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個人人格と組織人格--バーナード組織機能論の一考察---香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

香 川 大 学 経 済 論 叢 第71巻 第2号 1998年9月 3-25

個人人格と組織人格

一 一 パ ー ナ } ド 組 織 機 能 論 の 一 考 察 一 一

細 川

1.序 ノTーナードの理論は,組織理論として,伝統的組織論から近代的組織論への 転換の契機をなし,特にわが国においては,その後の経営紙織論の展開に大き な影響を与えてきた。しかし,バーナードは「私の意図したのは,管理者は何 をせねばならないか,いかに,なにゆえに行動するのか,を叙述することであっ たJ(バーナード,新訳 I日本語版への序文J13-14ページ)と述べ,自己のね らいが「管理者、の役割」の解明すなわち管理機能論であることを明言している。 「しかしまもなしそのためには,彼らの活動の本質的用具である公式組織の 本質を述べねばならぬことがわかった」ために,組織機能論を展開したのであ る。そのうえ,組織の研究を進めようとすれば,どうしても「個人とは何か」 「人間とは何を意味するのか」という問題に直面せざるを得ず,それから逃れ ることが出来ないことがわかったと言う

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。以下の引用では

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を省略している)。 一口に「個人」と言っても,一方では,姓名や履歴を持った一人の個別的な 人聞が問題とされるが,他方では,集団を構成する人間や非人格的性格の協働 的行為そのものが注目される。したがって,協働システムの参加者については, 二重人格

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,すなわち個人人格

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を持っている

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8

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ことの理解が不 可欠である。すなわち I組織の性格やその機能について広範囲な研究をする場

(2)

-4- 香川大学経済論叢 198 合とか,粧織における管理過程の諸要素を説明しようとする場合,その第一段 階として,特に人(man),すなわち“個人"(individual)や“人間"(person),お よびそれに関連する事項についての立場,理解,公準を明らかにしなければな らないことがわっかた」印刷9)として,理論の展開を個人ないし人間の問題から 貴台めている。 われわれもバーナードの組織機能論および管理機能論の基礎となる人間理解 について検討しよう。 2.個 人 一 般 (1) 個人の特性 ノTーナードは,あらゆる協働システムに外的な「個人J(an individual)およ び「人間J(a person; a human being)から出発する。個人は「一人の人間」 (one person)であり,人間の特性を具現している(p13)。 個人とは r過去および現在における物的,生物的,社会的諸要因である無数 の諸力を具現している,独特の,独立している,孤立した,ただ一つの全体的 存在(asingle whole thing)J (p“12)である。 個人は,まず第一に,肉体を持ち,環境の中で存在する物的存在(aphysical entity)である。この側面では,人聞は一つの物体とみなされるか,あるいは一 般的な物的要因の関数として表現される。しかし,単なる物的存在としての人 体は人間ではない。常に生物的要因と結びついている。 すなわち,個人は,第ごに,環境への適応能力を持った生物的存在(abiologi -cal thing)である。個人は,筋肉,骨格,臓器や神経系統を持ち,それらの統合 体である。個人は,生きものとして,常に自分自身の変化や環境の変化にさら されるが,適応力すなわち内的均衡を維持する能力を持っている。 第三に,個人は他の個人との相互作用を行う社会的存在(asocial thing)であ る。人聞は生まれたときから親子の関係を抜きにしては存在できないことまた 他人と相互作用を通じて成長していくことからみても,個人は社会的存在であ る。この相互作用を通じて,個人は適応行動を身につけるようになるとともに,

(3)

199 個人人格と組織人格 - 5ー 他人から区別される独特な存在になる。 このような三要因は,個人においては,ぱらぱらに存在するものではなく, 相互に規制し合い,依存し合うものである。一要因の変化は他の要因に影響を 与え,全体としての個人や彼の行動に変化を引き起こす。個人は物的要因,生 物的要因,社会的要因の統合された一つの人間有機体(ahuman organizm)で ある(pp.10-12)

このような有機体としての個人は,バーナードによれば,一定の行動特性を 持っている。すなわち,①活動(activity)ないし行動(behavior),②その起因と なる心理的要因(psychologicalfactors),③限られた選択力(thelimited power of choice),④その結果としての目的(purpose)である(p..13)。ここに心理的要 因とは,物的,生物的,社会的な三要因の結合物であり,具体的には動機 (motives)として論じられている(p.18)。すなわち,個人は,自己の動機を充足 するために,自らの自由意思に基づいて限られた選択力を行使して,目的を設 定し,これを達成するための活動を行うのである。 個人は動機の充足を求めて行動する。この動機は,多くの場合,行為によっ て事後的に推論されるものであり,また,目指す目的によって明らかになる(p 18)。行為によって,動機が充足されると,能率的(efficient)と言われる。目的 の設定は選択の条件を限定することであり,目的が達成されると,有効的 (effective)と言われる(p.20)。 ここで注意すべきことは,個人の選択力ないし決定能力(capacityof deter -mination)には限界があり (pp.13-14),したがって目的達成にも限界がある (pp吋23-24)ことである。 個人は物的,生物的,社会的要因の結合物として活動するものであるから, これは当然のことである。人聞は,選択できる可能性が多すぎる場合には,選 択力が麻揮して,正しい意思決定を行えなくなる。例えば,ボートで睡眠中に 漂流し,霧の大洋の中で目を覚ました場合,どの方向へ行くのも自由であるが, どの方向が正しいかを判断するのは難しい。正しい選択のためには,可能性が 限定されなければならない(p..14)。

(4)

