植物と紫外線UVB
著者
東北大学遺伝生態研究センター
雑誌名
IGEシリーズ
巻
27
ページ
1-116
発行年
2000-03
URL
http://hdl.handle.net/10097/49112
D6匡シリーズ望謬***
植物と紫外線UVB
東北大学遺伝生態研究センター
Institute of Genetic EcologyIGEシリーズの発刊にあたって
地球上の環境は,今,かつてない大きな問題に当
面しております。世界各地で進行している生態系の
急速な変化のなかには,人間生活に深刻な影響をも
たらす可能性のあるものが,多数含まれています。
一方,人間の活動が宇宙空間へと拡がるにつれ,地
球外生態系の構築が,新しい課題として登場しつつ
ぁります。生態系の崩壊を防ぎ,より豊かな環境を
創造するための科学的努力が,今日はど強く求めら
れている時はありません0
本研究センターは, DNA分子技術を中心に遺伝
子的段階にまで到達した生物研究の諸成果を生かし
生態系における生物の生活を一層深く解明し,新た
な人間環境の創造に貢献することを目指しておりま
す。いうまでもなく,この課題はきわめて学際的で
ぁり,多分野の研究者との相互交流と協力によって,
はじめて達成されるものであります。本研究センター
では,ワークショップによる研究者間の討論と意見
交換を重視するとともに,その成果をより多くの方々
にご利用いただく出版活動にとり組んでおります。
ここに発刊しますIGE (institute of Genetic Eco1-ogyの略)シリーズも,こうした努力の一環であり
ます。
本シリーズの内容は,多岐にわたる可能性をもっ
ておりますが, 3つのタイプに大きく類別されるだ
ろうと考えております。すなわち, (i)特定のテー マ,又はトピックについての解明に関するもの(* 印を付します), (ii)特定のテ∴マ又はトピックに関する最新の文献,実験法の紹介に重点をおくもの
(**印),そして(iii)新しい可能性を求める学際的交流,対話を試みるもの(***印)であります。
このIGEシリーズが,多方面の方々のお役に少
しでも立っことを願って,発刊の辞とします。
2000年3月東北大学遺伝生態研究センター
§ 目 次§ はじめに 熊谷 忠 長寿命ラジカルの生物効果∼イネのUVB照射効果∼ 熊谷 純・宮崎 哲郎--- 3 UV-Bによる植物の活性酸素解毒能の誘導 近藤 矩朗・川島 美香=----・-・--・---- 13 シロイヌナズナの6-4光回復酵素遺伝子 中嶋 敏・山本 和生---・--=---・ 21 イネの紫外線耐性機構IUVB誘導DNA換価と その修復能力からの解析 日出間 純・熊谷 忠・B.M.Sutherland ---- 33 生育時の光環境とイネの葉内シクロブタン型 ピリミジンタイマー(CPD)の動態 熊谷 忠・美 恵淑・日出間 純---・--- 43
植物はどのように紫外線から身を守るか
橋本 徹 付加紫外線(UVB)がイネの生育におよぽす影響 に関する5年間圃場試験成績 佐藤 雅志・美 恵淑 ・日出問 純・熊谷 忠--・---‥---- 63 UV-B付加照射によるホウレンソウ萎凋病の発病促進 本田 雄一 73森林植生をめぐる紫外線環境について
岡野 通明・今 久・大谷 義一 ・青島 史子・吉武 孝 ----・・・----・---水圏における紫外線透過特性とプランクトンに対する影響 田口 哲 79はじめに
熊 谷 忠 今E],成層圏オゾン層の破壊による紫外線UVB量の増大や,大気CO2濃 度の増大とそれに伴う温度上昇など,地球規模での環境の変化が地球上の生 物や生態系に及ぼす影響についての懸念が非常に高まっており,その解明は 世界的に緊要な課題となっている。我々は,そのような地球環境の変化のな かで農耕地生態系に生息する植物や微生物の生活はどのように変わり,その 変化が土壌に生息する植物や微生物にどのような影響を及ぼすのか。ひいて は,農耕地生態系はどのような変貌をとげることになるのか,に大変関心を もっている。この課題に対処するために,われわれは想定される未来環境を 人工的に作りだし,そこで植物や微生物は未来環境にどのように適応し,作 物生産はどのように変化するのかを解析し,さらに,未来環境に適応した有 用な植物遺伝資源の探索と新しい品種の作出の基礎に役立たせる一連の遺伝 生態研究を行っている。本ワークショップは,そのうち,紫外線の増大が地球上の植物や微生物の生活・相互作鳳 生態系に及ぼす影響についての理解
を深めることを目的として開かれた。 私が以前にまとめた記事(化学と生物, 32:506-513, 1994)によると,栄 外線UVBが植物におよぼす影響としては, A:生理・生化学的影響, 1;光合 成 2;遺伝子発現, mRNAの転写レベル, 3;DNAの損傷, 4;嚢中の可溶性 タンパク質,脂質,炭水化物, 5;植物ホルモン, 6;イオン輸送, 7;フラボノ イド合成の誘導, B:形態的・解剖学的影響として, 1;フイトクローム, UV B光反応のシグナル伝達の変化 2;クロロシス,色素破壊, 3;細胞レベルで の反応 4;形態レベルでの反応, 5;生育不全, 6;乾物生嵐 栄養物の分配, 7;収量, C:品種間差異,競合など分子レベル∼生態レベルの段階へと多岐 にわたって観察されている。生理・生化学レベルで見られる影響は,実験系 が合目的に組まれることもあって,明確な形で認識される。いろいろな環境 の変化や生き物が相互にかつ複雑に影響し合う生態系のレベル-と次元が上 東北大学・遺伝生態研究センターがると,紫外線が生き物に与える影響の現れ方は,他の因子の変化によって かなり修飾されるので,ぼやけてしまうことがしばしばである。通常,その ような環境の変化は,或日突然起こるのではなく,長年にわたってゆっくり 変化していく。その中で生物は種のもつ能力に応じて適当に順応していくの で,環境の変化が生き物の生活や生態に及ぼす影響を正確に把握することは ますます困難となる。とはいえ,生き物のもつ適応能力,また,生態系のも つ柔軟性を知り,対策を講じることは人類の生存にとって必須である。ここ で重要なことは,生態レベルで起こる現象の観察に終始していただけでは, 何の対策も講じることにはならないということである。因果関係を明らかに し,環境の急速な破壊を防ぎ,保全策を講じることは,我々科学者の使命で ある。また,食料生産を取り上げれば,生き物が有する能力や能力の限界を 的確に把握し,想定される環境の変化に左右されずに,正常に生育する品種 を開発することも極めて重要である。 1996年に行ったワークショップ「臨界環境における植物の生活」では.栄 外線,大気CO2濃度の増大,低温および乾燥が植物の生活や生態系に及ぼ す影響に焦点を当てた。