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貿易における知的財産権問題とビジネス上の対応 : 商標権、意匠権侵害を中心として

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貿易における知的財産権問題とビジネス上の対応 :

商標権、意匠権侵害を中心として

著者

美野 久志

雑誌名

商学論究

59

2

ページ

33-83

発行年

2011-10-30

URL

http://hdl.handle.net/10236/8432

(2)

 はじめに

日本企業は、 21世紀の大市場とされる中国に進出する際に、 また同市場に 進出後において知的財産権問題に晒されてきたが、 中国ビジネスの拡大とと もに、 中国国内市場における知的財産権問題に遭遇するのみならず、 中国発 の国際的な知的財産権問題に直面している。 それは、 企業活動のグローバル 化とともに知的財産権問題が、 中国を基点として世界各地に拡散するような 形で広がりを見せ、 海外に展開する企業に新たなビジネス上の取組みを迫っ ているからである。 この知的財産権問題のグローバル化は、 特に商標権 (ブ ランド) あるいは意匠権 (デザイン) を侵害した模倣品の世界的な拡散に見 られる。 この模倣品の生産基地であり、 輸出元となっているのが中国である。 本稿では、 中国から海外諸国に、 世界の市場に模倣品がどのように拡散して いるのか、 その実態と企業サイドにおける模倣品対策の現状と課題について 検証する。 中国発の模倣品が従来以上に世界に拡散しつつあるという一つの証左があ る。 日本の税関統計で世界から日本に入ってくる模倣品、 海賊版1)等の知的 財産権侵害物品の輸入差止め件数を仕出し国 (輸出元国のこと、 以下、 仕出 し国という) の構成比でみると、 2010年まで最近5年間で中国からの知的財

貿易における知的財産権問題とビジネス上の対応

商標権、 意匠権侵害を中心として

− 33 − 1) 知的財産権侵害物品は、 通常、 商標権 (ブランド) または意匠権 (デザイン) 侵害物 品を模倣品といい、 著作権または著作隣接権侵害物品を海賊版という。

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産権侵害物品に対する輸入差止め件数は上昇の一途にある。 2006年における 知的財産権侵害物品の輸入差止め件数に占める中国発の侵害物品の比率は丁 度半分 (約50%) 程度であったが、 2010年には侵害物品への年間の輸入差止 め件数のうち中国からの侵害物品に対する輸入差止め件数が全体の9割を占 めるまでに増大している。 税関関係者は、 このような中国産模倣品の流出現 象は日本に留まらず世界的に拡散しており、 本来は流通してはならない知的 財産権侵害物品があたかも通常貨物であるかのように取引される由々しき事 態が発生していると懸念している。 知的財産権侵害物品の国際的な拡散については、 中国に対してそうである かのように悲観的な面のみを見るのは正しくない。 日本に流入してくる知的 財産権侵害物品に対する輸入差止め件数の構成比は、 2005年頃まで仕出し国 として中国と韓国がそれぞれ同様なウエイト (40∼50%) で拮抗しており、 いずれを重点的な問題発生国とするか判定が難しい状況であったが、 中国の WTO 加盟後5年を経過した2007年頃から状況は一変する。 韓国発侵害物品 への輸入差止め件数の比率が一方的に低下する中で、 ひとり中国の比率が増 大するという傾向が顕著になった。 これは、 今後の国際的な知的財産権侵害 物品の貿易取引を防止しようとする一連の対策に関して明るい展望を示唆す るものである。 なぜなら、 韓国は模倣品輸出国というレッテルを払拭するた めに、 模倣品輸出の取締りを重点的に強化した結果、 韓国にとって有数の模 倣品輸出相手国であった日本への輸出が激減したという実績があるからであ る。 知的財産権侵害物品の国際取引問題は深刻化しているが、 韓国による取 締り強化と成果は、 「知的財産権侵害物品の取引は努力次第で防止できる」 という展望を与えるものであるからである。 では、 なぜ、 中国発の知的財産 権侵害物品問題が深刻化しているのであろうか。 従来、 中国で生産された模倣品については、 知的財産権の権利侵害を受け た被害者が中国内の工場で生産されたものを各地の知的財産権取締り当局に 訴えて、 直接生産物品を差し押さえ、 または工場や生産設備を摘発するなど の国内措置、 あるいは税関で輸出差止め措置を取るなどの水際措置を講じて

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きた。 しかし、 中国産模倣品の輸出ネットワーク、 模倣品工場と海外バイヤー との取引の拡大に伴い、 模倣品は、 様々な国際貿易拠点を通じて世界中に取 引されるように取引実態が変化してきたことによって、 こうした国内中心の 取締り措置ではとても十分な対応をとることはできなくなってきている。 中 国を巡る模倣品対策は、 日本本社の指示に基づいて中国国内で処するような 対策よりも、 国際的な事業拠点をネットワークするように地球上を取り巻く 包括的な対策を取るよう企業に促している。 即ち、 中国発の侵害物品を巡っ て知的財産権対策のグローバル化が求められるという状況が現れてきた。

 商標権 (ブランド) と意匠権 (デザイン)

1. 商標権 (ブランド) の価値 商品の顔である商標権 (ブランド) が如何に重要なものであるかを示す材 料は枚挙に暇がない。 「1粒で300 m」 を表記した赤箱のキャラメルを発祥と して大手菓子メーカーに成長した江崎グリコは、 その商標であるグリコマー ク2)を創業者の江崎利一自らが原画を作成し、 これを堅持して今日に至って いる。 グリコマークは、 ある日、 利一が神社の境内でかけっこをした子供が 両手を挙げてゴールインする姿に注目し、 これをゴールインマークとして商 標化したものである。 グリコ商標としてのゴールインマークは1922年に始ま り、 以来2度に亘ってその選手の表情や姿は修正されているものの、 「ゴー ルインする子供は元気はつらつ、 かけっこは健康の近道である」 というコン セプトの下に、 このトレードマークは現在に至るまで約90年間一貫してグリ コ商品が健康的で品質の良いものであることを表象し続けている。 コカコー ラの商標 (トレードマーク) である Coca-Cola は、 1886年にコカコーラの発 明者の友人であるフランク・ロビンソンが1886年に作成し、 1905年の商品ポ スターにも 「ひげロゴ、 曲線、 赤」 で表現を統一した Coca-Cola のマークが 2) グリコのトレードマークは、 スポーツ選手が距離競争でゴールインする姿を現したも の。 グリコという商号はグリコーゲンに由来し、 キャラメルの赤箱は目立つ色、 食欲 をそそる色として誕生した。

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登場している。 コカコーラは、 100年有余に亘ってこのトレードマークを使 用し、 同商標はコカコーラ飲料の国際的な消費者への浸透と認知度向上に大 きな役割を果たした。 こうした商標のビジネス上の機能/効果とはどのようなものであろうか。 日系のグローバル企業の一つであるA社では、 ブランドとしての商標につ いて次のような考え方を提示している。 即ち、 ブランドとは、 ①顧客に対す る責任の表象である。 ②企業とその商品の顔である。 ③商品に対する顧客の 信頼と満足の証しである。 ④企業のかけがえのない資産である。 ⑤社員の誇 りである、 と語っており、 ブランドとは当該企業が社会に提供する商品やサー ビスに対する信用の蓄積、 企業活動に対する社会の信頼を示す証しであると している。 商標は、 ブランドそのものを表示し、 あるいは商品やサービスの 信頼性を示す重要な役割を有している。 一般的に、 商標は、 「当該商標を冠した商品やサービスが需要家/消費者 によって他の商品/サービスと区別される識別機能」、 「その商標を付した商 品またはサービスを提供している同一の企業等であることを示す出所表示機 能」、 「その商標を冠した商品またはサービスは、 同一の品質と信頼性を有す ることを示す品質保証機能」、 「その商標を通じて需要者/消費者の注意・注 目を喚起し、 需要者/消費者に商品やサービスの購買・利用意欲を起こさせ る宣伝広告機能」 を持つとされる。 では、 商標機能の第一に挙げられる識別 機能はどのようにして生ずるのであろうか。 「トヨタ」 というブランドは、 トヨタグループの創業者である豊田佐吉翁の遺志を体して1935年に当時のグ ループトップが制定した5か条の豊田綱領に遡る。 その第一条には 「上下一 致、 至誠業務に服し、 産業報国の実を挙ぐべし」 とあり、 トヨタの製品は国 家と社会に貢献するものでなければならないことを示唆している。 トヨタは、 長年の製品供給を通じて社会生活と産業の発展に寄与してきたことを示すも のでもある。 この企業精神は1992年制定のトヨタ基本理念となり、 それに基 づいて2001年に作成された 「トヨタウエイ」 では、 全世界で働くトヨタのグ ループ社員がその価値観や経営手法を共有すべきことを定め、 トヨタブラン

