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イラン国際社会復帰の影響
新興国減速の中で注目される有望市場
○ 2015年7月にイランと主要6カ国が核開発問題に関する協議で最終合意したことを受け、2016年には 段階的にイランに対する経済制裁が解除される見通しである。 ○ 制裁解除後、①外国企業による石油・天然ガスプロジェクトへの投資再開、②原油増産により、イ ラン経済の回復が見込まれる。一方、原油増産は原油価格を下押しする要因となる。 ○ 8,000万人弱の人口を擁するイランは、将来的に消費市場や生産拠点としても有望だが、再び対米 関係が悪化するなどのリスクは残存している。1.はじめに
2015年7月14日、イランと主要6カ国(米国・英国・ドイツ・フランス・中国・ロシア)の間で、イ ラン核開発問題に関する協議が最終合意に達した。この「歴史的合意」に基づき、2016年にはイラン に対する経済制裁が段階的に解除される見通しであり、同国の国際社会復帰に注目が集まっている。 経済制裁解除によりさまざまなビジネスチャンスが生まれる一方、イランによる原油増産は一段の原 油価格下落要因となる可能性がある。本稿では、イランの国際社会復帰が国際経済に与える影響につ いて考察する。2.長きにわたった経済制裁
イランと米国の関係悪化は、1979年のイラン・イスラム革命時までさかのぼる(次頁図表1)。革命 前のパフラヴィ朝を支援していた米国は、80年にイランとの国交を断絶し、84年にはイランをテロ支 援国家に指定するとともに武器禁輸などの措置を講じた。95年に米国は自国企業によるイランとの取 引を禁じ、96年にはイラン・リビア両国の石油産業に一定金額以上の投資をした外国企業をも制裁対 象に含める、イラン・リビア制裁法(Iran and Libya Sanctions Act of 1996)を制定した。2002年 には米ブッシュ大統領(当時)が、イラン・イラク・北朝鮮の3カ国を「悪の枢軸」と非難した。 それと前後してイランの核開発に関する疑惑が浮上し、2003年には国際原子力機関(IAEA)理事会 が、ウラン濃縮活動停止などを求める決議を採択した。2003年末のイランによる追加議定書への調印 を経て、2004年には英国・ドイツ・フランスとの間でウラン濃縮活動停止などを内容とするパリ合意 が成立し、一旦イラン核開発問題は終息に向かうかにみえた。しかし、2005年に就任した保守派のア フマディネジャド大統領のもと、イランがウラン濃縮を再開したため、2006年以降、国連安全保障理 事会はイランに対する制裁を数次にわたって決議した。さらに、イランのウラン濃縮活動が活発化し 欧米調査部ロンドン事務所長 山本康雄 +44-20-7012-4452 [email protected]エマージング
2015 年 12 月 22 日みずほインサイト
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た2010年ごろから、米国をはじめとする国際社会の経済制裁は一段と強化された。米国では、2010年 に包括的イラン制裁法(Comprehensive Iran Sanctions, Accountability and Divestment Act of 2010)、 2011年にはイランへの追加制裁を含む国防授権法(National Defense Authorization Act)が成立し た。前者はイラン石油産業に投資した主体(外国企業を含む)に対する米国金融機関との取引禁止な ど、後者はイランの金融機関(イラン中央銀行を含む)と取引した外国金融機関に対する米国金融機 関との取引禁止などを内容としている。2012年には欧州連合(EU)もイラン産原油の輸入禁止など 独自の制裁強化措置を講じた。 こうした流れが大きく変わったのは、穏健派のロウハーニー氏がイラン大統領に就任した2013年8 月からである。ロウハーニー大統領就任後、イランと主要国間の核開発問題に関する協議が加速し、 同年11月に「第一段階の合意」が成立した。それに基づき、2014年1月には米・EUの経済制裁が一部 緩和された。2015年4月にはイランと主要6カ国の間で「枠組み合意」が成立し、同年7月に「最終合意」 に達した。歴史的と報じられた最終合意は、イランがウラン濃縮能力削減やIAEAによる査察を受け入 れるかわりに、国連・米国・EUが核開発問題に関連して課した各種制裁を段階的に解除することを 内容としている。2015年12月15日のIAEA理事会では、イランの核開発に関する調査終了の決議が採択 されており、2016年前半からイラン関連資産の凍結・イラン産原油輸入の禁止・金融取引禁止などの 経済制裁が段階的に解除される見通しである。 図表1 対イラン経済制裁を巡る主な動き 年 1979 イランイスラム革命(2月) 米国大使館員人質事件(11月) 1980 イラン・イラク戦争(~1988) 1984 米国がイランをテロ支援国家に指定、武器禁輸措置 1996 米国でイラン・リビア制裁法(ILSA)成立 2002 米ブッシュ大統領、「悪の枢軸」演説 2003 イランがIAEA(国際原子力機関)追加議定書に調印 2004 パリ合意 2005 保守派のアフマディネジャド氏、イラン大統領に就任 2006 米、ILSAをイラン自由支援法(IFSA)として継続 2010 米国で対イラン包括制裁法(CISADA)成立 2011 米国で対イラン制裁強化を含む国防授権法成立 2012 EUがイラン産原油輸入禁止 米国でイラン脅威削減・シリア人権法成立 2013 穏健派のロウハーニー氏、イラン大統領に就任(8月) イランと「P5+1」との間で、「第一段階の合意」成立(11月) 2014 経済制裁の一部解除(1月~) 2015 イランと「P5+1」との間で、「枠組み合意」成立(4月) イランと「P5+1」との間で、「最終合意」成立(7月) IAEAが最終報告書を理事会に提出(12月) 2016 段階的な制裁解除 (注)P5+1・・・国連安保常任理事国(米・英・仏・中・ロ)+独 (資料)各種報道、国際金融情報センター 出来事
