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グレリンシグナルの多様性を支える分子メカニズム

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Academic year: 2021

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Chem.,348,941―943.

12)Rizzo, W.B.(2007)Mol. Genet. Metab.,90,1―9.

13)Kelson, T.L., Secor McVoy, J.R., & Rizzo, W.B.(199 7)Bio-chim. Biophys. Acta,1335,99―110.

14)Ikeda, M., Kihara, A., & Igarashi, Y.(2004)Biochem. Bio-phys. Res. Commun.,325,338―343.

15)Ashibe, B., Hirai, T., Higashi, K., Sekimizu, K., & Motojima, K.(2007)J. Biol. Chem.,282,20763―20773.

16)Beauchamp, R.O., Jr., Andjelkovich, D.A., Kligerman, A.D., Morgan, K.T., & Heck, H.D.(1985)Crit. Rev. Toxicol., 14, 309―380.

17)Catalá, A.(2009)Chem. Phys. Lipids,157,1―11.

木原 章雄

(北海道大学大学院薬学研究院生化学研究室) Complete metabolic pathway of sphingosine1-phosphate and its importance as a metabolic intermediate

Akio Kihara(Laboratory of Biochemistry, Faculty of Phar-maceutical Sciences, Hokkaido University, Kita12-jo, Nishi 6-choume, Kita-ku, Sapporo060―0812, Japan)

グレリンシグナルの多様性を支える分子メ

カニズム

1. は グレリンは,下垂体からの成長ホルモン分泌を誘導する Gタンパク質共役型受容体の内因性リガンドとして児島, 寒川らにより胃から精製,同定されたペプチドホルモンで ある1).グレリン発見に先立ち,10年代は医薬サイドの 要請から成長ホルモンの分泌を促す薬剤の開発が盛んに なった.その中である種の短鎖ペプチド(GHRP-6など) は,成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)とは異なる経路 を介して成長ホルモンの分泌を促していることがわかって きた.1996年になると GHRP-6や非ペプチド性アゴニス ト MK-0677の受容体として下垂体の成長ホルモン放出細 胞に発現する GHSR1a(growth hormone secretagogue recep-tor type1a)がクローニングされた.そして1999年になり GHSR1a の内因性リガンドとしてようやくグレリンが同定 された.今日のグレリン研究の隆盛にはグレリンが食欲刺 激作用をはじめとするエネルギー代謝に深く関与している 事実が多大に寄与している.95,96年に相次いで GHRP-6 の脳室内投与によりラットの食餌量が増加することが報告 されたことから,グレリンや GHSR1a が食欲に深く関与 するであろうことは発見以前に既に想定されていたものと 思われる.その機序は GHRP-6のオピオイド類との構造類 似性や GHRH の食欲亢進作用から類推されており,いず れの場合も構造と機能に関わる洞察が契機になった.グレ リンの発見とともに「道は拓けていた」ことに感じ入らず におれない.今やグレリンによる中枢性の食欲制御は視床 下部弓状核にある NPY/AGRP 神経系の修飾を介している ことが明らかになっており,現在から当時に舞い戻っても グレリンを精製,同定するのであれば脳や下垂体が第一選 択と思われる.しかし,ここに大きな難関があった.グレ リンの主要な産生臓器は脳ではなく胃なのである.成長ホ ルモン分泌を刺激するホルモンが,実は中枢で食欲を促進 し,さらには胃の蠕動運動にも関わるかもしれない,とす ればあるいは胃でも発現しているかもしれない,という類 推の光は当時あまりにも微かであったに違いない.児島ら による発見の経緯は,生化学者であるならば深く頷首せざ るをえない物語としてご自身により紹介されているので是 非ともご 参 照 願 い た い(児 島 将 康 先 生 の ホ ー ム ペ ー ジ http :/ / www. lsi. kurume-u. ac. jp / molecular _ genetics / index. html). 2. 機能多様性の担保 一般に分子が機能多様性を獲得するには二通りの方法が 考えられる.一つは分子の構造を簡単な融通の利くものに して生体内の様々な現象に関わる方法である.これには例 えば細胞内セカンドメッセンジャーである cAMP があり, あるいは最近では亜鉛イオンなど更にシンプルな分子によ る「特別な」役割も注目されるようになってきた2).もう 一つは少しずつ形の違った構造類似体を数多く用意して ○○ファミリーのような体裁を整えることである.そこ で,グレリンは後者の範疇に入ると想定した上で,グレリ ンの分子種多様性について考察する. ペプチドホルモンのとりうる分子多様性は1)アミノ酸 配列,2)アミノ酸鎖長,これに加えてグレリンの場合は, 3)脂肪酸修飾の種類に依存する.これをまとめたものが 図1A である.グレリンのアミノ酸配列は種間で極めてよ く保存されており,第1コアはカエル(GLTFLSP)など の一部の両生類を除いてほぼ全てのグレリン分子において 同一である.また,アミノ末端から14番目のグルタミン や28番目のアルギニンの欠失がラットとヒトにおいて遺 伝子配列上の変異体として報告されている.そもそもヒツ ジやウシなどでは14番目のグルタミンはグレリン遺伝子 にコードされていない.第2,第3コアは哺乳類間での保 存性は高いが,鳥類や魚類では第3コアに多様性が存在 557 2013年 7月〕

