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Title
エナメルマトリックスデリバティブを応用した歯周組織
再生療法の臨床例 : 早期治癒過程における評価
Author(s)
早川, 裕記; 齋藤, 淳; 藤波, 弘州; 古澤, 成博; 二階
堂, 雅彦
Journal
歯科学報, 110(6): 784-790
URL
http://hdl.handle.net/10130/2192
Right
要旨:垂直性骨欠損に対して,エナメルマトリック
スデリバティブ(EMD)による歯周組織再生療法を
行った3症例について,術後早期の歯周組織の治癒
過程を評価した。歯周炎患者3名(32∼57歳,女性)
に,歯周基本治療終了後,通法に従い EMD を使用
した歯周外科治療を実施した。術後の再評価の結
果,3症例のプロービングデプスの改善は術後3ヶ
月 で5.
0±2.
0mm(平 均±標 準 偏 差),6ヶ 月 で5.
3
±2.
1mm,臨床的アタッチメントレベルのゲイン
は,それぞれ3.
0±2.
6mm,
3.
3±2.
5mm であった。
エックス線写真上では各症例で違いが認められたも
のの,術後3ヶ月の時点で,骨欠損部の透過性の軽
微な変化が観察され,6ヶ月ではさらなる改善が認
められた。以上,EMD を応用した歯周外科治療を
行った3名において,術後3ヶ月から6ヶ月という
早期の治癒過程で明確な臨床的改善が示された。
緒 言
エナメルマトリックスデリバティブ(EMD)を用
いた歯周組織再生療法は,セメント芽細胞を誘導す
ることで新生セメント質が形成され,歯根膜,歯槽
骨の再生を獲得する治療法である
1,2)。アレルギー反
応による重篤な副作用が起こることなく,無細胞セ
メント質の新生を伴った歯周組織が再生されること
が報告されている
3,4)。他に歯周組織の再生をもたら
す治療法として,組織再生誘導(GTR)法が挙げら
れる。EMD と GTR は,両者とも有効な治療法で,
臨床成績に差はないとされている
5,6)。その一方で,
GTR の適切な応用には高度な技術を要し,術後の
膜露出などのトラブルも認められることから,最近
では EMD が多用されるようになった
7)。
これまで EMD を使用した歯周組織再生療法の成
果は多く報告されているが,術後早期の治癒経過の
情報は限られている
8)。術後早期の治癒経過をどの
ように判断し,時期に応じた適切な管理をしていく
かは重要となる。今回,垂直性骨欠損を有する慢性
歯周炎患者2名および広汎型侵襲性歯周炎患者1名
の3部位に対し,EMD による歯周組織再生療法を
行い,術後早期の治癒過程を臨床的に評価したので
報告する。
症例1
患者は52歳,女性。下顎右側臼歯部の歯肉の腫脹
を主訴に来院した。数年前より腫脹を繰り返してお
り,近医にて応急的な処置を受けていたが,度重な
る腫脹に不安を感じたために本学水道橋病院総合歯
科に来院した。全身既往歴に特記すべき事項はな
く,非喫煙者であった。
口腔内所見として,全顎的に歯肉の発赤と腫脹を
認めた。特に左右臼歯部ではプロービングデプス
(PD)は最深部で6mm 以上あり,プロービング時
の出血(BOP)が認められた。エックス線所見とし
臨床報告
エナメルマトリックスデリバティブを応用した
歯周組織再生療法の臨床例
―早期治癒過程における評価―
早川裕記
1)齋藤 淳
2)藤波弘州
2)古澤成博
1)二階堂雅彦
3) キーワード:エナメルマトリックスデリバティブ,歯周 組織再生療法,歯周炎 1)東京歯科大学口腔健康臨床科学講座総合歯科学分野 2)東京歯科大学口腔健康臨床科学講座歯科保存学分野 3)東京歯科大学水道橋病院 (2010年10月1日受付) (2010年11月4日受理) 別刷請求先:〒101‐0061 東京都千代田区三崎町2−9−18 東京歯科大学口腔健康臨床科学講座 齋藤 淳 784 ― 34 ―て,臼歯部を中心とした歯根長1/3∼1/2に及ぶ水平
性の骨吸収と,46を中心とした垂直性の骨吸収像を
認めた (図1a)。以上より,中等度慢性歯周炎と
診断した。
口腔清掃指導,スケーリング・ルートプレーニン
グを中心とした歯周基本治療を行った。症例報告に
おける臨床データの使用および EMD を使用した歯
周外科治療について,文書による患者の同意を得た
後,右下臼歯部に対して,EMD としてエムドゲイ
ン
Ⓡゲ ル(Biora AB,Malmö,Sweden)を 用 い た 歯
周組織再生療法を行った。浸潤麻酔下で,歯肉溝切
開による粘膜骨膜弁を形成し,不良肉芽の除去,根
面のデブライドメントを行った。46遠心部に2壁性
の深い骨内欠損を確認したため (図1b),同部位
