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133 イギリスにおけるデビットカード利用の急伸についてメントには大きな変化が起きつつあるのかもしれない 本稿においては 以下で伝統的小切手社会であったイギリスにおいて 近年デビットカード利用が急伸していることを紹介し それがどのような要因によるものなのか そのことの影響はどのようなものか等について

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イギリスにおけるデビットカード利用の急伸について

 

 

 

はじめに

日本においては、二〇一四年六月に閣議決定さ 本のその比率の高さがわかるであろう。これは日 本の治安が比較的よいことや、近年の低金利が現 金保有の機会費用を低下させている等の要因もあ ろう。また、伝統的小切手社会といわれるアメリ カ(ドル札の半分以上は海外で流通しているとい われているので、国内の残高は図表 1よりもかな り低い)やイギリスでは低いということも考えら れる。しかし小切手社会ではないスウェーデンや デンマーク等の北欧諸国においてはキャッシュレ ス化が進展して、低金利にも関わらず現金残高が 減少傾向にある。世界的に個人のリテール・ペイ

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メントには大きな変化が起きつつあるのかもしれ ない。   本 稿 に お い て は、 以 下 で 伝 統 的 小 切 手 社 会 で あったイギリスにおいて、近年デビットカード利 用が急伸していることを紹介し、それがどのよう な要因によるものなのか、そのことの影響はどの ようなものか等について検討することとしたい。

一、近年の支払手段の動向

  図表2は、イギリスにおける支払回数でみた近 年の支払手段の動向である。一見してわかるとお りデビットカードが、急激にその支払回数を伸ば している。二〇一四年において支払回数の五二% はまだ現金であるものの(二〇一五年には五〇% 以 下 と な っ た )、 支 払 金 額 ベ ー ス で は、 現 金 が 一 六六〇億ポンド、デビットカードが三六二〇億ポ 図表1 GDP 比の銀行券・コイン(2014年) 〔出所〕 淵田[2016]13頁

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ン ド と 後 者 が 前 者 の 二 倍 以 上 と な っ て い る。 Fish  and Whymart [ 2015 ] は、 イ ギ リ ス の 支 払 決 済 は、歴史的にみて一七世紀から一九六〇年代まで は、小切手・銀行券・コインが中心であったが、 一九六六年のクレジットカード、一九六八年の自 動 決 済( ダ イ レ ク ト デ ビ ッ ト・ ダ イ レ ク ト ク レ ジ ッ ト )、 一 九 八 七 年 の デ ビ ッ ト カ ー ド、 二 〇 〇 八年のファースターペイメント(小口の同日決済 振込)のそれぞれの開始は、個人のペイメントの 態様を大きく変えたとしている。   図表2は、二〇〇〇年を一〇〇として各支払手 段別の支払回数の伸びをみたものであるが、図表 3は実際の支払回数(消費者:現金を除く)の推 移をみたものである。これをみるならば近年のデ ビットカード利用の伸びは、小切手の支払回数の 低下よりもかなり大きく、現金を代替しているこ とによるものであるといえそうである。もうひと 図表2 支払手段(定期支払除く)の動向 〔出所〕 FishandWhymart[2015]p.5 600 500 400 300 200 100 2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 0 指数:2000年=100 デビットカード クレジットカード 現金 小切手

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つの大きな特徴は小切手の支払回数がすでにそれ ほどではなかったものの、直近では非常に少ない ものとなっているということである。   また、図表4は、現金を含めた消費者の支払金 額の推移をみたものであるが、現金による支払金 額 は 安 定 的 で あ る こ と が わ か る( 若 干 の 低 下 傾 向 )。 そ し て こ こ で も デ ビ ッ ト カ ー ド が 伸 び て お り、二〇〇〇年代末に金額では現金を逆転してい る。そうするとデビットカードは小口のペイメン ト に お い て 現 金 を 代 替 し て い る と い え そ う で あ る。また、小切手は支払回数ベースでは大きく低 下しており、イギリスはもはや小切手社会とはい えない状態となっている。ただし支払回数におい ては低下してはいるものの、一定の支払金額は維 持しており、消費者ベースにおいても小切手は高 額 の 支 払 に 用 い ら れ て い る こ と が わ か る で あ ろ う。 図表3 非現金支払回数(消費者) 〔出所〕 PaymentsUK[2016]p.19. デビットカード 小切手 自動振込 ダイレクトデビット クレジットカード 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 (10億回)

