21cm
線を用いた宇宙論的パラメータの制限
理学系研究科物理学専攻 修士
2
年 荒柴壮一
概要
近年, 観測手法や観測精度の進歩により, 宇宙に対する理解は深まってきていると言える. 例え
ば, Cosmic Background Explorer(COBE)によって, 宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background=CMB)に非等方性があることが確認された. さらに, Wilkinson Microwave Anisotropy Probe(WMAP)では,より高精度なCMB観測が行われ,さまざまな宇宙論的パラメータに強い制限 を与えることができるようになってきている. このCMB観測で分かるのは,基本的には, photonの 最終散乱の時期(赤方偏位∼1000程度)の情報である. 一方, このphotonの最終散乱の時期から最初の星が形成される時期(赤方偏位∼20-30程度と言 われる) までの期間は“dark age”と呼ばれ, その名の通り, 星がない暗黒の時代である. 近年, この 時代の唯一の放射線である21 cm線(水素原子の1s状態の超微細遷移に伴った放射線)について, 研究がなされるようになってきており, この21 cm線を観測するための実験(Murchison Widefiled
Array=MWA, Square Kilometer Array=SKAなど)も計画されている. 21 cm線について調べる事 により, CMBとは異なる宇宙の時期についての情報が得られるであろうと期待されている.
この修士論文では, この21 cm線(とCMB)を利用して, 宇宙論的パラメータがどれくらいの精
度で決められるかについて, Fisher Information Analysisという手法を用いて調べた. このFisher
Information Analysisは, 将来的な観測の設計(どの程度の誤差で観測できるかなど)が与えられた
ときに,「その観測で理論のパラメータがどの程度の精度で決められるか」ということを見積もるた
めによく用いられる統計的な手法である. 今回の計算では宇宙論的パラメータとして, 「Ωbh2(バリ
オン密度パラメータ)」,「Ωdmh2(dark matter密度パラメータ)」,「h(ハッブルパラメータ, H0 ≡
100h km sec−1 Mpc−1)」,「τ (optical depth)」,「Nν(ニュートリノ世代数)」,「fν(dark matterに
占めるwarm dark matter(ニュートリノ)の割合, fν ≡ ΩΩν
dm)」, 「Yp(ヘリウムのmass fraction)」,
「ns(spectra index)」,「As(初期密度power spectrumの振幅の大きさ,計算では1010倍した1010As
を用いた)」の9個を考えた. その結果, 特にニュートリノが関係するパラメータであるNν とfνの
場合には, CMBと21 cm線で縮退の向きが異なっていることが分かった. その結果, 両者を組み合
わせることで,片方だけの場合より, fν については, 1桁程度精度よくパラメータが決まることが分
目 次
概要 1 第 I 部 水素原子の超微細構造と 21cm 輝度温度 5 1 導入 6 1.1 21 cm線とは? . . . . 6 1.2 論文の構成 . . . . 7 2 21 cm輝度温度 9 2.1 2準位系 . . . . 9 2.1.1 スピン温度の定義. . . . 10 2.1.2 輻射輸送方程式のSource Term . . . . 10 2.1.3 輝度温度の定義 . . . . 11 2.1.4 輝度温度で表した2準位系の輻射輸送方程式とその解 . . . . 11 2.1.5 2準位系の場合のOptical Depth(光学的厚み) . . . . 13 2.1.6 21cm輝度温度 . . . . 14 第 II 部 各物理量とその揺らぎの従う方程式 17 3 Matterに関する物理量 18 3.1 密度揺らぎδ [3], [4] . . . . 18 3.2 ニュートリノのFree Streamingの効果を考えなくてよいとき . . . . 21 3.3 ニュートリノのFree Streamingの効果を考えるとき[6] . . . . 23 3.4 特異速度v [18] . . . . 25 3.5 ガスの温度Tg [1], [3], [11] . . . . 27 3.5.1 断熱的に変化するとき(相互作用がないとき) . . . . 30 3.5.2 photonとのコンプトン散乱を考えるとき[3] [5] [11] . . . . 31 4 スピン温度Ts [1] 34 4.1 衝突による遷移[7], [9], [10] . . . . 34 4.1.1 H-H Collision . . . . 35 4.1.2 e-H Collision . . . . 43 4.1.3 p-H Collision . . . . 43 4.1.4 H-H, e-H, p-H Collsionの反応率κの温度依存性 . . . . 444.1.5 Collisionによるn0, n1の時間発展とCollision Rateの揺らぎ . . . . 44
4.2 Backgroundのphotonの吸収·放射による遷移[11] . . . . 47
4.3 Lymanαによる遷移[1], [12], [13] . . . . 48
4.4 Neutral Fraction xHI(or Ionization Fraction xi)が時間変化する効果[11] . . . . 53
4.5 スピン温度Tsの従う方程式 . . . . 54
4.6 平衡状態のときのスピン温度Ts . . . . 55
5 その他の物理量について 60 5.1 photonの温度Tγ . . . . 60 5.2 Ionization Fraction xi . . . . 60 6 21cm輝度温度の揺らぎとPower Spectrum[1] 61 6.1 21cm輝度温度の揺らぎ[16], [17], [18] . . . . 61 6.1.1 (δxHI ≪ 1)の場合の21 cm輝度温度の揺らぎ . . . . 62 6.1.2 (Ts≫ Tγ)の場合の21 cm輝度温度の揺らぎ . . . . 64 6.2 21cm 3D Power Spectrum [16] . . . . 65 6.2.1 (δxHI ≪ 1)の場合の, 21 cm輝度温度の3D Power Spectrum . . . . 66 6.2.2 (Ts≫ Tγ)の場合の, 21cm輝度温度の3D Power Spectrum . . . . 69 6.3 21 cm 3D Power Spectrumの特徴. . . . 70
6.4 AP(Alcock-Paczy´nski) Effectが21 cm Power Spectrumに与える影響[21] . . . . . 71
第 III 部 Fisher Information Analysis と 21 cm 線を用いた宇宙論的パラメータの 推定 77 7 Fisher Information Analysis[22], [23] 78 7.1 統計的な量の定義 . . . . 78
7.1.1 相互共分散行列と分散共分散行列 . . . . 78
7.1.2 一致推定量と不偏推定量 . . . . 79
7.2 Fisher Information Matrixとクラメール-ラオの不等式 . . . . 79
7.3 尤度関数が多変数ガウス分布のときのFisher Information Matrix . . . . 82
8 21 cm線を用いた宇宙論的パラメータの制限 85 8.1 21 cm線の観測と電波干渉計 . . . . 85
8.1.1 Visibility . . . . 85
8.1.2 21 cm観測で直接分かる量と共動座標の関係 . . . . 88
8.2 21 cm線のFisher Information Matrix [20], [25] . . . . 89
8.2.1 Detector Noise . . . . 89 8.2.2 Sample Variance . . . . 90 8.3 結果 . . . . 94 9 まとめ 99 謝辞 100 Appendix(付録) 101 A 輻射輸送方程式(2.13)の解の導出 102 B Conformal Newtonian Guageでの種々の量[3] 102 B.1 クリストッフェル記号 . . . . 103
B.2 Ricci Tensorリッチテンソル, Ricci Scalar リッチスカラー . . . . 103
B.4 エネルギー運動量テンソル . . . . 104 B.5 Einstein equationアインシュタイン方程式 . . . . 106 C エネルギー運動量保存則 107 D EinsteinのA係数, B係数の関係 108 E スピン温度Tsの従う式(4.117)の導出 109 F δxHI ≪ 1のときの21 cm輝度温度の揺らぎ 111 F.1 Tα = Tgのとき . . . . 113 G (6.44)に現れる高次の項について 113 H 共動距離χ (z), 角径距離dA(z)の定義 116
I Alcock-Paczy´nski Effectによる影響[(6.76) , (6.77) , (6.78) , (6.79)の導出] 117
J 文字の定義 118
J.1 ローマ文字の定義 . . . . 118 J.2 ギリシャ文字の定義 . . . . 121
1
導入
自然科学の対象として,宇宙というものは古来より人々の関心を集め,多くの研究がなされてきた. 宇宙がどのようにして誕生し,そして星などが形成(構造形成)されて進化し,最終的にどうなってい くのかということを科学的な手法を用いて,研究する分野が「宇宙論」と呼ばれる分野である. 宇宙 を探るアプローチ(方法)としては,一般相対性理論や素粒子論,流体力学,電磁気学,化学などさまざ まなものがあり,宇宙はまさに,これまで理解されてきた自然科学の応用の場であるとも言える. 観測機器や観測手法が発達してきた現在にあっても,宇宙にはまだまだよく分かっていないことが 多くある. 例えば, 宇宙のエネルギーの構成は, 我々がよく知っているバリオン(4%)の他に, darkmatterという物質的な振る舞いはするものの正体が分からないもの(22%)や, dark energyという
まったくもって正体不明のもの(74%)があり, 現在多くの研究者が興味を持って研究を進めている.
