透析導入(適応/時期)(100714)
以前勉強した「腎障害の診断、透析時期とクレアチニン」 http://rockymuku.sakura.ne.jp/zinnzounaika/zinnsyougai.pdf の透析導入に関連した部分を新しく別項目として独立させ、内容を追加した。 □適応 腎機能の廃絶した末期腎不全や、他の治療法では管理できない高度の高窒素血症、水・電 解質異常の場合に試みられる。1) 尿毒症の原因、高齢/小児にかかわらず、保存的な治療法ではもはや回復・維持させること ができなくなった時期に考慮される。1) CKD 病期ステージ 5(GFR 15ml/min 1.73m2)に至った症例は、透析療法か移植医療を選択 し、これらの腎代替え療法を受ける運命から逃れることはできない。2) CKD 病期ステージ 3 以下の病期で透析導入が必要となる事態はまずない。(本腎臓学会の CKD 診療ガイドにも、「CKD 病期ステージ 1~3 はかかりつけ医で治療を続ける」と記載されて いる。ただし、「腎機能低下の進行が速い場合、血糖および血圧のコントロールが不良な場 合は、腎臓専門医または糖尿病専門医に相談し、治療方針を検討する」こととなっている。) 2) CKD 病期ステージ 4 に入ると、症例によっては透析導入が必要と判断される場合がある。2) (参考文献 6 より引用)□開始基準 比較的ゆっくり進行する慢性腎不全では、ある程度の導入基準に関してコンセンサスが得ら れている。1) 慢性腎不全の透析導入基準は厚生省の基準が指標となる。1) あまりにも高度の末期腎不全まで保存的な治療を試みると尿毒症の合併症が併発しやすく なるため、やや早期に社会復帰を目的として透析に導入される傾向がある。(糖尿病による 腎不全、高齢者の腎硬化症、膠原病による腎不全など)1) 透析導入については、最終的には主治医の判断が大きい。1) Ccr<10ml/min あるいは血清 Cr>8mg/dlはあくまでも数値的な導入基準であり、透析導入が 腎機能基準のみから決定されるのではない。2) 諸家の指摘するように、筋肉量が少ない高齢者や小柄の女性では、クレアチニンクリアラン スが 10mL/分以下であっても、血清クレアチニンが 8.0mg/dL 以上にならないこともあり、これ らの腎不全患者では血清クレアチニン 8.0mg/dL 以上になるのを待っていては透析導入時期 が遅すぎることになり得る。4) 実際には、尿毒症に関連するさまざまな臨床症状がしばしば導入を決定する要因となってい る。(症例によっては、腎機能低下が軽度にもかかわらず透析導入を余儀なくされることがあ るが、一方、顕著な尿毒症症状が出現しないため、稀ではあるが血清 Cr が 20mg/dl程度ま で導入を待てる症例もあるのが現状)2) 体液過剰のな かで も重篤な肺水腫や高血圧、電解質異常のなかで は高カリウム血症 (7>mEq/l)、循環器症状のなかでは心不全と不整脈、視力障害では網膜出血に伴う症状、 中枢神経症状としては意識障害、これらがあれば緊急的に透析導入を決断すべきと考えら れる。2) 糖尿病性腎症患者は、糖尿病性腎症の進行により尿蛋白量が多い症例が多い。そのため、 浮腫、心不全のコントロールに難渋することがあり、このような症例では、透析導入を急ぐこ とになる。2) 慢性糸球体腎炎でも、CKD 末期まで難治性のネフローゼ症候群状態が持続している場合は、 糖尿病性腎症と同様に水管理が難しく、透析導入を早めることも多々ある。2) 従来より、腎臓専門医は、①自らフォローする目の前の CKD 患者の全体像を捉え、腎機能 がどの程度まで低下したら透析導入を考慮し始めるべき領域に入いるかを推測し、②透析に 導入すべき兆候や症状に注意し、その兆候や症状が出現した場合、保存的治療が困難また は有益でないと考えたとき透析に導入し、③ESRD の兆候や症状のなかなか出現しない場合 においては、遅きに失する腎機能低下まで進行しないうちに透析に導入するという行動様式 をとっているように思う。4)
れることになる点である。患者自身はもちろん、周囲の人たちの協力・理解が無ければ達成 できない。1) 透析導入の実態調査において、この導入基準(以下の基準)60 点以上を満たす比率は、糖 尿病患者で 97.2%、非糖尿病患者で 90.7%、全体で 92.2%、導入点数と導入 2 年後の死亡 率と社会復帰率で見ると、導入時の点数が高いほど死亡率が高く、社会復帰率は低下する 傾向にあり、総合点数が高くならないうちの導入は、予後の改善につながるということが示さ れた。4)(→この点に関しては後半の NEJM の論文を読んで検討) 慢性腎不全の透析導入基準 (厚生省科学研究 腎不全医療研究班 1991) 保存的治療では、改善できない慢性腎機能障害、臨床症状、日常生活能の障害を呈し、以 下の I ~ III 項目の合計点数が原則として、60 点以上になった時に長期透析療法への導 入適応とする。 I. 腎機能 血清クレアチニン 8mg/dl 以上 (クレアチニンクリアランス 10ml/min 未満) → 30 点 血清クレアチニン 5~8mg/dl 未満 (クレアチニンクリアランス 10~20ml/min 未満) → 20 点 血清クレアチニン 3~5mg/dl 未満 (クレアチニンクリアランス 20~30ml/min 未満) → 10 点 II. 臨床症状 1. 体液貯留 (全身性浮腫, 高度の低蛋白血症, 肺水腫) 2. 体液異常 (管理不能の電解質・酸塩基平衡異常) 3. 