ガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音
e, oの発展形について
著者
橋本 さえ子
雑誌名
年報・フランス研究
号
10
ページ
29-50
発行年
1977-03-25
URL
http://hdl.handle.net/10236/9087
ガ ス コ ー ニ ュ
方 言 に
お け る
二重母音化 を経 た
広母音
e,oの
発展形 について
橋
本
さ
え
子
プ ロヴァンス語では9世
紀末,あ
るいは10世 紀初頭か ら13世 紀初頭の間に, 広母音e,0が
2重
母音化 して,そ
れ ぞれie,uO(uc)に
か わ った。 この現象 は プロヴァンス語領域全般 にわた って生 じた もので地理的 な距 りに関係 な く在 証 され てい る。 ところで, 2重
母音化 され た このふたつの母音 はその後 どの よ うに発展 したのであろ うか。 それ らは方言 ごとに独 自の過程 に したが って変 遷 し,時
に同 じ形 に帰着 してい ることはあって も,そ
れ は別個 の音韻法則 に した が った変遷 の結果生 じた外見 だけの相似,単
な る偶然 の一致 にす ぎないのであ ろ うか。 それ とも,方
言の別 な く,
プ ロヴァンス諸語全体 に共通す る法則 に し たが って変遷 し,そ
こに生ず る語形 の違 いは,
ご く限定 され た特異 な条件 によ って派生 した,い
わゆ る方言的差異 であろ うか。 それ を知 るためには各方言 ご とに このふたつの母音 に関す る事象 を整理す ることが前提 となろ う。 そ こで, 本稿 では ガス コーニ ュ方言を対象 に, 2重
母音化 を蒙 った広母音e,0が
今 日 帰着 してい る状況 を音韻条件 と地理分布 の点か ら整理す ることを試 み る。 プ ロヴァンス語の2重
母音化 は広 いe,0の
みに生 じ,
しか も特定の 音素 に 影響 されてお こる「 条件 つ き2重
母音化」 であ った。 この とき2重
母音化 を促 した音素 は,
さ らに,
これ らの2重
母音が その後発展す る うえに も影響 を及 ぼ30
ガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音e,Oの
発展形について した もの と思 われ る。 したが って本論 では この よ うな母音 を含 む語 を,そ
の 2重母音化 の条件 にな った音素 に よってあ らか じめ分類 し
,そ
れ ぞれについて地理 的様相 を述べ たの ち
,必
要 と思 われ る説 明を加 え る。資料 には Atlas Linguistique de la Gascogneを 用 い
,地
図中の記載 を検討(3) (4)
した結果 と
,Grammaire istorique des parlers proven9auX,Le Gascon中
の記述 とを比較対照す るとい う方法 を とる。 なお,音
声表記 は次の原則 に従 うが,引
用文 中な どこの原則 を適用 で きない 場合 はその限 りではない。6[e]
ё [ε]e 6と
ё の 中間,ま
た は その区別 を必 要 と しな い場 合 の音 LA CASCOCNEガス コーニ ュ方言における二重母音化 を経 た広母音
e,0の
発展形 について oe[oe] u [u]t [y]
J,O J,nの
口蓋 化 音 卜i]広
母音 のeの
後 ろに 口蓋音が来 る場合。 卜i-1)e+c
この形 の在証例 は非常 に少な く, Cが
単独 で2重
母音化 の条件 にな った とみ られ るのは Bё
arnに
おけ る接尾辞 一iec〉※一gcuが
ぉそ らく唯一 のFllであろ う。女性形 の接尾辞 一
iegueは
男性形 に したが って作 られ た もの と思われ る。(ロ ンジャ §101)
I一
i-2)e+口
蓋化音,ま
たは[i],Ey]+子
音この場合
,eは
2重
母音化 し
,
更 に後続音 と一緒 にな って一iei―にな り,
それが接す る 音 の影響 によって
eyま
たはye,あ
るいは単母音eに
縮約す る。(ロル フス424)melior《 Ⅱlieux》
一ey―は
Girondeに
残 ってい る。M6doc地
方 では [m6y通]と
な り, ジロン ド川沿岸か らla Teste一de一Buchに
か けての領域 ではEmilt]と
な ってい る。 Gironde tti部, Salles,Hostensか
ら Landes tti部, BayOnneに
妻Jる領域 を[moeloe]が 占めてい る。
Pomarezで
Em610e],Galardanで Em610e],Gers
の西半及 び Hautes一Pyr6n6esで
Emёl通],Gersの
東半及 び Ariёgeで
は[mil通
]と
な ってい る。 以上 の地域 では後続 の1が口蓋化 されてお り,母
音 は 単母音 であ る。32
ガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音e,0の
発展形について-6]で
あ り, Martres― Tolosane,St一Gaudens,Bagnё
res一de一Luchonな
どガロンヌ川沿いの ピ レネー山中の谷 では
[myelu]と
な ってい る。 これ らの地域では [―iei_+1〉
yel]の
形 を残 し, 1は
更 に 口蓋化 してyに
達 してい ること もあ る。
、
mediu
《derni》M6doc lr_は [d6mi∼d6my∼ doemy∼dimi]のよ うな形がみ られ る。
Gironde南
東部か らGabardan,N6racais地
方 にか けての領域 には [mij] がみ られ る。 これ は じぼ しば アクセ ン トのあ る語 の前 において用 い られ た この語が独 自の アクセ ン トを失 った形
,い
わゆ る後接語形の定着 した ものであろ うと思 われ る。 また
,Aigui1lonで
は [mёj],la Teste―de―Buch,Biscarrosse,Parentis一en一
Born,Luё
,Mimizanな
どでは[moey]と
な ってい る。M6zos,Sabres,Labrit,Sarbazan,Lubbon,Espiens,Layracな
どの地′点, 及 びそれ よ り南 では[myey∼ myej]が
一般的であ る。 その うちeが
狭 くあ ら わ され る傾 向のあ るLandesの
大西洋岸,parler noirの
領域 ではeが
[oe]と発音 され
,[myoey∼ myoej]と
な る。 ところが,そ
の領域 に属す るBayonne
におけ る形 は
Edoemy]で
あ る。 おそ らくこの形 は フラ ンス語か ら新 しく移入 され た ものであろ う。ピ レネー山中の
Arreauを
は じめ と して Lをtnnemezanを
要 に扇状 に広 が る渓谷 では
,そ
の全域 で [mej∼mey]と
な ってい るのBariёgeで
はeが
iにまで 狭 ま る。Val d'Aranを