今回のワークショップでは, 「植物と紫外線UVB」 というタイトルのもとに, 1)紫外線UVBが植物に及ぼす影響一生理生化 学レベルからの解析,と2)紫外線UVBが生態系に及ぼす影響の解析を取 り扱った。 1)では, UVBによる生物効果の誘発に直接関係すると考えら れるフリーラジカルの生成とその消去,変異の直接的要因となるDNAの損 傷とその修復機構を取り上げた。 2)では, UVBが作物(イネ)生産・作 物の病気の発生に及ぼす影響,大気02, CO2環境の動態の主要な担い手で ある森林および海洋におけるUVBの影響を取り上げた。ワークショップは 1999年9月20-21E]に東北大学・遺伝生態研究センタ-で行われた。当日は, 分子遺伝学,植物生理生化学,光生物学,植物遺伝学,気象学,海洋生態学 の専門家が種々の立場から研究の現状を紹介し,通常の学会では経験するこ とのできない雰囲気のなかで,大変有意義な討論をおこなった。このIGE シリーズ27巻は,そのときのまとめである。話題提供者をはじめ,当日司会 を引き受けてくれた寺井先生(秋田大),東谷先生(東北大・遺生研).参加 者の皆様,事務方のサポートに心から厚く御礼申し上げる次第である。 2000年3月。
長寿命ラジカルの生物効果
∼イネのUVB照射効果∼
熊 谷 純・宮崎 哲郎'%' Ⅰ.はじめに 「長寿命ラジカル」とは,短寿命ラジカルと比較して寿命の長いラジカル のことを指す。生体内の短寿命ラジカルといえば, 「活性酸素」であろう。 活性酸素が生体に悪影響を与えるといわれるようになったのは,放射線化学 の水のパルスラジオリシスの実験で詳しく研究された活性酸素の反応挙動の 結果を1)放射線生物学に持ち込んでからである2)。生体の約80%は水で構成 されているから,放射線照射された生体内では水のラジオリシスが起こるは ずである。その結果生成した活性酸素がDNAを傷つけて放射線影響をもた らすとする「活性酸素説」は一一∵見説得力があり,放射線生物学で爆発的に普 及した。近年の放射線生物影響の研究の殆どは,照射細胞内での様々な発症 の素過程を全て活性酸素の発生に帰着させているといって過言でないづ 5)。 しかしながら,活性酸素はその反応性の高さ故に寿命か短く, /国勿内での定 量観測は非常に難しい。従って, /招勿への活性酸素の影響の議論はどうして も推論的になってしまう6)。それに対して,長寿命ラジカルは半減期が数時 間以上もあるため,生物内での定量観測が可能である.生体影響と長寿命ラ ジカルの動的挙動を対比することにより,長寿命ラジカルの生物への影響を 明確に議論することができる。本稿では,まず長寿命ラジカルがJli物影響と 関係あることを兄いだした動物細胞中の長寿命ラジカルについて角帽aL,吹 に長寿命ラジカル観測を通したイネ(ササニシキ,農林1妄JJ)の紫外線,E朋寸 効果における品種間差異について述べる。 ※名古屋大学大学院工学研究科Ⅱ.突然変異や癌を誘発する長寿命ラジカル
2.1長寿命ラジカルとその生体影響 放射線照射された動物細胞中に半減期が20時間以上に及ぶ長寿命ラジカル が存在することが,宮崎らによって発見された7 9)。このラジカルは,放射 線照射後にビタミンCを添加によって効率よくスキャベンジされる(図1)。肘vL ,A,
-船引、 (a,
帰,
室温でγ線照射して 2時間経過後 室温でγ繰照射して 3時間経過後 (A)の状態でビタミンC を漆加して1時間経過後L 3 LllT・l
図1室温でγ線照射されたゴールデン-ムスター胎児細胞中に生成し た長寿命ラジカルのESRスペクトル。 (A)照射終了後2時間経過 後、 (B)照射終了後3時間経過後、 (C)照射終了後2時間経過後に ビタミンC水溶液を添加して1時間経過後。添加したビタミンCの 濃度は0.11M。矢印で示した両端の鋭いピークは、 ESRマーカ-用のMn2十によるもの。長寿命ラジカルの生物効果 ∼イネのLTVB照射効果∼ 5 ここで大事なことは,照射後にビタミンC処理された照射細胞の突然変異率・ 癌化率が劇的に減少することである(表1)。ビタミンCの添加は照射後20分 表1照射動物細胞へのビタミンC涼加の影響 ヒタミンC水漸夜を ビタミンC水溶液 添加しないd) 突然変発率h) カン化率C) 長寿命ラジカル量Jl ・.)ビタミンC涼加し′ないJ易弁U,,突然蛮発牟JJン(L率、良jf命ラジ加L謎をそれぞれ1としたD h)llE hurnan17細胞り)。棚寸X繰出は-yo c)M(luSern5S細胞り)a IH・柵f X線軌ま6(,・yo
J)C・lIE j--ルテンハムスター胎児緋胤!lL仰γ線htは5 kC・y8)u c)照射終丁後、 20分経過後に5mMのしタミンC水-二-EL"lliらした9)o f岬射終了後、 2(-欄過後に5mMのビタミンC水-こ2-さらした9)o g)照射終「後、12()分経過経にビタミンCを/,MHした8)o馴1C"tた糾胞申0)LJタミンCの濃度はO llMD ∼2時間後であるから,ビタミンCはマイクロ秒程度の寿命の活性酸素では なく,長寿命ラジカルをスキャベンジしたことになる。従って,長寿命ラジ カルが細胞の突然変異や癌化を引き起こしている可能性が高い。このほかに も長寿命ラジカルを通して生物影響の研究例がある。メタロチオネイン合成 能力が高いマウスは,肝臓内の長寿命ラジカル量を一定値に保って放射線や 皮膚剥離など外部ストレスに強い10)。また,植物では放射線照射されたシ ロイヌナズナの種子の発芽率と生存率は,発芽の際の吸水時に長寿命ラジカ ルを減衰率が高いほど高い11)。従って,長寿命ラジカルは生体を制御する 重要な鍵物質であるかもしれない。 2.2 ESRとESEによる斬物細胞中の長寿命ラジカルの測定 長寿命ラジカルは,電子スピン共鳴法(ESR)と電子スピンエコー法 (ESE)の二つの方法で観測している。前者はラジカルの量とラジカル分子 内の情報を与え,後者はラジカル分子の周りの情報を与える12'。これらの磁 気共唱法はラジカルとなっている不対電子軌道の副準位間の遷移を観測する ために非破壊的であり,生物試料の測定に相応しい分光法であるといえる。 実験内容と解析の詳細は省略するが, ESR ・ ESE測定の結果から放射線
照射された動物細胞中でのラジカルの生成過程は以下の4つのプロセスであ ろうと考えられる。 ①照射初期にはOHラジカルが多数生成し,生体高分子 ラジカルも水の近傍に多く生成する ②OHラジカルの殆どはそれ同士の再 結合仮定で消滅し,生体高分子ラジカルだけが残る ③水の近傍にできた生 体高分子ラジカルの殆どは比較的短時間で消滅する ④水の少ない箇所に生 成した生体高分子ラジカルは消滅しにくく,長寿命ラジカルとなる。長寿命 ラジカルの生成には活性酸素による引き抜き反応よりも放射線のエネルギー を吸収して直接分解生成する過程の方が主に起てるものと思われる。詳しく は別紙を参照されたい13).
