消費者行動論のための無意識的思考研究の体系化
多 田 伶
1勝又 壮太郎
2 (1大阪大学大学院) (2大阪大学) 近年、無意識の認知プロセスを探究する手段として、無意識的思考理論が注目を集 めている。本研究の目的は無意識的思考研究を消費者行動論に応用するため、2つの レビューを通して、研究の深化と課題を示すことである。定量的手法を用いたレビュー では、無意識的思考研究の領域を概観し、既存研究が2つのテーマに類型化できるこ とを明らかにした。そのなかでも、判断・意思決定が重要な研究テーマであることを 確認し、それらの研究がマーケティングや消費者行動の分野において展開されている ことを示した。主要論文のレビューでは、既存研究を系統的に分類したうえで、思考 モードの情報処理メカニズムに注目した研究と思考モードと判断・意思決定の調整変 数に注目した研究を紹介した。最後に、無意識的思考研究の学術的、実務的意義を検 討し、今後の研究課題を指摘する。 キーワード: 無意識的思考理論、情報処理理論、購買意思決定プロセス、判断・意思決定、情報 過多Ⅰ はじめに
消費者は非常に限られた情報処理能力しか持ち併せていない。しかしながら、消費者は意 識を介さずに情報を処理することで、その欠点を補うことができる。社会心理学者の Dijksterhuis は消費者の思考モードを意識的思考(conscious thought)と無意識的思考 (unconscious thought)の 2 つに区別し、無意識的思考理論(Unconscious Thought Theory)を提唱した(Dijksterhuis and Nordgren 2006)。意識的思考は「ある主体が意思決定プロセ スを意識的に認識している間に生じる、認知・感情の意思決定関連プロセス」で、無意識的 思考は「ある主体が何か別の事柄に従事しており、意識的な認識をしていないところで生じ る、認知・感情の意思決定関連プロセス」と定義される(Dijksterhuis and Strick 2016, p. 117)。 消費者は購買意思決定を行うために、情報を積極的に探索する。たとえば、情報を吟味、 熟考してから製品を選択することがある。この場合、意識的思考が判断・意思決定に作用し ている。これに対して、意思決定課題から一旦離れ、別の課題を遂行している間に突然閃き を感じ、製品を選択することがある。この場合、無意識的思考が判断・意思決定に作用して いる。これら 2 つの購買意思決定プロセスは大きく異なっている。 消費者の判断・意思決定における、無意識的思考の有用性が一連の研究によって明らかに なってきた。特に、情報過多で複雑な意思決定課題を解決しなければいけないとき、その効 果は顕著にみられる(e.g., Dijksterhuis, Bos, Nordgren, and van Baaren 2006; Messner and Wänke 2011; Hasford, Hardesty, and Kidwell 2019)。これらの研究成果はアメリカの New York Times、Washington Post、American Scientist、イギリスの New Scientist に取り上げ られるほど(Huizenga, Wetzels, van Ravenzwaaij, and Wagenmakers 2012)、大きな注目を 集めてきた。近年、Journal of Consumer Research や Journal of Consumer Psychology と いった、消費者行動を専門とする学術誌にも論文が掲載されている(e.g., Bos, Dijksterhuis, and van Baaren 2011; Lerouge 2009; Messner and Wänke 2011)。 すでに、サーベイ論文がいくつか存在している。たとえば、Bargh(2011)は批判的議論 をした論文をレビューし、批判に対する批判を行った。Dijksterhuis and Strick(2016)は無 意識的思考理論の妥当性を示すことを目指し、多様な論文を分野横断的にレビューしてい る。今のところ、消費者行動論への応用を視野に入れ、無意識的思考研究の体系化を試みた 論文は存在していない。そして、上で挙げたサーベイ論文では、既存研究が系統的な枠組み の下で整理されていない。また、どのような研究テーマが存在しているのか、どのように研 究テーマが変化してきたのかに関して、詳しい議論がなされていない。そこで、本研究は以 下の 3 つの課題を設定した。課題 1 と 2 に関しては、膨大な数の文献データを使用すること が望ましいため、トピックモデル(LDA; Latent Dirichlet Allocation)を用いて(勝又・西 本・ウィラワン・飯野・井上 2016;Wang, Bendle, Mai, and Cotte 2015)、1072 件の論文のタ イトルと要約を分析した。課題 3 に関しては、消費者行動に関連する文献を精査することが 望ましいため、18 件の論文を系統的に整理した。 ⃝課題 1:無意識的思考研究の領域を明確にする(3 節) ⃝課題 2:無意識的思考研究の潮流の変化を把握する(3 節) ⃝課題 3:消費者行動に関連した無意識的思考研究を系統的にレビューする(4 節) 本稿の構成は以下のとおりである。2 節では無意識的思考理論の概要を述べ、消費者行動 論における無意識的思考研究の位置づけを明らかにした。3 節では定量的手法を用いて、既 存研究がどのような領域で展開されてきたのかをレビューし、研究テーマの 15 年間の推移 を分析した。そして、4 節では消費者行動とかかわりの深い文献に絞り、主要論文のレ ビューを行っている。5 節ではレビューのまとめを行い、無意識的思考研究が消費者行動論 に与える学術的、実務的意義を検討したうえで、今後の研究課題を展望している。最後に、
6 節で本研究の課題を指摘した。
Ⅱ 無意識的思考研究の理論的基礎
2-1 無意識的思考理論の概要 無意識的思考理論は、2006 年に Dijksterhuis によって提唱された情報処理理論である (Dijksterhuis and Nordgren 2006)。Dijksterhuis は思考モードに関する 6 つの原則(principle) を定めた(表 1)。まず、第 1 の原則のなかで、2 つの思考モードの定義が与えられ、定義に関 連する基本性質がまとめられている。意識的思考の活性化には意思決定プロセスへの認知を必 要とするのに対し、無意識的思考の活性化には意思決定プロセスへの認知をあまり必要としな い(Dijksterhuis and Strick 2016)。そして、2 つの思考モードは同時並行で作動する場合があ ると言及されている。第 2 の原則として、情報処理容量に関する特徴が挙げられている。消費 者の情報処理能力は高くない。そのため、意識的思考を行ったときの処理容量は小さいのに対 し、無意識的思考を行ったときの処理容量は比較的大きい。第 3 の原則として、情報の解釈に 関する特徴が述べられている。意識的思考はトップダウン型処理を駆動させやすいのに対し、 無意識的思考はボトムアップ型処理を駆動させやすい。意識的処理は階層性を伴った心的活動 を活性化させる。そのため、意識的思考を行うと、何らかのスキーマに主導されたトップダウ ン型処理が作動する(Bos and Dijksterhuis 2011)。一方で、無意識的思考を行ったとき、消費 者が受ける認知的制約は少なく、ボトムアップ型処理が作動する(Bos and Dijksterhuis 2011)。第 4 の原則として、情報の重みづけに関する特徴が紹介されている。消費者の情報処 理能力は限定的であるため、膨大な量の情報をすべて理解し、統合することは難しい。そのた め、意識的思考を行ったとしても、一部の情報しか考慮されず、準最適な重みづけしかできな い。一方で、無意識的思考は意識的思考よりも処理容量が大きいため、多数の情報を相対的に 重みづけできる。第 5 の原則として、情報の評価に関する特徴が挙げられている。意識的思考 は規則に従った正確な評価をもたらすが、無意識的思考は大雑把な評価しかもたらさない。意 思決定課題とは異なる別の課題を遂行している間に正確な評価を下すのは難しい。したがっ 表 1 2 つの思考モードの相違点 意識的思考 無意識的思考 ・認知が必要 ・認知があまり必要でない ・処理容量が小さい ・処理容量が大きい ・トップダウン型処理 ・ボトムアップ型処理 ・準最適な価値の重みづけ ・相対的な価値の重みづけ ・規則性に従った正確な評価 ・大雑把な評価 ・収束的思考 ・発散的思考て、少数の次元に基づき、規則正しい評価をしたいとき、意識的思考を作動させるとよい (Dijksterhuis et al. 2006)。最後に、第 6 の原則では、創造性に関連する思考の特徴が述べら れている。意識的思考は収束的思考を生成しやすいのに対し、無意識的思考は発散的思考を生 成しやすい。たとえば、Dijksterhuis and Meurs(2006)は、Experiment 1 で新しいパスタの 名前を考案してもらうという課題を被験者に課した。