• 検索結果がありません。

福祉国家批判と「新福祉国家」(I)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "福祉国家批判と「新福祉国家」(I)"

Copied!
17
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)Title. 福祉国家批判と「新福祉国家」(I). Author(s). 吉崎, 祥司. Citation. 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編, 51(2): 129-144. Issue Date. 2001-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/699. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) . 北海道教育大学紀要 (人文科学・社会科学編) 第51巻 第2号 ) Vo l i i ISc i iぢ of Educa t i t Journ鑓 ofHokB ;mdoUnivers sandsoc a ences 1mani e on (Ht .2 , 51, No. 平成 1 3 年2月 Febn la l y, 2001. 福祉国家批判と 「新福祉国家」(1). 吉. 崎. 祥. 司. 北海道教育大学岩見沢校社会学研究室. は じめに. 「福祉国家」 にたいしてむけられてきた諸種の批判と, 新自由主義・新保守主義の政治的・イ デオロギー 的ヘゲモニーのもとでの福祉国家の縮小・再編という現在の趨勢にもかかわらず,資本主義諸国の近未来は, なお福祉国家の発展的展開として構想されなければならない, と考えられる‐ なぜ福祉国家なのか‐ それは, さしあたり簡略には, 現在の国際的な社会経済状況の転変 (中心的には独 占資本主義の本格的な多国籍企業化段階への移行のもとでの雇用の不安定化, 貧富の格差の拡大, 生活困難 の増大等) のもとで, 福祉需要すなわち福祉国家への切実な期待が高まっており, そして, もともとは資本 主義制度存続のための階級妥協の産物として登場したこの福祉国家体制を, 現代資本主義の支配層が自ら放 棄 しつつ ある か ら である. もち ろ ん, 福 祉 国家へ の要 求の 新た な 高ま り と はい っ ても, そ れ は必 ず しも既成 の, つ ま り 現存 の, ある. いは歴史的に存在した福祉国家のいずれかの形態への期待を意味するものではない. というのも, 既存の諸 福祉国家 (もっ とも, それらは一括することを容易には許さない多様な諸形態で展開しているのだが) は, 種々 の 問題性 と 限界 をもつ もの であ っ た から である.. 福祉国家の問題性あるいは限界とは, それが, 一般に長期勤続の男性片働きモデルを組織形態の基本枠組 みとしており, 多くの場合階級的・階層的に区別された社会保障・社会福祉政策を採用していて不平等であ り, また一国内の 「市民」 ないし多数派を中心的な対象とする, など差別的な制度編成をとっているところ に顕著にあらわれている‐ さらに, 先進資本主義諸国によって構成される諸福祉国家は, 一般に, 経済成長 を前提とするところから, しばしば環境破壊的であるばかりでなく, かつての 「社会帝国主義」 を継承しつ つ, 「南」 の諸国の収奪・搾取による国内福祉の充実を本質的な属性としており, したがって, 帝国主義に 親和的で, 帝国主義戦争に加担することも珍しいことではなかった‐ こ こ に, 階 級, ジ ェ ン ダー, エス ニ シテ ィ, 「南北」, エ コ ロ ジー な どの 問題 連 関 が生 じる‐ つ ま り, 階 級 や ジ ェ ン ダー, エス ニ シテ ィ そ の 他 の諸 問題 (本 稿 での 福 祉 国家 批判 は, この 3つ の 問題 に 限定せ ざる を えな い が) がつ きつ けて きた, また はつ きつ けて いる 諸 課題 にこ た えう る, いわ ば革 新さ れた. 福祉国家すなわち 「新福祉国家」 が, ここで論じようとする福祉国家の諸問題の帰結である‐ 1. なぜ福祉国家か. しかし, なぜいまなお福祉国家なのか. 後藤道夫や二宮厚美の議論に拠りながら, いま少し詳しく, ひと まずは日本的な現状に即して, 考えてみよう (後藤 「新福祉国家論序説」, 二宮 「現代日本の企業社会と福 祉国家の対抗」, ともに渡辺・後藤編 『講座現代日本第4巻. 日本社会の対抗と構想』 所収, 大月書店,. 1997年)‐. 福祉国家が現在新たに求められるのは, 第1に, 目下の国際的に支配的な動向としての新自由主義的ない 129.

(3) . 吉 崎 祥 司. し新保守主義的な社会再編が, 国民各層の切実な福祉需要を広範に生みだしつつあるからである. 日 本 の ばあ い, 福 祉 国 家 と はい っ て も, ヨ ー ロ ッ パ と ち が っ て, そ の 機 能 の 多く は労 働 者 層 に た い す る. 「企業福祉」 と, 農民や都市自営業者など中間層にたいする 「利益政治」 とによって代替され, 国家の制度 としての社会保障や社会サービスはきわめて限定的で脆弱なものであった. 現在, この 「企業主義的社会統 合十利益政治」(渡辺治) が崩壊しつつある. 労働者層においては, リストラ・失業の嵐が吹き荒れ, 賃金の引き下げ (家族賃金の縮小・賃金の 「年功」 部分の削減) や 「合理化」 が一般化し, 不安定就業や柔軟雇用型 「職務給」 が拡大.増加しており, また, 老後の不安がいっそう大きなものとなっている. 大企業においても 「終身雇用」 「年功賃金」 が解体しつつ あり, 住宅や老齢保障をはじめとする企業内福利厚生が縮減される (「企業内間接賃金」 の圧縮) などの激 変が生じているが, とりわけ中小・零細企業の労働者の生活困難と不安は甚だ しいものになってきている. 諸種の保護・規制策のもとで, 従来はなんとか凌ぐこともできていた都市自営業者.農民など 「低効率生産 部門」 の従事者にあっても, 市場の自由化と競争, 規制緩和の圧力のもとで, 経営と生活の極度の不安定化 がも た らさ れつつ ある.. 日本とは異なって文字どおりの 「国家による福祉」 ( ) を実現してきたヨーロッパのば 「社会的間接賃金」 あいにも, 一般に, 経済成長の頓挫, 高い失業率, 財政赤字, 厳烈な国際経済競争のもとで,1970年代後半 以降すすんだ生活困難および社会保障と福祉の圧縮・削減 (「選択的縮小」 ) のもとで, 福祉国家の維持と充 実への新たな要求が高まっている事情は, さしあたりそれほど変わらない‐ 第2に, 高齢化・少子化にもとづく家族形態の変化が, 所得減少にともなう共働きの増大などと併せて, 介護や介助,保育にかんする福祉要求を切迫したものにしている‐ これらの社会サービスにたいする要求を, 「男は仕事, 女は家事」 という性別役割分業のイデオロギーと制度のもとに封じ込めておくことは, 支配層 が否応なく公的介護制度の導入に踏み切らざるをえなかったことに示されるように, もはやまったく可能で ない. 同様の事情は, 従来, 日本同様, 伝統的 (近代的) 家族の性別役割分業イデオロギーにもとづいて男 性片働き型の福祉国家を形成してきた大陸ヨーロッパ諸国にも, おおむね妥当する‐ 福祉国家が現代の新しい課題としてあらわれるのは, 第3に, かつては資本主義体制への大衆的な忠誠の 調達手段として, 階級妥協の産物として支配層が組織した福祉国家が, いまや資本主義の現代的展開 ( 「現 代帝国主義」 ) にとっての障害となってきており, そのか ぎり, 福祉国家の新たな形成と拡大・充実が, 国 民各層のニーズと諸要求にこたえうる社会編成への転換, あたかも体制的変換への接近ともいうべき意義を もつようになってきているからである‐ 「かつては帝国主義を前提にしていた福祉国家が, いまや帝国主義 陣営の側からの解体と縮小再編に直面することで, 逆に帝国主義に対する対抗軸としての意味を帯びはじめ ている」(森田成也 『資本主義と性差別』, 青木書店,269ページ,1 997年) ‐ 現代の資本主義体制が福祉国家を放棄しつつあるというこの点については, 相当に成熟した福祉国家を経 験 して き て, そ の 存在 意義 にか んする 国民 的 「合意」 にな お根強 いも の がある 大 陸 ヨー ロ ッ パ と, アメ リカ. や日本などの 「遅れてやってきた福祉国家」, 未熟な福祉国家とを同列に論じることはできないとしても, 現代資本主義の根本的な衝動とみなすべきものであろう‐ さらに第4に, 福祉国家の新たな形成は, 本格的な多国籍企業化圧力によってバランスを崩され歪めらた 国民経済と産業編成, いっそう抑圧的なものになった労働編成を是正するとともに, そうした新しい福祉国 家群の提携・連合を追求することで,「南」 の収奪の上に成立している 「北」 の繁栄という 「社会的不正義」 の構造を (少なくとも) 緩和する可能性に途を開くだろう (多国籍企業の暴威の規制と, 現代帝国主義が強 要する自由通商主義のもとで阻まれている 「南」 の諸国の産業育成と国民経済の展開)‐ そのような革新さ れた 「福祉国家連合」 のもとでは, したがって地球環境の保全も最重要な課題としてとり扱われるであろう‐ 130.

