• 検索結果がありません。

今度は(3.82)の右辺で, photonとガス(baryon)がコンプトン散乱を通じてエネルギーをやりとり する効果を考える. このプロセスでは, 自由電子がphotonとコンプトン散乱でエネルギーをやりと りし,そのやりとりしたエネルギーが,自由電子とcoupleしているバリオン(陽子,ヘリウムなど)に も伝わるというものである. この効果によりガスの温度は単位時間あたり,

dTg

dt

¯¯¯¯

compton

= 8σTργne

3mecntot(Tγ−Tg) (3.87)

だけエネルギーをやりとりする. [3], [5] ここで,me,cは電子の質量及び光速であり,σT は反応断面 積(トムソン散乱断面積)

σT = 8π 3

µ e2 4πϵ0~c

2

~2

m2ec2 0.665×1024 cm2 (3.88) である. ργはphotonのエネルギー密度であり, photonの温度Tγ の4乗に比例する. photonの温度 揺らぎ(monopole) δTγ

Tγ(x, η) = ¯T(η)£

1 +δTγ(x, η)¤

(3.89) を上式のように定義すると, photonのエネルギー密度の揺らぎは,温度揺らぎを用いて,

ργ(x, η) = ¯ργ(η)£

1 +δργ(x, η)¤

= ¯ργ(η)£

1 + 4δTγ(x, η)¤

(3.90) のように表すことができる. neは自由電子(photonとコンプトン散乱で結合している)の個数密度で あり,ntotは,

ntot =nH +nHe+ne=nH(1 +fHe+xi) (3.91) のように, 自由電子がphotonとやりとりしたエネルギーを分け合うバリオンすなわち, ヘリウムの 構成に使われていない陽子(自由陽子+中性水素原子)とヘリウムと自由電子の個数密度の和を表し ている. ここで,陽子に対するヘリウムの割合をfHe=nHe/nHと定義した. また,陽子(自由陽子+ 中性水素原子)に対する自由電子の割合,すなわちIonization Fractionをxi =ne/nH のように定義 した. この表記を用いると, (3.87)において,バリオンの個数密度が関係するところは

ne

ntot = ne

nH+nHe+ne = xi

1 +fHe+xi (3.92)

のように表すことができる.

(3.87)は物理的な時間(局所ローレンツ系での時間)dtを用いて書いてあるため, (3.82)の右辺として 用いる場合には,共形時間dηに書き換える必要がある. (3.1)の計量の場合,両者の関係は,

dt=a(η) [1 +ψ(x, η)] dη (3.93)

である. 従って, dTg

dη (x, η)¯¯

¯¯compton

= dt dη

dTg

dt (x, η)¯¯

¯¯compton

=a(η) [1 +ψ(x, η)] dTg

dt (x, η)¯¯

¯¯compton

(3.94) が, (3.82)の右辺に用いるべき式である. (3.92)などを考慮すると, (3.94)は,

dTg dη (x, η)¯¯

¯¯compton

= 8σTa(η) (1 +ψ(x, η))ργ(x, η)xi(x, η) 3mec(1 +fHe+xi(x, η))

h

Tγ(x, η)−Tg(x, η) i

(3.95)

のように表すことができる. ργ, xi, Tγ, Tgにそれぞれ揺らぎδργ = δTγ, δxi, δTγ, δTg を考えると, (3.94)は,揺らぎの一次までの近似で

dTg

dη (x, η)¯¯

¯¯compton

=

Ta(η) h

1 +ψ(x, η) i

¯ ργ(η)

h

1 + 4δTγ(x, η) i

¯ xi(η)

h

1 +δxi(x, η) i

3mec n

1 +fHe+ ¯xi(η) h

1 +δxi(x, η)

io ×

×h T¯γ

¡1 +δTγ(x, η)¢

−T¯g

¡1 +δTg(x, η)¢i

Ta(η) ¯ργ(η) ¯xi(η) 3mec(1 +fHe+ ¯xi(η))

hT¯γ(η)−T¯g(η) ih

1 +ψ(x, η) ih

1 + 4δTγ(x, η) i×

×h

1 +δxi(x, η) i ·

1 x¯i(η)δxi(x, η) 1 +fHe+ ¯xi(η)

