2018/11/07 05:00 北海道地震
液状化被災地でいまだ続く地盤変状
荒川 尚美=⽇経 xTECH/⽇経ホームビルダー 北海道胆振(いぶり)東部地震で地盤と住宅の⼤規模な沈下が発⽣した札幌市清⽥区⾥塚地区では、地震発⽣から約2カ⽉がたった現 在も、地盤に空洞ができるなどの変状が続いている。札幌市が地震後に⾥塚中央ぽぷら公園に設置した変位計は、10⽉末までに33㎜の 沈下を記録した。この状況が、地盤被害の原因特定を難しくしている。 公園の南側に住むある男性(44歳)は、地震前にリフォームしたばかりだ。住宅の不同沈下は免れたものの、敷地の地下に新たな空 洞が複数⾒つかった。住宅の基礎付近に空いた空洞は、深さが70㎝以上あった。空洞を⼟砂で埋めた後も、再び隙間が発⽣している。 この男性は「空洞に⽔を注ぐと、いくらでも地下に流れる。⾬や雪解け⽔が流れ込んでさらに空洞が広がり、家が傾くのではないか と⼼配だ」と訴える。 公園の南側に住む男性の住宅の基礎のそばで、地震後に新た に⾒つかった空洞。こうした空洞が、男性の敷地内で少なく とも4カ所確認された(写真:住⺠提供) [画像のクリックで拡⼤表⽰] 記事URL:https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00432/110500039/ このページに掲載されている記事・写真・図表などの無断転載を禁じます。著作権は⽇経BP社、またはその情報提供者に帰属します。掲載している情報は、 記事執筆時点のものです。空洞の⼨法を測っている様⼦。直径は約16㎝、深さは基礎の下端と同じ70㎝に達する(写 真:住⺠提供) [画像のクリックで拡⼤表⽰] 公園の東側で、住宅が現段階で⼀部損壊となっている近藤早苗⽒の敷地と隣地では、地盤のくぼみや⻲裂、隙間が地震後に増加して いる。「変状は徐々に⼤きくなっている。地盤が激しく陥没した全壊の隣地の⽅に、地下の⼟砂が流れている。市に窮状を伝えても、 ⺠間の問題なので介⼊できないと⾔われるだけだ」と近藤⽒は頭を抱える。 公園の東側にある近藤⽒の敷地では、地震後に地⾯に張った タイルが凸凹になった。⽬地の隙間も広がっている。地盤が 陥没して住宅が全壊した隣の敷地側に、住宅や⼟留めが傾い た(写真:⽇経ホームビルダー) [画像のクリックで拡⼤表⽰] この住⺠らは、宅地の下の空洞調査を札幌市に求めているが、市は応じない姿勢だ。その⼀⽅で市の⼟⽊部道路維持課は、⾥塚地区 の道路⾯下の空洞調査を11⽉6⽇から実施することを明らかにした。この調査対象は地盤被害が⼤きかった範囲の外側に限られているの で、住⺠の不満は増している。 市⼟⽊部清⽥区⾥塚地区市街地復旧推進室の⻄⼭健⼀係⻑は次のように説明する。「宅地は⺠間の問題なので、地主が⾃分で調査し て、復旧するのが基本だと考えている。⼤きな液状化が発⽣した後なので、地盤がしばらくの間動くのは⼀般的だと捉えている」 道路⾯下の空洞調査について市⼟⽊部道路維持課は、「被災の原因を調べる調査ではない。道路の陥没事故を防ぐ⽬的で実施する」 と説く。被災が⼤きかった箇所は、現在アスファルトの舗装⼯事を実施しているので、空洞が⾒つかれば⼀緒に修復する考えだ。 現在も続く沈下に対して、市の⾒解や対応に疑問を呈する専⾨家がいる。「⾥塚地区の地盤沈下量は局所的で⼤き過ぎる。液状化だ けでは被災原因を説明しきれない。⼟砂の流出で地下に⼤きな空洞ができている可能性がある。適切な対策を講じるためには、被災地 域全域の地下を早急に調査しなければならない」。関東学院⼤学で教授を務めていた若松加寿江⽒はこう指摘する。
