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ノート 医療薬学 41(2) (2015) 高機能患者シミュレータの薬学教育への応用 - 交感神経作動薬による循環器系バイタルサインの変動 木村麻里, 黒野俊介, 水野智博, 伊東亜紀雄 長谷川洋一, 大津史子, 後藤伸之, 永松正 1 名城大学薬学部薬効解

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全文

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緒  言

近年,薬剤師の在宅医療への参画や病棟業務な どが増加し,患者と接する機会が増えている.そ の背景として,医療技術の進展に伴う薬物療法の 高度化があり,医療の質の向上,安全確保のため * 〒468-8503 愛知県名古屋市天白区八事山150 41(2) 98―107 (2015)

高機能患者シミュレータの薬学教育への応用

-交感神経作動薬による循環器系バイタルサインの変動-

木村麻里1,黒野俊介2,水野智博1,伊東亜紀雄2 長谷川洋一2,大津史子3,後藤伸之3,永松 正*1 名城大学薬学部薬効解析学研究室1 名城大学薬学部薬学教育開発センター実務実習部門2 名城大学薬学部医薬品情報学研究室3

Practical Use of High-performance Patient Simulator in Pharmacy Education

-Changes in cardiovascular vital signs by sympathomimetic medications-

Mari Kimura1, Syunsuke Kurono2, Tomohiro Mizuno1,

Akio Ito2, Yoichi Hasegawa2, Fumiko Otsu3, Nobuyuki Goto3 and Tadashi Nagamatsu*1

Analytical Pharmacology, Faculty of Pharmacy, Meijo University 1,

Research Center for Pharmaceutical Education Pharmacy Practice, Faculty of Pharmacy, Meijo University 2,

Pharmaceutical Information Center, Faculty of Pharmacy, Meijo University 3

Received July 30, 2014 Accepted November 15, 2014

 Greater importance has been placed in recent years on the need for students to clearly see the effects of medication on patients. In this study, we examined whether a simulator is a useful implement in practical pharmacology training. We administered sympathomimetic drugs in a high-performance patient simulator, “SimMan 3G,” which had been set up to mimic a person in a healthy state. We observed on a PC monitor that epinephrine (0.25, 0.5, 1.0 mg) caused a dose-dependent increase in blood pressure, pulse rate and cardiac output in the SimMan 3G, as well as pupillary dilatation and sweating. Epinephrine (0.5 mg) was administered intravenously (iv), subcutaneously (sc) or intramuscularly (im). The levels of sympathomimetic responses appearing after the sc and im injections were half those appearing after iv injection. Epinephrine, norepinephrine or isoprenaline (10 μg/min) was administered at a higher dose than usual in iv drip form. Norepinephrine caused an increase in blood pressure and a decrease in cardiac output. Isoprenarine caused an increase in heart rate and cardiac output during and after administration. Dopamine or dobutamine was infused at 1, 5 or 10 μg/kg/min. The dose-dependent effect of dopamine, and also the differing effects of dobutamine and dopamine, could be clearly observed. Students were able to verify the relationship between adrenaline receptors and the adrenergic effect on the simulator. These results suggest that SimMan 3G is useful for practical pharmacology training.

 Key words ―― high-performance patient simulator, sympathomimetic effect, pharmacology training, adrenaline receptor にはチーム医療の一員として薬剤師が参加するこ とが有益であることが広く認められてきたためで ある.しかし,各施設において薬剤師の能力が十 分に活用されていないこともあり,ミキシングや 副作用のチェックなどを看護師が行っていること も多い.そこで,2010 年 4 月に厚生労働省医政