6- 香川大学経済論叢 200 また,人聞が病気になれば,生物的要因が変化し,それによって社会的要因 である他人との相互作用が影響を受ける。その結果,物的,生物的,社会的要 因の統合された有機体である個人の選択力は制約を受けることになる。 さらに注意すべきことは,このような制約は全体状況の関数

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であることである (pp

2

3

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。例えば,一人では動かすことが 出来ない大きな石を動かす必要があるとしよう。「石がその人のカに対してあま りにも大きすぎる」とみなせば,物的環境の中に制約要因があることになる。 「その人の力が石に対してあまりにも小さすぎる」とみなせば,個人の生物的 能力の中に制約要因があることになる。「しかし,このこつの表現はいずれも, たんに他の要因との関連から一つの要因を制約要因として便宜的に表現してい るにすぎず,真の制約要因はむしろ両者を含む全体状況の中にあると考えるの が正しいJ(雲嶋,

1

2

ページ)。全体状況的理解の重要性を指摘したものと言え る。 このような特性を持つ個人は,特定の協働システムと無関係な個人的な存在 として理解されている。しかし,個人は現実には多くの協働システムと関わり を持たなければ,生きて行けない。協働システムと関わりを持つ人聞はどのよ うに理解されるのだろうか。

(

2

)

二 重 人 格 バーナードによれば,ある特定の協働システムに関係する個人は,それと二 重の関係を持っていると言う。一つは r継続的であって断続的でない個人的な いし外的関係」であって r個人は協働システムの外部にあってそれから孤立し, それと対立するものであるおもうひとつは r多少とも断続的である機能的な いし内的関係」であって r人間の活動のあるものは非人格的な活動システムの 一部にすぎない」のである (p..l7)。 このように,バーナードにおいては,人間は,協働システムに関係すると, 二重に扱われる。人聞は本来は全体としての個人

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l)である が,管理者,従業員,顧客,構成員などに言及する場合には,個人の一定の側

(5)

201 個人人格と組織人格 - 7 面のみに留意し,全体性は視野から消えてしまうことになる。すなわち,協働 システムに関わる人聞は,ある時は一人の人間であるが,別の時には機能的存 在になる。この両者は,協働システムでは常に並存している

(

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.

.1

6

)

。前者は個 人人格,後者は組織人格であり,協働システムの参加者は,二重人格を持つも のと見なされる(p.

8

8

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。 バーナードは,個人人格と組織人格の特徴を明確にするために,各所で両者 を対比して論じている。そのいくつかを見てみよう

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(A:

個人人格,

B

組織人格とする) ①A:姓名,住所,履歴,名声を持つ個々の,特定の,独特なただ一人の個別 的人聞が問題とされる。 (p“8) B:組織全体,組織の一部分,調整によって可能となる努力の統合,あるい は集団を構成する人聞が問題とされるようになると,個人はその状況で は重要性を失い,非個性的性格を持つ他のなにものかが重要なものとみ なされる。 (p.

9

)

A:

全体としての個人を考える。できるかぎり個人のすべての面を考える。

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.

1

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B:

個人の一定の側面,人々の一定の活動のみに留意する。

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.:個人は一人の人間となる。個々の人々を特定の客観的存在とみなす。 (p

1

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)

B:

個人は機能的存在になる。印刷

1

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)

A:

何らかの特定の組織の外にあるものとしての人間。 (p刷

1

6

)

B ..特定の協働システムの参加者としての人問。

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.

1

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)

A:

人聞は,物的,生物的,社会的要因の独特に個性化したものであり,限 られた選択力を持つ。 (p.

1

6

)

B:

人聞を,純粋に機能的側面において,協働の局面とみなすと,人々の努 力は非人格化され,社会化される。 (p..

1

6

)

A:

個人は,協働システムと継続的であって断続的でない個人的ないし外的 関係を持っている。 (pド

1

7

)

(6)

- 8ー 香川大学経済論叢 202 B"個人は,協働システムと多少とも断続的である機能的ないし内的関係を 持っている。

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7

)

A:

個人は協働システムの外部にあってそれから孤立し,それと対立する。

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.

.

1

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)

B ..人間の活動のあるものは非人格的な活動システムの一部にすぎない。 (p..

1

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)

A:

個人的意思決定は,組織を構成する諸努力のシステムの外部にあって, 個人が組織への貢献者になるかどうか,貢献を続けるかどうかを決定す る。そこでは個人的結果が問題になる。 (p.

1

8

7

)

B:

組織的意思決定は,組織目的に関わる決定であり,非個性的で,組織そ のものの一部である。そこでは組織に与える効果が評価される。

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8

)

われわれは,個人人格から検討を進めよう。

3

.

個 人 人 格 個人は特定の協働システムに参加すると,それと種々の関連を持つようにな るが,まず個人がその協働システムと関わりを持つ第一歩を考えてみよう。そ れは個人人格としての側面である。 (1) 個人人格の特徴 さて,組織人格との対比で理解される個人人格は,ただ一人の個別的人間, 全体としての個人であり,特定の客観的存在である。彼は,何らかの特定の組 織の外にある人間である。彼は,物的,生物的,社会的要因の独特に個性化し たものであり,彼の選択力は限られている。 これは,前節で論じた個人ないし一人の人閉そのものである。ただし,この 個人は,協働システムと関わることにより,新しい状況におかれたことになる。 新しい状況は二つある。その第一の局面は,ある協働システムに参加するか否 かという状況である。

(7)

