自叙写真法 による 自己認知の測定 に関す る研 究
向 山 泰代
酔ξ黎へ
380169
目 次 第
I部
序 論 第1章
自己研 究 にお け る写真 の使 用 ………・・………・ 1。1
写真の使用 目的 と特長 ……‥……… 1。1.1
情報源 としての写真の使用6
1.1.2
撮影活動や写真呈示による効果を目的 とした使用8
1.2
自叙 写真 としての使用 ………・・………‥……。・10
1.2.1
自叙 写真法 の概要 と目的1.2.2
自叙写真法の特長1.3
自叙 写真法 を用 いた先行研 究 …………・・………・・……… 16 6 6 0 41.3.1
自叙写真法の手続 き1.3.2
自叙写真 のカテ ゴ リー分類1.3.3
自叙写真冊子 の印象評 定1.3.4
事例的アプ ローチ 1。3.5
日本 にお ける自叙写真 の研究 16 18 20 22 23 第2章
問題 の所在 と本研 究 の 目的 ………・ 第 Ⅱ部 自叙 写 真 に表 現 され た 自己 関連 世 界 第3章
被 写 体 か らみ た 自己関連 世 界 …‥………‥……・3.1
被写体にもとづ く自叙写真の分類 …………‥………3.1.1
人物・場所 。物の分類35
3.1.2
下位カテゴリー別の分類39
3.2
分類 に使 用 され たカテ ゴ リー の数 ………‥‥……… 3 3 3 33.3
自分 を表現す る上で重要 な対象 ¨………3.3.1
重要度 の高い 自叙 写真 の被写体3.3.2
重要度 と被写体の撮影枚数 。出現比率 との関係3.3.3
自叙写真へ の評価 と重要度 との関係3.4
人物写真 に表現 され る内容 …………・・・・‥‥……‥。・・・…‥・・……‥‥3.4.1
自分 を単独 で写 した 自叙 写真 の表現内容53
3.4.2
被 写体 に他者 を含 む 自叙 写真 の表現内容53
3.5
物写真 と場所写真 に表現 され る内容 ………3.5.1
物 を被 写体 とした 自叙写真 の表現 内容57
3.5.2
場所 を被 写体 とした 自叙 写真 の表現 内容60
3.6
第3章
ま とめ‥………‥………。・・・―………・・………61
第4章
情 緒 的 意 味 か らみ た 自 己 関 連 世 界 ………・4.1
情緒的意 味に もとづ く自叙 写真 の分類 ………‥‥4.1.l SD法
による自叙写真 の評定67
4.1.2
情緒的意味 に もとづ く自叙写真 の類型化69
4.1.3
被 写体か らみた 自叙 写真 の5類
型 の特徴70
4.1.4
自叙 写真 の5類
型 の特徴記述71
4.1.5
自叙写真へ の評価 と自叙写真 の5類
型 との関係79
4.2
自叙 写真 の5類
型 か らみ た研 究参加 者 の特徴 …… … … ……… …… …… …81
4.3
第4章
ま とめ ¨……… 第 Ⅲ部 個 人 要 因 と 自己 関連 世 界 との 関係 第5章
心 理 的 特性 と 自叙 写真 との 関係 ………‥‥・・…。・‥‥・・…・5.1
パー ソナ リティ特性 との関係 ………5.1.1 5因
子性格特性 と人物写真の撮影枚数 との関係91
6 0 0 4 5 5 5 5 6 6 9 95.1.2 5因
子性格特性 と使用 カテ ゴ リー数 との関係95
5.2
自己意識特性お よび社会的不安特性 との関係 ………・・…………5.2.1
自己意識 。社会的不安 と人物 写真 の撮影枚数 との関係96
5。2.2
自己意識 。社会的不安 と使用 カテ ゴ リー数 との関係99
5.3
先行研 究 との比較 ………100
5.3。1
人物写真 の分析 について5.3.2
使用 カテ ゴ リー数 について 5。4
第5章
ま とめ‥………¨………‥・・………・・……‥・・………104
第6章
20答
法 に よ る 自 己記 述 と 自叙 写 真 との 関係 ………‥‥・・…6.1
自叙 写真 に表現 され る内容 ……‥・・………・・………。・………… 6。1.1
表現 内容 に もとづ く自叙写真 の分類106
6.1.2 20答
法 と自叙写真法 の表現内容 の比較110
6.1.3
研 究参加者 の 自由記述 か らみ た表現 内容110
6.2
自叙 写真 の表 現 の特徴 … …… …… …… … … …… … … …… … …… …113
6.2.1
自叙写真 の表現の具体例 6.2。2 20答
法 と自叙写真 法 の回答事例6.3
第6章
ま とめ………122
第 Ⅳ 部 自叙 写真 法 の適 用 の 実 際 第7章
自叙 写真 法 の 臨床 現 場 へ の適 用 ‥‥・・・・………7.1
自叙写真法の実施事例 ¨・・‥‥‥………‥………‥…・・……… 7.1。1
撮影 日数 と撮影枚数か らみた特徴131
7.1.2
被写体の選択か らみた特徴132
7.1.3
被写体・表現内容・表現理由 。撮影への取組み133
0 3 0 0 3 6 5 5 0 0 7 7 2 27.2
第7章
ま とめ …・・………。・………‥………149
第8章
自叙 写真 法 の再 実施 ………‥……‥………・8.1 5か
月後の再実施結果………・8.1.1
再参加者の参加理由151
8.1.2
撮影 日数 。撮影枚数 。被写体の比較151
8.2 2冊
の 自叙写真集 の表現内容やテーマか らみた参加者 の類型化 ……‥‥。 1538.3
第8章
ま とめ ………175
第9章
自叙 写 真 集 ・ 自叙 写 真 法 に 対 す る研 究 参 加 者 の 評 価 ………177
9。1
研 究へ の参加 の面 白さと自叙写真への取 り組み ………177
9.1.1
研 究へ の参加 と取 り組み177
9.1.2
自叙写真 お よび 自叙 写真集への評価178
9.2
自叙写真集 に対す る研 究参加者 の感想 ………‥‥。・………180
9.3
第9章
ま とめ………‥………184
第V部
総 括 第10章
本研 究 の ま とめ と今 後 の課 題 ………・10.1
本研究のまとめ・・…………‥…………・・………・10.2
今 後 の課題 … …… … … …… …… …… … … … …… … … … …… … … …… …。 192 引用 文献 ………‥………‥………197
0 0 5 5 7 7 8 8 謝 辞資 料 資料
1
被 写体の分類 カテ ゴ リーの設 定 資料2
主要 な先行研 究で使用 された 自叙写真 の分類カテ ゴ リー と内容 資料3
自叙写真 の実施方法 の吟味 資料4
自叙写真集 の記録用紙 と質問票 資料5
高垣(1974)に
よる20答
法 の分類 カテ ゴ リー とその内容 資料6
自叙写真 のクラスター分析結果の詳細 資料7
自叙写真 のクラスター別 の被写体 と表現内容 資料8
半構造化面接 にお ける振 り返 リシー トカ メラや写真 は、我 々に とって身近な ものである。 カメラの歴史は
16世
紀 のカメラ 。オブスキュラに始まるが、1839年
のタゲ レオタイプ・カメラによる 写真技術 の実用化 を経 て、1889年
に コダ ック社が ロール タイプのフィル ムを発 売 して以降、大衆化 し、我 々の生活 に広 く浸透 した と言 われてい る。 かつて写 真 は肖像画 の代替物であ り、旅先や記念 日の出来事な どの非 日常を記録す るも のであった。現代 の 日本 では、多 くの人が ロール フィル ムを装填す る通常のカ メラに代わつてデ ィジタル・カメラを所持 してお り、 これ らに加 えて撮影機能 付 き携帯電話やイ ンスタン ト・ カメラ、プ リクラの よ うな街頭 の機器等 を利用 して手軽 に大量に写真 を撮 るよ うになつた。写真 を撮 り、所有 し、折々に写真 について語 つた り、交換 した り、加 工 した り、 といつた写真 をめ ぐる様 々な行 為 は、安価 で操作 しやす い機器 の普及 によつて、我 々に とつて 日常的な もの と なつた と言 えよ う。 その一方 で、写真や写真 に関す る行為 についての心理学的な研究 は少 ない。 写真 をめ ぐる一連の行為一 撮影 の対象 を見出す、構図を決 める、撮影す る (シ ャ ッター を押す)、 現像す る、見 る、所 有す る、語 る、交換す る、加 工す る一 は、全てが選択 と決定 を必要 とす る極 めて主体的・能動的な行為である。 この よ うな行為 自体、あるいは この よ うな行為 を経 て我 々の 日に触れ ることになる 写真 は、当人 に とって、また見 る人に とって心理学的な意味を持つ ものであろ うし、それ ゆえ 自己理解や他者理解 のための手段 。素材 として利用できると思 われ る。 しか しなが ら、心理学の研究の中では写真 とい う素材や写真 をめ ぐる 行為 が、 自己理解や他者理解 のための手段 として積極的に評価 されてきた とは 言いがたい。Allport(1942大