に36%リン酸溶液による15秒間の根面処理を行った
後,EMD を応用し,改良垂直マットレス縫合にて
緊密な縫合を行った。その後,抗菌薬を3日間投与
し,非ステロイド系消炎鎮痛剤を頓服処方した。抜
糸までの2週間は,咬合面や歯冠部中心の軟毛ブラ
シによる弱圧のブラッシングと洗口剤を使用したプ
ラークコントロールを指示した。術後の経過は良好
で,抜糸時まで,とくに問題となるような疼痛や腫
脹などの症状は認められなかった。術後3ヶ月での
再評価では,PD3mm となり,術前の6mm から
3mm の改善を認めた(表1)。しかし,歯肉退縮も
認められ,臨床的アタッチメントレベル(CAL)の
表1 再生療法前後の歯周パラメーター 症 例 部 位 項 目 歯周基本治療後 術後3ヶ月 術後6ヶ月 症例1 PD(mm) 6 3 3 46(DB) CAL(mm) 7 6 6 TM 1 1 1 BOP + − − 症例2 PD(mm) 9 4 3 47(LD) CAL(mm) 9 7 6 TM 1 1 1 BOP − − − 症例3 PD(mm) 10 3 3 46(MB) CAL(mm) 10 4 4 TM 1 1 1 BOP + − −PD:プロービングデプス(probing depth),CAL:臨床的アタッチメントレベル(clinical at-tachment level),TM:動揺度(tooth mobility),BOP:プロービン グ 時 の 出 血(bleeding on probing) 図1b 46遠心部を中心に垂直性骨欠損を認める。 図1a 症例1,術前デンタルエックス線写真:46遠心部 に骨吸収像を認める。 歯科学報 Vol.110,No.6(2010) 785 ― 35 ―
改善は,1mm にとどまった。術後6ヶ月(図1c)
での再評価でも同等の結果であった。デンタルエッ
クス線写真による評価では,3ヶ月時点で,骨欠損
部の透過性に明らかな改善が認められ(図1d),6
ヶ月時ではさらなる改善が認められた(図1e)。
症例2
患者は57歳,女性。下顎右側臼歯部の咬合時痛を
主訴に来院した。全身的な特記事項はなく,非喫煙
者であった。口腔内所見として,全顎的な歯肉の発
赤と,臼歯部を中心とした PD9mm 以上の歯周ポ
ケットが認められた。エックス線所見として,臼歯
部の骨吸収が認められ,特に47に著明な垂直性の骨
吸収が認められた(図2a)。以上より,中等度慢性
歯周炎と診断した。
47は側方運動時に干渉が認められたため,歯周基
本治療中に咬合調整を行った。その後,47近心部の
3壁性骨欠損部を中心に,通法に従いエムドゲイ
ン
Ⓡゲルを応用し(図2b),改良垂直マットレス縫
合にて緊密な縫合を行った。咬合の安定をはかるた
め,接着性レジンを使用したエナメルボンディング
による暫間固定も行った。術後の経過は良好であ
り,術後3ヶ月での再評価では,PD4mm と,5
mm の改善をみた。CAL ゲインは2mm であった
(表1)。術 後6ヶ 月(図2c)で の 再 評 価 で は,PD
の術前からの改善は6mm,CAL は3mm であっ
た。エックス線写真による評価では,3ヶ月時点
で,不透過像の亢進が認められ(図2d),6ヶ月時
ではさらなる改善が認められた(図2e)。
図1c 症例1,術後6ヶ月の口腔内所見 図1d 症例1,術後3ヶ月。46遠心の骨欠損部に不透過 性の亢進が認められる。 図1e 術後6ヶ月後。46遠心の不透過性のさらなる亢進 が認められる。 図2a 症例2,術前エックス線写真。47近心部に根長 2/3を超える垂直性骨欠損を認める。 早川,他:EMD による再生療法の早期治癒過程 786 ― 36 ―症例3
患者は32歳,女性。全顎的な歯肉の腫脹を主訴に
来院した。全身状態に問題はなく,非喫煙者であっ
た。全顎的な歯肉の発赤と腫脹,臼歯部を中心に,
最深部で PD10mm を超える歯周ポケットが認めら
れた。エックス線診査では,全顎的な骨吸収が認め
られ,特に,46近心部に著明な垂直性の骨吸収が確
認された(図3a)。診断は,広汎型侵襲性歯周炎と
した。
歯周基本治療後,右下臼歯部に対して,通法に従
い EMD を用いた歯周組織再生療法を行った。46近
心部に3壁性の深い骨欠損を確認したため(図3
b),同部位を中心にエムドゲイン
Ⓡゲルを応用し
た。術後の経過は良好であり,術後3ヶ月での再評
価 で は,PD の 減 少 は7mm,CAL の ゲ イ ン は6
mm であった(表1)。術後6ヶ月(図3c)での再評
価でも改善傾向は維持されていた。エックス線写真
では,3ヶ月時点で,近心の垂直性骨欠損部に若干
の骨レベルの改善が認められ(図3d),6ヶ月時で