i から始まる架空の名前を事前に 5 つ示し たところ、意識的思考群の被験者は頭文字が i の名前を多く挙げた。これに対して、無意識的 思考群の被験者は頭文字が i でない名前を多く挙げた。意識的思考群の被験者はアクセスしや すい情報をもとにアイディアを生成していたが、無意識的思考群の被験者が生成したアイディ アは情報へのアクセスしやすさと関係していなかった。 2-2 無意識的思考研究の実験枠組み 一部の例外を除き(Dijksterhuis et al. 2006)、既存研究の大半が実験を行っており、判断・ 意思決定に関する研究が多い(3 節)。以下では、判断・意思決定の研究に焦点を絞り、無意 識的思考研究の実験枠組みを述べる。 図 1 は Dijksterhuis and Strick(2016)の実験手続きの図に、情報処理プロセス(青木 1992;阿部 1984)と購買意思決定プロセス(新倉 2005)の概念を紐づけた、無意識的思考研 究の概観図である。意思決定課題が初めに導入され、複数の実験刺激が情報として被験者に 与えられる。このとき、被験者の意識は提示される情報に向けられている。情報取得後、意 識的思考群の被験者は刺激や意思決定課題を検討するように指示されるのに対し、無意識的 思考群の被験者は意思決定課題と関連しない別の妨害タスク(e.g., アナグラム、ワードパズ ル)に取り組むように指示される。その後、評価や選択を行う。研究によっては、判断・意 思決定後の満足度を回答させることもある(Dijksterhuis and van Olden 2006; Messner and Wänke 2011)。また、コントロール群として即時処理(immediate processing)を設定した 実験も多い(表 5)。即時処理群の被験者は情報取得後すぐに判断・意思決定を下すことが求 められる。 無意識的思考 意識的思考 判断・意思決定 即時処理 情報取得プロセス 情報統合プロセス 意思決定課題 の導入 情報獲得 意思決定関連タスク 妨害タスク 判断・意思決定後 の評価 購買 再評価 選択肢の評価 情報探索 問題認識 図 1 無意識的思考研究の概観図 Dijksterhuis and Strick(2016)をもとに筆者作成。
被験者の判断・意思決定を分析するために、その成果を評価するための基準が必要になる。 無意識的思考研究は多属性効用型製品を仮定し、製品属性は消費者に正または負のいずれかの 効用をもたらすと考える。たとえば、自動車の場合、メーカーサービスは充実している方が一 般的に望ましいし、充実していない方が望ましくない。そこで、消費者にとって、客観的に望 ましい属性を正の属性、客観的に望ましくない属性を負の属性とする。これにより、正の属性 が多く、負の属性が少ない製品は「規範的に優れた製品」、正の属性が少なく、負の属性が多い 製品は「規範的に優れていない製品」となる。これらの製品をどれだけ差別化できるかを測定 し、判断・意思決定の成果指標としてきた。規範的に優れた製品を選択できるかどうかを成果 指標とすることもある。4 節で紹介する研究の多くは、この「客観的基準」に基づき、被験者 の判断・意思決定の成果を分析している。ただし、属性の効用は消費者間で異質性を伴う。そ こで、「主観的基準」に基づき、判断・意思決定の成果を分析した研究もある(Dijksterhuis and van Olden 2006; Messner and Wänke 2011)。たとえば、Dijksterhuis and van Olden (2006)は被験者にアートポスターの選択を求め、その選択に対する満足度を意思決定の成果指 標とした。思考モードが判断・意思決定に与える効果は「主観的基準」と「客観的基準」の 2 つの観点から分析されてきたことになる。 2-3 消費者行動論における無意識的思考研究の位置づけ マーケティングや消費者行動の分野では、無意識的思考研究以外にも、消費者の意識下の 認知プロセスを扱った研究が存在する。ここでは、二重過程理論とプライミング研究を取り 上げ、消費者行動論での無意識的思考研究の位置づけを示す。 まず、無意識的思考理論と二重過程理論の違いを検討する。1970 年代後半以降、二重過 程理論の議論は本格化していき、多種多様な理論モデルが開発されていった(Evans and Stanovich 2013)。 消 費 者 行 動 論 で 有 名 な 精 緻 化 見 込 み モ デ ル(Elaboration Likelihood Model)はその一例である。二重過程理論は質的に異なる 2 つの認知プロセスを仮定する (Evans and Stanovich 2013;金子 2014)。1 つはタイプ 1 と呼ばれ、「高速」「無意識」「自動 的」「連想的」といった特徴を持つ。もう 1 つはタイプ 2 と呼ばれ、「低速」「意識」「統制的」 「規則的」などの特徴を持つ。無意識という性質に関して、無意識的思考とタイプ 1 の認知プ ロセスは共通している。しかしながら、無意識的思考は低速な情報処理であり、連想的シス テムだけが単純に作動しているわけではない(Dijksterhuis and Nordgren 2006; Dijksterhuis and Strick 2016)。無意識的思考はタイプ 2 と共通する部分もあり、無意識的思考とタイプ 1 の認知プロセスを同一視できない(Garrison and Handley 2017)。以上より、無意識的思考 理論と二重過程理論は異なる情報処理理論として位置づけられる。 次に、無意識的思考研究とプライミング研究の相違点を検討する。プライミングとは、先行 刺激(プライム)が後続刺激(ターゲット)の反応に影響を及ぼす現象のことを指す(Janiszewski and Wyer 2014;西本・勝又・本橋・石丸・高橋 2016)。消費者行動と関連するプライミング研 究は、1980 年代には存在していた(Minton, Cornwell, and Kahle 2017)。たとえば、美容液の ニュース記事を閲覧した後に、栄養ドリンクのニュース記事と接触すると、栄養ドリンクの支払 意思額が増加することがある(西本ら 2016)。これはプライミング効果の一例である。この場 合、先行刺激が導く自動的な情報処理に対して、消費者は意識的にアクセスできていない。先 行刺激が閾上呈示されるとプライミング効果、閾下呈示されるとサブリミナル効果と呼ばれ
る。プライミング研究は先行刺激への認知を前提とする点で、無意識的思考研究と共通してい る。プライミング研究はコンテクスト効果を検討しているが(Chartrand 2005;西本ら 2016)、 無意識的思考研究は購買意思決定プロセスの枠組みに基づき、消費者の認知プロセスを検討で きる。プライミング研究の知見を判断・意思決定の分野に応用した新しい研究として、無意識 的思考研究は位置づけられる(Bargh 2011)。
Ⅲ 定量的手法を用いたレビュー
本節では論文のタイトルと要約を分析し、文献レビューを行う。その際、統計モデルの LDA を用いた。無意識的思考研究の領域や研究テーマの変遷をレビューすることが目的で ある。 3-1 対象論文の抽出 まず、レビューの対象論文を絞り込む。近年のサーベイ論文では、文献データベースでキー ワードを設定し、文献を選定することが多い(e.g., 勝又・西本・ウィラワン・飯野・井上 2016)。そこで、本研究は Web of Science を用いて、論文を抽出した。過去の論文タイトルや キーワードを参照し(Dijksterhuis 2004; Dijksterhuis et al. 2006; Dijksterhuis and Nordgren 2006; Strick et al. 2011)、「unconscious thought」「unconscious thought theory」「unconscious thought effect」「the deliberation-without-attention effect」をキーワードとして、英語論文を 検索した。 Dijksterhuis(2004)以降、無意識的思考研究が本格的に展開されてきたため (Dijksterhuis and Nordgren 2006)、検索期間を 2004 年から 2018 年までの 15 年間とした。そ の結果、1072 件の論文がヒットし、タイトル、出版年、著者、雑誌、要約の情報を得た。 3-2 基礎的な集計 Web of Scienceから得られた基礎的な情報に基づき、研究の動向を探った。まず、年別論 文件数の推移(図 2)より、論文数が近年増加傾向にあると示された。論文件数を雑誌別の ランキング形式で整理したところ(表 2)、多くの研究が心理学の学術誌に掲載されており、 マーケティングや消費者行動の分野において、無意識的思考研究は発展途上の段階にあるこ とが判明した。そのなかでも、Psychology & Marketing で最も件数が多く、続いて Journal of Consumer Psychology、Journal of Consumer Research、Journal of Marketing Research が同じ件数で並んでいた。