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3.当面の注目点は、資源プロジェクト再開と原油増産の影響
イランの経済規模(名目GDP)は2014年時点で4,165億ドル(世界GDPに占めるシェア0.54%)、 一人当たりGDPは5,353ドルである(図表2)。2000~10年の実質GDP成長率は年平均5.3%とハイ ペースで成長してきたが、経済制裁強化の影響で2012・2013年はマイナス成長となった(図表3)。通 貨リアルが暴落したため、この間のインフレ率は一時30%を超え、国民経済は疲弊していた。 経済制裁が解除されれば、海外資本による対イラン投資の再開や原油増産が景気回復の要因になる とみられる。イランへの直接投資は、エネルギー関連のプロジェクトから活発化するであろう。同国 は原油埋蔵量が世界第4位、天然ガス埋蔵量が世界第1位の資源大国であるが、経済制裁による投資不 足の影響で既存の油田施設が老朽化しているほか、天然ガス田の開発は進んでいない。制裁解除後の 投資呼び込みを狙い、イラン政府は油田・ガス田開発に関して、従来より外国企業に有利な条件での 新たな契約方式を11月末に発表した 1。 制裁解除後に予想されるもう一つの短期的な動きとして、イランによる原油の増産が挙げられる。 イランの原油生産量は、1970年代のピーク時に1日あたり600万バレルを超えていたが、経済制裁の影 響などから足元(2015年11月)の生産量は日量280万バレルまで低下している(次頁図表4)。ザンギャ ネ石油相は、制裁解除後すぐに日量50万バレル増産した上で、数カ月以内にさらに50万バレルを増産、 合計で100万バレル程度増産する意向を示している。石油部門はイランのGDPの約10%を占めており、 増産が実現すれば経済成長率を大きく押し上げる要因となる。単純計算では、日量280万バレルから380 万バレルに36%増産した場合、成長率は3%強押し上げられる計算となる。 一方、供給過剰による価格下落が続く原油市場にとって、イラン産原油の増産はさらなる需給緩和 要因となる。日量100万バレルの増産分は、世界の原油生産量の1%強に相当する。原油価格(WTI) は2015年12月上旬時点で1バレル=30ドル台後半まで下落しているが、イランの増産と輸出再開によっ て一段と低下し、他の産油国の経済・財政を圧迫するリスクがある。 図表2 イラン基礎情報 図表3 イラン経済の成長率とインフレ率 人口(2013年) 7,748万人 面積 164.8万k㎡ 首都 テヘラン 主要言語 ペルシア語 主要宗教 イスラム教(シーア派) 国家元首 アリ・ホセイン・ハメネイ最高指導者 行政責任者 ハサン・ロウハーニー大統領 GDP(2014年) 11,033兆リアル (4,165億ドル) 一人当たりGDP(2014年) 5,353ドル 通貨 リアル 2014年の為替水準 1ドル=27,073リアル 原油確認埋蔵量 1,578億バレル(世界4位) 天然ガス確認埋蔵量 1,201兆立方フィート(世界1位) (資料)IMF、国際金融情報センター、Bloomberg、BP 0 5 10 15 20 25 30 35 40 ‐8 ‐6 ‐4 ‐2 0 2 4 6 8 10 2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 実質GDP(左目盛) インフレ率(右目盛) (前年比、%) (前年比、%) (注)2015年はIMF予測 (資料)IMF (年)4 もっとも、投資不足による施設老朽化などを背景に、短期間での増産が可能か疑問視する向きもあ る。経済制裁の解除がいつ始まり、イランの原油増産がどの程度で進むか、現時点では不透明感が強 い。
4.制裁の影響で縮小していた対日貿易も回復へ
日本とイランの貿易は、一貫して日本側の貿易赤字となっている(図表5)。貿易統計(財務省)に よれば、イランからの輸入品目は99%以上が原油、イラン向け輸出は自動車などの輸送機械が約4割、 一般機械が1割強、化学品が1割弱を占める。 過去の貿易金額の推移をみると、経済制裁の影響で2011年以降、輸出入とも大幅に減少していたこ とがわかる。イラン向け輸出金額は2010年時点で1,824億円であったが、2014年には266億円と約7分の 1になった。2010年時点で9,804億円であったイランからの輸入金額についても、2014年の6,534億円に 約36%減少している。 経済制裁が解除されるに従い、貿易金額は今後、徐々に回復していくと予想される。まずは、自動 車等の輸出回復が先行する可能性が高い。長期供給契約のウェイトが高い原油の調達先変更には多少 の時間がかかるが、イラン産原油の増産を受け、原油輸入も回復に向かうであろう。日本企業がイラ ン国内の原油・天然ガスのプロジェクトに参画すれば、中長期的に原油輸入がさらに拡大する可能性 があるほか、将来は天然ガス輸入の開始も視野に入ってくる。 また、国際的な金融決済システムへのアクセスが回復して資金調達が可能になることにより、資源 関連以外でも鉄道・道路などのインフラ整備事業が進むことが予想され、日本企業が関与するチャン スは相応にあるとみられる。 図表4 イランの原油生産量 図表5 日本とイランの貿易金額 280 0 50 100 150 200 250 300 350 400 10 11 12 13 14 15 (万バレル/日) (年) (資料)Bloomberg 1,824 266 9,804 6,534 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 18,000 20,000 2000 02 04 06 08 10 12 14 イラン向け輸出金額 イランからの輸入金額 (億円) (資料)財務省「貿易統計」 (年)5