近年, もう一つの「dark」であるdark ageについても研究がなされはじめて来ている. dark ageと
いうのは,宇宙の晴れ上がりによってCMB photonが直進できるようになってから,最初の星が形成
されるまでの時期のことを指す. どうしてdarkなのかというと,文字通り,最初の星が形成されるま
では, 光が無く暗黒の世界だからである. 従って, dark ageを調べるには, 星や銀河からの光(電波)
を観測するということはできない. そのため,これまでdark ageについて調べるのは困難であった.
しかし, 近年21 cm線という水素原子の超微細遷移により吸収/放射される光(図1参照)を用いて, dark ageを探るという動きがある. dark ageという時期は, photonの最終散乱後の時代であり, 宇
宙は中性化していると考えられるため,中性水素原子が多く存在する. この中性水素原子が放射する
(or吸収する)21 cm線について調べることにより, dark ageについての情報が得られるであろうとい
うわけである. また,宇宙の歴史においてReionization(再イオン化)がいつ起きたのかということを
調べるのにも, 21 cm線は役立つかも知れないと考えられている. これは, 宇宙が再イオン化すると
21 cm線のsourceである中性水素原子が電離されて,減っていくためである. 実際に21 cm線を観測 するprojectも進められており, LOw Freaquency ARray(LOFAR)(オランダ), Murchison Widefiled Array(MWA)(オーストラリア), Square Kilometer Array(SKA)がある.
1.1 21 cm線とは? 21 cm線とはさきほど述べたように, 水素原子の超微細遷移にともなって吸収/放射される光のこ とである. 水素原子の状態は, スピン相互作用を考えなければ(すなわち, 非相対論的に考えるなら ば), 1s状態, 2s状態, 2p状態,· · · という構造になっている. ここに,電子の軌道角運動量Lと電子の スピン角運動量Sの相互作用(スピン-軌道角運動量相互作用)も考慮すると,微細分裂が起こる. 微 細分裂が現れる最低エネルギーの状態は, 2p状態である. これは1s状態(及び2s状態)では,電子の 軌道角運動量が0であり,スピン-軌道角運動量相互作用がないからである. 水素原子の基底状態(1s 状態)は,電子の全角運動量F = L + S(1s状態の場合は軌道角運動量が0なので,実質的に電子のス ピン角運動量)と核子(陽子)のスピンI の相互作用まで考慮すると, F とIが平行な状態(スピント リプレット)11S1 2 と反平行な状態(スピンシングレット)10S 1 2 に分裂している. [2] この分裂のエネルギーが図1のように∆E = 5.8 µeVであり,対応する波長に直すと21 cmとな る. この波長から名前をとって,超微細分裂で吸収/放射される光を21 cm線と呼ぶ.
図1: 水素原子の超微細構造 1.2 論文の構成 第I部では,近年dark ageを探る方法として注目されている21 cm線がどのようなものであるか について述べ,その強度(↔輝度温度)の表式を導出する. 具体的には, 1章でまず,水素原子の超微細分裂について簡単に述べ,超微細遷移で吸収/放出され る光が21 cm線(21 cmの波長の光)であることを見る. 次に2章では,実際に, 21cm線の強度を輻射輸送方程式を解くことにより求める. 水素原子の超微 細遷移により, 21 cm線が吸収/放射されるので, 2準位系の場合の輻射輸送方程式を考えればよい. このとき, 21 cm線のsourceである中性水素原子を特徴づける物理量としてスピン温度が登場する.
このスピン温度とBackgroundのphoton(=CMB photon)の温度を比べて, どちらが高いか低いか
で, 21 cm放射線になるか21 cm吸収線になるかが分かる. 第II部では, 第I部の21 cm輝度温度の表式(2.30)に登場したさまざまな物理量(とその揺らぎ) にそれぞれ着目していく. 物理量X (x, t)の揺らぎδX(x, t)は, δX(x, t)≡ X (x, t)− ¯X (t) ¯ X (t) ↔ X (x, t) = ¯X (t) (1 + δX(x, t)) (1.1) のように定義される量である. ここで, ¯X (t)はX (x, t)の全空間にわたる平均値を表す. まず3章では, 21 cm線の源である水素原子(baryon)の密度揺らぎδH(∼δb∼δm), 特異速度vに ついて考える. これらは,基本的にはBoltzmann方程式(流体の方程式)と, Einstein方程式(重力に 関するポアッソン方程式)によって決まる. 後で詳しく見るように,基本的にMatterの密度揺らぎは, 物質支配期にはscale factor aに比例して成長していく. ニュートリノが構造形成に効かないとする と,揺らぎの成長が少し遅くなることについても述べる. またこの章では,ガス(baryon)の温度Tgに ついても記す. ガスの温度は,スピン温度の章で分かるように,スピン温度と関連している. ガスの温 度はphotonとの相互作用(コンプトン散乱)が活発なうちは, photonの温度Tγと等しいが, この相 互作用が 効かなくなると, Tg ∝ a−2のようにscale factorの2乗に反比例して,断熱的に冷えていく.
次に4章では,スピン温度について考える. スピン温度を決めるプロセスは主に3つあり, Collision
によるもの, Backgroundのphoton(CMB photon)との相互作用によるもの, Lymanαによるものが
ある. 各節では,これらのプロセスの仕組みについて記す. さらに,これらのプロセスが平衡状態にあ
るときのスピン温度の表式を求め,その式をもとにスピン温度の揺らぎδTs が, 他の物理量の揺らぎ
(δH, δTg etc...)で表されることを見る.
5章では, Ionization Fraction xiについてコメントする. xiは, RecombinationやReionizationの
時期以外では基本的に(ほぼ)1で揺らぎはないと考えられる. しかしながら, Reionization付近の時 期(z∼10− 20?)では, 1から0に大きく変化するはずである. 現時点では, Reionizationの仕組みが まだよく分かっていないため,実際にどのように変化していくのかを見積もるのは困難である. 6章では, 21 cm輝度温度の揺らぎδ21が, δHやδ∂vなどの揺らぎを用いてどのように表されるか を見る. このときに, 21 cm線の揺らぎには等方的な揺らぎ(δH etc...)の寄与と,非等方的な揺らぎ (δ∂v)の寄与があることが分かる. そのため, 21 cm輝度温度揺らぎのPower Spectrumは,視線方向 と波数ベクトルのなす角の余弦µのべきごとに書き表すことができる. 基本的にはµの4乗のべきま
でが登場し, µの4乗の項はMatterのPower Spectrumになることが後で分かる. Alcock-Paczy´nski
効果を考えると,さらにµの6乗のべきの項が登場することについても述べる.
第III部では, Fisher Information Analysisという統計解析の手法を用いて, 21 cm線(+CMB)の
観測から,宇宙論的なパラメータがどの程度精度良く決められるのかについて述べる.
まず7章では, Fisher Information Analysisについて簡単に述べ,クラメール-ラオの不等式(後述)
から,不偏推定量(後述)の最小分散限界(すなわち最小の誤差に相当するもの)が求められることを見
る. この最小分散限界は, Fisher Information Matrix Fijと呼ばれる行列の,逆行列の対角成分(Fii−1)
で表される.