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ドのグローバル化を促した。 パナソニックの前身である松下電器のブランド であった 「ナショナル」 は、 松下電器の創業者である松下幸之助氏が1929年 に制定した綱領に遡る。 そこには 「産業人たるの本分に徹し、 社会生活の改 善と向上を図り、 世界文化の進展に寄与せんことを期す」 とあり、 松下電器 の使命は、 製品の生産・販売活動を通じて社会生活の改善と向上を図ること にあるとしている。 その後、 約80年を経て、 この事業理念はパナソニックに 引き継がれ、 世界規模で生産されるパナソニックグループの製品は、 生活・ 文化の向上に資するものでなければならないことを示している。 このように、 今日の日本のトップブランドであるトヨタやパナソニックは、 事業精神を出 発点として長年の生産/経営活動の成果を通じて、 その製品群に化体された 商標である。 従って、 ブランドとしての商標は、 それを生産し販売した製品 に対する顧客の信用と信頼が蓄積されたものであると指摘することができる。 「ナショナル」 というブランド名は、 松下幸之助氏が 「ナショナル」 を辞書 で引くと 「国民の、 全国の」 という意味であり、 「ナショナル」 の名前で国 民の必需品にしようと決心したことに由来し、 1925年に商標として出願登録 された。 商標が信用と信頼の蓄積である証左の一つとして、 同氏がある時に 「わが社が一つの商品でもマークに恥じるようなものを出したなら、 それは すべての製品の信用に影響する。 良品を作り、 マークに対する信用を保持し、 マークを尊重しなければならない」 と語ったという逸話がある。 以上のよう に、 商標は、 「商品 (またはサービス) に対する信用と信頼が蓄積されたも の」 であることを指摘しなければならない。 商標は、 識別機能、 出所表示機能、 品質保証機能、 宣伝広告機能などを有 するとされるが、 ビジネスの現場ではどうなのであろうか。 それは、 A社の 商標に対する考え方のように、 包括的でトータルなものであると考えられる。 「顧客に対する責任の表象である」 「企業とその商品の顔である」 「商品に対 する顧客の信頼と満足の証しである」 という3つの考え方は、 長年に亘っ て需要家/消費者に提供した商品 (またはサービス) の品質、 使い良さ、 安 全性、 商品 (またはサービス) を利用することで得た生活との深い関わりや

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利便性、 その結果としての商品 (またはサービス) に対する信用 が需要家/ 消費者の信頼を得て、 顧客と企業を密接に結びつける絆になったことを示し ている。 このような絆を通じて、 需要家/消費者は同一の商標 (ブランド) を使い続け、 さらにその結果として、 更なる信用が当該商標に蓄積される。 「ナショナル」 ブランドに付随する逸話として、 「万一、 ナショナルのマーク をつける価値のないような商品を作ってしまったら、 マークをつけるな」 と 叱られた製造所があったという。 商標は、 単にその商品の性質や品質を表示 するものだけではなく、 顧客、 さらには企業や従業員との関係を結ぶトータ ルなものであるとの考え方がここに示される。 その結果として、 商標は 「会 社のかけがえのない資産」 であり、 「社員の誇りである」 という考え方が統 合的に引き出される。 2. 商標権侵害によるビジネス上の損害 では、 模倣品によって商標権が侵害された場合、 ビジネス上どのような問 題が生ずるのであろうか。 中国を巡る知的財産権問題の中で模倣品による商標権侵害に関して、 企業 がビジネスの実際面で障害に直面すると指摘している事項は、 ①顧客の保護: 商品/サービスの安全性確保の問題、 ②商品/サービスに対する苦情・クレー ムによる販売上のマイナスの影響、 ③商品/サービスに対する市場価値の喪 失、 ④模倣されやすい商品/サービスをどのように模倣されないようにする か、 である。 この中で日本企業が模倣品によるビジネスへのマイナス影響と して最も恐れているものは何か? それは、 「商品/サービスの安全性確保 の問題」 である。 例えば、 商品の機能上は問題がないが品質や使い勝手が少 し劣るという場合は、 需要家/消費者の信頼を損ねることは比較的少ないと 思われるが、 安全性が確保されない商品やサービスは確実に信頼の喪失につ ながり、 結果として企業イメージや事業経営の存続にも負の影響を与える。 次に、 顧客や消費者の苦情・クレームは、 当該商品やサービスの欠陥 (また は瑕疵) を直接に指摘するものであるから、 ブランドとしての価値を保持す

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るためには、 当該商品/サービスの品質等の改善を図らなければ、 そのブラ ンドは価値を失い、 市場から退出することを余儀なくされる。 模倣品による被害の問題について、 事業経営上の視点から見ると次のよう に整理される。 ①商品 (またはサービス) の優秀性、 品質、 健全性を損ねる イメージを需要家/消費者に与える、 ②顧客の信頼を失う、 ③商品開発およ び生産に関する投資回収が疎かになる、 ④海外市場において不公正な競争に さらされる、 という点である。 中国を巡る模倣品問題は、 需要家や消費者の 信頼を損ね販売への影響を蒙るばかりではなく、 商品の開発や生産、 引いて は事業経営にもマイナスの影響を受けるという事態を引き起こす。 このような模倣品によるビジネスおよび事業経営への影響に関し、 企業ヒ アリングを通じて、 どのような商品 (あるいはサービス) が模倣されやすい か、 または模倣品のターゲットになりやすいかを見ていくと、 「付加価値の 低い商品は模倣されやすい」、 「製造が簡単な商品は模倣されやすい」、 「汎用 商品で利益が高いと目される商品はターゲットになりやすい」 という共通項 を見出すことができる。 従って、 模倣されにくい商品を販売していくために は、 付加価値が高く、 製造方法に工夫があり、 独自の商品性と機能を持つよ うな商品 (またはサービス) を提供していくことが肝要となる。 3. 意匠権 (デザイン) とビジネス 意匠権 (デザイン) は、 商標権と同様に知的財産権を構成する要素として 重要なものである。 デザインを切り離して商品が存在することはまずありえ ないからである。 中国を巡る意匠権侵害では、 一定の傾向が見られる。 それは、 商標は類似 商標であるが、 意匠 (デザイン) は同一または極めて真性品に類似したもの で構成されているケースが実に多い。 類似商標の表示形式は、 登録商標とほ ぼ同一のものから、 よく見れば登録商標に近い印象を与えるようなものまで 様々であるが、 意匠 (デザイン) は真性品の商品価値を盗用して当該商品の 信用にフリーライドするために、 真性品と類似性が強く誤認混同を引き起こ