Ⅱ 長寿命ラジカル観測から見たイネのUVB抵抗性の品種間
差異
3.1これまでにわかっているUVB抵抗性の品種間差異 イネのササニシキと農林1号の両品種は近縁であるが故に,背丈や葉の厚 さ・成長速度などがほぼ等しい。しかしながら,ササニシキはUVB照射抵 抗性であるのに対して,農林1号はUVB照射に弱い。両品種間のUVB照 射抵抗性の差は,熊谷・日出問らによって生物学的な側面から研究されてき た。例えば, UVB照射によってDNAに生じるCyclobutyl-pyrimidine dト mer (CPD)の光回復酵素による修復能はササニシキの方が高いこと14・ )5)、 UVB照射後のフラボノイドの合成能力はササニシキの方が高いことなどが わかっている14 17)。これらの結果はUVB抵抗性の品種間差異を説明する 上で大変重要であるが, UVBによる生育阻害・防御の機構は多くの可能性 が考えられ,多角的に検討していく必要がある。本研究ではササニシキと農 林1号のUVB抵抗性の品種間差異を,それらの葉の中の長寿命ラジカルの 観測を通して検討した18)。 3.2 イネの栽培条件 イネの栽培とESRの測定法について簡単に述べる。イネの栽培は全て東 北大学遺伝生態研究センターの日出間氏に依頼した。栽培は土耕法(バーミ キュライト二培土-2:1)により,可視光の強度, UVB量,温度が調節可能 な環境調節実験室内で行なった。栽培条件は,可視光強度;350〃mol m 2 S 1,温度;昼・夜-27/17℃,日長;12時間である。 UVB照射は, UVB放射長寿命ラジカルの生物効果 ∼イネのUVB照射効果∼ 7 蛍光管の下のUV29フィルタ-を透過したUVB光を可視光と同時に照射し た。このUV29フィルターを透過することによって290mmの紫外線を50%除 去できた。 UVB照射は発芽して16日後から開始し,主幹4葉が完全展開す るまで行った。 UVB照射強度は51.8と324kJ m 2day 1である。 ESRの測定は以下のように行った。所定の栽培期間になったイネの葉を 切り取ってすぐに液体窒素で冷却,凍結した葉を外径5mmのスープラジル 管に封繍してESRの測定周試料とした。日本電子製JES-REIX ESR測定 装置を用い,温度77Kでマイクロ波周波数9.204GHz,マイクロ波強度0.1 324 326 328 330 Magnetic Field / mT 図2 77Kで測定したササニシキと農林1号の葉のESRスペクトル (A)可視光下で生育したササニシキの葉, (B)可視光+UVB(51.8 kJm 2day 1)照射下で生育したササニシキの葉, (C)可視光下で 生育した農林1号の葉, (D)可視光+UVB(51.8kJ 2day-1)照射 下で生育した農林1号の葉。測定マイクロ波周波数はすべて9.204 GHz。
mw,磁場変調100kHzで0.04mTの条件で測定した。 3.3 イネの葉の長寿命ラジカルのESRスペクトル 図2にササニシキ(A), (B)と農林1号(C), (D)の糞のESRスペクトル を示した。 (A), (C)はUVB照射無しで可視光のみで育てた葉, (B), (D) は可視光に加えてUVBを51.8kJm-2day lの強度で照射しながら育てた場 合である。ササニシキの場合(A, B), UVB照射の有無に関わらず両者のス ペクトルは殆ど等しく, 328.5mT付近の大きなピークと, 326.5mT付近と 329.5mT付近に肩が見えるのが特長である。農林1号の場合, UVB照射を していない糞のスペクトルは(C),ササニシキの場合と同様のスペクトルを 示している。しかしUVB照射された葉の場合は(D), 326.5mT付近と329.5 mT付近の肩が明らかに小さくなっているのがわかる。従って, UVB抵抗 性のササニシキの場合にはUVB照射の有無でそのESRスペクトルに差は 見られないが, UVB感受性の農林1号ではtJVB照射された糞のラジカル のうち, 326.5mT付近と329.5mT付近の肩として現れているラジカルが減 少していることがわかった。 次に,観測されたラジカルの同定を試みた。図3(A)にはUVB照射をし ていないササニシキの葉のESRスペクトル, (B)にはUVB照射をしていな いササニシキの葉を24時間室温で暗所に保存した後に77Kで測定したESR スペクトルを示した。図3(C)は(A)から(B)を差し引いた差スペクトルで ある。 UVB照射していないササニシキの葉を24時間室温暗所で保存すると, ど-2,0029を中心とする1本線のみが残り,両肩のスペクトルが消失した(B)。 (A)から(B)を差し引いた差スペクトル(C)は, 5本線のスペクトルでその 中心のg値は2.0056である。この差スペクトルは,図3(D)に示しているホ ウレンソウの糞のチラコイド膜中の光合成活性中心Ⅲで観測された,チロシ ン残基のカチオンラジカル(Tyr-D)のスペクトル(中心のg-2.0046)と よく似ている19'。従って,ササニシキの糞を24時間室温暗所で保存した際 に消失したラジカルは,光合成活性中心Ⅲの中のTyr-Dであると同定したo 図3 (B)に示されたラジカル種については,中心のg値が2.0029で最大傾斜 幅が0.8mTというESRのパラメーターが,光合成活性中心ⅠのP700カチ オンラジカルのものとよく似ていることから,現時点では(B)のスペクトル は光合成活性中心ⅠのP700カチオンラジカルによるものであろうと思われ
長寿命ラジカルの生物効果 ∼イネのL:VB照射効果∼ 9 図3 (A)77Kで測定したUVB末照射のササニシキの葉のESRスペ クトル、 (B)UVB末照射のササニシキの葉を24時間室温で暗所 に保存した後に77Kで測定したESRスペクトル、 (C)(A)から(B) を差し引いた差スペクトル、 (D)ホウレンソウの葉のチラコイド 膜中の光合成活性中心ⅠⅠで観測されたチロシン残基のカチオンラ ジカル(Tyr-D)のスペクトル。 る20-23).しかし,図3(B3のスペクトルは単純な1本線でESRの情報が 限られていることと,暗所で長時間安定なことなどから. P700カチオンラ ジカルであると完全に断定するには至っていない。 3.4 イネの葉の長寿命ラジカル量 ここで,図2(B)に示されているラジカルを「Rlラジカル」,図2(C)に 示されているラジカルを「R2ラジカル」とする。 UVB照射又は未照射の ササニシキ,農林1号の葉から観測されたESRスペクトルをRl,R2ラジ
10 カルに分離し.それぞれの単位重さあたりの濃度を表2に示した。ササニシ 表2 イネの葉に存在する長寿命ラジカルの濃度 品種 ラジカル掩 うジjjル濃度/nmolgJd UVB末照射d UVl川L:付目- uvB照射h (5L8kJnl二dayl) (324kJnlユdayL) ササニシキ RI R2 totaI 17±6 19±4 18±6 6±2 8±3 2±1 23±8 27±7 20±7
(i) sdnll)lLIs) (4 sumpILLS) (4 sampks)
14±3 24±7 24±18
8±2 2±1 1± 1
23!5 26!8 25tl9
(1日sampILLS) ((- SiHnPJct・) (2 sampLt:S)
a)可視光下で生育o b)可視光+uvB照射下で生育。 キ・農林1号の両者とも, UVB未照射の糞ではRl,R2ラジカルの濃度は 誤差範囲以内で等しく.両者に有意差は見られない。 UVB未照射とUVB 照射(51.8kJm 2day 1)されたササニシキの葉を比較すると, Rl,R2ラ ジカル濃度は誤差範囲以内で等しい。しかし,農林1号のUVB照射(51.8 kJm 2day l)された葉のR2ラジカル量(2±1nmolg l)は,未照射の もの(8±3nmolg 1-1)と比較して有意に少なくなっている。次に, UVB 照射量を約6倍(324kJm 2day-1)にした場合, UVB抵抗性のササニシ キであってもR2ラジカルの濃度は有意に減少している。同量のUVB照射 された農林1号においても, R2ラジカル濃度は極めて小さい。 UVB照射 量が324kJmLZdayー】の場合は,ササニシキ・農林1号共にその葉の色が薄 くなるなど形態上のUVB損傷が見られる。従って, R2ラジカルの濃度の
長寿命ラジカルの生物効果 ∼イネのUVB照射効果∼ 11 低下とイネのUVB損傷との間に相関関係があることがわかった。 3.5 長寿命ラジカルとUVB損傷 UVB照射によってイネの窯が損傷を受けると, R2ラジカルが減少する ことがわかった。 R2ラジカルは光合成活性中心Ⅲの中のポリペプチド中に 存在するTyr-Dであり,この部位は酸素生成系のマンガンクラスターから P680への電子移動経路の中間に位置する。従って, UVB照射によって光合 成活性中心ⅠⅠの部位が壊れやすければ,個体の光合成活性が下がって生育阻 害につながると考えられる。もし,この考え方が正しければ,ササニシキは UVB照射から光合成活性中心Ⅱの部位を保護する能力があるのに対して, 農林1号は保護する能力が低いということになる。日出間らの研究によれば. UVB照射後のフラボノイド類(UVB吸収物質として働く)の合成能力は, ササニシキのほうが高い。従って,ササニシキにおいては光合成活性中心Ⅱ の部位が, UVB照射によって壊れにくいと考えられる。
