第 3 章 計算結果 27
3.2 光励起状態
3.2.1 静的物理量の時間依存性
光照射による状態の変化を以下で定義する有効フォトン密度 nphoton(τ) = ⟨H⟩(τ)− ⟨H⟩(τ ≪0)
N ωpump (3.9)
によって評価する。またハミルトニアンのクーロン相互作用の項の期待値 EU(τ) =U ∑
i,α
⟨ni,α,↑ni,α,↓⟩(τ) (3.10)
の 時 間 発 展 か ら 、ダ ブ ロ ン と ホ ロ ン の 生 成 に つ い て 評 価 す る 。こ こ で ⟨· · ·⟩(τ) ≡
⟨Ψ(τ)| · · · |Ψ(τ)⟩ は時刻 τ の状態による期待値である。有効フォトン密度とクーロン相互作 用の時間、励起光強度依存性を図 3.8に示す。有効フォトン密度は励起光強度の増加に対して 単調に増加しており、励起光によって状態が変化していることを示す。また有効フォトン密度 が変化しているのは入射時刻を中心に時刻 |τ| ≤10 程度であり、励起光が十分減衰している 領域ではエネルギー保存則が守られていることが確かめられる。クーロン相互作用項の期待 値はダブロン数の期待値に対応しており、主に 2 つの振舞いが見られる。1 つは光照射直後
τ <5 の領域で励起光強度に対して単調増加を示している。これは光照射が上部ハバードバン
ドへの電子励起を起こしており、光照射によってホロン・ダブロン生成過程が行われているこ とを表している。一方 τ > 10 の領域においてはダブロン数が減少しているが、これはダブロ ンとホロンの再結合過程を表す。
ダブロン数の変化を
∆Nd(τ) = 1
U(EU(τ)−EU(τ ≪0)) (3.11) で定義する。ダブロン数の変化の U 依存性を図 3.9 に示す。光照射直後 τ <5 の領域におい てはU の大きさによらず単調増加している。その後、 U = 12 ではダブロン数はほとんど変 化しないのに対して、U = 4,6,8 では減少が見られる。また U = 8 ではダブロン数の減少が 時間に対して緩やかなのに対して、U = 4,6 では急な減少を示しており、ダブロン・ホロンの 再結合過程は U が大きくなるにつれて生じにくくなっている。図 3.8 から再結合過程は有効 フォトン数が一定である時間領域で行われている。これはポテンシャルエネルギーから運動エ ネルギーへのエネルギーの移動を意味しており、U が大きいとき、各自由度間のエネルギー移 動をする過程が減少することを示唆している。ハーフフィリングの系においてダブロンの再結 合時間は U の増加に対して指数関数的に長くなることが示されており [32]、それと定性的に 同じ振舞いである。
ダブロン数変化のホール数依存性を図 3.10 に示す。Nh > 2 のとき有意な再結合過程が起 こっている。これはホール数が増えることでダブロンとの再結合過程が増えることを示唆して おり、Nh = 3,4,5 においても同様の振舞いを確認している。
36 第3章 計算結果
-0.02 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12
-20 -10 0 10 20 30 40 50
(a)
0.35 0.25 0.15 0.05 N=12, Nh=2 U=6, tʼ=1 OBC
3 4 5 6 7
-20 -10 0 10 20 30 40 50
(b)
0.35 0.250.15 0.05
N=12, Nh=2 U=6, tʼ=1, OBC
図3.8 (a) 有効フォトン密度と(b)クーロン相互作用項の期待値の時間発展。赤、緑、
青、紫線は Apump = 0.35,0.25,0.15,0.05 の結果。パラメータは N = 12, U = 6, t′ = 1, ωpump= 4.9。開放端境界条件。
ダブロン・ホロンの再結合過程のようなポテンシャルエネルギーからその他の自由度へエネ ルギーが移動することは、しばしば熱化と呼ばれる。本研究では光照射直後の初期過程に着目 するため熱化による影響を考慮し、主に熱化する前の状態に着目する。
