a time aroundtr 150 fs,
which is similar to that of phonon oscillations [8]. Hence,
cm1 0.4 0 2000 3000 0.002 b 21 fs 42 fs 89 fs 0.2 0.6 0 c 21 fs 42 fs 89 fs 1000 3000 5000 0.2 0.6 cm1 0
¼ 0:5, a relaxation is observed. The relevance of the EPI is also indicated by strong dependence ofK after the pumping: the kinetic energy gain, that isindependent in the ground state, quickly reduces by increasing[37].
The oscillation behavior with characteristic phonon frequencies predicted here, has not been observed in ex-periment [5‒7,9‒11]. To our mind, the difference lies in the pump width to phonon period ratiopump=Tphwhich
is small pump=Tph 1 in our calculation and large
21 fs 42 fs 89 fs 0.4 1.2 0 b 21 fs 42 fs 0.6 0
PRL 109, 176402 (2012) P H Y S I C A L R E V I E W L E T T E R S 26 OCTOBER 2012week ending
A ¼ A0e 0Þ2 2pumpcos½!pumpð 0 ; (4)
and the OC, after the pulse, is given by [28] ð Þ ¼ 1M! =Z1
0 ie
ið! þ Þth j½jðtÞ; j ð0 idt; (5)
wherej i ¼ Te iR0Hð1Þ 1j ¼ 0i, T is the time ordering operator,j ðtÞ is the current operator in the Heisenberg representation along one of the lattice direction axes, is a broadening factor taking into account additional dis-sipative processes, andM is the number ofl attice sites. The j i state is obtained through the Lanczos time propagation
0.1 c 0.575, Half Filling 0.575, One Hole 2000 6000 10 000 14 000 18 000 0.1 0.2 cm1 0
FIG. 2 (color online). OC at equilibrium (in units of0¼
e2=@a) for different EPI values, at HF and in one-hole subspace.
176402-2
EPI 0
i i i 0 i i i i
Here t is the hopping amplitude,cy is the fermionic
creation operator, is a unit vector along the axes of the lattice,ay
i creates a phonon at sitei with frequency!0, and
ni is the electron number operator. The EPI strength is defined by the dimensionless coupling constant¼ g2!
0=4t. We choose model parameters typical for high
Tcmaterials:t ¼ 0:25 eV ffi 2000 cm1and! 0¼ 0:2t ffi
400 cm1[27]. The value of the Hubbard repulsionU ¼
10t ¼ 2:5 eV yields low-energy physics very similar to that of thet-J model withJ ¼ 4t2=U ¼ 800 cm1. The
time-dependent potential vector is [24]:
A ¼ A0e 0Þ2 2pumpcos½!pumpð 0 ; (4)