(4) . 福祉国家批判と「新福祉国家」(1). =. 福祉国家とは何か. 福祉国家の規定 ところ で, こ れま での と ころ は自 明の ごとく に前 提 してき た が, しか し, そ も そ も福 祉 国家 と は何 か.. 多様な諸形態で存在してきた福祉国家を一義的に規定するのは, 容易でない‐ まず, 一般的な福祉国家の 機能や内容, 特質などの諸側面の概括を試みてみよう‐ 福祉国家は, その機能からみれば, 「市場にたいする大規模で制度化された国家介入」(後藤, 前掲,445 ページ) である‐ この国家は大きな国家財政と公的セクターを背景に, 労働規制や社会的諸規制, 社会保障 や完全雇用その他の公共政策をつうじて, 市場に介入する‐ そうした介入が必要なのは, 信じられている資本主義の 「自己調整型市場」(ポランニー) 経済なるもの がじつは虚構にすぎず,19世紀中葉いらいの無数の国家的・社会的諸規制が示すように, 「市場の失敗」 が 不 可避 的 で ある から である‐ その さい しか し, こ れ らの 諸規制 は必 ず しも 自覚 的 でも 組織 的 でも なく, 状 況. が強いたものであった. 「自由放任経済が意識的な政府活動の産物だったのに対し, それに続く自由放任の 規 制 は自 然発 生 的 に始ま っ た. 自 由放 任 は計 画 さ れた もの だ っ た が, 計 画化 自体 はそう で はな か っ たの であ る」 (ポラ ン ニ ー 『大転 換』, 1957年, 邦 訳, 東 洋経 済新 報 社, 191ペ ー ジ)‐ そ の 意味 で は, 福 祉 国家 と は,. 後藤がいうように, 自然発生的な 「自己調整型市場への反作用の意識的組織化」(前掲,494ページ), と特 徴 づ ける こ と が できる.. 福祉国家の中心的課題は, したがって, 労働力の保全とその再生産の援助, 労働者の生存の確保というと ころにある. というのも, 全般的な商品生産・商品流通社会として成立した資本主義においては, 労働力も また商品として存在させられるが, しかしこの労働力商品は, 商品一般とは異なって市場の需給関係に委ね て す ま すと いう こ と が でき な い から で ある‐ この 商 品 は売 れな いか ら と い っ て, ある い は古く な っ た からと い っ て, 放 置 して しまう わ け に はいか な い‐ 失業 した か ら と い っ て, ま た傷 病, 老 齢 によ っ て 商 品価 値 を失 っ たか らと い っ て, 労 働者 は生 き る こ と をやめ る わ け に はい かな い‐ そう した労 働者 の境 遇 にた い して, し か し, ヒ ュ ー マ ニス トである わけ で はない 資本 は, 本来 的に無 関心 であ り, 商 品 と して の とり 扱 い を一 貫 し. ようとする衝動を本質的にもつ. そうした傾向はだが, 労働者たちの抵抗と反撃, 資本主義の支配の正当性 の 揺 ら ぎを招 か ず に はいな い‐ ここ に, つ ま り, 労働 力 をも 商 品 と して 貫 徹 しよう と する とき に生 ずる 諸 困. 難を緩和する目的で, 福祉国家が組織された. 困窮者対象の公的扶助ばかりでなく, 労働者一般にかかわる, 労働規制としての労働法体系の構築, 労働災害・病気・老齢・失業等にたいする社会保障制度の整備, 家族 手当や住宅供給・補助等家計の維持や生活基盤形成などが, 福祉国家の施策の主内容となっていくゆえんで ある‐ この意味で, 福祉国家体制の基礎には, 「労働力商品の販売だけに, 労働者とその家族が頼って生活 する こ との 悲惨 と不 可能 の 認識 の 蓄 積」 (同, 446ペ ー ジ) がある.. このような福祉国家は, それゆえ, 可能なかぎり労働力の商品化を貫徹しようとする資本階級と, 生活と 生存を賭けて資本のそうした攻勢・暴威に対抗せざるをえない労働階級とのあいだの 明示的であれ潜在的 , であれ, 階級妥協の産物である. 資本の側は, 労働者保護の諸施策を一定程度実施することで 資本主義的 , な支配の正当性についての労働者の容認と, 労働運動および社会民主主義運動の体制内化 これらによる資 , 本主義システムの安定化を獲得し, 労働側は, 労働と生活にかんする一定の保障とひきかえに 資本主義の , 存続に 「合意」 し, 内部の反体制的なラディカリズムを自ら排除する‐ ここに, 「福祉国家的統合」 とよば れる大衆社会統合 (資本主義体制への 「合意」 の調達) が成立する‐ このように, 福祉国家は 「資本蓄積と社会保障を両立させ」 ようとする体制であるが, そうした本来的に は対立的・矛盾的な要素の妥協を可能にした経済的条件は, まず, 一般に 「南の犠牲のうえの北の繁栄」 と 131.

(5) . 吉 崎 祥 司. 称される, 世界市場における徹底した帝国主義的収奪を根幹とする経済の高成長であった‐ 国内市場の持続 的展開も, この前提のもとではじめて可能であった. いいかえれば, 帝国主義的な対外政策の遂行に必要な 国民動員・国内合意の調達のための社会保障制度の整備という, かつての 「社会帝国主義」 の本質的徴標を 福祉国家はそのまま継承しており, 帝国主義的収奪・搾取が産みだした大きなパイに労資それぞれが与かる ことで, 福祉国家的妥協が成立している ( 「帝国主義化にともなう国内階級妥協措置」 としての福祉国家) ‐ そして, この前提のもとで, 国内市場の持続的発展が可能になり, 労働者の購買力を造成・維持することで, 耐久消費財を中心とした大量生産=大量消費というサイクルの順調な展開 (いわゆるフォーディスト・サイ クル) を国内で実現することが期待され, 可能になった‐ 福祉国家がしばしば, 「非グローバルな経済循環 中心の経済成長に必要かつ有効な制度と理解された」(同447ページ) のはこの側面であり, 労働者層の消費 力形成を可能にする条件と必要が, 福祉国家的諸施策の拡充をもたらしたのであった‐ なお, 階級的妥協としての福祉国家が求められた政治的要因が, 国民の帝国主義的動員という目的にした がうもの であること, ならびに, 労働階級の抵抗と要求の成果であることはすでに述べたとおりであるが, 加えて, 福祉国家の形成要因のひとつに, 社会主義への対抗上, 所得の再分配機能の強化によって, 資本主 義の優位性を防御する必要があったこともいうまでもない. こうして, 福祉国家は, 一定の歴史的条件のもとで, 固有に先進資本主義国において成立し, それぞれ- 国的に境界づけられた, そして, 対外膨張というその前提にもとづいて, しばしば軍事的な論理と力に訴え ) ることも辞さない体制であった (福祉国家の帝国主義国家としての 「特権的な地位」 . それは, あくまでも 資本主義国家の-変種であり, 競争的市場と排他的利己主義を構造的に前提しているが, 市場を至上のもの とみなす市場原理主義は排し, 国家の市場への大幅な介入を認めかつ実行するものとして, 資本主義の修正 であり, 労働階級をはじめとする民衆の要求とたたかいの成果でもある. 以上のような内容や背景をもつ福祉国家は, したがってさしあたり, 労働力の保全と国民の少なくとも最 低 限の生 活保 障 (n組ona lm 5 i mmum) を主目的として, 国家が広範囲で市場に介入する資本主義の歴史的一 形態であり, 階級妥協の産物である, と規定できよう. 福祉国家の歴史 そうした, 福祉国家は,19世紀末の社会改革を略矢とし, 世紀の転換期に資本主義諸国において採用され た社会保険制度を中心とする社会政策を前提として, また帝国主義世界戦争および社会主義の成立という体 験をへて,第2次世界大戦の終末を前後して形成されたものであり,以下のような歴史的経緯をもっている. ( )福祉国家の前史 1 9世紀末か 福祉国家の形成にいたる消息には各国に独自なものがあり, 一様に論じることはできないが,1 らの帝国主義列強の争闘における国内体制整備の基軸として社会政策が要求されたという事情はほぼ共通し ている. 自由放任的な自由主義経済のもたらす諸矛盾と下層労働者や底辺の民衆の困窮が, 労働運動や社会 運動の激発のもとで, また世界市場における単独覇権の揺らぎにも増幅されて,80年代以降, もはや個人主 義的な把握を許さない明確な 「社会問題」 として認識されるようになったイギリスでは, この社会の独自の 歴史的・思想的経験をふまえて登場した 「社会的自由主義」 の思潮 (ホブハウスやホブソンらに代表される この思想運動は, のちに, その批判性を弱めつつ 「自由民主主義」 に収敵していく) が資本主義の改革運動 を主導するようになり, 世紀をはさんで, 社会保険をはじめとする社会改革 (いわゆるリベラル・リフォー をもたらして, 福祉国家を準備する. そのイギリス帝国主義に対抗するために, 国内条 件の整備・社会問題の解決が必須となったドイ ツでは, 権威主義的国家による 「上からの改革」 として, 大 ム L IR bera i f e o rm). 企業に存続した温情主義的・労務政策的な労働者給付・保護を国家的に代替し (企業の経費負担の軽減), 132.