3-3 分析方法 テキスト分析を行うにあたり、タイトルと要約を形態素解析によって定量データへと変換 した。形態素解析に関しては、英語の形態素解析器である Tree Tagger を用いて品詞と原 型を得て、名詞、形容詞、動詞(be, do, have 動詞を除く)を抽出した(勝又ら 2016)。動詞 や名詞はすべて原型に変換して、分析を行うことができる。複数の文書でみられ、特定の意 味をもたない数値、記号、1 文字の単語を除外した。形態素解析によって得られた、最終的 なデータセットは文書(論文)数 D=1,072、語彙数 V=12,560、語長 N=111,612 であった。 また、1 本の論文につき、平均 97 語が分析対象となっていた。 トピックの分類には、複数のテキストデータから潜在的なトピックを推定できる LDA を 用いた(Blei, Ng, and Jordan 2003)。LDA はテキストデータの分類にしばしば用いられてい る(e.g., Griffiths and Steyvers 2004; Liu, Burns, and Hou 2017; Tirunillai and Tellis 2014)。 LDA によって、膨大な数の論文を分析できるようになるため、マーケティングや消費者行 動のサーベイ論文で、LDA は統計モデルとして採用されてきた(勝又ら 2016;Wang et al. 2015)。モデルの推定には、高速な推定法である崩壊型ギブスサンプリング(collapsed gibbs sampling)を適用した(Griffiths and Steyvers 2004)。推定の際、トピック数 K=10(1)とし、 イタレーション数 1,500 回(稼働検査期間 500 回)とした。モデルや推定方法の詳細な解説 は Blei et al.(2003)、Griffiths and Steyvers(2004)をご参照いただきたい。 0 20 40 60 80 100 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016 2018 論 文 本 数 年 図 2 年別論文件数
表 2 雑誌別論文件数のランキング
雑誌名 件数 占有率
1 INTERNATIONAL JOURNAL OF PSYCHOANALYSIS 59 5.5%
2 FRONTIERS IN PSYCHOLOGY 26 2.4%
2 JOURNAL OF ANALYTICAL PSYCHOLOGY 26 2.4%
4 CONSCIOUSNESS AND COGNITION 24 2.2%
5 PSYCHOANALYTIC INQUIRY 22 2.1%
6 CONTEMPORARY PSYCHOANALYSIS 19 1.8%
6 PSYCHOANALYTIC DIALOGUES 19 1.8%
8 JOURNAL OF THE AMERICAN PSYCHOANALYTIC ASSOCIATION 15 1.4%
8 PLOS ONE 15 1.4%
10 JOURNAL OF EXPERIMENTAL SOCIAL PSYCHOLOGY 14 1.3%
10 PSYCHOANALYTIC QUARTERLY 14 1.3%
12 SOCIAL COGNITION 13 1.2%
13 PSYCHOLOGICAL SCIENCE 12 1.1%
14 JOURNAL OF SOCIAL WORK PRACTICE 11 1.0%
15 PSYCHOANALYTIC PSYCHOLOGY 10 0.9%
16 JUDGMENT AND DECISION MAKING 9 0.8%
17 COGNITION 8 0.7%
17 JOURNAL OF CONSCIOUSNESS STUDIES 8 0.7%
19 JOURNAL OF PERSONALITY AND SOCIAL PSYCHOLOGY 7 0.7%
20 BRITISH JOURNAL OF PSYCHOTHERAPY 6 0.6%
20 JUNG JOURNAL-CULTURE & PSYCHE 6 0.6%
20 UNCONSCIOUS THOUGHT IN PHILOSOPHY AND PSYCHOANALYSIS 6 0.6%
23 JOURNAL OF BEHAVIORAL DECISION MAKING 5 0.5%
23 MEMORY & COGNITION 5 0.5%
23 PERSPECTIVES ON PSYCHOLOGICAL SCIENCE 5 0.5%
23 PSYCHOLOGY & MARKETING 5 0.5%
23 UNCONSCIOUSNESS BETWEEN PHENOMENOLOGY AND PSYCHOANALYSIS 5 0.5%
(中略)
41 JOURNAL OF CONSUMER PSYCHOLOGY 3 0.3%
41 JOURNAL OF CONSUMER RESEARCH 3 0.3%
41 JOURNAL OF MARKETING RESEARCH 3 0.3%
3-4 分析結果 LDA の分析結果は表 3 のとおりである。各トピックの単語を所属確率の高い順に確認し ていくと、潜在的なトピックの意味内容を解釈できる。 無意識的思考理論の提唱者 Dijksterhuis が著した論文のトピック占有率を分析した。該当 する論文は 21 件あり、ほとんどの論文で Topic 2 の占める割合が高い。たとえば、Topic 2 の所属確率に関して、Dijksterhuis(2004)は 88.2%、Dijksterhuis et al.(2006)は 77.6%、 Dijksterhuis and van Olden(2006)は 85.5% であった。無意識的思考研究は判断・意思決定 を主たる研究対象としていた。これに加えて、Topic 3 の占める割合が高い論文もある。た とえば、Topic 3 の所属確率に関して、Dijksterhuis and Meurs(2006)は 14.5%、Zhong, Dijksterhuis, and Galinsky(2008)は 13.8% であった。ただし、判断・意思決定と創造性に関 する研究は類似した実験的アプローチを採用してきたため、Dijksterhuis and Meurs(2006) と Zhong et al.(2008)は Topic 2 の所属確率も高かった。総じて、Topic 2 と Topic 3 以外 のトピック所属確率は低かった。したがって、Topic 2 と Topic 3 以外は無意識的思考研究 の関連領域のトピックであると判明した。近年は Topic 4 のように、無意識的思考研究の知 見を社会科学の諸領域に応用した分野横断的な研究も存在するが(Reinhard, Greifeneder, and Scharmach 2013)、無意識的思考研究は判断・意思決定に関する研究、創造性に関する 研究に大別される。 表 3 各トピックにおける所属確率の高い単語
Topic1 Topic2 Topic3 Topic4 Topic5
意識 判断・意思決定 創造性 社会科学 研究方法論
1 consciousness unconscious process idea use
2 human thought thinking social research
3 conscious decision cognitive way study
4 mind make model life approach
5 state conscious problem think behavior
6 action information implicit time knowledge
7 other experiment discuss change attention
8 such participant base individual influence
9 question result intuition explore implication
10 argue condition creativity people child
11 propose complex role cultural understand
12 give show creative new psychological
Topic 6 Topic 7 Topic 8 Topic 9 Topic 10
実験方法論 臨床心理学 精神分析学 分析心理学 夢分析
1 effect patient experience article theory
2 task case author paper unconscious
3 present group concept world work
4 memory bias psychoanalytic Jung Freud
5 study report unconscious psychology dream
6 processing identify relationship nature consider