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し,概してペプチド鎖長が若干短いサイズになるのもこの 領域の配列に依存している.なおグレリンの遺伝子構造に ついて言が及びながら同遺伝子の前駆体ペプチドにコード されているオベスタチンに触れないのは不本意であるが, 紙幅に限りがあるため本稿では割愛させていただく. 脂肪酸修飾は3番目のセリン側鎖にエステル結合するこ とにより行われるが,これにはオクタノイル基(C8:0) のほかにデカノイル基(C10:0あるいは C10:1)も天然 型として存在することが確認されている3).これらの脂肪 酸修飾はグレリン産生細胞においてグレリン前駆体ペプチ ドの合成に並行して行われ,成熟型グレリンはプロホルモ ン変換酵素(PC1/3)により前駆体ペプチドから切り出さ れた後に分泌される.一方,胃のグレリン産生細胞の中に はグレリン特異的アシル基転移酵素(GOAT)を発現しな いものも散見されることから,脂肪酸修飾を受けずにその まま分泌されるグレリンも一定量存在することが予想され る.ヒトの場合,脱アシル化型はアシル化型グレリンの 10倍ほどの存在比で血中を循環している. 次に,グレリン分解産物について述べる.成熟グレリン は血中に放出されると速やかに脱アシル化を受ける.筆者 らがウシ血清からグレリン脱アシル化活性を指標に責任酵 素の精製を行ったところ,1996年に杉本らによりラット 肝臓より精製・遺伝子クローニングされたリゾホスホリ パーゼ I(またはアシルプロテインチオエステラーゼ1, APT1)と同一の分子であることがわかった4,5) (図1B).本 酵素はリゾリン脂質を基質とし,脂肪酸1分子とグリセロ ホスホリルコリンに加水分解する.ところが APT1という 別称が示す通り,本酵素はその後 Ras などの低分子 G タ ンパク質のシステイン残基とパルミトイル基を加水分解す るチオエステラーゼ活性も有する酵素であることが明らか にされた.さらにはグレリンや Wnt など脂肪酸修飾され た分泌シグナル分子のアシル基を切除する活性も報告され た.APT1以外にもグレリンの脱アシル化反応に関わる血 中エステラーゼ類はいくつか報告されているが,当研究室 で再現性をみたところ in vitro ではグレリンに対する当該 活性を確認することはできなかった6) 一方,脱アシル化酵素の精製過程において,グレリンの ペプチド鎖はウシやマウス,ヒト血漿と反応させると一定 のパターンで分解されることを見出した(図1B).質量分 析による解析から,グレリンはいったん15番目のアルギ ニンと16番目のリシンの間で切断された後に(1―14),(1― 13),(1―12),(1―11)と,漸次カルボキシル末端が消化さ 図1 グレリンの構造多様性 (A)グレリン(ヒト)の一次構造.第1コア配列は脊椎動物間を通じてほ ぼ共通である.第2,3コアは哺乳類内で特に保存性が高い領域を示す. (B)血液中 に お け る グ レ リ ン 分 解 様 式 の 推 定 模 式 図.APT1: acylprotein thioesterase1, TAFI: thrombin-activable fibrinolysis inhibitor, APC: activated protein C.