-9 個人人格1..参加決定者としての個人人格 このような状況におかれている個人については,ニつの側面を理解できる。 その第一は,主体的に協働に参加しようとする個人である。道を塞いだ大きな 石を取り除かなければ目的地へ進めない通行人は,同様の状況にある他の通行 個人人格と組織人格 203 (2) (場合によっては,支援者を得て)石を取り除くための協働システムを形 成しようとする。あるいは,石の除去に時間がかかりすぎると思えば,協働へ の参加を断念して,他の道を選ぶこともあるだろう。これは自ら協働を必要と する能動的な側面である。 その第二は,協働システムの管理者から誘因の提供という働きかけを受ける 外部の個人という性格である。先の石を除去する例では,自生的にリーダーと なった人から除去の効果を誘因に参加を求められる通行人や経済的謝礼を誘因 これは組織から勧誘される受動的な 人と

1

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に応援を求められる人などの場合である。 側面である。 これらのこつの側面は,表裏の関係にある。個人の参加意欲と協働システム の提供する誘因が,バーナードの伝達

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を媒介にして,結びつ いたとき,個人はその協働システムへ参加するか否かを選択する状況に置かれ この場合,他の協働システムが提供する誘因との比較も行い,純満足の高 い有利な方を選択する。積極的に就業の機会を求めている個人は,いくつかの 企業の給与や作業条件などの誘因を比較して, る。 どの企業に就職するかを決定す る。人聞は r協働システムに外的なものとしてJr特定の協働システムに参加 するか否かを選択するJ(p..

1

7

)

。協働は,個人の制約を克服する手段として存 在理由を持つことができる(pゆ23)。 この個人は,協働を自己の動機を充足させる手段と見なし,特定の協働シス テムに参加するか否かを決定しようとしている,協働システムの外部にいる個 われわれは「個人人 これは個人人格の第一の局面であるので, 人人格である。 と呼ぶことにしたい。 個人人格Iは,自己の動機の充足のために,特定の協働システムの外部にい それに参加するか否かを決定しようとしている個人である。彼は, 自己の 格1J て,

(8)

-10ー 香川大学経済論叢 204 制約を克服することができると判断すれば,その協働に参加するという決定を するのである。 このことは,彼が協働システムから誘因の提供という組織作用 を受ける外部の個人人格であることを意味する。彼には協働システムから参加 決定が求められている。彼が,能動的であれ受動的であれ,参加を決定すれば, 協働が成立するあるいは再形成ないし拡大することになる。

(

3

)

個人人格II:貢献決定者としての個人人格 個人人格Iが特定の協働システムへの参加を決定すれば,彼はその協働シス テムの構成員となる。この個人人格は,協働システムの内部にいることになり, 個人人格

I

とは異なる新しい状況に直面する。 これが個人人格の第二の局面で ある。 特定の協働システムに参加した個人は,一般に管理者,従業員,顧客などと 呼ばれるが, 自動的に機能的存在としての組織人格になるわけではない。われ われは,バーナードが協働システム内の人的要素について「構成員

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と「貢献者

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とを竣別していることに注意しよう

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。 そのためには, われわれはバーナードが,協働システム概念から「人間」的 要因ないし人間の「集団

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を捨象して,組織概念を生み出したことを想 起する必要がある。組織を「意図的に調整された人間の諸活動や諸力のシステ ム

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72)と定義することによって r具体的な協働システムにみられる物的環境や社 会的環境にもとづく差異,人聞に基づく差異,および人聞が協働システムに貢 献しようとする根拠の差異は, (組織にとって)外的な事実や要因の地位に追放 されるJ(p.73)が rそれは組織にとっては外的であるが,その協働システムに とっては外的ではないJ(p..73

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。協働システムにはなんらかの人的要因が合 まれているのである。 「貢献

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は意図的に調整された協働的努力のシステムを構成す る諸力ないし諸活動を意味し

r

貢献者」はその人的表現である

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.

7

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)

と考えら これに対して r構成員」は集団概念に関わるものとして,組織概念から れる。

(9)

205 個人人格と組織人格 -11-排除されたが,なお協働システムの人的要因をなすものと考えられている(p 75 fn)。この意味での「構成員」は r企業においては,集団は一般に“管理者" (officers)と“従業員"(employees)からなるものと考えられているJ(p“69)と いう場合のそれである。すなわち,バーナードが組織概念から排除した,常識 的な意味での「構成員」は協働システムの内部にいるのである。 それでは,貢献者と区別される「構成員」はどのような性格を持っているの であろうか。われわれは構成員を「貢献の提供者」として理解することができ るであろう (cf藻利,

3

8

ページ以下)。構成員は,協働システム内にいて,ある 時には組織に貢献を提供しているが,他方では r実際に働いていると考えてい る間でも,そのつもりにもかかわらず,魚釣りのことを夢想し,家庭のことを 思案し,前夜のブリッジを頭の中でやり直している J(p引72)ような人間である。 また,ある時には,提供される誘因に満足できないため,貢献をやめるという 選択をしようとしているかも知れない。「集団の“構成員"として登録されてい る人々の行為であっても,それが他の人々の行為と調整されていなげれば,行 為システムの一部ではないJ(p

7

0

)

のである。このような構成員は,貢献その ものではなしいまだ協働システムの機能的存在とはなっていない。 すなわち,構成員は「貢献の提供者」としての個人人格として特徴づけられ る。彼は貢献をすべきか否かについて,常に主体的に,自覚的に行動している。 このような意味での個人は,誘因を得て協働システムに参加したが,いまだ組 織人格に転化していない個人人格である。それは協働システムの内部にいる個 人人格である。われわれは,これを r{国人人格IIJと呼ぶ、ことができる。 協働システムにおい‘て,主体的,自覚的に行動する個人人格IIの行う意思決 定は r個人的選択(personalchoice)の問題として, (協働システムないし組織 に)努力を貢献するかどうかに関する個人の意思決定である。それは,個人が 組織への貢献者となるかどうか,あるいはそれを続けるかどうかを決定する, 反復的な個人的意思決定(repeatedpersonal decisions)であるJ(p..187)。協働 システムにおける個人は,この個人的意思決定すなわち参加決定の側面におい て,まさに主体的,自覚的存在であり,彼が貢献するか否かが組織の使命を制

(10)

12ー 香川大学経済論叢 206 することになる (p..

