成瀬悟策監修/田嶌誠一編著『壺イメージ療法──その生いたちと事例研究』
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(2) 箱庭療法学研究 ◉ 第33巻 第1号 2020. とあるのは,少し違和感があった。この違和感. では,最初から箱庭の用具などの解説である。. は,筆者の図1(後述)の考察へと導いた。第. 安全性に直接の言及はないが,間接的にそれに. 2章は「イメージの治癒力」と続き, 肝心の「壺. 触れているのは「柵,塀などは防衛の意味があ. イメージ療法」はまだ出てこない。第3章「壺. る」(p.5)という部分である。一番の安全性に. イメージ療法」に入っても,なかなか本法は紹. 対する言及は,「境界例など…(中略)…あま. 介されない。「重症例に対するイメージ療法は. りにも荒れた作品が置かれるときは,途中でも. なるべくやらぬにこしたことはない」とじらさ. 中止させる…(中略)…自我によって再統合さ. れる。ようやく「3.壺イメージ療法の標準的. れる程度を越えてなされるときは,…(中略). 手続き」 (p.86)になって出てくる。. …この場合こそ,セラピストが傍らにいること. 手順: 「1.壺イメージ導入準備,2.いく. の意味がある。…(中略)…セラピスト自身が. つかの壺 (または壺状の容れ物) 出現の教示, 3.. クライエントの作品の凄まじさに耐え切れぬと. 浮かんだ壺イメージの中に入ってみて,すぐ外. 感じたときには,すぐに中止させる」 (p.8) 。. に出て蓋をする。その体験に基づいて,入りや. 安全性は「中止」以外には具体的な記述はない。. すい,居心地のよい順に並べかえる,4.居心. このタイミングで「壺イメージ法」ならうまく. 地のよい順に入っていき,その中での感じを充. 対応できるのであろうか。. 分に味わう,5.壺の外に出て蓋をする,6.. 河合(1969)は,治療者の態度として「(ク. 壺と充分に距離をとる……」 。. ライエントには)なんでも好きなように」,「強. 筆者は箱庭療法やコラージュ療法などの経験. 制せず,自由に表現の機会を与える」(p.6), 「あ. と比べながら読んでいた。 「箱庭の砂箱も壺と. まり質問をしない。下手に質問することで治療. 似ている」と思ったりする。. 関係をこわしたり,折角の治療的な流れを歪ま. 特に筆者の注意を引いたのは, 「安全弁」と. せるおそれ」 (p.7) , 「作品が作られる間,セラ. いう発想である。箱庭療法やコラージュ療法に. ピストがその傍らにいることが大切。セラピス. はそれに相当する言葉がない。著者は本法のキ. トは終始許容的な態度で,その作品のできあが. ーワードは「安全弁」 「体験様式」 「容器のイメ. っていくのをともに味わい楽しむような態度」. ージ」という。「安心・安全」という言葉が異. (p.8)と繰り返し述べている。セラピストはク. 常に繰り返されていることに気づいた。数えて. ライエントよりも先に進まない,これが安全性. みた。冒頭の「復刻にあたって」 (pp.3-14)の. 確保の方針でもあろう。田嶌は「最も頼りにな. わずか12頁に「安心・安全,安全弁,侵襲性が. る『安全弁』は,治療者の側にあるある種の非. 低い,おびやかされない」などの言葉が39か所. 侵襲的な人格である」 (p.100)と述べているが,. もある。特にp.12では12回も繰り返している。. これは河合の態度と言うことができるのではな. 「壺に入るが出られない(危機)事態」とは. いか。. 箱庭療法ではどうなのかを想像したが,すぐに. コラージュ療法は今日では安全な技法に入る. 思い浮かべることができなかった。著者は「出. とされているが,開発者である筆者自身は, 「こ. られない場合とは,治療者または患者が先を急. れは安心・安全な技法だ」とは思っていても言. ぎすぎていた場合に起こりやすい」と述べてい. わない。普及の過程において誰がどういう使い. る。箱庭療法の場合,治療者が先を急ぎ過ぎる. 方をするのか分からないという不安からであっ. ということはまずない。箱庭では安全性はどう. た。「安全な方法」と控え目に言い出したのは,. 扱われていたのであろうか。. 中井(1993)の発言からである。. 『箱庭療法入門』 (河合,1969)の冒頭と比較. 中井(1993)は『コラージュ療法入門』の「第. した。第1章「技法とその発展過程」 (pp.3-13). 8章 コラージュ私見」においてコラージュを,. ⃝ 1 02.