Arreauよ
り更に奥 に さかのぼ った地域 では語尾 に母 音が生 じて2音
節 語[m6yO]に
な ってい る。texere 《tisser》
M6docで
は [teiβoe,i∼
teisoe]と な ってい る。 [ei]の iは 重子音[ks]が
[β
]に
発展す る中間段階 であ る [is]の前 の要素であろ うが,
その前 にあ るeガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音
e,0の
発展形について33
上 の地 域 を除 くガス コー ニ ュの ほ ぼ 全 域 を,
単 母 音 に縮 約 した形 [teβ Oe,―e∼toeβ
oe]が
占め て い る。 わず か にB6arnの
一 部 と 更 に 南 の ピ レネ ー 山 中(Arette,Bedous,Eaux―
Bonnes)に
母 音 の縮 約 を経 な い形 で あ るyeが
残 さ れ て い るにす ぎな い。その他 ,Sauvetterre―de―
B6arnの
[tinna]は同根 の派 生 語 Etinnё]《tisse_rand》 の援用 で あ ろ う。 ま た
, B6arn地
方 以外 で は Bourg―d'Oueil
に も[tyёβ6∼tiёβ
6]が
残 され て い る。 lecturn 《lit》ラテ ン語 の一ct―の変遷 につ い て
Bourciezは
次 の よ うに述べ て い る。《L'6vo‐lution du groupe θJ,qui n'a persist6 nulle part,― 一‐sanS dOute a cause de la diJncult6 d'articuler deux occlusives de suite,― ―o■re a elle seule un
principe de di責6renciation trё s net pour les divers r6gions de la Roma‐
nia.》 そ して
,
ガス コ ンにつ い て は以 下 の よ うに記 して い る。 《。。。la dimcult6 fut r6solue par le passage de ε れ une fricative, d'abord χ sans doute, puis夕 (ルχノ%, d'otル
タノ%)…. :La plupart des r6gions qui viennent d'etre 6num6rё es en sont rest6eれ ノι;ainsi le N.de la France(ル
タ,%%づ ι),1'Auvergne,la Gascogne,et en ltalie, 1'Ouest du Piemont(ル
ノ):...》ロル フス もまた次の よ うに述べ てい る。《
Dans le groupe―
ct― le premier616ment aboutit a
ノqui for]me diphtongue avec la voyelle dont le
r6sultat est une triphtongue (θ %ёノ),le dernier 616ment s'amuit g6n6ra‐lement:》 (ロル フス 454)
ALGの
図版 ではM6doc,Buch,Landes北
部, Gabardan,Gers,す
なわ ち,ジ ロン ド・ ガ ロンヌ川 に平行 して ガス コーニ ュ北西か ら南東へ斜 めにElёit∼16it]の 領域が連 ってい る。
Landesの
大西洋岸地方 で も,Mimizan,Sabres,
ガス コーニ ュ方言におけ る二重母音化 を経 た広母音 e,。 の発展形 について
Pyr6n6esに
近 いSLMartin,Rabantis―
dttBigorreで
は語尾 のtが
脱落 し て [lie]に な ってい る。ガス コーニ ュの 西南部では 1が口蓋化 してい るか
,
もしくは ly― (または ly―)が
残 って い る。 つ ま り, Landes南
部で [leit], 西寄 りの 海沿 いで[loeit],Bayonneで
は 母音が 更 に 狭 ま って [lit]にな ってい る。Basses―Pyr6n6esに
も [leit]が み られ る。Arette,Bedousで
はeiが
縮約 してeに
な ってい る。 Hautes一 Pyr6n6esでは itの iが脱落 して [let]であ るが
, SLLazar,Marseilhan,Aureilhan
では逆 に
tが
脱落 した。Toulouse及
びその周辺 とAriёgeに
は ly∼lyが
残 っ てお り,ガ
ロンヌ川 に沿 ったTerrasse de la Garrone,Lomagneな
どで も 語頭音 は 口蓋化 してい る。pectine《peigne》
pectineは
その変遷過程 で 一i―を失 って子音群 [一k't'n'_]を 生 じた。 E―k't'n'一
]は
音韻交代 を して [一n'k't'一]に
な り,そ
こか らE―n't'一〉 一nt―∼―n'こ―]に発展す る。 この
ntは
前 に くる母音の2重
母音化 を促す。 そ こか ら Epiente ∼Pienti]よ うな形 を生 じた ものであ る。(ロ ンジャ §91)現在, ガス コーニ ュゴヒ部 では Blaignac,St―
COmeで
[pyOtOe]を見 る外 に は,か
な り南部 に 至 るまで,
す なわ ち, Biscarrosse,Luxey,Lamtte_sur_
Lotを
結 ぶ線 までyeが
eに
縮約 した Ep60oo∼ p6oi∼poe3oe]に占め られ ているの その線以南 では
[pyentOe]及
びその変種 を用 いてい る。Born,Marsin及
びGrande Landeの
西 部 で は [py“ ntOe∼ py“nti],Bayonneで
は 同化 に よ って [PInti]と 母 音 が 狭 くな って い る。Aspe,Ossau,
Adour,Neste,Aureな
どの漢 谷 で は yё が ёに, Gers西
部, Lectoure,J6gunか
らPieumesに
か けて の一 帯 で は yё がIに
縮 約 して い る。 更 に そ の東 の ガ ロ ンヌ川沿 い で もyё が ё とな って [pOnβ6]で
あ る。ガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音
e,Oの
発展形について35
1-ii]広
母音eの
後 ろに軟 口蓋音が来 る場合卜
ii-1)e+w,u
広母音 のeは
軟 口蓋音w,uの
前 で も2重
母音化 した例が あ る。
deus《dieu》
今 日ガス コーニ ュではほぼ全域 で [diu∼
dius]に
な ってい る。Hautes一Py‐r6n6esの
スペ イ ン国境 に近 い,
ご く限 られ た 地域 に Edyёu]が
残 され ている。
ben(e)lev(e)《
peut一etre》北部
,東
部 では,一ie―がeに
縮約 し,E-lёu]に
帰着 してい る。M6doc,Buch,
Lot一et一G。,Gers全
