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パブリックアートの経年劣化についての現状調査

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Academic year: 2021

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(1)22. 特集:人口減少時代の環境デザインを考える. 森山貴之 Moriyama Takayuki 横浜美術大学. Yokohama University of Art and Design. 第一部:現状調査報告. パブリックアートの経年劣化についての 現状調査 Current Situation Survey on the Time-Related Deterioration of Public Art. 1.はじめに 国内のパブリックアート[注1]の展開をみると、都市再開発計画に導入 されだす1990年代よりブロンズや石などの彫刻とは異なる素材・形式の作品 が増える傾向にある。例えば光源、FRP やアクリルなどの樹脂素材、従来に. ない塗色の使用、さらにストリートファニチュアや施設付帯設備などの作品 化である。そしてそれは同時に、作品の維持管理について従来とは異なる認 識のもとに行う必要性が生じてきたことを示す。なぜなら、作品はたえず太 陽光や粉塵、排気ガス、雨水に暴露し、人の自由な接触を許すわけだが、上 述のような作品の多様化は当然ながら劣化の多様化をも招くからである。 ではパブリックアートの維持管理についてどの程度啓発されてきたのだろ うか。90年代以降では、東京都『野外彫刻の維持管理の手引き』(1997)の 発行、屋外彫刻調査保存研究会(1997∼)やアメリカの彫刻維持管理団体で ある SOS!(Save Outdoor Sculpture!, 1990−1999)などの活動が知られている。. しかし例えば田中・工藤(2006)が行なった全国自治体へのアンケートに見 るように、作品調査や管理方法の検討を行う自治体は多いものの、作品所管 部署間での情報共有不足、予算難、企画部署の移動や人事異動などの理由に よりノウハウを蓄積しづらいという問題を抱えている。加えて作家や業者の 新たな参入、前例のない作品仕様の増加なども維持管理の技術的ハードルを. 高める要因となる。こうした問題は民間所有の作品においても同様であろう。 本稿は90年代を代表し、かつ竣工後20年以上経過する3つの再開発施設、 ファーレ立川(立川、1994)、新宿アイランド(新宿、1995)、ゆめおおおか (上大岡、1997)の作品群についての現状調査をもとに、多様化したパブ リックアートの経年的影響と維持管理の問題から見えてくる将来的課題につ いて考える。 1)国内でパブリックアートが用語として初出するのは 1980年代半ばごろである。主たる対象は80年代以降全 国的な流行となりつつあった「彫刻のあるまちづくり 事業」、すなわち文化振興事業や都市景観事業によっ て市街地や公共施設に設置された野外彫刻であった が、90年代の再開発事業への導入と並行して用語とし て一般に頻出するようになる。その性格上パブリック アートとは、野外彫刻設置の公益性を強調するために 読み替えられたものといってもよい。ちなみに国内に おいて文化振興事業としての野外彫刻設置事業は1961 年の宇部市にはじまり、都市景観事業におけるそれ は、1973年の横浜市にはじまるとされる。. 2.調査概要 調査は2020年1月から3月にかけて実施した。調査にあたっては2002年 (立川)、2003年(新宿) 、2007年(上大岡)の現認調査時の資料を補助的に 使用し、過去の毀損部分の修復の確認、新たな問題発生の有無を目視にて確 認した。 調査結果を表1に示す。まず、塗装を施した金属作品において主に過去の 補修痕、清掃困難な箇所の汚れの固着ならびに堆積(図5)、着錆(図6)、 塗装の剥がれの進行(図7)が確認できた。また樹脂系素材の作品には劣化.