(6) . 福祉国家批判と 「新福祉国家」(1). 社会全体へ拡大すべく,80年代にはやくも社会保険が成立することになる (「ビスマルク改革」) ‐ 世界市場 の 支配 権の 動 揺 に面 したイ ギリス の ばあ い であ れ, イ ギリス へ の挑 戦 を試 み, アメ リ カ と並 ん でその 覇権 を つ き崩 しつ つ あ っ た ドイ ツの ばあ い で あ れ, い ず れ に せ よ, 帝 国 主 義 的 な 支 配 の 確立 の た め に は, 「社 会 問. 題」 を解決し, 国民の動員とくに労働階級の合意を調達するための社会政策の導入が必至であり, また植民 地・従属国を徹底して収奪する帝国主義の果実は, そうした費用を十分に賄うことのできるものであった‐ ( 2 )第1段階福祉国家 福祉国家は, 一般に第2次世界大戦後に成立する‐ この福祉国家を後藤にしたがって, 「第1段階福祉国 家」 とよぶ‐ その本質は, 帝国主義への国民的合意の獲得と労働階級の要求への対応であるが, これは, 帝 国主義の果実を分け合うかあるいは約束することで, そして労働費用を帝国主義的利潤から捻出することで 達成 さ れる. ベ ヴ ァ リ ッ ジ・ プ ラ ンに代 表 さ れる 第1 段 階福 祉国家の 目 標 は, ナ シ ョ ナル ・ ミニ マム (国民. 的最低限) の保障であり, 児童期や老齢期, 失業や疾病・労働災害によって人びとが貧困線 ( ) r辱証ne pove 以下に転落することを防ごうとするものである. その対象は, 主として労働階級であり, 困窮者にたいする 支 配層の パ タ ーナ リス テ ィ ッ ク な救 済 と いう色 彩 が強 い‐. ( 3 )第2段階福祉国家 「第2段階福祉国家」 とは, 「豊かな社会」 に対応するものであり, 経済の長期高成長によって可能とな った‐ そこでは社会保障水準が大幅に上昇しており,対象は困窮層にとどまらず中間層にまで拡大している‐ そして, 社会保障水準の上昇と対象の拡大は, フォーディ ズム的な大量生産=大量消費の蓄積体制と密接に 関連しており, 労働者層の大群の実効的な消費主体までの底上げによって, 非グローバルな国内的経済循環 が可能になった‐ それは, 高等教育や耐久消費財の大量消費を安定的に担保する福祉国家であり,「貧困線 を上回る階層の新たな各種ニーズへの対応」 を可能にする社会保障レベルを実現するものである (ただし , 第2段階福祉国家の水準が企業福祉によって代替された日本においては--そして同様の経過をもったアメ リカにおいても--, この水準の社会保障は, 大企業など一部で可能になったとはいえ, 労働階級一般にお いて 実 現 する こ と はなく, この 点 で 福祉 国家 =公 的 な福祉 はき わめ て 未 熟な もの にと どま っ た) ‐. 第2段階福祉国家における社会保障水準の上昇は, 中間層に焦点をあてたものであったが, しかし その , 水準の上昇は最低限保障にもおよび, かくして社会保障の全体的な高度化がもたらされることになった こ ‐ うした福祉の 「普遍化」 によって, 福祉国家は労働階級の全体によってその正当性を容認されるものとなり , その擁護と維持の主体が支配層から労働運動および社会民主主義運動に移行することになる (ダーレンドル フがいう, ヨーロッパにおける 「社会民主主義的合意の溺蔓」) ‐ 階級妥協体制としての福祉国家は, いまや その性 格 を明 示 的なも の と してあ ら わ す よう に なる (ネ オ ・コ ー ポラテ ィ ズム) .. しかし, 同時に, こうした福祉国家が, 必ずしも階級的格差や不平等を (廃棄はもちろん) 緩和せず む , しろ階級・階層化 固定的であること ( 「デュユアリズム」 ), 福祉国家の諸施策が男女差別的であること ( 「ジ ェ ン ダー・バイ アス」 ない し 「ジ ェ ン ダー ・ ヒエ ラ ル キー」), 民族 的・ 人種 的少 数 派 にた い して抑 圧 的・”E. 除的であること, 「第三世界」 諸国の犠牲にもとづく 先進国民国家内の 「繁栄と安定」 であること (社会帝 国主義), 福祉国家が経済的前提と して追求する高度成長が環境破壊的であること等 福祉国家批判が高ま , っ たの も この 時期 以 降, とく に1970年代 以 降 であ っ た.. 4 ( )「第2半段階福祉国家」 ないし 「バージョンアッ プされた福祉国家」 第2段階福祉国家を実現した諸国のなかでも, 北欧3国などは福祉国家の質的な転換とも思わせるような 展開をとげることになる‐ 「スウェーデン・モデル」 と称されることもあるそれは 相対的に手厚い所得保 , 障 にと どま ら ず, 保 育 や 介 護 な ど 「対 人社 会 サー ビス」 ( lsocialse ) に お い て も 高 水準 を達成 r v ice sona per したもの である が, その 特 徴 は, 社 会保 障の 高度 の普 遍 主 義 的適用 ナ シ ョ ナル ・ ミニ マム にと どま ら ぬナ , 133.