域 で Eb61ёu]で
あ り,Marensin,Marsanを
除 くLandes
で も[boelё
u]で
ぁ る。その他 の地域,つ
ま リア ドゥール川以南,Born,Ma‐
rensin,Marsanそ
してLannemezanの
周辺 では [―lieu]が縮約 され,1が
口蓋化 した [bёleu]が
み られ,1は
しば しばyに
まで 達 してい る。 た とえばBayonneに
は[bi'ёu],Riscleに
は[b6yeu]の
よ うな形がみ られ る。II―
i]広
母音0の
後 ろに 口蓋音が くる場合II―
i-1) 0+C
Cが
単独 で0を2重
母音化 した 例 は数少 ない。focu, locu,jocu《feu,lieu,jeu》 の うち,後
ろの2語
中のOは
2重
母音化せず,通
常 の広母音 と同 じ過程 を経 て現段階 に達 してい る。す なわ ち,locu(m)は
locに
,jocu(m)は
jδc∼yOcに
帰着 してい る。 ところがfocu(m)の
語 中では 0が
2重
母音化 した。語頭 の歯唇音f(後
に変化 してhに
な る)が
2重
母音の発 音 に適 していたか らであ る。(ロ ル フス 429)ロンジャはfOcuについて以下のよ うに述べ てい る。《λο%θθ avec一 θ一
moyen
36
ガス コーニュ方言における二重母音化 を経 た広母音 e,。 の発展形 についてou ferm6,passant a[―
γ一]en Maremne.》
(ロ ンジャ §102),ま た,《Beau¨mont-lёs一Lomagne ttθε, probablement forme originalement proclitique;
。¨dans le dёpo Gironde, les pays de Buch, Born, la Grande一 Lande, a Luxei et a Luxei et a Houeilles: ん%θ ;…。a Aigui1lon, んδι, et Eauze, 乃θθ; Brassenx et L〔 arensin んο%οθ; bande 6troite d'Albret Oo et de :Brassenx
[hw&k],entre l'aire deん ο%θε et celle de ttο %οθ
;en pays de Gosseん
οθ,r6duction deん ο%οθ》 (ibid.)以 上 の記述 は
, ALG上
でLandes南
西部,parler noirの領域 にみ られ る [wo∼o∼
oe]の
錯綜 をoか
らweに
変遷 す る 途上 で生 じた変種 と解 せば, ALGの
《feu》 の図版 の示 す ところ にほ とん ど 一致 してい るの ただ し,
こまか い異 同について述べ るな らば次の よ うな点 をあ げ ることがで きる。 ロンジャはPessacに
おけ るこの語中の母音 を [oe]と し てい るが,ALGに
よれ ば同地 は[通]の
領域 に属 してい る。 また, ALGで
は[hw6k]の
領域 に属 す るEauzeに
,
ロンジャのあげた んどθは隣接す る領域か ら影響 を受 けて生 じた形 であろ うと思われ るが,そ
の単母音化の傾向が言語集 団全 体に及 ぶには至 らなか った ものであろ うの この外,ALGで
はCasti1lon,Bethmele
に[uk]が
み られ るのこれ は
EhuOk]の
母音が締i約され, さ らに語頭音 が消 えた ものであろ う。
H―
i-2)0+口
蓋 化音,o+[i∼
y]+子
音口蓋化音の 前 に おかれ た
広母音 の
Oは
2重
母音化 してueに
な り,
後 ろの yと 並置 され て3重
母音 ueiにな る。 この
3重
母音が保存 され てい る例 は ご くわずか であ って,た
いていの 場合,隣
接す る音 の影響 でue,ouyに
,
あ るいは 単母 音eまたはuに
まで縮 約す る。(ロル フス 429)trOja 《truie》
troiaの Oは
現在 ガス コーニ ュ のほぼ 全域 で [u∼ 通]で
あ る。 ロンジャは《
R6duction de Eue]a[_u_∼
_通一
]aprёs consonne+r, 1, exo b. ″
γ
ο
%夕θ
ガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音
e,0の
発展形について37
lom. ιγο勿′ο, Marensin Jγ%夕θ 〈※ Jγσ夕α;[一通―]a 1/16zin, a Houeillё s, dans
le d6p.Gironde,le N.et l'E des Landes(Maillas, Luxei, Albret O.,
Born,Marsan O。
,Brassenx O。,Marensin,Tartas et MareⅡ
Lne);》 (ロ ンジ ャ §
103)と
して い る。M6docの
St一V市
ien, SLYzansの
[treyoe],cissac,Hourtinの
[troeyu]に み られ る
[e],Eoe]は
共 に Ee](〈[赫e])の
変 種 で あ り,後
者 は よ り北 の [e]と 南 側 で接 して い る[通]と を仲 介 す る音 色 で あ る。Soustons,Tarnos,St―Martin―de-1日
hnx,POuillonsの
[troeyoe]はparlernoirに
お け る通 常 の変 化 過程 を経 た もの で あ る。古 い形
Ewe]が
現 在 残 され て い るの は,ALG上
でGave d'Aspeの
Agnos,Aretteに
み られ る[trw6yo]の
語 中 だ けで あ る。 hodie《 aujourd'hui》ガス コーニ ュの北西部では 《aujourd'hui》 の意で
ad+nocteを
語源 とす る 語 を用 いてい る。hodieを
語源 とす る語 を用 いてい るのは la Teste一de一Buch
の南か らエ ール川 に沿 って
Luxeyに
到 る線,Luxeyと
Houeillёsを
結 ぶ線,Mezinの
南 を通 り,BeaumOnt―
de一Lomagneの
北側 を通 って ガ ロンヌ川 に到る線 よ り南側 であ る。 ロンジャは
Luxeyに
お け る形 を ouei(※ui)と
してい るが, ALGで
は明 らか に Eantit]<ad tt nOcte にな ってい る。 この よ うにad+nocteの
南下 はLuxeyに
まで及んでい るが, 緯度か らい えばよ り北 に あ るBornに
は及んでいない。Bornで
はEwoei],Landes東
部,Gersで
は[wё i∼w6i], Hautes―
Pyr6n6es並
びに Ariёgeで
は[(g)w6]で
あ る。 こ のE(g)w6]の
領域 はスペ イ ン領 に続 いてい る。一方,Landes西
部 では Ewあi]とな ってい る。E注
]<[ё
]の
領域 は他 の語 中で同地方 にみ られ る [oe]の範 囲 よ りかな り広 く, BiscarrOsse,Mousteyに