次に8章では, このFisher Information Analysisを実際の観測に具体的に当てはめて, 最小分散
限界を求める. 21 cm線の観測としては, Low Frequency Array(以下, LOFAR), MURCHISON
WIDEFIELD ARRAY(以下, MWA), Square Kilometer Array(以下, SKA)を考える. これらの観測
は, 基本的に電波干渉計を用いたものである. まず最初に,電波干渉計で電波が観測される仕組みに
ついて簡単に説明し,実際に観測される物理量(Visibility)について記す. その後, 21 cm線観測の場
合のFisher Information Matrixがどのようなものになるかについて述べる. この際, 分散共分散行
列を計算することになるが,そこでは, 21 cm signalの他にDetector Noiseも考慮する.
8.3章では, 実際に21 cm線(+CMB)のFisher Information Matrixを用いて,宇宙論的パラメー
タがどの程度良く決められるかについて述べる(結果).
2
21 cm
輝度温度
21cm輝度温度(↔21cm線の強度)は,輻射輸送方程式を解くことにより求めることができる. 以 下では, 21 cm輝度温度の表式を導出することを目標とする. 一般に輻射輸送方程式は, ¶ ³ 1 c d dtIν(r, t, n) = ην(r, t, n)− αν(r, t, n) Iν(r, t, n) (2.1) µ ´ のように書かれる. Iνが注目している輻射場の強度=specific intensity(単位面積を単位時間あたりに通 過する単位周波数幅あたり,単位立体角あたりの輻射のエネルギー)である. ανは, specific extinction であり,物質などに輻射が吸収される効果を表している. また, ηνは, specific emissivityとよばれ,物 質などから光(輻射)が放射される効果を表している. 変数を dτν ≡ ανcdt = ανds↔ τν(s)≡ Z s 0 αν ¡ r¡s′¢, s′, n¡s′¢¢ds′ (2.2) のようにt→τν 変換した dIν(r, τν, n) dτν =−Iν(r, τν, n) + ην(r, τν, n) αν(r, τν, n) (2.3) という形でもよく用いられる. τνはOptical Depth(光学的厚み)であり,輻射(光)がどれくらい散乱 されやすいか,されにくいかを判断する目安となる. 1 2.1 2準位系2準位系を考える. lower stateにいる原子の個数密度をnl(r, t)とし, upper stateにいる原子の個
数密度をnu(r, t)とする. 2準位系を考える場合の輻射輸送方程式(2.1)は,以下のEinsteinのA係 数, B係数の定義式 dIν|自然放射 = hνul 4π nuφe(ν) Aulcdt (2.4a) dIν|吸収 = hνul 4π nlφa(ν) BluIνcdt (2.4b) dIν|誘導放射 = hνul 4π nuφe(ν) BulIνcdt (2.4c) を考慮すると, dIν = dIν|自然放射− dIν|吸収+ dIν|誘導放射 = hνul 4π nuφe(ν) Aulcdt− hνul 4π nlφa(ν) BluIνcdt + hνul 4π nuφe(ν) BulIνcdt = · hνulnuφe(ν) Aul 4π − hνul ½ nl Blu 4πφa(ν)− nuφe(ν) Bul 4π ¾ Iν ¸ cdt → 1 c dIν(r, t, n) dt = hνulnu(r, t) φe(ν) Aul 4π−hνul ½ nl(r, t) Blu 4πφa(ν)− nu(r, t) φe(ν) Bul 4π ¾ Iν(r, t, n) (2.5) 1 文字の定義の章も参照
のようになる. ここで, νulはupper stateとlower stateの遷移周波数であり, φe(ν), φa(ν)はそれぞ れ吸収,放射のline profileを表している. (2.1)と比較して, ηνul(r, t, n) = ηνul(r, t) = hνulnu(r, t) φe(ν) Aul 4π (2.6a) αulν (r, t, n) = αulν (r, t) = hνul ½ nl(r, t) Blu 4πφa(ν)− nu(r, t) φe(ν) Bul 4π ¾ (2.6b)
となることが分かる. この場合は, specific emissivity, specific extinctionともに,向きnに依らない
形になっている. また,この場合のOptical Depthは, (2.2)に従って,
τνul(s) = Z s
0
αulν ¡r¡s′¢, s′¢ds′ (2.7)
で与えられる. 以下では簡単のため吸収のline profileと放射のline profileは同じ(→φ (ν) = φa(ν) =
φe(ν))であるとして,話を進める. 2.1.1 スピン温度の定義 スピン温度Tsは, nu(r, t) nl(r, t) ≡ gu gl exp µ − hνul kBTs(r, t) ¶ (2.8) で定義される. 2.1.2 輻射輸送方程式のSource Term
アインシュタインのA係数とB係数の関係は,遷移周波数をνul, upper state , lower stateの統計
的自由度をそれぞれgu, glとすると, Aul = 2hνul3 c2 Bul (2.9a) guBul = glBlu (2.9b) のようになることに注意すると, specific extintion(2.6b)は, ανul(r, t) = hνul 4π φ (ν) nl(r, t) Blu · 1−nu(r, t) nl(r, t) Bul Blu ¸ = hνul 4π φ (ν) nl(r, t) gu gl c2 2hνul3 Aul · 1−gu gl exp µ − hνul kBTs(r, t) ¶ gl gu ¸ = c 2g u 8πνul2gl Aulnl(r, t) φ (ν) · 1− exp µ − hνul kBTs(r, t) ¶¸ (2.10a) ≈ c2gu 8πνul2gl Aulnl(r, t) φ (ν) hνul kBTs(r, t) (2.10b)
のように表される. これより,輻射輸送方程式(2.3)の右辺の第二項(Source Term)は ηulν (r, t) αul ν (r, t) = hνul 4π Aulnu(r, t) φ (ν) · c2gu 8πν2 ulgl Aulnl(r, t) φ (ν) · 1− exp µ − hνul kBTs(r, t) ¶¸¸−1 = gl gu 2hνul3 c2 nu(r, t) nl(r, t) · 1− exp µ − hνul kBTs(r, t) ¶¸−1 = 2hν 3 ul c2 1 exp ³ hνul kBTs(r,t) ´ − 1 (2.11a) ≈ 2νul2 c2 kBTs(r, t) (2.11b) となることが分かる. 最終行の近似は, kBTs≫ hνulのときに成り立つ. 2 2.1.3 輝度温度の定義 次に,輻射輸送方程式(2.3)を輝度温度で書き直すことを考える. 輝度温度Tb(ν)は,黒体
(Black-Body)輻射の場合のSpecific Intensity
IνBB(T ) = 2hν 3 c2 1 exp ³ hν kBT ´ − 1 (2.12a) を用いて, Iν(r, t, n)≡ IνBB(Tb(ν; r, t, n)) (2.12b) で定義される. 特に, Rayleigh-Jeans近似(kBT ≫ hν)ができるとき3には,輝度温度は Iν(r, t, n)≈ 2ν2 c2 kBTb(ν; r, t, n)→ Tb(ν; r, t, n)≈ c2 2ν2k B Iν(r, t, n) (2.12c) のように表される. 2.1.4 輝度温度で表した2準位系の輻射輸送方程式とその解 (2.3)は, (2.11b)や輝度温度の定義(2.12c)を用いると, d dτν · 2ν2 c2 kBTb ¡ ν, r (τν) , τν ¢¸ = −2ν 2 c2 kBTb ¡ ν, r (τν) , τν ¢ +2ν 2 ul c2 kBTs ¡ r (τν) , τν ¢ → dTb ¡ ν, r (τν) , τν ¢ dτν = −Tb ¡ ν, r (τν) , τν ¢ + ³ν ul ν ´2 Ts ¡ r (τν) , τν ¢ (2.13) のように,温度の式に書き直すことができる. (2.13)の解は,次のように求まる.4 Tb ¡ ν, r (τν) , τν ¢ ≈ e−τνT b ¡ ν, r (0) , 0¢+ ³ν ul ν ´2 Ts ¡ r (0) , 0¢ £1− e−τν¤ (2.14) 2水素原子の超微細構造の場合には, T ⋆= hνkul B = 0.068 K≪ Tsとできる. 3水素原子の超微細構造を考えるときには,遷移周波数は, ν ul= 1.4GHzなので,この近似が十分成り立つ. 4 Appendix 1参照