図2c 術後6ヶ月の口腔内所見 図2b 症例2,47近心部に垂直性骨欠損を認める。 図2e 術後6ヶ月。骨欠損部の透過性にさらなる改善が 認められる。 図2d 症例2,術後3ヶ月。近心の骨欠損部の透過性に 変化が認められる。 図3a 症例3,術前。46近心部に垂直性骨欠損を認める。 歯科学報 Vol.110,No.6(2010) 787 ― 37 ―はさらなる改善が認められた(図3e)。
結果および考察
今回,EMD を使用した歯周組織再生療法の早期
における臨床経過について,術後3ヶ月時点から評
価 を 行 っ た。 3症 例 の 初 診 時 に お け る PD
は,8.
3±2.
1mm(平均±標準 偏 差)で あ り,PD の
改善 は,術 後3ヶ 月 で5.
0±2.
0mm,6ヶ 月 で5.
3
±2.
1mm(改 善 率64%)で あ っ た。CAL ゲ イ ン
は,3ヶ月で3.
0±2.
6mm,6ヶ月3.
3±2.
5mm(改
善率38%)であった。Saito ら
9)の歯周炎患者16名の
骨内欠損25部位に対する EMD 応用の報告では,
PD の 改 善 は,3ヶ 月4.
4±1.
4mm,6ヶ 月4.
2±
1.
2mm(改善率59%)であり,CAL ゲインはそれぞ
れ3.
6±1.
8mm,3.
2±1.
5mm(改 善 率40%)で あ っ
た。ま た,成 田 ら
10)に よ る33名90部 位 に 対 す る
EMD 応 用 の 研 究 で は,6ヶ 月 時 点 で PD の 改 善
は,
3.
1±1.
7mm,CAL ゲインは,2.
8±1.
6mm(改
善率37%)と報告している。被験者数,重症度,骨
欠損形態の違いなどの理由から,これらの結果を単
純に比較することはできないが,今回の3症例の臨
床パラメーターの改善の程度は,症例による差違は
あるものの,概ね良好であると思われた。
Heijl ら
11)は,EMD を使用した再生療法後,5ヶ
月の時点で明確な骨の変化が観察され,骨の添加
は,長いものでは術後3年まで継続していたと報告
している。今回の症例において,エックス線写真に
よる主観的評価では,程度の差はあるものの,術後
3ヶ月時点から骨欠損部の透過性に変化が認めら
れ,6ヶ月ではさらに明確な改善が観察された。し
かし,明瞭な歯槽硬線は観察されなかった。臨床パ
ラメーターは,3ヶ月と6ヶ月では大きな違いは認
図3b 症例3,46近心部を中心に垂直性骨欠損を認め る。 図3c 術後6ヶ月後の口腔内所見 図3d 症例3,術後3ヵ月。46近心部にわずかな透過性 の変化が認められる。 図3e 術後6ヵ月。骨欠損部に改善を認める。 早川,他:EMD による再生療法の早期治癒過程 788 ― 38 ―められなかったことも考え合わせると,術後3ヶ月
までに軟組織の治癒は概ね安定するが,骨を含めた
組織の改善は少なくとも6ヶ月の時点では,継続過
程にあると推察された。
今回,早期治癒過程における臨床経過は良好なも
のであったが,歯周病の治療では長期的に安定をは
かることが重要である。フラップ手術後の長い上皮
性付着による治癒と比較して,EMD による再生療
法では,強固な付着が得られるとされている
1,2)。ま
た,EMD を用いた歯周組織再生療法により得られ
た歯周組織の改善は,長期間の維持が可能であると
報告されている
9,12)。再生療法に限らず,歯周治療
の長期的な臨床研究では,徹底したメインテナンス
プログラムが組まれている。今回の症例では歯肉縁
下プラーク細菌の評価は行うことができなかった
が,Magnusson ら
13)は,非外 科 的 療 法 後,専 門 家
によるメインテナンスを行わなかった患者群では,
歯肉縁下のスピロヘータや運動性桿菌は,4∼8週
のうちに再定着するとし,Greenstein
14)は,術後9
∼11週のうちに,術前の歯肉縁下細菌叢に戻ってし
まうとしている。再生療法後においても,早期か
ら,治癒の状況に応じた患者のセルフケアによる歯
肉縁上のプラークコントロールと,プロフェッショ
ナルケアによる歯肉縁下プラークのコントロールが
重要となる。今回の3症例において,3ヶ月で既に
歯周パラメーターの明確な改善が確認されたり,
エックス線写真上での透過性の変化が認められるな
ど,術後3ヶ月までの期間は,治癒においてとくに
重要な時期であることが示唆された。今回の症例で
は,術後4週までは,週1回の縁上プラークコント
ロールを主体としたプロフェッショナルケアを行
い,術後3ヶ月までは,月2回のプロフェッショナ
ルケアを原則とした管理を行った。セルフケアにつ
いては,洗口剤の使用に加えて,①軟毛ブラシによ
る歯冠のみのプラークコントロール,②ローリング
法によるプラークコントロール,③軟毛ブラシによ