1

3

9

)

。 ノTーナードにとっては,単に構成員であるだけでは,協働システムにとって 本質的な意味を持ち得ない。職場で魚釣りのことを夢想している人聞は,その 協働システムの機能的存在とはなっていない。個人は貢献者として貢献活動を 提供してはじめて組織にとって意味のあるものとなるのである。したがって, 協働システムに参加している個人人格は,バーナードによれば,協働システム に協働的努力を貢献するよう求められる。 他方,個人が特定の協働システムに参加するのは,自己の動機を充足するた めであるから,それに参加することによって得られる誘因とそれに伴う犠牲な いし貢献との比較考量によって,純満足が得られると判断した場合のみである。 個人人格IIは,参加決定の際の誘因以上のもの,いわば追加誘因を求めている。 このレベルでの誘因が不十分だ、と,構成員すなわち個人人格IIは協働システム から離脱し,個人人格Iに帰ろうとする傾向を持っている。それゆえ,協働シ ステムが構成員を貢献者にするためには,参加への誘因以上の「貢献への誘因」 が必要となる。 (4) 個人的経済と組織経済 個人人格は,協働システムと誘因および貢献の交換を行う。これは,協働シ ステムの個人的経済

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を構成する

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。個人的経済は 「個人の仕事をする力」と「物的満足および社会的満足に対して個人が認める 効用

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とから成り立っている

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2

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。前者は個人が提供する「貢献」 であり,後者は協働システムが提供する「誘因」であれこの交換は「誘因の 経済

J(economy o

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とも呼ばれている

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1

3

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ff)。 個人はすでに見たように自己の動機を満足させるために行動する。そのため, いくつかの協働システムが提供している誘因を比較して,最大の純満足が得ら れる機会を選択する。したがって,特定の協働システムは,他の協働システム よりも有利な誘因を与えなければ,貢献を獲得することが出来ない。 協働システムにおいては,客観的誘因を提供する「誘因の方法

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(11)

207 個人人格と組織人格

-13-i

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が試みられる

(

p1

4

1)。適切な誘因が十分に存在すれば,個人の動機 を満足させ,貢献を獲得できる。しかしながら r組織は人々を協働的努力に誘 引するに必要なすべての誘因を提供することはおそらく不可能であり,しかも, 常に適切な誘因を提供することも不可能であるJ(p., 149)。 この場合には,協働 システムは,個人の動機を満足させることが出来ず,存続不可能となる。 この 問題を解決するために,バーナードにおいては, さらにこつの対応が見いださ れる。 その第ーは,代替的な解決方法として「説得の方法J

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。個人に対して適切な客観的な誘因を十分に提供することが困 難な場合には,主観的誘因に訴え,主観的態度すなわち個人の動機を変更させ ることによって満足を与えあるいは今まで不適切であった客観的誘因を適切な 誘因にしようとする。 誘因の方法と説得の方法について協働システムが行う評価の総計が個人的経 済である。 しかし,協働システムにとって意味を持つのは, それを受ける個人 の評価である。個人が協働システムの提供する誘因にどの程度の純満足を感じ るかは,各人の独自な主観的な評価によるからである。 この評価によって,貢 献意欲ないし貢献の強さも異なってくる。 これが組織の能率性

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を 左右するのである。 対応の第二は,誘因の創造および配分過程としての「全体の創造的経済」

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。協働システムは,個人的経 済において個人に「純満足」を与えるためには

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純誘因J

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を 提供しなければならない。 しかし,主観的誘因であれ客観的誘因であれ,協働 システムはそれらを無限に持っているわけではないので,単純な交換ではこれ に応えることが出来ない。 そのためには,協働システムは「組織効用の剰余」

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を創造し,誘因の原資を確保することが必 要である。 これが「組織経済J

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economy)

ないし「組織効用の経 済J

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である。組織経済は,物的経済,社会 的経済および個人的経済との聞の効用の交換によって, また, 自己の中での効

(12)

-14ー 香川大学経済論叢 208 用の変形および創造によって,組織効用の余剰をつくりださなければならない。 誘因の原資の創造は,組織の有効性

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を左右する。 個人は,このように個人的経済および組織経済を介して純満足が得られれば, 協働システムに参加し,さらに,貢献努力を提供するという個人的意思決定を 行う。個人は,純満足を得ているから,特定の協働システムに参加しているの である。満足が得られないと,あるいは満足の度合いが低いと,離脱する可能 性は大きい。この点では,個人人格

I

も個人人格

I

I

も,個人人格としての行動 特性は同じである。

(

5

)

ま と め ノTーナードの個人人格には,協働との関わりを考慮すれば,二つの局面があ ることが明らかとなった。その第一は,協働システムの外部にいて,参加への 誘因を受けている個人人格Iである。その第二は,協働システムの内部にいて, 協働的努力を貢献するよう誘因を受けている個人人格

I

I

である。 両者は,誘因の経済の対象となり,個人的意思決定を行うという点では,個 人人格としての本質は同じであるが,置かれている状況が異なる。個人的意思 決定は,参加決定から貢献決定へと