Ⅳ おわりに
長寿命ラジカルの挙動からイネのUVB抵抗性の品種間差異を検討したの は本研究が初めてである。本研究でR2ラジカルの濃度の低下とイネのUVB 損傷との問に相関関係があることがわかったが, UVB照射によ三一てR2ラ ジカルが減少してその後の生長プロセスが阻害されたのか, UVB照射によっ て生長プロセスが阻害された結果としてR2ラジカルが減少したのかは債重 に検討する必要がある。長寿命ラジカルの視点から見た結果と生物学的見地 からの結果を積み重ねていくことにより,イネのUVB抵抗性の品種間差異 の解明がより進展するものと期待している。今後は,生長や病気,老化など のイネの変化に伴う長寿命ラジカルの変化を追うことにより.,長寿命ラジカ ルとイネの生体影響との関係を詳しく調べていきたい。参考文献
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uv-Bによる植物の活性酸素解毒能
の誘導
近藤 矩朗・川島 美香♯
はじめに
成層圏オゾン層の破壊により地上に到達するUV-B領域の紫外線が増大す る。 UV-Bは生物に負の影響をもたらすと考えられており,植物の光合成活 性の阻害や成長の阻害などが報告され,そのメカニズムとして, UV-Bによ るDNA損傷が知られている。一方, UV-Bによる障害に活性酸素等のフリー ラジカルが関与していることはかなり前から言われていたが, UV-B照射に より植物体内にフリーラジカルが生成していることが示されたのは比較的最 近のことである1・2)0 植物はUV-Bの有害な作用から逃れるために,幾つかの防御機構を備えて いる。代表的なものの一つに, DNA損傷を修復する仕組みがあり ,ー暗修復 と光修復が知られている3'が,植物にとって重要なのは後者である。また,表皮の液胞に紫外線吸収物質を蓄積させ,葉肉細胞などの生理機能を担う細
胞へのUV-Bの到達を抑える仕組みも知られている4・ 5)。このような紫外線 吸収物質の代表がフラボノイド類であり,紫外線照射によりフラボノイドが 蓄積する。 最近,活性酸素解毒に関わる幾つかの酵素がUV-B照射により誘導される ことが報告された6-9)oまた/,フラボノイド等のフェノール性物質に活性酸 素解毒能があることが報告されている10・11)。そこで,キュウリの芽生えを 用いて, UV-B照射が活性酸素解毒酵素活性やフェノール性物質含有量にど のような影響を与えるかについて検討した。また,植物葉内において活性酸 素生成を促進する化学物質であるパラコートの処理を行い, UV-B照射が活 性酸素に対する感受性・抵抗性にどのような影響を与えるかについても検討 ※東京大学大学院理学系研究科した。
活性酸素解毒酵素への∪∨-Bの影響
キュウリ芽生えを12時間日長(160FLmOlm-2S-1 PAR), 25/20℃ (明期 /暗期)の条件の人工気象室で栽培し, UV-B照射(0.2Wm-2S-1)を,明 期の12時間のみ行った。 UV-B照射は播種後10日目から開始した。第一本葉に含まれるいくつかの活性酸素解毒系酵素の活性の径時変化を調べた結果を
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Tlme (I)ay) 図1 UV-B照射によるキュウリ第一本葉中のスーパーオキンドジス ムクーゼ(A)、アスコルビン酸ベルオキシダーゼ(B)、グルタチ オンレダククーゼ(C)、ベルオキシダーゼ(D)活性の変化 ●:Uv-B照射、 ○:UV-B非照射(対照) 図1に示す。スーパーオキシドジスムクーゼ(SOD)はUV-B照射開始後 3日を過ぎた頃から急速に活性上昇が見られ, 12日目でもまだ増加の傾向が 続いていた。アスコルビン酸ベルオキシダーゼ(APX)もほぼ同様の活性UV-Bによる植物の活性酸素解毒能の誘導 15 変化を示した。しかし,グルタチオンレダククーゼ(GR)活性は, UV_B 照射により顕著な影響を受けなかった。また,グアヤコールを基質に剛、た ベルオキシダーゼ(PER)活性は,やはり3日後から急速に上昇した。こ れまでに,幾っかの植物種において, UV-B照射によりこれらの酵素活性が 増大することが観察されている6・7・12・13)。また,シロイヌナズナではUV-B照 射開始後1日目からAPXとGRの活性が増大することが示されている9)。 このように, UV-B照射による活性酸素解毒系酵素の活性誘導は植物種を問 わず一般的な反応であると思われる。しかし,植物種により活性が増大する 酵素の種類が異なること,誘導に要する時間が異なることなどから, UV-B ストレスに対する植物の応答反応としてのそれぞれの酵素の重要性は植物種 によって異なっていることが示唆される。
∪∨-B照射によるフェノール性化合物の蓄積
第-本葉から80%メタ ノールで抽出した抽出液 の300nmにおける吸光度 杏. UV-Bを吸収するフェノール性化合物の含有量
とした。 UV-B吸収物質は数時間で増加し始め
(データは示さず),照射 開始後1日目で最大に達 し,その後UV-B照射は 継続しているにもかかわ らず,急速に減少し, 6 日を過ぎるとほとんどU V-B非照射(対照)のレベ ルにまで低下した(図2)。 UV-Bにより増加する物 質の種類について検討す るために, HPLCによる (Euooe)2UUeqlOSqV I I/-0 nU 「- 人目 0 日U 5 4 nU 0 -1 1 3 (i 9 Time (Day) 図2 UVIB照射によるキュウリ第一本葉中の フェノール性紫外線吸収物質含有量の変化 ●:UV-B照射、 ○:UV-B非照射(対照)r;) penkl
帖′、
図3 UV-B照射開始1日後のキュウリ第一本 葉に含まれるフェノール性化合物のHPLC分析
A:UV-B非照射(対照)、 B:UV-B照射 矢印(PeakI)は、 UV-B照射により顕著 に増大したピークを示す。 分析を試みた。 UV-B照射した糞の試料 (図3B)と対照葉 の試料(図3A)と では,ピークの数は 変わらなかったが, ほとんどのピークの 高さはUV-B照射に より1.2-1.8倍に増 大していた。なかで ら.図中に矢印で示 したピーク(Peak I)は約3.5倍にま で増加していた。こ の物質もまたその後 急速に減少した(デー タは示さず)。この ピークがどのような 物質を示しているか を検討するため,こ のピークの吸収スペ クトルを測定したと ころ,クロロゲン酸 とよくイ以たスペクト ルが得られた(図4)。クロロゲン酸は抗酸化活性をもつことが報告されて おり14・ 15), UV-B照射開始直後から第一一本糞の活性酸素耐性能が増大して いる可能性が示唆された。そこで,次に活性酸素耐性能について検討するた めに,活性酸素を生成して植物を枯らす除草剤として利用されていたパラコー トを用いて, UV-B照射した葉としなかった葉のパラコート感受性・耐性に ついて比較した。UV-Bによる植物の活性酸素解毒能の誘導 17 (a・ttttZT巴)aUuTZqJOSqイ (aAtJtZta1)aUutZqJOSqV 0 .5 一lU 1.0 0.5 21)0 250 300 Wa、,elength (nm) 350 `10O 21州 250 300 350 `川0 Wavelengt11 (tlm) 図4 PeakI物質とクロロゲン酸の吸収スペクトル A:PeakI、 B:クロロゲン酸
パラコート耐性の変化
第一本葉から直径1.2cmのリーフ・ディスクを打ち抜き,種々の濃度のパ ラコート溶液に裏面が液に接するように浮かべた。 1時間暗所に置いた後に, 明所(250FLmO1m 2S-1). 25℃で30時間インキュベートし,.脱色(クロロ フィルの分解)の程度を観療した。 全体的にパラコート濃度の上昇とともに,脱色の程度が増加した(図5)0 しかし, UV-B照射後1日目の試料では,用いられた濃度の範囲(0-200〟 M)で,ほとんど脱色が見られなかった。照射の日数が進むにつれて高濃度 パラコートで脱色が見られるようになったものの, UV-B非照射の対照と比 較すると常にパラコートに対して顕著な耐性を示したo UV-B処理葉だけで なく,対照糞でもE]数(鶴)が進むにつれてパラコートに対する耐性が低下18
1鍵ii/i′赫鯵.Uv-B
轟i欝轟,番Jp庸 Contro1
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轟、J・..I.卓.ぎ
_一二IllT_∴__一二 _ ∴二._.___ ____ =__川‥_㌔ _ __"__ー_一一〉__‥一三±巳. 円< (A720)au!Lり●..I.4.・曹Ji、.