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すようなケースが多く見られる。 これは、 商品のデザインには需要家や消費 者に強いブランド性を印象付けるものと、 そうではないものがあることを示 すものである。 商品の付加価値を高め、 デザイン盗用をしにくいものとすれ ば、 オリジナル意匠にフリーライドされることは少なくなるが、 付加価値が 低くデザインの模倣がしやすいような表示内容では、 意匠 (デザイン) の盗 用を許してしまう可能性が高くなることを示唆している。 従って、 意匠 (デ ザイン) は、 商品価値を高め、 当該商品の独自性や需要家/消費者に与える 印象を強化する上で決定的な要素を有するものであると言える。 特に、 中国 を巡る知的財産権問題では、 意匠 (デザイン) の重要性が際立っている。 意 匠権侵害を行う中国系企業 (その多くに香港企業など華僑系企業が含まれる) は、 単に商品自体の意匠 (デザイン) の模倣を行うばかりではなく、 商品の ケースや段ボール箱のデザインでも意匠 (デザイン) の真似をしているもの がよくある。 意匠 (デザイン) の模倣は商品と包装の両面で行われているこ とを示すものであり、 こうした実態は、 意匠 (デザイン) が商品のブランド 性を維持し、 当該商品を市場展開していく上で重視すべきものであることを 指摘している。 一方、 意匠 (デザイン) は商標と異なる性質を持つものであり、 中国を巡 る知的財産権問題では、 商標 (権) と意匠 (権) に関わる性質上の相違や、 ビジネス上の留意点に注意していく必要がある。 詳しくは、 Ⅴ. まとめの章 で述べるが、 意匠 (デザイン) が商標と異なる点は3つある。 第一に、 商標は往々にして商号 (社名) であり、 またはブランドを表象す る名称である場合も多く、 商標そのものが単独で使用されるケースも多い。 一方、 意匠 (デザイン) は商標とともに商品を構成する要素であり、 意匠 (デザイン) 単独でビジネス上使用されることは稀である。 第二に、 商標は当該企業が提供する商品またはサービスを化体するものと して、 通常、 必ずと言ってよいほど商標権として権利登録されるが、 意匠権 は当該企業の商品の中でブランドを代表するものや、 意匠 (デザイン) その ものが商品の品質・特徴・使用目的や商品としてのステータスを表示するも

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のでは意匠権として権利登録されるが、 意匠権登録には時間とコストを必要 とするので、 ビジネス上では権利登録されないことも多い。 第三に、 近年における商品ライフサイクルの短縮化に伴い、 意匠権を権利 登録しないで、 商品価値を構成するデザイン効果を短期に回収する傾向が見 られることである。 ファスト・ファッションなどアパレル関係で特にその傾 向があるようである。 商標と意匠を権利としてみた場合、 知的財産権の国際統一ルールとしての TRIPs 協定で基本的な保護内容が取り決められており、 日本と中国における 商標権と意匠権の基本的な保護も TRIPs 協定に基づいて組み立てられてい る。 しかし、 商標と意匠 (デザイン) は、 ビジネスの実態からみると異なる 性質をもつものであることを認識することも必要である。

 知的財産権の国際統一ルール TRIPs 協定と日本、 中国の法体系

1. TRIPs 協定と同一土俵に立つ日本、 中国 中国でこのように模倣品がはびこり、 中国を基点とするグローバルな模倣 品取引ネットワークが形成されつつあるという状況は、 中国における模倣品 の製造販売が完成品を直接生産・供給する方式から、 国際的な水平分業生産/ ネットワーク売買方式に変化するという歪曲した局面をもたらしており、 今 後、 中国を巡る知的財産権問題に一層の困難な状況を写し出すかもしれない。 これは、 また、 外資系企業を主体として中国の対外貿易が拡大するという前 向きな局面とは離れて、 地方や農村の中小都市を中心に存在する中国のロー カル企業が地方経済の維持と従業員の雇用のためにその生存を掛けて模倣品 を作り続けなければならないという特有の内部事情とも深く関わっている。 では、 中国の内部事情として模倣品を作り続けるような負の産業構造が長 年放置されているのかといえば、 そうではない。 中国は、 知的財産権のルー ル化と法体系に関しては立派な法律社会である。 中国は2001年12月に WTO に加盟した。 世界の貿易体制の枠組みである WTO の目的は 「市場経済原則によって (貿易を拡大し) 世界経済の発展を

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図ること」3)であり、 中国は WTO 加盟に当って国家の法体系を市場経済原 則に基づく法体系に抜本的に改めることを約し、 それを実行して WTO 加盟 を実現した。 経済産業省の外郭団体で中国との経済/貿易関係業務に当る日 中経済協会の中国貿易投資適正化調査委員会が纏めた2002年度訪中団報告に よれば、 WTO ルール (=WTO 協定) に沿って中国が改廃の対象とした既 存の経済貿易関係法令は、 同年度までに1,150の多きに上る4)。 WTO 協定は、 モノの貿易ルールとしての GATT、 サービス貿易のルールとしての GATS、 知的財産権ルールとしての TRIPs 協定 (知的財産権の貿易関連の側面に関 する協定、 以下 TRIPs という) の3つの協定から成り立っており、 WTO ルー ル全体の受入れを約した中国は、 知的財産権関係の法令もすべて改廃、 また は TRIPs が規定し中国で整備されていないルールは関係法令を新設して実 行した。 さらに、 TRIPs が定める知的財産権関係規定の実行を期すため、 知 的財産権の法律 (権利) ごとに実施条例/実施細則を制定または改訂し、 WTO が TRIPs で定める知的財産権ルール全体について WTO 整合的な法体 系を整備している (第1表参照)。 これによって、 中国は知的財産権法体系において日米欧などの市場経済国 と同じ土俵に立つことになった。 TRIPs は、 知的財産権ルールにおける世界 統一法と別称され、 すべての WTO 加盟国は当該国の知的財産権法体系を TRIPs 整合的に整備することを要請される。 中国はこの要請に従って法改正 (または新設) 作業を全面実施し、 2003年2月の専利法実施細則 (第二次改 正) の施行をもって中国の知的財産権法体系を TRIPs ルールに整合的なも のとした。 従って、 中国の知的財産権に関する関係規定は、 法体系の形式に おいて日本と相違があるものの、 ルール自体は欧米および日本と基本的に同 じものである。 中国を巡るブランド侵害や、 模倣品問題に対処する際は、 ま ずもって日本と中国の知的財産権ルールが同一土俵に立つことを認識してい なければならない5) 3) 経済産業省編 不公正貿易報告書 から。 カッコ内は筆者が加筆した。 4) 筆者は同訪中団の一員として参加。 法令の改廃数は、 中国政府関係者が説明。

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第1表 中国の WTO 加盟に伴い改正・制定された知的財産権関係法令 法規の名称 制定機関 施行年月 専利法 (注) (第二次改正) 全人代常務委員会 2000年7月 (注:専利法は、 特許権、 実用新案権、 意匠権を規定) 専利法実施細則 (第二次改正) 国務院 2003年2月 商標法 (第二次改正) 全人代 2001年12月 商標法実施条例 国務院 2002年9月 著作権法 (改正) 全人代 2001年10月 著作権法実施条例 (改正) 国務院 2002年9月 集積回路配置図設計保護条例 国務院 2001年10月 集積回路配置図設計保護条例実施細則 国家知識産権局 2001年10月 コンピュータ・ソフトウエア保護条例 国務院 2002年1月 (改正) 出所:日中経済協会編 中国貿易投資適正化調査報告書 (2002年度) 191204頁、 創英知 的財産研究所編著 (2006) 中国の知的財産法 東洋経済新報社 知的財産権 日本法 中国法 (実施条例/細則) 特許権 特許法 専利法 ・専利法実施細則 実用新案権 実用新案法 (専利法の実用新型専利として規定) 意匠権 意匠法 (専利法の外観設計専利として規定) 商標権 商標法 商標法 ・商標法実施条例 ・著名商標認定&管理暫定規定 集積回路図の利用権 集積回路図の法律 集積回路配置図設計保護条例 コンピュータ・ソフトウェア 著作権法 コンピュータ・ソフトウェア保護条例 周知表示 不正競争防止法 反不正当競争法 著名表示 (同上) (同上) 商品形態 (同上) 商品形態は保護の対象外。 包装・装飾のみを 保護対象としている 原産地表示 (同上) (同上) 品質等 (同上) (同上) 営業秘密 (同上) (同上) 著作権 著作権法 著作権法 ・著作権法実施条例 ・国際著作権条約実施規定 著作隣接権 著作権法 著作権法 ・著作権法実施条例 出所:経済産業省編 不公正貿易報告書 、 日中経済協会編 中国貿易投資適正化調査報告書 (2002年度) 195196頁、 創英知的財産研究所編著 (2006) 中国の知的財産法 東洋経済 新報社56頁ほか。 第2表 《日本と中国の知的財産権保護法の体系》 国際ルール】WTO:TRIPs 協定