and the OC, after the pulse, is given by [28] ð Þ ¼ 1M! =Z1 0 ie ið! þ Þth j½jðtÞ; j ð0 idt; (5) 0, Half Filling 0.575, Half Filling 0.1 0.3 0 b 2J peak
Ω0peak 0, One Hole
0.1, One Hole 0.1 0.3 0 c 0.575, Half Filling 0.575, One Hole 0.1 0.2 0 -1.5 0 5 10 15 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 0 5
ω
10 15U=12
0 0.02 0.04 0.06 2 4 6ω (a) (b) 図1.9 光照射後の光学伝導度スペクトル。(a) 1 次元ハバード模型。細線は光照射前、太 線は光照射後の結果 [20]。(b) 2次元ハバード模型。(上、緑線)光照射前、(下)光照射後 の結果 [21]。 ω = 14000cm−1 程度のギャップが存在するが、光照射後ではギャップ内低エネルギー領域に ピークが発達することを示した。1 次元、2 次元ハバード模型で見られる低エネルギーピーク の発達は金属的な特徴を表しており、光照射による金属状態への変化が示唆される。 以上の結果は数値厳密対角化によるものであるが、ハバード模型における光照射ダイナミク スの研究は非平衡動的平均場理論を用いた解析 [22] や時間依存密度行列繰り込み群を用いた 解析 [23] など様々な手法で行われている。そこでは対角化の結果と同様に光照射による金属 的な状態への変化が示されており、実験で見られる光照射による金属転移を理論的によく説明 している。1.3.2
梯子格子銅酸化物
Sr
14-xCa
xCu
24O
41における光誘起現象
近年、梯子格子銅酸化物 Sr14-xCaxCu24O41 における光照射実験が Fukaya らによって行 われており、x = 10 のとき低エネルギー領域において特異な反射率の時間変化が報告されて いる[24]。Sr4Ca10Cu24O41(x = 10)は定常状態で金属的な振舞いを示し、モット絶縁体を 主な対象としてきたこれまでの光照射実験と大きく異なる。 ドルーデ・ウェイトへの寄与を表す 0.5 eV での梯子脚方向の反射率の時間変化を図 1.10 に示す。光照射後 130 フェムト秒前後で低エネルギー領域の反射率が減少し、その後ピコ秒 領域において増加に転じている。これまで多くの研究がなされてきたモット絶縁体における光 誘起現象では反射率や光吸収スペクトルにおいて低エネルギー領域の増加が見られ、光生成さ れたキャリアによる光誘起金属転移が報告されている。Sr4Ca10Cu24O41 における光照射に よる反射率の減少は通常のモット絶縁体における変化と対照的な振舞いであり、光照射によ る伝導性の低下が示唆されている。x = 10 では Ca 置換量の増加に対して図1.2 で示される ように伝導性は増加を示しており、光照射による伝導性の低下は電子密度の変化という観点図1.10 低エネルギー領域の反射率変化の時間発展 では説明できない現象である。そのため Sr4Ca10Cu24O41 での光照射効果は光生成キャリア の注入だけではなく、フェムト秒領域において電子構造の瞬間的な変調が起こりキャリアの 移動度が減少していると考えられている。また近年、x = 0 の絶縁的な状態に対して光照射 実験が行われた。そこでは従来の光照射効果と同様に低エネルギー領域の反射率の増加が見 られており、光誘起金属転移を起こすことが報告されている。以上のことから梯子銅酸化物 Sr14-xCaxCu24O41 (x = 10)における光照射による低エネルギー領域の反射率の減少は梯子 格子に由来した現象であるとともに強相関金属状態における特有の現象である可能性を示唆し ている。
1.4
本研究の目的と構成
前節までに遷移金属酸化物における光誘起現象の特徴を述べてきた。これまでの光照射実 験はモット絶縁体に対して多くの研究がなされており、1 次元、2 次元銅酸化物を含む多く の物質で光誘起絶縁体金属転移が示されてきた。近年、梯子格子銅酸化物Sr14-xCaxCu24O41 (x = 10)における光励起実験が行われており、これまでの光誘起現象と対照的な、光照射に よる伝導性の低下を示唆する結果が報告されている。この実験結果は光ドーピングによるキャ リア密度の変化という観点では説明できない、新たな状態が実現していると期待される。また 梯子格子銅酸化物の定常状態はギャップを持つスピン液体状態であり、1 次元とも 2次元とも 異なる梯子格子に特有な状態が実現していることが知られており、化学ドープに対してはホー ル対束縛状態を形成するなど1 次元や 2 次元銅酸化物と異なるキャリアダイナミクスが存在 する。そのため梯子格子による特異性は光励起状態においても大きな影響があると考えられ、 Sr14-xCaxCu24O41 で見られる特異な光照射ダイナミクスは梯子格子に特徴的なものである可 能性が考えられる。