(3) 書 評 『壺イメージ療法』◉ 森谷寛之. 弱い関与(傍観・受け身) ・ 強い関与(介入) 精神分析(自由連想)・非指示的 催眠(暗示) 箱庭療法・コラージュ療法 壺イメージ療法・誘導イメージ 夢分析 認知行動療法 図1 関与しながらの観察. 箱庭や風景構成法,ロールシャッハなどと対比. ージ療法では,クライエントは自分の観察自己. した。「Ⅱ コラージュの治療的意味」の段落. の大部分をカウンセラーに預けて『心の深み』. の冒頭に「まず安全性についてである」と切り. へと下りていく。フォーカシングは,預けない. 出し, 「 (コラージュは)ロールシャッハ・テス. で,自分である程度保持しつづける」。. トやなぐり描き法と違って,曖昧で不気味なも. 観察自己をカウンセラーに預けるのは「催眠」. のに不意に直面することはない。…(中略)…. (図1の右側)のやり方であり,「預けない」の. 嫌ならパス。糊をつける前に捨てるとか…(中. が「フォーカシング」だけではなく, 「精神分析,. 略)…いくらでも回避法がある。回避法がある. 箱庭療法,コラージュ療法」などである(図1. ということは安全性が高いということである」. の左側)。当然,ロジャーズの「非指示的」療. と述べた。重度の精神障害者の治療に深く関わ. 法は左側に属する。. ってきた権威者の言葉である。以後,筆者はこ. しかし,心理療法として,はたしてどちらが. れを引用する形で「安全性」に言及できるよう. よいかということはすぐには言えないと筆者は. になった。. 思う。現在,非指示的なやり方よりも,認知行. しかし,本書ではクライエントの問題を安全. 動療法に勢いがある。時代によって振り子のよ. に扱うための様々な工夫をしようとしている。. うに左右に動くと筆者は考えている。. ただ,「中止・止める」だけでは物足りない。. 筆 者 が 以 前 に 書 い た 二 つ の 書 評( 森 谷,. 著者のようにもっと研究するべきと思う。. 2011,2016)を思い出した。石原(2015)は,. 「イメージ」という言葉は二通りの使われ方. 箱庭療法の「受け身性」をテーマにしたもので. をしていると気づき,これを理解するために,. あり,徳田(2009)の「収納法」は,安全に「収. サリヴァンの術語「関与しながらの観察」をヒ. めること」をテーマにしたもので,本法の範疇. ントに図1を描いた。 「関与」の“程度”を考え. に属する。. よう。弱い関与(傍観・受け身)と,強い関与. 本書は発生直後のマグマのようなエネルギー. (介入)に分かれる。. に満ちあふれている。他にもいろいろ言及した. シャルコーの催眠法は,患者の意識を低下さ. いが割愛する。触発されることが多く,一読を. せ,医師の意図(暗示イメージ)を患者の心の. 勧めたい。. 中に〈入れ込む〉方法である。フロイトはそれ を逆転させ,セラピストの介入を極端に弱め, 患者が覚醒状態のまま,無意識の中に入り込ま れた心的内容(イメージ)を〈連想という鎖で 引きずり出す〉 。 著者も以上のことは自覚されているように思 う(p.162以下)。箱庭ではなく,本法と「フォ ーカシング」を対比し,考察している。 「イメ. 文 献 河合隼雄編(1969).箱庭療法入門 誠信書房 森谷寛之(2011).書評 徳田完二著『収納イメージ法── 心におさめる心理療法』(創元社 2009年8月) 箱庭療 法学研究,24(1),133-135. 森谷寛之(2016).書評 石原宏著『箱庭療法の治療的仕掛 け──制作者の主観的体験から探る』(創元社 2015年 10月) 箱庭療法学研究,29(1),151-153. 中井久夫(1993).第8章 コラージュ私見 森谷寛之他(編) コラージュ療法入門 創元社 pp.137-146.. . 1 0 3◦.
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