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局より「医療スタッフの協働・連携によるチーム 医療の推進について」の通知(http://www.mhlw. go.jp/shingi/2010/05/dl/s0512-6h.pdf/, 2014年 9 月 20 日)が出され,そのなかで薬剤師の積極的な活用 が可能な業務として 9 項目挙げられ,副作用の発 現状況,有効性の確認が含まれた.また,同年 10月には日本病院薬剤師会より本通知に対する 解釈と具体例(http://www.jshp.or.jp/cont/14/0417-2-1.pdf/, 2014年 9 月 20 日)が示され,薬物療法 を受けている患者へのフィジカルアセスメントな どを薬剤師が行うことが求められている. 従来の薬学教育では,医薬品の知識の習得を主 な目的としていたが,現在の 6 年制課程ではより 臨床的な技能を身に付けた薬剤師の育成が求めら れるようになった.そこで,各大学において PBL やロールプレイ,シミュレータを用いた体験学習 などが導入されてきている.特にシミュレータを 用いた体験学習は医学部,看護学部では手技の習 得において取り入れられており,その有用性が示 されている.1)日本薬剤師会の報告書によると, 近年,薬学部においても救急ケアシミュレータを 用いたシミュレーション教育やバイタルサインの 見方,血圧測定,採血などの手技の習得を目標に 導入が推進された(http://www.mhlw.go.jp/toukei/ saikin/hw/jinkou/geppo/nengai12/dl/h6.pdf/, 2014年9 月 20 日).九州保健福祉大学ではシミュレータを 用いたベッドサイド実習を行っており,徳永らは, ベッドサイド実習を通して新たな薬剤師業務に関 する学生の意識が変化するかを分析したところ, 「バイタルサインの確認やフィジカルアセスメン トが薬剤師に必要である」と回答した学生数が実 習後に有意に増加したと報告した.2)この結果は, バイタルサインの確認やフィジカルアセスメン ト,シミュレーション教育が,薬学生の医療人と しての意識を向上させ,学習意欲を増進させる可 能性を示している.我々は,高機能患者シミュレー タを用いて,薬物投与後のバイタルサインの確認 やフィジカルアセスメントをすることにより,学 生が病態の知識,適切な薬物選択,投与設計を学 習することができるのではないかと考え検討して いる. 現在,循環器系疾患患者は多数存在し,治療薬 の種類が豊富であり,臨床の現場において使用す る機会が多い(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/ hw/jinkou/geppo/nengai12/dl/h6.pdf, http://www. e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001031167/, 2014年 9 月 20 日).そのため,正確な薬学的基 礎知識を身に付けることが重要である.循環器系 疾患に使用する薬物の多くはアドレナリン受容体 に作用するが,その受容体にはサブタイプがあり, 生理学・薬理学等の講義で学習したにもかかわら ず,受容体と生理作用・薬理作用を関連付けるこ とが困難な学生がいることも事実である.そのた め,講義に加えて実験動物で実習や演習を通して 理解することが大切である.これまで学生は実験 動物や摘出臓器を用いて薬理学実習を行ってきた が,ヒトに薬物を投与してその作用を観察するこ とは法規上また倫理的にできない.また,病院で の実務実習以外で患者における薬物の効果や副作 用の発現を観察することは極めて困難である.そ れゆえ,ヒト型シミュレータを用いて薬物の作用 を観察することは医療を目指す薬学教育において 重要な課題になると考えられる.高機能患者シ ミュレータは,緊急に救命措置が必要な患者の状 態や病態を再現できるシミュレータで,通常,医 療従事者による現場での患者状態,病態の把握, 適切な処置,医療手技,チーム医療の実践のため のトレーニングツールとして使用される.3-9) 今回は,ヒトへの薬物投与時の生理学的状態を 再現できる高機能患者シミュレータ,SimMan 3G が,薬学教育とくに多人数を対象とした薬理学の 演習に応用できるか否かを交感神経系に作用する 薬物を用いて,循環器バイタルサインをパラメー タとして検討を行った.さらに,学生を対象にそ の教育効果についても検討した.

実験方法

1.シミュレータおよび検討項目 今回の検討には高機能患者シミュレータとし て,SimMan 3G(レールダルメディカルジャパン, 東京)を用いた.“SimMan 3G”は,オペレーショ ンソフトウエアに薬理学モードと生理学モードが 組み込まれていて,薬物投与後の患者の状態や経