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  なお、図表4においてはダイレクトデビットが 着実に増加していることが注目される。いわゆる 自動引落であるが、一九六八年の導入以来イギリ スの銀行界はその普及に苦労してきた。日本では すぐに普及したダイレクトデビットが、なぜイギ リスでは普及に苦労したかというと、そこにはイ ギリスが小切手社会であったということが大きく 影響していたといわれている。例えば伝統的なク レジットカードの利用額のイギリスにおける支払 方法は、請求書が届いた後に、利用額を確認し、 最低支払金額以上の任意の金額の小切手を郵送す るというものであった。イギリス人は、このよう に自分の支払う金額について、自分でコントロー ルしたいというメンタリティが強く、毎月の支払 額が変動するダイレクトデビットの普及の障害と なっているといわれていた。イギリスにおいて普 及していたのは毎月の支払額が変動しないスタン 図表4 支払金額 ( 消費者) 〔出所〕 PaymentsUK[2016]p.20. デビットカード 小切手 現金 (10億ポンド) 自動振込 ダイレクトデビット クレジットカード 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

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ディングオーダー(定額支払、変動する支払額に ついては年に一回程度調整)であった。ダイレク トデビットの普及は、イギリス人の支払決済に関 する嗜好の変化と大きく関連しているように思わ れるのである。

 、デビットカードの登場とペイ

メントの変化

  前述の通りイギリスにおいてデビットカードが 登場したのは一九八七年のことである。イギリス は伝統的小切手社会であるといっても、それは小 切手の大衆利用が大昔から一般的であったという ことではない。イギリスの商業銀行が大衆化を本 格化させたのは第二次世界大戦後のことであり、 制度的な消費者信用業務に進出したのは一九五〇 年代末のことである。この時期以降、イギリスの 商業銀行の対個人戦略は、それ以前よりも積極化 し、個人の当座預金口座保有も拡大していった。   この個人の当座預金保有の拡大、すなわち小切 手利用の拡大は、不渡小切手数の増大という事態 を招き、小売店等における小切手受け取り拒否を 招くこととなった。これに対応して登場したのが 小切手保証カードであり、その最初のものは一九 五〇年一〇月に導入された。銀行は優良顧客にた いしては小切手保証カードを発行し、そのカード の提示が確認された小切手については不渡となっ た場合においても、カード記載の限度額までの支 払いを銀行は小売店等にたいして行った。小売店 等ではカード限度額以下の小切手しか受け取らな くなり、このことは小切手の使い勝手を悪くした も の の、 個 人 の 小 切 手 の 流 通 性 の 増 加 に つ な が り、カードの普及は当座預金保有、小切手利用を 促進した。また、その後この小切手保証カードの

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限 度 額 は 段 階 的 に 引 き 上 げ ら れ る と と も に、 キ ャ ッ シ ュ カ ー ド と 一 体 化 し、 さ ら に デ ビ ッ ト カードと一体化するのが通例となっていった。   た だ し、 個 人 の 小 切 手 利 用 の 拡 大 は、 銀 行 に とってそのハンドリングコストの増加が問題とし て認識されるようになってきた。また、小切手保 証カードの損失は完全に銀行負担となっていたこ とも、銀行からすれば問題であった。一方、消費 者側からしても小切手帳を常に携帯するのは煩雑 なことであったし、他人が小売店等で小切手で支 払う際に、小切手保証カードの確認に時間がかか り、 長 時 間 待 た ね ば な ら な い と い う 不 満 も あ っ た。このことは小売店等においても問題として認 識されていたし、これに加えて小切手を入金した 場 合 の 資 金 化 ま で の 時 間 が 長 い こ と に も 不 満 が あった。   このような状況下において一九八七年に導入さ 図表5 プラスチックカード発行枚数(1991-97) (単位 1000枚) 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 クレジットカード 29,025 28,631 27,588 28,456 30,778 34,149 38,443 Master Card 11,554 11,169 10,351 10,891 11,656 12,829 14,533 Visa 15,941 16,109 15,916 16,225 17,646 19,710 22,275 その他 1,531 1,442 1,321 1,340 1,476 1,599 1,635 デビットカード 20,114 22,596 24,118 26,049 28,441 32,473 36,646 Swich 11,804 12,377 12,930 13,811 15,162 16,295 18,287 Visa 8,310 10,219 11,188 12,238 13,279 16,178 18,359 ATM カード1) 27,200 26,968 26,580 25,986 26,835 24,702 24,320 小切手保証カード2) 8,281 7,487 5,924 4,582 4,142 3,754 3,451 ユーロチェックカード 1,875 1,734 1,674 1,696 1,634 1,575 1,496 総 計 86,496 87,396 85,884 86,769 91,830 96,642 104,355 (注) 1.ATM カード機能のみおよび小切手保証カード機能の付加されたもの。    2.小切手保証カード機能のみ。 〔出所〕 APACS[1998]p.30.