(2) デザイン学研究特集号  Vol.28-2 No.104. 表1 調査結果 調査時期. 施設名称. 2002. ファーレ立川. 2003. 作品. 設置年. 伊藤誠《無題》. 作品仕様. 状態. 図番号. 1994. 立体作品(鋼板に塗装). 塗装の剥がれ、傷、着錆. 1. 新宿アイランド ロバート・インディアナ《LOVE》. 1995. 立体作品(アルミニウムに塗装). 塗装面への落書き(引っかき傷). 2. 2003. 新宿アイランド ジュゼッペ・ペノーネ《Unghia e marmo》. 1995. 立体作品(大理石、ガラス). ガラス部分の割れ. 2007. ゆめおおおか. 1997. PHスタジオ《ルーフトップ・パッセージ》. 立体作品(ステンレス、アルミニウムにアル マイト加工、鋼板に塗装、アクリル、タイ. ル、石). 人為的なパーツの損壊、タイルの剥がれ. 3. 2020. ファーレ立川. 宮島達男《LUNA》. 1994. 立体作品(LED、プラスティック). プラスティックの白化. 4. 2020. ファーレ立川. 柳健司《笠木(gate)》. 1994. 立体作品(ステンレスに塗装). 埃や水垢の固着. 5 6. 2020. ファーレ立川. 伊藤誠《無題》. 1994. 立体作品(鋼板に塗装). 塗装の剥がれ、傷、着錆、汚れ. 2020. ファーレ立川. 箕原真《人の球による空間ゲート》. 1994. 立体作品(アルミニウムに塗装). 接触による塗装面の汚れ. 2020. 新宿アイランド ロバート・インディアナ《LOVE》. 1995. 立体作品(アルミニウムに塗装). 2020. 新宿アイランド ロイ・リキテンシュタイン《Tokyo Brushstroke II》. 1995. 立体作品(アルミニウムに塗装). 塗膜の剥がれ、着錆、色褪せ. 2020. 新宿アイランド ジュリオ・パオリーニ《Caleidoscopio》. 1995. 立体作品(大理石、ステンレス). 大理石部分のクラック. 2020. 新宿アイランド ジュゼッペ・ペノーネ《Unghia e marmo》. 1995. 立体作品(大理石、ガラス). ガラス部分の割れ、大理石の粗鬆. 2020. 新宿アイランド 西川勝人《Yunus Ⅱ》. 1995. 立体作品(ブロンズに塗装). タバコのヤニと埃が作品に付着、作品全体の変色. 2020. ゆめおおおか. 高柳恵里《Traveler》. 1997. レリーフ(アルミニウムに塗装). アルミの腐食と思われる塗装の浮き. 2020. ゆめおおおか. PHスタジオ《ルーフトップ・パッセージ》. 1997. 接触による塗装面の磨耗や傷、タッチアップ痕、 黒ずみ. 立体作品(ステンレス、アルミニウムにアル マイト加工、鋼板に塗装、アクリル、タイ ル、石). 7 8 9 10. 塗装剥がれ、着錆、傷、汚れ、箱状アクリル作品 へのゴミの沈澱. 2020. ゆめおおおか. 吉水浩《GoodLuck》. 1997. 立体作品(ステンレスに塗装、アルミニウ ム). 2020. ゆめおおおか. 奈良美智《World is Yours》. 1997. 立体作品(FRPに塗装,ステンレス). 埃の堆積による塗装面の黒ずみ. 2020. ゆめおおおか. 村上隆《DOB君こんにちわ》. 1997. レリーフ(アルミニウムにスクリーン印刷、 壁・石膏ボードに塗装). パネルのクラック. 人の通過による塗装の摩耗、傷. 図1 塗装の剥離と鋼板の着錆. 図2 落書きによる掻疵. 図3 衝撃によるものと思われる破損. 図4 樹脂部分の白化. 図5 苔状の汚れの堆積. 図6 エッジ部分に再び着錆している. 図7 自然劣化によると思われる塗装剥離. 図8 大理石の粗しょう. 図9 喫煙によるヤニ等の付着、変色. 11. 23.