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過が再現できるようになっている.SimMan 3G に付属の薬物リストから薬物を選択し,任意の用 量を投与すると,投与量に応じてその薬物の効果 をシミュレータ本体あるいは PC モニターで再現 できるように設計されている.また,同じ薬物で も投与経路に応じた反応が生じるようになってい る.今回は,健康成人での薬物による作用を観察 するため,SimMan 3G の喘息症例プログラムに ある喘息の程度を極めて軽度(喘息 = 0%,不安 = 0%)に設定し,ほぼ健康成人の状態と同等に した.その状態で,ソフトウエアにプログラムさ れている薬物を投与し,循環器系パラメータとし て心拍数,収縮期血圧,拡張期血圧,心拍出量を PC画面で観察し,生理学的パラメータとして瞳 孔と発汗の状況をシミュレータ本体で経時的に観 察した.さらに,観察終了後にディブリーフィン グファイルから循環器バイタルサインの数値を読 み取り,その値を基にグラフを作成した.検討項 目として,投与量や投与経路の違いや受容体の異 なる薬物に対する反応性の違い,作用発現・消失 までの時間の比較を行った. 2.薬物の選択と投与量の設定 今回検討した薬物は,すべて SimMan 3G に付 属している薬物リストから選択した.エピネフリ ンは,アナフィラキシーショックや心停止時に用 いられ,使用頻度が高いことから選択した.ノル エピネフリン,イソプレナリンは作用する受容体 が異なることから,心拍数,血圧等における効果 に違いが生じるので選択した.10)ドパミンは,急性 循環不全時に用いられるが,投与量によって作用 する受容体が異なり,使用目的が異なっている.11) また,ドパミンと同様に,重症心不全,ショック の治療にドブタミンも用いられることから,ドパ ミンとドブタミンを選択した.エピネフリンの急 速静注の投与量はインタビューフォーム(ボスミ ン®注 第 10 版,第一三共株式会社,2011, 9 月 改訂)と今日の治療薬 201411)を参考に設定した. エピネフリン,ノルエピネフリン,イソプレナリ ンの点滴投与量は,グッドマンギルマン薬理書に 記載されている量12)で設定した.ドパミン,ド ブタミンはインタビューフォーム(イノバン®  第 7 版 , 協和発酵キリン,2012, 10 月改訂,ド ブトレックス®注 第 6 版 , 塩野義,2013, 1 月改 訂)に記載されている投与量を参考に設定した. 3.SimMan 3G による学習効果の評価 3年次学生 121 名を対象に,今回研究に使用し た SimMan 3G のインストラクターソフトウエア を使って演習を実施した.演習目的は,エピネフ リンの急速静注とエピネフリン,ノルエピネフリ ン,イソプレナリンの点滴静注によるパラメータ の変化と受容体の関係を知ることとした.学生は PC画面で血圧,心拍数,心拍出量の数値を,また, PC上で瞳孔径の大きさを 1 分ごとに記録して, グラフを作成した.対象学生は低学年次にエピネ フリンやノルエピネフリンの生理作用 , 受容体に ついてすでに学習し,さらに本演習と同時期に「薬 の効き方Ⅰ」(薬理学)で自律神経系に対する薬 物の作用機序について講義を受けている.本演習 を実施する前に表 1 に示すプレテストを行い,演 習終了後に同じ内容のポストテストを実施した. テストは,知識項目 11 問(問 1-5,問 18-23)と 演習項目 14 問(問 6-17,問 24,25)からなる. 学生 121 名を席次に基づき席次上位群(上位群: 46名),席次中位群(中位群:45 名),席次下位 群(下位群:27 名)の 3 群に分けた.対象学生 を 3 群に分けた理由は,SimMan 3G ソフトウエ アによる PC での演習に学習効果があるならば, 各群でプレテストに対してポストテストでの得点 が上昇するはずであるという仮説を立て,それを 実証するためである.各群のテストの得点率を算 出し,結果は平均と標準偏差であらわした.プレ テストとポストテストの各群での平均得点率の統 計学的有意差については対応のある t 検定で,多 群間の平均得点率については Tukey の検定を用い て検定した.P 値が 0.05 以下を有意とした.

