濾.:
Ⅱ. UVAフィルムによるホウレンソウ苗立枯症の防除
ホウレンソウを7月から8月の盛夏に栽培すると,一般農業用ビニルフイ
ルム(Common agricultural vinyl‑CAフイルム;300nmまで透過)の‑ウ
スでは苗立枯症が多発し,実験終期には殆どの個体が発病するのに対し,
※ 島根大学生物資源科学部
UVAフイルムのハウスでは,発病が著しく抑制された(図1)6)。この結果 は自然発病によって得られたものであるが.発病個体から分離される糸状菌 ではPythiuTn菌に次いでFusarium菌が多く, Fusarium菌はUVAフィル
〓96utdLUeQ%
/0‑0‑0‑0‑0‑0/
0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30 33 Days a一ter sowlng
図1紫外線除去フイルムによるホウレンソウ苗立枯症の抑制
CA:一般農業用ビニルフイルム(Common Agricultural Vinyl Film‑ CAフイルム) UVA:紫外線除去フイルム(UltravlOlet‑Absorbing Vinyl Film‑ UVAフイルム)
60 40 20
〓96U!d∈e凸%
0 101 JO4 101 日18
1noculum concentration (spores /mり 図2 土壌接種したFusariuTn OXySPOrumによ
るホウレンソウ苗立枯症のUVAフィルムに よる抑制
アスタリスクはDancan's new multiple rangetestでCAハウスとUVA‑ウスの間 で有意差(P<0.05)があることを示す。
CA:一般農業用ビニルフイルム, UVA:紫外線 除去フイルム
ムによる分離頻度の低下が最 も高かったことから,ホウレ ンソウ苗立枯症の主因である と判断された。
さらに.発病個体から分離
されたF. OxysponLTnを人為 的に土壌に接種して, CAフイ ルムとUVAフイルムのハウ スにおける発病を比較した。
その結果,接種濃度が比較的 低い条件ではCAフィルム‑
ウスに比較してUVAフイル ム‑ウスでは有意に発病が抑 制されることが明らかになっ た(図2)。しかし,接種濃 度が高く,病原菌のイノキュ
UV‑B付加照射によるホウレンソウ萎凋病の発病促進 75 ラムポテンシャルが高い条件下ではフィルムの違いによる発病に差は認めら れなかった。すなわち,太陽光から紫外線を除去することによるホウレンソ ウ苗立枯症の抑制は病原菌による土壌の汚染程度が比較的軽度の圃場で明瞭 に発現されることが明らかになった。
Ⅱ.紫外線UV‑Bの付加照射によるホウレンソウ萎凋病の誘発
紫外線が除去されると発病が抑制されることから,紫外線が発病を誘発し ている可能性が考えられたので,グロースキャビネット及びガラス室で紫外 線UV‑Bを付加照射してホウレンソウ萎凋病に及ぼす影響を検討した。グロースキャビネットでの実験では, F. oxyspoT・uTnf. sp.spinaciaeと同定された
菌株を用いて土壌接種を行った。その結果,紫外線UV‑Bの付加照射によっ
(㌔)a3uaP叫UuTaSdaSTQ
0 5 5 2
0 103 104
1noculum toncentration (spores ml・1)
図3 土壌接種したFusarium oxysporum f. sp.