場訳1970)は
手紙・詩・ 描 画 な どの個人的資料 を人間理 解 のた めに利用す るこ とを提案 したが、 ここに写真 を加 えるこ とは可能 であろ うか。 また、個人的資料 としての写真 は、 どの よ うな点で人間理解 に有用 なの で あろ うか。本論文は、写真、特 に 自分 自身 を表す 目的で撮影 された “自叙写 真 (autO‐photography)"を
自己理解 や他者理解 のために利用す る こ とを主唱 す るものである。本論文は以下の よ うに構成 され る。 第I部では、 自己研究 における写真 の使用 について先行研 究 を展望 し、 これ までの研究結果 か ら導かれた問題意識 と本研究の 目的について述べ る。第1章では、写真 とい う素材 の特長 を明 らかにす るため、まず 自己研 究の中で これ ま で写真 が どの よ うな 目的で使用 されてきたかを述べ る。続 いて 自叙写真法の概 要 と創案 の 目的、研 究方法お よび査定 。治療 の手段 と しての特長 をま とめ、 自 叙 写真法 を用いた先行研 究 を展望す る。第
2章
では、先行研 究で これ まで明 ら かに されてい ることお よび何が課題 として残 つているのかを論 じ、本研 究の 目 的 を示す。 本論文 の Ⅱ部 か らⅣ部 は実証部分 である。 第 Ⅱ部 では、研 究参加者 の 自叙 写真 に見 られ る一般 的特徴 について報告す る。 第3章
では、被写体 にもとづいて 自叙写真 を分類 した結果 を示 し、併せ て 自分 を表現す る上で重要 と判断 された 自叙写真 について報告す る。第4章
では、セ マ ンテ ィック・デ ィファレンシャル法 を用いて 自叙写真 の情緒的意味を調べ、 その結果 にもとづいて 自叙写真 を分類 した結果 を示す。これ らの分析 を通 じて、 研 究参加者 の 自己に関連 した世界 が どの よ うな対象 を通 じて表現 され るのか、 何 が重視 され てい るのか、またそれぞれ の 自叙写真 に対 していかな る情緒的意 味づ けがな され てい るのか を検討す る。 第 Ⅲ部 は、個人要因 と自叙写真 との関連 について報告す る。第5章
では、パ ー ソナ リテ ィ特性や 自己意識 。社会的不安 といつた心理的特性 と自叙写真 の被 写体 との関係 について、人物 を被写体 とした 自叙写真 の結果 を中心 に報告す る。 第6章
では、20答
法 と自叙写真法 に表現 され た内容 について比較 を行 う。両方 法 か ら得 られ た表現内容 の相違 について述べ る とともに、事例 の検討 を通 じて 自叙写真 法 に よる表現 の特徴 について考察す る。 これ らの分析 を通 じて、既存 の性格検査や心理尺度等か ら得 られ る回答 と自叙写真法か ら得 られ る回答 との 関連や相違 を示 し、 自叙 写真法 を用い るこ とで分か るこ と、お よびそれ が 自叙 写真法 の どの よ うな特徴 に よるものか を考察す る。 第Ⅳ部 は、 自叙写真法 の適用 の実際 として、個人の 自叙 写真集 に焦点 を当て た分析結果 を報告す る。加 えて、 自叙写真や 自叙写真集 に対す る研 究参加者 の 評価 について述べ る。第7章
では、 自叙写真法 を臨床現場で実施 した事例 を報 告す る。 第8章
では、5ヶ 月の期 間を経て2度
の撮影 を行 つた者 の 自叙写真集 を紹介す る。第9章
では、 自叙写真や 自叙写真法 に対す る研究参加者 の意見や 評価 を調査 した結果 を示す。 これ らの分析 を通 じて、個 々人の 自叙 写真 を冊子として見 ることの意義 を示 し、 自己理解や他者理解 のための手段 として 自叙写 真や 自叙写真法がいかなる点で有用であるかを考察す る。
第
V部
は、先 の実証部分 を受 けての総括である。 ここでは、本研 究のま とめ第
1章
自己研究 における写真の使用1.1
写真の使 用 目的 と特長1.1.1
情報源 としての写真 の使 用 まず、写真 が これ まで 自己研 究の中で どの よ うな 目的で使用 され てきたのか について、写真 を情報源 とす る、撮影活動 による効果 を得 る、写真 を見 ること に よ り効果 を得 る とい う3点
か ら整理 し、それぞれの使用 目的が写真 とい う手 段や素材 の持ついかな る特長 を踏 まえた ものか を述べ る。 第 1の使用 目的 は、写真 を何 らかの情報 を得 るための資料 として用 い る場合 である。写真 は表情や 姿勢や空間位置な ど、人の非言語的な表出を記録す るた めに しば しば用い られてきた。非言語的表出は言語 に よる表出 と比較 して無意 図的 。無意識 的 にな され ることも多い。 この よ うな無意 図的 。無意識的表 出 を は じめ、言語 による表 出か らは捉 えきれない表出の有様 を写真 はあ りのままに 写 しとつて伝 えるもの と見な され てきたのである。人 々の 自然 な姿勢 か ら性別 に よる表出の違いを検討す る (Mills,1984;Klein,1984)とか、家族療法 にお いて家族写真 の人物間の距離か らメンバー間の情緒的繋 が りを調べ る (Kaslow&Friedman,1977)な
どが この例 である。 写真 は現実を伝 える情報源 としてだけでな く、人の内面 を理解す るための情 報源 とみな して使用 され るこ ともある。特 に当事者 自らが撮影 した写真 は、 こ れ を深 層 心 理 の表 現 と見 な して 治 療 の 中で用 い た り(Akeret,1973;山
中, 1976)、 心的世界の表現 と見な して投影的 に解釈 した り (野田,1988)と
い つ た使用例がある。 この うち野 田(1988)は
、1980年
代 の都 市 に住 む子 どもや 若者 の生活や成長 を理解 し、彼 らの生 きる世界 を描 写す る調査の一環 として子 どもや若者達 に一 日の生活 を撮影 して もらうことを試みた。具体的 には、30人
程度 の子 ども と若者 に 2、3本
の フィル ムを渡 して “一 日の生活、お よび好 き なモ ノ"を
撮影 して も らい、同時 に子 ども自身 に よる撮影 日の行動記録 と両親 に よる子 どもの情報 を収集 した1。 “カメラを人間の心 を覗 き、写真 を人間の心 を写す もの として使用す る"と
い う着想 の もと、野 田によつて発案 された この 1子ども自身 による行動記録 は普段 の 日と休 日の 2日 の朝か ら夜 まで一 日に した こ と(上段)、 それ についての感想 (下段)を記入す る ものであ り、両親 が子 どもの情報 として記入す る こ とは住宅地環境 、家族構成 、通学校等であつた。方法 は、写真 による環境世界の投影的分析法、略 して写真投影法 と呼ばれてい る。解読 は、まず写真 を見てその子 どもの世界 を構成 し、子 どもの体験 を想像 し、その後 に行動記録 と子 どもについての情報 を参照す る とい う方法で行われ た。解読の視′点となつたのは、何 を写 したか、何度繰 り返 し写 したか、 どんな 角度 で どこか らモ ノに向か ったか、被写体 と子 どもの関係 、人がい るかいない か、生活 のス トー リーはあるか、等であつた。 結果 を紹介す る中で、野 田
(1988)は