結  果

1. エピネフリンの投与量の違いによる作用の比較 (図 1) エピネフリンの 0.25 mg,0.5 mg,1.0 mg のそ れぞれを急速静注で SimMan 3G に投与し,15 分

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表 1 プレ・ポストテストの項目 1)ノルアドレナリンは,交感神経節前線維から分泌される. 2)アドレナリンは,副腎髄質から分泌される. 3)アドレナリン β1受容体にカップリングするのは,Gs タンパク質である. 4)心臓に最も多く存在する受容体は,β1受容体である. 5)血管に最も多く存在する受容体は,α1受容体である. 6)アドレナリンの急速静注により,血圧は著明に上昇する. 7)アドレナリンの急速静注により,瞳孔は縮小する. 8)アドレナリンの急速静注により,発汗が起きる. 9)ノルアドレナリンの点滴投与により,血圧は著明に上昇する. 10)イソプレナリンの点滴投与により,血圧は著明に上昇する. 11)アドレナリンの点滴投与により,血圧は著明に上昇する. 12)アドレナリンの点滴投与により,心拍数は著明に増加する. 13)ノルアドレナリンの点滴投与により,心拍数は著明に増加する. 14)イソプレナリンの点滴投与により,心拍数は著明に増加する. 15)アドレナリンの点滴投与により,心拍出量は増加する. 16)ノルアドレナリンの点滴投与により,心拍出量は増加する. 17)イソプレナリンの点滴投与により,心拍出量は増加する. 18)アドレナリン α1受容体刺激により,血管は収縮する. 19)アドレナリン β1受容体刺激により,血管は収縮する. 20)アドレナリン α1受容体刺激により,心拍数は増加する. 21)アドレナリン β1受容体刺激により,心拍数は増加する. 22)アドレナリン α2受容体刺激により,血管は拡張する.  23)アドレナリン β2受容体刺激により,血管は拡張する. 24)65 kg の男性に,ノルエピネフリン 60 μg/mL を 10 μg/min で 12 分間点滴する.   その時の点滴速度は 0.15 μg/kg/min である. 25) 65 kg の男性に,エピネフリン 30 μg/mL を 10 μg/min で 15 分間点滴する.そ の時の総量は 2 mL である. 知識項目:問 1-5,問 18-23,演習項目:問 6-17,問 24,25.解答はマークシートの数字の 0(正)あるいは1(誤)にマークする. 図 1  エピネフリンの投与量の増加により効果の発現に違いが生じる.エピネフリン(0.25 mg, 0.5 mg, 1.0 mg) を急速静脈投与した. HR:心拍数,BP:血圧,CO:心拍出量.↑:エピネフリン急速静注投与. :0.25 mg, :0.5 mg, :1.0 mg.

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間観察した.その結果,心拍数(図 1a)と血圧(図 1b )は投与量に依存して上昇した.心拍数は, 80回/min から最大 180 回/min へと増加し,血圧 は収縮期,拡張期血圧とも投与開始時より約 40 mmHg上昇した.心拍出量(図 1c)に対しては いずれの用量でも 5.5 L/min から 5.8 L/min へと増 加したが,明確な用量依存性は認められなかった. また,瞳孔散大,発汗(図 1d)も投与量の増加 に伴い,効果発現までの時間が半分に短縮され, 持続時間は約 2 倍に延長した. 2. エピネフリンの投与経路による作用の比較  (図 2) エピネフリン 0.5 mg を急速静注,皮下投与,筋 肉内投与のそれぞれで SimMan 3G に投与し,10 分 間経過観察した.心拍数(図 2a)において,急速 静 注 で 投 与 開 始 時 の 80 回/min か ら 180 回/min へと増加したのに対して,皮下投与では 130 回/min, 筋肉内投与では 135 回/min と急速静注と比較し て,その増加心拍数は半分であった.血圧(図 2b) に対しては,急速静注で約 40 mmHg 上昇したのに 対して,皮下投与,筋肉内投与とも約 20 mmHg の上昇であった.心拍出量(図 2c)において, 急速静注で,投与開始時 5.5 L/min が 5.8 L/min と 上昇したのに対して皮下投与,筋肉内投与とも 5.7 L/minと投与経路による効果の違いが認めら れた.急速静注では 1 分以内に最大値に到達して いるが,ほかの投与方法では最大値に到達するの に 2~3 分を要した.また,筋肉内投与は皮下投 与の場合より心拍数,血圧,心拍出量に対して約 1時間早く効果が出現した.エピネフリンの投与 経路における瞳孔散大,発汗作用の発現・持続時 間の違いが観察できた.瞳孔散大(図 2d)にお いて急速静注投与で作用発現が 3 秒,持続時間が 5分 41 秒;皮下投与で作用発現が 2 分 14 秒,持 続時間が 1 分 40 秒;筋肉内投与で作用発現が 1 分 23 秒,持続時間が 1 分 57 秒であった.また, 発汗(図 2d)において急速静注投与で作用発現 が 1 秒,持続時間は 6 分 20 秒;皮下投与で作用 発現が 1 分 41 秒,持続時間が 3 分 13 秒;筋肉内 図 2  エピネフリンの投与経路の違いにより効果の発現に違いが生じる.エピネフリン(0.5 mg)を急速静脈投与, 皮下投与,筋肉内投与した. HR:心拍数,BP:血圧,CO:心拍出量.↑:エピネフリン投与. :急速静注, :皮下投与, :筋肉内投与.