(7) . 吉 崎 祥 司. シ ョ ナ ル ・ オ プ テ ィ マ ム (na誼ona lop日 田ロum) ない しシ ヴィ ル ・オ プ テ ィ マ ム ( cM1op鯛ロum), つ ま り 国民. 的ないし市民的快適生活水準の標準化, そしてとりわけ, 社会保障の 「近代家族」 的に伝統的家族主義的・. 男性中心主義的な構成を排し,「男女共働き社会」 を基本想定とした社会保障や税制の 「個人 (単位) 化」 的再編, などとして示される. 当該社会の独自の歴史的経緯や諸条件, 政治的勢力配置の特殊性, 長期に政 権を担った社会民主主義の政治的経験, 高率で組織された強力な労働運動, そして比較的小さな人ロ規模の もとで, 高度経済成長期に不足した労働力の補填を女性に求めざるをえず, 女性の職場への誘導策として, 「世帯単位」 から 「個人単位」 への税制や社会保障制度の転換や社会サー ビスの充実をはかる必要に迫られ たこと等, 特殊な歴史的社会的条件のもとではじめて成立したものともいえるが, スウェーデンをはじめと する福祉国家のこれらの展開 (それを約言すれば, 「ジェ ンダー・バイアスを克服しつつある福祉国家」 と いうことにもなろうか) は, 福祉国家の発展に新しい段階を画すものであり, 転換が必ずしも (体制の根幹 にかかわるような) 全面的な質的改編となっているわけではない, という意味で 「第3段階」 とまではいい えないとしても, あたかも 「第2半段階福祉国家」 ないし 「ヴァージョンアッ プされた福祉国家」 (後者は 後藤) と規定することができるような次元を拓いたものと思われる. そ して, ス ウ ェ ー デン福 祉国 家 にお ける よう な政 策 的・制 度 的実践 の 水準 にま で は達 してい な い が, た と. えばドイツ社会民主党の1 98 9年 「ベルリン綱領」 も, 同様に, 新しい福祉国家の建設を綱領的な課題として 掲げるものであった‐ そこでも, 年金をはじめとする社会保障の世帯中心主義から (男女) 個人単位主義へ の転換, 家事労働を含むあらゆる 「社会的に必要な労働」 の等しい評価, 経済のエコロジー的な変換, 「南」 との連帯・南北間に存在する社会的不正義の克服などが政策目標として打ちだされたが,それらはいずれも, その後の現実の政治過程で多少とも影響力をもつものであった (近年改変された, 育児・介護等の期間の年 金 資 格 期 間 への 算 入制度 も, そ の一 例 で あろう)‐ そ して, こ れ ら 「福 祉 国 家の バ ー ジ ョ ン ア ッ プ」 と み な. 0年代以降顕著になってきた, 諸種の福祉国家批判への応答でもあっ すことのできる試みは, 逆にいえば,7 た. 福祉 国家 は, こう して, 現 実 的 に思 想 的 にも, 新次元 を開きつつ あ っ たの である.. ( )「福祉国家の危機」 5 そうした福祉国家は, しかし,70年代以降, 「危機」 に陥り, その 「解体」 や 「縮小」 が云々されるよう になる‐ この転変は, 直接的には, いうまでもなく高度経済成長の頓挫と, その帰結としての国家財政の膨 大な赤字によるものである. 「大きな政府」 が攻撃され, 福祉行政の官僚主義的・画一主義的運営が批判さ れるようになるとともに, 福祉が競争的活力を削 ぎ, 人びとの怠惰を助成するという新自由主義的な論難が 強まる. そうした論調が, 経済成長の停滞にともなう所得減少に見舞われた中間層の, 福祉財源の負担にか んする不満をかきたて, 政府の福祉削減策を容認しあるいはこれを要求させることになる‐ アメリカや日本 のように, 成熟した第2段階福祉国家の恩恵に中間層が浴することの少なかった国々では, 公的な福祉の削 減はより広範な支持をえるものとなる. しかし, 多くの実証的研究が示すように, 財政の社会支出等の指標において福祉国家の解体はもとより, 顕著な縮小がみられたケースはほとんどない‐ 所得保障であれ, 対人社会サービスであれ, あるいは公的扶 助であれ, それらを全面的に圧縮することはそれほど容易ではなかったのである. そこで, 採用されたのが いわゆる 「選択的縮小・廃止」 という方策であり,「福祉国家の二重化」 の政策である. 980年代以降の福祉国家解体政策 ( 6 )「福祉国家の二重化」 --1 構造的な経済不況のもと, 「大競争時代」 を本格的な多国籍企業化によって勝ち抜き, 資本蓄積をはかろ うとしている現代資本主義にとって, 福祉国家の維持は大きな負担であり, また企業活動の多国籍的展開は 経 済の 国 内循環 ない しフ ォ ー デズム ・ サイ クル を, ま っ たく と はいわ な いと して も, 第 一義 的 に は必 ず しも 必要 と しなく な っ て いる (二宮, 前 掲, 398‐399ペ ー ジ参照). 134.

(8) . 福祉国家批判と 「新福祉国家」(工). そこから, 福祉国家の水準を第1段階 (困窮者にたいする国民的最低限の保障) に押し戻すとともに, 第 2段階福祉国家の水準を, 一定の私的負担を前提とする中間層・上層の 「互助組合的結合」(後藤) におい て再組織するという戦略が生まれている.. 福祉国家の発展段階 福祉国家の歴史は簡略には以上のようなものであるが, 福祉国家の発展を画する基本的な段階規定として は, 「第1段階福祉国家」 と 「第2段階福祉国家」 が重要である. すでに述べたように, 第1段階福祉国家 は, ナ シ ョ ナル ・ ミニ マ ム の 保 障と いう, いわ ば福祉 国家の 要 件の 最 低 限 を示 すもの であり 一般 に第 2次 ,. 世界大戦後に成立した‐ 第2段階福祉国家は, 戦後の経済成長期の 「豊かな社会」 に対応する高水準の社会 保障・福祉を実現したものであり,その対象も貧困層から中間層・中産階層一般へと拡大している‐ そして, この 第 2段 階 福祉 国 家 をめ ぐっ て, 一 方 で, 北欧 諸 国の よう に さら なる バ ー ジ ョ ン ア ッ プが 試 み ら れている. とすれば, 他方では, 日本のように, この段階の福祉国家水準が企業福祉と利益誘導政治的施策によって代 替され (アメリカも社会保障の拡大は企業福祉によっ て実現された), 福祉国家としては未熟なものにとど まったものもある‐ また, 世紀の変わり目の現在, 福祉国家は, 第1段階福祉国家への退行を強いられるの か, あるいは第1段階はもとより, 第2段階福祉国家にたいしてもむけられてきた諸批判にもこたえうる , 古祉国家の実現に道が拓かれるか の岐路にある これらによって この2つの段階区分の重 真に充実した福 , ‐ , 要性が知られるであろう (もちろん, このことは, さま ざまに試みられている福祉国家の発展段階論の歴史 的意義を否定するものではないか) -. 福祉国家の諸類型 こ れま での と こ ろ, 福 祉 国 家 の諸 タイ プにあ る 程度 は言 及 しつ つ も 全 体 と して は一括 して 扱 っ てき た , ‐. しかし, そうした部分的な言及においてすでに示唆されているように, 諸福祉国家の内容 特徴 水準 展 , , , 開過程は, 歴史的背景や形成・推進の原動力, 労資関係や労働市場のあり方, 伝統的な階層間関係や家族関 係 の あり 方 な どに応 じて, す こ ぶる 多様 であり 本来 な らそ れら を一 律 に論 ずる こと な どとう て い できな い , ‐. 福祉国家の類型論, いいかえれば比較福祉国家論は, 福祉国家の歴史と現在そして今後を考えるうえで 今 , 日とくに重要な問題領域である. R‐M‐ティ トマスの周知の分類 (福祉国家の 「残余的モデル」 ・ 「産業的達成モデル」 ・ 「制度的再分配 モ デル」) い らい の 数 あ る, そ れ ぞれ に有 意 義 な 福 祉 国 家 の 類 型 論 をフ ォ ロ ー する こと は他 に委 ね こ こ で ,. は, 現段階の理論的基準 (論議の収散点) ともいえるエス ピンーアンデルセンの3類型をあげるにとどめて お こ う (G≠staEsping‐由]dersen:刊hel]hばee WorldsofWe比are Capi韻ロsm,Po互WrPress,1990p.26畳.な ど)‐ ,. 第1は, 北米やオーストラリアなどおおむね英語圏の先進資本主義諸国の 「自由主義的福祉国家」 であり , 最低限の保障は国家福祉としておこなう (「つつましい普遍主義」 ) が, より高度の福祉への要求にたいして は市場 によ っ て対 応 する と いう の がそ の 基本 的 枠組 み である そ こ で は 一方 での 下層 にた い する 「資産 , ‐ , 調 査」 (meanst ) 付きの貧弱な扶助と低水準の社会保険プランからなる公的福祉 他方での中・上層に t es. , おける市場を介した差異的な福祉, という二重構造での階級政治的デュユアリズムが特徴的である かつて ‐ の 「福祉先進国」 イギリスも, 制度構成の基軸もさりながら サッチャー政権いらいはとくにこの傾向が強 , . 第 2 は, 大 陸 ヨー ロ ッ パ 諸 国の 保 守主 義 的モ デ ル・ 「コー ポ ラテ ィ ズム 型 レ ジー ム」 であり 第 2 段 階福 ,. 祉国家水準を達成しているものの, 職域的な地位的差異にもとづく保障であり そこでの権利は 「階級と地 , 位」 に貼りつけられている‐ そうしたあり方は, ギルドの特権に由来し また社会保険が保守支配層による , 135.