まで広 が ってい る。38
ガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音e,0の
発展形について 語が ガス コーニ ュにあ らわれ る形 はすべ てEwei]及
びその変種Ew&i],[we]
であ り
,縮
約 を仮定 で きる領域 ではad+nocteを
語源 とす る 語 に取 って代 ら れ てい る。folia《feuille》
ALGに
よれば, この語中のOは
St一Vivien,St一Yzansで
[ё]に
帰着 している。
Gironde全
域,Landes北
部では一般にEhiloe]で あ り,そ
の境界はガ ロンヌ川に沿い,南
限はMimizan,Luxey,Capreux,Houillё
sで
ある。 しか し,[通]の
領域内に孤立 して,Pujolsの
[hw61oe]が み られ る。 これは同地で00
《boeuf》 に生 じた変化 [一通
u>w6u]に
牽引 された ものであろ う。[h通loe]の領域 の南 に接す る
Gers,Hautes―
Pyr6n6es,Basses一 Pyr6n6esでは一般 に Ehwёlo,一a,_oe]と な ってい る。
Landesで
は[hwoe10e],SOustonsでは
[woe]が
[Oe]に縮約 してい る。卜wёl―
]の
領域 内に Larressingleの[h61o],BeaumOntの
[61o]があ る。後者 はあ き らか に トゥール ーズ方言
[we>e]の
影響 を うけ た ものであ るが, 前者 は 自然発生 であ る。また
,い
くつかの地 点では1が更 に 口蓋化 してyに
達 してい る。 Morseillan では[hw61o]と
共 に[hw6yo]が
,Boussanで
は[hw61o]と 並んでEwёyO]が用 い られてい る。Carbonne,Cadours lこ も
[hweyo]が
み られ る。 Labastideの[fwёilo]は
1>yの
変化 を経 た上,周
辺の語形 の影響 で新 たに1が挿 入 された ものであろ う。
llll
一 方
,
ロ ンジ ャに よれ ば,St一V市
ienで
は 乃δJttο%[乃沙J%],B6arnで
は一 般に 乃ο%θJttθ
,Targon,Luxey,pays一
de一Buchを
含 む北 西 地 域 で は 勿Jttθ,Pes‐sac,Lacanauで
は通 常[oe]に
な って い る。Hostens,Bazas,Houeillё
s,Grande Landeで
乃%ノんθ,Marsenで
は んθ%θJJθ で あ る。 しか し,同
地 で はガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音
e,0の
発展形について39
とな ってい る。
ALG,ロ
ンジャの記述 を比較す ると,ALGの
示 す Eh通loe]の 領域が ロンジ ャの述べ る ん%Jんθの領域 よ りもかな り広 い。 た とえばLacanauに
おけ る語中の母音 を
,ALGは
[道],
ロンジャは [Oe]と してい る。 この近辺では,本
稿 中に取 りあげた語 ごとに語中の母音の音色が微妙 に異 ってお り
,不
安定 であ る。したが って
,
この語中では ロンジャの調査以後 よ り安定 した[t]に
移行 したことが考 え られ る。 また ロンジャが
Cissacに
あげた [v通 yЭ]は
,か
つて この地点 に E※通
yOe]が
存在 した ことを暗示 してい る。E※通y∝]はfolia>fwelo>
hWe10e>通
10e>uyOe>oeyoe>Oeiの
過程か ら派生 した形 であ り]v一
は語源添加 であろ う。oc'lu/oc'los《oei1/yeux》
oc'lu/oc'losの 語頭 の広母音の
Oに
関す る ロンジャの記述 は,ALG中
の 《al'oeil》 《feuille》 の図版 を比べ合わせた 結果 と同様
, foliaの Oに
ついて行 った記述 にほぼ平行 してい る。 したが って
, ALGの
図版 の比較 に よって明 らか にな る 《oeil》 《feuille》 間の異 同 と原則 を外 れ た結果 について説 明を加 え ることで充分 であろ う。
Pujolsに おけ るEwe1/wels]は 《feuille》 と同 じ事 由によ る ものであろ う。
しか し,《feuille》 と 《oeil》 におけ る [七
]の
領域 を比較す ると,次
の よ うな相違 が あ る。《oeil》 には Parentis―en一
Bornで
[む1]と 共 に 卜“
1](cf.[f通loe]
《feuillじ》
), Mimizanで
Ew“!](cf.[h通
1∝]《fcuille》), Luё では [g一,wお
1](ALG《
feuille》 の図版 には記載な し)の
よ うな形がみ られ,[通
]の
南限 は 《feuille》 に比較 して北 にあ る。 これ は 《oeil》 の
Oが
絶対語頭音 にあたること
,
す なわ ち, 2重
母音化 した母音が語頭 に 来 た場合,
調音上の便宜 から
,単
母音への縮約が さまたげ られ る傾 向にあ ることによる もの と思われ るも40
ガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音e,0の
発展形について[通1/通ls]の 領域 よ り南では一般に
Ewel_]で
ある。parler noirの 領域では[woel]と なるが
,Tarnosで
は woeが あ に縦約 している。[通!/通
ls][(g)wel][(g)woel]に
囲まれた3角
形の領域 (Labrit,Sarbazan, St一JuStin, Villeneuve,Lubbon,Grenade,Mazerollesが 含 ま れ る)で はこの語中の 母音 を鼻音化 し,wё としてい る。 この鼻音化 は 1>事 に よって生 じた語尾 の
0に
よ って 誘発 され た ものであ る。Gers,Hautes―
Pyr6n6esに
は [w61/w61s]に 混って
1が
yに 口蓋音化 し
た形が散在 している。
la Ramieu[wё
i/wёiβ],Larressingle[wё
1/wei¢],Cadours[wё
i/wёis],Boussan[gwё
i/wёls],Caubous Ew6i/w6is],S6m6ac
[w61,wei/w61s],Arreau[w61/weis],Arrens Ew6i/w6iβ
]。また
, Ariё geの
le Mas―d'Azilを中心に [(g)wei1/wels]の 領域がある。 複数語尾にみ ら
れる
[β]は
[s]が 口蓋化 したものであろう。
《oeil》 におけ る
w61>weiの
変化 は後 に述べ る 語尾 化 と 影響 し合 った ものと思 われ る。
coxa《culsse》
coxa lま
M6docの
北部地方 で,
ケル シー,
低 リムーザ ン南部方言 と同様 に[kёiso]とな ってお り