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投与で作用発現が 1 分 05 秒,持続時間は 2 分 52 秒であった. 3. エピネフリン,ノルエピネフリン,イソプレ ナリンの点滴投与による作用の比較(図 3) エピネフリン,ノルエピネフリン,イソプレナ リンのそれぞれを 10 μg/min で 15 分間 SimMan 3Gに持続点滴投与した.点滴投与中止後さらに 15分間観察を続けた.心拍数(図 3a)において, イソプレナリンで著明な増加が認められ,点滴投 与開始時の 80 回/min が,15 分後に 170 回/min に 増加し,投与中止後 , 徐々に減少した.しかし, 投与中止 15 分後でも 130 回/min と増加したまま であった.エピネフリン,ノルエピネフリンでは 投与中わずかに心拍数は増加した.血圧(図 3b) において,ノルエピネフリンのみで著明な上昇が 認められた.すなわち,点滴投与開始時の 125/75 mmHgが投与開始 3 分後から上昇し,15 分後ま で 175/125 mmHg のレベルが維持され,点滴投与 中止後は速やかに元のレベルに戻った.エピネフ リン,イソプレナリンでは,点滴投与中も血圧の 上昇は認められなかった.心拍出量(図 3c)に おいて,エピネフリンでは,点滴投与開始時の 2.55 L/minと比較して 6 分後にわずかに増加した.イ ソプレナリンでは,点滴投与開始後に 5.7 L/min まで増加し,その後,徐々に減少したが,点滴投 与中止の 15 分後でも 5.6 L/min と効果が認められ た.ノルエピネフリンでは,点滴投与直後に一過 性に上昇したが,その後,ただちに低下し,5 分 後で点滴投与中にもかかわらず 5.2 L/min と最低 値に達した.その後,点滴投与開始から 20 分後 に投与前のレベルにまで回復した.瞳孔散大(図 3d )は,ノルエピネフリンのみで点滴投与中に 認められた. 4. ドパミンとドブタミンの投与量ごとの作用の 比較 (図 4) ドパミン,ドブタミンを 1 μg/kg/min (低用量), 5 μg/kg/min (中用量),10 μg/kg/min (高用量)で, それぞれ 60 分間持続点滴し,経過を観察した. 図 3  エピネフリン,ノルエピネフリン,イソプレナリンの点滴投与により効果の発現に違いが生じる.それぞ れの薬物は 10 μg/min で 15 分間点滴投与し,点滴投与を中止して,さらに 15 分間観察した. HR:心拍数,BP:血圧,CO:心拍出量. :薬物点滴投与. :エピネフリン, :ノルエピネフリン, :イソプレナリン.