(3) 24. 特集:人口減少時代の環境デザインを考える. 表2 劣化の分類 自然劣化. 表面(処理) の劣化. 人為的(事故的)劣化. 柳《笠木(gate) 》 :汚れの固着. 伊藤《無題》 (2002,2020) :塗装の剥がれ、傷、着錆. リキテンシュタイン《Tokyo Brushstroke II》 :塗装剥がれ. 箕原《人の球による空間ゲート》:接触による汚れ. PH スタジオ《ルーフトップ・パッセージ》 : 塗装剥がれ、着錆、ゴミの堆積 奈良《World is Yours》 :埃の堆積による黒ずみ. 西川《Yunus Ⅱ》:ヤニ,埃の付着,変色 インディアナ《LOVE》 (2003、2020) :引っかき傷,塗装の摩耗,補修痕など. 吉水《GoodLuck》:引っかき傷、塗装の摩耗. 宮島《LUNA》 :プラスティックの白化. ペノーネ《Unghia e marmo》 (2003 ~) :ガラスの割れ. 内部(素材). ペノーネ《Unghia e marmo》 :大理石の粗鬆. パオリーニ《Caleidoscopio》:大理石のクラック. の劣化. 高柳《Traveler》 :支持体(アルミ)の腐食. PH スタジオ《ルーフトップ・パッセージ》 (2007) :パーツの破壊. 村上《DOB 君こんにちわ》 :パネルのクラック. (白化、図4)が見られ、大理石の作品には粗しょう(図8)が見られたほ か、アルミニウム素材の塗装作品には腐食らしき表面の凸凹(図10)が見ら れた。これらの劣化は過去の調査では確認できなかったものである。これら についてはより詳細な分析が必要だが、一般的に原因と考えられるのは酸性 雨や紫外線などの長期にわたる影響である。 次に人為的(事故的)な要因による劣化として、衝撃によるガラス部分の 破損、大理石のひびが確認できた(ペノーネ、パオリーニ、新宿) 。ガラス部 分の破損については以前から生じていることを確認しているが、未だ修復さ 図10 腐食様凹凸が確認できる. れていない。大理石のひびについては発生時期は不明である。歩道や広場に 設置された立体作品については長期にわたる人の通過や接触による塗装の摩 耗や傷(図11)が見られたものの、多くはステンレスを材質としており内部 への劣化は生じていない[注2] 。さらに想定外の問題として確認できたの は、作品設置場所が喫煙所に指定されたことにより、作品表面にヤニと埃が 付着し茶色く変色しているケースである(図9)。 表2は劣化が見られた作品について「自然発生的劣化/人為(事故)的劣 化」 「表面(処理)の劣化/内部(素材)の劣化」の2軸で分類したものであ る。経年的影響は通常、表面から内部への劣化の進行、また人為的破損から. 図11 擦過による塗装剥離、掻疵. 自然劣化への進行に作用すると考えられる。4つのグループのなかでは内部 劣化の進行が予想される「自然発生的−内部(素材)の劣化」グループの作. 2)一概にこうした劣化が作品への否定的反応とは判断で きないことに留意したい。例えば新宿アイランドのロ バート・インディアナ《LOVE》では、作品の V と E の. 間を触れることなくすり抜けることができれば、恋が成. 就するというジンクスがメディアなどで紹介されてい る。2003年の調査で作品に相合傘の落書きがあること から、当時すでになんらかのジンクスが存在していたと 思われる。またゆめおおおかの吉水浩《Goodluck》は 広報写真において子供が作品内を通り抜けている様子. が紹介されているなど、これらの作品については直接 的な作品受容のあり方を肯定しているとも考えられる。 3)特にアルミニウムに形成される酸化アルミニウム皮膜 は酸性ないしアルカリ性の環境下に弱い。今回の腐食 様凹凸は作品下部に見られたものであるため、これが 腐食によるものとするならば、何らかの理由で塗膜内 に浸潤した雨水が徐々に皮膜を破壊して腐食を進行さ せた可能性がある。作品裏面の未塗装部分には腐食様 瘢痕が確認できる。. 品群が深刻である。一方「表面(処理)の劣化」の作品群については、ほと んどが塗装作品であり、かつアルミニウムやステンレスを素材とするため軽 視されがちである。しかし今回アルミニウムを素材とする作品に見られた腐 食の兆候は、長期にわたる環境暴露の影響によって、耐食性素材であっても 表面から内部へと劣化が進行する可能性を示唆している[注3] 。また鋼板に 塗装した作品はおそらく耐食性鋼板を使用しているものと思われるが、過去 に補修された箇所に再度錆が生じている(図1、図6)ことから、作品形状 と着錆の関係ならびに耐食性鋼板の長期的特性について検証する必要がある。 パブリックアートの維持管理は、材質、構造、塗装(仕上げ)、設置方法 などの項目を記録した作品ごとの管理台帳に基づいて、現状確認・清掃と いった短期スパンでのメンテナンスと長期スパンでの修復作業の組み合わせ により行い、その履歴を蓄積してゆくのが理想である。とりわけ日常的な清.