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2. 中国の商標権・意匠権の法体系、 建前と実態にギャップ 日本と中国の法体系に関わる形式上の相違は、 日本では特許権、 実用新案 権、 商標権、 意匠権という工業所有権についてそれぞれの権利に応じて特許 法、 実用新案法、 商標法、 意匠法という法律が整備されているが、 中国では 専利法の中に特許権、 実用新案権、 意匠権の保護規定を包括的に取り込んで いる。 商標権は、 営業標識の権利として日本と同様に商標法で保護規定を定 めている。 この違いは、 ビジネス上はいささかやっかいな点もある。 本稿で はブランドを狭義の商標権と定義しているが、 ビジネスの実際ではブランド とは商標権と意匠権を統合的にイメージさせるものである。 例えば、 sony というブランドでは sony という商標に加えて品質の良い sony 製品やそのデ ザインを思い浮かべる。 そうすると、 模倣品によるブランド侵害に遭った場 合、 その模倣品がデッドコピー (商標権と意匠権双方の侵害に当る) なのか、 商標権を侵害したものか、 あるいはデザインとしての意匠権を侵害したもの かを判断することが模倣品対策上で問題となるが、 日本では権利の種類に応 じて関係法規を適用する方法を取ることができる。 一方、 中国では、 意匠権 侵害には専利法の中の意匠権関係規定、 商標権侵害には商標法を適用する方 法を取らなければならない。 もう一点やっかいなのは、 日本ではデッドコピー であれ、 商標権侵害であれ、 あるいは意匠権侵害であれ、 すべて行政上の対 策を検討する場合、 特許庁が窓口相手となるが、 中国で模倣品侵害に遭った 場合に、 行政上の救済措置を請求する相手は、 商標権侵害については工商行 政管理総局 (商標局)、 意匠権侵害については国家知識産権局 (日本の特許 庁に相当) と別の機関になることである。 この点は、 中国を巡る模倣品対策 で重要な留意点である。 中国の WTO 加盟に伴う知的財産権法の抜本的な改正作業では、 ブランド 保護の中心的な関係規定となる商標法についても、 WTO 加盟と同時期に当 5) 中国の専利法は、 日本の特許法、 実用新案法および意匠法の内容を取り込んでいる。 これに商標法、 商業秘密等を規定する反不正等競争法を加えると、 パリ条約が規定す る工業所有権を規律する法体系となる。

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る2001年12月、 大幅な第二次改正が行われた。 商標法では、 旧法 (1983年3 月施行、 1993年7月第一次改正) が TRIPs ルールを充足しない面が多かっ たため、 新法では著名商標の保護、 重点保護商標、 仮処分、 地理的表示、 先 使用権などで同ルールに沿った改正を実施している。 以上のように、 商標権、 意匠権に係る中国の法体系は、 日本と形式上の相 違が存在するものの、 知的財産権の国際統一ルールである TRIPs 協定と整 合的に整備されている。 しかし、 一方で以降に述べるように中国を巡る模倣 品取引は中国国内で横行しているばかりではなく、 グローバル化の道を辿る という現象が生じている。 中国を巡る模倣品問題は、 ルールが整備される一 方で、 国際貿易を歪曲させる模倣品取引が拡散するという建前 (ルール) と 実態のギャップを生じている。

 中国発の模倣品取引ネットワーク

1. 国内販売から輸出へ取引構造が変化 中国を基点とする国際的な模倣品取引は全世界に拡大している。 特許庁のこれまでの調査によれば、 世界で生産される模倣品のうち、 約7 割が中国・台湾という中華圏と韓国で生産され、 世界各地に輸出されている。 また、 中国で生産される模倣品のうち、 約7割が輸出に振り向けられている。 中国から世界に輸出される模倣品の仕向け地域は、 東南アジア、 南西アジア、 大洋州、 欧州、 中東・アフリカ、 旧 CIS 諸国、 北米、 中南米とすべての地 球上の地域に跨る。 この中では、 地域で東南アジア、 欧州、 北米/中南米向 け、 国別では中国と国境を接する韓国、 タイ、 ベトナム、 ロシア、 および多 くの華僑が住むマレイシア、 シンガポール、 インドネシア、 フィリピンなど の東南アジア諸国との模倣品取引が多いと推定されている。 また、 OECD の 「模倣品による経済的インパクト調査」 (2007年) では、 世界で取引され る貿易貨物のうち、 2%が模倣品や海賊版などの不適正な貨物であると推計 しており、 国際貿易の健全な発達の維持という観点からみても、 模倣品等の 国際市場での流通は厳に規制していく必要がある。 これに関し、 日系国際企

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業を中心としたフィールドワークの結果として、 模倣品の国際取引がどのよ うに行われているのか、 その態様と実態をみる。 中国における模倣品の蔓延は、 元々中国内で生産されたものを中国内の特 定の流通方法で販売していたものである。 例えば、 北京では天安門の東側に あり繁華街の王府井にも近い秀水街が模倣品売買の基地の役割をしていた。 模倣品を買っていたのは、 実は中国人よりもロシアなど中国の北と国境を接 する外国人が主体であったが、 買付の態様は、 個人商 (買主) が背中に精一 杯担げるだけの大袋を背負って、 秀水街に延々と店を構える中国系個人商店 (売主) から大袋に入る限りの衣料品や雑貨を買い付けて、 これをロシア鉄 道などでロシアや旧 CIS 諸国の都市部に運び、 そこで販売して儲けを得る という個人売買の手法であった。 勿論、 王府井に近い秀水街には大勢の中国 の人々が安価な模倣品を求めて押し寄せていた。 このように模倣品取引は、 元々商取引的な売買ではなく、 個人商店の延長としての小規模な個人売買で あった。 上海でも、 上海の繁華街に近い襄陽路市場は、 やはり衣料/服飾関 係の模倣品市場として名を馳せた。 襄陽路市場の誕生は、 1980年代の中頃ま で遡るが、 衣料/服飾品や雑貨を扱う個人経営の商店が約900店もあり、 こ ちらは秀水街と異なり主として中国国内の消費者を相手に模倣品販売で有数 の規模であった。 なお、 中国政府は、 WTO 加盟後、 模倣品など知的財産権 侵害に対する組織的な取締りを行うため、 北京の秀水街、 上海の襄陽路市場、 および華南の模倣品市場を大規模な取締り対象に指定し、 秀水街と襄陽路市 場は2006年6月までに閉鎖、 華南の模倣品販売市場も数次に亘り組織的な商 標権/意匠権など権利侵害物品の取締りを実施している。 このように中国の模倣品市場は国内市場として形成されてきたが、 秀水街 などの大規模な模倣品市場が閉鎖される状況の裏返しとして、 中国から模倣 品が海外に輸出されるという態様に変化してきた。 模倣品を生産する工場は、 中国沿海部の中小の都市、 あるいは沿海部に近い都市近郊の農村部にある中 小工場などであり、 近隣の産業を支え地域の雇用を支えるというある意味で 地域に必要な役割を果たしてきたため、 仕事の存続を目指して販売先を国内