2

段階である。協働システムと接触した個 人は,第一に,個人人格Iとなる。未だ外部にいる彼は,構成員になること, すなわち,個人人格

I

I

になることを求められている。個人人格

I

が協働システ ムへの参加を選択すると,個人人格IIとなる。第二に,個人人格IIは,貢献者 になること,すなわち,組織人格になることを求められている。 個人人格は,誘因と貢献との交換に際して,満足か不満足かの評価を,個人 の主観的な評価基準に基づいて行う主体的な「自覚的な」人間である。(細川,

1

9

8

7

;

cf加藤) 4.組 織 人 格 (1) 協働システムと組織 組織人格を論じる前に,組織概念を明らかにしておく必要がある。バーナー

(13)

209 個人人格と組織人格 -15-ドの組織概念には r協働システム」と「組織」のニ概念がある。協働システム

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少なくとも一つの明確な目的のために,二人以上 の人々が協働することによって特定のシステム的な関係にある物的,生物的, 個人的,社会的構成要素の複合体J(p引

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である。この概念は具体性のレベル で設定された概念であれ具体的には,企業,行政府,教会,学校,家庭など である。したがって,この概念では,それぞれの協働システムが置かれている 具体的な協働状況は,物的環境,社会的環境,人的環境などの相違により極め て多様であり,その差異は大きい。 しかし,これらの差異に目を奪われては,組織の本質を見誤ることになる。 そこでバーナードは,これらの差異の大きい各種の協働システムに共通にみら れる特性に注目し, r (協働システムの定義における)“二人以上の人々の協働" という言葉によって暗示されている,協働システムに含まれている一つの(下 位)システムを“組織"

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と定義するJ

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のである。すなわち, 組織は,各種の多様な協働システムから,その差異を生み出している物的,生 物的,社会的な構成要素を捨象してもなお存在する,共通の構成要素である。 ノTーナードによれば,組織とは rニ人以上の人々の意図的に調整された諸活動 や諸力のシステムJ

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である。 さて,このような概念規定において,バーナードによって組織から捨象され たもののなかに,人聞が含まれていることに注意しなければならない。「おのお のの協働的集団において,人間の協働的行為

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は調整されて いる。集団の構成員と呼ばれる人間の協働行為でも,他の人間の協働行為と調 整されていなければ,行為のシステム

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の一部ではない」 (p..70)のである。 このように見てくると,構成員の持つ二重人格の内,個人的要因である個人 人格は組織から捨象されており,機能的な作用としての組織人格は組織に含ま れていることになる。

(14)

-16- 香川大学経済論叢 210

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貢献活動としての組織人格 組織は意図的に調整された協働的努力のシステムである。それは協働システ ムの「中核システムJ(a nucleus system) (p, 241)を形成している。この協働シ ステムを介して組織に提供された貢献活動は非個人人格的なものであり,これ が組織人格である。 個人人格と対比された組織人格の特性は次のようなものである(pp,,8-9,

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。人聞を,純粋に機能的側面において,協働の局面とみせば,それは組 織人格である。個人は組織人格化すれば,その努力は非人格化され,社会化さ れ,機能的存在になる。人間の活動のこうした側面は,非人格的な活動システ ムの一部を構成することになる。 個人は特定の協働システムに対していつも貢献を提供しているわけではない ので,個人は,その協働システムと断続的である機能的ないし内的関係を持っ ているにすぎない。この断続的な機能的関係が成立しているときが,組織人格 である。 協働システムに参加した構成員が提供した諸活動は,管理者によって意図的 に調整されて,協働的努力のシステムとなる。ここで個人人格は手邸故人格に転 化する。組織人格は,個人人格が追求していた自己の個人的動機の満足のため ではなく,協働目的を受け入れ,それを達成するための行動を行う。この行動 は,既に個人的行動ではなく,協働的活動である。人間の行為は,この側面で は純粋に機能的存在になっている。 このような組織人格の協働システムとの関係については,次の

2

点を指摘で きる。第ーは,個人人格の場合と同様に,協働システムから提供される誘因を 受け入れていることである。意図的に調整された諸活動や諸カのシステムとし ての組織は,個人の貢献意欲に依存している。貢献意欲(willingnessto contrib -ute)とは,個人的行為の自由を放棄して,組織の「調整の要求に進んで服従す るという個人の意思J(p

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であり,その結果は個人的行為の非個人人格化 (depersonaliza tion)となり,献身(self-abnegation)ないし犠牲を生み出す。貢 献意欲がある場合には,人々の諸努力は,凝集(cohesionof effort)され,一心

(15)

211 個人人格と組織人格 -17ー 同体(asticking together)となり,組織となりうるのである。そのためには, 「一心同体になるという気持ち (disposition)jすなわち「個人的行為を非個人的 な行為システムへ貢献するという気持ち」が必要である。この気持ちがなけれ ば r協働への貢献としての持続的な人的努力」はありえないのである。 (p..84) しかし,こうした気持ちは,自動的に生じるものではない。特定の組織への 貢献意欲は断続的であり,常に提供されているわけではない。さらに,その強 さは個人によって異なる。複数の貢献者の特定の組織への貢献意欲の強さは, 強いもの,中立的なもの,反抗的なものと広範囲に分布している。また,特定 の貢献者についてみても,それは一定不変ではなく,強いときも弱いときもあ る(pp..84-85)