,
その うち St―Vivienで
は [is]が [β]に
縮約 して[kёβ
u]に
な ってい る。M6docの
南部, St一Yzansで
は [kёiβoe],Cissac,Houtin,Castelnauで
は [kあiβ∝]で
あ る。0が
[通]に
帰着 してい るのはLacanau,Buch,Landes Jヒ
剖ζ, Bazas,Luxeyに
おいてであ る。 それ らの地点では[ktβoe]と な ってい る。Pujolsの
[kw69oe]は
《boeuf》 《feuille》 にみ られ るの と同 じ発展 であ る。Captreuxに
おけ る [kёβoe]([k通 βoe]× [kwёβoe,_o])を
境 に して,南
側 には
[we]と
その変種が残 ってい る。N6racais,Lomagneの
一部, Va116e deガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音
e,0の
発展形について41
Marensin,Grande Landeの
西部,BayOnne,Biarritzで
は [kwあβoe]で
あ る。上記の2領
域 を除 く広 い範 囲 (Labastide,Houillёs,Sarbazanを
その 領域 に含 む)の
ほ とん どを [kw6βo,-Oe]が
占めてい る。 ところで,Puymirol
の [kwё iso]([※ kwё βo])は
ケル シー方言の形 [kёiso]の 影響 を受 けた ものであろ う。 ところが
, BiscarrOsseの
[kwёiβoe]に
は他 の方言の影響 は考 え られず
,
ラテ ン語 のx[ks]か
ら[β]へ
の変遷 is>iβ >β がiβ の段階 に とどま ってい る 形 であろ うと 思われ る。
Aretteに
もこの 同化作用 を 蒙 っていない形Ekweiβ
]が
残 ってい る。Pontacq,Arrens,Loundes,Barёges(及
びLannemezanに
お い て通 常 の EkweβO]と
並 存 す る)Ekuβ
a]に
関 して,
これ を北 部 の [kttβoe]に
結 びつ け る根 拠 はな い。 お そ ら くア クセ ン トの位置 の異常 が動機 で この形 に帰着 した も の と思 われ る。 一 般 に ア クセ ン トは2重
母 音 の うち,よ
り聞 こえの強 い音 ― し たが って後者 ― に おか れ る。 ところが この移行 が さまた げ られ る と後者 は消滅する。 したがって
,この地方では次のように変化したものと思われる。coxa>
[※kuoksa]>[※ kuisa]>Ekuβa]。
この ことは 次の ロンジャの 記述 と も一致 してい る。 《St一Vivien g%ε θλο%,
Lacanau
θ%θんι, TargOn, Luxey, IBuch θ%εんι, Hostens, Bazas, Houcillёsθ%θttι
,Grande Lande
θ%ιθttθ,B6arn
θθ%診θんι.》octo《huit》
この語 には一般 に予測 で きる語形 とは違 った ものがい くつかあ る
lロ
ンジャによ ると
,ガ
ス コーニ ュの大部分で θ%θづι,parler noirの
領域 では ιがαにかわ り ο%αづι
,Grande Lande,Born南
部,Albret西
部, Brassenxの
一部 でEwoeyt],Brassenx,Maremneで Egwoeyt],HOstensで
は[赫eit]([※oeit]),Luxey
θ%θづι(※uit),St一Vivien Etteit](※eit)のよ うな状況 であ る。42
ガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音e,0の
発展形についてueか
ら 嚇eを
経 てeに
至 る 過程 の うち,
単母音化す る以前 の段階 をあ らわ してい る。 絶対語頭音 であ ることが 主 な動機 にな って [赫ei>ei]の
変化が さまたげ られ た もの と思われ る。 ところで
,
ロンジャが Etteit]と した Hor_tensは
, ALGで
は完全 にEwoeit]の
領域 に 含 まれてい る。[赫eit]は ロンジャの調査以後
,
隣接地域 にみ られ る 規則変化 を した形 Ewoeit]に取 って代 わ られ た ものであろ うか。E通it]の 範囲は ご く限 られてお り
,Buch,Mё docの
南 の一部,Saucatが
その領域 であ る。
ア ドゥール川南岸か ら Bё
arnに
か けての地域 ではEw6it]で
あ る。Born,Marsin,Landes西
部,Brassenxで
は[woeit]が一般的 な形 であ るが,
これ らに語頭添加音 の g一を伴 う例がい くつか あ る。 ピ レネー 山脈 の山間, Aspe,
Aure一
Louron,そ
してCouserantの
3ケ所 には[w6t]の
領域 が あ り,
これ は連続 していない。Adour,Arros,Bouesの
漢谷 には逆 にtの脱落 した [wei] が あ るの この[wei]は
hodieを語源 とす る[wei]の
領域 と境 を接 してい る。 同音異義語 を作 り出 さぬため,そ
の境界線 の西 ではoctoの
語尾子音tを残 し た ものであろ う。一方
,[wei]の
領域 に属 す るMarseillanに
み られ る[wel],Eweit]の
領域 内の
Lourdesに
おけ るEwelt],Bagnё
res― de―Luchonに
おける [gwelt]にみ られ る 1は 《oei1/yeux》 の関与 によって 弓│き お こされ た 過誤訂正 による ものではないか と思 われ る。 この地域 では湿音の1が更 に 口蓋音化 され る傾 向が強 く
,い
くつかの地点で 《oei1/yeux》 が それ ぞれ [wei]/Eweis,一 β]に
帰着 してい る。 ロンジャ,
ロル フスの指摘か ら1問
題 の3地
点 に もこの 1の 口蓋音化が生 じた と考 え ることは不可能ではないと
思われる
もこ
のよう
にし
て
, Ewei]<oc'luは
[wei―]<
ガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音
e,Oの
発展形について43
が周辺 の語形 の影響 によって [(g)wel]に訂正 され る際 に,す
でに全 くの同音と意識 されていた 《huit》 の [wei一
]も
同時 にEwel_]に
変 え られ た もので はないだろ う力>。coctu 《cuit》
この語 には古い段階の形が よ く保存 されてい る。 ガス コーニ ュでは
,ほ
ぼ全域 で (θθttθグιであ り
,parler noirの
領域 ではeが
。eにかわ ってい る。M6doc
北西端部 では θグづ
Jで
あ るが, Cissac,Pessacで
は母音がoeに
な ってい る。Hostensで
はEkoeyt],Bazas及
び Houeillёsで