これより,中性水素原子による輝度温度の変化分δTbは, δTb ¡ ν, r (0) , 0¢ ≡ Tb ¡ ν, r (τν) , τν ¢ − Tb ¡ ν, r (0) , 0¢ ≈ ¡1− e−τν¢ ·³νul ν ´2 Ts ¡ r (0) , 0¢− Tb ¡ ν, r (0) , 0¢¸ (2.15) のように表せることが分かる. ここで, 中性水素原子が存在する領域に入射したphotonの輝度温度 Tb ¡ ν, r (0) , 0¢は, Tb ¡ ν, r (0) , 0¢= Tγ ¡ r (0) , η (z)¢ (2.16) のように共動位置r (0), 共形時刻η (z)のCMB photonの温度であることに注意する. また,スピン 温度についても以下では,共動位置r (0)と共形時刻η (z)で表すことにする. Ts ¡ ν, r (0) , τν = 0 ¢ → Ts ¡ ν, r (0) , η (z)¢ (2.17) ただしzは光が通過した中性水素原子領域の赤方偏移である. 観測される輝度温度及び,吸収/放射周 波数は,それぞれ1/(1 + z)倍にredshiftされるので δTbobs µ ν 1 + z, r (0) , η (z) ¶ = δTb(ν, r (0) , η (z)) 1 + z ≈ ¡ν ul ν ¢2 Ts ¡ r (0) , η (z)¢− Tγ ¡ r (0) , η (z)¢ 1 + z ¡ 1− e−τν¢ (2.18) のようになる. 特に, ν = νulのときには, δTbobs µ νul 1 + z, r (0) , η (z) ¶ = δTb(νul, r (0) , η (z)) 1 + z ≈ Ts ¡ r (0) , η (z)¢− Tγ ¡ r (0) , η (z)¢ 1 + z ¡ 1− e−τνul¢ (2.19) となる. ここまでやってきたことを端的に表したものが下の図2である. 図 2: 21 cm輝度温度の模式図 中性水素原子の温度Ts ¡ r (0) , η (z)¢の方が,入射してきたphotonの温度Tγ ¡ r (0) , η (z)¢より高い ときには, δTb ≥ 0となって放射線になり,中性水素原子の温度Ts ¡ r (0) , η (z)¢の方が, 入射してき たphotonの温度Tγ ¡ r (0) , η (z)¢より低いときには, δTb ≤ 0となって吸収線になることに注意して おく.
2.1.5 2準位系の場合のOptical Depth(光学的厚み)
(2.19)のように,観測される輝度温度が表されることが分かった. ここでは, (2.19)に現れるOptical Depth τνulを求める. Optical Depthは(2.7)で(ν = νulとしたもの)表される. ここで,中性水素原子
の広がっている領域のサイズ(∼s)が,あまり広くない5として,積分に現れるSpecific Extinctionが 一定だと近似する(中性水素原子が存在する座標を代表してrとし,光がその場所を通過したcosmic timeをtとする.)と, τνul ul(r, t) = Z s 0 αulν ul ¡ r¡s′¢, s′¢ds′≈ sαulν (r, t) ≈ s c2gu 8πν2 ulgl Aulnl(r, t) φ (νul) hνul kBTs(r, t) (2.20) のように近似できることが分かる. この表式に登場するline profile関数φ (νul)は次のように見積も ることができる. まず, line profile関数の幅は, 光のドップラー効果を見積もることで大ざっぱに決 められる. 共動座標rにいる観測者から見た,中性水素原子の速度の広がり∆v (r, η)は,宇宙論的な 膨張による効果と特異速度による効果の和で表すことができる. (図3参照) 図3: LineProfileの見積もり そのことを式で表すと, ∆v (r, η) = H (z) s + vp∥(r + ˜s, η)− vp∥(r, η) ≈ H (z) a (z) ˜s + dvp∥ dr (r, η) ˜s = sH (z) · 1 + 1 + z H (z) dvp∥ dr (r, η) ¸ (2.21)
となる. ここでηは光が中性水素原子領域を通過したcosmic conformal timeであり,対応するredshift
をzとしている. またs, ˜s = a(η)s はそれぞれ中性水素原子が広がっている物理的なサイズ,共動座標 でのサイズを表している. これより,吸収される光の周波数の広がり∆νulは, ∆νul = ∆v (r, η) c νul ≈ sH (z) νul c · 1 + 1 + z H (z) dvp∥ dr (r, η) ¸ (2.22) 5 宇宙論的な揺らぎ(密度揺らぎなど)のサイズよりも十分小さいということ
のように見積もることができる. line profile関数は, Z ∞ 0 φ (ν) dν = 1 (2.23) のように規格化されているから, φ (νul) ∆νul ≈ 1 → φ (νul)≈ 1 ∆νul = c sH (z) νul 1 h 1 +H(z)1+z dvdrp∥(r, η) i ≈ c sH (z) νul · 1− 1 + z H (z) dvp∥ dr (r, η) ¸ (2.24)
のようにしてline profile関数を見積もることができる. ただし,最後の変形には「Hubble速度に対
して特異速度が十分小さい」という近似を用いた.
この見積もりを(2.20)に代入して(ただしcosmic time tの代わりに,対応するcosmic conformal time
ηを用いる), τνulul(r, η) ≈ s c 2g u 8πνul2gl Aulnl(r, η) c sH (z) νul · 1− 1 + z H (z) dvp∥ dr (r, η) ¸ hνul kBTs(r, η) ≈ 3c3hAulnl(r, η) 8πνul2kBTs(r, η) H (z) · 1− 1 + z H (z) dvp∥ dr (r, η) ¸ (2.25) のように2準位系の場合のOptical Depthが求められる. 6 2.1.6 21cm輝度温度 (2.19)で, r (0)を以下では,中性水素原子の位置を表すものとして単にrと書くことにする. また, Optical Depthは十分小さいとして, 1− exp (−τνul)≈ τνulと近似する. このとき(2.19), (2.25)より,
観測される輝度温度は δTbobs µ νul 1 + z, r, η (z) ¶ ≈ Ts ¡ r, η (z)¢− Tγ ¡ r, η (z)¢ 1 + z τνul ¡ r, η (z)¢ ≈ 3c3hAulnl(r, η) 8πν2 ulkB(1 + z) H (z) " 1−Tγ ¡ r, η¢ Ts ¡ r, η¢ # · 1− 1 + z H (z) dvp∥ dr (r, η) ¸ (2.26) のように近似的に表される. これまでの結果を21cm線の場合に当てはめる. 中性水素原子の基底状態は,電子の全角運動量と
核子(陽子)のスピンが平行な状態(spin triplet→gu= 3)と反平行な状態(spin singlet→gl= 1)に
分裂していることに注意しておく. 以下では21cm線であることを強調する場合にはulという添字 の代わりに, 21という添字を用いる. 遷移周波数の大きさは νul = ν21= 1.42 GHz (2.27) である. 一方,アインシュタインのA係数は Aul = A21= 2παEMν213 h2 3c4m2 e = 2.869× 10−15s−1 (2.28) である. 6
