平成29年度 第2回
学術交流会
日 時 : 平成30年2月2日(金)18:00~19:00 場 所 : 都庁第一庁舎 25階 103会議室 座 長 : 東京都立墨東病院 検査科 渡邉 まゆ美 先生東京都職員臨床衛生検査技師会
蛋白質に特異性の高いニッケル-ビウレット法を用いる血清総蛋白の 2-point rate 法の考案
東京都立多摩総合医療センター 検査科 工藤 思華 【はじめに】 銅ビウレット反応(Cu 法)はアルカリ性下での銅イ オン(Ⅱ)と 4 個のペプチド結合の窒素原子とのキレー ト反応であり、呈色がペプチド結合の数に比例する ため、血清総蛋白の定量法として広く普及している が、糖質やアミノ酸など多数の生体成分が類似呈色 し、反応性に蛋白質間差があることが報告されてい る。当教室で考案したニッケル-ビウレット法(Ni 法)はCu 法に比べ蛋白質に対する特異性が高い特徴 を有するが、極大吸収波長が450 nm であること、 および反応終了までに約30 分必要となることなど、 現在の臨床検査の自動分析法に応用することが困難 な方法と考えられていた。また、臨床化学検査では 異常データが出現した際に、その原因を確認するた め、1 つの検査項目について異なる原理の分析法が開 発されている検査項目が多いが、血清総蛋白測定で は、銅-ビウレット法以外の分析法はないことから異 常データを確認する方法がない。そこでCu 法とは原 理の異なるNi 法を汎用自動分析機へ応用させること を目的に、第1 試薬でビリルビンを消去し、第 2 試 薬でニッケル-ビウレット反応を開始する血清総蛋白 の2-point rate法を考案した。 【試料・方法】 試料は蛋白成分としてヒトアルブミン、γグロブリ ン、及びその混合溶液、健常者血清、コントロール 血清、非蛋白成分としてアミノ酸や糖質などの溶液 を使用した。Ni 法による血清総蛋白測定は第 1 試薬 をバナジン酸試薬、第2 試薬を Ni 試薬とし、波長 450nm で、測光ポイント 29(481 秒)と 32(521 秒)の 2 点を用いる2-point rate法を設定した。また、Cu 法は市販の2 試薬系ビウレット試薬を用い、Ni 法、 Cu 法ともに CA-270plus での自動化法を用い、標準 物質には蛋白標準血清を使用した。 【結果】 蛋白質溶液を段階希釈し、Ni 法のタイムコースを調 べたところ、濃度と反応速度が比例する擬1 次反応 となることが確認された。2 種類の試料について 10 回連続測定したところ、CV は 0.98~1.03%であり、 検量線は総蛋白値15g/dL まで直線性が認められた。 Ni 法(x)と Cu 法(y)で相関関係を調べたところ回帰式 y=1.049x- 0.19、相関係数 r = 0.996、平均値は Ni 法 (6.62 g/dL)と Cu 法(6.74 g/dL)となった。ビリルビン は20 mg/dL まで影響は認められなかった。アミノ酸 などの非蛋白成分はCu 法では正誤差となったが、 Ni 法では影響は認められなかった。 【まとめ】今回、Ni 法の反応速度に着目し、第 1 試 薬でビリルビンを消去し、第2 試薬で血清総蛋白を 測定する2-point rate法を考案した。本法は同時再 現性、希釈直線性、および従来法との相関も良好で あった。本法は汎用自動分析機での自動化が可能で あり、従来法とは原理が異なる蛋白質に特異性の高 い血清総蛋白測定法となりえるものと結論づけられ た。輸血が回避できた偽性貧血が疑われた一例
公益財団法人 東京都保健医療公社荏原病院 検査科 精進 藍理 【目的】 貧血は一般的にHb 濃度で評価される。今回、真実 のHb 値が 8.8g/dl であった患者の来院時 Hb 値が 3.7 g/dl であった事例を経験したので報告する。 【経過】 来院時に乳腺外科より血算・血糖・生化学がオーダ ーされた。貧血が著明に進行しており、肛門触診、 造影CT が施行されたが原因探索できず内科へ紹介 となった。貧血の原因を特定できなかったが、緊急 で輸血準備が必要と判断され、2 回目の採血指示が 出された。この時、臨床所見との乖離から再度血算 の採血が行われた。Hb 値 8.8 g/dl との結果を受け 輸血中止となった。 【結果】 初回採血(11:19)の結果は Hb 値 3.7 g/dl RBC 1.42×106/μl Ht 13.0% MCV 92fl MCH 26.1% であった。生化学の結果は初回 TP 7.0g/dl Na 162mEq/l K 3.8 mEq/l Cl 123 mEq/l CRP 4.15mg/dl であった。2 回目の採血(13:48)は Hb8.8 g/dl であった。初回、2 回目の採血手技に問 題はなく、検査データは管理物質の測定を行い故 障等の問題を認めなかった。生化学データの確認 のために3 度目の採血を行った(14:53)。この時 のデータは初回時とほとんど変化はなかった。採 血したすべての採血管を遠心分離すると貧血の程 度は数値が示す貧血の程度を表していた。患者誤 認はなく、真空採血のためシリンジ採血で起こる 不均一血液は否定、機器の自動混和による測定の ため混和不良も否定、輸液の混入も否定された。 【考察】 採取した検体自体に問題はなく、実際に1 回目は 3.7 g/dl の血液、2 回目は 8.8 g/dl の血液であった。