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12 ¢′¢瞥亀工藤J 筋・
●.ギJ.十一._TL_農兵.i : ′寒叩 0 5 10 50 100 200 Paraquat (〟M) 図5 キュウリ第-本糞のパラコート耐性に対するUV-B照射の影響 UV-B照射開始後1,3,6,9,12日目の第-本葉及びそれらの非 照射対照葉からリーフ・ディスクを取り、種々のパラコート濃皮 の溶液に浮かべ、 30時間白色光照射したのちのクロロフィル分解 の程度を示している。 する傾向が見られた。 パラコートによる活性酸素の生成は光合成の電子伝達系に依存している。 したがって,もし, UV-B照射により光合成電子伝達系の活性が低下したな らば,パラコートによる活性酸素の生成は起こらないため,パラコート耐性 が見かけ上増大する。パラコート耐性が活性酸素耐性を反映しているかどう かをはっきりさせるためには,光合成電子伝達活性を測定する必要がある。 そこで, PAM2000を用いてクロロフィル蛍光を測定することにより,光合 成電子伝達活性に対するUV-B照射の影響を調べたところ,光合成電子伝達UV-Bによる植物の活性酸素解毒能の誘導 19 活性はUV-B照射後6日目までは変化せず, 9日頃から若干低下する傾向が 認められた.したがって, UV-B照射は光合成電子伝達活性にはほとんど影 響を与えず, UV-B照射により増大したパラコート耐性は活性酸素耐性の増 大を意味していることが明らかになった。
今後の課題
上で述べたように, UV-B照射により1日以内にキュウリ第一本葉の活性 酸素耐性が顕著に増大したのに対して,活性酸素解毒系酵素は3日後に始め て活性上昇が見られた。そこで, 3日までにどのような活性酸素耐性機構が 関わっているのかが問題である。クロロゲン酸等のフェノール性物質含有量 が1日以内に一過的に増大しており,これらが活性酸素耐性に関与している 可能性が示唆された。パラコ-トによる活性酸素生成は大部分が葉緑体内で 起こっているはずであり,したがって,クロロゲン酸等がこのパラコート耐 性に関わっているならば,クロロゲン酸等は葉肉細胞の糞縁体に存在するこ とになる。これらのフェノール性物質がどこに蓄積しているかは明らかでな いので,今後,組織レベル及び細胞内の局在を明らかにする必要がある。Teramuraand Murali (1986)16)による,ダイズの収穫に対するUV-B
増加の影響に関する野外実験では,実験年により結果が異なっており, UV-B 増加が収穫の減少を引き起こしたり,逆に増加させることもあった。これま で, UV-Bの正の効果のメカニズムについてほとんど研究が行われていない。 野外における強光や乾燥は,しばしば植物葉内の活性酸素生成を増大させ, 植物の生育に悪影響を与える。本研究で示されたUV-Bによる活性酸素耐性 の増大が,強光や乾燥によって引き起こされる活性酸素障害を軽減している 可能性がある。この点についても今後検討する必要がある。・ 参考文献
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シロイヌナズナの6-4光回復酵素遺伝子
中 嶋 敏・山本 和生※
Ⅰ.はじめに
太陽紫外線は,染色体DNAにシクロブタン型ピリミジン二量体や6-4付 加体を作り,致死や突然変異を引き起こす。生物は,これらの傷を特異的に 修復する光回復システムを持っている。光回復酵素はDNA損傷に特異的に 結合し,近紫外光・青色光を利用して二量体や6-4付加体を単量体に戻す。 紫外線によるDNA損傷の修復機構を理解するために,我々は光回復酵素遺 伝子をクローニングすることを計画した。種々の生物からいままで得られて いる光回復酵素遺伝子のアミノ酸配列を基にプライマーを作成し,シロイヌ ナズナcDNAライブラリーをPCR増幅し, 6-4光回復酵素をコ「_ドする遺 伝子をクローニングした。この遺伝子を大腸菌で発現させたところ, invivo, in vitroで6-4光回復酵素活性を示した。Ⅱ.研究の背景と目的
地球上のあらゆる生物は太陽光の恩恵を受けて生きている。生物は太陽光 を有効に利用するための様々な仕組みを持っている。しかし太陽光は生物に 恩恵を与えるだけでなく,樽々な悪影響を生物に与えているとその原因のひ とつとして紫外線があげられる。紫外線は主に三つの波長域からなり,波長の短い方から. UV-C, UV-B, UV-Aに分けられる。地表に到達する紫外線
は主にUV-Bの一部とUVIAで, UV-Cを含む320nm以下の波長はオゾン
層によって吸収されてしまうので地表には届かない。近年オゾンホールの出
現などにより地表に降り注ぐUV-Bが増加し,生物に対する悪影響が問題に
なっている。紫外線はシクロブタン型ピリミジン二量体(CPDs)や, 6-4
付加体等の致死的DNA損傷をっくる。この二つの損傷は紫外線によるDNA 損傷のそれぞれ70-80%, 20-30%を占める。これらの損傷に対して生物は様々 な修復系を持っているが,その一つに光回復がある。この修復系は紫外線損 傷に起因する致死及び変異誘発効果を.紫外線と同時に,又は引き続いて照
射された近紫外光や青色光のエネルギーを利用して減少させる光依存的な修
復系である1)。光回復は光回復酵素と呼ばれる修復酵素によって行われ,二 種類の光回復酵素が存在する2・3)。一つはCPDを特異的に修復する光回復 静素で,もう一つは6-4付加体を特異的に修復する光回復酵素であるo CPDを修復する光回復活性は原核生物から高等真核生物にわたって生物界に広く
分布している。大腸菌CPD光回復酵素では詳しい作用機構やその立体構造
まで判っている4)0 紫外線によるもう一つの主な損傷である6-4付加体を修復する光回復酵素 の存在も昆虫,両生類,は虫類,魚類,植物で近年明らかにされている2・卜7)0 ショウジョウバェとアフリカツメガエルでは6-4光回復酵素遺伝子が単離さ れ,塩基配列まで決定されている5・6)0 cpD光回復酵素は,そのアミノ酸配列から微生物の属するclass Iと高等 真核生物の属するclassⅡに分類されている8)。しかし例外も存在し,微生 物であるメタン菌のCPD光回復酵素はclassⅡに属する8)。ショウジョウ バエやアフリカツメガェルの6-4光回復酵素もclass i CPD光回復酵素と相 同性が高い5・ 6)。 高等植物に6-4付加体, CPDに対する光回復活性が存在することは既に 報告されている7)。最近class I CPD光回復酵素に相同性を持っ遺伝子産 物をコードする遺伝子がシロイヌナズナや西洋ワサビ(Sinapsisalba)か ら単離された。しかし,これらは青色光受容体をコードする遺伝子(CRYl /HY4, CRY2/PHHl)である9'。またシロイヌナズナからCPD光回復酵 素をコードする遺伝子が単離され,そのアミノ酸配列は高等真核生物の属す るclassⅡCPD光回復酵素と強い相同性を示した10)。シロイヌナズナの cpD光回復酵素欠損株(uur2)はこの遺伝子に突然変異が起こったもので あった10)0 植物は,他の生物と同様に,生育のためには太陽光が必要である。他方, 太陽光に含まれるUV-BはDNAに傷を作る結果,光合成,生育や形態形成シロイヌナズナの6-4光回復酵素遺伝子 23 フラボノイド類の産生等に悪影響を及ぼす。われわれは高等植物紫外線耐性 の機構を理解するために. 6-4光回復酵素遺伝子をシロイヌナズナから単離 することを計画した。
Ⅱ.研究内容
1)方 法 i)大腸菌,プラスミドNKJ3002 (JM107+phr20::Ran uuT・A::Ran A recA)株を6-4光回復
