第 3 章 計算結果 27
3.2 光励起状態
3.2.3 一粒子状態密度スペクトルの時間依存性
一 粒 子 ス ペ ク ト ル 関 数 か ら 状 態 密 度 を 計 算 し た 。遅 延 グ リ ー ン 関 数 Gret(k, τ1, τ2) =
−iθ(τ1−τ2)⟨{ck(τ1), c†k(τ2)}⟩ を用いて非定常状態における一粒子スペクトル関数を A(k, ω, τ) =−1
πIm
∫ ∞
0
dτ′eiωτ′Gret(k, τ+τ′, τ) (3.27)
のように定義する。Lehmann 表示を用いると A(k, ω, τ) =−1
πIm∑
n,m
(⟨Ψ(τ)|ψn⟩ ⟨ψn|ck|ψm⟩ ⟨ψm|c†k|Ψ(τ)⟩ ω−Em+En+iη
+⟨Ψ(τ)|c†k|ψm⟩ ⟨ψm|ck|ψn⟩ ⟨ψn|Ψ(τ)⟩ ω−En+Em+iη
)
(3.28) と表され、右辺括弧内の部分は式 (2.20) によって評価することができる。状態密度は一粒子 スペクトル関数から
ρ(ω, τ) = 1 N
∑
k
A(k, ω, τ) (3.29)
として得られる。同様に lesser グリーン関数G<(k, τ1, τ2) = i⟨c†k(τ2), ck(τ1)⟩ と greater グ リーン関数G>(k, τ1, τ2) = −i⟨ck(τ1), c†k(τ2)⟩ を用いて一粒子スペクトル関数と状態密度の 電子占有部分 A<, ρ< とホール占有部分 A>, ρ> は
A≶(k, ω, τ) =−1 πIm
∫ ∞
0
dτ′eiωτ′G≶(k, τ +τ′, τ) (3.30) ρ≶(ω, τ) = 1
N
∑
k
A≶(k, ω, τ) (3.31)
として得られる。ここでグリーン関数が 2 時間に依らないとき、つまり |Ψ(τ)⟩ → |Ψ0⟩ のと き非定常状態の表式は定常状態のものと一致する。
以下では、光照射の初期挙動に着目するため有効フォトン数が 0.04∼0.06 の弱励起領域に 限定する。図 3.32 に各時刻での状態密度の結果を示す。光照射前の結果では主に 2 つの構造 が見られる。1 つは −4 ≤ω ≤4 の範囲のものであり、もう 1 つは 5≤ ω ≤ 10 の範囲のも のである。2 つの構造の位置はU の変化に対して前者は大きな変化が見られず、後者は U に 比例した位置に現れることを確認しており、前者は下部ハバードバンドに対応し、後者は上部 ハバードバンドに対応する。電子占有部分とホール占有部分の境界は ω ≃ 1 にあり、これは フェルミエネルギーである 。フェルミエネルギー近傍には大きなピーク構造が見られる。電 気伝導に寄与する粒子はフェルミ面近傍の粒子であるためフェルミ面近傍の状態密度は電気伝 導と関係すると考えられる。以降、フェルミエネルギー近傍のピークをコヒーレントピークと 呼ぶ。
光照射直後 τ ≲10 に電子占有部分においてコヒーレントピークの減少と上部ハバードバン ド近傍にブロードなピークの発達が見られる。上部ハバードバンド近傍のピークの発達はダブ ロン密度の増加と対応しており、光照射によるバンド間遷移を表すと考えられる。τ > 10 の 領域において状態密度は大きな変化を示さないのに対して、電子、ホール占有部分では有意な 変化が見られる。電子占有部分において 4 ≤ω ≤6 の上部ハバードバンド近傍の状態の占有 数が減少し、1 ≤ω ≤ 3 の下部ハバードバンドの状態の占有数が増加している。τ > 10 の領 域ではホロン・ダブロンの再結合が行われており、ダブロン数の減少が見られる。このためこ れはホロン・ダブロンの再結合過程を表すと考えられる。
62 第3章 計算結果
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
-4 -2 0 2 4 6 8 10
Before Excitaion
0 10 20 40
Before Excitaion
0 10 20 40
Before Excitaion
0 10 20 40
N=12, N
h=2 OBC U=6, tʼ=1
図3.32 各時刻での状態密度。上段から(上)状態密度、(中)ホール占有部分、(下)電 子占有部分。時刻は図の通りである。破線は光照射前の状態密度を表す。パラメータは N = 12, Nh= 2, U = 6, t′= 1, ωpump= 4.9。開放端境界条件。
0 0.2 0.4 0.6 0.8
0 0.2 0.4 0.6 0.8
0 0.2 0.4 0.6 0.8
-4 -2 0 2 4 6 8 10
N=12, N
h=2 OBC U=6, tʼ=0.2
Before Excitaion
0 10 20 40
Before Excitaion
0 10 20 40
Before Excitaion
0 10 20 40