lower state(反平行の状態)の個数密度が,中性水素原子密度nHI(r, η) = xHI(r, η) nH(r, η)7 を 用いて, nl(r, η)≈ gl gu+ gl nHI(r, η)≈ 1 4xHI(r, η) nH(r, η) (2.29) のように近似できる8とすると, 21cm輝度温度は ¶ ³ δTbobs µ ν21 1 + z, r, η ¶ ≈ 3c3hA21xHI(r, η) nH(r, η) 32πν212 kB(1 + z) H (z) " 1− Tγ ¡ r, η¢ Ts ¡ r, η¢ # · 1− 1 + z H (z) dvp∥ dr (r, η) ¸ (2.30) µ ´ のように表される. (2.30)の導出の過程からも分かるように, 21 cm輝度温度δTb及び, 超微細遷移周波数ν21は, と もにredshiftして観測される. すなわち, 赤方偏移zの位置からの21 cm吸収/放射線の場合には, δTb → δTbobs = 1+zδTb, ν21 → 1+zν21 のようにredshiftされたものが観測されることになる. また(2.30) の表式を見ると, 21 cm輝度温度には,さまざまな物理量が関わってくることが分かる. (各物理量に ついては次の章で考える.) どのような物理量が関わるのかを順に見ていく. ¶ ³ (I)全陽子(自由な陽子+中性水素原子を構成する陽子)数密度nH 21 cm線の吸収/放射を起こす源が中性水素原子なので, nHが21 cm輝度温度に関わってくるの は当然である. また, 中性水素原子が多いところほど, 21 cm線の強度は強くなることも(2.30) の表式から分かる. µ ´ ¶ ³ (II)Matter(Baryon∼中性水素原子)の特異速度vp∥ Matterの特異速度が21 cm輝度温度に関わるのは, Matterが動いていることにより,吸収/放射 される光の周波数がドップラー効果によりずれる(あるいは, line profileの鋭さが変わる.)ため である. 実際, 21 cm輝度温度の導出の際にvp∥が登場したのは, line profile φ (ν)を見積もると きである. (→ (2.24)参照) µ ´ ¶ ³ (III)スピン温度Ts 超微細遷移は,水素原子の10S1/2 ↔ 11S1/2 a という2状態の遷移であり,それに伴って吸収/放 射されるのが21 cm線である. 一方, スピン温度は定義(2.8)から明らかなように, この10S1/2 の数密度n0と11S1/2の数密度n1の比で決まる. 21 cm輝度温度はこの吸収/放射線の強度を表 すものであるので,スピン温度に依存するのは当然であると言える. a 状態の表記の仕方は nFLJ 8 > > < > > : n :主量子数n = 1, 2, 3,· · · L :電子の軌道角運動量L = S, P, D,· · · J :電子の全角運動量=電子の軌道角運動量+電子のスピン角運動量 ˛˛L −1 2 ˛ ˛ ≤ J ≤ L +1 2 F :原子の全角運動量=電子の全角運動量+核子のスピン角運動量 (2.31) に従う. µ ´ 7n HI=中性水素原子の個数密度, nH=陽子の個数密度, xHI=全陽子のうち中性水素原子として存在するものの割合 8
¶ ³
(IV)photonの温度 Tγ
photonの温度が21 cm輝度温度に関わってくるのは, (2.16)のように,中性水素原子が存在する
領域に,入射してくるphotonがCMB photonであり,そのCMB photonが超微細遷移に関与す
るからである. そして,その結果,観測者のところにやってくるphotonの強度がもともとのCMBよりも小さく なれば, 21 cm吸収¡↔ δTobs b ≤ 0 ¢ が起こったということになり,逆にphotonの強度が大きくな れば, 21 cm放射¡↔ δTbobs≥ 0¢が起こったということになるわけである. すなわち, 21 cm吸 収線か放射線かは, やってくるphotonの強度がもともとのCMBの強度より弱いか強いかで分 かる. µ ´ ¶ ³ (V)Neutral Fraction xHI (I)の陽子数密度nHにxHIをかけたものが,中性水素原子数密度になる. 中性水素原子が21 cm
線の源であるから, (I)と同様に, Neutral Fraction xHIも21 cm輝度温度に関与する. 特にこの
Neutral Fraction xHIをまじめに考えないといけないのは, RecombinationやReionizationのよ
うにxHIが大きく変化するときである. RecombinationとReionizaionの間の時期には,再結合
により陽子は中性水素原子の形で存在するのでxHI = 1と思われる.
µ ´
¶ ³
(VI)Hubble Parameter H (z)
Hubble Parameterが21 cm輝度温度の表式に含まれているのは, (II)と同じように, line profile
φ (ν)を見積もる際に,光のドップラー効果((II)の場合は物理的なドップラー効果だが, Hubble Parameterの方は宇宙論的なドップラー効果であるという違いはある.)を考えたからである. (→ (2.24)参照) µ ´ このように, 21 cm輝度温度にはさまざまな物理量が関与してくる. 後の章では,この21 cm輝度温 度の揺らぎを考えるが,そこでは21 cm揺らぎが,さまざまな揺らぎ(Matterの密度揺らぎ, neutral Fractionの揺らぎetc...)を反映したものになることが分かる. 次に, 21 cm線が原理的に観測可能な時期について考える. (2.30)を見ると, xHIという因子があ るので,この因子が0になるときにはδTobs b = 0となって, signalは観測されない. 実際Reionization より後の時期 (現在に近い側)では, 水素原子は再び電離され, 中性水素原子はほとんど存在しな い(すなわちxHI → 0)と思われる. このことから, Reionization(赤方偏移z∼6-10)9より後の時期 (z .6-10)では, 21 cm線のsignalは小さくなると考えられる. 一方, Recombination(z∼1000)以前の時期を考えると,このころはまだ再結合前なので,中性水素 原子が存在しない. すなわちxHI = 0と考えてよい. 従ってRecombination以前でも, 21 cm線は存在 しないと言える. 以上の考察から, 21 cm線が原理的に観測できるのは,大ざっぱにはReionization(z ∼6-10)∼Recombination(z∼1000)の時期であると言える. 9
3
Matter
に関する物理量
3.1 密度揺らぎ δ [3], [4] 宇宙論的摂動論を考えるとき, Conformal Newtonianゲージでは,計量は ds2=−a2(η)h©1 + 2ψ (η, x)ªdη2−©1− 2φ (η, x)ªδijdxidxj i (3.1) のように対角的に表される. この計量のもとで, Matter(∼Baryon)の密度揺らぎδm及び特異速度 vmの時間発展について考える.Matterの成分としては, Baryon(添え字b), Cold Dark Matter(以下, CDM)(添え字c), 非相対論的
なニュートリノ(添え字ν)を考える. 密度揺らぎ及び特異速度は,一般に次のボルツマン方程式に従 う. [32] まずBaryonの場合は, ¶ ³ ○Baryon ˙δb+ ikvb = 3 ˙φ (3.2) ˙ vb+Hvb = −ikψ + ˙τ R[vb+ 3iΘ1] (3.3) µ ´ となる. 10ここで(3.3)の右辺第二項は, baryonとphotonがコンプトン散乱で結合している効果を 表しており, R, τ (optical depth)はそれぞれ, R = 3 ¯ρb 4 ¯ργ (3.4) τ (η) ≡ Z η0 η dη′neσTa (η) (3.5) のように表される量である. また, Θ1は, photonの温度揺らぎの一次のモーメントである. CDMについては,他の粒子と相互作用しないことから,エネルギー運動量保存側がCDMだけに ついて成り立つとしてよい. 従って, (C.2), (C.3)において, wc ≈ 0, δPc δρc ≈ 0, σ c ≈ 0 (3.6) とすることにより, ˙δc = − ³ θc− 3 ˙φ ´ (3.7) ˙ θc = −Hθc+ k2ψ (3.8) という式が得られる. θc = ikjvcj= ikvcであることに注意すると, ¶ ³
○Cold Dark Matter
˙δc+ ikvc = 3 ˙φ (3.9) ˙ vc+Hvc = −ikψ (3.10) µ ´ のようになり, Baryonとの違いはphotonとの相互作用の項がないことだけである. 10 ˙ = ∂ ∂η の意味
次に非相対論的なニュートリノについてであるが, これはMatterとして振る舞い, かつニュート
リノは他の粒子との相互作用がほとんどないことから,基本的にはCold Dark Matterと同じ式に従
う. ただしニュートリノの質量は0ではないが小さいと考えられているため,速度分散が他の粒子に 比べて大きいと考えられる. 基本的には, CDMの場合と同様に, (C.2), (C.3)において, wν ≈ 0, c2sν ≡ δPν δρν ≈ 0, σ ν ≈ 0 (3.11) とすることにより, ˙δν = − ³ θν − 3 ˙φ ´ (3.12) ˙ θν = −Hθν+ k2c2sνδν+ k2ψ (3.13) という式が得られる. ただし, 速度分散が大きいことを考慮して, k2c2 sνδν の項は残しておいた. こ の項は小さなscale(すなわちk > kνF J)を考えるときには考慮しないといけないが,ある程度大きな scale(すなわちk < kνF J)を考えるときには無視してよく,この場合はCDMの従う式と同じになる.