消化器症状 (悪心, 嘔吐, 食思不振, 下痢など) 4. 循環器症状 (重篤な高血圧, 心不全, 心包炎) 5. 神経症状 (中枢・末梢神経障害, 精神障害) 6. 血液異常 (高度の貧血症状, 出血傾向) 7. 視力障害 (尿毒症性網膜症, 糖尿病性網膜症) これら 1~7 小項目のうち 3 項目以上のものを高度(30 点)、2 項目を中等度(20 点)、1 項目を 軽度(10 点)とする。 III. 日常生活障害度 尿毒症症状のため起床できないものを高度(30 点)、日常生活が著しく制限されるものを中等 度(20 点)、通勤, 通学あるいは家庭内労働が困難となった場合を軽度(10 点)とする。ただし、 年少者(10 歳以下)、高齢者(65 歳以上)あるいは高度な全身性血管障害を合併する場合、全 身状態が著しく障害された場合などはそれぞれ 10 点加算すること。
(参考文献 2 より引用) 透析導入に当たり、多くの絶対適応が存在する。8) □ 心膜炎 □ 利尿剤に反応しない体液過剰や肺水腫 □ 降圧剤に反応しない急速進行性の高血圧 □ 進行性の尿毒症や神経症(混乱、羽ばたき振戦、ミオクローヌス、下垂足、下垂手、痙攣な どを認める) □ 尿毒症による臨床的に著明な出血素因 □ 持続する嘔気、嘔吐 □ 血清Crが12以上またはBUNが100以上 などが含まれる。しかしながらこれらの適応は生命を脅かす危険があり、多くの腎臓専門医は これらの合併症のいくつかが出現してから透析を導入するのは患者を不必要に危険にさらして いると考えている。 以下がUpToDate著者らの基準である。8) □ 慢性腎不全患者の栄養状態の指標が悪くなったときにはいつでも透析を導入する。(栄養 状態が悪いと導入後の予後が悪い。)
(参考文献8より引用)
□ GFRが15-20mL/minになったら透析導入を強く考える。(特に高齢者や糖尿病患者) □ 血清Crが10以上、BUNが100以上で透析導入がされるべきである。(クレアチニンが低いほ
うが導入後の予後が悪い。あまり早く導入するのも考え物である。)
参考:以下は参考文献8で紹介されていた各国のガイドライン
The 2006 National Kidney Foundation Dialysis Outcomes Quality Initiative (K/DOQI) for peritoneal dialysis adequacy
GFR15以下(GFR less than 15 mL/min per 1.73 m2 (stage 5 chronic kidney disease))腎機能 障害のために健康状態が悪い場合にはこれ以前に導入
The 2005 European Best Practice Guidelines for peritoneal dialysis
GFR6以下で導入、8-10で導入を考慮する(GFR less than 6 mL/min per 1.73 m2, with consideration of initiation when the GFR is approximately 8 to 10 mL/min per 1.73 m2)
参考:透析導入時の実際のデータ 導入時クレアチニンの実例を挙げてみる。ある大学の例(大沢 弘 地域医療における腎疾患 の診断と治療 第6回地域循環器診療研究会学術講演会)。導入時血清クレアチニンの平均は 8.8mg/dl。実際には症状も考慮されるとのこと。 (参考文献7より引用) 参考文献 2 の中では新潟県のデータが紹介されており、「新潟県の透析導入患者における導 入時の腎機能を調査した結果、慢性糸球体腎炎が原病である場合、導入時の Ccr は 4.9± 3.8ml/min、SCr は 10.9±3.6mg/dlであり、平均プラスマイナス 1 標準偏差(SD)のレンジでもかなり 幅広いことがわかる。Ccr<10ml/min あるいは血清 Cr>8mg/dl はあくまでも数値的な導入基準で あり、透析導入が腎機能基準のみから決定されるのではないことがわかる。」と記載されている。
された」と記載されていたが、これは観察研究の結果であり、実際の介入の効果は RCT でないと 何とも言えないと思う。CKD のステージ 5 の患者の中でも、早期に開始するのか、晩期に開始する のかで総死亡率を評価した研究があるので読んでみた。
●PECO
P:patients 18 years of age or older with progressive chronic kidney disease and an estimated glomerular filtration rate (GFR) between 10.0 and 15.0 ml per minute per 1.73 m2 of body-surface area (calculated with the use of the Cockcroft–Gault equation)
E:planned initiation of dialysis when the estimated GFR was 10.0 to 14.0 ml per minute (early start)
C:when the estimated GFR was 5.0 to 7.0 ml per minute (late start) O:The primary outcome was death from any cause.