¸ · 1 +

T¯γ(η)δTγ(x, η)−T¯g(η)δTg(x, η) T¯γ(η)−T¯g(η)

¸

Ta(η) ¯ργ(η) ¯xi(η) 3mec(1 +fHe+ ¯xi(η))

hT¯γ(η)−T¯g(η) i"

1 +ψ(x, η) + 4δTγ(x, η) + 1 +fHe

1 +fHe+ ¯xi(η)δxi(x, η) +

T¯γ(η)δTγ(x, η)

T¯γ(η)−T¯g(η) T¯g(η)δTg(x, η) T¯γ(η)−T¯g(η)

#

(3.96) のように書けることが分かる. 一方で, (3.82)の左辺は「断熱的に変化するとき」と同様にして,

T˙g(x, η) + 2H(η)

·

1 1 H(η)

½

φ˙(x, η)1

3∇ ·v(x, η)

¾¸

Tg(x, η)

=

∂η

hT¯g(η)£

1 +δTg(x, η)¤i

+ 2H(η)

·

1 1 H(η)

½

φ˙(x, η)1

3∇ ·v(x, η)

¾¸

T¯g(η)£

1 +δTg(x, η)¤

h

T˙¯g(η) + 2H(η) ¯Tg(η)i £

1 +δTg(x, η)¤

+ ¯Tg(η) ˙δTg(x, η)2 µ

φ˙(x, η)1

3∇ ·v(x, η)

T¯g(η)

(3.97) となる. (3.96), (3.97)をそれぞれ, (3.82)の右辺,左辺に代入すると,

hT˙¯g(η) + 2H(η) ¯Tg(η)i £

1 +δTg(x, η)¤

+ ¯Tg(η) ˙δTg(x, η)2 µ

φ˙(x, η)1

3∇ ·v(x, η)

T¯g(η)

= 8σTa(η) ¯ργ(η) ¯xi(η) 3mec(1 +fHe+ ¯xi(η))

hT¯γ(η)−T¯g(η) i"

1 +ψ(x, η) + 4δTγ(x, η) + 1 +fHe

1 +fHe+ ¯xi(η)δxi(x, η) +

T¯γ(η)δTγ(x, η)

T¯γ(η)−T¯g(η) −T¯g(η)δTg(x, η) T¯γ(η)−T¯g(η)

#

(3.98) という式が得られる. これがphotonとのコンプトン散乱の効果を考えた場合の,ガスの温度の時間 発展を決める式である. この式よりBackground(0次)の式は,

T˙¯g(η) + 2H(η) ¯Tg(η) = 8σTa(η) ¯ργ(η) ¯xi(η) 3mec(1 +fHe+ ¯xi(η))

hT¯γ(η)−T¯g(η) i

(3.99) のようになる. 右辺を見ると分かるようにガスの温度がphotonの温度より高い[低い]場合( ¯Tg >

T¯γ£T¯g <T¯γ¤

)には, 右辺が負[正]になり, ガスはphotonにエネルギーを与える[ガスはphotonか らエネルギーをもらう]ことが分かる. 従って, このプロセスが効いているうち(z & 300)は, ガス (baryon)とphotonは平衡状態にあり,その温度は等しいT¯γ= ¯Tgと考えてよい. この反応が効かな くなってくると(z.300), ガスは(3.85)のようにscale factorの2乗に反比例して,断熱的に冷えて いくことになる. 一方でphotonの温度はscale factorに反比例して冷えていくので,このプロセスが 切れた後は,Tg < Tγとなる.