次に運動エネルギーのキャリア遷移過程部の結果を示す。各時刻での結果は式 (3.6), (3.7) において基底状態を時間発展状態に変えて計算したものを用いる。|Ec∥| と|Ech∥| の時間発展 の結果を図3.11 (a) に示す。光照射前において運動エネルギーのキャリア遷移過程部分 |Ec∥| は有限の値をもち、これは金属的な特徴を反映している。|Ec∥| において、ホロン遷移過程に よる寄与(|Ech∥|)がその多くを占めており、伝導キャリアはほぼドープされたホールが担って
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
-20 -10 0 10 20 30 40 50
12 8 6 4
N=12, Nh=2 tʼ=1, OBC
図3.9 様々な U におけるダブロン数の時間依存性。赤、緑、青、紫線は U = 12,8,6,4 の結果。励起光のエネルギーは順に ωpump = 10.035,6.54,4.9,3.6。その他のパラメータ はN = 12, Nh= 2, t′= 1。開放端境界条件。
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
-20 -10 0 10 20 30 40 50
0 1 2 3
N=12, OBC U=6, tʼ=1
図3.10 ダブロン数の変化の時間発展のホール数依存性。赤、緑、青、紫線はNh= 0,1,2,3 の結果。励起光のエネルギーは順に ωpump = 3.7,3.7,4.9,5.1。その他のパラメータは N = 12, U = 6, t′= 1、開放端境界条件。
いることを示唆している。
ホロン遷移過程部分 |Ech∥| は光照射による減少を示し、ダブロン遷移過程部分 |Ech∥| は光照 射直後に増加し、その後減少を示す。ここで |Ec∥|(または |Ec∥h | )の変化には2 つの時間発 展過程が考えられる。1つは光照射直後の過程であり、もう 1つはダブロン・ホロン再結合過
38 第3章 計算結果
1.6 2.0 2.4 2.8 3.2
-20 -10 0 10 20 30 40 50
(a)
ホール遷移のみ
ホール遷移
+ダブロン遷移 ,
N=12, Nh=2, OBC U=6, tʼ=1
0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2
-20 -10 0 10 20 30 40 50
(b)
ホール
ダブロン
N=12, Nh=2, OBC U=6, tʼ=1
図3.11 (a)運動エネルギーのキャリア遷移過程部分の時間発展。赤線はホール遷移過程 とダブロン遷移過程の和、青線がホール遷移過程のみの結果。(b) ホール(ダブロン)あ たりの運動エネルギーのホール(ダブロン)遷移過程部分の時間発展。青線はホール遷 移、緑線はダブロン遷移の結果。パラメータは N = 12, Nh = 2, U = 6, t′ = 1, ωpump= 4.9, Apump= 0.35。開放端境界条件。
程である熱化による過程である。これらの過程による寄与を区別するためホロン(ダブロン)
あたりの運動エネルギーのホロン(ダブロン)遷移過程部分を
mh,d∥ (τ) = |Ech,d∥ (τ)|
∑
i⟨nh,di ⟩(τ) (3.12)
で定義する。ここで nh,di はi サイトでのホール数、ダブロン数演算子である。結果を図 3.11 (b)に示す。ホロン遷移 mh∥ では2 つの時間変化が見られる。τ = 0付近で急激に減少し、そ の後減少は緩やかになる。またダブロン遷移md∥ においても 2 つの時間変化が見られ、τ = 0 付近で増加をし、その後緩やかな減少を示す。2 つの過程の変曲点はホロンとダブロンでほぼ 一致しており、図 3.8 (b) での熱化が始まる時刻ともよく一致している。以上より τ ≫0 に おける時間変化が熱化によるものであると考えられる。
以下、運動エネルギーのホロン遷移過程部分|Ec∥h | に着目する。Ec∥h の時間変化を
∆Ec∥h (τ) =Ec∥h(τ)−Ec∥h (τ ≪0) (3.13) により定義する。図 3.12 (a) に ∆|Ech∥| のホール数依存性を示す。|Ech∥| は光照射後、Nh =
-2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5