一 日が物語 として構成 された写真 と自 分 の行動 について生 き生 き した感情 を行動記録 に書いてい るとい う農 山村部 の 子 どもの例 を冒頭 に挙 げ、次いで一 日の物語が構成 されていない写真 と感動の 少 ない行動記録 を書いた都市部 の子 どもの例 を挙 げて両者 を対比 させてい る。 また都市部 の子 どもの写真 として、室内の事物や家の周囲の無機的な構造物、 空や テ レビ番組 の画面 を繰 り返 し写す といつた事例や、人間 (特に仲間)の
写 真 が乏 しく、代 わ つてぬい ぐるみ、 ラジコン、ゲーム機 とい う事物 を多 く写 し た事例 を挙 げ、 これ らの結果 をもとに文化精神 医学の立場 か ら、 この時代 の都 市 に生 きる子 どもの状況や世界 について論 じてい る。 野 田(1988)の
写真投影法は、青少年 を対象 に “一 日の生活、お よび好 きな モ ノ"を
撮影 させ るものであったが、何 らかの教示 の も とで研究参加者 に写真 撮影 を求 め、撮影 され た写真 を研 究の対象 とす ることは これ以外 に も実施 され てい る。都筑(2005)は
写真投影法 に よる研 究2を展望す る中で、研 究参加者 が写真 を撮影す る と言 う。方法 には “個人が見た環境 (外界)を
捉 える"と
い う側 面 と、“個人 の心理的世界 を捉 える"と
い う2つ
の側 面が含 まれ てい ると 述べ てい る。そ して、 これ ら2つ
の側 面は相互 に関連 してい るものの、 これ ま での研究では どち らか一方 に重点が置かれてきた と言 う。 都筑(2005)で
は、前者 の個人が見た環境 (外界)の
特性 を捉 える とい う視 点か らの研 究 と して、地理学や都市デザイ ン・都市計画・ ラン ドスケープ研究 等 を紹介 してい る。 この中には、子 どもの生活環境 の調査や住人 による街 の景 観 評価 な どの地 域 空 間や 生活環境 へ の認識 を調 べ た もの (e.g。 上 山 。土肥,2都
筑 (2005)は、自叙写真法を含め、研究参加者 自身が撮影 した写真を研究対象 とす るも の全てを “写真投影法"とい う名称のもとで紹介、展望 している。後続の研究は写真投影法 とい う名称は用いつつ も様々な教示のもとで実施 されてお り、必ず しも野 田(1988)の手続 きを踏襲するものではない。1996)、 あ るいは公 園や水辺 な ど自然景観 に対す る認識 を調べた もの (e.g.中 村 。小林・ 高橋・ 萩原
,2001)な
どを含 めてい る。一方、後者 の個人の心理的 世界 の特性 を捉 える とい う視点か らの研究 として、文化比較 。老年学 。心理学 等 の研 究 を紹介 してい る。 この中にはZillerの自叙写真法 の研 究 をは じめ、高 齢期夫婦 のパー トナー シ ップの調査 (植村,1996)と
い つた対人関係 、価値観 や 自己表現等 を扱 つた研 究 を含 めてい る3。1.1.2
撮影活動や写真 呈示 による効果 を 目的 とした使用 第2の
使用 目的 は撮影活動 に よる効果 を得 る、すなわち撮影 とい う行為 を刺 激 として用い る場合 である。 写真撮影 とい う活動 には 自分 自身や周 囲の事物・ 事象へ と注意 を向け させ 、周 囲の世界への関与 を促す効果 が期待 で きる。また、 撮影活動 その ものが適度 の集 中力や統制力 を必要 とす る とともに、人の興味や 意欲 を喚起す る と見な され て きた。従 って撮影活動へ の参加 は、結果 として参 加者 の対他者 関係や 自己評価 、自尊心 に影響 を及 ぼす ことがあると言 う。。この よ うな効果 を期待 して、心理臨床や看護 の現場で写真撮影 を治療 に導入 した例 が複数報告 されている。Hunsberger(1984)は
クライエ ン ト自身 に よる写真撮影 を活動療法(activitytherapy)に
お け る効果的な課題 として紹介 してお り、撮影活動 はクライエ ン トの統御力・ 自己信頼 。自尊心 を高める効果があるほか、特にグループでの撮 影活動 は社会的相互作用 の増大や社会的 スキル の促進 、問題解決や リー ダー シ ップの発揮 な どに よる自尊心の高揚 が期待 で きる と述べ てい る。 また写真撮影 とい う活動は、低い精神機能、器質障害、情緒障害 を示す クライエ ン トな どヘ も幅広 く活用 で き る と言 う。 高齢 者 へ の適 用(Aronson&Graziano,1976;
Zwick,1978)や
、統合失調症患者 への適用 (中里・坂野 。磯部・榎並 。日比・ 青木 。米澤 。藤本 。岡本 。祖 父江,1988)は
その例 と言 えよ う。 なお、撮影活 動 が対他者 関係 に影響 を与 えるこ とは健常な大学生 を研 究参加者 とした実験 で も確認 され てお り、Burgess,Enzle,&Morry(2000)は
他者 とともに写真 を 撮 る こ とに よつて互 い を同類 と見 な し親 近感 が高 ま る こ とを “写真 の絆効果 3`心 理臨床大辞典 に よる投影法の一般的定義 とは、与 え られ る刺激 の非構造性・ 曖味性 、求 め られ る反応 の 自由度 の高 さ、人の内部状態 を表す パー ソナ リテ ィ要因 を推測す る手続 き、 の3つで ある。 “写真投影法"の語 を冠 してい る研 究の全 てが、 この よ うな投影 法 の定義 を 踏 ま えた上 で “写真投影 法"の名 称 を使 用 してい る とは言 えない よ うで あ る。(photo‐bonding e]bct)"と して紹介 している。 第
3の
使用 目的 は写真 を見 るこ とに よる効果 、す なわち写真 とい う素材 を刺 激 として用い る場合である。 これ は写真 が過去 に生 じた事象や現実 についての 情報 を伝 える媒体 であ り、写真 の フィー ドバ ックは受 け手 に現実 を認識 させ る とともに、感情や連想 を喚起 した り記憶の活性化 を促 した りす る効果があると 見 な され てきた ことに よる。従 つて、写真 のフィー ドバ ックによつて受 け手の 自己洞察 を促進 させ るこ とが ある。 このよ うな理 由によ り、写真 のフィー ドバ ックは撮影活 動 に よる効果 を 目的 と した使用 と同様 に、治療現場での活用 が試 み られ てい る。 治療現場 での写真 の使用 としては、 これ までに投影的技法のための材料や治 療時の ラポール の形成 に利用 されてい るほか、過去 に撮影 された写真 をクライ エ ン トの 自己報告の確認や歪んだ知覚や記憶の修正のために使 う、幸福だった 頃の写真 を見せ て同様 の感 情 を喚起 させ る、老年期 において人生 を振 り返 る手 助 け とす る、意識 され ていない事柄や葛藤 を意識化す るために用い る、悲嘆や 喪失体験へ の取 り組 み を促 進す るな どの例 があ る (Hunsberge■1984;志
村, 1997)。 ま た 、 写 真 を掲 示 して 行 動 修 正 の た め の 強 化 子 と して 用 い た り (Bacon‐Prue,B10unt,Hosey&Drabman,1980)、
クライエ ン トを被写体 と したポー トレー トを 自己イ メー ジの認識や修正、 自尊心の高揚 を 目的 としたエ クスポジャーの材料 として使用 した りす ることもある。 ポー トレー トの呈示 に よる治療的な試 みには、統合失調症患者 (Mille■ 1962;Spire,1973)や 非行少 年 (FryreaL Nuell,&Ridley 1974)を 対象 と した報告 が ある4。 なお、写真の 持つ可能性 を積極的にセ ラピー に取 り入れてい るWeiser(1999)の
フォ ト・ セ ラピーでは、 クライエ ン ト自身のポー トレー トだけでな く、他者 が撮影 した クライエ ン トの写真、 クライエ ン トが収集 している写真 、家族 アルバム等の 自 叙伝的 な写真 がセ ラピー の中で使用 され てい る。 治療場面で写真 が果 たす役割 につ いては 日本 で も一定の関心が寄せ られ てお り、写真 の臨床 的利用 に関す る特集 が組 まれ る等、写真 の治療場面にお ける位4こ