16 第1章 序論 また Sr14-xCaxCu24O41 (x = 10)はホールドープによる金属的な状態である点において も従来のモット絶縁体を対象としてきた光誘起現象と大きく異なる。これまで強相関電子系に おける光照射効果の理論研究として絶縁相からの光照射ダイナミクスの研究は多く行われてお り、光誘起絶縁体金属転移をよく説明してきたが、金属状態における光照射効果の理論研究は 十分に行われておらず、金属状態における光照射非平衡ダイナミクスは殆ど明らかになってい ないのが現状である。 このような現状を踏まえて本研究では梯子格子銅酸化物 Sr4Ca10Cu24O41 における光誘起 現象を念頭に置いて以下のような目的を設定する。 梯子格子強相関電子系において、その電子状態の光照射効果を明らかにする。特に梯子 格子の効果、初期状態のホール濃度依存性に着目し、光キャリアのダイナミクスの微視 的機構を明らかにする。 本論文の構成は以下のようになっている。第 2 章では、本研究で用いた理論模型と計算手 法について述べる。また光励起状態に対するスペクトル関数の定式化を行う。第 3 章におい て数値解析の結果を示す。定常状態について説明した後、光励起状態における光学応答の時間 変化を中心に解析結果を示す。最後に第 4 章で本研究で明らかになったことをまとめ、総括 する。
第
2
章
模型と手法
2.1
理論模型
銅酸化物を対象とした理論模型としてこれまでt-J 模型が多く用いられてきた。強相関電子 系における光照射効果として大きな興味があるのは光照射によるバンド間遷移であり、梯子銅 酸化物における光照射実験でも電荷移動型のバンド間遷移が起きていると考えられる。しかし 二重占有を禁止する t-J 模型ではバンド間遷移を含む物理は扱うことができない。そこで光照 射効果を取り込むことができ、また電気伝導に大きな影響を与える梯子格子に着目して光照射 効果を説明する理論模型として以下の梯子型ハバード模型を対象とする。 H =Ht + HU (2.1) Ht =− t ∑ i,α,σ (c†i,α,σci+1,α,σ+ H.c.) − t′∑ i,σ (c†i,1,σci,2,σ+ H.c.) (2.2) HU =U ∑ i,α (ni,α,↑ni,α,↓) (2.3)ここでci,α,σ (c†i,α,σ) は電子の消滅(生成)演算子であり、ni,α,σ = c†i,α,σci,α,σ は電子の数演
算子である。またi は梯子格子の横木方向の座標を示すインデックスで、α は梯子格子を構成 する 2 本の鎖を指定するインデックスである。σ はスピンのインデックスを表す。t は梯子脚 方向の電子遷移積分、t′ は梯子横木方向の電子遷移積分であり、U はオンサイトのクーロン相 互作用である。 梯子脚方向に偏光された励起光はベクトルポテンシャルを用いるとPeierls 位相として電子 遷移積分をt → t exp(−i∫xi+1 xi A· dr) のように変形することで取り入れることができる。こ こで xi はサイトの梯子脚方向の位置である。励起光を表すベクトルポテンシャルとして A(τ ) = Apumpeeˆ −τ 2/2τ2 dcos(ω pumpτ ) (2.4) で表されるガウシアン波形を用いる。ここで Apump は振幅、ωpump は励起光のエネルギー、 τd は励起光の照射時間を特徴づける量である。eˆ は梯子と平衡方向への単位ベクトルであり、
18 第2章 模型と手法 図2.1 梯子型ハバード模型の模式図。 時間原点はパルス光の中心とする。励起光を空間的に一様( k → 0 )とし、サイト間距離を 単位とすると梯子脚方向の電子遷移積分は t→ te−iA(τ) のように表される。
2.2
計算手法
銅酸化物のような強相関電子系ではクーロン相互作用は重要であるが、クーロン相互作用を 含むハミルトニアンは電子遷移項との競合により一般に厳密に解くことは絶望的である。解析 的に解くことの難しい模型に対して数値的な解析は有用であり、数値厳密対角化法は有限サイ ズクラスターのハミルトニアンを対角化する数値計算手法の1つである。この手法は量子効 果、多体効果を近似なしに評価、計算することができる点に特徴を持つ。また基底状態の計算 のみならず励起状態や時間発展状態の計算も可能であり、光照射効果を調べる上で有用な手法 である。 ランチョス法は行列の最低固有値、固有ベクトルを求めるための厳密対角化法の1 つであ る。一般にハミルトニアンの次元はクラスターのサイズが大きくなるにつれて指数関数的に増 加するため、大きなクラスターでの計算は困難になる。そのような大次元行列を対角化するた めに適した計算手法が必要となる。ランチョス法は行列の三重対角化をする過程の中で計算量 を減らすことができ、効率的に行列の対角化を行うための手法である [25]。2.2.1
ランチョス法の原理