7 control treatment analyst subject view
8 response think clinical image language
9 awareness care patient take part
10 brain anxiety work particular emotion
11 stimulus issue development relation play
次に、トピック所属確率の時系列変化に注目し、研究テーマの変遷を分析する。各論文を 年ごとに集計し、トピック所属確率の年別平均値を算出した(図 3)。2004 年は、Topic 8 の 占める割合が高く、Topic 3 と Topic 7 の占める割合が若干低かった。ただし、2018 年に は、各トピックの所属確率は約 10% に収束していた。消費者行動論で重要な研究テーマで ある Topic 2 の動きを見ると、2009 年から 2011 年の間、Topic 2 は他のトピックよりも大き な注目を集めていたことが明らかである。それに少し遅れを取り、Topic 6 に関する研究も 活発化していった。ただし、マーケティングや消費者行動の学術誌に掲載された論文数を考 えると(表2)、消費者行動論との接続を念頭に置いた本格的な研究は少ないのが現状である。 最後に、論文件数の多い学術誌、マーケティングや消費者行動を専門とする学術誌に関し て、どのトピックの占有率が高いのかを分析した。各論文を学術誌ごとに集計し、トピック所 属確率の雑誌別平均値を算出した(表 4)。表 4 は、消費者行動論にかかわる学術誌において、 主要な研究テーマが異なっていることを示している。Dijksterhuis et al.(2006)のように、 Topic 2 の占める割合が高い論文は、Psychology & Marketing よりも Journal of Consumer Psychology、Journal of Consumer Research、Journal of Marketing Research に掲載されてい た。マーケティングや消費者行動と直接関連していない学術誌のなかでも、判断・意思決定を 専 門 と す る 雑 誌(e.g., Judgement and Decision Making, Journal of Behavioral Decision Making)や、社会心理学を専門とする一部の雑誌(e.g., Journal of Experimental Social Psychology, Social Cognition)では、Topic 2 の割合が高かった。したがって、これらの雑誌 にはマーケティング、消費者行動の研究者が参考となる論文が多数含まれていると考えられる。 2004 2008 2012 2016 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 夢分析 年 トピック所属確率 2004 2008 2012 2016 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 分析心理学 年 トピック所属確率 2004 2008 2012 2016 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 精神分析学 年 トピック所属確率 2004 2008 2012 2016 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 臨床心理学 年 トピック所属確率 2004 2008 2012 2016 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 実験方法論 年 トピック所属確率 2004 2008 2012 2016 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 研究方法論 年 トピック所属確率 2004 2008 2012 2016 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 社会科学 年 トピック所属確率 2004 2008 2012 2016 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 創造性 年 トピック所属確率 2004 2008 2012 2016 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 判断・意思決定 年 トピック所属確率 2004 2008 2012 2016 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 意識 年 トピック所属確率 図 3 研究トピックの推移
表 4 雑誌・論文別のトピック所属確率 雑誌名(論文名) 件数 意識 判断・ 意思決定 創造性 社会 科学 研究 方法論 実験 方法論 臨床 心理学 精神 分析学 分析 心理学 夢分析 INTERNATIONAL JOURNAL OF PSYCHOANALYSIS 59 5.3 % 3.3 % 6.2 % 6.9 % 5.3 % 2.9 % 4.2 % 43.5 % 9.8 % 10.3 % FRONTIERS IN PSYCHOLOGY 26 8.4 % 30.7 % 12.8 % 3.9 % 6.4 % 19.4 % 4.2 % 4.7 % 4.9 % 4.6 % JOURNAL OF ANALYTICAL PSYCHOLOGY 26 8.2 % 3.7 % 4.3 % 11.6 % 5.1 % 5.0 % 3.1 % 23.9 % 24.0 % 10.9 % CONSCIOUSNESS AND COGNITION 24 7.5 % 31.1 % 9.8 % 4.5 % 5.7 % 28.2 % 2.9 % 1.6 % 2.8 % 5.9 % PSYCHOANALYTIC INQUIRY 22 6.2 % 2.9 % 9.3 % 7.9 % 9.5 % 4.4 % 2.9 % 34.7 % 6.2 % 15.8 % CONTEMPORARY PSYCHOANALYSIS 19 5.4 % 3.5 % 4.3 % 11.6 % 4.9 % 3.5 % 7.9 % 37.0 % 11.7 % 10.3 % PSYCHOANALYTIC DIALOGUES 19 5.0 % 2.5 % 5.6 % 9.2 % 4.3 % 2.3 % 6.5 % 46.0 % 9.0 % 9.7 % JOURNAL OF THE AMERICAN PSYCHOANALYTIC ASSOCIATION 15 8.5 % 3.7 % 8.1 % 8.0 % 5.5 % 4.3 % 2.8 % 33.5 % 8.1 % 17.5 % PLOS ONE 15 8.2 % 15.8 % 8.4 % 2.7 % 7.0 % 30.9 % 17.2 % 2.7 % 1.8 % 5.3 % JOURNAL OF EXPERIMENTAL SOCIAL PSYCHOLOGY 14 2.4 % 42.7 % 8.7 % 3.5 % 8.4 % 20.7 % 6.8 % 2.8 % 2.8 % 1.2 % PSYCHOANALYTIC QUARTERLY 14 4.5 % 1.8 % 7.1 % 5.3 % 6.6 % 1.2 % 4.3 % 52.2 % 7.9 % 9.0 % SOCIAL COGNITION 13 3.4 % 59.4 % 8.4 % 4.3 % 4.6 % 8.8 % 4.3 % 1.4 % 2.9 % 2.3 % PSYCHOLOGICAL SCIENCE 12 7.4 % 41.3 % 7.4 % 10.4 % 2.8 % 19.9 % 1.7 % 2.4 % 1.4 % 5.3 % JOURNAL OF SOCIAL WORK PRACTICE 11 4.8 % 3.0 % 6.7 % 18.7 % 16.1 % 2.1 % 10.6 % 25.7 % 7.1 % 5.4 % PSYCHOANALYTIC PSYCHOLOGY 10 4.2 % 5.2 % 10.5 % 6.5 % 10.2 % 5.4 % 4.7 % 35.4 % 8.6 % 9.3 % JUDGMENT AND DECISION MAKING 9 4.5 % 68.3 % 4.2 % 1.6 % 5.9 % 4.8 % 7.3 % 0.7 % 2.1 % 0.6 % COGNITION 8 9.4 % 10.5 % 11.8 % 4.3 % 6.3 % 46.7 % 2.0 % 2.3 % 2.2 % 4.5 % JOURNAL OF CONSCIOUSNESS STUDIES 8 33.4 % 7.6 % 6.1 % 6.4 % 8.8 % 9.3 % 3.3 % 2.9 % 13.0 % 9.3 % JOURNAL OF PERSONALITY AND SOCIAL PSYCHOLOGY 7 3.5 % 33.5 % 9.2 % 10.6 % 2.2 % 15.5 % 4.4 % 5.9 % 1.2 % 