は θο%づι,St一Vivienで
はg%δノとな ってい る。 ロンジャは以上 のよ うに概要 を述べ た上
,項
を改 め,「 音 声的 には,通
常B6arnで
み られ るよ うに εο%θづι,一′θに帰着す るはずであ る。し力>る│こ, Beau]mont-lёs一
Lo]maene,Cissac,Lacanau,Pessac,Targon並
2びに
Buch
で θο夕 で あ る 。 Beaumont-lёs一Lomgane※
ιο%θづちCiSSac,Lacanau,Targon E※
koeyt],Pessac,Buch[※
koett]の よ うな ものが一般 に予測 され る 形 であろ う。」 と,記
してい る。(ロ ンジャ §103)ALGに
も,
確 か に ラ ング ドック全体 の 通常形 であ る [kδit∼koit]の
影響 が,他
の語 にみ られ るよ りも広 く及んでい ることがみ られ る。 これは ロンジャの述べ るとお り
,動
詞か らの類推が働 くためであろ うと思われ る。 その領域 はM6docの
北端 ばか りでな く, Landesゴ
ヒ部 をかな り広範 に占めてい る。 その 中で,St一Vivienに
[kёit],Castelnauに
Ekoeit]の よ うな 形 がみ られ る。これ も母音 だけを通常の変遷 によって生 じた語に倣 って置 きか えた [koit]の
派生形 であろ う。 しか し
,前
者 は,
ロンジャの調査結果 な どか らみて,非
常 に 新 しく,不
安定 な状態 であ ると考 え られ る。Ekoit]の領域が本来 [kuit]の 占め るべ き領域 を狭 くしてい る。[k通it]は
la Teste一de一
Buch,Hostens,Luxeyに
み られ るにす ぎない。44
ガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音e,。 の発展形についてkw6it]で
あ るのBOrnの
一部,Marensinで
は[kwoeit],Aspe漢
谷のAgnos,Arette `では [kwёt],Arrens,Lourdes, Faget一 Abbatial, Martes―Tolosane
及 びそれ以南の ピ レネー山中では
[kwet]で
あ り, この形 はアラゴンにつなが ってい るのLannemenzan周
辺か ら扇状 に拡が る河川流域 の谷 では語尾 のtが
脱落 して[kw6i]で
あ るのnocte《nuit》
nocteの
広母音 のOは
octo,coctuの0に
比較 して,Ewe]ヵ
>ら更 に[e]に
縮約す る傾 向が著 しい。
ALGの
図版 では, Landesの
東部か らGersを
占め る [neit]が,Moissac,Toulouse,le Mas d'Azilか
ら更 に東 に広が る[neit]とひ とつづ きの 領域 をな してい る。 また ロ ンジャ も
,
本来 ※%ο %θづιとな るはず の Bigorreゴ ヒ部
,Gersの
一 部 , Martes―Toulouse,Carbonne,Lё
gu6vin, Beaulnont一lёs一Lorrlagne,Layrac, Aiguillon,M6zin, H[oueillё s Bazas 'な どで %θづ
J,Parentis,Sabres,M6zos,Soustonsで
は %θ夕EnOeyt]で
あ る と して い る。 この
[w]の
脱 落 は語 頭 の[n]に
よ る同化現 象 で あ る。つ ま りEw]が語 頭 に あ って強 調 され る 場 合 (octo)や
,
口蓋破 裂 音[k]で
支 え られ る場 合(coctu,coxa)と
異 な り,歯
茎 鼻 音[n]の
後 ろで は,Ew]は
明瞭 に意 識 さ れ ず,調
音が 困難 で あ るた めに この現 象 が あ こ った もの で あ る。ところで
,M6docゴ
け嵩では Eneit],中部 では [n&it],Landes Jヒ部,及
びBuchで
は[n通it]で あ るの 以上の発音は ad tt nocte《alliOurd'hui》 の語中におけ る もの と同様 であ るの しか し
, ad+nOcteと hodieの
発展形 の領域 が描く境界線 と
nocte単
独の発展形 が示す発音形 の区分線 には直接 の関係 はない。[an通
it]<ad+nOcteの
南限がLuxeyで
あ るのに反 し,[n通 it]の領域 は更 に 南 に延 び,Grande Landeの
ほぼ中央,Albret西
部 を通 る細 い帯状地 とな ってBrassenxに
至 って い るのMimiZanで
1300年, St―Severで
1368年 に %%ノ がガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音
e,0の
発展形について45
《feuille》 が在証 され てい ることか ら考 えて,少
な くと も13世紀か ら 14世 紀初 頭 にはGrande Lande西
部,Born,Marensin,Marsinな
どで[ntit]が
用 い られ いた もの と思 われ る
,し
たが って,現
在Marensinに
み られ る [ntit] は当時の [nuit]の名残 りであ り,Grande Lande西
部,及
びMaremneの
En“it]は
その母音の 開 口度 を 広 げた もの と 思 われ る。St一Severで
は現在[nwё it]と な ってい るが,これ は同地 が ア ドゥール川 を間に して Brassenxの 対岸 にあ るため
,Ewei]>Eti]の
変化 の波及が不完全 なまま,後
年 よ り伝統 的 な形Ewe]に
再 び取 って代 わ られ た ものであろ う。3重
母音 の痕 を残 してい るのは,ア
ドゥール川 とピ レネー山脈 に囲まれ た地 域 であ る。Bayonneで
は [nwれit],Cha1losse,B6arn南
部 では [nwёit],B6arn,Bic一
Vilhで
は [nwёit]と な ってい る。 ア ドゥール川 の北及 び東 には[―wei一
]を
含 む例 はひ とつ も見 られ ない。D6mu,Jegunで
Eneit],Lourdes,Bordesか
ら ピ レネー山中にか けて[net],Rabantis一de―
Bigorre,Marseillan,Esclassanで
は [n6i∼nёi]で
あ る。 また, Agnos,Aretteで
は3重
母音 の 第3要
素が脱落 して[nwet]と
な ってお り,[w6t]<octo,[kwet]<coctuに
平行 してい る。 ラテ ン語 の一c← か ら発展 した一it一が一tま
たは一iに
縮約 す るのは 後接語 の用 法 に因 る ものであろ う。 縮約 の結果 が一tで
あ るか一iで
あ るかの地理 的パ ター ンは語 によって違 ってい る。 II―ii]広母音0の
後 ろに軟 口蓋音が来 る場合 H一ii-1)o+w,u w,u(<―
v一)が
0の
2重