被災者の相談にボランティアで応えている地盤品質判定⼠協議会の諏訪靖⼆幹事は、「宅地は⺠間の問題というだけでは、被災者は どうしたらいいか分からず不安になるばかりだ。市は被災者に対してもう少し丁寧な説明が必要だ」と話す。
沈下の主因は液状化の流動
市が地盤被害の主因を液状化だと発表したのは、10⽉18⽇に開催した第2回の地元説明会だった。 市が想定した被災のメカニズムはこうだ。まずは、造成した⽕⼭灰質の盛り⼟で液状化が発⽣。続いて、液状化した⼟砂が造成前の 旧地盤にあった沢沿いで流動化して下流に流れた。その結果、上流の地盤が陥没。下流に⼟砂が堆積した。 札幌市が想定した被災のメカニズム。地下⽔位よりも下にある盛り⼟部分で液状化が発⽣。 ⼟砂が旧地盤⾯の低い⽅に流動したと説明している(資料:札幌市) [画像のクリックで拡⼤表⽰] 液状化した⼟砂が流動した場所と堆積した場所(資料:⽇経ホームビルダー) [画像のクリックで拡⼤表⽰] 地盤⼯学会地盤災害調査団の副団⻑として現地調査に当たった北海道⼤学の渡部要⼀教授は、市が想定したメカニズムについて、 「⾃分の推定とおおむね⼀致する」と⾔う。 上流側で砂が地表に噴き出さず、下流側に流れた点について、渡部教授は次のように分析を加える。「現地は⾼低差が10mほどあ る。最下流では泥⽔圧が増し、地中から地表⾯が隆起された。そして、アスファルトが剥がれた所で噴砂が吹き出した。液状化に続い て⽔道管が破裂して⼤量の⽔が流れ出たことも、被害拡⼤につながった」(渡部教授) 若松⽒も、砂が地表に噴き出さない液状化は珍しくないと認める。「液状化の痕跡の⼀形態として、遺跡の発掘断⾯で地表⾯に到達 していない噴砂の跡が⾒つかる例がある。03年に発⽣した⼗勝沖地震でも農地が⾕に沿って液状化し、上流部は陥没、中央部で噴砂が 出て、その噴砂が地表⾯から下流部に流動した」(若松⽒) ただ、流れ落ちていった⼟砂の量については、不可解な点が残る。⾥塚地区で沈下した地盤の体積は約1万m3、深さは最⼤3mに達す る。⼀部は三⾥川に流れたことが確認されているものの、トラックで同地区から排出された⼟砂は約4000m3に過ぎない。⼟粒⼦に間 隙⽔が50%含まれていたとしても排出量は8000m3になり、沈下量には届かない。⼟砂が川に流れたのは、過去に⽔路を地中化するために設けていた管路があったからだ。被災地は、バス会社のじょうてつ(札幌 市)が旧⾕筋沿いの農地を1978年に埋め⽴てた造成地になる。この際、旧⾕筋に流れていた⽔路は、ほぼ同じ経路に埋設した直径200 ㎜の有孔管と、途中で合流する⼤型のボックスカルバート(三⾥川ボックス)に付け替え、⾬⽔や地下⽔を最終的に三⾥川に流してい た。 ⾥塚地区の造成盛り⼟の範囲と旧⽔路、暗きょ、三⾥川ボックスの位置を⽰す(資料:札幌市) [画像のクリックで拡⼤表⽰] 地震後に実施した三⾥川ボックスの調査結果の概要。三⾥川ボックス内には、破損などの異 状は⾒られなかった。暗きょが合流している箇所や、下⽔管の接続箇所から⼟砂の流⼊した 痕跡が確認された(資料:札幌市) [画像のクリックで拡⼤表⽰]
