7.3 尤度関数が多変数ガウス分布のときの Fisher Information Matrix
8.1.1 Visibility
21 cm線は電波であり,電波干渉計を用いて観測される. 電波干渉計により, 1組のアンテナペアに
やってくる電波によって生じる電圧V1(t),V2(t)の相互相関関数(→基本的にこれがVisibility)が得 られる. 下の図13のような状況を考える.
図13: 電波干渉計の模式図
やってくる電波の電場は振動しており, 複素数表示すれば,V (t) = V0e−2πiνtという形にかける. こ こで, νはやってくる電波の周波数である. このことから, 時刻tにおいて, アンテナT1に生じる電 圧は,
V1(t) =V0e−2πiνt (8.1)
のように表すことができる. 一方で,図13のように,アンテナT2には,同位相の電波が,τgだけ遅れ て届く. 二つのアンテナを結ぶベクトル(向きはT2 → T1の向き)をB,電波源の方向を表す単位ベ クトルをnとすると,この位相差(幾何学的delay timeτg)は,
τg = T2T2′
c = B·n
c (8.2)
のように表すことができる. このdelay timeを考慮すると,時刻tにおいて,アンテナT2に生じる電 圧は,
V2(t) =V0e−2πiν(t−τg) (8.3) のように表すことができる. このV1(t), V2(t)の相互相関関数が出力される. 一般に二つの時系列 A(t),B(t)の相互相関関数C12(τ)は,
CAB(τ) = lim
T→∞
1 2T
Z T
−T
A(t)B∗(t−τ) dt (8.4)
で定義される. ∗は複素共役を表している. 従って,二つの電圧の相互相関関数は, C12(τ) = lim
T→∞
1 2T
Z T
−T
V1(t)
| {z }
V0e−2πiνt
V2∗(t)
| {z }
V0e2πiν(t−τg)
dt
= lim
T→∞
1 2T
Z T
−T
V02e−2πiν(τ+τg)
| {z }
tによらない
dt
= V02e−2πiν(τ+τg) (8.5)
のように表されることが分かる. ここで,係数のV02はやってくる電波のPower(=単位時間あたりの エネルギー)ϵ(n)に比例する. 電波源の強度分布(単位時間あたりに単位面積を通過する,単位立体 角,単位周波数幅あたりの電波(光)のエネルギー)をIν(n)と表すと,方向n(広がりΩn)から,やっ てくる光のPowerは,周波数幅dνあたり,
ϵ(n) =Aν(n)Iν(n) dνdΩn (8.6)
となる. ここで,Aν(n)はn方向からやってきた電波に対する, アンテナの(有効)面積である. V02 が,この(8.6)に比例することを考慮して, (8.5)の代わりに,
dR(τ;n,B, ν) =Aν(n)Iν(n) dνdΩne−2πiν(τ+τg) (8.7) という量を考える. いろいろな方向nからやってくる電波について足し合わせると,
R(τ,B, ν) = Z
Ωsource
Aν(n)Iν(n) dνe−2πiν(τ+τg)dΩn
= e−2πiντdν Z
Ωsource
Aν(n)Iν(n) e−2πiνB·n
c dΩn (8.8)
となる. Ωsourceは,電波源の広がっている領域(立体角)である. この式の2行目の積分部分を以下の
ように,
V (B, ν)≡ Z
Ωsource
Aν(n)Iν(n) e−2πiνB·n
c dΩn (8.9)
V (B, ν)と定義し, Visibilityと呼ぶ. このVisibilityが観測で実際に分かる物理量である. 以下では, 基線ベクトル(アンテナ間を結ぶベクトル)Bを,
ν cB= 1
λB=uB= (u, v, w)↔B =λuB=λ(u, v, w) (8.10) のように,やってくる電波の波長λ= νc で割ったuB = (u, v, w)を用いて, Visibilityを表すことにす る. すなわち,
V(uB, ν) =V (u, v, w, ν) = Z
Ωsource
Aν(n)Iν(n) e−2πiuB·ndΩn (8.11)