この節ではランチョス法の原理と実行方法について述べる。 ランチョス法は Nst × Nst の行列を M × M の三重対角行列に変換する基底を生成する手 法である。M ̸= Nst のとき三重対角行列の固有状態は元の行列の固有状態と異なるが、一般 にM ≪ Nst の範囲で三重対角行列の最小(もしくは最大)固有値とその固有状態は元の行列 の固有値、固有状態と良い精度で一致することが知られており、計算量を大幅に減らすことが できる。この特性のため物理的に最も興味のある基底状態を調べるのに適した手法である。ま ず行列を三重対角化する基底の生成方法を以下に述べる。次元 Nst の実対称ハミルトニアンを H とする。次元 Nst の任意の規格化された実ベクト ル |ϕ0⟩ を用意し、ハミルトニアンを三重対角化する直交基底 {|ψm⟩ , m = 0 ∼ M} を以下の ように生成する。まず |ϕ0⟩ にH を作用させてできたベクトルを|ϕ0⟩ に平行な部分と直交し ている部分に H|ϕ0⟩ = a0|ϕ0⟩ + b1|ϕ1⟩ (2.5) のように分ける。ここで an, bn は an =⟨ϕn|H|ϕn⟩、bn =⟨ϕn−1|H|ϕn⟩で定義される量であ る。a0 =⟨ϕ0|H|ϕ0⟩ はハミルトニアンが実対称行列であるため実数であり、|ϕ1⟩ の位相は b1 が実数になるように定める。次に |ϕ1⟩ に H を作用させることで |ϕ2⟩ は H|ϕ1⟩ = b1|ϕ0⟩ + a1|ϕ1⟩ + b2|ϕ2⟩ (2.6) のように表される。以降はこの繰り返しによって直交基底を順次生成することができ、i (1≤ i ≤ M) 番目の基底は H|ϕi−1⟩ = bi−1|ϕi−2⟩ + ai−1|ϕi−1⟩ + bi|ϕi⟩ (2.7) によって得られる。(2.7)において右辺は|ϕi⟩ , |ϕi−1⟩ , |ϕi−2⟩ のみで構成されており、これら の基底によりハミルトニアンは三重対角化されることがわかる。bM +1 = 0 と置くことにより ハミルトニアンは H = a0 b1 0 b1 a1 b2 0 0 b2 a2 0 . .. bM−1 0 bM−1 aM−1 bM 0 bM aM (2.8) のように変換される。三重対角化されたハミルトニアンは基本的な数値手法を用いることで 容易に対角化することができる。三重対角行列の対角化によって得られた j 番目の固有値を ϵj, (j = 0, M )とし、その固有ベクトルの成分を vji, (i = 0, M ) とするともとの基底で表され る固有ベクトル |ψj⟩ は |ψj⟩ = M ∑ i=0 vji|ϕi⟩ (2.9) と表すことができる。 一般に|ψj⟩はハミルトニアン H の厳密な固有状態ではないが、次の関係式 ⟨ψi|H|ψj⟩ = ϵjδij (2.10) を満たす。また最小固有値である基底エネルギーと基底状態は M ≪ Nst においても三重対 角化行列の最小固有値とその固有状態とよく一致する。これはランチョス法によって生成され るベクトル(以下ランチョスベクトル)は{|ϕ0⟩ , H |ϕ0⟩ , · · · , HM|ϕ0⟩} で表される Krylow
20 第2章 模型と手法 空間を張るように本質的には絶対値最大の固有値を得る手法である「べき乗法」と同じ原理に 基づくためである。べき乗法と同様に繰返しの回数 M を大きくすれば精度はよくなる。基底 状態への収束条件として固有エネルギーの収束条件 |ϵ(M ) 0 − ϵ (M−1) 0 | ≤ ε (2.11) と(ここでϵ(M )0 はM × M 次元の三重対角行列の最小固有エネルギーであり、ε は精度を表 す微小量である)、固有状態の収束条件 1− M ∑ i=0 v20i ≤ ε′ (2.12) を考慮する。試行ベクトル |ϕ0⟩ は任意のベクトルだが、求める固有状態と直交していないこ とが条件となる。またランチョスベクトルの直交性は原理的には (2.7) の通り保たれている が、数値誤差により繰返しの回数 M が大きくなると悪くなるため、再直交化が必要となる。 しかし基底状態の収束に対する繰返しの回数は通常 M ∼ 102 程度で十分であり、その場合、 再直交化をしなくとも任意の精度で計算することが可能である。
2.2.2
基底状態のおける動的相関関数
動的相関関数は基底状態だけでなく励起状態の情報も含むため一般に計算が困難である。ラ ンチョス法は基底状態を求めるのに適した手法だが、同じ枠組みで動的相関関数を求めること ができることに特徴を持つ。動的相関関数は任意の演算子 A に対して C(ω) =⟨Ψ0| A† 1 ω− H + E0+ iη A|Ψ0⟩ (2.13) で与えられる。ここでE0,|Ψ0⟩ はハミルトニアンH の固有エネルギー固有状態であり、η は 正の微小量である。この量を計算するため、基底状態を求めるのに用いたランチョス法を初期 ベクトルを変えて行えばよい。まず新たな初期ベクトルとして | ˜ϕ0⟩ = 1 αA|Ψ0⟩ , α = √ ⟨Ψ0|A†A|Ψ0⟩ (2.14) を用いる。この初期ベクトルを元に M˜ 個のランチョスベクトルを生成する過程で、三重対角 行列の対角要素 a˜i と非対角要素˜bi を得る( i = 0 ∼ ˜M )。また三重対角行列の固有値と固 有状態をそれぞれ˜ϵi と | ˜ψi⟩ とする。これらを用いることで (2.13) は以下のような連分数の 形で計算される。 