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から海外への輸出にシフトしてきたと考えられる。 丁度、 この変化を支えた のが、 WTO 加盟によるインパクトである。 中国政府は、 サービス貿易自由 化の一環として2001年12月の加盟後3年以内に 「貿易権の自由化」 を実施す ることを約し、 それまで国家の貿易権を独占してきた国有貿易企業に加えて、 原則として2004年末までにすべての内外企業に貿易権 (輸出入権) を付与す ることとした。 つまり、 中国企業も規模の大小を問わず、 商品の輸出ができ るようになったわけである。 この流れに、 模倣品工場も付いていったと推定 される。 さらに、 この流れを決定的にしたのは、 中国の WTO 加盟に伴う産 業構造の高度化、 言い換えれば、 外資による生産型の対中投資が1990年代の 市場経済化とともに集中して行われ、 WTO 加盟を契機として中国が 「世界 の生産工場」 としての地位を確立したこととの関係である。 外資系企業を中 心とした中国の産業生産力の飛躍的な向上によって、 農村部に所在する中小 の工場もどこからでも模倣品の部品を調達することが可能となった。 また、 これは、 単に安価な部品調達を現実化したに留まらず、 多種多様な種類の模 グローバル化 のステップ ビジネスのグローバル化 第1図 ビジネスのグローバル化、 模倣品取引のグローバル化 (対比) 出所:筆者の中国ビジネス調査、 日系国際企業 (メーカー) ヒアリングから作成。 模倣品取引のグローバル化 国内生産・国内販売 輸出:市場の獲得 投資:現地生産・現地販売 拠点設立:海外生産・海外販売 海外拠点設立によるネットワー ク型のグローバル展開 (中国で生産、 中国で販売) 中国で生産、 中国から輸出 中国で生産、 海外ネットワーク 販売:中国・海外で買付&海外 で販売、 WEB 販売 第一 フェーズ 第二 フェーズ 第三 フェーズ

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倣品 (消費財等) 生産を可能にした。 技術力向上を背景とした部品、 中間製 品の段階的な品質向上によって、 中国の模倣品は安価な安物から価格競争力 のある品物へ変身するという模倣品売買に重要な変化をもたらした。 この中国製模倣品の種類の多様化、 段階的な品質向上は、 中国の模倣品取 引を従来の国内取引の形態から海外への輸出取引の形態へと導いた。 1990年 代後半からの中国製模倣品の輸出は、 中国側模倣品工場が貿易権を得た輸出 業者 (多くの私営企業を含む) を通じて海外市場への輸出意欲を増大させた こと、 および2001年末の中国 WTO 加盟後は、 中国製模倣品取引で利益を得 た海外の輸入業者等が輸入販売の拡大に動いている状況と深く関係している。 フィールドワークの結果から中国発の模倣品輸出のルートは、 次のように要 約される。 【中国からの模倣品の輸出ルート】 香港ルート:中国→ 香港 →北米、 中南米、 東南アジア諸国 シンガポールルート:中国→ 香港 → シンガポール →東南アジア近隣 諸国、 中近東、 アフリカ ドバイルート:中国→ 香港 → シンガポール → ドバイ →中近東諸国、 アフリカ (北部、 中南部) 北欧・バルト海ルート:中国→ 北欧関係港 →欧州 (北欧、 中東欧など) ウルムチルート:中国→ ウルムチ →ロシア、 中央アジアの諸国、 東欧 など 中国発模倣品の輸出ルートで特徴的な点は、 香港が重要な役割を果たして いることである。 香港は、 1990年代初頭以来の中国の市場経済化以前から、 中国の対外貿易拠点という重要な役割を果たしており、 香港には大手華僑系 の企業のみならず、 中小の貿易業者がひしめいている。 香港所在の貿易業者 の中には、 自らが発注先となって華東 (上海をはじめとする長江の下流域) や華南 (福建省、 広東省、 広西チワン族自治区) の中小工場に模倣品生産を 注文し、 これを自らが輸出業者として直接に東南アジア、 北米/中南米に輸 出するのみならず、 シンガポールを経由して (シンガポールルート)、 ある

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いはドバイを経由して (ドバイルート) 中近東やアフリカ地域に輸出してい る。 北欧・バルト海ルートでは、 中国から直接輸出されるのか、 あるいは中 継拠点を経由するのか不明であるが、 推定として恐らく世界的なコンテナ貿 易港である香港経由の貨物が一定割合で含まれているのではないかと推測さ れる。 模倣品の輸送は個品輸送として通常コンテナ貨物として国際輸送され るので、 香港に加えて世界トップクラスのコンテナ貿易港であるシンガポー ルも関わっていると日系企業で知的財産権問題に携わる関係者は指摘してい る。 こうした中国発の模倣品輸出が、 2005年頃から急速にグローバル取引へと 変化しつつある。 これには、 先述の中国の WTO 加盟による非国有貿易企業 への貿易権の開放、 中国製品の価格競争力と品質の段階的向上、 中国の世界 的な生産工場化、 中国の対外貿易構造の変化 (先進国中心の貿易構造から全 方位的な貿易構造へ) と、 さらには中国と世界各国との海上輸送路の飛躍的 拡大などによる中国貿易の利便性向上なども関係している。 2. 模倣品取引のグローバル化 模倣品の国際取引の拡散は、 需要側である海外の模倣品輸入業者および流 通業者などが新たな取引の仕組みと水平分業的な取引形態を作り出している ことに背景がある。 中国では、 1980年代以来、 対外貿易は貿易権を有する公営貿易企業などが ほぼ独占していたという歴史的経緯から、 国内メーカーが生産した商品の輸 出業務は貿易企業が担当することが一般的であった。 この流れを受けて、 中 国発の模倣品輸出は、 国内に存する貿易企業を経由することが多かったが、 中国の対外貿易における香港の地位が高まるに連れて、 貿易決済の利便性が あり模倣品貿易で得た外貨資金をオフショアで利用しやすい香港、 あるいは アジアにおける国際金融基地としてのシンガポールを拠点とする貿易形態が 一般化したとされている。 次に、 その取引形態は、 このような中国対外貿易の拠点を活用するタイプ

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から、 先述の WTO 加盟の副次的効果として中国製の模倣品を 「世界の輸入 業者等が買付けに来る」 タイプへと変化していった。 中国製模倣品が香港等 の国際貿易拠点を経由して増加するにつれ、 海外のバイヤーが様々なルート を利用してそれを中国に買付けに来る取引形態へと変化したのである。 「様々 なルート」 とは、 次の通りである。 1) 「海外のバイヤーが、 模倣品生産工場に直接出向いて買付交渉を行う」: これは、 海外のバイヤー (以下、 バイヤーという) が文字通り模倣品を作っ ている工場に直接出向くか、 または、 中国発のケースで多く見受けられるの は、 バイヤーの中国側窓口となる中小貿易企業が仲介役となりバイヤーに模 倣品工場を紹介し、 あるいはバイヤーにアテンドして仲介するケースである。 2) 「中国の生産工場と海外バイヤーの双方が、 中国の 「国際交易会」 を交 渉の場として模倣品売買の商談を行う」: これは中国の大きな交易会6)にバイヤーと中国内の模倣品生産者の双方が 会し、 交易会の前後または交易会開催期間中に商談を行う取引形態で、 様々 6) 中国では、 国際見本市のことを交易会という。 最大規模の交易会は 「広州交易会」 で、 その貿易商談規模は、 かって中国加工品輸出の1割に相当すると言われたこともある。 第2図 模倣品の国際取引:取引拡大の構図 【外国市場】 【生産国】 中国 調達 部品、 半製品 製品 模倣品 工場 発注 模倣品取扱い 業者 輸出企業 模倣品 (ラベルなし) (輸入企業) 模倣品 (ラベルあり) 海外 需要家 消費者 模倣品 輸入企業 買付 海外バイヤー (代理店) 情報 偽ラベル