暗きょが被害を拡⼤
⾥塚地区の造成図と被害の発⽣箇所を重ねると、旧⾕筋の暗きょ沿いに被害が集中している。冒頭の男性のリフォーム前の住宅が不 同沈下していたことや、公園の周囲の道路でマンホールが沈下していたことも、取材で判明した。 ところが、市は説明会資料で暗きょの影響に⾔及していないばかりか、地中の有効孔を調査する計画は現段階ではないと説明した。 そのため、住⺠は不満の声を上げている。 ⼀部の研究者は暗きょが被害を拡⼤した可能性を指摘する。前橋⼯科⼤学の森友宏准教授は次のように推測する。「以前から暗きょ 内に⼟砂が少しずつ吸い出されて、暗きょの上の地盤が緩くなっていたと思われる。そこに地震が発⽣し、液状化と圧密沈下が⽣じ た。暗きょは低い位置にあるので、集⽔⾯積が⼤きく、⼟砂の吸い出し量も多くなった」前橋⼯科⼤学の森友宏准教授が推定した被災のメカニズム。暗きょが⼟砂を吸い出して密度 が低下した盛り⼟部で、液状化や圧密が発⽣し、地盤が沈下。地震時の下流側の噴砂⼝周辺 では、地表近くの地盤のせん断抵抗がほぼゼロになり、上⽅の⼟塊を⽀えきれなくなってす べったと説明する(資料:森友宏) [画像のクリックで拡⼤表⽰] 若松⽒は⽼朽化した暗きょの排⽔能⼒を超える⾬⽔や地下⽔が旧⾕筋に集まった影響を推測する。「⽔みちに沿って液状化で流出し た⼟砂の体積と、既に⽣じていた空洞の体積が合わさり、⼤きな陥没が⽣じたのではないか」(若松⽒) こうした推論は、冒頭で⽰した2⼈の住⺠の敷地で発⽣した空洞や⻲裂が広がっている状況の説明となり得る。市が地震後に実施した 調査で、公園の地下⽔位が1.5mと⽐較的浅かった点も、暗きょの排⽔不良を⽰唆している。 渡部教授は盛り⼟に使われていた⽕⼭灰質⼟の⼟質にも注⽬する。「液状化しやすい性質だけでなく、透⽔性が低いという特殊性も 備える。排⽔性能が悪くなるので、⼤⾬などで地下⽔位が⼀旦上昇すると、下がりにくくなる恐れがある」(渡部教授)
宅地被害も助成
市は⾥塚地区の宅地について、2つの復旧⽀援策を提⽰した。1つ⽬は、旧⾕筋の既存宅地と道路などで、地盤沈下の再発防⽌策を⼀ 体的に進めることだ。国の助成⾦を受けられる「宅地耐震化推進事業」を活⽤する。 対策⼯法としては、東⽇本⼤震災や熊本地震の液状化被災地で実施した地下⽔位低下⼯法などを挙げる。既に⼟の透⽔性能を調べる 揚⽔試験を10⽉22⽇に公園内で始めた。 ⾥塚中央ぽぷら公園で10⽉22⽇から実施している揚⽔試験の様⼦。⼟の透⽔性能などを調べ る(写真:⽇経ホームビルダー) [画像のクリックで拡⼤表⽰] 2つ⽬は、被災した地盤の修復⼯事や住宅の沈下修正⼯事などを住⺠が実施した場合の助成だ。熊本県が熊本地震で導⼊した制度にな らい「札幌市宅地復旧⽀援事業」を創設した。ただ、札幌市の補助額は熊本県よりも少ない。宅地の復旧に要した額から50万円を控除 した額の2分の1、上限は200万円としている。同制度は⾥塚地区以外の宅地も対象にする。札幌市宅地復旧⽀援事業の概要。住⺠が実施する地盤や擁壁の復旧⼯事、住宅の沈下修復⼯ 事などを助成対象に据える。補助⾦額は対象⼯事費から50万円を控除した額の2分の1、限度 額は200万円(資料:札幌市)