酵素遺伝子のクローニング,過剰発現.組み換えタンパク質の精製に使用 した. pKY137は大腸菌CPD光回復酵素遺伝子を含むプラスミド(CPD-プラスミド)である。 glutathioneS-transferase (Gst)との融合タンパ ク質を作るためには, PGEX-4T-2を用いた。 ii)シロイヌナズナ6-4光回復酵素遺伝子のクローニング CPD光回復酵素,ショウジョウバェ6-4光回復酵素で高度に保存され ているアミノ酸配列をもとにプライマーを作成し, PCR増幅した。シロ イヌナズナの全個体から抽出したpoly (A)+ mRNAを鋳型にcDNAを作 り,これを鋳型としてPCRで増幅されてきた204bpのDNA断片をサブ
クローニングした。このDNA断片をプローブに. 5′-, 3′-RACEを行っ
て遺伝子全長をクローニングした。
in) GSTl614光回復酵素融合タンパク質の精製
GST-融合遺伝子を持っ大腸菌を超音波で破壊し,遠心沈殿後の上清を
Glutathione-Sepharose 4B (Pharmcia Biotech)カラム:
Heparin-Sepharose CL-6B (Pharmcia Biotech)カラムを用いて精製した。
iv)シロイヌナズナ6-4光回復酵素遺伝子を持っ大腸菌甲紫外線感受性 CPD-プラスミドを持っ大腸菌NKJ3002をGST-融合遺伝子で形質転換し, この菌の紫外線感受性を測定した。光回復処理を除く全ての実験は,黄色 光下でおこなった。 Ⅴ) 6-4付加体を持つDNAの調製 6-4付加体を一つだけ持っ49merのオリゴヌクレオチドを人工合成した (下線部は6-4付加体を示す) ; AGCTACCATGCCTGCCTGCACGAATTA AGCAATTCGTAATCATGGTCATAGCT。 6-4付加体を含むオリゴヌク
レオチドと,相補配列のオリゴヌクレオチドを加熱した後冷如し,二本鎖 DNAにした。このDNAを[γ-32 p]ATPとT4 polynucleotide kinaseに よって5′ 末端標識し,基質として使用した。 vi) GST-シロイヌナズナ6-4光回復酵素融合タンパク質の特性 紫外線を照射した73bpの二本鎖DNAをプローブに,ゲルシフトアッ セイにより酵素のDNA結合活性を測定した。 6-4付加体に対する修復活 性は,上で述べた制限酵素認識部位(Mse I site:TTAA)に人工的に6-4 付加体を作った49merのオリゴヌクレオチドをプローブとして用いた。 49merのオT) jttヌクレオチドを,可視光線照射しなから融合タンパク質と 一時間室温で処理した. MseI処理をした後,アクリルアミドゲル電気 泳動を行った。 2)結 果 i)シロイヌナズナ6-4光回復酵素遺伝子のクローニングとその予想アミ ノ酸配列.の比較 合成したプライマーを用いて,シロイヌナズナcDNAライブラリーを 鋳型とLPCR増幅を行った結果, 204bpの断片が得られた。この断片の 塩基配列を基に5′-, 3'-RACEを行った.得られた断片の全塩基配列を決 定した結果, cDNAは1914bpで,この中に1611bpのOpen reading frameが存在し, 537アミノ酸のポリペプチドをコードしていた。シロイ ヌナズナ6-4光回復酵素(At64/UVR3),ショウジョウバェ6-4光回復 酵素,シロイヌナズナ青色光受容体(CRYl/HY4),ヒトサーカデア ンリズム光受容体(hsCRYl),シロイヌナズナclass ⅡCPD光回復酵素 (UVR2)とのアミノ酸配列の比較を示す(図1)o シロイヌナズナ614 光回復酵素の予想アミノ酸配列は,ショウジョウバェ6-4光回復酵素と45 %,サーカデアンリズム光受容体(hsCRYl)と50%の高い相同性を示し た.しかし,シロイヌナズナ青色光受容体(CRY/HY4)と26%,シロイ ヌナズナclass II CPD光回復酵素(UVR2 )と16%の低い相同性を示し た。サザン解析によってこの遺伝子がシロイヌナズナ由来であることを確 認した。
シロイヌナズナの6-4光回復酵素遺伝子 25 Ddl --- 一一1--NDSO A161′UVR3 --一-H I UAT N!CFTY1 ---I---I -I-LI AICFIYl -一一一一一uSGSVSGC AtCPD/UYR2 LJASTVSVOPGFIIFtlL Dnl H AI61/UVR3 HSCFIY I AtCFIYt AICPD/UVF12 DEd I AI61/UVF13 HfCFIYI AICRYI AICPD/UVFt2 Xl61 DqlBI At61/LJVR】 H9CFIYI AICfHI AICF'EI/UYFt2 D'116 1 A 164/UVfl3 MBCRYI AICIIYI A tCPD/UVF12 Bm64 AI61,'uvR3 日事CFIYI AtCfIYI AH:PO/UVR2 Drn64 AI$4/UVR】 IllCFIYI AtCRYf A ICPDノUVF12 ILp■LTTFINGPLLg GNKDGFLTmLkrlYS ーL 〉H ::IrI- BU ・・ 一 一一A VH C- -〟-1 EI IV YQPSOOIV(.PV V†
H■CIIYI GKRPSOEEDTOSfGF' KVOROSTN
HcRYI AEYPRN…TNO…朋AEPASNOVTA"lP EFNIRTVAESrEOST A【SSSSGn-SGG-P【VSPGYStOFPく亡…IGGGSHSSYLO
図1・シロイヌナズナ6-4光回復酵素(AT64/UVR3)と青色光受容体ファ
ミリーの予想アミノ酸配列の比較o Drosophila6-4光回復酵素_(Dm64),
Arabidopsis CRY 1 (At CRY 1 )I H・sapiens CRY 1 (Hs CRY 1 ),
ArabidopsisCPD光回復酵素(At CPD/UVR 2)。シロイヌナズナ6-4光 回復酵素と同一のアミノ酸は黒塗り白抜き文字で示す。星印はFADとの相 互作用に必要とされるアミノ酸を示す。 この遺伝子産物が本当に6-4光回復活性を持っかどうかを調べるために. 大腸菌の光回復欠損を相補するかどうかを調べたoシロイヌナズナ6-4光 回復酵素遺伝子(6-4プラスミド)とCPD-プラスミドを持っNKJ3002株 の紫外緑に対する感受性をみたo可視光照射した場合, 6-4-プラスミドと CPD-プラ女ミドとを導入した株ではCPD-プラスミドだけを導入した株 に比べ約2倍紫外線に対して抵抗性になった。しかし,光照射のない場合, 両株の紫外線に対する抵抗性に差は見られなかった(図2-)0 inuitroでシロイヌナズナ614光回復酵素の性質を明らかにするために シロイヌナズナ6-4光回復酵素遺伝子がコードするタンパク質の精製を行っ た。光回復酵素欠損株を宿主とし, IPTGによる誘導を行い,シロイヌナ
0 1 2 紫外線(I/mユ) 図2.シロイヌナズナ6-4光回復酵素による大腸菌紫外線 感受性株の抵抗性の回復。大腸菌CPD-プラスミド、シロ イヌナズナ6-4-プラスミドをNKJ3002株に導入し、紫外 線照射後光回復処理を行った。 ズナ6-4光回復酵素をカラム操作により精製した。 SDS-PAGE (Coomassie染色)でほぼ単一一のバンドにまで精製した(結果は省略)o GSTとの融合タンパク質は紫外線を照射しないDNAをプローブとする と, DNAに結合しないので移動速度の低下したバンドは現れない(図3, レーン1)。紫外線を照射したDNAをプローブとすると移動速度の低下 したバンドが現れた(図3,レーン2)。さらに,紫外線を照射した後, アフリカツメガェル6-4光回復酵素で処理をし,特異的に6-4付加体のみ を取り除いたDNAをプローブとすると移動速度の低下したバンドが減少