のように書く. 電波源の方向を表す単位ベクトルをn= (sinθcosφ,sinθsinφ,cosθ)のように極座標 で表すと, dΩn= sinθdθdφであることから, (8.11)は,
V (u, v, w, ν) = Z
Ωsource
sinθdθdφAν(θ, φ)Iν(θ, φ) exp [−2πi (usinθcosφ+vsinθsinφ+wcosθ)]
(8.12) となる. ここで, (
ξ= sinθcosφ
η= sinθsinφ (8.13)
という変数変換を行う. このとき, dθdφ= √ dξdη
ξ2+η2√
1−ξ2−η2 であることなどに注意すると, V (u, v, w, ν) =
Z
source
p dξdη
1−ξ2−η2Aν(ξ, η)Iν(ξ, η) exp h−2πi
³
uξ+vη+wp
1−ξ2−η2
´i
のように書き直される. ここで,電波源の広がりが十分狭いとして,電波源の点は,n0= (0,0,1)の方 向付近だけに存在するとする. すなわち,n≈n0と考える. このとき|θ| ≪1↔ |ξ|,|η| ≪1として よい. 従って,p
1−ξ2−η2 ≈1と近似してよく,結局Visibilityは, V (u, v, w, ν) ≈
Z
source
dξdηAν(ξ, η)Iν(ξ, η) exp [−2πi (uξ+vη+w)]
≈ e−2πiw Z ∞
−∞dξ Z ∞
−∞dηAν(ξ, η)Iν(ξ, η) exp [−2πi (uξ+vη)]
≈ e−2πiw Z ∞
−∞dθ1 Z ∞
−∞dθ2Aν¡ θ1, θ2¢
Iν¡ θ1, θ2¢
exp£
−2πi¡
uθ1+vθ2¢¤
(8.14) のように表されることが分かる. ここで,本来ξ, ηの積分領域は電波源が存在する領域だが,アンテナの
「有効面積」Aν(ξ, η)は,電波源が存在する領域以外では0と考えて良い(Window Function)ので,積分 領域を−∞< ξ, η <∞とした. また,|θ| ≪1であることを考慮して,ξ = sinθcosφ≈θcosφ=θ1, η = sinθsinφ ≈ θsinφ = θ2とした. ここで登場したθ1, θ2は電波源を見込む角度であること が理解できる. (8.14)の表式を見ると分かるように, Visibility V (u, v, w, ν)は, 電波源の強度分布 Iν¡
θ1, θ2¢
(に“Window Function”Aν¡ θ1, θ2¢
をかけたもの)のフーリエ変換になっている. θ1, θ2は 視線方向に垂直な方向(x1, x2方向)を指定する量であるから,これは視線方向(x3方向)に垂直な方 向についてのフーリエ変換である. 以下では,w= 0として, (8.14)のoverallの係数e−2πiwについて は省略する.
次に, (8.14)を, (8.8)に代入し,観測される周波数νについても足し合わせたものを以下のように, S(u, v, τ)とする. (w=0とした)
S(u, v, τ) = Z
e−2πiντdν Z ∞
−∞dθ1 Z ∞
−∞dθ2Aν¡ θ1, θ2¢
Iν¡ θ1, θ2¢
exp£
−2πi¡
uθ1+vθ2¢¤
| {z }
V(u,v,w=0,ν)
= Z ∞
−∞dν Z ∞
−∞dθ1 Z ∞
−∞dθ2Aν¡ θ1, θ2¢
Fθ(ν)
| {z }
≡W(θ1,θ2,ν)
Iν¡ θ1, θ2¢
exp£
−2πi¡
uθ1+vθ2+ντ¢¤
= Z ∞
−∞dν Z ∞
−∞dθ1 Z ∞
−∞dθ2W ¡
θ1, θ2, ν¢ Iν¡
θ1, θ2¢ exp£
−2πi¡
uθ1+vθ2+ντ¢¤
(8.15) ここでν の積分範囲は, 観測される周波数の広がりで決まるが, νについての“Window Function”
Fθ(ν)を用いて, 積分領域を−∞< ν < ∞とした. また, W¡
θ1, θ2, ν¢
=Aν
¡θ1, θ2¢
Fθ(ν)は, 電 波源の強度分布Iν
¡θ1, θ2¢
にかかるWindow Functionである.
