Successful endovascular therapy for arterial thoracic outlet syndrome : A
case report
1)三友堂病院循環器科,2)出羽内科 《Abstract》────────────────────────────────────── 症例は61歳,男性.2008年11月より,左上肢挙上位における跛行症状を自覚していた.かかりつけ医を受診し左 鎖骨近傍の血管性雑音を指摘され,精査目的に2011年10月当院へ紹介となった.来院時は,左上肢でwright testが 陽性であり,上肢挙上位においては,左側のみ 1 分間以上の連続した手指開閉運動が困難であった.造影CTでは, 左鎖骨下動脈の血流障害は認めず,鎖骨,第 1 肋骨など骨格系の異常も認めなかった.選択的左鎖骨下動脈造影を 行ったところ,左肩関節過外転位における撮影にて,肋鎖間隙部で左鎖骨下動脈が完全閉塞となる所見が得られた. 動脈性胸郭出口症候群の診断で,本人,家族と治療方針について検討し,血管内治療の方針で承諾を得た.左橈骨 動脈よりアプローチし,左鎖骨下動脈に対して肋鎖間隙部をまたぐようにナイチノール性自己拡張型ステントを留置した ところ,左肩関節過外転位においても左鎖骨下動脈の血流を維持することに成功した.術後は,上肢挙上位における 左上肢の跛行症状は消失し,アスピリン,クロピドグレルを継続として術後第 4 病日に退院した.今回われわれは, 骨格系に異常のない中年男性に発症した動脈性胸郭出口症候群に対し,橈骨動脈アプローチによる低侵襲な血管内 治療が有効であったので報告する. ───────────────────────────────────────────ナイチノール性自己拡張型ステント留置術が有効で
あった動脈性胸郭出口症候群の1例
● 動脈性胸郭出口症候群 ● 血管内治療 ● ナイチノール性自己拡張型ステント Key wordsToshio Makita1), Osamu Kawashima1),
Hideki Abe1), Sunao Izuha2)
1)Department of Cardiology, Yonezawa Sanyudo Hospital, 2)Izuha Internal Medical Clinic
(2011 . 12 . 16 原稿受領;2012 . 4 . 20 採用)
槇田俊生
1)川島 理
1)阿部秀樹
1)出羽 和
2)はじめに
胸郭出口症候群(thoracic outlet syndrome;TOS) は,1956年にPeetが,それまでに報告されていた頸 肋症候群,斜角筋症候群,肋鎖間隙症候群,過外転 症候群などを総括する概念として提唱した疾患群で ある1).胸郭出口およびその近傍における鎖骨下動静 脈,腕神経叢の圧迫や牽引によって,上肢の疼痛,痺 れ,感覚障害,跛行など多彩な症状を呈する.好発 年齢は20代から40代であり,男女比は 1:4 と女性に 多い2). 一般的に,圧迫や牽引によって障害を受けた場合, その主症状により,神経性,動脈性,静脈性の 3 型 に分類される.神経性TOSの頻度が最も高く,全体 の90%を占める.一方,鎖骨下動脈の圧迫により,上 肢虚血が主症状となる動脈性TOSの発生は稀であり, その頻度は 1 %以下と報告されている3).さらに動脈 性TOSにおいては,骨格系の異常を伴うものが2/3を 占めている4). 今回われわれは,骨格系に異常のない,中年男性
による低侵襲な血管内治療が有効であったので報告 する. 症例 患者:61歳,男性. 主訴:左上肢の跛行. 家族歴:特記所見なし. 既往歴:2007年より高血圧で加療中.1981年;尿 管結石.2007年;大腸ポリープ(内視鏡的ポリペクト ミー).鎖骨や肋骨への外傷歴なし. 内服薬:アムロジピン 5 mg,カンデサルタン 4 mg. 利き腕:右. 現病歴:2008年11月雪囲いの際,両上肢を挙上し て作業を行うと,左上肢のみ脱力,易疲労感が出現 することに気づいた.その後も,左上肢の跛行症状 は増悪傾向をたどり,上肢挙上位における 1 分間以 上の連続した作業が困難となった.高血圧などでか かりつけの前医を受診した際,理学所見上,左肩関 節90°の外転位にて左鎖骨下に収縮期血管性雑音を聴 取し,135〜180°の過外転位とすると,その雑音が消 失する所見を認めた.精査目的で2011年10月,当科 外来へ紹介受診となった. 来院時身体所見:身長170cm,体重55kg,血圧 152/82mmHg(右上肢),154/80mmHg(左上肢),脈 拍76/分・整,胸部聴診所見:心雑音なし,肺野ラ音 なし. 血液検査所見:WBC 8,300/μL,RBC 357×104/ μL,Hb 13.3g/dL,Ht 38.3%,PLT 20.0×104/μL,
T-Bil 1.0mg/dL,ALP 188 IU/L,GOT 17 IU/L, GPT 9 IU/L,LDH 157 IU/L,γ-GTP 22 IU/L, CPK 89 IU/L,BUN 7.4mg/dL,CRE 0.60mg/dL, UA 5.2mg/dL,Na 141mEq/L,Cl 104mEq/L,K 4.2mEq/L,TP 5.9g/dL,Alb 3.9g/dL,T-CHO 175 mg/dL,LDL-C 88mg/dL,TG 62mg/dL,随時血糖 101.0mg/dL,CRP 0.20mg/dL. 理学所見:両上肢挙上位において,左橈骨動脈の み拍動が消失する(wright test陽性).両上肢挙上位 における運動負荷試験にて,左上肢は 1 分間以上の 手指の開閉運動継続が困難であった(three minutes elevated arm stress test陽性).