図3.33 t′ = 0.2 における各時刻での状態密度。上段から(上)状態密度、(中)ホール占 有部分、(下)電子占有部分。時刻は図の通りである。破線は光照射前の状態密度を表す。
パラメータはN = 12, Nh= 2, U = 6, t′ = 0.2, ωpump= 4.8。開放端境界条件。
64 第3章 計算結果 t′ = 0.2 における状態密度の結果を図 3.33 に示す。光照射前の結果からは−4 ≤ ω ≤ 3、 4≤ω ≤10 の領域に構造を持ち、それぞれ上部、下部ハバードバンドに対応する。電子占有 部分に着目すると光照射後にコヒーレントピークが減少し、上部ハバードバンドの端に新たな ピークが発達しており、光照射によるバンド間遷移を表すと考えられる。またコヒーレント ピークより低エネルギー側に新たなピークの発達が見られる。t′ = 0.2 ではホロン・ダブロン の再結合過程があまり起きないことを確認しており、時刻τ >10 の領域において有意な時間 変化がないことと対応していると考えられる。
t′ = 0.2 における光照射後の新たなピークの発達はt′ = 1 では見られない振舞いである。
化学ドープではホールドープ量の増加に対してフェルミエネルギーは減少を示し、コヒーレン トピークの位置もそれに伴い減少することを確認している。化学ドープとの類似から光照射後 のピーク発達は光ドープによるコヒーレントピークの位置の減少によるものであることが示唆 される。コヒーレントピークは電気伝導に寄与する状態数を表しており、光照射後のコヒーレ ントピークの形成は高い伝導性が期待され、光学電気伝導度の低エネルギースペクトル強度の 増大と対応した振舞いである。一方、t′ = 1 では有意なピークの発達が見られず、伝導性の低 下と対応した 振舞いであると考えられる。
第 4 章
結論
本研究では、梯子型強相関電子系において、その電子状態の光照射効果を明らかにすること を目的とした。その目的を達成するために、梯子構造を持つ系における光励起による時間発展 解析を行った。理論模型として梯子型ハバード模型を用いて、強相関金属状態における光励起 状態の光学応答を梯子格子の効果ならびにホール濃度依存性の観点から調べた。得られた結果 を以下にまとめる。
ハーフフィリングからホールドープした金属状態において光照射により低エネルギー領 域の光学電気伝導度のスペクトル強度が減少する。これに対応して(nh ≃0.17, t′/t = 1 において)低エネルギー領域の反射率が減少する。またスペクトル強度の減少は t′/t が大きい領域で顕著であり、t′/t≤0.4 では増加を示す。
ハーフフィリングからのホールをドープしたホール濃度 nh ≳ 0.17 の金属状態(梯子 横木方向の電子遷移積分 t′/t = 1)において光照射後に低エネルギー領域の光学電気 伝導度の強度が減少する振舞いが見られた。これはnh ≲ 0.1 の場合とは定性的に異 なる結果であり、伝導性の変化が光照射前のホール数に依存することを明らかにした。
nh ≃0.17, t′/t= 1 において、低エネルギー領域の光学電気伝導度の強度の減少に対応 して光照射により低エネルギー領域の反射率が減少する。この結果は実験で見出された 光照射による中赤外領域の反射率の減少と対応したものと考えられる。
またハーフフィリングからホールドープした金属状態(nh ≃0.17)において、光照射 による低エネルギー領域の光学電気伝導度のスペクトル強度の減少はt′/t が大きい領 域(t′/t ∼ 1)で顕著であり、t′/t の減少とともにスペクトル強度の減少は抑えられ t′/t = 0.2,0.4 では増加に転じることを示した。
今後の課題
本研究では厳密対角化法のひとつであるランチョス法による解析を行った。厳密対角化法で はクラスターサイズは計算量の増加により限定され、大きなクラスターでの計算は困難とな る。まず本研究で十分に行えなかったクラスターサイズによる結果の相違点について詳細に調 べる必要がある。またクラスターサイズを増やすことができる手法として時間発展密度行列繰 り込み群法(tDMRG)の利用を考慮する。tDMRG は基底状態とその時間発展状態を表すた
66 第4章 結論 めの最適な基底を生成し、計算量を大幅に減らすことができる手法である。
本研究では電荷自由度と関わりの深い物理量を中心に解析を行ったが、強相関電子系では電 荷自由度とスピン自由度は深く相関しており、光照射後のスピン状態の変化を詳細に調べるこ とで光照射効果の新たな理解を得ることができると期待される。また本研究と関わりの深い梯 子格子銅酸化物 Sr14-xCaxCu24O41 は高圧下において超伝導転移が観測されており、近年の 光誘起現象の中心的課題である光誘起超伝導転移との関連が期待される。
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