8.1.2 21 cm観測で直接分かる量と共動座標の関係
これまでのことを21 cm線の観測の場合にあてはめて考える. 赤方偏移がz∗付近(z∗は電波源 のredshiftの平均値(基準値))の領域からやってくる電波の波長はλ=λ21(1 +z∗)付近,観測され る周波数はν = λc = 1+zν21
∗ 付近の狭い範囲となる. 今, (8.15)では, 位置を指定するパラメータは, θ1, θ2(視線方向に垂直な方向), ν(視線方向)である. これらと, 共動座標x =¡
x1, x2, x3¢
の関係は,
「AP(Alcock-Paczy´nski) Effectが21 cm Power Spectrumに与える影響」の(6.52)より, x=¡
x1, x2, x3¢
= µ
dA(z∗)θ1, dA(z∗)θ2,c(z−z∗) H(z∗)
¶
(8.16) である. redshiftzと周波数νの関係は,特異速度の効果ついては小さいとして無視するなら, 1+z= ν21ν である. 従って,
x3 = c(z−z∗)
H(z∗) = c H(z∗)
µν21
ν −ν21
ν∗
¶
≈ − cν21
H(z∗)ν∗2 (ν−ν∗) (8.17) ここで上式の符号−は,観測者から遠い(redshiftが大きい)ところからやって来た光ほど周波数が小 さくなるためである. 40 この,周波数νと共動座標x3の変換係数を
y(z∗)≡ cν21
H(z∗)ν∗2 = c(1 +z∗)2
ν21H(z∗) (8.18)
のように定義しておく. νの代わりに, ∆ν =ν−ν∗を変数として用いると, (8.16)は, x=¡
x1, x2, x3¢
=¡
dA(z∗)θ1, dA(z∗)θ2, y(z∗) ∆ν¢
(8.19) となる. [20] これに対応して, (8.15)についても,νの代わりに, ∆νを用いて書き直す. その際に余分 な位相因子e−2πiν∗τ が出てくるが, Power Spectrumを考える際には寄与しないので,省略して,
S(u, v, τ) = Z ∞
−∞d (∆ν) Z ∞
−∞dθ1 Z ∞
−∞dθ2W¡
θ1, θ2,∆ν¢ Iν¡
θ1, θ2¢
×
×exp£
−2πi¡
uθ1+vθ2+ ∆ντ¢¤
(8.20) のように表しておく. また, 21 cm線の観測では,その強度IνはCMBの強度IνCM Bとの差で分かる ため(2章を参照), Iν →δIν =Iν−IνCM Bのように書き直した方が都合がよい. さらに2章では強 度分布Iν の代わりに, 輝度温度分布Tb(ν)≈ 2νc22kBIν を用いていたので,δIν の代わりにδTb41を用 いて, (8.14), (8.15)を,
¶ ³
VTb(u, v,∆ν) = Z ∞
−∞dθ1 Z ∞
−∞dθ2Aν
¡θ1, θ2¢
δTbobs¡
θ1, θ2,∆ν¢
| {z }
δT¯bobs(1+δ21(θ1,θ2,∆ν))
exp£
−2πi¡
uθ1+vθ2¢¤
(8.21) STb(u, v, τ) =
Z ∞
−∞d (∆ν) Z ∞
−∞dθ1 Z ∞
−∞dθ2W¡
θ1, θ2,∆ν¢
| {z }
Fθ(∆ν)Aν(θ1,θ2)
δTbobs¡
θ1, θ2,∆ν¢
| {z }
δT¯bobs(1+δ21(θ1,θ2,∆ν))
×
×exp£
−2πi¡
uθ1+vθ2+ ∆ντ¢¤
= Z ∞
−∞d (∆ν)Fθ(∆ν)VTb(u, v,∆ν) e−2πi∆ντ (8.22)
µ ´
と書いておく. ここでもν の代わりに∆ν を用いている. VTb は輝度温度(にWindow Function
40以下では,この符号は重要ではないので省略する. Fourier変換を扱うため,適当な変数変換で消すことができる.
412章のnotationに合わせると,δTbobsである.
Aν¡ θ1, θ2¢
をかけたもの)を視線方向に垂直な方向についてフーリエ変換したものである. また,STb は,輝度温度(にWindow Function W¡
θ1, θ2,∆ν¢
をかけたもの)のフーリエ変換である. あるいは, Visibility VTb(u, v,∆ν)にWindow Function Fθ(∆ν)をかけて, 視線方向についてフーリエ変換し たものという見方もできる. δTbobs¡
θ1, θ2,∆ν¢
=δT¯bobs¡ 1 +δ21
¡θ1, θ2,∆ν¢¢
と書くと分かるように,
Backgroundの輝度温度は位置によらない量だから, (8.21), (8.22)は実質的には輝度温度の揺らぎ
δT¯bobsδ21のフーリエ変換だと考えてよい. 以下では,表記を単純にするために, Θ = ¡
θ1, θ2,∆ν¢
(8.23)
u⊥ = (u, v) (8.24)
u = (u, v, τ) = (u⊥, τ) (8.25)
と書く.
8.2 21 cm線のFisher Information Matrix [20], [25]
21 cm線のFisher Information Matrixは, VisibilityVTb(u, v,∆ν)が期待値(平均値)0, すなわち
〈VTbi〉=〈VTb(u⊥i,∆νi)〉= 0の多変数ガウス分布に従うとして計算する. すなわち, P(VTb1,· · ·, VTbN) = 1
q
(2π)NdetC exp
−1 2
XN i,j=1
VT∗bi
³ CV−1
Tb
´
ijVTbj
(8.26)
³ CVTb
´
ij =
VTbi VT∗bj®
(8.27)
と考える. [25] データの個数N は, 観測でu, v,∆νについてそれぞれ何個のデータがとれるかで決
まる. (N =Nu×Nv×N∆ν) このままVisibility VTbで考えても良いが, ∆νについてもフーリエ変 換した,STbで以下は考えることにする. 分散共分散行列Cとしては, Detector NoiseによるCN と, Sample Varianceに関係するCSV を考慮する必要がある.