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れていくことが推測された.最近になり,グレリン(1―15) を生じるエンドペプチダーゼは凝固第5,第8因子を限定 分解して凝固反応を停止させる活性化プロテイン C(APC) であることを見いだした(投稿準備中).さらにグレリン (1―15)からグルタミンを加水分解するカルボキシペプチ ダーゼの本体が TAFI(thrombin-activable fibrinolysis inhibi-tor)であることも見出した(未発表).TAFI はこれ以降 のカルボキシル末端の消化に関わることがないため,グレ リン鎖短縮反応を更に進行させる未知の消化酵素について 現在も同定を目指して研究を行っている. ここで改めて図1の A,B を比較したい.まず第3コア を大きく損なわないように APC による切断が行われ,第 1,第2コア配列をなるべく保護するようにカルボキシル 末端からの順次多段階の反応により分解を遅延させる仕組 みがあるような印象を受ける.言い換えれば,保存性の低 い領域を分解の標的としてコア領域を切り出しているよう である.APC は配列特異性だけを考慮すればグレリン11 番目のアルギニンの C 末端側を切断することも期待でき るが,実際は酵素標品を過剰量用いてグレリンを消化して も,生成するのはほとんどがグレリン(1―15)であり,グ レリン(1―11)の生成はわずかである.以上のように,単 一の遺伝子から切り出されるグレリンは,脂肪酸修飾やペ プチド結合の限定分解などの組み合わせにより,数多くの 構造類似体を生み出す可能性があることがうかがえる. 3. 構造と機能相関 ここまで紹介してきたグレリンの分子多様性は,それぞ れがどのように振る舞い,細胞にどのように受け取られる のかの違いにより,機能的な多様性を獲得することが推測 される.そこで,グレリンの構造と動態,生理活性の間に どのような関係が成り立つのかについて考察する.古典的 経路として示したが,GHSR1a への結合には,グレリンの 脂肪酸修飾が必須である(図2A).脂肪酸の炭素鎖長につ いては C8前後が最も受容体活性化に適合する長さであ り,C2まで短くなってしまうと活性は失われ,逆にパル ミチン酸のように炭素鎖を伸ばしていっても受容体活性化 能は低下する7).また,我々の検討では天然に存在するデ カノイルグレリン(C10)は APT1による脂肪酸加水分解 においてオクタノイルグレリン(C8)と同等の基質にな り得るが,APC によるペプチド分解に対して C10は C8よ 図2 生理機能から推測されるグレリンおよびその分解産物のシグナル伝達経路 (A)GHSR1a を介した古典的経路.(B),(C),(D)受容体の実体が明らかでな い機能について非古典的経路と位置づけ,文献情報をもとにモデルを策定した. (B)脱アシル化グレリン特異的受容体.機能的には古典的経路に拮抗する作用を もつ.(C)非特異的受容体.グレリンの脂肪酸修飾の有無やペプチドの鎖長に関 わらず結合する許容性が高い受容体.増殖や分化など細胞の運命決定に関わる. (D)脱アシル化グレリン特異的受容体であるが(B)とは異なり,古典的経路とは 無関係である独自な生理作用を担う. 559 2013年 7月〕