C(ω) = α 2 ω++ E 0− ˜a0− ˜b2 1 ω++ E 0− ˜a1− ˜ b22 ω++ E 0− ˜a2− · · · (2.15) ここで ω+ = ω + iη である。連分数展開は厳密には Nst 次まで続くが、˜bM +1˜ = 0 とするこ とで M (˜ ≪ Nst) 次で閉じることができる。具体的な M˜ は結果の収束具合から決まるが、通 常M ∼ 102 程度である。連分数展開による動的相関関数の評価 (2.15) はエネルギー位置が ω = ˜ϵj − E0 、重みが wj =| ⟨ ˜ψj|A|Ψ0⟩ |2 の Lorentzianの和と見なすことができる。通常、励起スペクトルを求め る際に全ての固有エネルギーと固有状態が必要になるが、連分数展開による方法はランチョス 法を再利用して計算できること、さらにランチョス法における繰返しはハミルトニアンの次元 に対して十分小さい回数でよく、計算時間を省略できる点で優れている。
2.2.3
ランチョス法による実時間ダイナミクス
時間発展状態 時間依存 Schr¨odinger 方程式は以下の通りである。 i ∂ ∂τ |Ψ(τ)⟩ = H(τ) |Ψ(τ)⟩ (2.16) 多体系の時間発展計算は動的相関関数の計算と同様に一般に困難であるが、ランチョス法にお いては基底状態を計算するアルゴリズムを再利用することで容易に計算が可能となる [26, 27]。 時刻 τ での状態 |Ψ(τ)⟩ からの時間発展を微小時間 δτ による時間発展に分解すると、各時 刻での微小時間発展は |Ψ(τ + δτ)⟩ ≃ e−iH(τ)δτ|Ψ(τ)⟩ (2.17) で表される。ただし微小時間 δτ の粗さはハミルトニアンの時間依存性を無視できる程度でな くてはならない。例として周期 Tp の振動外場のある場合 δτ /Tp ≪ 1 程度である。初期ベク トルを | ˜ϕ0⟩ = |Ψ(τ)⟩ としてランチョス法を実行することで得られる(擬似)固有エネルギー ˜ ϵj とその固有状態 | ˜ψj⟩ を用いて右辺を展開すると |Ψ(τ + δτ)⟩ ≃ M ∑ j=0 e−i˜ϵjδτ| ˜ψ j⟩ ⟨ ˜ψj|Ψ(τ)⟩ + O(δτM) (2.18) となる。この展開は (2.10) より δτ によるTaylor 展開の M 次までの範囲で正しい近似であ る。ランチョス法による時間発展計算の利点は時間発展後の状態のノルムが保存するという点 において、時間推進演算子のユニタリー性を保証することである。 非定常状態における動的相関関数 非定常状態における動的相関関数は連分数展開による方法を用いるかわりに、ランチョスベ クトルによる展開を行うことで計算することができる。非定常状態 |Ψ(τ)⟩ における動的相関 関数は任意の演算子 A に対して C(ω, τ ) = Nst ∑ n,m ⟨Ψ(τ)|A†|ψ m⟩ ⟨ψm|A|ψn⟩ ⟨ψn|Ψ(τ)⟩ ω− Em+ En+ iη (2.19) の形で与えられる。ここで |ψm⟩ はハミルトニアン H の固有状態であり、Em はその固有エ ネルギーである。この式は |Ψ(τ)⟩ → |Ψ0⟩ ( |Ψ0⟩ は基底状態)の置き換えにより(2.13) と22 第2章 模型と手法 一致する。大次元行列を対象とする場合は完全系を構成する固有状態をすべて用意せず、ラ ンチョス法を用いて M (˜ ≪ Nst) 個の状態で展開することで計算量を大幅に減らすことができ る。時間発展状態の計算と同様に完全系による展開を初期ベクトルを| ˜ϕ0⟩ = |Ψ(τ)⟩ として得 られる(擬似)固有エネルギーとその固有状態による展開に置き換えることで式 (2.19)は C(ω, τ )≃ ˜ M ∑ n,m ⟨Ψ(τ)|A†| ˜ψ m⟩ ⟨ ˜ψm|A| ˜ψn⟩ ⟨ ˜ψn|Ψ(τ)⟩ ω− ˜ϵm+ ˜ϵn+ iη (2.20) となる。これはエネルギー位置がω = ˜ϵm−˜ϵn、重みがwmn=⟨Ψ(τ)|A†| ˜ψm⟩ ⟨ ˜ψm|A| ˜ψn⟩ ⟨ ˜ψn|Ψ(τ)⟩ のLorentzian の和の直接的な計算であり、ランチョス法の繰り返しの回数 M˜ は連分数展開 による場合と同様に結果の収束具合から決まる。重み wmn の計算において行列要素を直接計 算するため(擬似)固有状態の直交性は保たれていなければならない。そのためランチョスベ クトルの再直交化は常に行う必要がある。
2.3
光学電気伝導度とドルーデ・ウェイト
基底状態と過渡状態における光学電気伝導度の導出を行う。過渡状態はポンプ光によって生 成されることを念頭に置き、ポンプ光とプローブ光は図 2.2 のような配置を仮定する。ここでτpump < τ0 < τ < τprobe であり、τpump, τprobe はそれぞれポンプ光 A(τ )、プローブ光 a(τ )
の中心時刻であり、時刻τ の領域ではA(τ )∼ 0 とする。ここでポンプ光、プローブ光の偏光
プローブ光
ポンプ光
時刻