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れたデビットカードは、小切手を代替する形で、 その支払回数・金額を伸ばしていった。一九九〇 年代のカード発行枚数を図表5でみるならば、一 九九〇年代の半ばでデビットカードはクレジット カ ー ド に 追 い つ き つ つ あ る こ と が わ か る。 こ れ は、デビットカードがキャッシュカードと一体化 していることによるものである。デビットカード は、発行枚数が増加しているだけではなく、実際 に数多く使用されるようになっていった。図表6 は国内発行カードの国内支払回数・金額をみたも のであるが、デビットカードの支払回数は、一九 九五年以来クレジットカードのそれを上回ってい る。 し か し な が ら、 支 払 金 額 で み る な ら ば、 デ ビットカードのそれはクレジットカードを一九九 七年においても下回っている。デビットカードは クレジットカードよりも平均的な一回あたりの使 用金額が少額であるという傾向があり、このこと 図表6 カード支払回数・金額(1991-97) 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 支 払 回 数 (単位 100万回) クレジットカード 699 724 748 815 908 1,025 1,128 Master Card 274 265 272 295 325 364 404 Visa 387 416 431 472 532 601 661 その他 38 42 44 47 51 60 63 デビットカード 359 522 659 808 1,004 1,270 1,503 Switch 169 269 344 425 535 684 802 Visa 190 253 315 383 468 587 701 総 計 1,058 1,246 1,407 1,623 1,912 2,296 2,631 支 払 金 額 (単位 100万ポンド) クレジットカード 28,615 30,727 33,341 37,532 42,508 50,330 58,057 Master Card 11,046 10,905 11,776 13,149 14,729 17,239 19,760 Visa 14,907 16,526 17,789 20,055 22,821 27,292 31,718 その他 2,662 3,296 3,776 4,327 4,958 5,800 6,579 デビットカード 9,508 13,840 17,870 22,424 28,456 37,056 45,058 Switch 4,507 6,997 9,134 11,602 14,971 19,697 23,789 Visa 5,001 6,844 8,735 10,822 13,485 17,358 21,270 総 計 38,123 44,567 51,211 59,956 70,964 87,386 103,115 (注) イギリス国内発行カードの国内支払回数・金額 〔出所〕 APACS[1998]p.34.

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から小切手代替のみでなく現金代替の支払手段と なっていく可能性を有しているといえる。   図表7は、一九七六年から一九九七年までの約 二 〇 年 間 の イ ギ リ ス に お け る ペ イ メ ン ト の 形 態 ( 回 数 ベ ー ス ) を み た も の で あ る が、 現 金 に よ る ペイメントから非現金ペイメント(基本的には銀 行預金による決済)への大きな流れをみてとるこ とができる。その意味で一九九〇年代におけるデ ビットカード利用の急伸は、小切手代替として進 展したわけであるが、現金によるペイメントから 預金によるペイメントへの大きな流れとしてとら えることもできる。そして二一世紀入り以降のデ ビットカード利用のさらなる急伸は、イギリスに おけるキャッシュレス化を進行させる方向での動 きであるとみなすことが可能であろう。 図表7 ペイメントの態様(個人:回数ベース) (単位 %) 1976 1981 1984 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 現金 93 88 86 80 78 78 76 76 72 71 70 67 非現金 7 12 14 20 22 22 24 24 28 29 30 33 (非現金支払中の比率) 小切手 68 68 64 55 52 49 45 41 38 33 30 26 ダイレクトデビット 21 20 22 23 23 24 25 26 26 27 28 27 プラスチックカード 7 9 13 18 20 23 26 29 33 37 41 43 クレジットカード 6 8 12 15 15 14 14 14 15 16 17 17 デビットカード 2 4 8 11 13 16 19 22 24 流通系カード 1 1 1 1 1 2 2 2 2 2 その他 2 2 1 4 5 3 4 4 3 3 2 4 〔出所〕 APACS[1998]p.47.