るスクラビング法,④通常の歯ブラシによるスクラ
ビング法と,段階的なプラークコントロールを指導
した。本学水道橋病院総合歯科では,歯周炎患者の
口腔セルフケアの詳細なアセスメントを行い,セル
フケアの向上につながるような指導を目指してい
る
15)。今後,患者それぞれの保健行動や特性に配慮
した指導およびケアのあり方について,さらに検討
していきたい。
また,今回,いずれの症例においても,術前・術
後の動揺の程度,歯質保全など総合的な判断から,
永久固定は行わなかった。しかし,症例2のように
最後臼歯で,近遠心的な根分岐部病変が存在し,残
存骨量も少ないなど予後に不安を抱えている部位も
ある。歯周組織再生療法の臨床成績に,歯の動揺が
どのように影響するのかについては,まだ明らかに
されていない点も多い
16)。今後,咬合状態を慎重に
チェックしていく必要がある。
以上,EMD を使用した3症例において,3∼6
ヶ月の早期治癒過程における臨床評価を行った結
果,症例により違いはあるものの,概ね良好な治癒
経過であることを確認した。今後,長期的に安定し
た状態を維持するために,慎重なメインテナンスを
継続する予定である。
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A case series of periodontal regenerative therapy with enamel matrix derivative :
clinical evaluation at early healing stage
Hiroki H
AYAKAWA1),Atsushi S
AITO2),Koushu F
UJINAMI2)Masahiro F
URUSAWA1),Masahiko N
IKAIDO3) 1)Division of General Dentistry,2)Division of Conservative Dentistry, Department of Clinical Oral Health Science, Tokyo
Dental College
3)Suidobashi Hospital, Tokyo Dental College
Key words : Enamel matrix derivative, periodontal regenerative therapy, periodontitis
We hereby report cases of intrabony periodontal defects treated with an enamel matrix derivative (EMD),focusing on clinical evaluation during the early healing process. Three patients with a clinical diagnosis of periodontitis(32 57 years old,female)received initial periodontal therapy followed by regen-erative therapy with EMD. Post-surgical reevaluation at 3 months and 6 months revealed that mean re-duction in probing depth of recorded sites was 5.0 2.0mm(mean standard deviation)and 5.3 2.1mm,re-spectively. Mean gain in clinical attachment level at 3 and 6 months was 3.0±2.6mm and 3.3 2.5mm,re-spectively. An increase in radiopacity could be detected at 3 months post-operatively,and a progressive improvement was observed by 6 months,although the extent of improvement differed between cases. In summary,treatment of the periodontal lesions with EMD induced marked clinical improvement during the early healing period of 3 to 6 months. (The Shikwa Gakuho,110:784∼790,2010)
早川,他:EMD による再生療法の早期治癒過程 790