spinaciaeによるホウレンソウ萎凋病の紫外線 UV‑Bの付加照射による発病促進
接種後15日間光処理をした後に調査した。アス
タリスクはTurkey‑Kramer testで+UV‑B と‑UV‑Bの間で有意差(P<0.01)があるこ とを示す。
+UV‑B:UV‑B付加照射(1.OWm 1)
‑UV‑B:UV‑B付加照射なし
て,発病が促進される ことが明らかになった (図3)7)。しかも,接種
濃度は,温室における土 壌接種試験とほぼ同じレ ベルの時に,紫外線付加 照射によって発病が著し
く増加した。土壌接種に よって発病した個体及び
無病徴個体から菌の再分
離を行った結果,発病個 体の全てから,また.無病徴個体の多くから接種
菌が再分離された。合計
した再分離率は,接種濃 度が高いと高くなる傾向 があるが.紫外線UV‑Bの付加照射の有無による
有意な違いは認められな かった(表1)。この結76
表1土壌接種したF, oxyspor7Lmf, sp. spLnaCLaeの紫外線UV‑B付加照射 15日後における再分離率
接種濃度 紫外線付加 発病個体 無病徴個体 合計再分離率
(spores ml l) 照射の有無∈ (%) (%) (%)
103 ‑UV‑B 18.2 64.0 82.2
+UVIB 59.0 30.3 89.3
104 ‑UV‑B 67.1 32.9 100,0
+UV‑B 88.7 10.3 100.0
栗から,紫外線UVIBはホウレンソウの根へのFusarium菌の侵入には影響 せず,根内に侵入・定着した菌による発病を促進しているものと考えられる。
このことを確認するため,自然光下のガラス室で針接種試験を行った。平
板培養した菌体から得たF. Oxysporum f. sp. spinaciaeの胞子を遠心分離に よってペースト状にし,針を用いて,子葉展開後のホウレンソウの膝軸に均 一一に穿刺接種した。こうすることによって,全ての個体を一様に感染させる ことが出来た。接種後,野外のガラス室内で,紫外線UV‑Bの付加照射を行っ て,付加照射しなかった個体と発病状況を比較した(図4)。その結果,栄 外線UV‑Bを付加照射すると接種後3日目から発病し,急速に発病率が増加
)00
75
50
25
0
(1 3 5 8 10 13 15 ∩ 3 5 8 10 13 15
Period ofUV13 irradlation (day)
図4 針接種によるホウレンソウ萎凋病の発病率(+)及びF. Oxysporum f. sp. spLnaCLaeの再分離率(□)に及ぼす紫外線UV‑B付加照射の影響 +UV‑B:UV‑B付加照射(1,0 WmJl)
‑UV‑B:UV‑B付加照射なし
UV‑B付加照射によるホウレンソウ萎凋病の発病促進 77 した。実験終期の接種後15日目には約75%の発病率となった。これに対して, 紫外線UV‑B無照射区では発病率の増加が緩やかで,実験終期になっても, 約30%の発病率に止まった0 ‑万.発病個体及び無病徴個体の接種部を除い た根からの菌の合計再分離率は,紫外線UV‑B付加照射区では,接種3日後 には約70%と急速に高まり, 13日後には100%の分離率となった。これに対 して,紫外線UV‑B無照射区では,最終的にはほぼ100%の分離率となるも のの増加速度が遅く,接種後10日目までは紫外線UV‑B照射区に比較して.
明瞭に抑制されていた。
針接種によって均一に接種しても,紫外線UV‑Bの有無によって発病に差 が認められることは.紫外線UV‑Bの影響は菌の侵入の場面ではなく,感染 後の発病の場面に作用していることを示している。また,針接種後の再分離 率が,当初, +UV‑B区で高いことは,紫外線UV‑Bが宿主の根部における 菌の伸展を促進していること示していると考えられる。宿主組織内での菌の 伸展が,結果的に発病を促進している可能性を示唆している。
Ⅳ.おわりに
以上のように,ホウレンソウ苗立ち枯れ症及び萎凋病は夏期の高温時には
図5 紫外線UV‑Bによるホウレンソウ萎凋病の誘導(模式図)
78
紫外線除去フィルムで被覆栽培をすることによって発病が抑制され,逆に, 紫外線UV‑Bを付加照射することによって,萎凋病は人工光下でも,また自 然光下でも,顕著に発病が増加した。このような紫外線除去によるホウレン
ソウ萎凋病の防除効果及び紫外線UV‑Bの付加照射による促進効果は,病原
菌F.oxyspommf.sp.spinaciaeの土壌中におけるイノキュラムポテンシャ
ルが低い条件で顕著に現れることも明らかになった。紫外線付加照射は保菌 している個体の発病率を高め,発病を増加させるが,紫外線を除去すると保 菌しているにもかかわらず,無病徴のままLEまる個体の割合が高くなる。
これらの結果から,紫外線UV‑Bの付加照射は, Fusarium菌の根部への 侵入を促進するのではなく,ホウレンソウ根内における菌の伸展を促進する とともに,侵入菌による病徴発現を誘発することによって,発病を増加させ る効果をもつものと考えられる(図5)。
参考文献
1) Ben‑Ybphet, Y. and Shtlenberg, D. (1994) Phytopatho1. 84:1416‑1421.
2) Bornman, J.F. andTeramura, A.L. (1993) In Environmental UV Photo‑
blOlogy (Young, A.R. eZ α′. eds), PlenumPress, NewYork, pp.427‑471.
3) Busch, LV. and Edgington, LV.(1967) Can. J.Rot. 45:691‑693.