母音化 を 引 きお こす こ ②とは ご く稀 であ るが
,例
外的に ovu《oeuf》,bove《
boeuf》 の語 中では プ ロヴァンス全域 で
2重
母音化がお こってい る。ガス コーニ ュ方言では
,ALGの
図版 の上 で, M6doc[6u]/[b6u],Grande
Lande,Lomagneゴ
ヒ部 [通u∼ wiu]/Eb通u],Gersゴ
ヒ部Ew6u∼
wёu∼gwёu]/46
ガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音e,0の
発展形についてEb通
u]と
な り, Hautes― Pyr6nnёes,Gersか
らLandes東
部 に至 る広 い領域 で Ew6u∼wёu∼gw6u]/Ebw6u]と
な ってい る。以上 の記述 に明 らか なよ うに
[(w)tu]の
領域 と[buu]の
領域 は完全 に一致 してい るわけではない。
Ebtu]は
切れ 日のないひ とつづ きの領域 を形成 してい るが
,[tu]は
ふたつに分断 され,一
方 はGrande Lande,他
方 はLomagne
北部 に,
いずれ も[bttu]の領域 内の 島の よ うな 形 にな って い る。 これ は,[tu]が
母音 だけで構成 され た単母節語 であ る うえ,
その母音の間に開 口度差 もほ とん どない とい うことによ る ものであろ う。す なわ ち,発
音が困難 であ る ため隣接す る 領域か ら一 よ り北 の6u,
よ り南のw6uな
どの一影響 を受 けて 異化が生 じ,
通u>6u,w6uの
よ うに変化 した ものであろ う。 一方,Eb通u]の
場合 は語頭の
bが
E―通u]の
発音 を支 え,
通か ら6,w6へ
の変化 を必要 と しなか った もの と思 われ る。 しか し,《boeuf》 に も
Captreuxの
[beu],St一COme,
Pujolsの
[bweu]の
よ うな形 がみ られ る。前者 は [6u]《oeuf》 か らの類推, 後者 は 《oeuf》 か らの類推 を主 な動機 と して, Eb通u]と [beu]の
混潜か ら生じた もの と思われ
,
広 く南 部 を占め る [bwёu]と
は 直接関係 ない と考 えてよ いであろ う。Bayonne,Biarritz,Soustol■
s,Tartasを
含 む 大西洋岸 の 地域 では 一般 に Ewめu]/Ebぬu]で あ るが,以
上 の形 に並んで, Tarnos EbyOu],Ygos Ebou,
byoeu],Castets Ebou,boeu],BayOnne[bё
u]な
ど 《boeuf》 をあ らわす語 形 がみ られ る。Millardetは この地方の多様 な異種 を後続 のWに
よってoeが 同0
化 され た結 果 と して い る。 《Ces exemples mOntrent que lesノ ferm6 secOn‐ daires issus de la diphtongaison d'une σ latin devenu 霧ノ (bttι復′<bσ υθ7,o)
ont subi la lnerne labialisation devant le ω
subs6quent:dOnc
υグω<ωαω<ω
ιω<※ συ%πou
ωOω<ω
αω<ω
ιω<〔※συ%“,de mOmeち
グリ <※ ちω%ω<〔※ガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音
e,0の
発展形について47
manquante
ちりα復,est repr6sentё parちづα復,ou
ら夕αω qui en est sorti par dif6renciatione De lnerrle※ ちりοω est remplac6e parちづοωouち
づθω.》この2語 に関するロンジャの記述は次のとおりである。
Aquitaine南部 ο
%ノ%∼
(∂ο
%ノ%/bθ%び%,Grande Lande,Born, Luxei%ο
%/わ %θ%,Layrac,Mё
zin Lo]magne %ο%/b%ο%, Riscal, Eauze, Jegun
θ
%ノ%/b%θ %, Beaullllont一 lёs―Lomagneグ ο
鴨∼づ
σ
/bづδ
眺∼
bづδ
,Aiguillon,M6doc,Bordeau,Lacanau δ
%/bδ%,Soustons,Pouillon,Bayoune,Biarritz
ο
%ノ%/bυ%, Hostensノ
%/bノ%,Buch
ε
%/bι%[bα
ω
], Bazasノ%/bδ%,bο%ノ%,Houeillё s診%/bδ%,bο%ノ%,Brassenx,
Marensin,Albret西
部 [(g)御οω]/bδ%,Maremne,Tartas E″
αり]ルづθ%[わノθω∼b卯知]。 Urt, Ste_Marie一de―
Gosse, Dax, Monfort, Maremne, Grande
Landeで
は強勢 のあ る母音 は一般 に狭 くな り,6u/b6uの
強勢 のあ る母音 と同 様 [oe]で あ る。 したが って,[υα%/bα%]。この
2語
については,
ロンジャの記述 とALGの
記述 の間 に著 しい相異 は ない。 ただ し, Hostensに
おけ る形 を,
ロンジャは [6u]/[bёu], ALGは
[通u]/[b通
u]と
してい る。 これは,す
でに述べ た とお り,Ecu]と
[b通u]の
境 界線が不安定 であ るため,そ
の線 に近 い地点 では,必
ず しも発音 は固定 されて いない とい う事実 のあ らわれであろ う。 また,Bazas,Houeillё
sで
は [―eu,一
weu]が
混在 し,
しか も, eの
開 口度 が一定 でないが,
これ は元来 [一uu]の
領域 に属 していた この地ノ点で E一
ew,_wew]の
影響がまだ固定 していない ことに よ る ものであろ う。開 口度 はその差が弁別 的 であ って も
, paire minimum
の対立 を欠 くときには比較的ル ーズであ る。
以上 の分類
,分
析か ら, 2重
母音化 を経 た広母音 のe,oが
現在到達 した形 を,次
の よ うに言 うことがで きよ う。48
ガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音e,0の
発展形について 化 した形 で消 えてい ることが多い。Ee]へ
の縮約 は北部 で著 しく 口蓋化子音+[e]が
見 い 出 され るのは南部 においてであ る。 [ie]及び また, eの
現状 に関す る記述 にはALG,
ロンジャ,
ロル フスの間に著 しい 食 い ちがいがみ られ ない。 これ は,
この3者
の うちの最 も古 い調査が行なわれ た時, eの
発展形 はす でに現在 と同 じ状態 に達 してお り,同
一調査地点 で,調
査 の対象 (年齢,階
層,他 )に
よって相違が生 じた り,同
一人物が時 によって 違 った発音 をす るな どの 余地 が なか った ことに よ る もの と 思 われ る。す なわ ち,現