ただし, kνF Jはニュートリノのfree streaming scaleに対応する波数である. (後述) CDMの場合と
同様にθνの代わりに,特異速度vνを用いて書くと, ¶ ³ ○ニュートリノ ˙δν+ ikvν = 3 ˙φ (3.14) ˙vν+Hvν+ ikc2sνδν = −ikψ (3.15) µ ´ となる. 次に,計量の揺らぎφ, ψはEinstein方程式より,以下の式に従う. (Appendix参照) k2(φ− ψ) = 12πGa2X a ¡ ¯ ρa+ ¯Pa ¢ σa (3.16) k2φ = −4πGa2X a · ¯ ρaδa+ 3H k2 ¡ ¯ ρa+ ¯Pa ¢ θa ¸ = −4πGa2X a · ¯ ρaδa+ 3iH k ¡ ¯ ρa+ ¯Pa ¢ va ¸ (3.17)
これらのBoltzmann方程式とEinstein方程式を,いま興味のある状況及び時期(すなわち21 cm signal
が原理的に存在する時期) O (10) . z . 300において,近似することを考える.
まず,今考えている時期では, baryonとphotonのコンプトン結合は切れていると考えて良い. なぜ
なら,この結合が強いと, photonの温度とbaryonの温度が等しくなって21 cm線のsignalは0になっ
てしまうからである. 従って, (3.3)において, photonとのコンプトン結合の項は無視して良い. その 結果, Baryonの従う方程式もCDMと同じになることが分かる. 次に, z. zdec∼300 < zeq(等密度期 )であるから,今考えている時期は,物質支配期であり,輻射の占める割合は十分小さいと考えて良い. そのため, (3.16), 3.17において, 輻射の寄与は無視( ¯ργ ≪ ¯ρm)できる. また, Matterの非等方圧力 σmは無視して良い. その結果, φ = ψと近似できる. さらに, sub-Horizaon scale(↔ aH = H ≪ k) に興味があるので, (3.17)の右辺で特異速度vaが関わる項は無視して良い. 以上の近似を適用すると,結局, ˙δb+ ikvb = 3 ˙φ≈ 0 (3.18) ˙vb+Hvb = −ikψ = −ikφ (3.19)
˙δc+ ikvc = 3 ˙φ≈ 0 (3.20)
˙vc+Hvc = −ikψ = −ikφ (3.21)
˙δν + ikvν = 3 ˙φ≈ 0 (3.22) ˙vν+Hvν + ikc2sνδν = −ikψ = −ikφ (3.23)
k2φ = −4πGa2ρ¯mδm (3.24)
を連立させて解けばよいことになる. また, Hubble Parameter (H =H/a)は, フリードマン方程式
(0次のEinstein方程式) H2= 8πG 3 ρ = 8πG 3 [ ¯ρm+ ρΛ] = H 2 0 µ Ωm a3 + ΩΛ ¶ (3.25)
に従う. ここでは,等密度期以降の時期を考えていることを考慮して, Matter ( ¯ρm)と, dark energy(ρΛ)
のみを考えた. このフリードマン方程式を用いて, (3.24)を次のように, k2φ =−4πGa2 H 2 8πG 3 [ ¯ρ + ρΛ] | {z } =1 ¯ ρmδm→ φ = − 3 2 a2H2 k2 | {z } ≪1 ¯ ρm ¯ ρm+ ρΛ | {z } O(1) δm≪ δm (3.26) 変形することにより, sub-Horizon scaleでは, φ≪ δm∼δb, δc, δνとなっていることが分かる. このこ とから, (3.18), (3.20), (3.22)において, 3 ˙φの項は, ˙δに対して,無視して良いことになる. (そのこと を考慮して≈ 0と書いた.) これらの方程式を, k > kνF S, k < kνF Sの場合に分けて考える. ニュートリノのfree straming scaleは次のように見積もることができる. (3.22), (3.23), (3.24)を組み合わせて, vν, φを消去し, δν についての2階微分の方程式を作ると, ¨ δν+H ˙δν+ k2c2sνδν = 4πGa2ρ¯m|{z}δm ∼δν → ¨δν +H ˙δν + ¡ k2c2sν− 4πGa2ρ¯m ¢ δν = 0 (3.27) という式が得られる. 基本的には, (3.27)の左辺の第三項の係数が正か負かによって, 振動解になる (すなわち密度揺らぎが成長しない)か,成長解(密度揺らぎが成長する)になるかを判断することが できる. この第三項の係数が0になるときの波数kを, k2c2sν− 4πGa2ρ¯m→ k = kνF S = µ 4πGa2ρ¯m c2 sν ¶1 2 (3.28) のようにkνF Sと定義する. [6] k < kνF Sのときには, 第三項の係数は負になるため,成長解となり, ニュートリノの密度揺らぎは成長する. これは,ニュートリノの圧力の効果より,重力の効果の方が大 きいことに対応している. またこのときは, (3.23)において,左辺のikc2sνδνの項を,右辺の−ikφの項 に対して無視することが可能になる. 従って,この場合には,非相対論的なニュートリノも, baryonや CDMと同じ式に従うことが分かる. 一方, k > kνF Sのときは,第三項の係数は正になるため,振動解 となりニュートリノの密度揺らぎは成長しない. その結果, δν ≪ δb, δcとなると考えられる. (baryon やCDMの密度揺らぎは後で分かるように成長するので) この二つの場合に分けて, Matter(baryon, CDM)の密度揺らぎの解を調べる.
3.2 ニュートリノの Free Streaming の効果を考えなくてよいとき
まず,ニュートリノのfree streaming scaleよりも大きなscaleの場合(k < kνF Sの場合)を考える.
この場合には, baryon, CDM, 非相対論的ニュートリノの従う式はいずれも同じになる. 従って, δm ∼δb∼δc∼δν, vm∼vb∼vc∼vν としてよい. すると, ˙δm+ ikvm = 0 (3.29) ˙vm+Hvm = −ikφ (3.30) k2φ = −4πGa2ρ¯mδm (3.31) を連立させて解けば良いことになる. (3.29)及び, (3.31)から, vm, φを消去して, δmについての2階 微分の方程式を作ると, ¨ δm+H ˙δm− 4πGa2ρ¯mδm= 0 (3.32)
のようになる. これを解くために変数をconformal time ηからscale factor aに変換する. このとき
˙ = ∂ ∂η = da dη ∂ ∂a = aH ∂ ∂a = a 2H ∂ ∂a (3.33) であることに注意すると, ¨ δm+|{z}H =aH ˙δm = a2H ∂ ∂a µ a2H∂δm ∂a ¶ + aH· a2H∂δm ∂a = a4H2∂ 2δ m ∂a2 + a 3H2 µ 3 +d ln H d ln a ¶ ∂δm ∂a (3.34) となることが分かる. 一方,フリードマン方程式(3.25)の両辺をaで微分したものを次のように変形 していくことにより, 2HdH da = −3H 2 0Ωm 1 a4 → d da µ a3HdH da ¶ = 3 2H 2 0Ωm 1 a3 | {z } =8πG3 ρ¯m a = 4πG ¯ρma → 4πGa2ρ¯ m = a d da µ a3HdH da ¶ (3.35) という関係式が得られる. (3.34), (3.35)より, (3.32)は, a4H2∂ 2δ m ∂a2 + a 3H2 µ 3 +d ln H d ln a ¶ ∂δm ∂a − a d da µ a3HdH da ¶ δm= 0 (3.36) のように書き直される. 第二項の係数が, a3H2 µ 3 +d ln H d ln a ¶ | {z } =d ln(a3H2/Hd ln a ) = a4H2 " d ln¡a3H2¢ da − d ln H da # = a " d¡a3H2¢ da − a 3HdH da # (3.37) のように変形できることに注意しておくと, (3.36)は,次のように解析的に解くことができる. (3.36)→ a ( a3H2∂δm ∂a2 + d¡a3H2¢ da ∂δm ∂a ) | {z } =∂ ∂a(a3H2 ∂δm∂a ) − ½ a3HdH da ∂δm ∂a + d da µ a3HdH da ¶ δm ¾ | {z } =∂a∂ (a3HdH da)δm = 0
→ a ∂ ∂a · a3H3 ∂ ∂a · δm H ¸¸ = 0⇔ a3H3 ∂ ∂a · δm H ¸ = A (k)⇔ δm H = A (k) Z a da′ a′3H (a′)3 + B (k) ⇔ δm(k, a) = A (k) H (a) Z a da′ a′3H (a′)3 + B (k) H (a) (3.38) ここで, A (k), B (k)は, η(あるいは, a)によらない任意の関数(aについての積分定数)である. (3.38)
において, 第一項が成長解(Growing Mode)を第二項が減衰解(Decaying Mode)を表している. フ
リードマン方程式(3.25)を用いると,上式は, δm(k, a) = A (k) H0 µ Ωm a3 + ΩΛ ¶1 2 Z a da′ a′3H3 0 ¡Ωm a′3 + ΩΛ ¢3 2 + B (k) H0 µ Ωm a3 + ΩΛ ¶1 2 (3.39) となる. 特にdark energyが効いてこないような時期¡Ωma−3 ≫ ΩΛ ¢ には, (3.39)は, δm(k, a) = A (k) H0 µ Ωm a3 ¶1 2Z a da′ a′3H3 0 ¡Ω m a′3 ¢3 2 + B (k) H0 µ Ωm a3 ¶1 2 = A (k) 2 5H02Ωm a + B (k) H0 p Ωma− 3 2 (3.40)
のようになって, Growing Modeは, scale factor aに比例し, decaying modeはaの32 乗に反比例す
ることが分かる.