次に揺らぎの一次の式を考える. (3.98)から, (3.99)に1 +δTg をかけたものを引くことにより, T¯g(η) ˙δTg(x, η) 2

µ

φ˙(x, η)1

3∇ ·v(x, η)

T¯g(η)

= 8σTa(η) ¯ργ(η) ¯xi(η) 3mec(1 +fHe+ ¯xi(η))

hT¯γ(η)−T¯g(η) i"

1 +ψ(x, η) + 4δTγ(x, η) + 1 +fHe

1 +fHe+ ¯xi(η)δxi(x, η) +

T¯γ(η)δTγ(x, η)

T¯γ(η)−T¯g(η) −T¯g(η)δTg(x, η) T¯γ(η)−T¯g(η) ¡

1 +δTg(x, η)¢#

= 8σTa(η) ¯ργ(η) ¯xi(η) 3mec(1 +fHe+ ¯xi(η))

hT¯γ(η)−T¯g(η) i"

ψ(x, η) + 4δTγ(x, η) + 1 +fHe

1 +fHe+ ¯xi(η)δxi(x, η) + T¯γ(η) T¯γ(η)−T¯g(η)

³

δTγ(x, η)−δTg(x, η)

´#

となる. 両辺をT¯gで割って少し変形すると, δ˙Tg(x, η) 2

µ

φ˙(x, η)1

3∇ ·v(x, η)

= 8σTa(η) ¯ργ(η) ¯xi(η) 3mec(1 +fHe+ ¯xi(η))

·µT¯γ(η) T¯g(η) 1

¶ µ

ψ(x, η) + 4δTγ(x, η) + 1 +fHe

1 +fHe+ ¯xi(η)δxi(x, η)

+ T¯γ(η) T¯g(η)

³

δTγ(x, η)−δTg(x, η)

´¸

(3.100)

となる. [11]これがガスの温度の揺らぎが従う方程式である. 計量の揺らぎφ, ψの他,ガスの特異速

v, photonの温度揺らぎ(monopole) δTγ, Ionization Fractionの揺らぎδxiが,ガスの温度揺らぎ のsourceになっていることが分かる. 当然のことながらphotonとのコンプトン散乱の項(=右辺)を 0とすると,「断熱的に変化するとき」と同じ式(3.86)が得られる.

4 スピン温度 T

s

[1]

スピン温度は, 1章で既に導入したように, nu

nl = gu

gl exp µ

−hνul

kBTs

(4.1) で定義される. この章では,このスピン温度Tsがどのように時間発展していくのかを見ていく. すな わち, nu, nlがどのように時間変化していくのかを考える. 以下では,水素原子の超微細構造の遷移 を考えるので,

nu=n1, nl=n0

gu=g1 = 3, gl=g0 = 1 νul=ν211.42GHz のように表記することにする.

Tsの時間変化に寄与する効果は,次の効果が考えられる. それは

³

「水素原子-水素原子衝突(H-H Collision)」, 「電子-水素原子衝突(e-H Collision)」とい う衝突によってspin flipが起こる効果

Backgroundのphotonを吸収,放射することによる遷移の効果

Lymanαの効果で,他のエネルギー準位を経由して起こる遷移の効果

Neutral FractionxHI(あるいは, Ionization Fraction (xi))が時間変化する効果

µ ´

である. それぞれの効果について以下では,見ていくことにする. 以下の議論では,ガス(すなわち中 性水素原子)の固有時間をτgとして用いる.

4.1 衝突による遷移 [7], [9], [10]

この節では,さまざまな衝突によって起こる遷移について考える. 具体的には,

³

(1)中性水素原子どうしの衝突(H-H Collision)

(2)電子と中性水素原子の衝突(e-H Collision)

(3)陽子と中性水素原子の衝突(p-H Collision)

µ ´

を考える. 今, 注目している時期10〜z〜1000では, 陽子や電子のほとんどは, 中性水素原子の形で 存在するので, H-H Collisionが主要な反応になると考えられるが, 実際そのようになることを見て いく. ただし,そうなるのは自由電子や自由陽子に比べて,圧倒的に中性水素原子が多いからであり, H-H Collisionの反応率が, e-H Collisionやp-H Collisionのそれよりも大きいからではない. 実際, 反応率だけで比べるとκeH10 κpH10 &κHH10 のような関係になることが後で分かる. これは次のよう に理解できる. 自由電子,自由陽子,中性水素原子の速度を比べると,質量が小さい自由電子が圧倒的 に大きい. κは基本的には, (反応断面積)×(衝突の相対速度)の形をしているため, 反応率κで比べ るとe-H Collisionが一番大きくなることが直感的に理解できる.