医学教育におけるoutcome-based education(OBE)の影響
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(2) 782. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. けでなく,学習者や社会にも理解しやすそうな身近な言葉を用 いている,③プロフェッショナリズムのような教育,評価とも に難しい領域にも焦点をあてている,が挙げられる。. アウトカム基盤型教育の実践 Harden は,OBE の利点として,情報の膨大化と教育目標の 細分化,社会からの期待の増大と説明責任,学生や教員の全体 像の把握のしやすさ,教育と評価の一体化,卒前・卒後初期・. 図 1 臨床評価の真正性. 生涯教育の連続性といった項目を挙げた 8)。大学といえども, 自律的発展に任せるのではなく,社会的なニーズに対応するよ うな役割を担う必要があり,その役割に学生・教員がともに向. これらのコア EPA は,医学部卒業時までに学修し,評価. き合うとともに,教育アウトカムについての説明責任を負わな. されなければならない。その際,Miller の臨床評価の真正性. ければならないということがいえる。. (図 1)を考慮することは非常に重要であろう。特に,Shows. Frank は,OBE の実施プロセスについて,①卒業生に必要. How(技能やコンピテンシーに基づく評価)と Does(行動・. な能力の同定(すなわちアウトカム領域の設定),②コンピテ. パフォーマンスに基づく評価)の違いに注意が必要である。. ンシーやその要素の明確な定義,③進度にしたがったマイルス. OSCE のような Shows How の評価を重視すると,臨床現場よ. トーン(一里塚)の設定,④教育活動,経験,指導方法の選定,. りもシミュレーションラボで学びたいというニーズが高まるか. ⑤マイルストーンを測定する評価手法の選定,⑥アウトカムが. もしれない。コア EPA の項目を「医師として任せてよいレベ. 達成できたかのプログラム評価,の 6 つを挙げている。個人的. ルで学べている」と評価するためには Does レベルの評価が必. には,⑤の段階は非常に重要であり,①の次に⑤のこともある. 要であり,そのためには 13 の項目に関して臨床業務に参加し. 程度想定しておくべきではないかと考えている。. ている必要がある。日本では医行為にかかわる項目も多いが,. OBE の阻害要因として,単位制については考慮が必要であ. これらの実習を充実する必要性が浮かび上がるだろう。. る。単位制は学習時間と最終評価への合格によって単位認定す ることになる。学習時間を重ねることで修得したという考え方. ま と め. を「履修主義」と呼び,あくまでも修得されたかどうかを重視. 21 世紀の医学教育学会において重要なトレンドである OBE. する「修得主義」と対比される。OBE は修得主義に則っており,. の意味や考え方から,それをもう一歩実践につなげるための. 単位制と共存させるには,各教科における総括評価がより重要. EPA の取り組みに至る現状をとりまとめた。. になることが理解されるだろう。. 卒前から生涯学習への連続性と OBE Carracio は,Dreyfus モデルというスキル獲得の段階モデル を用いて,コンピテンシーの達成を独り立ちできることと簡潔 に表現した。指導者側から見ると,独り立ちという概念を仕事 を信頼して任せられるかどうかとみなすこともでき,これを Entrustable Professional Activity(以下,EPA)と呼んだ 9)。 米 国 医 学 校 協 会(Association of American Medical Colleges:AAMC)は,EPA をコア EPA,すべての医師に必要な EPA,各専門領域に必要な EPA と分類し,コア EPA は初期研 修(レジデンシー)に入る時点で必要なものと位置づけた 10)。 13 のコア EPA としては,①病歴と診察,②鑑別診断と優先順 位,③検査の解釈と提案,④指示と処方の合議・実施,⑤診察 の記録,⑥症例提示,⑦患者ケア改善に向けた EBM の実施, ⑧責任あるケアの引き継ぎ,⑨多職種チームのメンバーとして の協働,⑩緊急対応が必要な患者の同定とマネジメント,⑪検 査や処置におけるインフォームド・コンセント,⑫一般的な処 置の実施,⑬システムの問題の同定と,安全や改善への貢献, が挙げられている。これまでのアウトカム領域に比べ,より具 体的であり,評価もしやすい項目になっていると思われる。. 文 献 1) Harden RM, Laidlaw JM:医学教育を学び始める人のために.大 西弘高(訳),篠原出版新社,東京,2013. 2) Spady WG: Outcome-Based Education: Critical issues and answers. The American association of school administrators, Arlington, Virginia. 1994. 3) 牛場大蔵:医学教育ワークショップの概念と歴史.医学教育. 1981; 12(6): 377–380. 4) Papa F,Harasym PH: Medical curriculum reform in North America, 1765 to the present: a cognitive science perspective. Acad Med. 1999; 74: 154–164. 5) General Medical Council, Tomorrow’s Doctors: Recommendations on Undergraduate Medical Education, GMC, London, UK, 1993. 6) Frank JR, Jabbour M, et al.: Skills for the new millennium: report of the societal needs working group, CanMEDS 2000 Project. Ann R Coll Physicians Surg Can. 1996; 29(4): 206–216. 7) Accreditation Council for Graduate Medical Education. Outcome Project. http://www.acgme.org/Outcome(2015 年 7 月 25 日引用) 8) Harden RM: AMEE Guide No. 14: Outcome-based education: Part 1-An introduction to outcome-based education. Med Teach. 1999; 21(1): 7–14. 9) Carraccio CL, Benson BJ, et al.: From the educational bench to the clinical bedside: translating the Dreyfus developmental model to the learning of clinical skills. Acad Med. 2008; 83: 761–767. 10) Association of American Medical Colleges: Core entrustable professional activities for entering residency: curriculum developers’ guide. 2014..
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