れ らの研究 については、実験の 中で写真 を呈示す ることの効果 とフイー ドバ ック時に治 療者 が積極的 に関与す ることの効果 が分離 で きていない とい う手続 き上 の問題 が指摘 され てお り、写真 呈示 その ものの治療効果 は確 証 されていない。 9置づ けや利用 の体系化 の試 みがな され てい る (日本描 画テ ス ト・描画療法学会, 1997)。 その中で松下 。石川
(1997)は
、患者や家族 が治療場 面に持参す る家 族写真や アルバ ムを査定や治療や教育 に活 かす ための視点 についてま とめてい る。 以上では撮影活動 と写真 の呈示 に よる効果 を分 けて述べたが、写真撮影 と写 真 の呈示 を組 み合 わせ た使用方法 もあ り、特 に撮影者 が 自分 の写 した写真 を見 た り語 つた りす ることによる治療的、教育的効果が期待 されてい る。親 と子の それぞれ が撮影 した写真 アルバ ムを親子 の対話 の材料 と して学級 カ ウンセ リン グで用いた り(寺田・ 白石,2000)、 青年が個 としての 自信 と自覚 を獲得 してい くための教育 に活 かす (野村,2004)な
どがその例である。1.2
自叙写真 と しての使用1.2.1
自叙 写真 法 の概要 と目的 自叙 写真 法 とは、“あなたは誰 です か?"と
い う問いか けに写真 で回答す る よ う求め、撮影 された写真 を通 して回答者 の 自己に関連す る世界 を把握 しよ う とす る方法で ある。この方法 は1977年
にCombs&Zillerに
よ り創案 され、米 国 を中心 にその後 の研 究が展 開 され て きてい る。 従来、 自己概念や 自己認知 の測 定 には質 問紙法、特 に評 定法 に よるものが使 用 され て きた。評 定法 に よる質問紙 は、通常、 自己に関す る内容 の うちで多 く の人に共通かつ重要 と見な され る項 目で構成 され るが、質問紙法 の中には回答 者 の個別性や独 自性 に よ り重点 をお き、 これ らを捉 え よ うとす る試 み もある。 文章完成法の一種 ともいえるBugental&Zelen(1950)の
“あなたは誰です か テ ス ト(Who are you?technique;以
下WAYと
す る)"や
Kuhn&
McPartland (1954)の
204事湛:(Twenty statements test; らttt TSTと ヽケる)が この例である。
WAYや
TSTは
、回答者 が 自分 自身 について 自由に記述 で き るこ とか ら、予め選 出 された項 目に回答す る質問紙 (e.g。 長 島・藤原 。原野・ 斎藤・ 堀,1966,1967)で
の調査 に比べ、各人の個別性や独 自性 を捉 え得 る と 主張 され てきた。 自叙写真法での “あなたは誰ですか"と い う問いかけはWAYと
同様 なが ら、 回答者 は この問い に言語 ではな く写真 とい う視覚的素材 を用いて答 える。 この 10こ とか ら、 自叙写真法 は
WAYや
TSTの
持 つ回答 の 自由度 の高 さと、“イ メー ジを凍結 させ る機械 としてのカメラ(Milgram,1976)"の
特徴 を生か した測 定方法 と見な され てい る。加 えて、カメラ と写真 による表現は、言語 による表 現 よ りも年齢 。文化 。能力等 に よる制約 を受 けに くい とい う利点がある と言 う。Combs&Ziller(1977)で
は、カ ウンセ リングを受 けた経験のある者 とカ ウ ンセ リング未経験者 の 自叙写真 を比較 し、それ ぞれ の特徴 を報告 してい るが、 この論文では冒頭 に Rogersと Jourardを 引用 しなが ら、カ ウンセ ラー には “ク ライエ ン トの内的枠組み (internal reference ofeach client)"を 知覚す る能力 が 重 要 で あ る こ と、 カ ウ ンセ ラー が “ク ライ エ ン トの 現 象 的 な場 (thephenomenal ield ofthe client)"を 経験す ることで 自己開示 を促進 し得 ること を述べ てい る。つま りZillerら は、他者 を理解す ることとはその個人が 自己を 含 む世界 を どの よ うに理解 し、経験 してい るのかを知 ることであ り、撮影者 の 視 点か ら自分 を表現す るために撮影 された 自叙写真 は、その人が 自己を含む世 界 を どの よ うに理解 し、経験 してい るのかを知 る手がか りになる と考 えてい る のである。 個 人 カ ウ ンセ リン グ の 中 で 自叙 写 真 法 を 実 践 した 報 告
(AmerikaneL
Schauble,&Zille■1980)で
は、上記 の よ うなクライエ ン ト自身の参照枠や ク ライエ ン トに とつて重要な意味次元 を強調す る考 えはKelly(1955)の
個人構 成体理論 に依拠 してい るこ とを述べ てい る。 クライエ ン トが世界 を理解す るた めに発展 させ てきた次元 には言語的な もの と非言語的な ものがあ り、 レパー トリー・ グ リッ ド・テス ト (Repertory Grid Test)な どを用いた言語的次元の査 定 に加 えて、非言語的な次元 を査定す る必要性 を主張 し、そのための最初の試 み として 自叙写真法 を提案 してい る。 また この論文の中では、 クライエ ン ト理 解 のために 自叙 写真 を どの よ うな次元 で利用す るか について も具体的な提案 を 行 つてい る5。 個人 の世界 を理解す るにあたって、Zillerら が用い るのが “オ リエ ンテーシ 5ヵ ゥンセ リングで 自叙写真 を使用す るための視点 として内容 (content)と 過程 (prOcess) の2つを提案 してい る。内容 とはクライエ ン トの 自己知覚において中心的・重要 な もの、過 程 とは クライエ ン トが 自己や世界 を解釈 した り応答 した りす る際の様式 を意味す る。内容の 例 と して “情動的なテーマ"“ 言語 では表現 されてい るのに写真 には含 まれ ない事物"“ 他 の メ ンバー には見 られ るがクライエ ン トの写真 には見 られ ないカテ ゴ リー"など、過程 の例 と して “抽象度― 具体度 "“ 複雑一 単純"“ 教示へ の態度"などが挙 げ られ てい る。
ョン (orientations)"と い う概念である。オ リエ ンテー シ ョン とは、 自己定義 と関連 した行動であ り、 この行動 は環境内にある特定の記号に向けて高 め られ た動機 づ けを示す もの と定義 され る (Zi■eL 1990 p.32,p.142)。 す なわ ち、オ リエ ンテー シ ョン とい う語 には、 自己を環境 との関係や環境へ の働 きか けを通 じて捉 えよ うとす る考 えが含意 されてい る。 オ リエ ンテー シ ョンには特異的な もの もあるが、環境や経験が共通 であれ ば万人 に共通す るもの (e.g。 自己、社 会的、美 的
)も
仮定で きる とい う。 “あなたは誰か"と
い う問いに写真 で回答す る自叙写真法では、人は回答の 過程 で周 囲の環境 に注意 を向 ける必要 に迫 られ る。 そ して環境 内 にある無数 の 選択肢 の 中か ら、特定の対象 に選択的 に注意 を向けるこ とになる。Zillerら に よる と、 この よ うに して環境 内か ら選 ばれ た人、対象、情景な どは、個人のオ リエ ンテー シ ョンを具体化 した ものであ り、オ リエ ンテー シ ョンの指標 とな る ものであ る。従 つて、これ ら対象 を知 るこ とはオ リエ ンテー シ ョンを知 ること、 ひいては個人の 自己を理解す るこ とにつながる と言 う。 Zillerら は、個人がいかなる環境 を選択 し、他方、選択 された環境 によつて どの よ うにその人 の行動 が制 限、 あるいは統制 され るのか といった人 と環境 と の相互作用 に関心 を持つ。この よ うな 自己・環境・行動 の相互作用 をZillerは、 双方 向の矢印で結 ばれ た三角形 の図で示 してい る (Zille■ 1990,p.31)。 この図 では、 自己は3つ