シロイヌナズナの6-4光回復酵素逮伝子 27 1 2 3 刃64photolyase and - + light At 64 photolyase + + + UV to probe + + ■h ∫ 扱ー
■
_●-嶋
図3.紫外線照射DNAに対するシロイヌナズナ6-4光回復酵素の結合。 1レーン.紫外線照射しないDNAには酵素は結合しない;2レーン, 紫外線照射DNAに酵素は結合する(矢印); 3レーン,紫外線照射 DNAをアフリカツメガエル6-4光回復酵素で処理し. 6-4付加体を取 り除くと,ゲルーShiftバとドが減少するo した(図3,レーン3)。アフリカツメガェル6-4光回復酵素にはCPD光 回復活性は認められない6)。従って.融合タンパク質は6-4付加休に特異 的に結合することが明かとなった。 制限酵素認識部位(Mse i site:5'-TTAA-3')に人工的に6-4付加体を 作った49merのオリゴヌクレオチドをプローブとして用い,精製した酵 素が間違いなく6-4付加体を修復しているかどうかを, in uitroで調べた。28
light
At64 photoJyase XI64 photolyase 5 + l + 4 + l l 3 l + 】 2 + + 【 1- l l49-●嶋●●●
27+ 1
22-- ヽ ●●
図4. 6-4付加体を1個持つ49merを用いた、シロイヌナズナ6-4光回復酵 素によるin uitro修復。 49merプローブを光回復処理した後抽出し、制限酵素MseI-で処理し、 10%ポリアクリルアミド電気泳動した。 1レーン、な にも処理しない場合; 2レーン、可視光照射条件で、酵素処理した場合;3レー ン、酵素だけを処理した場合;4レーン、光照射だけをした場合;5レーン、 アフリカツメガェル6-4光回復酵素を用いたコントロール。 6-4付加体が修復され, 6-4付加体を形成していた塩基が通常の塩基の状 態に戻ると,制限酵素MseI処理によりオリゴヌクレオチドは切断され る。 Gst-融合タンパク質のみを処理しても,光のみをプローブに照射し てもバンドは切断されない(図4,レーン3, 4)。つまり6-4付加体は 修復されていない。しかし, Gst-融合タンパク質と光を同時にプローブ に処理しMseI消化すると2本のバンドが現れてくる(図4.レーン2)0 Gst一融合タンパク質は光に依存して6-4付加体を修復していた。以上の結 果より,この融合タンパク質は6-4光回復酵素であると結論した。 iii)吸収曲線 既に知られている全ての光回復酵素はchromophoreとしてFADを持っ ている2)。そこで,今回得られたシロイヌナズナ6-4光回復酵素の,可視 部での吸光スペクトルを測定した。約360nmと約450mmにピークがあり, 約475nmにショルダーがあった(図5A)。これは大腸菌CPD光回復酵
シロイヌナズナの6-4光回復酵素遺伝子 29 300 400 波長(nm) 図5.シロイヌナズナ6-4光回復酵素の吸収曲線。 A、酵素の吸収;B、酵素 を100℃で5分間処理し、遠心後の上宿の吸収;C、市販のFADの■吸収。 素のアポタンパク質に.酸化型のFADが結合しているときの典型的なス ペクトルに類似していた6)。さらにシロイヌナズナ6-4光回復酵素を5分 間煮沸し,遠心沈殿の上宿の吸光スペクトルを調べた。このスペクトルは 酸化型のFADのスペクトルに莞酎以し,約375nmと約450nmにピークが あった(図5B, C).以上の結果より,シロイヌナズナ6て4光回復酵素に は他の光回復酵素と同様にFADが非共有結合で結合していると推論した。 3)考察 cpDに関する光回復は比較的以前からよく研究されており,その詳し い作用機構や立体構造までわかっている4)o紫外線によるもう-一つの主な DNA損傷である6-4付加体に対する光回復活性に関しては,魚類,両生 類,は虫類,植物で観察されている5 7)0 6-4光回復活性を示す遺伝子は ショウジョウバェとアフリカツメガエルから単離されている5・6)o 最近こ
30 の6-4光回復酵素遺伝子と高い相同性を持っ遺伝子がと卜やマウスから単 離され,この遺伝子産物はサーカデアンリズムの光受容体であることが明 らかになった11)0 我々は高等植物のシロイヌナズナから6-4光回復酵素遺伝子を単離した。 大腸菌でこの遺伝子を発現させ,その遺伝子産物を調べた。つぎの二つの 結果より,この遺伝子産物が6-4光回復酵素であると結論した。まず,倭 復欠損株の大腸菌NKJ3002 (UUTAL, recA一, phr )を光依存的に紫外線 に対して抵抗性にした(図2)。次に, GSTとの融合タンパク質は6-4付加 体を含むDNAに特異的に結合し(図3),光依存的に6-4付加体の修復 を行った(図4).我々はさらにシロイヌナズナの6-4光回復欠損株(uur 3)が,この遺伝子にナンセンス突然変異が生じたためであることを明ら かにした12)。以上の結果より我々のクローニングした遺伝子は,シロイ ヌナズナのuur3遺伝子であると結論した。 シロイヌナズナの6-4光回復酵素は他の光回復酵素,青色光受容体と同 様にフラボプロテインであった(図5)。これらのタンパク質は還元型の FADをchromophoreとして利用している。大腸菌CPD光回復酵素では FDAH が活性型で,ここからCPDに電子が供給され,シクロブタンリ ングの開環が行われる1)。シロイヌナズナ青色光受容体では, FADの酸 化還元状態の振幅がそれぞれの植物細胞の波長に対する応答を決めている。 ショウジョウバェ6-4光回復酵素では,励起したFADからoxetane型に 移行した6-4付加体に電子が供給され,塩基は通常の状態に戻る。シロイ ヌナズナ6-4光回復酵素もおそらく同様のメカニズムによって働いている と考えられる。 シロイヌナズナ6-4光回復酵素遺伝子(UVR3)は分子量約62kDaの ポリペプチドをコードし,その予想アミノ酸配列はショウジョウバェ,ア フリカツメガェル6-4光回復酵素とそれぞれ45%, 47%と高い相同性を示 した。さらにシロイヌナズナ青色光受容体CRYl(HY4)及びCRY2(P HHl)と30%の相同性を示した。そしてシロイヌナズナclassⅡ CPD光 回復酵素(UVR2)とは17%の相同性を示した(図1)0 UVR2遺伝子 によってコードされるシロイヌナズナclassⅡ CPD光回復酵素は. CPD 光回復には必要であるが6-4光回復には必要とされない10)。反対に, UV
シロイヌナズナの6-4光回復酵素遺伝子 31 I:ilでildiiln rhylhm pltotorcCel)Iol● 614 I)llOt()lyilSL・ TnlC-)iglll pl10(lH'CCLC))((H・ 8-日T)1日ypc cJilSS I CP]) phntOlyilSCL
MTIlltl type cliISS I
CPn phOLolyilSC CIilSS lT CPn 1)LNltOIyilSe 図6.光回復酵素、青色光受容体、サーカディアンリズム受容体ファミリー の進化系統樹 R3遺伝子は6-4光回復には必要とされるが, CPD光回復には必要とされ ない12).この二つの光回復酵素遺伝子は,ある共通の一つの遺伝子を起 源にするのは間違いないが,進化の途中で特殊化し,それぞれが重複しな い基質を修復するようになった。実際,シロイヌナズナには光回復酵素に 相同性を持っ4つの遺伝子が存在する。それらは上で述べた光回復酵素