協働意欲が生じるのは,協働システムに参加ないし貢献することによって生 じる犠牲をそれから得られる誘因と比較して,純満足が得られる場合である(p. 85)。したがって,組織が継続的に貢献意欲を獲得し,能率性を達成するために は,不断に誘因を提供しなければならないことになる。これは管理者の「貢献 獲得機能」の中心的課題である(pp“227-231)。 第二は,個人人格が直接的には関係を持たなかった組織目的を受け入れてい ることである。「協働的努力の目的と個人の目的とを完全に区別することが重要 である。たとえば石を動かすような,一人ではできないことをするために他人 の助けをかりるような場合でさえ,その目的は個人的なものではなくなる。そ れは集団努力の目的であるj(pリ43)0r石を動かすことが,各人それぞれにいか なる意味をもつかはここでは問題でなしその組織全体にとっての意味を彼が いかに考えるかということこそが問題なのである。"""""・それは個人的動機を満 たす問題ではまったくないのであるj (pp.86-87)。すなわち「組織の行為は, 個人目的ではなく,組織目的によって支配されている個人の行為であるj (p.. 185)。たとえ貢献意欲を持っている個人でも,努力の目標が伝達システムにお いて示されなければ,組織に貢献することは出来ない。組織目的は,組織が達 成しなければならない共通の目的であり,非個人的なものである。「目的は努力 システムへのすべての貢献者によって受け入れられねばならないものである」

(16)

18 香川大学経済論叢 212 (p.231)。共通目的が明らかになり,それを受砂入れてはじめて,貢献意欲は貢 献活動として具体化されることになる。 したがって,組織が組織目的を達成するという有効性を獲得するためには, 組織目的を定式化し,構成員ないし貢献者に伝達し,受容させることが必要で ある。これは管理者の「目的設定機能J (pp.. 231-233)および「意思伝達機能」 (pp 217-219)の重要な課題である。 (3) 組織人格 1 管理作用の客体とじての組織人格 ところで,われわれには,バーナードが組織人格の典型として「従業員」を 想定しているように思われる。従業員としての組織人格は,個人人格から連続 するものとして,一貫して管理作用の対象になっているからである。それゆえ, われわれはまず従業員の場合を検討しよう。 組織を構成する諸活動は,非個人的な性格のものであって,組織人格によっ て遂行される。構成員から組織人格としての活動すなわち貢献を引き出すのは, 管理者の機能である。組織人格は,管理者が組織の有効性を達成しようとする 際の客体である。しかも,組織の能率性の達成も管理者の仕事であり,これは 個人人格に働きかけることによって可能となる。すなわち,協働システムの外 部にいる個人を,個人人格し個人人格II,さらに,組織人格へと誘引する管 理者の仕事は r人を組織との協働関係に誘引すること,この関係に誘引したの ち,活動を引き出すことJ (p..227)という管理機能である。 「組織のエネルギーを形成する個人的努力の貢献は誘因の故に個人から提供 されるJ (p.. 139)のであるから,管理者は誘因の方法および説得の方法によっ て,個人が提供する犠牲以上の誘因を提供しなければならない。個人の貢献を 意図的に調整して「組織効用の剰余」を獲得し,そして,それを誘因の原資と して配分することによって,組織人格の形成ないし個人人格の組織人格化を図 ることは,管理者のモチベーション行動に課せられた重要な課題である(細川, 1980)

また,管理者は,組織目的を達成するためには,権限

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を基盤にし

(17)

213 個人人格と組織人格 19 て個々の組織人格に働きかけ,彼らの貢献を調整して組織活動に統合すること, すなわち,個々ぱらぱらの組織人格を「組織人格の統合体」に統合しなければ ならない。すなわち,管理者は

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上位権限の仮構J

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の上で,無関心受容圏を拡大し,部下から「権限の受容」を 獲得しなければならない。権限受容とは,無関心受容圏の獲得,拡大によって, 個々の組織人格を組織目的の達成に向かつて統合的に活動させること,すなわ ち組織人格の統合化を意味する。権限を受容した組織人格の貢献活動を組織的 努力のシステムに統合することは,管理者のリー夕、ーシップ行動の重要な課題 である(細川,

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。 このように,バーナードにおいては,組織人格は,典型的には「管理作用の 客体」としての組織人格であり,従業員の組織人格を想定しているといえる。 われわれは,このような組織人格を「組織人格1J と呼ぶことができる。なぜ なら,バーナードにおいては,第二局面として,それとは異なる管理者の場合 が想定されているからである。 (4)組織人格II:管理作用の主体としての組織人格 他方,管理作用の客体のみでなく r管理作用の主体」もまた帝邸哉人格である。 管理者は調整という自己の活動を「組織に貢献する」組織人格であるという点 では,従業員となんらの差異もない。しかし,管理者は,バーナードによって, 従業員とは異なる状況が設定されていることに注意しなければならない。けだ し,管理者には,道徳ないし管理責任が課せられているからである。「道徳

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とは,個人に内在する一般的,安定的性格の人格的諸力

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である。道徳は,このような性癖と一致しな い直接的,特殊的な欲求,衝動あるいは関心を禁止,抑制あるいは修正し,そ れと一致する欲求,衝動あるいは関心を強化する傾向を持つものであるJ (p" 261)。 ノTーナードの固有のリーダーシップは,組織の道徳的側面に関わるという意 味で,道徳的リーダーシップであり,さらに r人の行為に信頼性と決断力を与

(18)

20 香川大学経済論叢 214 え,目的に先見性と理想、を与える」責任の側面であり (p“260),r管理責任」

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として理解できる。 個人は,従業員としてであれ,管理者としてであれ,協働システムに参加す ると,個人規範対組織規範の対立,および,組織規範聞の対立に直面する。こ の対立が解決されないと,個人は欲求不満や道徳の低下におちいるだけでなく, 協働活動の遂行ができず,組織均衡を困難にする。バーナードによって,この 解決を担わされているのが管理者である(細川,