14.0 % BRITISH JOURNAL OF PSYCHOTHERAPY 6 5.3 % 2.8 % 5.2 % 17.0 % 7.3 % 0.6 % 2.3 % 27.2 % 16.3 % 16.0 % JUNG JOURNAL-CULTURE & PSYCHE 6 9.0 % 3.2 % 2.2 % 15.9 % 4.2 % 3.7 % 1.8 % 5.1 % 41.7 % 13.2 % UNCONSCIOUS THOUGHT IN PHILOSOPHY AND PSYCHOANALYSIS 6 3.3 % 53.3 % 0.0 % 10.0 % 0.0 % 0.0 % 0.0 % 0.0 % 22.2 % 11.1 % JOURNAL OF BEHAVIORAL DECISION MAKING 5 2.0 % 60.6 % 9.1 % 2.1 % 4.8 % 15.2 % 1.8 % 1.6 % 0.8 % 2.1 % MEMORY & COGNITION 5 3.1 % 20.7 % 34.5 % 2.3 % 8.0 % 22.6 % 2.8 % 1.2 % 0.9 % 3.8 % PERSPECTIVES ON PSYCHOLOGICAL SCIENCE 5 16.3 % 21.1 % 24.5 % 3.8 % 5.6 % 14.5 % 3.7 % 1.1 % 3.7 % 5.6 % PSYCHOLOGY & MARKETING 5 7.8 % 11.6 % 5.9 % 10.4 % 36.3 % 14.1 % 2.5 % 2.4 % 2.1 % 6.8 % UNCONSCIOUSNESS BETWEEN PHENOMENOLOGY AND PSYCHOANALYSIS 5 44.9 % 4.3 % 4.3 % 4.4 % 3.5 % 2.3 % 2.5 % 4.4 % 15.7 % 13.6 % (中略) JOURNAL OF CONSUMER PSYCHOLOGY 3 1.7 % 71.4 % 8.1 % 2.8 % 2.6 % 5.9 % 4.6 % 0.8 % 1.2 % 1.0 % JOURNAL OF CONSUMER RESEARCH 3 16.9 % 46.1 % 10.5 % 3.3 % 9.7 % 2.5 % 1.2 % 2.2 % 3.3 % 4.1 % JOURNAL OF MARKETING RESEARCH 3 3.6 % 60.7 % 15.2 % 6.0 % 2.8 % 2.5 % 4.2 % 2.1 % 1.4 % 1.4 % (論文) Dijksterhuis, Bos, Nordgren, and van Baaren, 2006, SCIENCE 4.5 % 77.6 % 4.5 % 6.0 % 0.0 % 1.5 % 0.0 % 1.5 % 1.5 % 3.0 %
Ⅳ 主要論文のレビュー
本節は前節でレビューした論文をさらに絞り込み、消費者行動に関連した主要な論文をレ ビューしていく。既存研究を類型化し、系統的なレビューを行うことが目的である。
4-1 対象論文の抽出
1,072 件の論文のうち、「unconscious thought」「unconscious thought theory」「unconscious thought effect」「The deliberation-without-attention effect」のいずれかをタイトルに含む英 語論文に絞り、81 件の論文を得た。そこから、無意識的思考研究の実験枠組みに依拠し(2 節)、判断・意思決定に関する研究を抽出した。そのため、サーベイ論文はレビューの対象 としていない。また、批判的な検討を行った研究は Bargh(2011)で解説されていたため、 レビューの対象に含めなかった。その結果、18 件の論文が抽出された。LDA の分析結果を 参照し(3 節)、該当論文は判断・意思決定のトピック占有率が高いことを確認した(2)。 4-2 レビューの枠組み 無意識的思考理論が提唱されて以降(Dijksterhuis and Nordgren 2006)、情報処理メカニ ズムの解明を試みた研究が増加してきた(Dijksterhuis and Strick 2016)。また、思考モード の効果がさまざまな調整変数によって変化することを指摘した研究が多い(Strick et al. 2011)。そこで、既存研究を「思考モードの情報処理メカニズムに関する研究」と「思考モー ドと判断・意思決定の調整変数に関する研究」の 2 つに大別した。前者は思考モードの性質 を解明しようとした研究を指す。情報処理理論に基づき(青木 1992;阿部 1984)、「情報取得 プロセスに着目した研究」と「情報統合プロセスに着目した研究」に細分化した。後者は思 考モードの効果の境界条件を示そうとした研究である。消費者の外的要因と内的要因に基づ き、「環境要因に着目した研究」と「個人差要因に着目した研究」に細分化した。図 4 で既 存研究の着眼点、図 5 で既存研究の分類軸を示している。表 5 で実験の概要を示した。
4-3 思考モードの情報処理メカニズムに関する研究 4-3-1 情報取得プロセスに着目した研究 消費者の情報取得プロセスとは、「情報の取得と解釈に関わるプロセス」であり、「注意」 と「理解」の 2 つの概念でとらえられる(青木 1992)。無意識的思考研究では、消費者の意 識的な情報取得を前提とする。そのため、情報の取得よりも解釈にかかわる研究が多い。 最初に、消費者が意思決定課題を認知していない間に無意識的思考が作動し、情報の解釈 が行われていることを示した研究を述べる。Strick, Dijksterhuis, and van Baaren(2010)は 2 つの実験を行い、無意識的思考群の被験者は即時処理群や意識的思考群よりも規範的に優 れた選択をしていたことを確認した。無意識的思考群の被験者のみ、情報取得後に意思決定 を行うことで望ましい選択ができており(Experiment 1)、意識的思考群と無意識的思考群 情報処理メカニズムに関する研究 無意識的思考 意識的思考 情報獲得 意思決定関連タスク 判断・意思決定 即時処理 妨害タスク 調整変数 意思決定課題 の導入 判断・意思決定後の評価 図 4 既存研究の着眼点 消費者行動に関連する 無意識的思考研究 思考モードの情報処理メカニズム に関する研究(4‒3) 思考モードと判断・意思決定の 調整変数に関する研究(4‒4) 情報取得プロセスに着目 した研究(4‒3‒1) 情報統合プロセスに着目 した研究(4‒3‒2) 環境要因に着目した研究 (4‒4‒1) 個人差要因に着目した 研究(4‒4‒2) 図 5 既存研究の類型化
の被験者は、思考前に形成された印象と選択が乖離していたこと(Experiment 2)から、無 意識的思考は妨害タスクの遂行時に活性化していると結論づけられた。Creswell, Bursley, and Satpute(2013)は、妨害タスクの遂行時に無意識的思考が作動していることを脳科学の 手法を用いて検証した。その結果、同研究は情報取得時に活性化していた右背外側前頭前皮 質(right dorsolateral prefrontal cortex)と左中間視覚野(left intermediate visual cortex) が妨害タスクの遂行時にも活性化していることを示している。 情報を解釈する方法は大きく 2 つ存在する。1 つは外部情報を組み合わせて、情報を解釈 するボトムアップ型処理で、もう 1 つは内部情報を用いて、情報を効率よく解釈するトップ ダウン型処理である(新倉 2005)。Bos and Dijksterhuis(2011)は、思考モードと情報の解 釈方法の関係性を分析した。ステレオタイプに一致する情報と一致しない情報が人物の印象 形成にどれだけ影響を及ぼしたのかという観点から、同研究はトップダウン型処理とボトム アップ型処理の量を測定した。2 つの実験を通して、意識的思考群の被験者はステレオタイ プとかかわる情報に依拠した印象形成(トップダウン型処理)をしていたのに対し、無意識 的思考群の被験者はステレオタイプと関係なく多様な情報に基づいて印象形成(ボトムアッ プ型処理)をしていたことが示されている。 解釈された情報は記憶として蓄積されていくが、消費者の記憶構造に注目した研究もあ る。無意識的思考が規範的に優れた判断・意思決定をもたらすのは、思考モードが記憶表象 に影響を及ぼすからであると、Dijksterhuis(2004)は考えた。同研究の Experiment 4 におい て、無意識的思考群の被験者は、規範的に最も望ましい選択肢のポジティブな情報と規範的 に最も望ましくない選択肢のネガティブな情報を正確に再認できることが示された。また、 Experiment 5 では、被験者が再生した情報の順番に基づき、記憶の組織化レベルを測定し た。その結果、無意識的思考群の被験者は情報を組織的に保持できることが示されている。 Abadie, Waroquier, and Terrier(2013)はファジートレース理論を導入して、被験者の記 憶表象に対して、思考モードが異なる影響を及ぼすことを指摘した。