の要素の一部であ りなが らこれ らを統合す るものであ り、所 与 の環境 下での行動 を統制す る と言 う。 ここでの 自己 とは 自己理論 (自分 自身 についての 自分な りの理論)の
こ とであ り、情報の処理 については理論一般 と 同様 の働 きをす る と考 え られ てい る。す なわ ち、新 しい情報 を既存 のシステム の中に編制 し、既存 の理論 に もとづいて将来的な出来事 を予測 し、処理す る。 また、一旦理論が形成 され ると後続の行動 はこれによつて統制 を受 ける。その 他 、理論 に一致す る情報 を求 めて他 を無視 した り、理論 に合致す るよ う反応 を 制限す るこ とで環境 を作 り上 げた りす る。 人 は この よ うに 自己・ 環境 。行動 が相互作用 し、環境 と行動 との関係 を統制 す る上 で 自己が 中心的役割 を果 たす場 、す なわ ち 自身の統制が知覚 で きるよ う な場 を発達 させ るが、この よ うな場 をZillerら は心理的ニ ッチ (psychological niche)と 呼んでい る。そ して心理的ニ ッチ とは、環境 と行動 と自己が調和 した 12領域 である とす る (先述 の三角形 の図では 自己 。環境 。行動 に囲まれた部分 を 心理 的ニ ッチに充ててい る)。 ここでは、自己理論 は個人が特定の環境 を選択す ることに関わ り、選択 によつて環境 はその人 に とつて有意味な もの となる。そ の一方で、選択 した環境 はそ こで可能 となる行動 の幅 を限定 し、 さらに後続 の 行動 を規定す る。 そ して、 この よ うな選択す る ことと制約 され るこ との関係 の 中で 自己理論 は維持 され 、個人 の心理的ニ ッチが構成 され てい くことにな る と 考 えてい る。従 つて、 自己定義 に関わ る行動 とされ るオ リエ ンテー シ ョンを探 索す る ことは、心理的 ニ ッチ とい う自己 と環境 との関わ り方 の様相 を探索す る こ とに も繋がるものであろ う。 なお、この よ うなオ リエ ンテー シ ョンや心理的ニ ッチは個人において生来的 で不変な もの として仮定 されてい るわけではない。 それ らはある環境下での 自 己 と世界 との関係性 を示す ものであ り、例 えば発達 の各段階や結婚や疾病 な ど の ライ フイベ ン トを経験す るこ とによつて異なる様相 を示す ことが予測 され る もので ある。実際、Ziller(1990,chap.6)において も離婚 。結婚・刑務所か ら の釈放 といつた ライ フイベ ン トを経験 した者 の 自叙写真や 、車椅子 の学生か ら 見た大学 キャンパ ス (撮影者 であ る車椅子 の学生 とすれ違 う学生達 の視線 は交 錯 しない
)を
事例 として挙 げなが ら、所与 の環境 下でのその人 自身 の 日か ら見 た 自己 と世界 との関わ り方 の特徴 を論 じてい る。Ziller&Rorer(1985)に
よれ ば、オ リエ ンテーシ ョンを写真で記録す ると い う自叙写真法のルー ツはナバ ホ・ イ ンデ ィア ン達 に 自らが選 んだ対象 を映像 化す るよ う求 めた1972年
のWorthと
Adairに よる研 究 にあると言 う。彼 らは これ に “生態記録 (biodocumentary)"と い う名称 を与 えた。 この言葉 が示す よ うに、Zillerら は実験室での実験や質問紙 による測定 を超 えて、その個人が 現実 に生活 してい る環境 下で人間 を研 究す るこ との重要性 を強調 してい る。 写 真 を用 いて個人が生活 してい る環境 をその人の視点か ら具体的、かつ あ りのま まに記録す る自叙写真法 は、研 究参加者 に とつて侵害感や抵抗感 の少 ない測定 法 とな る と考 えてい る。 研 究参加者 は “あなたは誰であるかを写真 で表現す る"と
い う課題 に答 える ために写真 に写す もの (自 己に関連す る対象)を
探索す るが、 この過程 で通常 はほ とん ど意識す ることな く過 ご してい る自分 の周囲の環境 に改めて注意 を向 13けるこ とになろ う。 そ して “写真 を撮 る
"と
い う行為 を通 じて、被写体 として 選択 され た事物・事象 が 自分 自身 に とつていかな る意 味 を持つ のか を考 えるこ とにな るだ ろ う。つま り自叙写真 の撮影 とい う行為はZ■lerらが意図 した よ う に、研 究参加者 に とつては人 と環境 との相互作用 のあ り方 を再確認 させ 、他方、 研 究者 に とつては当該個人 と環境 との相互作用 を調べ るた めの有効 な資料 を提 供す るこ とにな る とい えよ う。1.2.2
自叙写真法の特長 自叙 写真 法 を心理 学 にお け る研 究法や 臨床 実践 での査 定や 治療 の手法 と し て見た場合、従来の方法 とは何 が異な り、 どの よ うな長所 があるだろ うか。写 真 とい う素材や撮影活動 の特長 、あるいは先行研 究での記述 を もとに 自叙写真 法の利 点 を整理 してみ る。 研 究法 と してみ た場合 、 自叙 写真 法 の特長 とは どの よ うな もので あろ うか。 自叙 写真法 は画像 とい う質的デー タを扱 う。デー タか ら見れ ば、写真 とい う素 材 の もつ具体性 。現実性・多様 な情報 とい う特徴 が挙 げ られ る。 写真 の具体性 は、通常、言語表現に勝 るものである。そ して過去の、 しか も一視点か ら切 り 取 られ た現実 とはい え、写真 は現実の記録 であ る。 また、周到 に計画 され た広 告写真や芸術 写真 でない限 り、スナ ップ写真 の フ レー ム内には様 々な事物 。事 象 が撮影者 の意図 を超 えて写 し込 まれ る。 この よ うな写真 の特徴 ゆえに 自叙写 真 は意 図的 。無意 図的 な もの含 め、撮影者 に関連 した多様 な情報 を具体的かつ リアル に伝 えるもの とな り、豊 かな読解 と語 りを引き出す素材 とな る。 写真撮影 は通常、撮影者 が現実 に生活 してい る環境 下で行 われ る とい う点で フィール ド・ ワー ク的な要素を持つ。 自叙写真法 もその要素を活か した手法で あ り、実験室での実験や質問紙調査 を超 えるもの としてZillerが重視す る 自叙 写真 の特長 で ある。生活環境 の中での人の行動 を捉 える方法 として観察法 (特 に参与観察法)力`あるが、研究者 による観察はあ くまで研究者 の視点か らみた 現実世界 であ る。 これ に対 し、 自叙写真 は撮影者 の視点か らみた 自分や 自分 を 含む世界 (撮影者 の現象学的世界)を
見 る者 に伝 える。 自叙写真法 は当事者 の 視 点 に よ り忠実で、当事者 が見た現実世界 によ り肉薄す る方法 と考 え られ る。 また写真 に よる表現 は言語 に よる制約 が少 ない。 これ は年少児 か ら高齢者 ま で幅広い年齢層 を対象 とした研究や地域 。文化比較 を 目的 とした研究、あるい 14は言語 によるコ ミュニケー シ ョンに障害 を持つ人 を対象 とした研究 に有用であ る (e.g.Zille■ 1990)。 また、写真 は これ までにもイ メー ジを捉 える手段 とし て使用 されてきてい るよ うに
(Milgram,1976;Nф