-20 -10 0 10 20 30 40 50
(a)
0 1 2 3 4
N=12, OBC U=6, tʼ=1
-1.2 -0.8 -0.4 0.0 0.4
-20 -10 0 10 20 30 40 50
(b)
1 0.8 0.6 0.4 0.2
N=12, Nh=2 U=6, OBC
図3.12 運動エネルギーのホール遷移過程部分の時間発展。(a) ホール数依存性。緑、
黄 、赤 、紫 、青 線 は Nh = 0,1,2,3,4 の 結 果 。励 起 光 エ ネ ル ギ ー は 順 に ωpump = 3.7,3.7,4.9,5.1, 6.9。パラメータは N = 12, U = 6, t′ = 1。開放端境界条件。(b) t′ 依存性赤、緑、黄、青、紫線はt′ = 1,0.8,0.6,0.4,0.2の結果。励起光エネルギーは順に ωpump= 4.9,5.1,5.1,5,4.8。パラメータは N = 12, Nh= 2, U = 6。開放端境界条件。
0, 1 では増加しているのに対して、Nh = 2, 3, ,4 では減少を示す。図3.7 に示されるように 化学ドープでは |Eh∥|はホール数の増加(Nh = 0∼4) に対して増加を示しており、Nh >2 ではキャリア数変化に対して化学ドープと光照射で定性的に異なる振舞いを示す。次に梯子格
40 第3章 計算結果 子の効果として t′ 依存性の結果を図 3.12 (b) に示す。τ = 50 において |Ec∥h| はt′ ≤0.4 で は増加を示しており、t′ ≥ 0.6 では減少を示している。図 3.11 (b) で示されるようにτ ≫0 における変化は熱化による影響が大きいと考えられる。τ <10 の領域に着目すると、|Ech∥|は t′ ≤0.6 において増加を示し、t′ = 1において減少している。また t′ = 0.8 ではわずかに増加 した後、減少を示している。このように光照射直後においてもt′ の増加とともに∆|Ech∥| は減 少する傾向にある。運動エネルギーのホール遷移過程部分|Ech∥|は伝導性の指標であり、|Ech∥| の減少は伝導性の低下を示唆する。したがって図 3.12 からt′ が大きい領域での金属状態では 光照射による伝導性の低下が予想される。
次に局所的な物理量の時間依存性について示す。式 (3.2) で表される梯子脚方向 i、梯子横 木方向α で表されるサイトのホール射影演算子を作用させた状態を光励起状態に適用した
|Ψh(j, α, τ)⟩= √ Ph(j, α)|Ψ(τ)⟩
⟨Ψ(τ)|Ph(j, α)|Ψ(τ)⟩ (3.14) を用いて各物理量を計算した。この状態を用いて各サイトでのホール密度、ダブロン密度の期 待値を
Iα,αh ′(i, j, τ) =⟨Ψh(j, α′, τ)|nhi,α|Ψh(j, α′, τ)⟩ (3.15) Iα,αd ′(i, j, τ) =⟨Ψh(j, α′, τ)|ndi,α|Ψh(j, α′, τ)⟩ (3.16) と定義する。また各サイトでのホール密度、ダブロン密度の時間変化量として
∆Iα,αh ′(i, j, τ) =Iα,αh ′(i, j, τ)−Iα,αh ′(i, j, τ ≪0) (3.17)
∆Iα,αd ′(i, j, τ) =Iα,αd ′(i, j, τ)−Iα,αd ′(i, j, τ ≪0) (3.18) を定義する。またホール密度、ダブロン密度の時間変化量の差として
∆Iα,α′(i, j, τ) = ∆Iα,αh ′(i, j, τ)−∆Iα,αd (i, j, τ) (3.19) を定義する。この量が正の値を持つときi, αサイトにはホールが集中、またはダブロンが分散 していることを表し、負の値を持つときはその反対である。
以下の結果はクラスターサイズが N = 14 の結果であるが、射影するホールのサイトを梯子 脚方向に対してクラスターの中心のサイトとして計算した。