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低用量ドパミンでは,心拍数,血圧,心拍出量は, 点滴投与開始時と同程度のレベルであった.一方, 低用量ドブタミンでは,心拍数は点滴投与開始か ら 20 分 後 に か け て 80 回/min か ら 110 回/min と増加し,心拍出量も 5.5 L/min から 5.9 L/min へ と増加した.血圧は収縮期,拡張期ともにわずか に増加した.点滴投与中,いずれの循環器バイタ ルサインのレベルも上昇したままであった(図 4-a).中用量ドパミンでは,心拍数は軽度に増加し, 血圧は約 15 mmHg 上昇し,心拍出量は 5.5 L/min から6.2 L/minに増加した.中用量ドブタミンでは, 心拍数,心拍出量ともに点滴開始後 10 分間で急 激に上昇し,心拍数は 145 回/min に達した.血圧 は中用量ドパミンと同程度の上昇が点滴投与開始 後 10 分間で認められ,点滴投与中そのレベルは 維持された(図 4-b).高用量ドパミンでは,心 拍数は,点滴投与開始から 2~3 分後にかけて 20回/min 増加した.また,血圧も点滴投与開始 前より 30 mmHg 増加した後,時間の経過ととも にわずかではあるが減少した.一方,心拍出量は , 一過性に増加したが,その後,次第に減少し,点 滴投与前の 5.5 L/min が点滴投与開始から 60 分後 には 5.0 L/min となった.高用量ドブタミンでは, 心拍数は中用量の場合より短時間で増加したが, その程度は同じであった.血圧の上昇も中用量と 同程度であったが,高用量ドパミンよりは少な かった.一方,心拍出量は,点滴投与開始後に 5.5 L/minから 6.2 L/min に急激に増加し,そのレ ベルは点滴投与中維持された(図 4-c). 図 4 ‌‌ドパミンとドブタミンより効果の発現に違いが生じる.ドパミン,ドブタミン(低用量:1 μg/kg/min, 中用量:5 μg/kg/min, 高用量:10 μg/kg/min)を,それぞれ 60 分間持続点滴投与した. HR:心拍数,BP:血圧,CO:心拍出量. :薬物点滴投与. :ドパミン, :ドブタミン.

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表 2 各群のプレテスト・ポストテストの得点率 全項目 n プレテスト ポストテスト 差 P 上位群 46 58.6± 11.2 69.3± 12.7 10.7 0.001* 中位群 45 60.9± 10.3 64.7± 9.5 3.8 下位群 27 56.0± 9.2 63.1± 9.5 7.1 0.001* 知識項目 プレテスト ポストテスト 上位群 46 59.8± 19.4 72.5± 15.0 12.7 0.001*, 0.01# 中位群 45 58.2± 16.3 67.6± 18.8 9.4 0.01* 下位群 27 54.9± 17.0 62.0± 14.0 7.1 0.05* 演習項目 プレテスト ポストテスト 上位群 46 57.8± 10.1 66.6± 15.4 8.8 0.001* 中位群 45 61.9± 10.4 62.5± 16.5 0.6 下位群 27 56.9± 13.9 64.0± 11.6 7.1 0.05* n:評価対象例数 *対応のある t 検定,各群内のプレテスト・ポストテスト間の比較,#多群間の Tukey検定 1 群と 3 群のポストテスト間の比較.上位群:席次上位学生,中位群:席次中位学生,下位 群:席次下位学生.平均±標準偏差. 5.演習前後の得点率(表 2) SimMan 3Gのインストラクターソフトを用い る多人数での演習の学習効果を評価する目的で演 習の前後にプレテストとポストテストを行った. 知識項目 11 問と演習項目 14 問からなる全項目で のポストテストの得点率において,プレポストの 得点率と比較して上位群で 10.7,下位群で 7.1 の 有意な増加が認められた.しかし,プレテスト, ポストテストの 3 群間において有意な差はなかっ た.次に,知識項目問題と演習項目問題でのプレ テストとポストテストの得点率を比較した.知識 項目において上位群,中位群,下位群ともポスト テストにおける得点率の増加は,それぞれ 12.7, 9.4,7.1 であり,また,3 群とも得点率が有意に 増加した.さらに,ポストテストの得点率で,上 位群は下位群と比較して統計的有意に得点率が高 かった.演習項目のポストテストにおいて , 上位 群のみで有意な得点率の増加(8.8)があった. それ以外では,プレ・ポストテストの得点率で有 意な増加はなかった.また,3 群間において有意 な差は認められなかった.