図2.2 励起光とプローブ光の波束の模式図。 方向は梯子脚方向とする。時刻 τ におけるハミルトニアンはプローブ光で展開すると H(a, τ ) = H − a(τ)j − 1 2T∥a 2(τ ) +O(a3) (2.21) で表される。ここで格子間距離は規格化されているとした。またj は j = i ∑ i,α,σ t(c†i,α,σci+1,α,σ − H.c.) (2.22)で定義される電流演算子であり、T∥ は T∥ = ∑ i,α,σ t(c†i,α,σci+1,α,σ + H.c.) (2.23) で定義されるストレステンソルであり、梯子型ハバード模型では外場の偏光方向の運動エネル ギーである。したがって線形応答における電流演算子は je =− ∂H ∂A = j + T∥a(τ ) (2.24) で表される。ここで第一項目は常磁性電流であり、第二項目は反磁性電流である。線形応答に おける常磁性電流の寄与を以下で導出する。 時刻 τ における時間発展演算子は U (τ, τ0) = U0(τ, τ0)UI(a, τ, τ0) = e−iH(τ−τ0) ( 1 + i ∫ τ τ0 dτ′a(τ′)jI(τ′− τ0) ) +O(a2) (2.25) となる。ここで jI(τ )≡ exp(iHτ)j exp(−iHτ)は相互作用描像の電流演算子である。時刻 τ における電流演算子の期待値は、外場 a の 1 次までで ⟨j⟩ (τ) = − i ∫ τ τ0 dτ′⟨Ψ(τ)|[jI(τ − τ), j]|Ψ(τ)⟩ a(τ′) = ∫ τ τ0 dτ′Φ(τ − τ′, τ )a(τ′) (2.26) Φ(τ − τ′, τ ) = 1 i ⟨Ψ(τ)|[j, j I(τ − τ′)]|Ψ(τ)⟩ (2.27) となる。ここで |Ψ(τ)⟩ ≡ exp(−iH(τ − τ0))|Ψ(τ0)⟩ は外場 a のないときの時刻 τ での状態 である。これを両辺、Fourier 変換すると ⟨j⟩ (ω, τ) = Ξ(ω, τ)a(ω) (2.28) Ξ(ω, τ ) = ∫ τ−τ0 0 dτ′Φ(τ′, τ )ei(ω+iη)τ′ (2.29) が得られる。ここで外場 a のη は減衰因子である。応答関数Ξ の具体形は、ハミルトニアン H の固有状態 |ψn⟩、固有エネルギーEn を用いて Ξ(ω, τ ) = 1 i ∑ m,n ( ⟨Ψ(τ)|ψm⟩ ⟨ψm|j|ψn⟩ ⟨ψn|j|Ψ(τ)⟩ ω− Em+ En+ iη − ⟨Ψ(τ)|j|ψn⟩ ⟨ψn|j|ψm⟩ ⟨ψm|Ψ(τ)⟩ ω− En+ Em+ iη ) (2.30) と表される。ここで時刻と減衰因子との間に τ − τ0 ≫ 1/η の条件を満たすという仮定から指 数部分を exp(−η(τ − τ0)) → 0 とした。式 (2.30) はポンプ光とプローブ光の干渉を無視し、 τ0 → −∞ とすることで得られる。
24 第2章 模型と手法 式 (2.24) で表される電流演算子の期待値は反磁性電流の寄与も含めると ⟨je⟩ (ω, τ) = (Ξ(ω, τ) + ⟨T∥⟩ (τ))a(ω) = N σ(ω, τ )E(ω) (2.31) σ(ω, τ ) = 1 iN (ω + iη)(Ξ(ω, τ ) +⟨T∥⟩ (τ)) (2.32) のように光学電気伝導度 σ によって表される。ここで N はサイト数であり、電場 E(ω) = i(ω + iη)A(ω) を導入した。また ⟨T∥⟩ (τ) は時刻 τ でのストレステンソルの期待値である。 応答関数と光学電気伝導度をそれぞれΞ1, Ξ2, σ1, σ2 のように実部と虚部に分けると N σ1(ω, τ ) =− η ω2+ η2(Ξ1(ω, τ ) +⟨T∥⟩ (τ)) + ω ω2+ η2Ξ2(ω, τ ) (2.33) N σ2(ω, τ ) =− ω ω2+ η2(Ξ1(ω, τ ) +⟨T∥⟩ (τ)) − η ω2+ η2Ξ2(ω, τ ) (2.34) となる。基底状態における応答関数と光学電気伝導度の実部は式 (2.30) と式 (2.33) において |Ψ(τ)⟩ → |Ψ0⟩ , τ0 → −∞, η → 0 の操作をすることで Ξ(ω) = 1 i ∑ m | ⟨ψm|j|Ψ0⟩ |2 ( 1 ω− Em+ E0+ iη − 1 ω− E0+ Em+ iη ) (2.35) σ1(ω) = σ sing 1 (ω) + σ reg 1 (ω) = 1 N ( −π(Ξ1+⟨T∥⟩)δ(ω) + 1 ωΞ2(ω) ) (2.36) のように得られる。 定常状態においてドルーデ・ウェイト D は式 (2.36)の第一項目を用いて 1 2πσ sing 1 (ω) =− π N(Ξ1(ω) +⟨T∥⟩)δ(ω) = Dδ(ω) (2.37) のように定義される。通常ドルーデ・ウェイトは光学電気伝導度の実部を用いた総和則から D =− 1 2N ⟨T∥⟩ − 1 π ∫ ∞ 0 σreg1 (ω)dω (2.38) のように計算することができる。同様に過渡状態におけるドルーデ・ウェイトを D(τ )δ(ω) =−π N(Ξ1(ω, τ ) +⟨T ⟩∥(τ ))δ(ω) (2.39) と定義する。また総和則から式 (2.33) の第二項をσreg1 (ω, τ ) とすると D(τ ) =− 1 2N ⟨T∥⟩ (τ) − 1 π ∫ ∞ 0 σ1(ω, τ )dω (2.40) のように計算することができる。外場 a の減衰因子は有限であることから過渡状態の光学電 気伝導度の ω の分解能は η のオーダーとなる。また固定端境界条件における計算ではエネル ギー準位が離散化されることからドルーデ・ウェイトに寄与するピークが有限の ω に現れる