,1999;Zillet 1990)、 言語 化 が難 しい 自己のイ メー ジや 自己を象徴 的 に表現す るこ とも写真 を用いれ ば比 較的容易 であろ う。 さらに、写真や撮影活動 が治療場 面 に導入 され てい ること か ら考 えると、調査用紙への回答や実験への参加 に比べ 自叙写真 を用いた研 究 に参加す ることは、当事者 として積極的 に関与 し、過程 を楽 しみ、研究への参 加 に意義 を見出す等、研究参加者 に とつての利益が大 きい ことが予測 され る。 次 に、臨床 実践 にお け る査定や治療 の手法 としてみた場合 、 自叙写真法 には どの よ うな特長 があるだろ うか。記憶 と内省 にもとづ く方法 とは異な り、 自叙 写真 法では撮影者 の周囲の環境や生活 の様態の実際 を知 ることができる。治療 的面接 では生活空 間のイ メー ジを共有す る 目的で部屋 の間取 り図等が効果的 に 使 われ ることが あるが (ネ申田橋,1995)、 面接 において クライエ ン トが暮 らす物 理 的環境 の情報 を どの程度収集 できるかは面接者 の技能等 に依存す る部分が大 きい。 また、一般 に面接の中では個人が生活す る環境世界 よ りも個人の内面世 界 に関心 が向け られ が ちで ある。 この よ うに面接 とい う手段 では収集 され に く い環境情報 を補 うために、 自叙写真 は役立つ と思われ る。 従来の査定法 と比較 して も、投影 法 は個人の内的世界 (実体 のない もの)の
査定に焦点があるのに対 し、 自叙写真法ではまず外的世界 (実体 のあるもの) の査定に焦点が置かれ ることになろ う。例 えば、投影法 の うちで描画は写真 と 同様 に画像 を扱 うものであ り、家族画等では時に周囲の環境 (e.g.家具や部屋 等)、写真 は描画 よ りも多様 な環境 内の事物 を描写す る上では技能や時間等のが 描 かれ るこ ともある。 しか し、写真 は描画 に比べて現実に存在 した とい う点で よ り明 白さや確実 さを持つ。 さらに、写真 は描画 よ りも多様 な環境 内の事物 を 描 写す る上では技能や 時間等の制約 が小 さい。 それ ゆえ複数枚 を撮影 した り、 繰 り返 し撮影 を行 つた りす る場合 で も撮影者 と依頼者双方 に とって比較 的負担 が少 ない ことが予想 され る。 自叙 写真法では複数枚 の撮影 を求 めるが、1枚
の 写真 のみな らず一連 の写真 をセ ッ トとして見 る、あるいは期間 を置いて繰 り返 し撮影 した結果 を見 ることによって、多面的かつ継時的 に撮影者 の 自己に関連 す る世界 を把握 できることも利点の一つ となろ う。 15治療 に関 しては、松 下・ 石川
(1997)に
よる と、写真 が明示 してい る “確 実 に存在 した過去の一場面"と
い う現実は、良 くも悪 くも治療場面での幻想 を打 ち砕 くと言 う。また、事実 をもとに した治療的や りとりは比較的安定 してお り、 現実的 で健康 な防衛 の強化 と治療 関係 の維持 に寄与す る とも述べ てい る。 これ 以外 に も、写真 が現実の記録 であ るこ と、現実 を写 しだす媒体であ るこ とが治 療場面で有用 に働 く可能性 を示唆す る報告 がある。例 えば、描画 と写真 を用い た試みにおいて、写真映像の確実 さ 。明 白さが治療者 の現実検討力 を高め、解 釈 の先走 りを防止 した例 (小森,1997)や
過 去の患者 の写真 を見て過去 の現実 を知 る こ とに よ り、 当該 患者 へ の認 識 や 対応 の変化 を もた ら した例 (志村,1997)が
あ る。 この ことか ら考 えると、自叙写真 もまた、治療場面に現実 を持 ち込む こ とにおいて一定の治療 的意義や効果 を持つ こ とが期待 で きる。 その他 、治療施設 で写真や撮影活動 が取 り入れ られ てい ることか ら、 自叙写 真 を撮影す る とい う行為 の主体性・ 能動性 、そ して 自己表現の可能性 が治療 面 での効果 を生む ことが予想 され る。 自叙写真 の撮影 は 自分 を積極的 に表現す る 機 会 とな る し、個 々の 自叙写真 は撮影者 の独 自性 を反映 した もの となる。 この よ うに して得 られた 自叙写真 を見た り、それ らについて語 つた りす ることは撮 影者 の 自己洞察や周囲への気 づ きを促す等 の治療的・教 育的効果 が期待 で きる。 以上 の よ うな特長 を持つゆえに、 自叙 写真法 は調査手法 としては質的調査 と 量的調査の両者 を補 うもの とな り得 る し、臨床実践 にお ける査定や治療場面で は従来か らの手法 を補 うもの として利用できるのではないか と考 える。1.3
自叙写真法 を用 いた先行研究1.3.1
自叙写真法の手続 き 自叙写真 は、これ まで概 ね次 の よ うな手続 きに従 つて撮影 され て きた。研 究 参加者 には、まず “あなたが 自分 自身 を どの よ うに見てい るのか を写真 で記述 して欲 しいのです。写真であなたが誰 であるかを語 つて下 さい。撮影 し終わつ た時には、あなた 自身 についての1冊の写真集 ができあが ることになるで しょ う"と
教示 し、操作の簡 単なフラ ッシュ付 きのイ ンスタン ト・ カメラを使 つて 一定期間内に 自分の思 うままに写真 を撮影 して くるよ う求 める。撮影の際の留 意点 として、研 究参加者 自身 について語 るものな ら何 を どの よ うに写 して も自 16由である こと、 自分で撮れ ない場合 は他人に撮影 を依頼 して も良い こと、研究 者 は研 究参加者 の撮影 技術 の優劣 には関心がない こ とが伝 え られ る。加 えて、 撮影 され る写真 は “研 究参加者 自身が見た 自分
"を
伝 えるもの にな るよ う教示 の 中で繰 り返 され、強調 され る。 これ までの研 究はZiller&Lewis(1981)の
教示 を踏襲 してい る ものが多い が、教示や実施方法は研究の発展 に伴 つて、また研 究 目的や利用 目的に応 じて 一部変更や改良が試み られてきてい る。例 えば、撮影期 間については、期間は 一応 6日 間 としてお くが、研究参加者 の意 向を尊重 して希望があれ ば期間を延 長す る とか (Ziller&Roret 1985)、 セ メス ターの最初 に教示 を行 つてセ メス ター 中の任意 の時期 に撮影 させ る (Dollinger&Clancy 1993)、 あるい はセ メ ス ター 中の 11週 間を指定す る (DollingeL Robinson,&Ross,1999)な どの例 が ある。撮影枚数 については、 自叙写真法 を最初 に公表 したZi■erら の撮影枚 数 に倣 って後続 の研 究の多 くが12枚
を採択 してい るが、手続 きの簡易化 のた めに6枚
とした ものや (Ziller&RoreL 1985,Study2)、 自己に関連 した世界 を よ り確 実 に把 握 す る た め の試 み と して20枚
を 指 定 した 研 究 も あ る (DollingeL Preston,0'Brien,&DiLalla,1996)6。 教示 について も、Ziller&Lewis(1981)に
準 じた標 準的 な教示 に加 えて、 研 究参加者 か らの よくある質問 に対処す るために新 たな教示 を加 えた研 究 もあ る (DollingeL Cook,&Robinson,1999;Dollinger9 Robinson,et al。 ,1999)7。 その一方 で、個人カ ウンセ リングで 自叙写真 を用いた例では、写真撮影 の過程 や 写真 の内容 はカ ウンセ リングの関連 資料 と見な して意図的 に教示 の中では詳 述せず 、 クライエ ン トか らの質問に対 して も指示的な回答 は行 わない とい う手 続 きを とつてい るもの もあ る (Amerikanet et al.,1980)。 収集す る資料 について も、創案 当初 は 自叙写真 のみ を資料 としていたが、そ の後、研 究 目的 に応 じて様 々な工夫が加 味 されてきてい る。集 団を対象 とした 6先行研 究 か らは、撮影枚数 12枚の根拠 は明 らかではない。撮影枚数 と撮影期間 について の結果は向山 (2003,2004a)および資料3を参照 の こ と。 7追加 され た教示 は次の よ うな ものである。 “例 えば、次 の よ うな ものを撮影 のために選ベ ます。 あなたの典型的な毎 日の環境や現在 の生活様式 、(他の人 にない)自分 のユ ニー ク さ の程度や他 の誰 かあるいは他 の全ての人 とどれ程似 てい るか、自分 を定義す る特性や性格特 徴 、現在 取 り組 んでい る個人 的プ ロジェク トや重要 な人生 の課題 、あなたが大切 に してい る 内的な価値 を伝 える想像 、あなたや あなたの人生物語 に とつて最 も重要 な事物 な ど、です"。 17研 究で は、各 写真 を台紙 に貼 り冊子 として提 出 させ る