ファジートレース理論 によれば、人間の記憶は逐語的記憶(verbatim memory)と要旨的記憶(gist memory)に 2 分される。逐語的記憶は正確な記憶であるのに対し、要旨的記憶は意味の本質をとらえた 記憶である(Reyna 2012)。2 つの実験を通して、無意識的思考群(特に、認知負荷の小さい 妨害タスク)の被験者は要旨的記憶を形成しやすいことが示された。Abadie, Waroquier, and Terrier(2017)も同じような実験を行い、情報を属性ごとに 1 つずつ与えた場合、意識的思 考群の被験者は逐語的記憶を形成しやすいのに対し、情報を選択肢ごとに与えた場合、無意 識的思考群の被験者は要旨的記憶を形成しやすくなることを明らかにしている。 ここまで述べてきた研究は、被験者への情報提示回数は 1 度のみである。Li et al.(2014) は、被験者が情報を 2 回に分けて取得したときに、無意識的思考の効果が得られるのかを検 証 し た。 被 験 者 は 各 回 の 情 報 取 得 後 に 意 識 的 思 考 も し く は 無 意 識 的 思 考 を 行 う。 Experiment 1 では、正の属性を 10 個、負の属性を 6 個持つ製品、正の属性を 6 個、負の属 性を 10 個持つ製品を刺激として作成した。2 回目に、被験者は両製品とも正の属性、負の属 性を 4 個ずつ、計 16 個の情報を得る。2 回目に取得した情報だけに注目すると、2 つの製品 価値は規範的に等しくなる。同研究において、2 つの製品価値を差別化できていたのは、無 意識的思考群であった。したがって、無意識的思考群の被験者は異時点間の情報を解釈でき るのに対し、意識的思考群の被験者は異時点間の情報を解釈できないことが明らかにされた。 Li, Zhao et al.(2017)も Li et al.(2014)と類似した実験を行っている。ただし、Li, Zhao
et al.(2017)において、被験者は 1 回目の情報取得後に意識的思考もしくは無意識的思考を 行うが、2 回目の情報取得後すぐに製品評価を行わなければいけない。2 つの実験を通し て、意識的思考群の被験者は新しい情報の影響を受けやすいが、無意識的思考群の被験者は 新しい情報の影響を受けにくいことが示された。つまり、無意識的思考群の被験者が製品評 価に使用していたのは、1 回目に提示された情報である。 4-3-2 情報統合プロセスに着目した研究 消費者の情報統合プロセスとは、「情報の統合に関わるプロセス」であり、「評価」「意思決 定」「再構成」の 3 つの概念でとらえられる(青木 1992)。情報統合プロセスに注目した研究 は比較的少なかった。 Bos et al.(2011)は情報の重みづけに注目し、無意識的思考を行ったとき、属性の価値に 基づいた相対的評価が可能であることを示した。同研究では、被験者が重視する属性と重視 しない属性を区別し、2 種類の刺激を作成した。1 つは正の属性が少なく、負の属性が多い 製品であるが、正の属性の重要度が高い。もう 1 つは正の属性が多く、負の属性が少ない製 品であるが、正の属性の重要度が低い。価値の重みを評価に反映できた場合、前者の刺激の 評価が高くなるはずである。即時処理群と比較して、無意識的思考群の被験者は正の属性の 数ではなく、属性の価値に基づいた相対的評価を下せることが明らかになった。 また、情報の評価方法と選択行動の関係を検討した研究がある。Dijksterhuis(2004)は Experiment 2 で、包括的判断(global judgement)と限定的判断(specific judgement)の 2 つの評価方法に注目した。少数(1 つもしくは 2 つ)の情報に基づいて判断を下した場合、 限定的判断を行ったとみなす。一方、複数の情報に基づいて判断を下した場合、包括的判断 を行ったとする。分析の結果、無意識的思考群の被験者は意識的思考群よりも、包括的判断 を行っていたことが明らかになった。さらに、被験者全体の傾向として、包括的判断をした とき、規範的に望ましい選択ができていたことも示された。したがって、無意識的思考は多 数の情報を包括的に処理することを可能にするのである。 4-4 思考モードと判断・意思決定の調整変数に関する研究 4-4-1 環境要因に着目した研究 思考モードの効果はさまざまな調整変数によって変化すると指摘されてきたが(Strick et al. 2011)、環境要因として、課題の複雑さに注目した研究がある。Dijksterhuis(2004)は、 情報量の多い複雑な課題において、無意識的思考が有効であることを示した。そして、 Dijksterhuis et al.(2006)は Study 1 と Study 2 で、思考モードの効果が課題の難易度に応 じて変化することを示した。複雑な課題のとき、無意識的思考群の被験者は規範的に望まし い選択や評価ができていた。一方で、意識的思考群の被験者が規範的に望ましい選択や評価 を行えていたのは、単純な課題のときであった。Dijksterhuis(2004)や Dijksterhuis et al.(2006)の実験手続きを踏襲した既存研究が多く、課題の複雑さは調整変数としての重要 度が極めて高い。 Nordgren, Bos, and Dijksterhuis(2011)は、多数の情報を統合しつつも、規則にも従わな
ければいけない複雑な課題において、思考モードの組み合わせの効果を検討した。無意識的 思考を行ったとき、処理容量の制約を受けにくい。一方、意識的思考は正確な評価を可能に する。そこで、同研究は規則に従うことが要求される複雑な課題において、意識的思考と無 意識的思考の両方を実行することが重要であると示した。また、意識的思考を最初に行い、 無意識的思考を次に行うという、順番が重要であることも確認されている。 次に、どのような情報を取得するかによって、思考モードの効果が変化することを示した 研究を述べる。Gao, Zhang, Wang, and Ba(2012)は映画(経験財)と歯ブラシ(探索財) を実験刺激に用いて、無意識的思考の効果が情報の質(有用性)によって変化することを検 証した。分析の結果、判断・意思決定の満足度に対して、思考モードと情報の質の交互作用 効果が得られた。また、思考モード、情報量、情報の質の交互作用効果も得られた。つま り、情報量が多く、情報の質が高い場合に、無意識的思考は高い満足度をもたらしていた。 ただし、無意識的思考の効果は製品の種類によって異なり、映画(経験財)を実験刺激とし た場合に顕著にみられた。 また、どのような形式で情報を取得するかによって、思考モードの効果が異なることを指 摘した研究もある。Abadie, Waroquier, and Terrier(2016)は 2 つの実験を行い、ベイスメ タ分析を適用することで、情報を属性ごとにまとめて取得した場合、意識的思考群の被験者 が規範的に優れた評価を下せることを示した。一方、情報を選択肢ごとに取得した場合、無 意識的思考群の被験者が優れた評価を下せることも明らかにした(3)。 前項で、妨害タスクの遂行時に無意識的思考が作動していることを述べたが(Creswell et al. 2013; Strick et al. 2010)、妨害タスク自体が調整変数になり得ると指摘した研究がある。既 存研究では、n バックタスクやアナグラムを妨害タスクとして用いることが多い(表 5)。Li, Wang, Shen, and Fan(2017)は文字識別タスクを被験者に課した。このタスクでは小さな文 字の集合で構成された大きな 1 つの文字が提示され、大小いずれかの文字(アルファベット) を回答することが求められる。被験者がどの部分に目を向けるかによって、活性化する情報処 理スタイルが異なってくる。小さな文字に注意していると局所的処理(local processing)が促 されるのに対し、大きな文字に注意していると包括的処理(global processing)が促される。 分析の結果、包括的処理が活性化する妨害タスクを遂行した際、無意識的思考の効果が大きく なると示された。また、Hu et al.(2018)は安静状態(resting state)という条件を新しく設定 し、実験を行った。安静状態群の被験者は緊張を緩め、目を閉じ、意思決定課題のことを考え ないように指示される。意識的思考群と比較したとき、無意識的思考群や安静状態群の被験者 は規範的に優れた評価を行えていた。 4-4-2 個人差要因に着目した研究 思考モードと判断・意思決定の調整変数として、個人差要因に注目した研究を述べる。消 費者は問題を解決するために目標を設定するが、問題に対する動機づけがない限り、無意識 的思考の効果は得られないと指摘した研究がある。Bos et al.(2008)は妨害タスクを行う が、実験の最後に意思決定課題があると伝えられていない条件(妨害群 : mere distraction) を新たに追加した。妨害群の被験者は、無意識的思考群と同じ妨害タスクを行うが、意思決 定に動機づけられていない。その結果、無意識的思考群の被験者は優れた製品評価を下せて いたのに対し、妨害群の被験者は優れた製品評価ができていなかった(Experiment 1a)。ま