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りも抵抗性を示した.また,血中においてはリポタンパク 質などとの相互作用8)への寄与も想定される.現在我々は オクタノイル化グレリン(1―15)の特異的な検出方法の確 立を目指しているが,この分子は血液中では逆相 HPLC での展開が困難な,極めて疎水性の高いバルク画分に入っ てしまうために難儀している.すなわち,脂肪酸修飾に関 して受容体との相互作用に留まらず,血中動態への影響に ついても配慮が求められるだろう. 一方,脱アシル化グレリンについては対アシル化型の血 中存在比率の高さから,この分解産物の意義に注目が集 まったのは自然な流れであった.しかし,先にも述べたが 脱アシル化グレリンは GHSR1a 軸においてグレリン作用 を原理的に賦活しない.そこで,新しいグレリン受容体の 存在が示唆されるが,残念ながらそのような受容体の存在 はいまだ報告されていない(非古典的経路,図2).ただ し,GHSR1a のノックアウトマウスにおいてアシル化,脱 アシル化グレリンのいずれも骨格筋萎縮に対する抵抗性作 用が認められる9)など,第二の受容体を示唆する研究は枚 挙にいとまがない.アシル化の有無における機能的な使い 分けを意識するあまり,我々は拮抗・協調のいずれかでも のを考えがちであるが(図2B),まだ見ぬ新規受容体の存 在を示唆する例を含め,脂肪酸修飾は「特に考慮しない」 ケースも目立つ(図2C).我々もグレリンがマウス筋原細 胞株 C2C12の筋への分化を促進することを確かめている が,この作用には脂肪酸付加も第3コア領域も必須条件で はなかった.脱アシル化グレリン独自の作用として体温調 節10)やサイトカイン産生などグレリンの古典的作用からは 大きく隔たりがある報告も見受けられる(図2D).いずれ にしろ,第二のグレリン受容体の存在は現時点で安易に否 定されるべきではないだろう. グレリンのペプチド鎖長と受容体活性化能にはシンプル な正の相関がある.28残基の全長型が最も高い受容体結 合能と活性化能を有しており,鎖長が短くなるにつれて活 性は次第に低下する.最小活性部位はアミノ末端の4残基 (GSSF)とされている.最も配列保存性の高い第1コア領 域がそのまま活性コアとして機能している(図1A).一方, 第3コアに相当する(16―28)領域についての生理作用に 関しての研究は筆者の知る限りほぼ手付かずのテーマとし て残されているので,今後はぜひその生理活性を調べてい きたい. 我々は,グレリン受容体を過剰発現させた PC12細胞や HEK293細胞の最初期遺伝子 EGR1の活性化を指標にグレ リ ン 分 解 産 物 の 生 理 活 性 を 評 価 し て き た11).こ の 系 は MAPK,cAMP 経路が優位に反映される印象をもっている が,やはりグレリン(1―15)は全長型グレリンの活性化に 比較して活性は低くなるものの,グレリン(1―5)に比す ると中程度にレポーター遺伝子を活性化することを確認し た.ただし我々の研究を含め,これらの知見の多くが培養 細胞株に GHSR1a を遺伝子導入した,いわゆる再構成系 により得られた結果である点には十分留意する必要があ る.より生理的な条件に近い実験系である,ラット胎仔の 下垂体を用いた成長ホルモン分泌活性を指標とした研究報 告では,短鎖グレリンによる成長ホルモン放出の亢進は確 認されていない12).リガンド・受容体相互作用にまつわる 落とし穴があるとすればこの辺りにもあるかもしれない. すなわち下垂体においては GHSR1a と共役した Gq/11を介 する細胞内 Ca2+上昇はグレリン受容体活性化の中心的な 経路であることに間違いはない.しかし,膵β 細胞にお けるグレリンによるインスリン分泌の抑制効果については PTX感受性 の G2i経 路 を 介 し て い る よ う だ13).こ れ に は GHSR1a とソマトスタチン受容体 SST5のヘテロダイマー 化が鍵を握っている可能性があ る14).GHSR1a は 他 に も ドーパミン受容体 D1,セロトニン受容体5-HT2c やメラ ノコルチン受容体 MC3とヘテロダイマーを形成すること が判明している.以上のような受容体相互作用はグレリン を含めたペプチド作用の強弱や下流シグナルの方向性を調 節するものと考えられる. 4. 展 意外なことにグレリンの遺伝子改変マウスはレプチンが 変異した ob/ob マウスのような「劇的」な表現型を示さ ない.グレリン欠損あるいは過剰発現マウスが相次いで作 製され,その後にグレリン受容体欠損マウスの作成も報告 された.しかし今のところ,グレリン関連遺伝子の改変に よる超肥満あるいは超痩身マウス作成の報告は聞かない. グレリンの単回投与はラットの覚醒レベルを向上させ,運 動や摂食行動を亢進させる.ただし,慢性的に曝露してし まうと摂食だけが増加し,運動促進効果は消失してしま う.一方,インスリン高値は血中グレリン濃度を低下させ ることから,肥満や2型糖尿病ではグレリン濃度は慢性的 な低値となり,BMI とは逆相関を示す.これらのことを 考え合わせると個体レベルでのグレリンシグナルにおいて は発現量や分泌量の多寡よりも,血中濃度のリズムあるい は変動性が大きな意味をもつ可能性が考えられる. さきごろ,睡眠不足は血中レプチン濃度の低下を招き, 逆にグレリン濃度は上昇して肥満になりやすいというコロ 560 〔生化学 第85巻 第7号