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な種類の模倣品商談が行われるため、 品目および金額両面で大掛かりな取引 が行われていると見られている。 いわば、 模倣品取引の温床であり知的財産 権保護の面から最も注意を要するものである。 中国で開催される最大の国際 見本市である広州交易会は、 世界200カ国以上から20万人の海外企業やバイ ヤーが商談にやってくるとされる。 模倣品商談の交易会でもあり、 中国の2 大模倣品取引地域である華東、 華南の中で、 華南における模倣品商談の中心 的な存在である。 交易会での模倣品商談は、 商標権侵害に加え意匠権 (デザイン) 侵害の事 犯も多い。 最近の特徴的な事例として、 中国内の模倣品生産者が商標ラベル なしのノーブランド品 (例えばエアコンや液晶テレビなどの家電製品) を交 易会の中で堂々と展示し、 バイヤーがこれを買い付けて通関をした上、 自国 に持ち込んで当該模倣品に自分が付けたい偽ブランドのラベルを貼って、 あ たかも正規品であるかのように消費者に販売する手法が増えていると見られ るからである。 交易会におけるノーブランド品取引の増加は、 模倣品取引の グローバル化の一つの要因となっている。 3) 「中国の生産工場が中国内の《倉庫》に模倣品を入荷/在庫し、 バイヤー と商談を行う」: これは、 今後の模倣品対策の中心的問題になる取引形態である。 取引形態 というより、 むしろ〈国際的で巧妙なニセブランド商談〉とも言うべきで問 題の大きいタイプのものである。 知的財産権関係者の中では 「倉庫」 のこと を無名倉庫とも呼ぶが、 呼称の通り所在もわからず名も無い倉庫に模倣品生 産者が作った模倣品を在庫し、 そこに各地のバイヤーが買付けに来る。 この 場合、 倉庫には模倣品取扱い業者がバイヤーを案内してくることがあり、 ま た貿易窓口業者がバイヤーを紹介してくることもある。《倉庫》を模倣品取 引の拠点であるかのように装う取引形態は、 取締りが非常に難しいとされる。 倉庫は営業倉庫ではなく、 模倣品取扱い業者や全く無名の地場企業が運営し、 倉庫の所在も一定期間ごとに移転する。 また、 倉庫に積まれる模倣品等は一 定ではなく、 ローテーションのように模倣品から海賊版まで取扱品を替えて

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くるので、 当該地の知的財産権問題に詳しい中国の地方行政機関でも取締り のための調査が難しいと言われている。 このタイプの模倣品取引は最近2 3年の間に発生したもので、 国際的な模倣品取引が巧妙化してきたことを背 景としている。 中国の対外貿易の拡大に伴い、 正規品の陰に隠れるように模 倣品貿易も拡大している。 中国から輸出される模倣品の生産が増加したこと、 海外に存在するバイヤーが中国系以外に世界的に拡散しつつあるとされるこ と、 中国国内の取締り強化により模倣品生産者が輸出に注目していることが 相乗的に中国発の模倣品貿易を拡大していると推定される。 最近の国際的な 模倣品取引では、 内外の模倣品取扱い業者が中国内と海外市場の双方に事務 所を持ち、 ①海外市場でバイヤーを開拓する、 ②既存のバイヤーとの関係強 化により取扱う模倣品の種類・扱い高を増やす、 ③模倣品取引の取引形態の 複雑化/巧妙化を図るなどの役割を果たしている上に、 業界関係者によれば、 双方がホットラインを通じて日常的に情報交換しており、 バイヤーの希望に 応じて取引形態を変えているという。 このように模倣品取引は、 国際的に広 域化、 複雑化、 巧妙化しており、 これが模倣品取引のグローバル化に繋がっ ていると考えられる。

 模倣品対策のグローバル化に向けて

では、 このような模倣品取引のグローバル化に対して企業はどのように対 応しているのか、 また、 今後どう対応していくべきなのかについて検証する。 1. 知的財産権対策におけるグローバル体制の構築 フィールドワークの結果に基づき企業側が講じている模倣品対策やその世 界的な取組み状況を見ていくと、 模倣品による権利侵害 (商標権、 意匠権) がどの地域で発生しているのか、 模倣品の国際的な拡散にビジネス上どう対 処すべきかなどを窺い知ることができる。 一般的に言えば、 国際的な模倣品の拡散問題については、 依然として中国 を巡る侵害件数の割合が大きい (世界全体で発生する模倣品問題の78割

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が中国絡みで発生と推定) ものの、 傾向的には東欧やロシアを含む欧州、 中 近東での商標権/意匠権に係る権利侵害問題が増加しつつあると企業側は説 明している。 欧州ではハンブルクなど国際港湾を経由した模倣品取引が多い と推定される。 中近東ではエジプトや UAE をはじめ各地で模倣品の権利侵 害問題が発生している。 これは、 欧州や中近東において、 中国製模倣品を買 い付けるバイヤーが増えていることを背景としている。 従来は在外中国系企 業がバイヤーの役割を果たしていたと見られるが、 欧州や中近東では当該市 場で模倣品を販売し不当利益を得ている地元業者が増えているのではないか と思われる。 このように中国系あるいは地元業者などのバイヤーが自ら、 あ るいは海外現地に模倣品取扱いの代理店を設置して不公正な取引を展開して いる。 模倣品取引のグローバル化には、 侵害対策のグローバル化で対応すること が肝要となる。 日本企業の知的財産権対策を見ていくと、 日本の本社のほか、 中国に専門部署を設置し現地職員を配して対策を講ずる企業が増加している が、 欧州や中近東で知的財産権専門担当を配している企業はごく限られるの ではないだろうか。 企業活動のグローバル化に伴い、 世界4極体制を敷いた 企業は、 知的財産権対策においても4極で侵害対策担当者を配置すべきであ り、 5極体制を構築している企業は5極による侵害対策を構ずるべきである。 2. 模倣品取引チェーンの遮断 最近の国際的な模倣品取引はシステム化しており、 一種の取引チェーンを 形成している。 企業側の対策としては、 この取引チェーンをシステムと捉え、 チェーンを構成する取引のいずれかの部分、 または貨物としての模倣品の国 境移動の阻止 (輸出/輸入の水際取締り)、 あるいは取引チェーンを構成す る要素を複合的に遮断することが有効な手立てとなる。 まず模倣品取引チェーンを遮断するには、 売り手である模倣品取引業者と 買い手である海外バイヤーとの商談を断つ必要がある。 売り手と買い手の商 談を断つには2つのポイントがある。 一つは、 模倣品取扱い業者および模倣

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品生産者のリストを中国の当地税関に渡して情報提供することである。 中国 ビジネスでは人脈やコネクションが非常に重要であり、 模倣品対策でもこう した面を重視する必要があるが、 特に模倣品を水際で取り締る (輸出させな い) には税関との情報交換が有効である。 中国は華南から東北まで広大な沿 海地域を持ち、 南は南寧・広州から北は大連まで国際貿易港が多数ある。 こ うした国際港湾の税関では、 模倣品輸出の履歴がある業者は輸出申告時に排 除できるが、 ノーブランド品など商標を冠していない輸出申告や法令違反履 歴のない模倣品業者を取り締ることは難しい。 むしろ、 企業側から積極的に 模倣品業者のリストや動向について input し、 税関が取締りを実行しやすい ように協力していくことがポイントとなる。 中国では、 広州、 深、 スワト ウ、 温州、 寧波、 上海、 杭州、 青島、 天津、 大連等の税関との情報交換が有 効である。 もう一点は、 広州交易会のような国際見本市・商談会における模倣品業者 の展示や商談ブースを常時チェックし、 模倣品業者のブースに出入りするバ イヤー等の動向を追尾して商談成立を牽制することである。 中国の模倣品ビ 第3図 国際的な模倣品取引チェーンへの対策 【商談を遮断】 海外のバイヤー/代理店 【輸入の阻止】 【輸入の水際取締り】 輸入国 【輸出の水際取締り】 輸出国 模倣品 輸出業者 模倣品取扱い業者 模倣品 生産者 【流通ルート を遮断】 被害企業 【輸出を遮断】 【生産を遮断】 摘発 摘発 出所:国際企業へのフィールドワーク (ヒアリング) から筆者作成