た、複数の課題が与えられたとき、動機づけられた事柄に対して、無意識的思考は機能する ことも明らかにされている(Experiment 3)。 Zhou, Zhou, Li, and Zhang(2015)は、認知スタイルが思考モードの効果に影響を及ぼす ことを示した。全体志向型(wholist)の被験者は分析志向型(analytic)の被験者よりも認 知的制約を受けにくい。そのため、全体志向型の被験者間で、2 つの思考モードの効果差は 得られなかった。これに対して、分析志向型の被験者は、無意識的思考を行うことによって 規範的な判断・意思決定を下しやすくなることが示された。 Garrison and Handley(2017)の Experiment 1 は、二重過程理論で仮定されている情報処 理の合理的システム(rational system)と経験的システム(experiential system)をマイン ドセットとして操作し、調整変数としてのマインドセットの効果を分析した。同研究では、 数学の問題を解くことで合理的なマインドセットを形成させ、絵を描くことで経験的なマイ ンドセットを形成させた。その結果、思考モードとマインドセットの交互作用効果は得られ ず、無意識的思考と経験的システムを同一視できないことが示された。 表 5 既存研究の実験概要 研究 実験刺激 情報処理方法 妨害タスク 測定変数主な IP CT UT その他 Dijksterhuis (2004) Ex1 賃貸マンション ○ ○ ○ 2 バックタスク 評価 Dijksterhuis (2004) Ex2 賃貸マンション ○ ○ ○ 2 バックタスク 選択 Dijksterhuis (2004) Ex3 人 ○ ○ ○ アナグラム 評価 Dijksterhuis (2004) Ex4 人 ○ ○ ○ アナグラム 再認 Dijksterhuis (2004) Ex5 人 ○ ○ ○ アナグラム 再生
Dijksterhuis et al. (2006) Study 1 自動車 ○ ○ アナグラム 選択
Dijksterhuis et al. (2006) Study 2 自動車 ○ ○ アナグラム 評価
Bos et al. (2008) Ex1a 自動車 ○ ○ ○ ワードパズル 評価
Bos et al. (2008) Ex1b 自動車 ○ ○ ○ ワードパズル 再生
Bos et al. (2008) Ex2 人 ○ ○ アナグラム 再生
Bos et al. (2008) Ex3 自動車・人 ○ 2 バックタスク 評価
Strick et al. (2010) Ex1 人 ○ ○ ○ アナグラム 選択
Strick et al. (2010) Ex2 人 ○ ○ ○ アナグラム 評価・選択
Bos and Dijksterhuis (2011) Ex1 人 ○ ○ ワードパズル 評価・再生
Bos and Dijksterhuis (2011) Ex2 人 ○ ○ ワードパズル アクセシビリティ
Bos et al. (2011) Ex1 自動車 ○ ○ 2 バックタスク 評価
研究 実験刺激 情報処理方法 妨害タスク 主な 測定変数
IP CT UT その他
Bos et al. (2011) Ex3 自動車 ○ ○ ○ 2 バックタスク 評価・再生
Nordgren et al. (2011) Study1 賃貸マンション ○ ○ ○ ○ アナグラム 選択
Nordgren et al. (2011) Study2 賃貸マンション ○ ○ ○ ○ アナグラム 選択
Gao et al. (2012) Ex1 映画 ○ ○ 英文法テスト 満足度
Gao et al. (2012) Ex2 歯ブラシ ○ ○ 英文法テスト 満足度
Abadie et al. (2013) Ex1 賃貸マンション ○ ○ 0 バックタスク 選択・再認
Abadie et al. (2013) Ex2 賃貸マンション ○ ○ 0or2 バックタスク 選択・再認
Crewswell et al. (2013) 家・自動車など ○ ○ ○ 2 バックタスク 評価・MRI スキャン
Li et al. (2014) Ex1 携帯電話 ○ ○ 2 バックタスク 評価
Li et al. (2014) Ex2 携帯電話 ○ ○ 2 バックタスク 評価
Zhou et al. (2015) 携帯電話 ○ ○ 2 バックタスク 評価
Abadie et al. (2016) Ex1 賃貸マンション ○ ○ ○ アナグラム 評価・再認
Abadie et al. (2016) Ex2 賃貸マンション ○ ○ ○ アナグラム 評価・再認
Abadie et al. (2017) 賃貸マンション ○ ○ ○ 2 バックタスク 評価・再認
Garrison and Handley (2017)Ex1 人 ○ ○ アナグラム 評価・選択
Li, Wang et al. (2017) Ex1 携帯電話 ○ ○ 文字識別 評価
Li, Wang et al. (2017) Ex2 携帯電話 ○ ○ 文字識別 評価
Li, Wang et al. (2017) Ex3 人 ○ ○ 文字識別 評価・再生
Li, Zhou et al. (2017) Ex1 携帯電話 ○ ○ 2 バックタスク 評価
Li, Zhou et al. (2017) Ex2 携帯電話 ○ ○ 2 バックタスク 評価
Hu et al. (2018) Ex1 仕事 ○ ○ ○ アナグラム 評価・選択
Hu et al. (2018) Ex2 仕事 ○ ○ ○ アナグラム 評価・選択
Hu et al. (2018) Ex3 仕事 ○ ○ ○ ○ アナグラム 評価・選択
注)IP:即時処理(immediate processing);CT:意識的思考(conscious thought);UT:無意識的思考(unconscious thought) 表 5 既存研究の実験概要(つづき)
Ⅴ 考察
5-1 レビューのまとめ 本研究は無意識的思考研究の体系化を目指し、文献レビューを行ってきた。1 節で掲げた 3 つの課題と照応させながら、レビューのまとめを行う。 3 節の定量的手法を用いたレビューでは、無意識的思考研究の領域を明確にした(課題 1)。LDA の分析結果から、無意識的思考研究は判断・意思決定と創造性の 2 つの領域に類型 化できることが示された。膨大なテキストデータに LDA を適用することで、既存研究を体 系的に分類することが可能になったといえる。また、各トピックの動的な変化を追うことで (課題 2)、判断・意思決定に関する研究が無意識的思考研究の中核を担っていることを示し た。同時に、マーケティングや消費者行動の学術誌における論文数が少ないことから、消費 者行動論との接続を念頭に置いた本格的な研究は少ないことも確認された。 4 節の主要論文のレビューでは、既存研究の分類枠組みを新たに提案し(図 4, 5)、それら を系統的に整理した(課題 3)。Dijksterhuis and Strick(2016)の実験手続きの図を参照し つつも、その図に情報処理プロセス(青木 1992;阿部 1984)や購買意思決定プロセス(新倉 2005)の概念を加え、研究の全体像を示した。無意識的思考理論における、第 1 の原則 (Creswell et al. 2013; Strick et al. 2010)、第 3 の原則(Bos and Dijksterhuis 2011)、第 4 の 原則(Bos et al. 2011)が実証されたことは、情報処理メカニズムに関する研究の成果として 挙げられる。無意識的思考の認知プロセスが脳科学的手法によって示されたことも大きな成 果の 1 つである(Creswell et al. 2013)。また、思考モードと判断・意思決定の調整変数に関 する研究では、環境要因と個人差要因が思考モードの効果に影響を及ぼしていることが確認 された。無意識的思考が意識的思考より適している場合もあれば、その逆の場合もあり得 る。思考モードの効果を正確に把握するには、消費者の外的要因、内的要因に留意する必要 がある。 5-2 理論的貢献 消費者行動論では、伝統的に合理的な消費者を前提としてきた(Bettman 1979;新倉 2005)。その後、二重過程理論は低速な意識的処理、高速な無意識的処理に注目したが、無 意識的思考理論は低速な意識的処理、低速な無意識的処理に焦点を当てている。したがっ て、2 つは異なる情報処理理論として位置づけられる(Dijksterhuis and Strick 2016)。無意 識的思考研究は消費者行動の分析において、新たな視点をもたらしている。 判断・意思決定の中断に関する研究に対しても、無意識的思考研究は有用な知見を与え る。消費者は一連の流れのなかで購買意思決定を行っているが、中断が生じ、意思決定の方 向性が修正される場合がある。中断は消費者情報処理の中核概念の 1 つであるが(Bettman 1979)、これまで本格的に研究対象とされてこなかった(Liu 2008)。