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ンビア大学の報告が話題になった.このような現象と,肥 満でグレリンが低値を示すことは直観的には相容れず,整 合性がとれない印象がある.ヒトの場合,血中アシル化グ レリンは脱アシル化グレリンの1/10程度であるから,グ レリン総量が低下しているならば主な原因は脱アシル化グ レリンの「消失」であろうと考えられる.しかし,分泌量 そのものが低下しているか,アシル化グレリンが血中に放 出されかつ速やかに脱アシル化された分解産物をみている のか,アシル化されていないグレリンが血中に放出される や否や分解を受けているのか,あるいはグレリンとは認識 されない形に分解されているものなのか,現在のところ明 快な説明はなされていない.血中グレリンの測定系に関し ては早くから寒川らにより精力的に開発が行われており, 既に洗練された方法が確立している.しかし,図1に示し たような多分子種の存在を確かめるためにも,今後これら を分けて測定する工夫も必要となってくるだろう.事実, 市販の ELISA キットを含め我々が検討した限りでは,短 縮型グレリンを認識できる抗体は非常に限られている.グ レリンの血中濃度が低下している背景には,グレリンが限 定分解を受けて短縮型が増加している可能性も否定できな い.肥満やメタボリックシンドロームの病態は血管・循環 器系の慢性炎症状態を引き起こし,並行して凝固系の活性 化が誘導されていることが推測される.したがって短縮型 グレリンが血中に増加している状況は,これらの生成機序 から考えてさほど突飛な想定ではないと考える.あるいは この辺にグレリン「消失」の意味を探る糸口も見えてくる のではないだろうか. グレリンが関わる現象については実に様々な報告が蓄積 しつつある一方で,グレリンの機能多様性を説明しうる分 子的な実体や理論体系についてはまだ確立されていない部 分も多い.本 稿 で は 詳 し く 触 れ る こ と が で き な か っ た GHSR1a の下流シグナルや構成的活性化,食欲と深く結び ついた嗅覚や学習行動など興味深い話題は拡がり,尽き ず,気ばかりが急いてしまう.その時に,筆者はレニン・ アンジオテンシン系の歴史を思い起こしている.今でこそ アンジオテンシノーゲンから(本稿流の表現を許していた だければ)アンジオテンシン(1―10),(1―9),(1―8),(2― 8),(3―8)の分解産物が生じることや,それぞれに対する 特異的受容体も明らかになってきた.レニン発見から今年 で115年目である.グレリンについても短縮型のペプチド が同様の作用様式をもっているかについて現在のところ不 明ではあるが,着実に実験データを積み上げていく必要が あるだろう.

1)Kojima, M., Hosoda, H., Date, Y., Nakazato, M., Matsuo, H., & Kangawa, K.(1999)Nature,402,656―660.

2)Fukuda, T. & Kambe, T.(2011)Metallomics,3,662―674. 3)Nishi, Y., Mifune, H., & Kojima, M.(2012)Methods

Enzy-mol.,514,303―315.

4)Sugimoto, H., Hayashi, H., & Yamashita, S.(1996)J. Biol. Chem.,271,7705―7711.

5)Satou, M., Nishi, Y., Yoh, J., Hattori, Y., & Sugimoto, H. (2010)Endocrinology,10,4765―4775.

6)Satou, M. & Sugimoto, H.(2012)Methods Enzymol., 514, 165―179.

7)Heppner, K.M., Chaudhary, N., Müller, T.D., Kirchner, H., Ha-begger, K.M., Ottaway, N., Smlley, D.L., Dimarchi, R., Hof-mann, S.M., Woods, S.C., Sivertsen, B., Holst, B., Pfluger, P. T., Perez-Tilve, D., & Tschöp, M.H.(2012)Endocrinology, 153,4687―4695.

8)De Vriece, C., Hacquebard, M., Gregoire, F., Carpentier, Y., & Delpoete, C.(2007)Endocrinology,148,2355―2362.

9)Porporato, P.E., Filigheddu, N., Reano, S., Ferrara, M., Ange-lino, E., Gnocchi, V.F., Prodam, F., Ronchi, G., Fagoonee, S., Fornaro, M., Chianale, F., Baldanzi, G., Surico, N., Sinigaglia, F., Perroteau, I., Smith, R.G., Sun, Y., Geuna, S., & Graziani, A.(2013)J. Clin. Invest., in press.

10)Inoue, Y., Nakahara, K., Maruyama, K., Suzuki, Y., Hayashi, Y., Kangawa, K., & Murakami, N.(2012)Biochem. Biophys. Res. Commun.,430,278―283.

11)Satou, M., Nakamura, Y., Ando, H., & Sugimoto, H.(2011) Peptides,32,2183―2190.

12)Torsello, A., Ghe’, E., Catapano, F., Ghigo, E., Deghenghi, R., Locatelli, V., & Muccioli, G.(2002)Endocrinology,143,1968 ―1971.

13)Dezaki, K., Kakei, M., & Yada, T.(2007)Diabetes, 56, 2319― 2327.

14)Park, S., Jiang, H., Zhang, H., & Smith, R.G.(2012)Proc. Natl. Acad. Sci. USA,109,19003―19008.

佐藤 元康

(獨協医科大学医学部生化学講座) Molecular mechanisms involved in the diverse actions of ghrelin

Motoyasu Satou(Department of Biochemistry, Faculty of Medicine, Dokkyo Medical University, Kitakobayashi880, Mibu, Shimotsuga-gun, Tochigi321―0293, Japan)

痛みの受容機構と新規鎮痛薬創製の可能性

1. は 痛みは,一次感覚神経のうち,主に有髄 Aδ 線維や無髄 C線維の自由神経終末に存在する様々な感覚受容器(侵害 561 2013年 7月〕

参照

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