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ジネスは華南から発生したとされており、 特に広州のように大規模な国際交 易会での模倣品業者、 生産者の展示や来訪をチェックすることは、 模倣品取 引を防止する上で効果があると企業側は指摘している。 模倣品の国際取引チェーン対策において、 企業側で実施しなければならな い重要事項は、 「当該企業自らが中心となって侵害情報を収集する」 ことで ある。 侵害対策は、 企業が商標権で侵害を受けたのか、 または意匠権で侵害 を受けたのか、 企業側が蒙った侵害の内容によって違いがあり、 収集する関 係情報も自ずから他企業が収集する情報と異なる。 当該企業自らが主体となっ て侵害情報を収集することが侵害チェーンに対応する第一歩となる。 この場 合、 収集する情報は中国における関係情報だけではなく、 輸入国側における 侵害者の情報、 当地の被害情報、 税関など当地関係機関の情報、 など現地に おける侵害情報の収集と関係機関への情報提供を行う必要がある。 3. 模倣品を水際で阻止する 中国を巡る模倣品対策では、 中国 WTO 加盟の関連効果として、 2005年頃 より中国各地の税関における水際 (輸出) の取締りが有効となってきた。 中 国は WTO 加盟に際し、 知的財産権侵害取締りの強化を約した。 それによっ て、 各地税関では実際に輸出品が正規品であるかどうかのチェックが厳しく 行われている。 税関においても WTO ルールの実施を受けて、 2004年3月か ら 「中国知的財産権税関保護条例」 (1995年10月施行の同条例の改正) が施 行された。 また、 本法規の具体的な実施を図るために、 「中国税関の知的財 産権保護に関する実施方法」7)が定められている。 中国の税関で知的財産権 の保護措置を受けるためには、 「知的財産権海関 (税関) 保護登録申請書」 を提出し、 その申請が許可されれば、 申請した商品に係る知的財産権が10年 間保護され、 希望すればさらに10年間の保護を申請できる。 なお、 この場合、 申請対象となる商品について商標権、 意匠権などを事前に権利登録しておく 7) 岩見辰彦 最新 中国貿易・税関実務の詳細解説&実践マニュアル 日本能率協会総 合研究所、 400403頁

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ことが要件となる。 日本の税関と同様に、 中国税関でも知的財産権侵害物品の輸出 (または輸 入) 差止め申立制度が実施されており、 自社の商標権または意匠権を侵害し た中国製模倣品の海外流出を防止するために日本企業も積極的に輸出差止め 制度を活用するようになってきている。 企業によっては、 年間数十件の税関 による水際での輸出 (または輸入) 差止めがあると指摘する企業もある。 4. 国際的な模倣品取引チェーンへの対抗 中国製の模倣品が世界各地に拡散しつつある状況を食い止めるには、 WIPO (世界知的財産権機関) による国際的な知的財産権保護活動に加え、 国家/業界レベルでの保護活動、 さらには権利侵害を受けた個々の企業レベ ルに及ぶまで広範なレベルでの保護活動と権利侵害への実務的な対策/訴追 活動を行うことが必要である。 国際的な模倣品取引チェーンに対抗し、 権利侵害の被害を除去し、 さらに 被害の発生を防止していくためには、 模倣品を生産している中国とそれを輸 入し販売する海外の市場と双方で対抗措置を講じていかなければならない。 まず、 海外市場で中国製模倣品が販売されている事実を発見しまたは被害を 受けた際には、 中国サイドにおいて模倣品生産工場を摘発する手立てを講じ なければならない。 それには、 中国の中央・地方の権利当局 (商標権につい ては工商行政管理総局または各地の工商行政管理局、 意匠権については国家 知識産権局および各地知識産権局) に権利侵害の実態と行政手続きの執行を 申立て、 「街頭での販売品の差し押さえ」、 「製造設備・機械の没収」、 「罰金 の徴収」、 「模倣品販売で得た所得の没収」 など被害を食い止める措置を執行 してもらう。 しかし、 これらは当面の措置であって一般的に言えば、 根本解 決には至らない。 侵害者に対してより効果的な対策を実行するためには、 「違法行為の停止」 や 「営業許可証の取消し」 を講ずることが肝要である。 さらには、 裁判所に申立て裁判で訴追することが最大効果を生む (商標権/ 意匠権裁判とその効果については後述)。

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中国を巡る模倣品問題では、 これら中国での模倣品生産への対策に加えて、 海外市場における模倣品販売への対抗策を講ずる必要がある。 中国の WTO 加盟5年を超えた2007年頃より中国製模倣品の海外市場での販売取締りは次 第に難しい局面を迎えている。 模倣品侵害者は、 中国と海外販売市場の双方 に事務所または代理店を設置し、 両者間をホットラインで結んでいるために、 中国での生産/輸送/通関などの生産元サイドの情報と、 当該模倣品が販売 される市場での輸入通関、 倉庫保管、 ノーブランド商品へのラベリング/梱 包/類似商標の表示、 流通/販売方法等の情報を一元的に管理しているため に、 生産・通関・販売方法が巧妙化し、 模倣品取締りのための追及が難しく なってきている。 別の言い方をすれば、 模倣品の生産においても海外市場で の販売においても 「分業化」 が進展し、 生産/販売が模倣品侵害者とは表向 き異なる商号 (社名) を持つ者によって運営されているからである。 従って、 取締りに当って、 生産あるいは販売の特定の段階を追いかけても、 侵害者の 実態を捉え侵害事実を停止させるまでの実効ある具体策を実施することがま ま困難なことがある。 これに対しては、 生産側である中国と販売側である海外市場において同時 並行的に具体的な対策を順次実施していくしかない。 被害企業は、 中国と海 外市場の両方から模倣品侵害者8)、 生産者と海外市場での販売者を様々な対 策手段を使って複合的に追及し、 侵害停止に至らせるまで根気よく追求して いく努力を行っていくことになる。 この場合、 中国と海外市場での情報収集 および対策実施における業務の連携、 対策の連続性が問われる。 いかに効果 的な連続した対策を講じていくかがカギを握る。 8) 模倣品侵害者と中国での生産者は往々にして異なることが多い。

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 商標権、 意匠権の侵害実態と対策事例

∼対症療法から根本解決策に向けて∼

1. 中国における商標権、 意匠権の侵害実態と行政措置 1) 中国における商標権、 意匠権の侵害実態 経済産業省が例年実施している日本企業を対象とした 「中国における知的 財産権侵害実態調査」 (以下、 中国侵害実態調査という) によれば、 日本企 業の中で中国において知的財産権侵害を受けた企業は約半数強 (20072008 年度、 被害を受けた企業数の割合) である。 実際に知的財産権侵害を受けた 企業について、 法的な知的財産権侵害事例 (件数) を権利別に整理すると、 商標権および意匠権侵害に遭った件数は20062008年度9) 3年間の平均で 3,486件、 中国における知的財産権侵害 (日本企業から見れば被害) 件数の 9割弱に及ぶ。 その殆どが商標権侵害で全体の8割強、 意匠権侵害事例の件 数は全体の3%程度である。 従って、 中国において日本企業が知的財産権侵 害を蒙る事例は、 商標権、 つまりブランド侵害である。 日本企業の中国を巡 るビジネスにおいては、 それほど商標権侵害の実態が深刻かつ広範である。 商標権/意匠権侵害のほかに、 中国における知的財産権法規の一環である反 不正当競争法 (日本では不正競争防止法) が定める周知商品・表示の混同誤 認行為 (同法第5条第1号)、 商号等の誤認行為 (同法第5条第2号)、 商品 の品質/生産地等の表示誤認行為などに該当する事例件数 (中国における 200608年度知的財産権侵害のうち約3.5%に相当) を合わせると、 日本企業 が中国で取扱う商品またはサービスの商標/意匠関連の権利が侵害され係争 となった案件は、 実に全体の9割に達する。 2) 知的財産権対策で重要な行政措置 (行政摘発) 日本企業はこのような商標権/意匠権等の侵害および係争案件に対して、 9) 2006年のみ年度ベースではなく通年統計となっているが、 傾向を見るため、 2006 2008年度3年間の平均を取った。