購買意思決定が中断し ているとき、無意識的思考が作動していることに注目すべきである。中断の影響を検討する 際、無意識的思考研究を理論的基盤として活用することができるだろう。5-3 実務的貢献 無意識的思考研究は消費者の判断・意思決定に対して有用な知見を生み出しているにもか かわらず、その知見を消費者行動論へ応用した研究は少なかった(3 節)。ほとんどの既存研 究は 2 節で述べた枠組みに依拠し、実験室実験を行ってきた。近年、研究の進展に伴い、生 態学的に妥当な環境下で実験が行われている。たとえば、Tan, Yi, and Chan(2015)は携帯 電話やデジタルカメラを実験刺激とし、架空のオークションサイトのページを実験に用い た。同研究のExperiment 1で、無意識的思考群の被験者は商品の割引を得るために、意思決 定と関係しないアンケート課題に取り組むように指示される。これは、インターネット上で の消費者行動を想定した妨害タスクである。また、Hasford et al.(2019)は Study 3 で実在す るテレビ(e.g., Sony, Samsung)を実験刺激に用いて、Amazon の商品サイトを模倣し、被験 者に情報を提示していた。これらの研究は実際の消費者行動を想定している点で、生態学的 に妥当な実験である。マーケティング戦略への応用を視野に入れた研究が登場しつつある。 近年、テクノロジーの進化に伴い、企業と消費者の距離は近くなった。企業のマーケター は、消費者の思考モードを変化させることが可能になったといえる。特に、デジタルマーケ ティングの領域でその傾向は顕著である(Tan et al. 2015)。企業が消費者を直接コントロー ルできない状況下においても、判断・意思決定が妨害されることで、思考モードはその都度 変化していることに注目すべきである。無意識的思考は複雑な意思決定環境下で有効であ る。したがって、購買意思決定が複雑な製品やサービス(e.g., 自動車、住宅、金融・保険、 家電)に関して、マーケターは消費者の無意識的思考に注目する必要がある。特に、情報過 多の場合、無意識的思考を駆動させるマーケティング戦略が有効となるだろう。 5-4 未検討の研究課題 2006 年に Science で無意識的思考研究が発表されて以降(Dijksterhuis et al. 2006)、さま ざまな視点から研究がなされてきた。しかしながら、いまだ解明されていない部分も多い。 以下では、4 節で概観した論文に基づき、4 つの研究課題を指摘したい。 第 1 の課題は、思考モードと意思決定方略の関係が本格的に検討されていないことである。 思考モードの情報処理メカニズムに関する研究で(4 節 3 項)、情報統合プロセスに着目した研 究は少なかった。消費者が重要な次元に基づき、厳密な評価を下すという点に関して、意識的 思考は辞書編纂型方略(lexicographic strategy)と類似した性質を持つ(Dijksterhuis and Nordgren 2006)。一方で、無意識的思考は包括的な判断を可能にするため(Dijksterhuis 2004; Lerouge 2009; Li, Zhou et al. 2017)、荷重加算型方略(weighted additive strategy)と似通っ た性質を持っている(Dijksterhuis and Nordgren 2006)。ただし、無意識的思考を行ったとし ても、情報を正確に評価できないため、両者は完全に一致していない。無意識的思考を作動さ せたときの意思決定方略を詳細に検討していく必要がある。 第 2 の課題は、思考モードと判断・意思決定の調整変数に関して(4 節 4 項)、消費者行動 論で重要視されてきた環境要因や個人差要因が検討されていないことである。たとえば、知 識や関与の影響を検討すべきである。特に、関与は状況的関与と永続的関与の 2 つに区別さ れる(青木 2010)。無意識的思考研究の枠組みでは、状況的関与の効果しか検討されていな いため(Bos et al. 2008)、永続的関与に注目した研究を行うべきである。課題要因では、情
報の類似性や曖昧性の影響を検討すべきである。無意識的思考研究は多属性効用型製品を仮 定するため(2 節)、意思決定の難易度を製品属性の数(Dijksterhuis et al. 2006)や選択肢の 数(Messner and Wänke 2011)で操作してきた。最近では、情報の類似性や曖昧性も意思 決定の難易度に影響を及ぼすと指摘されている(永井 2015)。情報の類似性や曖昧性が高く なると、意思決定の難易度が上がる。そのような状況下で、無意識的思考は有効であると推 測される。以上のような概念を調整変数として、取り入れていくことが求められる。 第 3 の課題は、変数間の因果関係を考慮した研究が少ないことである。媒介分析を適用す ることで、消費者の認知メカニズムを詳細に分析できる。たとえば、Hasford et al.(2019) は Study 2 で逐語的情報の依存度を媒介変数、情報提示方法を調整変数として、思考モード と選択行動の関係を分析した。今後は 4 節で挙げた 2 種類の研究を融合させ、変数間の因果 関係に留意した研究を積極的に行っていくべきである。 第 4 の課題は、調査を用いた研究が少ないことである。思考モードの影響を分析するた め、Dijksterhuis et al.(2006)は Study 3 と Study 4 で大学生や消費者に調査を実施した。 しかしながら、4 節でレビューした研究では、すべて実験的アプローチが取られていた。調 査を実施する場合、思考モードを測定する尺度が必要になる。Dijksterhuis et al.(2006)は 思考モードを思考量から測定した。つまり、思考量が多い人ほど意識的思考を行っており、 思考量が少ない人ほど無意識的思考を行っていることになる。ただし、同研究の尺度は 1 項 目であるため、思考モードの性質を十分に説明しているとは言い難い。将来的には、思考 モードの構成概念を正確にとらえた尺度を開発することが求められる。
Ⅵ 今後に向けて
本研究は無意識的思考研究の文献レビューを行った。消費者行動論に無意識的思考研究を 応用することで、消費者の意識的処理と無意識的処理を分析できるようになる。本研究は無 意識的思考研究を体系的に整理することが目的であったため、消費者行動論における無意識 研究の全体像を提示できなかった。無意識研究の歴史的変遷を示すことは今後の課題の 1 つ である。また、3 節の LDA の分析に関しても、課題が残されている。LDA のトピック数は 分析者自身で決定するが、トピック数を決める際、モデルの周辺尤度(勝又ら 2018; Tirunillai and Tellis 2014)やパープレキシティ(Wang et al. 2015)を参照することが多い。 しかしながら、本研究は分析から有益な示唆を得ることを重視し、解釈のしやすさを優先さ せた。この点は、本研究の限界として挙げられる。 現代を生きる消費者は、多種多様な情報源を利用しながら購買意思決定を行っている。消 費者が入手可能な情報や選択肢の数は増加の一途をたどっている。このような状況を鑑みる と、無意識的思考研究の果たす役割は一層大きくなっていくと予想される。今後は消費者行 動論との接続を念頭に置き(Hasford et al. 2019; Messner and Wänke 2011)、無意識的思考 研究を発展させていくことが求められる。そこで得られる成果は、情報過多時代における マーケティング戦略立案に対して、有用な手がかりを与えてくれるはずである。謝辞 本論文の執筆において、エリアエディター、2 名の匿名レビュアーの先生方から、大変有 益なコメントを頂戴しました。この場を借りて、御礼申し上げます。また、本研究は JSPS 科研費 17H02573 の助成を受けたものです。 注 (1) ま ず、LDA の ト ピ ッ ク 数 を{10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、 250、300}に設定し、モデルのあてはまりを比較した。その結果、トピック数が 50 のと き、周辺尤度が最大となった。ただし、トピック数を 50 にすると、トピック間で内容の 重複が発生し、解釈が困難になった。そこで、本研究はトピックの解釈しやすさを重視 し、トピック数を 10 に設定した。 (2) 該当論文のトピック所属確率の平均値は Topic 1(2.5%)、Topic 2(77.2%)、Topic 3 (4.4%)、Topic 4(2.6%)、Topic 5(1.5%)、Topic 6(6.2%)、Topic 7(1.5%)、Topic 8 (1.1%)、Topic 9(1.2%)、Topic 10(1.9%)であった。 (3) 選択肢ごとに情報を取得した場合、意識的思考が規範的に優れた選択をもたらすことを指 摘した研究もあり(Hasford et al. 2019)、さらなる検討が必要である。 参考文献
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