(9) . 吉 崎 祥 司. 大衆統合・馴化の労務政策・社会政策として導入されたこと, 「友愛協会」 的な労働階級の集団的自助にお いても熟練・半熟練・未熟練などの階層化と弱者排除がおこなわれたことなどの伝統的な諸関係にもとづく ものであり, 今日の地位分化的・職域分立的な社会保障制度の根幹になっている‐ 加えて, このモデルのも うひとつの大きな特徴は, その社会保障・福祉体系が, 性別分業を当然視する 「近代家族」 の伝統的家族観 に強く コミ ッ ト して いる こ と である.. 第3は, 北欧諸国の 「社会民主主義モデル」 であり, 相当に高度な水準の社会保障・福祉が, 男女の別な く中間層をふくめて普遍主義的に適用されている‐ すでに触れたように, このタイ プの福祉国家が成立する については, 歴史的, 社会的・政治的に特有の諸条件の存在がある‐① ア ン デルセ ンの 3類 型 は, A‐ シー ロフ らの 批判 に示 さ れる よう に, ジ ェ ン ダー 視点 の 欠落 な い し弱 さ を. 批判されてもいるが (北明美 「ジェ ンダーと平等:家族政策と労働政策の接点」, 岡沢・宮本編 『比較福祉 9ページ以下, あるいは毛利健三 『現代イギリス社会政策史』, ミネ 国家論』 所収, 法律文化社,1 997年,17 ルヴァ書房,1999年, 第2章, など参照), 階層化および, とくに脱商品化という基準から福祉国家の主要 な諸形態の区分を試みたものである (たしかに, 脱商品化の意味自体が男女間で異なっているか ぎり, 批判 は免れないが) ‐ なお, アンデルセンの類型論とも交錯しながら, 福祉国家の2つの原型を, 「所得保障型」 のイ ギリ ス と 「対 人 社 会 サー ビス 保 障型」 のス ウ ェ ー デン と に 見 い だす 二 宮 の 論 議 (前 掲, 418ペ ー ジ) も. 有益であろう. 自由主義モデルが低次の所得保障型にとどまるのにたいし, 対人社会サービス保障型は所得 保障の高度化に加えて, 社会サービス保障の充実を実現している. そして, 社会サー ビスにおける保育や介 護の 充実 は, ジ ェ ン ダー ・ バイ アス の克 服と相 互 的な 関係 にある‐. m. 階級の視点からの福祉国家批判. 福祉国家は階級妥協のシステムであって, 本来的には階級差別の解消を課題としていない‐ したがって, 労働階級が強力で, その運動路線がより平等主義的であるばあい, 階級間の平等がすすむこともあるが, 一 般に福祉国家の諸施策においても階級的.階層的な差別や格差が克服されず, ときには拡大さえしている。⑦ そうした福祉国家のあり方にたいして, それゆえまず, 福祉国家は階級的・階層的な差別を緩和せず不平 等を軽減しない, という批判が加えられてきた‐ ( )福祉国家は一般に 「階層化システム」 (エス ピンーアンデルセン) として構成されてきた (福祉国家のデ 1 ュ アリ ズム). そ こ で は, 制度 の 階 層 別 の 組 み立 て が な さ れて おり, 原 型 的 に は, 下 層 ・底 辺 にた い して は. 最低限の生活保障の論理 (公的扶助) が, 中・上層にたいして は社会保険の論理がわりあてられる. いいか ええば, 社会保険が職域別に設定されることによって, 階層や職種のちがいによる格差が生じており, 民間 保険の負担能力の有無・程度がこの格差を増幅する. 「自由主義モデル」 においては, 公的福祉を受給する貧困層と, 市場における保険金の支弁能力によって 差異化される中・上層というかたちで, 階層的二重構造が突出している. 「貧者は国家に頼り, その他の者 は市場 に頼る」 と いう の が, この モ デル の 基 本 であ り, 全 国民 へ の最低 限生 活 保 障と いう ベ ヴァ リ ッ ジ型 の. ひかえめな普遍主義のゆきつく先は, それ以上に高度の福祉要求の充足は市場に委ねる, というデュユアリ ズムの促進にほかならなかった◎ 「保守主義モデル」 においては, 伝統的に職域別に組織された社会保障制 度が分立しており, 階級と地位の差異にもとづく保障・福祉供与のちがいが顕著である. そしてそれが, た んなる伝統にとどまらず, 現代の福祉国家の基本性格にもなっているのは, 労働運動の分断を含む階級政治 の重要な一要素として機能してきたからにほかならない‐ 「社会民主主義モ デル」 も, 他のモデルに比べれ ば平等主義的傾向が際立っているとはいえ (また市場的な機能の抑制=脱商品化の志向が注目にあたいする 136.

(10) . 福祉国家批判と 「新福祉国家」(1). と して も), 老 齢 年 金 に お ける い わ ゆる 二 階 建 構 造 を拡 大 さ せ 中 間層 主 体 の 制 度 構成 に な っ て いる こ と は ,. 否めない‐ なお, 日本の福祉国家もまた, 福祉国家の 「第1段階」 水準での停滞と 「第2段階」 の企業主義 的福祉による代替 (対象となるのは大企業長勤続男性正社員である) という一点が明瞭に示すように 企業 , 規模と就業形態を中心とする企業主義的な階層構造・多重的な格差構造をその基本的な特質としている‐ 総じて, 資本主義先進諸国における社会保障・福祉 は, 北欧など一部を除いて, より中間層のためのもの と して機 能 して き たの である‐ じ っ さ い 福祉 国 家 は中 間層 ま で をそ の プロ グラ ム に 含める こ と で支持の 範 ,. 囲を広げ基盤を強化したが, 拡大した福祉のための社会予算が注入された医療・保健衛生 教育 住宅・ロ , , ー ン 減税, 交 通等 の 受益者 は, 主 と して 中 間層 であ り その こ と は 1960年代後 半 に す でに 福祉 国家の も , , , と での 「新 しい 貧 困」 を 発 見 したイ ギリス の P‐タ ウ ン ゼン トやB.エ ー ブル ース ミス ら に よ っ てく り か え し 強調 さ れたと お り である‐ サ ッ チ ャ ー政 権 の 事跡 を知る わ れわ れ に は 70年代 後半 から85年ま でのイ ギリス ,. における不平等の度合いの深化を実証した研究報告も奇異なものではない (毛利 前掲 参照) こうして , , ‐ , 福祉国家の増大する社会支出の宛て先は, なによりもまず中・上層の生活基盤強化であった もちろん そ . , のことに引きずられて, 第1段階福祉国家の最低限保障の水準の上昇がみられたこともたしかであるが . じっさい, しばしば指摘されるように, 福祉国家の分配は必ずしも垂直的ではなく より水平的である , ‐ いいかえれば, 福祉国家の再分配機能は, 階級間格差是正ではなく階級内平準化に照準されている したが ‐ て 高率の累進課税 と 「 」 いう富裕層の抗議にもかかわらず っ , , アメリカにもっ とも顕著であるが, 階級分 位 の上 位 にお ける 資産 は確保 さ れ, 増 大 さ え している の た い して 最下 位 の い っ そう の 没 落 と中 間分位 の 全 ,. 体的な下落傾向が近年の特徴であり, 階級・階層格差は明確に拡大している (たとえば アメリカ商務省統 , 計 で は, 1990年 か らの 5 年 間 で, 上位 5 %の 世帯 の所 得 が18%増 加 したの にた い し下位20%の 世 帯の 所得 は. 6 8%減少している) ‐ . 福祉国家の再分配は, 不平等の源泉である所有への直接の介入になっていない‐ そし て, 貧困は富の蓄積の対極において構造的に産出されている. なお 中間層の全体的下落傾向が 抑圧の下 , , 方委譲として, 貧困層にたいする福祉の削減に向かっているのも如上のとおりである ‐ 階層化システムという福祉国家のこの基本的性格は, しかも世紀の変わり目の今日 多国籍企業中軸とい , う現段階の資本主義の戦略的展開に応じて, その二重構造化がいっそうおしすすめられる趨勢にある 21世 . 紀の 「大競争時代」 を 「地位低下」 の状態で迎えようとするアメリカはすでに 社会保障‐福祉の領域にお , いては, 社会の下層部分たとえばAFCD (要扶養児童世帯現金給付) 受給層を中心的なターゲッ トとして , 選別主義の徹底, 福祉の大幅な削減, 労働力の再商品化 を強行しており イギリスでも低所得者にたいする , 所得保障が主要な削減対象にされてきた‐ 日本もまた 公的福祉を貧困線レベルにとどめ 所得保障を抑制 , , し, 年金・保険体系のいっそうの市場化をめざす社会政策をおしすすめている そうした趨勢にいたずらに . 組みすることを許さない社会勢力と社会文化の存在 ( 「社会的欧州」 ) が, 大陸ヨーロッパの社会保障・福祉 の 新 自 由主 義 的削 減・ 解 体 を目 下の と こ ろ かろう じて 防 い で (遅 らせ て) いる と いう の が 現 況 で あろう , ‐. 2 ( )福祉国家の二重構造は, 下層・底辺の貧困層に重層的な差別と不平等をもたらしており そこでは高齢者 , , 母子世帯, 障害者などを中心に所得ばかりでなく, 環境や健康 文化を含めて極度の生活困難がもたらされ , ており, 人間の尊厳が際鋼されている. アメリカにおける低年齢出産の母子世帯の困窮 福祉産業の経営に , なる ナ ー シ ン グホー ム での 高 齢者 の 悲 惨 (「ナ ー シ ン グホ ーム ・ス キ ャ ン ダル」) な どは ここ での 問題 性 の ,. 資本主義先進諸国における国際的な先例 であろう‐ しかも 競争的な能力主義的社会編成のもとで 高齢 , , 者・母子世帯・障害者などの社会的不利 はいっそう増幅されている◎ 劣 等 処遇 と しての ナ シ ョ ナル ・ ミニ マム の 保 障 (ベ ヴ ァ リ ッ ジ 的普 遍主 義) と は じつ は 「生 理 的最低 限」 , の保 障 で しか なく, しかもそ の 劣 悪 な受給 さえ ミー ン ズテ ス ト付 き はも とよ り イ ギリス での 高 齢者 の 大 , ,. 量の漏給問題が示すように, 強いスティ グマをともなうものであった 社会権価値の普遍的承認にもかかわ ‐ 137.