足関節上腕血圧比(ankle brachial index;ABI):右 側1.25,左側1.23. 心電図所見:正常洞調律,心拍数57/分,正常軸. 胸部X線写真:心胸比45%.骨格の異常所見は認め ない(図 1 ). 造影CT:両上肢中立位で撮影.大動脈弓部 3 分岐 に,解剖学的破格は認めず,左鎖骨下動脈から腋窩 動脈にかけて,狭窄,拡張,走行異常の所見はなかっ た(図 2 A).左鎖骨,第 1 肋骨にも異常所見を認めず (図 2 B),肋鎖間隙は左右で16mmと正常範囲内で あった(図 2 C). 来院後の経過:左肩関節外転位における左鎖骨下 動脈の血流を評価するため,選択的左鎖骨下動脈造 影を行った. 右橈骨動脈より4Frシースを挿入してアプローチ. Simons型カテーテルを使用して左鎖骨下動脈入口部 に先端を挿入し,造影を行った.その結果,左肩関 図 1 胸部X線写真 胸郭,肺野,心陰影の異常を認めない.
節外転 0 °における血流はCT所見同様異常を認めな かったが(図 3 A),左肩関節を135°から180°の過外転 位とすると,左鎖骨下動脈の血流が完全に遮断され ることが判明した(図 3 B).同様に,左肩関節過外 転位での左鎖骨下静脈造影も行ったが,狭窄は出現 するものの,閉塞にはいたらなかった(図 3 C). 動脈性TOSの診断で,患者,家族と治療方針を検 討し,血管内治療を行うことで同意を得た. 未分画ヘパリン5,000単位を静脈内投与後,経左橈 骨動脈アプローチでSheathless PVTM 6Frを挿入し, 0.018インチThruwayTMを左鎖骨下動脈から大動脈内 へ進めた.血管内超音波Vision® PVにて観察を行っ たところ,肋鎖間隙部における左鎖骨下動脈の中膜 対中膜の距離は7.2mmであった.左鎖骨下動脈の椎骨 図 2 造影CT画像 A:3D正面像;大動脈弓部 3 分岐に解剖学的破格を認めない.左右鎖骨下動脈の走行に異常なく,狭窄所見も認めなかった. B:3D正面像;頸肋などの骨奇形を認めず,鎖骨,第 1 肋骨に異常なし. C:3D側面像;肋鎖間隙部は16mmと正常範囲内である. A B C 図 3 左鎖骨下動脈造影 A:左肩関節外転 0 °にて撮影;左鎖骨下動脈の血流に異常を認めない. B:左肩関節過外転位にて撮影;左鎖骨下動脈は肋鎖間隙部で完全閉塞となった. C:左肩関節過外転位にて撮影;左鎖骨下静脈は閉塞にいたらず,血流は維持されていた. A B C
動脈分岐後から腋窩動脈近位部にかけて,SMART ControlTM φ8.0×80mmを留置した(図 4 A).最終造 影では,左肩関節過外転位においても左鎖骨下動脈 の血流は造影遅延なく維持されることが確認された (図 4 B). 術後は,ステント血栓症,穿刺部出血などの合併 症なく経過し,wright test,three minutes elevated arm stress testはいずれも陰性となった.アスピリ ン100mg,クロピドグレル75mgを継続として,術後 第 4 病日に退院となった.また,術後 6 カ月の時点 では,ステントの破損や左上肢跛行症状の再燃を認 めず,順調な経過であった. 考察 動脈性TOSの初期は,上肢挙上による鎖骨下動脈 の間欠的な圧迫のみであるが,これが反復して発生 することにより, 2 次的な動脈壁の変性を起こし,恒 常的な内腔の狭窄を呈するようになるとされている. 慢性的な炎症の持続によって,次第に線維性狭窄が 強まり,生じた乱流によって狭窄後拡張を起こすよ うになる.さらに進行すれば,血管内皮障害を伴っ た動脈瘤へと発展し,血栓を形成して,遠位塞栓に よる重篤な虚血症状を引き起こすこともある.この ような病期による進展を起こすことが知られている ため,発見次第早期に外科的介入を行うことが推奨 されている4)5). しかし,実際には跛行症状など初期の段階での診 断は困難であり,遠位塞栓による重篤な虚血症状が 生じるまで診断にいたらない例が多い6).