つまり、GFR が 10~15ml/min/1.73m2の患者(CKD のステージ 5 の患者)に対して、GFR が 10
~14 ml/min/1.73m2になった時期に透析を導入すると(早期開始群)、5~7 ml/min/1.73m2になっ
た時期に透析を導入した場合(晩期開始群)と比較して、総死亡が減少するかどうかを検討した研 究であることが分かる。
●妥当か
抄録中に randomly assigned、median follow-up period of 3.59 years のキーワードがある。本文 中に All survival analyses were performed according to the intention-to-treat principle.とあり、重 要な項目はクリアーしている。エンドポイントは医師や患者の意図が反映されにくく、盲検化はあ まり重要でない。実際に盲検化が困難として行われていない。妥当性に関しては大きな問題はな いと思われる。 ●結果 結果は以下の通り、早期に介入したからといって総死亡率が減少するわけではなかった。死亡 のみならず、心血管イベントや感染症に関しても差を認めないという結果であった。
152 of 404 patients in the early-start group (37.6%) and 155 of 424 in the late-start group (36.6%) died (hazard ratio with early initiation, 1.04; 95% CI, 0.83 to 1.30; P = 0.75). There was no significant difference between the groups in the frequency of adverse events (cardiovascular events,
infections, or complications of dialysis). (参考文献 5 より引用) 差が無いといっても、糖尿病だったり、蛋白尿が多い症例では早めの導入が良いような気がす るのではないだろうか。ところが、以下に示すように、糖尿病や低蛋白血症でも明らかな差はない ようだ。もっとも、今回の研究はステージ 5 になってからの比較なので、多くの先生が指摘するよう に、ステージ 4 程度のうちに早期に介入すれば差がつく可能性は否定できない。この点に関して は今後も注目していきたい。
(参考文献 5 より引用) □透析導入にかかわらず、CKD の観点から見た専門医紹介のタイミング(参考) CKD の概念はある程度単純化されたものであるから、考慮すべき臨床上の指標も、基本的 に尿タンパク排泄量および腎機能(eGFR)の 2 つでよい。3) 通常の試験紙法での尿検査に加え、必ず尿タンパク定量を指標に加えるべきである。尿タン パクが多ければ多いほど、腎機能の低下スピードは一般に速くなる。すなわち CKD のステー ジがより早く進行する。3) 血尿よりもタンパク尿の有無が CKD の予後を左右する。3) 専門医に紹介すべき基準 3) a. 尿タンパク・クレアチニン比 0.5g/gCr 以上または 2+以上のタンパク尿のとき(eGFR が 正常であっても紹介が必要である) b. eGFR 50mL/min/1.73m2未満のとき
c. タンパク尿と血尿がともに陽性 参考文献 1. 北岡建樹.対話で学ぶ腎不全と透析療法の知識.東京,南山堂,2002. 2. 西慎一ら.透析導入のタイミング.Modern Physician, 28(8) : 1252-1256, 2008. 3. 横井徹.CKD におけるプライマリ・ケア医の役割と専門医紹介のタイミング.治療, 90(4) : 1429-1433, 2008. 4. 吉仲弘充.透析導入基準について.治療, 90(4) : 1535-1538, 2008.
5. Cooper BA, Branley P, Bulfone L, Collins JF, Craig JC, Fraenkel MB, Harris A, Johnson DW, Kesselhut J, Li JJ, Luxton G, Pilmore A, Tiller DJ, Harris DC, Pollock CA; the IDEAL Study. A Randomized, Controlled Trial of Early versus Late Initiation of Dialysis. N Engl J Med. 2010 Jun 27.
6. 日本腎臓学会編.CKD 診療ガイド 2009.東京,東京医学社,2009.
7. 大沢 弘 地域医療における腎疾患の診断と治療(講演会プリント) 第6回地域循環器診療
研究会学術講演会