(Dollinger&Clancy
1993)、写真 冊子 と併せ て写真や 写真冊子へ の コメン トを提 出 させ る(DollingeL
Cook,et al.,1999;DollingeL Robinson,et al.,1999)、 現像 した写真 を返却す る際 に研 究参加者 に角牢釈 を求 める (Ziller&RoreL 1985,Study2)と い つた資 料収集 の他 に、個人カ ウンセ リングで 自叙写真 を用いた例 では、 クライエ ン ト に写真 に関す る簡単な説明を書かせ る とともに、 自分 をよく記述 してい ると思
うものか ら順位 を付 け させ 、その順位 に従 つて一枚 の大 きな台紙 に写真 を貼 る よ う求 める手続 きが採 られてい る (AmerikaneL eto al.,1980)。
以上 の よ うに、先行研 究では様 々な手続 きが採択 され て きてい る。実施 手続 きは使用 目的や対象者 の属性 に応 じて変更や配慮 が必要 な場合 もあるが、標準 的 な手続 きが示 され るこ とで、 自叙写真法 は よ り利用 しやす くな るだろ う。 こ の よ うな考 えに もとづ き、 自叙写真法の 日本での標準的 な実施手続 について検 討 が行 われ てい る (向山
,2003,2004a
資料3参
照)。 なお、収集 された 自叙写真 は、主 として被写体や内容 にもとづいて個々の 自 叙写真 をカテ ゴ リー分類す る方法 と、 自叙 写真 を通覧 して冊子全体 の印象 を評 定す る方法 に よって分析 。検討 され て きてい る。以下では、 これ ら2つ
に事例 的 アプ ローチ を加 え、それ ぞれ の分析方法 に沿 つて先行研 究 を展望 し、続 いて 日本 にお ける自叙写真研究の成果 をま とめる。1.3.2
自叙写真 のカテ ゴ リー分類 被写体や表現 内容 に もとづいて 自叙写真 をカテ ゴ リー分類す る方法 は Ziller の研究 グループが主に採択 してきた方法で、ある特徴 を持つ研究参加者 とそれ 以外 の者 とで 自叙写真 の被 写体や表現 内容 、あるいは 自叙写真 を分類す るため に どの程度 のカテ ゴ リー数 を必要 としたか とい うカテ ゴ リー範 囲 (range)を 各群 で比較 し、研 究参加者 らが 自己を含む世界 を どの よ うに理解 し、経験 して い るかを捉 えよ うとす るものである。従 つて、個 々の写真 を通 じて個人の現象 学的世界 を把握す るこ とにその 目的がある。 これ までの研 究では、研 究参加者 の個人特性や特定の経験等 によつて 自叙写真の被写体 に選 ばれ る対象 が異なる こ とが示 されてきてい る。以下ではその概要 を紹介す る。 自叙写真 を最初 に紹介 したCombs&Z通
ler(1977)で
は、大学内のク リニ ッ クヘの来談者 とカ ウンセ リング経験のない大学生の 自叙写真 を9つ
のカテ ゴ リ 18― に分類 して比較 し、来談者 の 自叙写真 には家族や過去カテ ゴ リーに分類 され る写真 が多い一方で、 自分 自身・活動・ 書籍 カテ ゴ リーに含 まれ る写真 が少 な い こ とを報告 し、来談者 の 自己認知 の特徴 を指摘 してい る。またZiller&Lewis
(1981,Study2)で
は、美的 。学業達成・学校 。社会 (人物)カ
テ ゴ リー につ いて矯正施設入所 中の非行少年 と公立高校 の非行歴 のない少年 の 自叙写真 を比 較 し、非行少年群 で美 的・学業達成・学校 カテ ゴ リー の写真 が少 な く、社会 (人 物)カ
テ ゴ リー の写真 が多い ことを示 した。そ して非行少年群 では美的あるい は学校や学業達成 といった社会的 に承認 され るオ リエ ンテーシ ョンではな く、 社会 (人物、 ここでは仲 間)オ
リエ ンテー シ ョンヘ の偏好 が見 られ るこ とを取 り上げ、彼 らの指向 と環境 について考察 を行 つてい る。 個人特性 と自叙 写真 の関係 を見た もの と して、Ziller&ROrer(1985)の
シ ャイネ ス と自叙 写真 についての研 究が ある。彼 らはシャイネス調査での高得点 者 は低得 点者 に比べて 自分 自身や他者 を写 した人物写真 が少 な く、美的カテ ゴ リー に含 まれ る写真 (芸術作 品、樹木 、湖や池 、花)が
多い ことを報告 し、シ ャイネスの程度 に よってZillerの言 う心理的 ニ ッチが異 な るこ とを示 した。 そ して、シャイな人々は通常ネガテ ィブに評価 されやすい として、 自叙写真 を通 じて彼 らの視点か ら環境 を理解す ることの重要性 を論 じている。この他 、Ziller&Lewis(1981)で
は、書籍 の写真 の多 さと学業達成 、植物・風景・芸術作品 の写真 の多 さ (美的志 向)と
オール ポー ト・ ヴァー ノンの美的価値志向の尺度 得′点との関係 を調べ、それぞれ に関連 が見 られ た ことを報告 してい る。 また、 パー ソナ リテ ィ特性 を取 り上げたDollinger&Clancy(1993)で
は、NEO‐ PI の外 向性 (E)お よび調和性 (A)の高 さが対人 カテ ゴ リー に分類 され る写真 (自 分 が他者 とともにい る写真・背景 の人・ グルー プ 。触れ合 ってい る人・子 ども の写真等)の
撮影枚数 の多 さと関連 してい るこ とを示 した。 さらにClancy&Dollinger(1993)は
自叙 写真 の性差 に も着 日してい る。対 人カテ ゴ リー に分類 され る写真 を男女 で比較す ると、男性 は女性 よ りも自分 自 身 を単独 で写 した写真 が多 く、女性 は男性 よ りも笑 つた り触れ合 つた りしてい る人 々 。自分が他者 とともにい る写真・ グループ 。子 ども等の家族写真 が多い こ とを報告 し、 この結果 を分離性 (separateness)と 社会的な結合性 (social connectedness)と い う男女 の 自己定義 の違い として考察 してい る。 さらに予 19備 的な結果 として、人物以外 を被 写体 とした写真 について も触れ 、両性 を比較 す る と男性 には身体活動や乗物 の写真 が多 く、女性 には動物 あるいはペ ッ ト・ 社交場面の写真 が多 く見 られ た こ とを報告 し、 この結果 を先 の男女 の 自己定義 の違いに関す る傍証 として報告 してい る。 この他、文化差 を取 り上げた もの として 日米の高齢者 の 自叙写真 を比較 した 研 究 (Okura,Zillerp&Osawa,1985‐
1986)が
ある。Okuraら
は、 日本 の高齢 者 では庭・ 住宅 。自宅内や その周辺 の写真 が多 く、米 国の高齢者 は様 々な人 を 被 写体 と した写真 が多か った こ とか ら、老年期 の平穏 (peace)を何 に求 める かが 日米で異なるのではないか と考察 してい る。1.3.3
自叙 写真 冊子 の印象評定 個 々人 が撮影 した一連 の 自叙 写真 を通 覧 して 自叙写真 冊子 全体 の印象 を評 定す る方法 は、主 として Dollingerら の研 究 グループが採択 してい る。彼 らは Zillerら に倣 つた被写体や表現内容 に もとづ く分類 と併せ て写真冊子全体の印 象評 定 を行 う。従 つて、個 々の写真 を通 じて個人 の現象学的世界 を把握す るこ とに加 え、 自叙写真 に示 された撮影者 の 自己表現の様式や質 を査定す ることも 目的 とな る。彼 らの研 究は、数 百の 自叙写真 冊子 について複数 の訓練 された評 定者 が評 定 を行 う手続 きを経 てお り、評定 には リッカー ト式の5段