その理由と して,初期には症状が間欠的で非常に軽微であるこ と,神経性TOSと診断されたために鎖骨下動脈に対 する画像診断が行われないこと4),が原因としてあげ られる.また,肩関節外転運動など,体勢を考慮し た画像診断が行われないことにより,正常と診断さ れてしまう場合もある.実際,本症例に関しても以 前に同症状で受診した他院のCTでは,確定診断には いたらなかった経緯があった.今回は身体所見とし て,かかりつけ医が鎖骨近傍における血管性雑音を 見逃さなかったこと,また,患者自身が再現性ある 症状を自覚していたことが発見の契機となった.左 肩関節外転運動を加えた,選択的鎖骨下動脈造影を 行ったことで確定診断にいたったが,早期の動脈性 TOSとして診断できた非常に稀な例と考えられる. 次いで,本症例における左鎖骨下動脈の圧迫原因 を考察する.胸郭出口における鎖骨下動脈の圧迫と 関連する解剖学的部位として,斜角筋三角部,肋鎖 間隙部,小胸筋下間隙の 3 カ所があげられるが,動 脈性TOSについては,肋鎖間隙部での圧迫が最も多 図 4 血管内超音波造影 A:ステント留置;左鎖骨下動脈 へSMART ControlTM φ8.0× 80mmを留置した. B:最終造影;左肩関節過外転位 においても,左鎖骨下動脈の 血流は維持された.
軟部組織の異常については,10種類に分類されてい る10).しかし実際には,術中所見として軟部組織異 常を同定できることはあっても,術前の画像所見にて 同定することは困難である場合が多い.本症例に関 して,CT画像における肋鎖間隙部の比較検討を行っ てみると(図 6 A,B),右側では鎖骨下動脈の近傍は 比較的疎であるのに対し,左鎖骨下動脈の前上方に は,右側には認めない軟部組織が存在しており,圧 迫の一因である可能性がある. 最後に,治療に関する検討を行う.動脈性TOSに 対する外科的治療は,胸郭出口部での除圧と変性した 鎖骨下動脈の血行再建術が主体である.しかし,本 症例は鎖骨下動脈の狭窄後拡張や瘤状変化が始まっ ていない,早期の状態であった.そのため,鎖骨下 動脈に対するグラフトを使用した血行再建術の追加 は必要なく,腋窩進入法もしくは鎖骨上進入法によ る除圧術のみが選択されると考えられる.除圧術に ついては第 1 肋骨や斜角筋,骨奇形の切除を基本と し,ほかに圧迫要因となる軟部組織異常が確認され れば一塊としてこれらの切除を行う術式が一般的で ある.TOS全般に対する腋窩進入法,鎖骨上進入法 を検討したSandersらの研究では,両者の成績に大 きな差は認めなかったと報告されている11).同報告に て術後 1 〜 3 カ月の時点で,症状の完全な消失もし くは軽快が得られた症例の割合は腋窩進入法で91%, い6).今回,術前に施行した左肩関節外転位における 左鎖骨下動脈の造影所見からも,本症例においては, 肋鎖間隙部での圧迫を受けたことにより,閉塞にい たったと考えられる.肋鎖間隙部は,上方に鎖骨と 鎖骨下筋,底面に第 1 肋骨が存在し,成人では通常 10〜15mmとされているが,肩関節の外転運動に伴っ て,正常でも機能的に狭小化する特徴をもつ.同部 位に含まれる,いずれの構造物も鎖骨下動脈の圧迫 と関連し得るが,その主たる圧迫要因により骨性要 因と軟部組織要因の 2 つに大別される. では,本症例における主たる圧迫要因は,骨性要 因,軟部組織要因のどちらであるのか.本症例では, 鎖骨骨折などの外傷の既往がなく,CTにて左鎖骨, 第 1 肋骨の異常や,そのほか,頸肋など先天的な骨 格奇形を指摘できなかった.また,肩関節外転 0 °で の肋鎖間隙は16mmと,通常の成人男性としては問題 がない.さらに,肩関節180°の過外転位においても, 左右の肋鎖間隙部は等しく 8 mmと保たれ,機能的狭 小化にとどまる(図 5 A,B).