(3.38)において, Growing Mode D+(a)及び, Decaying Mode D−(a)を,
D+(a) = 5H 2 0Ωm 2 H (a) Z a da′ a′3H (a′)3 = 5Ωm 2 H (a) H0 Z a H3 0da′ a′3H (a′)3 (3.41) D−(a) = 1 H0 √ Ωm H (a) (3.42) のように定める. 係数は, Ωma−3 ≫ ΩΛのときに, D+(a) = a, D−(a) = a− 3 2 となるように決めた.
一般に, dark energyの効果も考える場合には, Matterだけの場合に比べて,密度揺らぎの成長は遅
くなる. これは,次のように理解できる. Matterだけの場合は,宇宙膨張((3.32)の第二項)も重力ク
ラスタリング((3.32)の第三項)もMatterだけで決まる. 一方, dark energyの効果も考える場合は,
宇宙膨張((3.32)の第二項)にはMatterとdark energyの両方が効くのに対し,重力クラスタリング
((3.32)の第三項)にはMatterだけが効く. このことより, dark energyも考えた場合には, Matterだ
けの場合に比較して,「成長を促進する効果(重力クラスタリング)」に対する「成長を阻害する効果
(宇宙膨張)」の割合が大きいことになる. このため密度揺らぎの成長が遅くなると言える. あるいは,
dark energyは斥力としての働きを持つため,重力で集まろうとする効果を阻害するために,成長が
遅くなると言うこともできるかもしれない. 実際に, (Ωm, ΩΛ) = (1, 0) , (0.3, 0.7)の場合のGrowing
Mode D+(a)をグラフにしたものが,次の図4である. この図4から確かに, (Ωm, ΩΛ) = (1, 0)の場
合(Matterだけの場合)に比べて, (Ωm, ΩΛ) = (0.3, 0.7)の場合(dark energyの効果も考えた場合)の
図4: 密度揺らぎのGrowoing Mode
3.3 ニュートリノの Free Streaming の効果を考えるとき [6]
次に,ニュートリノのfree streaming scaleよりも小さなscaleの場合(k > kνF Sの場合)を考える.
こちらの場合には, ニュートリノの速度分散が大きい(質量が小さいため)効果を考慮する必要があ
る. このscaleでは, (3.27)のところで触れたように,ニュートリノの密度揺らぎは成長しない. 一方
で,ニュートリノよりも質量のずっと大きい(と思われる)baryonやCDMは,このscaleでも重力で
集まり成長するはずである. (baryonやCDMのfree streaming scaleはニュートリノのそれよりも
ずっと小さいと考えられるので. )従って, δν ≪ δb, δcであると考えられる.一方で, ¯ρν ≪ ¯ρb, ¯ρcであ るから, ¯ρν ≪ ¯ρbδb, ¯ρcδcとなる. このことを考慮して, (3.31)において, ¯ ρmδm = ¯ρbδb+ ¯ρcδc+ ¯ρνδν ≈ ¯ρbδb+ ¯ρcδc (3.43) のように近似する. すなわちニュートリノが重力クラスタリングには効いてこないと考える. baryon とCDMについては,同じボルツマン方程式に従うから, δb∼δc∼δmとしてよい. その結果,上式は, ¯ ρmδm= ( ¯ρb+ ¯ρc) δm= ( ¯ρm− ¯ρν) δm= ¯ρm(1− fν) δm (3.44) のようになる. ここで, Matterに占める非相対論的ニュートリノの割合を fν ≡ ¯ ρν ¯ ρm = Ων Ωm = Ων Ωb+ Ωc+ Ων (3.45) のように定義した. 以上より, k > kνF Sの場合には, ˙δm+ ikvm = 0 (3.46) ˙vm+Hvm = −ikφ (3.47) k2φ = −4πGa2ρ¯m(1− fν) δm (3.48)
を連立させて解けばよいことが分かる. k < kνF Sの場合との違いは, アインシュタイン方程式(ポ アッソン方程式)(3.48)で, ニュートリノが重力ポテンシャルに効かないとしたということだけであ る. 従って,これらの式からk < kνF Sの場合と同様にして, δmの二階微分の方程式を作ると, ¨ δm+H ˙δm− 4πGa2ρ¯m(1− fν) δm= 0 (3.49) となる. これが(3.32)に対応する式である. 簡単のために, dark energyの効果は考えないことにす る. このときフリードマン方程式(3.25)は, H2 = 8πG 3 ρ¯m = H 3 0 Ωm a3 (3.50) のようになり, H∝ a−32 となる. ηからaに変数変換すると, (3.34)より, (3.49)は, a4H2∂ 2δ m ∂a2 + a 3H2 µ 3 +d ln H d ln a ¶ | {z } =3−32=32 ∂δm ∂a − 3 2a 2H2(1− f ν) δm = 0 → ∂2δm ∂a2 + 3 2a ∂δm ∂a − 3 2a2 (1− fν) δm = 0 (3.51) となる. この微分方程式は, δm ∝ ap として, pを求めることにより解くことができる. δm = apを (3.51)に代入して, p (p− 1) +3 2p− 3 2(1− fν) = 0⇔ p 2+1 2p− 3 2(1− fν) = 0 (3.52) という二次方程式が得られる. これを解くことにより, p = p± = − 1 2 ± q¡1 2 ¢2 − 43 2(1− fν) 2 = −1 ± 5q1−2425fν 4 (3.53) という二つの解が得られる. fν ≪ 1として近似すると, p+ ≈ −1 + 5¡1−1225fν ¢ 4 = 1− 3 5fν (3.54) p− ≈ −1 − 5 ¡ 1−1225fν ¢ 4 =− 3 2+ 3 5fν (3.55)
となる. これよりGrowing Mode D+(a)及びDecaying Mode D−(a)は,
D+(a) ∝ ap+ ≈ a1−35fν (3.56) D−(a) ∝ ap− ≈ a−32+ 3 5fν (3.57) となる. fν = 0のときは, k < kνF Sの場合(でΩma−3 ≫ ΩΛの場合)の解と同じになる. 今回の場合 は, k < kνF Sの場合と比べて, Growing Modeの成長が少しだけ遅くなる ³ a vs a1−35fν ´ ことが分か る. これは,ニュートリノが重力クラスタリングに寄与しない効果による.