(11) . 吉 崎 祥 司. らず, 福祉はしばしば実質上の権利としては認知されておらず,21世紀に踏み入りつつある現在なお, むし 996年 「個人責任・勤労機 ろ恥辱の付与にあたいするものとさえとらえられている (クリントンも同調した1 会調整法」 」 における金銭扶助の供与における勤労義務の規定等)⑨ ( 3 )他方で, 福祉国家はより多く中間層のためのものである. そのことは, 既述のように, 私的な保険のため の税控除, 住宅ローンのための税控除や減税, 医療や高等教育への財政投入など, その主要な受け手がじっ さいはもっ ぱら中産階層にほかならない諸施策に一目瞭然である.私的な保険に加入する余裕をもたない者, 住宅の購入など思いもよらない者には福祉国家の 恩恵 はな い (ヨー ロ ッ パ に は- -部分 的 に は アメ リ カ にも あるが) ÷‐f 昔家・間借り人への公的な住宅費補助制度が・ . 高等教育にかかわる福祉国家施策 は, 一般にそ の経費負担 (授業料だけではない) に耐えうる者だけにとって有益であるし, 高額を要する医療は, 公的な 医療保険制度を欠くアメリカがそうであるように, 低所得層にとってはしばしば無縁のものである, 等々‐ 加えて, 巨大化した福祉国家において膨れ上がった専門的職員の需要 (最大の雇用機会の提供者としての国 家) を満 た しう る の は, ほと ん ども っ ぱら中 間層 であ っ た‐ そ して, オ ース トリ ア が典 型 である よう に, 福. 祉国家の給付の大きな部分は, しばしば特権的な公務員層にあてられていたりもする. こうして, 多くのばあい, 福祉国家の便益を実質上十分に享受しているのは中・上層であり, 下層労働階 級やその家族の境遇が目だって改善されることはなかった. 福祉国家は階級的矛盾と下層・底辺の階級的困 難 を解決 しう る もの で はなか っ た の である.. 4 )福祉国家の階級性はまた, 貧困の世代的再生産および階級の文化的再生産という構造においてもあらわれ ( ている‐ 階級的に二重化された福祉国家のもとで, 貧困層において は, 所得・資産はもちろん, 「文化的資 本」 や人間関係のひろがりなどをも含む 「相対的剥奪」 としての貧困が, 世代的に再生産されている‐ 親の 資産や学歴, 地位・社会関係などの不平等 が, すなわち 「不利が不利をよぶ構造」(青木紀 「貧困の世代的 再生産」, 庄司・杉村・藤村 『貧困・不平等と社会福祉』 所収, 有斐閣,1997年, 参照) が, 子に継承され て いる の であ る. P.モ ー リス や P.ブル デ ュ ー が 明 ら か に した よう に, 上 流 と下 流 の 文 化 的 階級 対 立 が存 続. しており, 社会や学校において支配的な威力として君臨する上流文化が下流文化階級を抑圧・周辺化してい る. 日本のばあいなどに明瞭な姿をみせているが, 現在の公教育は 「横ならび競争を通じた能力主義的階層 9ページ) として機能 88‐48 ふりわけの制度」「労働者間競争への学校教育全体のまきこみ」(後藤, 前掲,4 しており, 「平等な」 諸主体による 「公正な」 競争の結果として, 全体的な階級的・階層的不平等の妥当性 が説得される‐ あたかも 「学力的・文化的階層」 が構造化されており, その構造の再生産によって 「国民の 分裂」 が学力的・文化的に固定化される. というのも, ヨーロッパ などに比べて階級の壁が低い (階級間 「純粋移動」 が多い) といわれる日本においても, その 「高学歴社会」 は全体として, 社会の 「階級的・階 層的」 構成をくずすことのない 「構造移動」 によってもたらされたことが, 実証研究によって明らかだから である. そうした教育, とくに高等教育の制度構成とそれへの社会支出によって, 福祉国家は文化的あるい は学 校 的に 階 級構 造 を再 生産 して いく メ カ ニ ズム と して も作 用 して いる‐ の みな らず, そ こ で は, 個々 人 に. 帰属する能力の差異に由来する階級差・階層差 はやむなしとする能力主義的心性が醸成されるところ から, 階級の文化的再生産は福祉国家の大衆統合を完成する要めの位置を占めることになる‐ 能力主義的な社会編 成 は, 「自立 ‐ 自助」 のイ デオ ロ ギ ー と 共 鳴 しつ つ, 競 争 の 敗 者 に お けるス テ ィ グマ を生 み だ し, 階級 的秩. 序を強化するのである. 個人として は本来的に 「自立的」 でありえない労働者にも 「自立・自助」 責任が押 しつけられ, 能力主義競争を受容し, 「依存」 を恥辱とみなす意識がいっそう強まっていく‐ 能力主義的に編成された福祉国家は, こうして, 教育とかかわっての階層分化を中軸に, 階級を文化的に 再生産していく装置をも内在させてきた‐ ( 5 )さいごに, もはやくりかえすまでもないが, 福祉国家はまた, 「南」 の諸国への帝国主義的・新植民地主 138.

(12) . 福祉国家批判と 「新福祉国家」{工). 義的収奪・搾取のうえに成り立っていた. 福祉国家に固有の関心は, それぞれの国家内の国民生活に限定さ れており, 階級妥協も国内問題としてのみ把握されていた‐ ここでは, 問題は, 国際間階級格差・抑圧とし てあらわれており, 福祉国家の根底的な階級的制約性が示されている (本稿では, この点に立ち入ることば でき ない).. 要約しよう‐ 福祉国家は一般に, 低所得層にたいする最低限生活保障として成立し (第1段階福祉国家), 経済成長期に, 中間層を含む広範な層にたいする相当程度充実した所得保障と社会サービスを展開するまで に発展した (第2段階福祉国家) が, その過程で同時に, 福祉国家の階級的・階層的二重化が推進された (福祉国家のデュユアリズム)‐ 中層以上のニーズにたいする社会支出の増大に引きずられるかたちで, 低所 得層にたいする保障も高度化したが, 北欧型の 「社会民主主義モデル」 については少なからず留保が必要だ としても, 貧困層への公的扶助と, その享受が実質上もっ ぱら中.上層に限られる諸社会サービスおよび生 活基盤の保障という階層別保障が, 福祉国家の基本的性格のひとつとなり, 拡大されていったのである. そして, 「福祉国家の危機」 をへて, 現在, 福祉国家の解体ないし全般的縮小という新自由主義的方向性 のもとで, 福祉国家のこの階級的二重性はいっそう強まっており, 公的福祉を再びベ ヴァリッジの最低限保 障 (「生理的生存」) まで退行させるとともに, 中・上層への保障を市場を介した, 保険を中心とする一種の 「互助組合」 と化す傾向が顕著である‐ 福祉国家の縮減のもとで, 階級的・階層 的格差がますます拡大して いる‐ その端的なあらわれが現在のアメリカであり, 日本を含む 「自由主義モデル」 がむかっている方向で ある (この 方 向 は, かつ て は福 祉 国 家 の恩 恵 を享 受 し, そ れに 親 和 的 であ っ た も の の 所 得 の 減 少 の も と , ,. 負担の軽減をもとめて, 新自由主義への同調に転向した中間層 によって支持されている) ‐ 大陸ヨーロッパ の 「コ ー ポ ラ テ ィ ス ト・ モ デル」 は, な お 「社 会 的欧 州」 (朝 日 新 聞1998年9月5日 の シリ ー ズ 「市 場 経 済」. 参照) という立場をくずしてはいないが, 状況は流動的であり, その帰趨はいまだ定かでない 「社会民主 ‐ 主義モデル」 は, ナショナル・オプティ マムを標準とする普遍主義的制度設計を維持し 相対的に平等主義 , 的な社会的ストックを蓄積してきているが, その存立は, さしあたりは特殊な歴史的 社会的条件にささえ , られていた. 福祉国家のそうした階級性という制約の克服が, かくして 新しい福祉国家の課題となる , . y. ジェンダーの視点からの福祉国家批判. 970年代以降, フェ ミニズムは, 生命・活動力の再生産労働すなわち家事労働が 社会的な生産労働の前 1 , 提 で あ る に も か か わ ら ず 無 償 の 労 働 (u id work) と して 慶 め ら れ て お り そ こ か ら 女 性 に と っ て の l l pa , ,. 数々の困難が生じていることの不当性を強く批判するようになった. この議論は さらに 福祉国家が構造 , , 的に 内在 する 性 差別 ( i sex sm) の 認識 へ と深 化 し, 80年代 以 降, 福祉 国家の あ た かも属性 と しての ジ ェ ン ダ ー. バ イ アス (gende ) と いう 問題 が, 福 祉 国家の 評価 に さい して のひ とつ の 焦点 にな っ て いく i r-b a s ‐ も っ と も こ こ で も, ジ ェ ン ダー ・ ヒ エ ラ ル キ ー な 諸 福 祉 国 家 と ジ ェ ン ダー ・ セ ン シ テ ィ ヴな い ジ ェ ン ダ. ー・エクイティ な福祉国家とを区別する必要があり, 必ずしも一律には論 じられないが 「社会民主主義モ , デル」 をの ぞく 大 多数の 福 祉 国家 が ジ ェ ン ダー・バイ アス を再生 産 する 構 造 をも っ て いる こ と は否 定 できな . 福祉国家の性差別機能 福祉国家によるジェンダー・バイアス再生産の具体的諸形態の代表的事例は 社会保障制度の性差別的構 , 成である. スウェーデンなどをのぞき, 社会保障制度は一般に 世帯を単位として (「世帯単位主義」 また , は 「世 帯 中心 主 義」), い い か え れ ば一 家の 生 計 の 稼 得 者 (bread‐wi ) をつ う じて の 家 族 に た い す る 保 nner 139.