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 、デビットカードとクレジット

カード

  これまでイギリスのリテール・ペイメントにお いてデビットカード利用が急伸していることをみ てきたわけであるが、デビットカードと通常よく 比較されるのはクレジットカードである。実際、 日 本 に お け る J-Debit と は 異 な り、 イ ギ リ ス に お い て は 小 売 店・ レ ス ト ラ ン 等 に お い て、 両 者 の ターミナルは同一であり、使用感には差はみられ ないのである。以下では両者の近年の利用状況に ついてみることとする。   まず発行枚数について図表8でみるならば、二 〇〇〇年代の後半において両者は逆転しており、 さらにはクレジットカードの発行枚数が減少して いることが注目される。これは、前述のとおりデ 図表8 カード発行枚数 〔出所〕 UKCardsAssociation[2016]p.6. デビットカード ATMカード チャージカード クレジットカード 120 100 80 60 40 20 0 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 (100万枚)

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ビットカードがキャッシュカードと一体化してい ることの他、クレジットカードには審査があるこ とが影響している。さらにはデビットカードの利 便性の増加は、年会費の存在するクレジットカー ドがなくとも生活に不便はないこと等から、近年 の発行枚数の状況が説明できるであろう。   次に、支払回数・金額の状況を図表9および図 表 10でみるならば、ここでもデビットカードの優 位は明らかである。二〇一五年でみるならば、デ ビットカードの支払金額は四八六〇億ポンド(う ち オ ン ラ イ ン 利 用 は 三 三 %) 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド は 同 一 七 四 〇 億 ポ ン ド( 同 二 九 %) と な っ て い る。ここで一回あたりの支払金額をみるならばデ ビットカードは四二・三ポンド、クレジットカー ドは六八・八ポンドとなっており、デビットカー ド の 登 場 以 来 の 傾 向 は 継 続 し て い る こ と が わ か る。 図表9 カード利用回数 〔出所〕 UKCardsAssociation[2016]p.7. デビットカード(国内) デビットカード(国外) クレジットカード(国内) クレジットカード(国外) 15 12 9 6 3 0 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 (10億回)

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  それではデビットカードの優位の理由はどこに あるのであろうか。筆者が文献調査に加えて、今 夏にロンドンでインタビュー調査を行った結果か ら明らかになった点は以下のとおりである。   クレジットカードには、前述のとおり審査・年 会費の存在といった点があるが、それに加えてイ ギリスの場合は、クレジットカード利用の際に現 金価格にサーチャージが付加される場合が、それ ほど多くはないものの存在するということが挙げ られる。また、消費者自身には関係のないことで はあるが、加盟店手数料がデビットカードの方が 安く、小売店等がデビットカード利用を歓迎する こ と も 影 響 し て い る 可 能 性 は あ る 。 こ れ ら に 加 え て大きいのがリーマン・ショック以降において、 家計が債務を負うことに慎重になっていることも クレジットカードが相対的に伸び悩んでいること に影響している。クレジットカード金利は、住宅 図表10 カード利用金額 〔出所〕 UKCardsAssociation[2016]p.7. デビットカード(国内) デビットカード(国外) クレジットカード(国内) クレジットカード(国外) 700 600 500 400 300 200 100 0 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 (10億ポンド)

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ローン金利等が低水準となっている近年において も高止まりしていることも影響していると思われ る。さらには、クレジットカードについては日本 のように自動引き落としではなく請求書が届いて から、何らかの手段により支払うというアクショ ンが必要なのである。これを煩雑と感じる層が若 い世代を中心に増えてきていることも影響してい ると思われる。   このことは、デビットカードが選好される理由 とも大きく関連している。デビットカードは、使 用額、預金残高管理が楽であり、小切手と使用感 覚も似ていることが伝統的小切手社会であるイギ リスにおいてそれが選好される理由であろう。そ し て デ ビ ッ ト カ ー ド 利 用 の 広 が り と と も に、 デ ビットカードさえ持っていれば日常生活に不便は ないという状況およびその逆の状況を作り出して きているといえるであろう。