3.4 特異速度 v [18] 次にbaryon(Matter)の特異速度vb∼vc∼vmが密度揺らぎを用いて表されることを見る. (3.29)あ るいは, (3.46)より, vm = i k˙δm= i ka 2H∂δm ∂a = i ka 2H ∂ ∂a µ D+δm D+ ¶ ≈ iaH k · a D+ dD+ da ¸ δm = iaH k f (a) δm (3.58) のように近似することができる. ここで密度揺らぎがGrowing Modeに比例するδm ∝ D+として, Decaying Modeについては無視した. また, f (a)≡ a D+ dD+ da = d ln D+ d ln a (3.59)
のように, f (a)を定義した. 基本的に,このf (a)はO (1)の量である. 実際, Matterのみを考えたと
きには, D+∝ aであったので, f (a) = 1となる. これより, 3次元の速度vmは, vm= k kvm ≈ ikaH k2 f (a) δm (3.60) のように表されることが分かる. (3.60)は波数空間での表式である. 実空間の表式は,逆フーリエ変 換により, vm(x, a) = Z d3k (2π)3e ik·xv
m(k, a)≈ iaH (a) f (a) Z d3k (2π)3e ik·x k k2δm(k, a) (3.61) である. この速度は, 21 cm輝度温度の表式(2.30)に現れた, vpと同じものである. 11 次に, (3.61) から,実際に(2.30)に現れた形 dvdrp∥ についての表式を求める. まず, (3.61)の両辺で,視線方向を表 す単位ベクトルxˆ∥と内積をとると,
vm∥ ≡ vm(x, a)· ˆx∥ ≈ iaH (a) f (a) Z
d3k
(2π)3e
ik·x k · ˆx∥
k2 δm(k, a) ≈ iaH (a) f (a)
Z d3k (2π)3e ik·x µ kδm(k, a) (3.62) となる. ここで新たに, µ≡ k· ˆx∥ k (3.63) のように, 波数ベクトルkと視線方向xˆ∥のなす角の余弦をµと定義した. さらに, (3.62)の両辺を r =|x|で微分する. このとき,考えている領域(位置x)が,視線方向の位置を表すベクトルx∥= r ˆx∥ からあまりずれていないとすると, rで微分する際に,指数部分のk· xは, k· x = k · x∥+ k·¡x− x∥¢ | {z } 無視する ≈ krµ (3.64) のように近似して計算することができる. (図5参照) 従って, 11 2章では, Peculiar Velocityの頭文字をとって, vpと表記した.
図5: 視線方向と考えている領域の関係図
dvm∥
dr (x, a) ≈ iaH (a) f (a) Z d3k (2π)3 µ d dre ik·x ¶ | {z } ≈ikµeik·x µ kδm(k, a)
≈ −aH (a) f (a)
Z d3k (2π)3µ 2δ m(k, a) (3.65) となる. この両辺をフーリエ変換すると, dvm∥
dr (k, a)≈ −aH (a) f (a) µ
2δ m(k, a) (3.66) となり, 波数空間では,特異速度の微分(gradient)は, 密度揺らぎに比例する形でかけることが分か る. 後で, 21 cm輝度温度の揺らぎを考える際には, δ∂v(k, a)≡ 1 aH (a) dvm∥ dr (k, a)≈ −f (a) µ 2δ m(k, a) (3.67) という量として扱う. この表式からも分かるように, δ∂vは, µという因子を通じて,視線方向という 特別な方向によるため,非等方的な揺らぎになる.
3.5 ガスの温度 Tg [1], [3], [11] ここでは,ガス(バリオン)の温度Tgの従う式を導出する. ガスの温度は,一般に宇宙膨張によって 断熱的に冷えていく効果と,他の流体成分とエネルギーをやりとりする効果を受けて変化する. 以下 の図のように,ある点x(共動座標)のまわりの領域(注目しているガスの体積)δVg(phys)に着目して,微 小conformal time(共形時間)dηの間に,外部とd′Q (x, η)の熱をやりとりしたという状況を考える. 図6: ガス(バリオン)のエネルギーのやりとり 図中のv (x, η)はガスの(特異)速度である. ガスの個数密度をng(x, η)と表すことにすると, 領域 δVg(phys)(x, η)内には, δNg(x, η) = ng(x, η) δVg(phys)(x, η) (3.68) 個の粒子があることになる. このδNg個(一定)の粒子に着目する. ガスの温度をTg(x, η)と表すこ とにすると,粒子1個あたりの(運動)エネルギーは, 23kBTg(x, η)である.従って,この領域内のガス のエネルギー(内部エネルギー)δUg(x, η)は, δUg(x, η) = 3 2δNg(x, η) kBTg(x, η) (3.69) となる. 一方,ガスの圧力pg(x, η)については,次の理想気体の状態方程式 pg(x, η) = ng(x, η) kBTg(x, η) (3.70) に従うとする. 微小共形時間dη の間に変化した内部エネルギーをd (δUg) (x, η), 変化した体積を d ³ δVg(phys) ´ (x, η)と表すことにすると,熱力学第一法則から, d′Q (x, η) = d (δUg) (x, η) + pg(x, η) d ³ δVg(phys) ´ (x, η) (3.71)
が成り立つ. 内部エネルギーの変化分は,時刻ηにxにいた粒子がdη後には, x + v (x, η) dηにいる
ことに注意すると,
d (δUg) (x, η) = δUg(x + v (x, η) dη, η + dη)− δUg(x, η) = 3 2δNg(x + v (x, η) dη, η + dη) kBTg(x + v (x, η) dη, η + dη)− 3 2δNg(x, η) kBTg(x, η) = 3 2δNg(x, η) kB h Tg(x + v (x, η) dη, η + dη)− Tg(x, η) i = 3 2ng(x, η) δV (phys) g (x, η) h v (x, η)· ∇Tg(x, η) + ∂Tg ∂η (x, η) i dη (3.72) のように見積もることができる. 今は, δNg個の粒子に着目しているので,粒子の運動に沿って粒子の 個数は一定 h δNg(x, η) = δNg(x + v (x, η) dη, η + dη) i である. 粒子が外部とやりとりする熱量も, d′Q (x, η) = ϵ (x, η) δVg(phys)(x, η) dη (3.73) のようにδVg(phys), dηに比例する形で書いておく. (3.70), (3.72), (3.73)を, (3.71)に代入することに より, ϵ (x, η) δVg(phys)(x, η) dη = 3 2ng(x, η) δV (phys) g (x, η) h v (x, η)· ∇Tg(x, η) + ∂Tg ∂η (x, η) i dη +ng(x, η) kBTg(x, η) d ³ δVg(phys) ´ (x, η) → ∂Tg ∂η (x, η) + v (x, η)· ∇Tg(x, η) + 2 3 1 δVg(phys)(x, η) d ³ δVg(phys) ´ (x, η) dη Tg(x, η) = 2ϵ (x, η) 3ng(x, η) kB (3.74) という式が得られる. 左辺の第三項に現れる 3Hg(x, η)≡ 1 δVg(phys)(x, η) d ³ δVg(phys) ´ (x, η) dη (3.75) は,ガスの体積膨張率を表している. この膨張率については以下のように見積もることができる. (3.1) の計量の下では, 共動座標でのdxiという長さは, 物理的にはa (η) n 1− φ (x, η) o dxiという長さを 表している. 従って,共動座標での粒子の体積をδVg(com)と表すと,物理的な体積δVg(phys)は, δVg(phys)(x, η) = a3(η) h 1− φ (x, η) i3 δVg(com)(x, η) ≈ a3(η)h1− 3φ (x, η)iδV(com) g (x, η) (3.76) のように表すことができる. ここでφは摂動量なので一次までで近似した. 共動座標での粒子の体積 δVg(com)(x, η)は,粒子の特異速度の効果によって時間変化し,その膨張率は特異速度(粒子の速度)の 発散∇ · v (x, η)によって表される. すなわち,共動座標での体積の関係は δVg(com)(x + v (x, η) dη, η + dη)≈ h 1 +∇ · v (x, η) dη i δVg(com)(x, η) (3.77) となる. このことを考慮すると,時刻η + dηにおける粒子の物理的な体積は,