(4) デザイン学研究特集号  Vol.28-2 No.104. 掃と状態確認を継続することが経年劣化を最小限にとどめる基本であること はいうまでもない。その上で、大型作品の補修や破損した箇所の再制作もふ くめ、保守作業実施の時期ないし方法の検討について専門的知見による判断 を行なってゆく必要がある。しかし今回の調査からも明らかなように、パブ リックアートの経年劣化は多岐にわたり、全ての作品に外見上の急変がみら れるわけではない。そのため明確な損壊などではない限りどの時点で補修な いし修復を行うべきかの判断に迷い様子見を続ける中で、緊急性の高い事項 として認識しづらくなり、劣化を進行させてしまうという事態が懸念される。. 3.維持管理の問題から考えるパブリックアートの将来的課題 パブリックアートに対して様々な問題提起がなされた90年代の論点は、総 じて「誰のためのパブリックアートなのか」、つまり「パブリック」の本質 をめぐる問いであった。多くの場合、それは都市計画がもたらす均質化への 批判と同調している。再開発によって地縁の記憶や風景が失われるなかで、 パブリックアートがどのようにそれらを代替できるのか、そしてそこに地域 住民がどう関わってゆくのかが問われたのである。その応答として地域性の 反映や住民との協働が模索されてきたものの、住民との持続的な関係構築に ついては具体策に乏しく、希望的観測に委ねられていたと言わざるをえな い。本調査で見た作品の経年劣化および維持管理の問題は、その将来的あり 方をあらためて問いかけているといえよう。 経年によって薄れてゆく作品の意義や価値は、ハード/ソフトの両面にわ たる努力によって支えられねばならない[注4]。しかし社会動態の変化と ともに刷新されゆく都市環境の性格を考え合わせれば、全てのパブリック アートを維持管理してゆくことには限界があり、将来的には作品の移設と いった再整備についても考えて行かざるをえない。とはいえ再整備にかかる 4)上述の対策を考える上でモデルケースとなるのがファー レ立川である。同施設では、2005年度∼06年度ならび に2014年∼2015年度にかけて、立川市と施設所有者な らびに協賛金などをもとに作品の修復事業を行い、作 品ごとの維持管理を行うための調査・カルテ作成を業 者に委託している。また2016年からは「ファーレ倶楽 部」を立ち上げ、市民ボランティアによる清掃活動、 ギャラリーツアーなどの啓発活動などを行なっている。 (出典:長井美暁:再開発エリアの公共アート群を官. 経済的な負担は大きく、その全てにおいて望ましい対処がなされることは期 待しにくい現状もある[注5]。それだけに作品の処遇をめぐっては丁寧な 合意形成プロセスが期待される。そのためには作品の継承すべき価値とは何 か、つまり作品がパブリック(公衆)とともに生き続けてゆくための価値に ついて、関係者のみならず施設利用者である市民とともに議論する仕組みの 構築が求められよう。. 民折半で修復,https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/15/ 434167/020300016/?ST,参照日:2020年1月20日). 5)老朽化による施設建て替えにともなうパブリックアー ト 作品の処遇をめぐる最近の事例を2例挙げておく。 ・2017年 京都市美術館前庭に設置されていた富樫実 《空(くう)にかける階段 ’88 -Ⅱ》(1990)の移設方. 法を巡って作者ならびに作家団体による抗議がなさ れた。一時撤去の際、作家の了解を得ぬまま京都市 による判断で作品下部が切断された。. (出典:美術手帖編集部:了解なく切断・撤去された 京都市美術館の野外彫刻《空にかける階段 ’88 -Ⅱ》 、. 再展示で合意,https://bijutsutecho.com/magazine/news/. 【参考文献】 田中遵,工藤敦子:パブリックアートのデータベース化と維持管理に関する国際比較研究,日本 大学生産工学部研究報告 A,39(2),41-49,2006. 八木健太郎,竹田直樹:日本におけるパブリックアートの変化に関する考察,環境芸術,9,. 65-70,2010. 工藤安代,パブリックアート政策 芸術の公共性とアメリカ文化政策の変遷 ,頸草書房,2008 木村光宏,北川フラム監修: 〈都市・パブリックアートの新世紀〉ファーレ立川アートプロジェ. クト, 現代企画室,1995 進化する複合再開発 新宿アイランドの全記録 ,建築文化別冊,彰国社,1995. headline/19298,参照日:2020年1月14日). 横浜のパブリックアート ,SD 別冊,30,鹿島出版会,1997. 造形Q《白鳥の泉》(1985)の撤去がなされた。伊. ファーレ立川アート,https://www.faretart.jp/art/,参照日:2020年1月14日. ・2019年 伊丹市の市庁舎建て替えにともない、環境 丹市によると、移設には多大な費用がかかり、移設 場所の確保も困難なため、廃棄せざるをえないとい う判断がなされた。 (出典:竜門和諒:撤去始まった伊丹市役所前の巨大 彫刻 制作者と市が対立,https://www.kobe-np.co.jp/. news/hanshin/201904/0012209115.shtml,参照日:2020 年1月14日). 新宿アイランド It’ s アート案内,https://www.shinjuku-i-land.jp/art/,参照日:2020年1月14日. @ art Portal Site of Public Art, http://at-art.jp/,参照日:2020年1月14日. 25.

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