四、進むコンタクトレス化

  近年のプラスチックカードにおける技術革新に おいて重要なものとしてコンタクトレス化を挙げ ることができる。イギリスにおいてもカードの発 行者は、その不正利用・詐欺的使用に苦しんでき て い る。 そ れ へ の 対 応 と し て の 技 術 革 新 が I C カード化であり、PIN認証であった。 IC カー ド・ P I N 認 証 が カ ー ド の 基 本 と な っ て き た 中 で、これに非接触型の支払い機能を付加したコン タクトレスカードが登場したのは二〇〇七年のこ とであるが、それは発行枚数・使用回数・使用金 額ともに急増しているのである。このコンタクト レ ス カ ー ド は、 使 用 感 覚 で い え ば 日 本 の 電 子 マ ネーに近いものであるが、VISAがそのほとん ど を 占 め て お り( こ の 他 に は Master Card )、 小

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けでなくクレジットカードにも搭載することは可 能であるが、クレジットカードの発行枚数の伸び は デ ビ ッ ト カ ー ド に 及 ば な い。 こ れ を 支 払 回 数 ( 図 表 11) で み る な ら ば、 デ ビ ッ ト カ ー ド 利 用 が 圧倒的となっており(これは支払金額ベースでも 同 様 で あ る )、 少 額 支 払 に お け る デ ビ ッ ト カ ー ド の優位は通常使用よりも際立っているのである。   なお、イギリスにおいては一九九〇年代後半に スーパーマーケットによる銀行業務への参入が相 次いだ。これとデビットカード利用の拡大とは関 連 し て い る わ け で あ る が、 こ の 時 期 頃 か ら ス ー パーマーケット各社はキャッシュバックサービス という業務を推進していった。この業務は顧客が カードで買い物をした際に、買い物金額に加えて 現金を手渡しし、合計金額をカード利用代金とす るというものであるが、このキャッシュバック額 は二〇一四年以降に急減している。二〇一五年の 売店・レストラン等におけるターミナルも通常の デ ビ ッ ト カ ー ド・ ク レ ジ ッ ト カ ー ド と 同 一 で あ り、公共交通においては交通カードとして使用す ることが可能である ⑵ 。   プラスチックカード全体に占めるコンタクトレ スカードの割合は、二〇一三年には二四%であっ たが、二〇一四年には三六%、二〇一五年には四 九%と急速度で切り替えが進んできており、二〇 一六年初めには五〇%を超え、さらに上昇してい る。これに対応して小売店等におけるターミナル もコンタクトレスカード対応のものの割合が急上 昇している。これによりデビットカードの平均使 用金額は、従前よりさらに少額化する傾向をみせ てきている。コンタクトレス化したデビットカー ドは、日本における電子マネーのようにコインを 代替するようにもなってきているのである。   このコンタクトレス機能は、デビットカードだ

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キャッシュバック(デビットカード)の一回あた りの平均金額は二五ポンドであるが、同年にコン タクトレスカードの上限金額が三〇ポンドに上昇 したことの影響を受けていることが推察される事 態である。近年のデビットカード利用の急伸が、 現金代替により進んでいることのひとつの表れで あるようにも思われる。

おわりに

  以上、イギリスにおいてデビットカード利用の 急伸が、リテール・ペイメントを大きく変化させ てきていることをみてきた。勿論、近年において は種々のモバイル・ウォレットやブロックチェー ン技術を応用したビットコイン等の仮想通貨によ る取引も増加しているようではあるが、大きな流 れとなるには至っていない。イギリスは、もとも 図表11 コンタクトレスカードの利用回数 〔出所〕 UKCardsAssociation[2015]p.4. デビットカード 総計 クレジットカード 50 40 30 20 10 0 2014 2014 2014 2014 2014 2014 2014 2014 2014 2014 2014 2014

Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec

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は、図表 12でみるとおり、支払回数ベースにおい ても二〇二〇年代初めにはデビットカードが現金 を上回るとしている。デビットカード優位の状況 はさらに続くことが予想されているのである。こ れにたいして現金社会の日本においては、一九九 八 年 に 導 入 さ れ た J-Debit は 認 知 度 が 高 ま ら ず に 低迷している。一方で、ブランド・デビットカー ドの伸びは急速ではあるものの、二〇一五年の支 払金額は九〇〇〇億円以下であり、イギリスとは 日本円に換算して二桁違う状況である。日本にお けるキャッシュレス化の進展に、デビットカード は貢献する可能性を有してはいるが、まだしばら く時間はかかりそうであるといえよう。 参考文献 APACS [ 1998 ]

Yearbook of Payment Statistics 1998

Fish,T. and Whymark,R. [ 2015 ] ʻHow has cash usage  と日本などに比べれば、現金利用があまり多くは なく、個人においても小切手利用が一般的である 小切手社会の国であった。しかしながら現在、小 売店等で小切手を用いる個人の姿はほとんどみか けない。個人の小切手利用を促進してきた小切手 保 証 カ ー ド は 二 〇 一 一 年 に そ の 姿 を 消 す こ と と なった。   一九八七年に登場したデビットカードは、当初 は小切手を代替する形でその支払回数・金額を伸 ばしてきていたが、近年では現金使用を代替する 形でそれらを伸ばしてきている。イギリスではデ ビットカードを保有しないことの不便さが、かつ ての小切手帳を保有しないことの不便さよりも大 きくなってきているように思える。それはコンタ クトレス化したデビットカードが、かつてにおい て現金利用が優位であった少額利用の分野にも進 出してきたものによるのであろう。業界の予測で

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evolved in recent decades? What might drive demand in  the future?ʼ,

Bank of England Quarterly Bulletin

2015Q3. UK Cards Association [ 2015 ]UK Card Payments Summary 2015. UK Cards Association [ 2016

]UK Card Payments 2016.

UK Payments [ 2016a ] UK Payment Markets 2016. UK Payments [ 2016b ]

UK Cash & Cash Machines 2016.

斉藤美彦[二〇〇〇] 「イギリスにおけるデビットカード利用 と ス ー パ ー マ ー ケ ッ ト バ ン ク 」『 流 通 』( 日 本 流 通 学 会 ) No.13. 淵田康之[二〇一六] 「キャッシュレス・ジャパンの実現に向 けて」 『野村資本市場クォータリー』 2016spring. (注) ⑴   E U で は 二 〇 一 五 年 一 二 月 に、 プ ラ ス チ ッ ク カ ー ド 関 連 の 加 盟 店 手 数 料 に つ い て、 デ ビ ッ ト カ ー ド 〇・ 二 %、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド 〇・ 三 % の 上 限 規 制 を 制 定 し た。 こ れ に よ り 両 者 の 加 盟 店 手 数 料 の 差 は 大 き な も の で は な く な っ た。 Brexit 後 の 取 扱 い に つ い て は 現 時 点 で は 不 明 で あ る が、 E U規制からの大きな乖離は想定されないように思われる。 ⑵   ス ウ ェ ー デ ン 等 に お い て は、 公 共 交 通 に お い て 現 金 使 用 が で き な い こ と が 話 題 と な っ て い る が、 イ ギ リ ス・ ロ ン ド 図表12 将来予測(回数ベース) 〔出所〕 PaymentsUK[2016a]p.16. デビットカード (10億回) 小切手 現金 ダイレクトデビット ダイレクトデビット(BACS) クレジットカード ファースターペイメント スタンディングオーダー 18,000 16,000 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025

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ン に お い て も 二 〇 一 四 年 以 降、 バ ス に お い て 現 金 使 用 は で き ず 交 通 系 カ ー ド( オ イ ス タ ー カ ー ド・ ト ラ ベ ル カ ー ド ) お よ び コ ン タ ク ト レ ス カ ー ド の み が 使 用 可 能 で あ る。 こ れ は ス ウ ェ ー デ ン と 同 様 に、 運 転 手 へ の 危 害 を 防 ぐ 観 点 か ら の も の で あ り、 さ ら に は 運 行 の ス ピ ー ド ア ッ プ を 目 指 し た ものでもある。 ( さいとう   よしひこ・ 大阪経済大学教授・ 当研究所客員研究員 )

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