(UVR2, UVR3)であり,青色光受容体(CRYl/HY4, CRY2/P
HHl)である.光回復酵素,青色光受容体のアミノ酸配列を比較するこ とにより系統樹を作成すると, class Iとclass Ⅱの二つの光回復酵素の グループに分けることができる。そしてclass I光回復酵素はCPD光回 復酵素.青色光受容体, 6-4光回復酵素,サーカデアンリズム光受容体の 四つに分かれる(図6)。さらにclass I CPD光回復酵素はsecond chromophoreの種類によって, MTHF, 8-HDFの二つのタイプに分けら れる。光回復酵素・青色光受容体ファミリーをコードする遺伝子は,一つ の原始CPD光回復酵素遺伝子を起源とし,進化の早い段階で少なくとも 8回の遺伝子の重複によって生じたと考えられる。
謝 辞
本研究は,文部省科学研究費の援助を受けた。京都大学放射線研究センター・ 藤堂剛博士, California大学Davis校・ AnneB. Britt博士との共同研究
に厚謝致します。
参考文献
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イネの紫外線耐性機構-UVB誘導
DNA損傷とその修復能力からの解析
日出間 純・熊 谷 忠※'
B. M. Sutherland※2研究の背景
紫外線はタンパク質や核酸を破壊し,細胞に変異や癌化を引き起こすといっ た極めて脅威的な生物効果を有している。今日,成層圏オゾン層の減少に伴 いこの有害な紫外線(UVB:280-320nm)の量が増加しており,農作物への 影響(生育阻害,減収)が懸念されている。これまでに我々の研究グループ を含め,世界各地で,紫外線量の増加が植物(農作物)の生育に及ぼす影響 の解析,さらには植物の紫外線耐性機構に関する研究が行われている(1'。熊 谷らは,アジアの栽培イネ198品種を材料に, UVBの増加がイネの生育に及 ぼす影響について解析を行い, ①UVBの増加は全てのイネの生育を阻害す る, ②UVB感受性には品種間差異が存在する, ③日本型栽培イネ品種の中 で,ササニシキは抵抗性を示すが,それと近縁関係にある農林1号は感受性 を示す,ことなどを見出してきた`2・3'oそして現在我々は,これら紫外線抵 抗性イネ品種ササニシキと感受性品種農林1号を材料に,植物(イネ)の UvB耐性に関わる遺伝子資源の探索を目指し,特に紫外線によるタンパク質合成阻害の機作や,生物の全機能の発現や突然変異に影響を与えるUVB
誘導DNA損傷(シクロブタン型ピリミジン二量体)とその修復能力に着目 して解析を行っている。本稿では,後者のUVB誘導DNA損傷とその修復 能力からみたイネの紫外線耐性機構に関する最近の我々の研究について述ベ る。 ※1東北大・通生研UVB誘導ピリミジン二豊体とその修復能力
細胞内のDNAは,放射線,紫外線,食物や変異原などの外的な要因や,代謝の過程で生じる活性酸素などの内的な要因によって,絶えず損傷を受け
ている。これら種々の要因によって生じるDNA損傷は多種存在するが,こ れら損傷の多くは, DNAの複製や転写を阻害し,その結果細胞死や突然変 異を引き起こす。太陽光中に含まれる紫外線によって生じるDNA損傷の中 でも代表的なものとしては,隣り合ったピリミジン同士の問で共有結合を形 成した.シクpブタン型ピリミジン二量体(cyclobutyl pyrimidine dimer[CPD])や, (6-4)光産物があげられる。特にCPDは,紫外線によっ て生成したどリミジン二量体の大半を占めることが種々の生物で確認されて いる`4'。一方,生物は,これらのDNA損傷を修復する数種の機能を備えて いる`5'o最も主要な修復機能としては,光修復酵素(photolyase)による "光修復機能(Photorepair) ''である。光修復酵素によるCPDの修復過程 を図1に示した。数種の生物において, CPD, (6-4)光産物の各々の二量体 BluelUVA lIght tMMkeCOnd hsh) l l Phototp80wB mtd'at-on
lrductbnofCPD ForrTldlon ofphotoly-80 Photofpl● olalI {PD cornplex ●X18伽o compbx叫 ▲ CycbtlutyJ pyrlnldln● dlrn●r tCPD) ◎ Actly● phddpt● ◎ phdoIIMCPD cmTIPlex 図1 シクロブタン型ピリミジン二量体の光修復酵素による光修復反応 を特異的に認識する酵素が存在することがわかっている。 CPD光修復酵素 は, CPDを特異的に認識して結合した後(酵素-CPD複合体の形成),青色 光・近紫外光の光エネルギーを吸収.利用して,二量体を修復する。また光 に依存しないで,損傷を起こしていない完全なDNA鎖を利用し, denovo
合成により損傷を起こした塩基と置換することで修復する"除去修復機能ま
イネの紫外線耐性機構-UVB誘導DNA損傷とその修復能力からの解析 35
たは暗修復機能(Excision repair,またはDark repair) "も有しているが, その修復速度は光修復速度と比較してかなり遅い。しかし.夜間など,日中 蓄積したDNA損傷の修復には,有効に働く(6)0
感受性品種"農林1号〝は, CPDを修復する光修復能力が
低下している
我々はまず,上述した紫外線抵抗性の異なるイネ品種,ササニシキと農林 1号を材料に,紫外線UVBによるDNA損傷(CPD)の生成の感受性とそ の修復能力について比較 50 解析を行った。尚, DNA 上に生成したCPDの量 は. CPDを特異的に認 識するUV endonuclease を用いた,アルカリパル スフィールド電気泳動法 によって測定された(7)。 図2には,両品種の第2薫から第6葉の葉令の異
なる糞を材料に, UVB によるCPD生成の頻度(UVB dose response)香
測定した結果を示した。 その結果, (DCPD生成 の頻度は,妻令によって 大きく異なり.幼植物 / (第2-4葉)の時期は,
CPD生成の感受性が高
い, ②同じ強さのUVBが照射された2品種問に
おいて,生成されたCPD 量はほぼ同程度で差異が 0 ▲U 0 0 0 IU 0 0 3214321 (q≡l凸dU)凸dUPOUnPu!・^⊃ 0 2.5 5 7.5 10uv dose (kJJm2)
図2 抵抗性品種ササニシキ.感受性品種農林 1号の第2葉∼第6葉における, UVBによる CPD生成の頻度見られない,つまりUVBによるCPDの生成のされ易さ(感受性)には2 品種問で差異がないということがわかった(A)。
っぎにCPDの光修復能力を比較解析した結果を図3に示した。実験方法
(qMl凸dU)^UuOnbaJL QdU
0 2.5 5 7.5 10 12.5
日umination time (min) 図3 ササニシキ,農林1号の光修復能力の比較 各々の植物体にCPDが30CPD/Mb生成するようにUMBを照射した 後,直ちに青色光の下に移し,経時的にCPD量を測定した結果。 は,イネ第3葉に7.5kJ/m2のUVBを照射し. DNA上におよそ30 CPD/MbのCPDを生成させた。その後,直ちに青色光の下に植物体を移 し,径時的にサンプリングを行い, DNA中のCPD量を測定した。その結 果,感受性の農林1号においては,生成したCPDの光修復速度が抵抗性品 種ササニシキと比較して,明らかに遅いことを見出し,光修復能力の低下が 紫外線感受性の主な要因である可能性を示唆していることが考えられた(9)0
イネの紫外線耐性機構-UVB誘導DNA損傷とその修復能力からの解析 37