4)児玉不二雄(1988)農耕と園芸(4月号):66‑68.
5) Jones, J.P., Crill, Pand Volln,R.B. (1975) Phytopatho1. 65:647‑648.
6) NaltO, Y. and Honda. Y (1994) Bull. Fac. Agr. Shlmane Univ. 28:37‑43.
7) Naito, Y., Honda, Y. and Kumagai, T. (1997) Ann. PhytopathoL Soc.
Jpn, 63:78‑82.
森林植生をめぐる紫外線環境について
岡野通明') ・今 久2) ・大谷義一')
・青島史子2) ・吉武 孝1)
1.はじめに
近年,フロン等の化学物質の大気中への放出による成層圏のオゾン層破壊 が重要な問題となっており,成層圏オゾン全量の減少傾向が顕在化している。
オゾン層破壊によって引起こされる紫外線量の増加,特に生物影響が大きい とされるB領域紫外線UV‑Bの増加は,植物の生産,生長あるいは増殖に影 響を及ぼすと予想されている。
植物に対する紫外線増加の影響評価とその作用機構は解明されつつあるが,
森林樹木等の永年性植物については研究例が少ない。環境変化に対する緩衝
能の高い森林が衰退することへの懸念があり,全地球的な生態系への影響評 価においてもバイオマスの多くを占める森林に関する研究が重要視されてい る。また標高の高い山地にまで分布が延びる森林生態系では,紫外線増加の 影響をより敏感に受ける可能性がある。紫外線による樹木影響の評価ならび に対策に資するべき適応機構等の検討が急務である。大気オゾン全量と地表到達紫外線量の関係は単純ではない。 Logan (1985) によれば,対流圏内のオゾンはわずかながら増加傾向にあって,成層圏オゾ ン量の減少を捕償しており, Frederick et al. (1989)は,地表到達紫外線量
は対流圏内の汚染物質の影響も受けるため,その地域差が大きいことを報告 している。
また,大気外に入射する紫外域放射スペクトルおよび大気圏内における紫 外域放射伝達過程は波長依存性が大きいため,紫外域放射の生物影響に関す る研究を行うためには,現在および将来の地表到遠紫外域放射スペクトルの 時・空間分布が明らかにされる必要がある。
1)森林総合研究所, 2)千葉大学園芸学部
80
気象庁では紫外線量の長期監視を目的に,プリュ‑ワー分光光度計を用い た紫外域放射スペクトルの定常観測を開始した(伊藤ほか,1991)。このよ うな観測や,地表到達紫外線量のモデルによる研究(Frederick eta1., 1989)
により,地表付近の現在の紫外線環境や,将来の変化が次第に明らかにされ つつある
一方,紫外線の生物への影響は, ‑椴に波長が短くなるに従って影響の強 さが増加する。波長別の影響の強さを表す関数は作用スペクトルと呼ばれ,
Gerstl et al. (1981), Caldwell (1982), Rundel (1983)らによって研究がさ
れているが.生物影響の作用スペクトルの関数形がすべて明らかにされてい
るわけではない(Luther, 1985)。
さらに,植物群落を対象とした紫外線影響研究では,大気中を透過し群落 上端に到達した紫外域放射スペクトルが.群落内でどのように変化するかを 明らかにする必要があるが,群落内の紫外域放射伝達過程に関する研究は見 あたらない。
ここではまず第一に,森林に形成される紫外域放射環境を明らかにする目 的のために,森林群落内の紫外域放射環境の推定を行なった。紫外線環境の 推定から,群落内の紫外線強度は樹冠層によって著しく減衰することが予想
される。森林内の紫外線環境は林内物理環境の重要な要素として植物の発芽
や生育などに大きな影響を及ぼすことが考えられる。第二に,高山域では低地に比較して紫外線強度が満在的に著しく大きいこ と等が予想される。我が国では,森林は高山,亜高山帯にまで分布を延ばし ている。一般に,標高の大きいところでは標高の小さいところと比較して, UV‑B量は多いといわれている。高地におけるUV‑Bの報告や,低地での UV‑Bとの差異の報告例はほとんどない。 UV‑Bが森林生態系に及ぼす影響 を知る際に,比校的標高の大きいところにまで分布している森林が実際に照 射されている紫外線量を知る必要がある。 UV‑Bを標高の異なる2ヶ所で観 測を行い,比較をすることによって低地と高地におけるUV‑Bの差異の解明 を試みた。