(13) . 吉 崎 祥 司. 障 と いう 制度 構成 をと っ て いる‐ もち ろ ん, そ こ での 稼得 者 は一般 に, 男性 であり, 女性 ・ 妻 はそ の 被 扶養. 者である. 医療保険や年金保険の世帯単位ないし夫婦単位が代表的であるが, 女性は, 終身雇用的な労働に 従事する夫をつうじてはじめて, 社会保険や企業内福利厚生に結 びつくことができる◎ こう した制度構成すなわち社会政策の背景にあるの は, いうまでもなく, 「性別役割分業」 (「男は仕事, ) の観念と慣行である. 「性別役割分業」 が社会的に一般的な規範として成立したのは, しばしば 女は家庭」 信じられているのとはちがってそれほど古いものではなく (前近代の 「農業社会」 において, 人□の大多数 を占める農民の夫婦が 「仕事」 と 「家事」 の分業を行うなどありえない), 産業革命をへて, 労働者家族に おいても 「専業主婦」 が一般化して以降のことである‐ もっとも, 「専業主婦」 とはいっても, 必要なばあ いには生産労働へ誘導されるが不要となれば 「家庭へ帰れ」 と強要される, 労働力需給調整弁・「産業予備 軍」, したがって低賃金‐不安定就業の潜在的労働者であることを排除しないが. ところで, 労働者家族においても夫が主たる稼得者であり, 妻がその被扶養者であるという関係 は, 賃金 「家族賃金」 ) ことを必要とするが, その家族賃金が最低生活水準を満たさ が家族を扶養しうる程度である ( ないとき (企業が最低限必要な家族賃金を支給しないとき, または支給できないとき), 稼得者たる世帯主 をつうじて公的な保障あるいは扶助をおこなう, というのが社会保障における制度設計の基本であった. す なわち, 社会保障制度における世帯単位主義の成立であり, 福祉国家は性別役割分業を実体とする家族を単 位として形成されることになった‐ 逆にいえば, 性別役割分業が国家的にバックアッ プされた強力な規範と して貫徹していくことになる (なお, 家族賃金は, その後労働運動の主要な獲得目標になっていく が, その ) ことは労働階級自身によって性別役割分業の規範が受け入れられていったことをも意味する① . ) にかんして, いっそう明瞭である. 家族手当は, 労働者全体の賃 この事情は,「家族手当」(「児童手当」 金水準上昇を避けながら, 被扶養児童の存在によって生計が困窮する労働者家族の要求にこたえるものとし て, また労働者の定着策として, もともとは個別企業によって (賃金の部分的一形態として) 導入されたも のである‐ その後, 企業間でのコスト格差や競争の緩和のために, 共同負担ないし負担の分散として企業間 に拡大・制度化されていったものが, 大きくなった企業負担 (労働コスト) の軽減ないし回避要求, および 社会の少子化傾向に面してナショナルな必要となった出生率上昇・人ロ増大という要請にもとづいて, 国家 に代 替 さ れる よう にな っ て いき, ヨーロ ッ パ 諸 国 で社 会保 障制 度の 一 形態 と して定 着 する こと に な っ た (G. 2%を占めるフランスをはじめとして, 社会支出中に占める家族手当の比率はかなり大きく, また NP中1 ‐ その額は平均賃金の10~20%に達することもある) ‐ これもまた,「家族の長」 すなわち主たる稼得者である 男性への, その賃金の補足 (「経済的扶養力の強化」 と人口増加対策) としての給付であり, 労働階級にと どまらず中◆上層を含めて普遍主義的に適用されることで家族手当の (恩恵ではない) 権利性が強化された と はい っ て も, そこ での 権利 と は じつ は男 性の あ い だでの みの もの であり, 最 初 か ら限定 さ れたそう した権. 「家族賃金」 も含め 「家族手当」 の諸問題については, 利の 「平等化」・「普遍化」 というにとどまっている ( さしあたり, 北, 前掲, および同 「各国の児童手当・家族制度とジェンダー問題」, 大阪市立大学経済研究 ・6号所収、1 999年, など参照) 所 『経済学雑誌』99巻5 .◎ 福祉国家のジェンダー的構成 福 祉 国家の こう した ジ ェ ン ダー 的構成 は, 大陸 ヨー ロ ッ パ の 「保守 主義 モ デ ル」 に典 型 的 であ っ た. そこ. でも, 後に見るような変化が起こっているが, また逆流も生じており, 従来の基本的な性格に大きな変化が 生 じて いる と ま で はい えない‐. 「保守主義モデル」 の社会政策は, 性別役割分業の伝統的 (近代) 家族の維持に強くコミッ トしており, 女性は, 「社会的労働」 の (少なくとも長期的な) 従事者であることを求められておらず, むしろ家事や育 140.