階尺度 を使 用 してい る。 このため、様 々な数量的処理や他測度 との関連 を分析す ることが 可能で あ り、デー タの数量化 と分析 とい う点で先のカテ ゴ リー分類 にもとづ く 分析 を補 い、発展 させ た もの と言 えよ う。先行研 究では、 自己叙述 の豊か さや 個性 とい つた観 点か らの 自叙写真 の印象評定 とパー ソナ リテ ィ等 の個人特性 と の関連が報告 され てい る。 まず、Dollinger&Clancy(1993)は
、抽象度 。自己内省度 。芸術的質 の高 さの観点か ら写真冊子の “自己叙述 の豊か さ (richness of sel■description)"を
5段
階で評 定 し、パー ソナ リテ ィ特性 を NEO‐PIで
測定 して開放性(0)の
高い者 に 自己叙述 の豊 かな写真 が多い こ とを報告 した。 この後 、Dollingerら に よる一連の研究は写真冊子の評価 に多次元性 とい う観 点 を加 え、 自叙写真 に よつて研 究参加者 の “個性 (ind市iduality)"の 程度 を査定す る方向へ と発展 し てい る。写真冊子 を評価す る基準や具体例 は Dollinger&Clancy Dollinger(1997)の
付録 に詳 しいが、“具体的・想像力が乏 しい 。平凡 。繰 り返 しが多 20い (単次元)。 自己の記述 が表面的
"と
い うレベル1か
ら、“抽象的 。創造力に 富む 。多次元的 。自己内省的 。美的感性 に富む"と
い うレベル5までに分かれ る。彼 らは 自叙写真 を個性 の表現 と捉 え、写真冊子 の評定結果 とアイデ ンテ ィ テ ィや 自我発達 (Dollinget et al.,1996)、 アイデ ンテ ィテ ィの地位や スタイル(Dollinger&Clancy Dollinget 1997)、 孤独感 (Dollinget Cook,et al.,1999)、
創 造性 (DollingeL Robinson,et al.,1999)等 との関係 について検討 した。 これ まで大学生 を対象 とした調査か ら、最 も高い レベル
5に
評 定 され た個性 の程度の高い個人について、次の よ うな特徴が示 されてい る。彼 らをパー ソナ リテ ィ特性 か らみ ると、開放性(0)と
神経症傾 向(N)が
高 く、内向的 (E‐) で あるため、人間 よ りも美的な ものや観念的な ものに興味 を示 し、想像力が豊 かだがネガテ ィブな感情 を感 じやすい (DollingeL et al.,1996)。 創 造性 に関係 す る側 面 として、パー ソナ リテ ィ検査では興味の幅や複雑 さの尺度得点が高 く、 創 造性検査 の課題 では語彙連想 と流暢 さに関 して高得 点 を示 した。 また、普遍 的志 向や精ネ申的境界 の柔軟性 と呼ばれ るよ うな態度や価値観 を持 ち、可能 自己 (possible se10と して将来 に様 々な文化 に触れ る体験 を含 める傾 向がある と 言 う (]DollingeL Robinson,et al.,1999)。また、対人的な傾 向か ら見 る と個性 の程度 の高い者 は孤独感や疎外感 、仲間 との違和感 を抱 きやす く、個人カ ウンセ リングを受 けた経験 も多い ことが示 さ れ た (Dollinget Cook,et al.,1999)。 さらにアイデ ンテ ィテ ィや 自我発達 との
関係 では、彼 らは社会的 あ るいは表面的な特徴 (例えば、年齢 。性別 。外見・ 所有物 な ど
)よ
りも内的、個人的な性質 (夢・想像 な ど)に
よつて 自分 を定義 づ け る傾 向が あ り、集 団 に従 い に く く、共 同体 と して の アイデ ンテ ィテ ィ (collective identity)を あま り重視せず、社会で一般 的 と見な され るよ うな 自 己定義 を しない。例 えば、個性 の高い者 は低い者 に比べ て、自分 の宗教 。家族・ 友 人 関係 な どを 自己定義 のた めの重要 な事柄 と見 な さない傾 向が あ る と言 う(Dollinget et al.,1996;Dollinger&Clancy DollingeL 1997)。
さらに
Dollinger&Clancy Dollinger(2003)で
は、 自叙写真法 を使 つて青 年期 か ら中年期 (18歳∼54歳
)の
男女844名
を対象 に、加齢 に伴 う個性 変化 の様相 について調べてい る。 この結果では、概ね加齢 に従 つて個性 の得点は上 昇す るが、特 に35歳
後 半か ら40歳
前半の年齢 グルー プで得点が高い ことが示され た。 この研究は発達的な視点か ら自叙写真 を検討 した一例 と言 えよ う。今 後 は各年齢層 にお ける個性 の様相 が、青年期 を対象 に行 われ た個人差研 究で取 り上 げ られ て きたパー ソナ リテ ィその他 の要因 とどの よ うな関係 にあるのか、 今後 の研 究の発展 が期待 され る。
1.3.4
事例 的アプ ローチ 先述 の 自叙写真 の分類や写真 冊子 の印象評 定の部分 で紹介 した研 究 は、シャ イネスやパー ソナ リテ ィ等 の個 人特性 、孤独感等 の感情傾 向や価値 、非行歴 の の有無、文化、性、アイデ ンテ ィテ ィ等の属性 によつて個人 を幾つかの群 とし て括 り、各群 の研究参加者 の 自叙写真 に見 られ る特徴 を、例 えば撮影枚数の よ うな数値 で代表 させ て平均像 として描 くものである。 しか しなが ら、個人が 自 己や 自己 と関連 した世界 を どの よ うに捉 えてい るかを “内か ら外 (inside‐Out)" す なわち当事者 の視点か ら捉 える とい う自叙写真法 の 目的か らみれ ば、 自己 と 世界 との関わ り方 を個別 に記述す る事例的アプ ローチ に、 この方法 の利 点が最 も発揮 され る と考 え られ る。Ziller(1990)で
は、個人が撮影 した 自叙 写真 のセ ッ トを幾つか事例 として 紹介 してい る。例 えば、10年
間の平穏 な結婚生活 を送 ってい る女性 の 自叙写真 と離婚直後の女性 が撮影 した 自叙写真 を示 して両者 を比較 した り、一人の女性 の2組
の 自叙写真一― 交際相手 との結婚 に確信 が持てない時期 と結婚 を決意 し 間近 に控 えた時期―― を示 した りして、男女 の関係性 (愛着 と分離 に関す るラ イ フイベ ン ト)が
自叙 写真 に どの よ うに表れ るか を検討 してい る。 また これ ら の研 究 で は、 自叙 写真 の撮影 に加 えて写真 を手 がか りと したイ ンタ ビュー(photo‐assisted inteⅣ
iew)が
実施 され た こ とが記 され てお り、自叙 写真 と言語 に よる記録 を併用 しなが ら個 々人へ の理解 を深 める試 みがな され てい る。 Zillerに よ り事例 として紹介 され た 自叙写真集 には、愛着 と分離 に関す る主 題 が明 らかに示 され てお り (e.g.夫 。子 ども 。交際相手 といつた重要な他者 が 写 つてい るか否 か、焦点が現在 にあるか過去 にあるか等)、 自叙写真法 を用いて ライ フイベ ン ト (e.g。 結婚や離婚 等
)に
遭遇 した人 の世界 を観 察す るこ とで、 当事者 の視点か ら自分 と他者 を含 む世界 との関係性 の在 り方 (eog.分離やサポ ー トや愛着等)を
把握 で きるこ とが示唆 され てい る。 ライ フイベ ン トヘ の意味 づ けは個 々人 に とって異なることが予想 され ることか ら、 ここで紹介 した よ う 22な個人 に とつてのライ フイベ ン トの意味 を探索す るには、事例的アプ ローチが 適 当であ る と思 われ る。 また、Ziller以 外 にも個人カ ウンセ リングの中で 自叙写真法 を実践 した報告 (Amerikanet et al.,1980)や 、ブ ラジルのスラム街 の子 ども達 を対象 とした 研 究