ことが知られている。以上の問題を考慮し、ドルーデ・ウェイトに対応する量として光学電気 伝導度の低エネルギー領域の積分値を ¯ D(ω, τ ) =− 1 2N ⟨T∥⟩ (τ) − 1 π ∫ ∞ ω σ1(ω′, τ )dω′ (2.41) として定義し、以下低エネルギースペクトル強度と呼ぶ。
第
3
章
計算結果
本研究では梯子型ハバード模型における基底状態とその光照射による時間発展状態の
計算を行った。対角化するクラスターの大きさは梯子脚方向のサイト数を Nleg として
N = Nleg× 2, Nleg = 6, 7 とした。梯子横木方向のサイト数は明記しない限り Nrung = 2 と
する。模型のパラメータは梯子脚方向の電子遷移積分t を単位として、クーロン斥力を U = 6 とし、梯子横木方向の電子遷移積分を t′ = t を中心に解析した。ホール数 Nh、ホール濃度 nh は強相関金属状態を扱うためNh = 2, nh = 0.167 (Nleg = 6) を中心に行い、また絶縁体 状態との比較としてNh = 0 の計算も行った。境界条件は開放端境界条件と周期境界条件の両 方を用いた。
3.1
基底状態の電子状態
スピンギャップ、ホール対形成 梯子型ハバード模型では基底状態においてスピンギャップが存在することが知られている。 スピンギャップを ∆S = E0(N + 1, N− 1) − E0(N, N ) (3.1) として定義する。ここで E0(N↑, N↓) は上向きスピンの数が N↑、下向きスピンの数が N↓ の ときの基底状態のエネルギーである。ハーフフィリングでのスピンギャップの U 依存性を図 3.1 (a) に示す。N = 12, 14 の開放端境界条件のときを除いて、スピンギャップは U = 0 で 0 となり U ∼ 6 で最大値を持つ。U ≳ 6 では U の増加に対して減少しており、U ≫ 1 では 1/U に比例することを確認している。また N = 12, 14 の開放端境界条件ではU ≲ 5 におい て異なる振舞いが見られ、U = 0 で有限の値を持つ。U = 0 での有限のスピンギャップは解 析解から有限クラスター計算におけるエネルギーの離散化によるものであり、N → 0 のとき ∆S(U = 0) → 0 となることを確認している。N = 12, 14における U = 0 近傍の振舞いを除 き、スピンギャップの U 依存性は密度行列繰り込み群法(DMRG)よる N = 64 での結果と 定性的に同じ振舞いを示している [18]。スピンギャップのサイズ依存性を図 3.1 (b) に示す。 サイズ外挿による無限系でのスピンギャップの大きさは周期境界条件の結果から∆S ≈ 0.11、28 第3章 計算結果
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0
5
10
15
20
N=10, PBC N=10, OBC N=12, PBC N=12, OBC N=14, PBC N=14, OBChalf filling
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0
0.1
0.2
0.3
periodic
open
U=6
half filing
図 3.1 ハーフフィリングでのスピンギャップ。(a) スピンギャップの U 依存性。(b) U = 6 でのスピンギャップのサイズ依存性。実線は線形近似をした結果である。その他の パラメータは Nh= 0, t′= 1。図中のPBCは周期境界条件を、OBCは開放端境界条件を 表す。 開放端境界条件の結果から∆S ≈ 0.12 と見積もられる。境界条件によって異なるが、これは 外挿点が少なく線形近似の精度が良くないためである。外挿による結果から無限系においても スピンギャップが有限であることが示唆される。また有限系ではスピンギャップは過大に評価 されると考えられる。 Nh = 2 でのスピンギャップの結果を図 3.2 に示す。スピンギャップは U の広い領域で有 限の値を持っている。DMRG によるサイズ外挿の結果からU = 8、ホール濃度 nh = 0.125 におけるスピンギャップが∆S ≈ 0.05 と見積もられており、ホールドープ時においてもスピ0 0.4 0.8 1.2 0 5 10 15 20 N=10, PBC N=10, OBC N=12, PBC N=12, OBC N=14, PBC N=14, OBC
2 holes doped