(14) . 福祉国家批判と 「新福祉国家」(工). 児, 介護等に専念することを期待されている‐ 被扶養者たるべき女性の 「社会的労働」 への進出は容易では なく, アクセスできる職業の限定性や身分的な不安定・低賃金など職業労働による自立への道は狭く限られ ている. いいかえれば, 大陸ヨーロッパの多くの国々では, 男性長期安定就業者が社会政策上の標準モデル であ り, 社 会 保 障制 度の 基本 原 理 である‐ した が っ て, そ こ で は, 出産 ・育 児や 介護, そ して デイ ケ ア等社. 会サービスの顕著な遅滞などによって長期勤続たりえない女性とりわけ 「専業主婦」 は, 事実上社会保険か ら排除されており (就業期間・勤務形態における資格の欠如), また働く女性の家族福祉の受給資格が制限 されたりもする (オランダ, ドイツなど) ‐ 他方で, 家庭にあって家事・育児・介護に専心するか ぎりでの 女性にたいする, 扶養者たる夫をつうじての給付や優遇措置は, 税制等も含め相当程度高水準に設定されて いる. しか し, 年 金の 資 格要件 を満 た す ことの 難 しさ な どから, 夫 の扶 養 に よ ら ない 老後 の生 活 が容 易 な ら. ざるものになることはほとんど必至である (「貧困の女性化」) ‐ とくに, 被扶養者としての地位を放棄した り (離婚), 選択しなかった (非婚) ばあいの女性がそうであり, 夫によらず (その遺族給付によることも できず), 企業年金もなく, 国家の給付 (扶助) のみによって生活をたてざるをえない境遇の高齢女性の生 活の困難には, 想像を絶するものがある (「妻の役割からはずれた女性の困難」 あるいは 「男性なき女性 l 」 にた いする 制 裁)‐ 社 会保 険 ・ 年金 の 受 給権 を否 定 さ れた 女性 の, 単 独 での 公 的 給付 への 依存 man essness. は, 女性の貧困を増大させる主要因になっている. こう して, 女性 は, 家 族と, 性 別 分業 こ そ をよ しと する 「家 族倫理」 に押 し込 め ら れて いる の である. ヨ ー ロ ッ パ の少 な か ら ぬ国々 において は, 社 会 的な男 女平等 の 要 求 は, 家 庭 に還 流 する もの であ っ て はな らず,. その家庭内・家族内への適用は, しばしば 「社会的連帯」 を破壊するものでさえある◎ 「自 由主 義 モ デ ル」 に お いて も, 事態 がそ れ ほ ど大 きく 異 な っ て いる よう に は思 わ れ な い‐ A‐シー ロフ によ っ て 女性 の労 働 条件 が (男 女平 等 の観 点 から) 良 好 である が ゆえに ジ ェ ン ダー・バイ アス が相 対 的 に弱. いとされたアメリカも, 先進資本主義国諸国中唯一, 国民皆年金はおろか医療の国民皆保険さえ制度化され ておらず, 全国民対象の家族手当はもちろん産休制度さえも未整備であるような 「福祉国家」 であるかぎり, キ ャ リ アの ある 一 部の 女性 は別 と して, 総 体 と して ジ ェ ン ダー ・セ ン シテ ィ ヴであ り えよう はず も なく, そ. こでの困窮と悲惨は, だれよりもまず民間保育サー ビスの利用が難しい低賃金女性, 離別女性, 母子世帯主, 独居高齢女性などのうえにあらわれている (ここでもまた 「貧困の女性化」 ) . 企業福祉を基盤とした社会保 険 (その給付は多くのばあい男性が享受する) から排除され, 商品化された福祉には手が届かない女性たち は, 低 水 準 の 生 活 保 護 や A F C D, 「食 料ス タ ン プ」 ( f t ood-s amp) な ど に頼 ら ざる をえ ず, しか も た え ず. 縮減へむけての圧力を受けているそれらの措置すら, およそ権利などとはいいがたく, 申請から資産調査 , 認 定の 裁量 に いた る ま で強 いス テ ィ グマ をとも なう も の で あり, 受 給者 の 人 格 を段 損 しかね な いも の であ っ た.. 社会保障・福祉制度の家族主義的な構成において 「保守主義モデル」 と通底し, 最低限保障の残余的性格 に おい て 基本 的 に 「自 由主 義 モ デル」 に属 し, アメ リ カ 以 上の 企 業 福祉 に代 替さ れる こ と に よ っ て 男性 長 ,. 期勤続正社員を標準とする社会保障制度を通用させてきた日本の未成熟な福祉国家が, 顕著にジェ ンダー・ ヒエラ ル キー である こと はいう ま でも な い. な お, 北欧 諸 国の 「社 会民 主 主 義 モ デル」 は こ れ らモ デル と はち が っ て 基本 的に ジ ェ ン ダー ・ エクイ , ,. ティ な福祉国家であるとみなされる‐ 労働力の不足を女性労働力の導入によって解決しようとしたスウェー デンは, 育児・介護等の社会化によってその条件整備をおこなうとともに, 税制や社会保障制度の世帯単位 から個人単位への転換によって職業労働への女性のインセンティ ヴを高めることで その企図を成功させた , ‐ 女性の職場が, 実質において, たしかに多くはまだ公約セクター (の主として福祉部門) に限られているか ぎり, この福祉国家の制度設計の基本としての夫婦共働き ( 「2人の稼ぎ手」 ) モデルも, ジェ ンダー的に差 141.

(15) . 吉 崎 祥 司. 別された私的労働市場一般をも貫徹するまでにはいたっていないが ( 「労働者基金制度」 構想の破綻に示さ れるように, この国でも資本の抵抗は強く, とくに支配の根幹に触れるような改革は拒否される), 国家の 制度において明確にジェ ンダー・バイ アス を否定し, 社会全体の平等主義化を志向する点で, 歴史的な画期 をな したもの と いわ なけ れ ばな らな いだろう. しか し, 「社 会民 主 主 義 モ デル」 はな お例 外 的 であ り, 福 祉 国 家 は一 般 に, ジ ェ ン ダー・ ヒエ ラ ル キ ー 再. 生産的な構造を基本的な属性としてきた. そのさい, 福祉国家は, 性的不平等をたんに再生産するばかりで なく, それを, 「貧困の女性化」 と特徴づけられるような, 貧困化と不平等の固有の プロセスへの再編とし て おこ な っ てき たの である.. たしかに,1 970年代以降, 一方で男女平等を要求する社会運動などの批判の強まり, 他方で労働力不足が もたらした 「労働の女性化」 という社会的必要にもとづいて, 福祉国家のこうした性格が変容しはじめた. スウェーデンなどで先駆的に実現された社会保障や税制の個人 (単位) 化にも触発されて, 各国で, 男女同 一の基礎年金が導入されたり, ドイツのように女性の育児・介護を年金資格期間へ算入する (年金通算制度) などの変化が生じており, 女性の地位向上, 税制や社会保障における男女の公的差別の改善が相当程度すす んできている‐ 税制・社会保障制度における世帯単位主義から個人単位主義への移行は, 今後の国際的趨勢 を示すものでもあろう. しかし他方で,80年代以降労働力の再商品化・労働者保護規制の後退 (労働法制の改変), 労働市場の二 重化 (中心的と周辺的と) の強化ともあいまって, 生活保護における離別配偶者責任追求の強化 (日本) や 扶養児童世帯への現金給付にたいする期間限定・親の勤労の義務づけ (アメリカ) に示されるような, 社会 保障・福祉の再家父長制化の動きも強まっており,大局的な傾向は動かないとしても,状況は流動的である. さて, とこ ろ であ らた めて, 福祉 国家の この よう な ジ ェ ン ダー・ ヒエラ ル キー な構成 によ っ て 何 が期 待 さ れ, ある い はもた らさ れ たの か‐ 福 祉 国 家の ジ ェ ン ダー ヒエラ ル キ ー な 構成 の 効 果 は, 第 1 に, 「資 本の 収 益性」 の 確 保 であ る‐ 女 性 の 家. 庭への押し込め, 無償の家事労働への緊縛を, 福祉国家が制度的・イデオロギー的にバックアップすること によって, 資本は, 「労働力再生産費用の低減」 をはかることができたし, もともとは家事労働に従事すべ 「女性の仕事」 ) き女性の非本来的労働としての「社会的労働」,しかもそのようなものとして限定された労働( に携わる女性労働力を低コストで確保し, また一種 「産業予備軍」(厳密な規定ではないが) としての女性 を労働力需要の調整弁として使用することもできた. そのようなものとして, 女性の無償労働は 「継続する 本源的蓄積」(M.ミース) ともいうべきものであり, 現代の資本主義的階級形成にも大きく寄与している. 女性に従属的な地位を強いる 「生命の生産と再生産の資本制による外部化」 は, 資本主義経済の発展に貢献 して き たの である.. 第2に, 男性を主要な受取人とする社会保障・福祉の費用を, 福祉国家はジェ ンダー的差別を制度的に内 包することで償還するが, その意味で, 女性の無償労働・低賃金労働を組み込んだ福祉国家は男性の利益に 奉 仕 して いる‐. こうして, 総じて, 「福祉国家は, 女性の犠牲において, 資本と男性の利益を確保する, 先進資本主義国 家に特徴的な国家形態である」(C. ビアソン 『曲がり角にきた福祉国家』,1 991年, 邦訳, 未来社,1 39 ペ ー ジ) とい いう る. 第 3 に, 福 祉 国家の ジ ェ ン ダー ・ ヒエ ラル キー な構成 は, 女性 の 従属 的存 在化 を固定 し, 拡 大 し, 再 生 産. するものとして機能した. 福祉国家は, 女性の家庭内への封じ込めと被扶養者化を制度的に支援したが, こ れは同時に, 性別役割分業の家族倫理を称揚することによって, 女性の従属化をイデオロギー的にも補強・ 強化する役割を果たすことにほかならなかった. 142.

参照

関連したドキュメント

近時は、「性的自己決定 (性的自由) 」という保護法益の内実が必ずしも明らかで

医療保険制度では,医療の提供に関わる保険給

平日の区福祉保健センター開庁日(開庁時間)は、ケアマネジャーが区福祉保健センター

わが国の障害者雇用制度は、1960(昭和 35)年に身体障害者を対象とした「身体障害

能率競争の確保 競争者の競争単位としての存立の確保について︑述べる︒

重点経営方針は、働く環境づくり 地域福祉 家族支援 財務の安定 を掲げ、社会福

区の歳出の推移をみると、人件費、公債費が減少しているのに対し、扶助費が増加しています。扶助費

労働者の主体性を回復する, あるいは客体的地位から主体的地位へ労働者を