初めにホール数 1 の系での各サイトでのホール密度、ダブロン密度の時間発展を図 3.13に 示す。まず光照射前の結果としてτ =−20の結果に着目する。図 3.13 (a)よりダブロン密度 は射影されたホールサイトの最近接サイトで大きい値を持つ。これは図3.3 で示したようにホ ロン・ダブロン束縛状態であり、ホロン・ダブロン間に有効的な引力が働いていることを表し ている。光照射後にすべてのサイトでホール濃度、ダブロン濃度が増加しているが、これは光 照射によってダブロン・ホロンの生成過程がすべてのサイトで起こっていることを示唆してい る。ホール密度・ダブロン密度の変化量の差を示す図 3.13 (c) から射影サイトと梯子横木方 向の最近接サイトのみ大きな値を持つことがわかる。基底状態において梯子格子模型ではホー ル間に有効的な引力が働き梯子横木方向にホール対を形成することが知られているが[28]、梯
子横木方向の最近接サイトでの ∆I の大きな値は光励起で生成されたホールに対してもホー ル間の有効的な引力が働くことを示唆している。それ以外のサイトでは濃度変化量に比べて小 さな値であり、ホールとダブロンの区別がないことを表している。
次にホール数が 2 の場合の結果を図 3.14 に示す。光照射前の結果として τ =−20 の結果 に着目する。ダブロン密度はホール数 1 の系と同様に射影サイトの近接サイトに大きな値を 持つことがわかる。これはダブロン・ホロン束縛状態を表していると考えられる。またホール 濃度は図 3.3 と同様に射影サイトとは反対の鎖の近接サイトにおいて大きな値が見られ、これ はホール対束縛状態を表している。光照射後の変化に関して、τ > 20 の領域においてはホロ ン・ダブロンの再結合過程が起こっている状態であり、光励起直後の初期過程に注目するため
τ <20 の時間領域に着目する。この時間領域においてはホール数 1 の系での振舞いと同様に
全体的にホール密度、ダブロン密度が上昇している。これは光キャリアが生成されていること を表している。しかし、特にダブロン密度の変化において射影サイトとの相対距離に対する大 きな依存が見られる。射影サイトに近接したサイトではダブロン濃度の変化は小さいが、離れ たサイトでは大きな増加を見せている。これは光励起後においてダブロン・ホール間に有効的 な斥力が働いていることを示唆している。
42 第3章 計算結果
0.06 0.08 0.1 0.12 0.14
-20 -10 0 10 20 30 40 50 0.04
0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16 0.18
-20 -10 0 10 20 30 40 50
-0.01 -0.005 0 0.005 0.01 0.015 0.02 0.025
-20 -10 0 10 20 30 40 50
projection site
(a) (b)
(c)
N=14, N
h=2, OBC U=6, tʼ=1
図3.13 各サイトでの (a)ホール密度、(b)ダブロン密度の時間発展。(c) ホール密度、ダ ブロン密度の変化量の差。図 (d) はサイト i, j の位置関係と図の色の対応を表したもので あり、白丸はホールを射影したサイトを表す。パラメータは N = 14, Nh= 1, U = 6, t′= 1, ωpump= 3.53, Apump= 0.15。開放端境界条件。
0.1 0.12 0.14 0.16 0.18 0.2 0.22 0.24
-20 -10 0 10 20 30 40 50
-0.04 -0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05
-20 -10 0 10 20 30 40 50
0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.1 0.11 0.12
-20 -10 0 10 20 30 40 50
projection site
(a) (b)
(c)
N=14, N
h=2, OBC U=6, tʼ=1
図3.14 各サイトでの (a)ホール密度、(b) ダブロン密度の時間発展。(c) ホール密度、ダ ブロン密度の変化量の差。図(d) はサイト i, j の位置関係と図の色の対応を表したもので あり、白丸はホールを射影したサイトを表す。パラメータは N = 14, Nh= 2, U = 6, t′ = 1, ωpump= 4.68, Apump= 0.15。開放端境界条件。
44 第3章 計算結果