0 0.1 0.2 0.3 0 5 10 15 20 N=12, PBC N=12, OBC N=14, PBC N=14, OBC2 holes doped
図3.2 Nh = 2 でのスピンギャップの U 依存性。パラメータは t′ = 1。図中の PBC は 周期境界条件を、OBCは開放端境界条件を表す。(右図は∆S の小さい領域の拡大図) ンギャップは有限に残ることが示唆されている。図 3.2 におけるU = 0 でスピンギャップは 有限の値を持っているが、これはハーフフィリングの場合と同様に有限クラスターにおける エネルギーの離散化が原因であり無限系においてギャップは閉じることを確認している。ま たU が大きい領域でスピンギャップは U の減少関数であることから、ホールドープ時のスピ ンギャップはハーフフィリングの場合と同様にU の中間領域で最大値を取ると予想される。 ホールドープ時のスピンギャップの値はクラスターサイズによって値が大きく変わるため定量 的に評価することは難しい。 各サイトでのホール密度、ダブロン密度の結果を示す。ここではドープされたホールとの相 関を調べるためPh(j, α) = (1− nj,α,↑)(1− nj,α,↓) で定義されるホールの射影演算子を作用 させた状態 |Ψh(j, α)⟩ = P h(j, α)|Ψ0⟩ √ ⟨Ψ0|Ph(j, α)|Ψ0⟩ (3.2) を用いて各物理量を計算した。ここで |Ψ0⟩ はハミルトニアンの基底状態である。各サイトで のホール密度、ダブロン密度の期待値を Iα,αh ′(i, j) =⟨Ψh(j, α′)|nhi,α|Ψh(j, α′)⟩ (3.3) Iα,αd ′(i, j) =⟨Ψh(j, α′)|ndi,α|Ψh(j, α′)⟩ (3.4) と 定 義 す る 。こ こ で nhi,α = (1− nj,α,↑)(1 − nj,α,↓) は ホ ー ル の 演 算 子 で あ り 、ndi,α = nj,α,↑nj,α,↓ はダブロンの演算子である。これはホールの周囲の粒子数分布を与えるものであ る。梯子横木方向のホール間、ホール・ダブロン間の相関を調べるためNh = 2 における I h,d α, ¯α の結果を図 3.3 に示す。ここで α¯ は α と反対の鎖を表す。t′ = 0.2 ではホール密度、ダブロ ン密度ともに距離依存性が小さい。これは鎖間のホール間、ダブロン・ホール間の相関が弱い ことを表している。t′ の増加に対して梯子横木方向の最近接サイトでのダブロン密度Iα, ¯dα(0) は単調増加を示す。このような最近接サイトでの高いダブロン密度は梯子脚方向の最近接サイ トにおいても確認しており、最近接サイト間でのダブロン・ホール束縛状態の形成を表してい30 第3章 計算結果
0.1
0.12
0.14
0.16
0.18
0.2
0
1
2
3
1.0
0.9
0.8
0.6
0.4
0.2
t
U=8 N=14 Nh=2 PBC0.04
0.06
0.08
0.1
0.12
0
1
2
3
1.0
0.9
0.8
0.6
0.4
0.2
t
U=8 PBC N=14Nh=2 図3.3 様々なt′ における各サイトでの(a) ホール密度、(b) ダブロン密度の距離依存性。 t′ は図の通りである。その他のパラメータはN = 14, Nh= 2, U = 6。周期境界条件。 ると考えられる。一方、ホール密度はt′ が大きくなるにつれて、射影されたホールサイトの近 接サイトに集中する傾向を示し、横木方向の最近接サイトである Ih α, ¯α(0) はt′ = 0.8 で最大と なる。t′ > 0.8 では Iα, ¯hα(0) は減少し、射影されたホールサイトの対角サイトであるIα, ¯hα(1) が最大値を持つ。梯子横木方向にホールが並んだ配置では横木方向へホールのホッピングがで きないためt′ が大きい領域ではエネルギー的に損であると考えられる。反対にホールが対角 サイトに並んだ配置はホールの配置によりホールの運動が阻害されることはなく、t′ が大き い領域ではエネルギー的に得であると予想される。t′ > 0.8 での Iα, ¯dα(0)が減少する振舞いと Iα, ¯hα(1) が最大値を持つ振舞いは以上のような運動エネルギーの観点から理解できると考えら れる。対角サイトにホールが集中することは相互作用が等方的な梯子型 t-J模型においても見られており [28]、ダブロン・ホール束縛状態が形成されるハバード模型においてはそのような 傾向がさらに強まると考えられる。射影されたホールサイトの近接サイトでホール密度が極大 を持つような振舞いは梯子脚方向では見られないことを確認しており、t′ の増大とともに梯子 横木方向の近接サイトにホールが集中する振舞いは梯子格子に由来したものであり、梯子格子 ではホール間に梯子横木方向に有効的な引力が働くと考えられる。開放端境界条件では、運動 エネルギーを得するためホールはクラスターの中心に集中する傾向を示す。このためホール間 に働く引力的な相互作用は開放端境界条件では強まると考えられる。 基底状態の光学電気伝導度スペクトル