貧 血ではないケースにおいて貧血と評価されてしま う事例が稀ながら報告されており、今回のケースも 偽性貧血が否定できない。座位、臥位でも重力によ って間質液が血管の内外を移動することで体位性 偽性貧血が起こるとされる。この事例において偽性 貧血の程度が強くなった機序を以下に示す。①高 Na 血症を伴った脱水、②炎症反応による血管透過 性亢進、③乳がん術後の患側上肢からの採血である。 ①②では、体位により間質液が血管内へ移動しやす い状態であった。また、患側上肢では、間質液の移 動が、リンパ管に還流しにくく、血管に集中するた め、体位により血液希釈されやすい環境であった。 今回の事例は、稀ではあるが、見逃してはいけない 貴重な経験となった。偽性貧血によるインシデント を予防するには、患側上肢からの採血はしないこと や、普段のQOL(臥床傾向か否か)、炎症や脱水の 程度、貧血などの臨床症状・所見を加味して、総合 的に検査結果を解釈することが重要である。ロラゼパムによる薬剤性起因性免疫性溶血性貧血の一例
東京都立墨東病院検査科1) 東京都立墨東病院輸血科2) 中原 美千代1)、高田 裕子1)、五十嵐 朋子1)、浅香 祐幸1)、 大竹 千晶1)、西村 滋子2)、藤田 浩2) ロラゼパム(商品名ワイパックス)は向精神薬として 使われる薬剤である。今回、ロラゼパムに対する薬剤 性自己抗体により、溶血性貧血を起こした症例を経験 したので報告する。 患者は73 歳女性。機能性頭痛と高血圧の既往があり、 かかりつけ医でロラゼパムを処方されていた。深夜帯、 ショックにて当院に救急搬送後、心停止となり蘇生処 置を行った。来院時血液検査でHb7.1g/dL、網状赤血 球 13.4 % 、 T-Bil3.1mg/dL 、 D-Bli0.7mg/dL 、 LDH833U/L、ハプトグロビン 20mg/dL であった。緊 急輸血にてRBC2u を輸血。その後 Hb3.5g/dL と低下 し、更にRBC4u 輸血した。クロスマッチでは間接抗 グロブリン試験で主・副試験・自己対照とも陽性にな り 、 直 接 抗 グ ロ ブ リ ン 試 験 (3+ )( サ ブ タ イ プ IgG(2+s)C3d(+w)C3bC3d(+w))であった。精査の結果、 DT 解離試験にて全てのパネルセルに(+w)~(2+)の反 応を呈する型特異性の無い抗体を検出した。薬剤に対 する抗体が懸念された為、ロラゼパムに対する薬剤複 合体検査を実施したところ、薬剤抗体陽性となった。 ロラゼパム投与を中止後、貧血は改善し、以降の直接 抗グロブリン試験はすべて陰性化した。 本症例は患者に潜在的閉塞性肥大型心筋症があり、薬 剤抗体による溶血性貧血が合併したことで心停止に 至った事が判明した。またロラゼパムの投与中止と共 に顕著な改善がみられた点も興味深く、薬剤自己抗体 に対する熟慮の必要性を再認識した。血糖が採血後に短時間で急速に低下した一例
東京都立墨東病院 検査科 汐谷陽子 【はじめに】 一般的に血糖は採血後、全血放置により約 7mg/dL/h で低下すると言われている。これは血球の解糖系酵素 の作用によりグルコースが乳酸へと代謝されるため である。解糖阻止剤である NaF 入り採血容器であっ ても、阻害剤が働くまでの採血約2 時間後までは同様 である。 私達は、採血後に短時間で急速に血糖が低下した症例 を経験したので報告する。 【症例】 70 歳代男性。現病歴は慢性好中球性白血病で当院に受 診し、内服加療を行っていた。両鼻出血を断続的に認 め、止血困難で救急搬送され入院となった。入院時の 血液検査は WBC:188.6×10^3/μL、RBC:174× 10^4/μL、PLT:3.4×10^4/μL であり、生化学検査 で基準範囲外となったのでは TP:5.9g/dL、ALB: 3.5g/dL 、LD : 996U/L、 ALP : 1654U/L 、CRP :9.97mg/dL であり、血糖は 85mg/dL と基準内であっ た。 【使用機器・試薬】 ①BM6050(日本電子)/ シカリキッド GLU J(関東化 学) ②GA06 (エイアンドティー) ③富士ドライケム4000 (富士フィルム) ④ABL800FLEX (ラジオメーター) 【血糖低下の現象】 入院翌朝の採血で血糖 58mg/dL(NaF 添加採血管)、 異なる採血管(高速凝固管)での再検査は血糖2mg/dL だった。3 機種で測定を行ったが、同様の結果であっ た。 【検討方法】 ヘパリンリチウム入り採血管で採血を行い、全血室温 の状態で採血直後から5 分毎に血糖(mg/dL)とラク テート(mmol/L)を ABL8000FLEX で測定した。 【結果】 直後 5 分 10 分 15 分 20 分 25 分 血糖 76 56 33 14 1 1 ラクテート 8 9.3 10.6 11.3 11.6 【考察】 複数の測定機器を用いたが結果に差はなく、測定上の 問題はないと考える。血球と血漿を分離すると血糖の 低下が止まった。また血糖低下に伴いラクテートが上 昇することから採決管内で通常よりも血糖の代謝が 促進された状態であり、急速に解糖が進んだものと考 える。その要因としては異常増多している白血球によ るものと推測されるが、好中球増多によるものなのか、 リンパ球増多でも同様の現象が確認できるかは今後 の検討課題としたい。