以上から本症例におい ては軟部組織要因による圧迫が主たる原因と考えた. 文献的にも,胸郭出口部での圧迫に関しては,骨性 要因に比べて軟部組織要因のほうがより重要である とされ,現在までに斜角筋の解剖学的破格8)9),鎖骨 下筋の肥大や,異常線維・筋束の存在など多数報告 されている.また,Roosによって,手術所見を元に 図 5 両肩関節180°外転位における 単純CT画像 A:左側 B:右側 肋鎖間隙はφ8 mmと左右差なく 機能的狭小化にとどまっている. SA:鎖骨下動脈 SV:鎖骨下静脈 C:鎖骨 FR:第 1 肋骨 S:ステント A B C C S SA SV SV FR FR
脈領域での使用成績を参考にすると,TASCⅡ A/B 病変に対するナイチノール性自己拡張型ステントの 成績は, 4 年の 1 次開存率が80%と良好であった13). また,同報告ではステント破損に関しては 8 %とさ れていたが,Lairdらの報告からは,ステント破損と 関連する因子として,留置時のステント伸長,ステ ント重複,高度石灰化病変への留置があげられてい る14).本症例においては,動脈硬化性病変ではない ために石灰化病変を含まず,ステントの重複もない ため,ステント破損の危険因子はいずれも含まれて いない.一方で,大腿膝窩動脈領域においては,ス テント破損と運動量の関係も示唆されている15).本症 例では職業的,地域的にも上肢を挙上してある程度 の連続した作業を要するのは,年に 2 回,雪囲いを 行う時のみである.さらに,本症例の造影や透視に よる検討から,ステントへの圧迫は左肩関節135〜 180°の過外転位においてのみ生じており,日常生活に おいてその肢位をとる頻度は少ない.以上を考慮す れば,長期的にも本症例においてステントの破損が 発生する危険性は,低いことが予想される. 骨性要因が主たる圧迫原因であれば,ステント留 置を行ったとしても十分な拡張が得られず,経年的 に狭窄後拡張から瘤状変化を起こしてしまう可能性 が高い.しかし,本症例の治療を通して,軟部組織 鎖骨上進入法で92%であったが, 3 〜 5 年の観察期 間においてはそれぞれ73%,72%にとどまる.また, 外科的治療に伴う合併症の発生率に関しては,Dale らの881例を対象とした報告によると,重篤な出血が 11例(1.4%),腕神経叢障害が13例(1.5%),横隔神経 障害が39例(4.9%),長胸神経障害が 3 例(0.1%)とさ れている12).本症例においては軟部組織異常が主た る圧迫要因と考えられ,血管内治療による高い成功 率,橈骨動脈アプローチによる低い合併症発生率が 予想された.治療にあたっては,患者本人へ外科的 治療の選択肢を提示したうえで,血管内治療への同 意を取得し,院内倫理委員会の承認を得てステント 留置を行った. ステントの選択にあたっては,外力によって反復 した圧迫を受けること,圧迫によっても完全に虚脱 しない適度な支持力があること,圧迫解除後は速や かに元のステント内腔サイズへ戻れることを条件と して,柔軟性,形状記憶性に優れたナイチノール性 自己拡張型ステントを選択した. 長期的には,ステントの開存性,破損の発生が問 題になってくると予想される.しかし,胸郭出口部付 近の鎖骨下動脈へ留置したステントに関する,長期 的な臨床成績の報告は存在しない.同様な圧迫,伸 展,ねじれといった動的な負荷がかかる大腿膝窩動 図 6 肋鎖間隙部の糸状断面 A:左側 B:右側 右側では鎖骨下動脈の近傍が疎で あるのに対して,左側では前上方 に軟部組織が存在する. SA:鎖骨下動脈 SV:鎖骨下静脈 C:鎖骨 FR:第 1 肋骨 ST:軟部組織 C C SA ST SA SV SV FR FR
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