考  察

これまで,薬学部の薬理学の学生実習では,薬 物の作用を知るためにマウスやラットあるいはウ サギ,モルモット,カエルといった小動物あるい は摘出臓器に薬物を作用させ,その効果を定量し, 薬物の効果を客観的に検討してきた.このような 実習は薬理学の基本的な考え方や実験による論理 的思考力を養成するには有効な手段として重要で ある.しかしながら,ヒトでの薬物の作用を観察 し,その作用から薬物の作用機序を考察すること は,これからの医療薬学教育では重要な課題であ る.現存する高機能ヒト型シミュレータは救命救 急時のトレーニングツールとして開発されたた め,主に慢性期疾患を対象とする薬学教育への応 用についての検討はほとんどなされていない.ま た,このようなヒト型シミュレータをヒトを対象 とした薬理学に応用した研究もない.今回,我々 は,SimMan 3G とそのソフトウエアを用いるこ とで動物を使うことなしに,薬理学の演習・教育 ができること,さらに,ヒトにおけるカテコラミ ンの作用を学生が体験できることを示すことがで きた. 今回,我々は,交感神経興奮薬投与後の SimMan 3Gの心拍数,血圧,心拍出量の数値を PC 画面 およびデブリーフィングの表から読み取り,その 数値に基づいて各パラメータの経時的な変化図を 作成し,SimMan 3G における各薬物の作用を可 視化した.エピネフリンは,アドレナリン受容体 α,β を刺激するカテコールアミンであり,β1受 容体刺激作用による心拍数,心拍出量の増加が生 じること,血圧においては,α1受容体と β2受容 体において拮抗作用が生じるが,用量依存的に血 圧は上昇することが知られている.12)今回の SimMan

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3Gにおいて,エピネフリンによる心拍数,血圧 は予測されたように投与量に依存して増加した. 学生は,この増加が α1受容体,β1受容体がエピ ネフリンにより刺激された結果であることを学ぶ ことができる.さらに,エピネフリンの急速静注 では,投与直後から効果が現れるが,皮下,筋肉 内投与では吸収過程を必要とし吸収が比較的遅く なり,その過程で速やかに不活化されてしまうた めに,効果も緩やかになる.12) SimMan 3Gにおい て,エピネフリンの投与経路を変更したところ, 循環器バイタルサインが最大値に達するまでの時 間および作用の程度に違いが生じた.学生は,こ の結果から,エピネフリンの投与経路の違いによ る作用発現の違いをイメージとして学ぶことがで きる. ノルエピネフリンでは主に α 作用が,イソプ レナリンでは主に β 作用が発現する.各薬物の 受容体に対する親和性が異なっており,α 受容体 ではエピネフリン≧ノルエピネフリン≫イソプレ ナリン,β 受容体ではイソプレナリン>エピネフ リン>ノルエピネフリンの順である.13)これによ り,各パラメータにおいて,イソプレナリンでは 心拍数,心拍出量の増大,ノルエピネフリンでは 昇圧作用,瞳孔散大,および反射性徐脈による心 拍出量の低下が生じると予測され,14)今回の SimMan 3Gでの演習において予測された変動が観察でき た.よって,学生は,刺激される受容体あるいは 薬物による特徴的な循環器バイタルサインの変化 を学ぶことができると考えられる. 低用量ドパミンは,ドパミン受容体のみに作用 するので SimMan 3G で腎血流量の増大並びに利 尿作用を生じたかもしれないが,今回はこれらの 変化を確認しなかった.仮に SimMan 3G の状態 を乏尿あるいは欠尿にすれば,ドパミンのドパミ ン受容体刺激作用を観察することができたかもし れない.ドパミン中用量では,β1受容体刺激作 用が主となり,心機能亢進作用によって心拍数, 心拍出量が増加する.今回は SimMan 3G におい てドパミンの中用量の作用を再現することが確認 できた.さらに,高用量では,β1受容体刺激作 用に加え α1受容体刺激作用も加わる.これらに 刺激作用によると思われる,心拍数の増大,血圧 の増加と反射性徐脈による心拍出量の低下が生じ た.よって,学生は,ドパミンの投与量と刺激さ れる受容体の関係について学ぶことができると考 えられる.ドブタミンは,低用量においてドパミ ンと異なり β1受容体刺激作用を示すことが知ら れている.SimMan 3G においてドブタミンの用 量に依存した心拍数,心拍出量の増加が生じるこ とが確認できた.しかし,ドパミンはドブタミン の 4 倍の心機能亢進作用を有している(プロタ ノール®L注 第 3 版 , 興和株式会社,2014, 1 月 改訂)ため,ドパミンの心拍数のほうが多くなる と予測されたが,SimMan 3G では,むしろドブ タミンのほうが心拍数の増加が大きかった.学生 が,SimMan 3G への薬物の投与に際して事前に どのような作用が示されるのか予測を立てて演習 を行えば,演習に対する彼らの興味が増すように 思われる. 我々は,薬理学の学生実習において今回使用し た SimMan 3G のインストラクターソフトウエア を用いて演習を行った.その演習の前後にアドレ ナリン受容体と生体の反応の関係について簡単な 試験を行った.対象となる学生を成績席次に基づ いて席次上位群,席次中位群,席次下位群の 3 群 に分け,前後の試験の得点を比較した.その結果, 全項目の得点は,上位群と下位群で有意に増加し, ポストテストにおける下位群の得点は,中位群の 得点と同程度になった.また,知識項目における ポストテストの得点は,全群でプレテストの得点 と比較して統計学的に有意に上昇した.さらに, 上位群は知識項目および演習項目で最も高い得点 を示していることから,席次が上がるほど学習効 果が高いと考えられる.問題点として,中位群は 演習項目での得点の上昇率が予想したほどに増加 しなかった.その理由として,プレテストの中位 群の得点が最も高かったことが挙げられる.その ため,演習の結果に対する彼らの印象が弱かった のかもしれない.この点については,アンケート 調査等によって明らかにする必要がある. 以上のことより,高機能患者シミュレータ “SimMan 3G”が臨床薬学を目指した薬理学の演 習に活用できること,ヒトにおける薬物の効果を 疑似的に体験できることが示された.今後,アン