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。 管理責任の第一の課題は

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管理者自身の複雑な道徳規範の遵守J

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である。管理者がこうした責任 能力を持っている場合には「一つの道徳規範の指令を満たしながら,他のすべ ての道徳規範にも合致する代替行動J (p..264)を見いだすことができるのであ り,対立する道徳規範を統合して新たに自己のための道徳規範を創造すること ができる。管理責任は,第一には,管理者自身が具備しなければならない道徳 規範および責任能力を意味するのであり,これは「個人規範と組織規範との統 合J

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1)という 個人的確信のもとに,管理者自身を真の組織人格として行動させることである。 管理責任の第二は

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道徳的創造性J

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。そのために,管理者は,構成員のモラール

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ないし組織情熱

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を鼓舞するとともに,彼の諸規範の対立を解決し, 構成員を組織人格として行動させなければならない。 「全般的な管理過程は知的なものではなく,感性的,道徳的なものである J(p

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ので,管理責任の第三の課題は「全体としての組織とそれに関連する全体 状況を感得

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することJ

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である。これは,管理機能の具体的遂 行に当たって,個別の管理技術以上のものを,管理者に要求しているのである。 組織目的の達成に必須な組織人格の維持は,全体状況の感得によってはじめて 完全なものとなるのである。 ノてーナードは,創造機能としての管理責任ないし道徳的リー夕、ーシップが成

(19)

215 個人人格と組織人格 21ー 功するためには rリーダーの視点から個人規範と道徳規範の統合をもくろむ “個人的確信"(personalconviction)という要因を必要とするJ(p引281)と言う。 個人的確信によるリーダーシップの行使というバーナードの主張は,次のよう な意味を持っている。 その第一は,管理責任の遂行が決して容易ではないために,責任能力を持っ ていれば責任を達成できるという前提は成立せず,それゆえ,管理責任遂行の 基盤を,管理者の自己の役割に関する個人的確信すなわち「組織のために自分 がしていることは正しいのだと自ら信じる確信J(p..281)に求めたと解される。 したがって,第こには,組織はこうした確信を持った管理者の存在を必要と するのであり,管理者においては個人人格と組織人格の統合,個人規範と組織 規範の統合が常に成立していると解される。真の管理者とは,個人人格と組織 人格が合致し,個人的確信に基づき管理責任を遂行していく者である。 このような管理者においては,道徳の故に,もはや個人人格への離脱は想定 されていなし3。真の管理者は,組織目的に統合化されている組織人格であり, 個人規範と組織規範の統合のもとに道徳的に行動する真の組織人格である。 ノてーナードにおいては,組織作用は管理作用なのであり,管理者は組織そのも のに成りきっているのである。このように,管理者としての組織人格は,従業 員のそれとは全く異なっており r組織人格

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J

として区別することが出来る。 (5) ま と め われわれは,バーナードが組織人格について二つの局面を想定しているζと を明らかにした。その第一は従業員の場合であれその第二は管理者の場合で ある。従業員としての組織人格すなわち組織人格

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は管理作用の客体になって おり,管理者としての組織人格すなわち組織人格

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は管理作用の主体となって いる。この両者は,客体と主体という役割の相違はあっても,組織が意図的に 調整された諸力のシステムであるという場合の諸力であるという点では,同質 のものである。 しかし,この両者は質的に異なることが,バーナードによって主張されてい

(20)

-22ー 香川大学経済論叢 216 ると解される。管理者としての組織人格は道徳の実現に関しては主体者の地位 を与えられているが,従業員としての*J3.織人格はそうではない。こうした点は, 誘因の経済や権限の受容においても見られるのである(細川,

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。このこと はバーナードが,協働活動においては,管理者と従業員とは本質的に異なるも のであると理解していると解せざるを得ない。管理機能を解明しようとする ノてーナードの視点、からすれば,当然のことかもしれない。

5

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結 ノす)ナードは,組織機能論ないし管理機能論の前提となる人間に関して,① 個人ないし一人の人間,②個人人格,および,③組織人格の三種に区分して検 討している。 個人ないし一人の人聞は,協働システムとは無関係な孤立した全体的な存在 である。彼は,自己の動機の満足を求めて行動する。その際,彼は自らの自由 意思に基づいて個人的意思決定を行うが,その能力には限界がある。したがっ て,その制約を克服するために,協働システムに参加する。 個人が協働システムと関連を持っと,二重人格になる。組織と外的な関係に ある個人人格と,組織と内的な関係にある組織人格とである。 個人人格の特性は,協働システムと無関係な個人のそれと同じである。彼は, 個人的意思決定者として,協働システムの提供する誘因と自己の提供する犠牲 ないし貢献とを主観的に自己の評価基準で評価して,純満足が得られれば,そ の協働システムに参加する。 これに対して,紙織人格は,人間の純粋に機能的な側面で,非個人人格化さ れ,社会化された機能的存在である。それは協働的努力のシステムを構成して おり,貢献活動そのものを意味している。それは協働目的を達成するための組 織的意思決定を行う。個人は組織人格として常に特定の協働システムに継続的 に貢献を提供しているのではなくて,断続的である。 個人人格と組織人格を竣別することによって,協働的努力のシステムとして の組織が明確になる。このことによって,組織ないし管理者の機能は,誘因を

(21)