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どのように対策を講じているのであろうか。 中国における知的財産権対策を 論ずる際に重要な点の一つは、 日本とは異なり中国では知的財産権侵害に対 して行政手続きによる侵害対策が実行できることである。 これは行政措置ま たは行政訴訟といわれるものである (以下、 行政措置という)。 行政措置の手続きは、 まず 「地方知的財産権管理機構」 に係争案件の侵害 者の追及/被害の救済を申し出て、 同管理機構が侵害または非侵害の判断を 行った上で、 権利ごとに所轄官庁 (または地方関係機関) に訴え出る (第3 表参照)。 日本では、 知的財産権全般を特許庁が取扱っている (ただし、 不正競争防 止法のみ経済産業省所管) が、 中国では、 権利によって行政措置を訴え出る 所轄官庁が異なる。 意匠権に係る係争案件は、 意匠権が 「専利権」 に分類さ れている関係から特許権や実用新案権の係争案件と同様に知識産権局に紛争 救済を願い出る。 商標権の行政訴訟に係る案件は、 国家工商行政管理局 (商 標局) が担当している。 また、 日本企業では中国において類似商標問題に悩 第3表 中国における知的財産権侵害問題への行政措置請求先 出所:日中経済協会 中国貿易投資適正化報告書 (2001年) ほかから作成 専利権:特許権 侵害対象の権利 行政措置請求先:所轄官庁 (中央) (地方) :実用新案権 :意匠権 商標権 商標権の拒絶査定不服審判 商標権の無効取消審判請求 不正競争防止法上の権利 著作権 国家知識産権局 同上 同上 国家工商行政管理局 商標局 商標評審委員会 商標評審委員会 国家工商行政管理局 国家版権局 各地知識産権局 同上 同上 各地工商行政管理局 各地工商行政管理局 各地版権局

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まされることが多いが、 類似商標問題に関し他の者が先願登録した当該係争 商標の取消審判を請求する際は、 商標評審委員会に問題解決を願い出る。 行政措置のメリットは、 ① 「迅速な取締り」 ② 「侵害物品の押収から罰金 徴収、 営業許可の取消まで手段が幅広い」 ③ 「問題発生地の関係当局 (商標 権/意匠権では工商行政管理局/知識産権局) が情報提供、 証拠の収集から 取締りの実施まで協力してくれる」 ことである。 ③の情報提供、 証拠の収集 に関して言えば、 中国での模倣品侵害行為は非合法組織によって行われるこ とが多いため、 中国関係当局が侵害者および侵害行為について、 さらには模 倣品の生産・販売の事実、 被害実態に至るまで調査・追跡を実施し、 証拠を 入手してくれることは、 被害者である日本企業にとって大きな援軍になる。 また、 地方行政機関による侵害物品の押収等は、 直接の被害を食い止める即 効的な効果がある。 このように行政措置は日本企業にとって取組みやすい侵害対策として広範 に利用されている。 中国侵害実態調査によれば、 日本企業が活用している行 政措置の中では 「違法 (権利侵害) 物品の没収」 が最も多く、 侵害者に対す る 「違法 (侵害) 行為の停止」、 「罰金 (過料) の徴収」 も広く利用されてい る。 これらの取締り手段のほか、 行政措置では 「製造設備の没収」、 「(侵害 行為による) 違法所得の没収」、 「営業許可証の取消」 などの手段を取ること ができる。 侵害行為に遭った場合に、 被害企業が取るべき手段を順序立てれ ば、 関係当局によって街頭陳列の侵害物品を没収し、 製造設備の廃棄・没収 により侵害物品の生産を差止め、 次いで侵害者が得た違法所得を没収した上 で、 侵害者が再犯を犯さないよう違法行為の停止、 罰金の徴収、 営業許可証 の取消を行うという順で摘発を行うことになる。 しかし、 実際に日本企業が 活用しているのは、 その多くが違法物品の没収、 違法行為の停止、 罰金 (過 料) の徴収という3つの手段に留まっている。 ここに、 中国における知的財 産権問題、 特に商標権/意匠権の侵害問題が深刻化し、 グローバル化してい る実態の問題点が存在する。 それは、 企業側が取っている3つの侵害対策手 段は、 いわば対症療法としての手段であり、 侵害者が再犯を犯さないように

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持ち込むための根本解決手段とは言い難い。 製造設備の没収や営業許可証の 取消10)は、 侵害者に再生産を困難にする効果が見込まれるが、 こうしたより 強力な手段を講じていないことは、 中国の内外に存在する侵害者に対して、 日本企業は侵害問題に対して対策と詰めが甘いという印象を与えてしまって いる。 行政措置による侵害取締り対策は、 一般的に司法訴訟に比べて侵害防 止効果が弱いとされる。 それは、 行政命令の執行には裁判所の執行判決が必 要とされるが、 執行判決が取れないために当該命令が執行されないことがあ るからである。 また、 行政措置には司法訴訟に比し問題点も多い。 デメリットとしては、 行政措置の請求受理によって実行される侵害取締りが地方当局の管轄地域に しか及ばない、 地方当局による恣意的または地方保護主義的な取扱いを受け るケースがある、 行政措置では侵害行為の差止めを行うことができるが、 損 害賠償請求を行うことができない (罰金/過料のみ可)、 などである。 商標 権/意匠権の知的財産権侵害問題では、 特に再犯防止が解決の究極目的とな るが、 行政措置では侵害者を追い詰める損害賠償請求ができないという点は、 中国を巡るビジネスの遂行上、 十分留意すべき事柄である。 フィールドワークにおいても、 日本企業が行政措置による手段を多用して いることがわかったが、 行政措置は即効性があり取組みやすいという利点が ある一方で、 侵害者を追い詰める効果は十分に期待できない。 2. 司法訴訟による強力な侵害対策 中国を巡る知的財産権侵害事例では、 長らく中国の司法訴訟 (以下、 単に 訴訟という) において 「地元企業側に有利な判決が出る」 という地方保護主 義の問題が指摘されてきた。 なぜ、 日系企業の中国における裁判において地 方保護主義が指摘されてきたかを探ると、 大きくは2つの点を挙げることが できる。 一つは、 中国国内の都市部では (農村部においても)、 模倣品製造 10) 営業許可証の取消は侵害対策として有効であるが、 模倣品侵害行為は非合法組織によっ て行われることが多いため、 手段として採用できないことがある。

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工場は郷鎮企業など地場の企業体 (または非合法組織) であり、 当地におけ る産業生産と雇用の重要な一部を担っている。 その企業体の所属する地方自 治体が模倣品製造工場を摘発することによって生産が停止すれば、 地場産業 が衰退し雇用が失われるという危機を招く。 もう一点は、 中国の司法制度上 の問題である。 中国では、 一般的に基層人民法院 (日本の家庭裁判所に相当) と中級人民法院 (同・地方裁判所に相当) における裁判官人事は、 中央の司 法組織によって任命されるのではなく、 各級地方自治体における人民代表大 会 (地方議会に相当) において任命される仕組みであった。 このため任命を 予定される裁判官候補者は中央司法組織に従うのではなく、 各級人民代表大 会の委員長や幹部の顔色を伺い、 地元企業を擁護するような地域の都合に沿っ た判決を下す傾向が見られた。 しかし、 筆者は WTO 加盟後、 中国の地方保護主義事情は変化していると 判断している。 経済産業省所管の日中経済協会派遣2001年度 「中国貿易適正 化調査委員会」 による中国最高人民法院 (最高裁判所に相当) へのヒアリン グでは、 民事担当の審判長 (=裁判長) から 「地方保護主義の問題は今後2 つの改革によって解決される。 一つは、 裁判官制度の改革によって、 裁判官 は博士/修士の資格を持つ人しか任用しない。 また、 裁判官の能力・資質向 上の問題は緊急課題として取組んでいる。 二つ目は、 全国統一司法試験制度 を2002年3月から実施し、 裁判官に適した資質を持つ人を任用していく」 と いうことを直接聞くことができた。 さらに裁判の地方保護主義を考える上で 重要な点は、 WTO 加盟との関係である。 中国は WTO 加盟後、 行政、 司法、 立法の三権において 「WTO ルールに基づく法体系を中国全土に徹底してい く」 という中央の方針を地方に浸透し、 中央と地方が一元的な法律・法規に よって統治され、 中央と地方が共通の法的土壌を共有することになったから である。 現実には、 「中央にルールあり、 地方に策あり」 と言われるほど地 方による身勝手な法解釈が今でもまかり通っているが、 司法制度改革は着実 に成果を挙げている。 その実例 (裁判例) を検証する。

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