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ケート調査や適切な対照群を設けた比較研究を行 い,臨床薬学教育における高機能患者シミュレー タの有用性を客観的に評価していく必要がある.

謝  辞

本研究の一部は,「平成 23 年度文部省科学研究 費補助金基盤研究(B) 課題番号 23390136」をう けて実施されたものである.論文の作成に協力い ただいた高木有菜,奥村由美香,服部祐果に感謝 します.

利益相反

永松 正:レールダルメディカルジャパンより, 研究用として SimMan 3G インストラクターソフ トウエアを供与された.その他の開示すべき利益 相反はない.

引用文献

1) 中村隆一郎, 看護基礎教育・医学基礎教育にお けるシミュレーション教育の役割-メーカから の提言, 医療機器学, 2011, 81, 214-221. 2) 徳永 仁, 高村徳人, 緒方賢次, 吉田裕樹, 瀬戸口 奈央, 佐藤圭創, 薬剤師に求められる新たな薬剤 師業務に関する薬学生の意識調査, 薬学雑誌, 2010, 130, 911-916.

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表 1 プレ・ポストテストの項目 1)ノルアドレナリンは,交感神経節前線維から分泌される. 2)アドレナリンは,副腎髄質から分泌される. 3)アドレナリン β 1 受容体にカップリングするのは,Gs タンパク質である. 4)心臓に最も多く存在する受容体は,β 1 受容体である. 5)血管に最も多く存在する受容体は,α 1 受容体である. 6)アドレナリンの急速静注により,血圧は著明に上昇する. 7)アドレナリンの急速静注により,瞳孔は縮小する. 8)アドレナリンの急速静注により,発汗が起きる. 9)ノルアド
表 2 各群のプレテスト・ポストテストの得点率 全項目 n プレテスト ポストテスト 差 P 上位群 46 58.6 ± 11.2 69.3 ± 12.7 10.7 0.001 * 中位群 45 60.9 ± 10.3 64.7 ± 9.5 3.8 下位群 27 56.0 ± 9.2 63.1 ± 9.5 7.1 0.001 * 知識項目 プレテスト ポストテスト 上位群 46 59.8 ± 19.4 72.5 ± 15.0 12.7 0.001 * , 0.01# 中位群 45 58.2 ± 16.3 6

参照

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