段階への帰着が比較 的早 い時期 に終 了 し,
しか も現状態が非常 に安定 し た ものであ るとみな してよいであろ う。0の
発展形 には,外
見上,法
則 化が困難 であ ると思 われ る変種がか な り見 う け られ る。しか し,ご
く限定 され た条件下におかれて特異 な発展 を した ものや, 他方言か らの借用形 を除 けば, M6doc,Girondeの
北部 でEe],B6am及
びPyr6nn6es山
麓地方 でEwe],
その中間でEu]に
帰着 してい るとい うことが で きる。 この うち,
どの語 について も北端 に限 られ た領域 を占め るに とどま る[e]を
別 にすれ ば,
ガス コーニ ュにおけ るOの
発展形 は 北部 を占め る通型 と南 部 のwe型
のふた とお りであ る。 北部 の通型,
南部 のwe型
とい うこの相対的 な 位置関係は分析の対象 と した いずれの語において も 入れかわ る ことはないの しか し,通 型 の 占め る 領域 とwe型
の領域 の間の区分線の位置 は語 によってま ちまちであ る。 た とえば,《truie》 は先行す るrに支 え られ た 通が ほぼ ガス コーニ ュ全域 を 占め るのに反 し,《cuisse》 はGirondeの
Saucatが
通の領域 の最南地点 にな る。仮 に 《feu》 の 通 とweの
境 界 を規準 に とると,《feuille》 が ほぼそれ に一致して
,Grande Lrande南
部,Albretを
東西 に横切 る。《huit》《cuisse》 《cuit》《oeil》 の線 はそれ よ り北 にあ り,《 feu》 の線 と交 ることはない。逆 に,《nuit》 の
ガスコーニュ方言における二重母音化を経た広母音
e,0の
発展形について49
のweは
Bornの
全域 を含 むが東部 ではLomagneの
中部 に しか及んでいな いの また,《oeuf》 《boeuf》 の線 は 《feu》 の線 よ り北へ は出ない。つ ま り,《huit》 《cuisse》 《cuit》 《oeil》 は
weの
領域 が 北部 に も広 が り, 《feuille》 はそれ よ りもやや南 に,《oeuf》 《boeuf》 の場合 は南部地方に限定 され てい る。 したが って中部では
,
これ らの語の うちい くつかの語 中でt,他
の い くつかの語中で古 い 段階のweを
用 いてい ることにな るが,
日常生活 で 語 源 を意識す るわけではな く不都合 はないであろ う。 しか し,相
方 の音が共 に用 い られ る地方ではそれ らの発音がやや不安定 な状態 にあ ることは疑 いのない こ とであ る。 圧 (1)「中世 フランスのテキス ト研究」第2章(2)Po S6guy編集。以下
ALGと
略称す る。(3)Ronja著
。 以下 ロンジャと略称す る。 (4)Rohlfs著。 以下 ロル フス と略称す る。(5) Par une 6volution sOrement tout ι ancien forin6 s'est arrondi enグ (=ι %) dans le dialecte maritilne des Landes, entre Arcachon et iBayonne,d6sign6 sous le nom de `Parler noir'(ロ ル フス 426)
(6)E16ments de linguistique romane;§ 180
(7)eの
後 ろに軟 口蓋音が続いて も,次
の よ うな場合には2重母音化 しない。(i)u,wカ
ルくロクシ トンのアクセ ン トのあ る音節末にあるとき。eb(u)lu《hiё‐ble》 にみ られ る語頭の [y∼j]は 2重母音化 の結果ではな く他 の語 と結合す ると き
,特
に母音で終 わ る語が前 に くる場合に,音
節数 の少 ない この語 を支 えるために 付加 された音,す
なわ ち統辞的 に生 じた半子音であ る。(ii)Wが
外破 にな るとき。 levare《se lever》 の活用形 の語頭子音が 口蓋音化 し た例が, Basses_Pyr6n6es, Hautes― Pyr6n6es, Landes にみ らオLる。こオ■は類推によるものであろ う。つま り, ※leu(<lev5,一 e(m),一 et)な ど
, w(<u)が
内 破になった語中では eが 2重 母音化 し,この母音に影響 されて 1が 口蓋化 され る。 この ときWが
内破音化 しなか った他の活用形中で もこれに倣 って 1が 口蓋化 された ものと思われ る。 (iii)子 音の前の1,
または語末の 1, 11を 起源 とす るu,wは
2重 母音化をお こさない。 (8)※ は通常の変化原則か ら推定 され る形であることを示す。50
(9)スペ イ ン領Biela,Benasqucにおいて[gw6。]
α
O《
oeuf/b∝uf》 の項を参照。《oeil》 《cuisse》 についても同様である。 llll ガスコーニュ方言における綴字 lhは 湿非化した1を示 している。oa la sauve lま [uloe,uyOe]の ような形が現実に存在する。
αЭ 同じことが 《huit》 《∝uf》 に もあてはまる。このように語頭にくる母音を1'ini‐
tiale vocalique absoluc(絶 対語頭母音) という。 αり
]>0ロ
ンジャ §4∞0う 強勢は [kuoksa]の uに おかれている。
α
O
丸括弧内の語は原則から仮定される語形である。lle《。ei1/yeux》 の項を参照。
α
O
一lh>i;autres van6s de Lavedan,(Arrens,Cautrets,Gavarnie);Saint_B6atet Val d'Aran(ロ ンジャ§400)
(Arrens,Argelёsにおいて)ouёyS<oculos(ロ ルフス429)
器翼
iSl:ilEF,71翼
,ヤTし
二
l∫lyず
が
7孔15Fが
み
粥
Ltt bwe∫
司
0ゆ ロンジャ §103
の 子音 Vの 前では広母音 Oは 一般に aに かわ る。 cophinus>※co宙nus>caben《ru¨
che》,novam>navo。 他方
,Vが
語末あるいは他の子音の前にあるとき,この Vは 有音化 して uに なり
,広
母音0から変化 して aに 変わった母音 と共に 2重 母音auの源 となる。novem>nau,dies Jovis>dijaus,diyaus(ロ ルフス430)
IЭ Linguistique et dialectologie romanes;PIlum 《cheveu, poil》 (p248), ※δvu,
bovem《oeuf》 《boeuf》 (p250)
資料及び参考書 目
J・ S6guy;Atlas Linguistique et ethnographique de la Gascogne(Toulouse, 1956
-1966)
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