217 個人人格と組織人格 23-提供して個人人格すなわち構成員を組織人格すなわち貢献者に転化させること である,ということが明確になる。 ノfーナードの個人人格および組織人格の概念は,組織機能ないし管理機能を 分析するための優れた分析用具である。 ところで,われわれはさらにバーナードの個人人格および組織人格がともに こ局面を持っていることを明らかにした。個人人格は,その置かれた状況によっ て,個人人格

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および個人人格

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に区別できる。 個人人格Iは,自己の制約を克服するために協働に参加するか否かを決定す る立場に置かれている。彼が参加を決定すれば,協働システムが成立または拡 大する。逆に,彼が協働システムへの不参加または離脱を決定すれば,協働シ ステムは不成立ないし縮小あるいは崩壊する。彼は,協働システムの外部にい て,管理者からの誘因の提供の対象となっている個人人格として,参加決定を 求められている。この局面は,管理者の貢献獲得機能のうちの「協働システム に誘引する」に対応していると考えられる。ここでの誘因は参加誘因であると O L P ﹁ ノ ト 品 ﹀ え

-一

個人人格

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は,管理者から誘因を受けて参加を決定し,協働システムに参加 している個人人格であり,構成員となっている。彼は,貢献努力を提供するか 否かを決定するために,誘因をさらに評価する。彼は,管理者から追加誘因を 受けて,貢献決定を求められている。彼は,常に離脱の傾向を持っており,こ のレベルの誘因が弱いと,個人人格

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ないし無関係な個人に帰ってしまう。「現 代社会における多数の人々は常に特定の現存するあるいは将来成立する組織 (協働システム)に対してその対極(negativeside)にいるJ(p 84)からである。 個人人格

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は,協働システムに参加している個人人格として,さらに管理者か ら誘因を受けて,貢献決定を求められている。彼が貢献の提供を決定すると, 組織人格に転化する。この局面は,管理者の貢献獲得機能のうち,第二の「貢 献を引き出すこと」に対応している。ここでの誘因は貢献誘因であり,追加的 誘因である。 このように個人的意思決定は,参加決定から貢献決定へと 2段階で行われる。

(22)

-24- 香川大学経済論議 218 個人は,協働システムから,まず個人人格

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に,次いでト個人人格

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に,さらに 組織人格になることを求められている。 組織人格についても,それの置かれた状況によって,次のニ局面があること が明らかになった。 組織人格Iは,管理者から誘因(の追加)を受けて組織に貢献を提供してい る組織人格である。それは,協働的努力のシステムとしての組織の一部を構成 しており,貢献そのものに転化している。バーナードが組織人格Iの典型と想 定しているのは,従業員である。それは,管理活動ないし組織作用の対象であ る。この局面は,管理者の貢献獲得機能のうち,第二の「貢献を引き出すこと」 に対応しており,管理者は不断に組織人格化を図らなければならないのである。 ここでも,誘因が意味を失うと,それは,常に個人人格

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さらには個人人格I に戻ろうとする傾向を持っている。したがって,個人人格1,個人人格

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およ び組織人格Iは,管理者の貢献獲得機能の対象としては同質のものである。 組織人格

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は,組織目的に常に統合化されている組織人格であり,管理者が 想定されている。管理者においては,道徳に関わる管理責任を遂行する者とし て,その個人人格と組織人格とは常に統合されている。組織人格

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は,常に組 織の観点に立脚して,自己の道徳規範を遵守すると共に,組織人格Iの諸道徳 規範の対立を解決して,組織人格としての行為を可能にしてやる役割を担って いる。この点で,組織人格

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は組織人格Iと根本的に異なっている。さらに, 組織人格

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は,個人人格への離脱が予定されていない点で,組織人格

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と異なっ ている。すなわち,組織人格

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は,貢献そのものに成りきっている真の組織人 格なのであり,真の管理者として機能しているのである。パ、ーナードにおいて は,まさに組織イコール管理者なのであり,協働システムの主体者の地位を与 えられている。 個人人格Iと個人人格

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とは同質であるが,組織人格Iと組織人格

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とは異 質である点で,個人人格と組織人格とはその特性が大きく異なっている。バー ナードの人的要因の分析は組織機能ないし管理機能の分析のための前提であっ たから,組織人格Iと組織人格

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との相違を認識することが重要である。この

(23)

219 個人人格と組織人格 25-ことは,バーナードが,企業における一般従業員から経営者への昇進は質的変 化を必要とすることを主張していると解される。 引 用 文 献 Barnard, C 1 (1938) Tfa Functi向。1/the Exeωtive, Mass.: Harvard University Press. バーナード,C.L (1968). 山本安次郎・田杉競・飯野春樹訳『新訳・経営者の役割』ダイヤモン ド社。 加藤勝康(1978).r書評飯野春樹『バーナード研究ーーその組織と管理の理論一一J(文民堂, 1978年)J W関西大学商学論集J23 (2), 76-90ページ。 雲嶋良雄(1971). rバーナードの管理者機能論ーーその特質と経営学的意義一一JW商学研究 (一橋大学研究年報)J 14, 1-96ページ。 細川 進(1980). r組織均衡の維持と技術的リーダーシップ一一バーナード管理者機能論のー 考察一一J'香川大学経済論叢153 (2), 260-276ページ。 細川 進(1981).r管理責任と道徳一一ノTーナードの管理者機能論の一考察一一JI企業管理の 基本問題』千倉書房。 細川 進(1987).r協働システムにおける個人の「自覚」と組織の「機能」一一バーナードの 組織概念の検討一一J'香川大学経済学部研究年報.126, 41-62ページ。 藻利重隆(1958). '労務管理の経営学』千倉書房。

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