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速度意識の地域間差異についての考察

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206 ( 40 ) 国際交通安全学会誌 Vol. 45, No. 3 2021 年 2 月  「交通の流れに乗った運転を心がける」というこ とが言われることがある。速度制限の遵守は基本で あり、過度の速度超過は重大な事故を引き起こすが、 速度域の異なる車両が混入することで不必要な車線 変更が発生するなど、他の運転者にストレスを与え ることで事故につながる危険性もある。  それぞれの道路を通行する車両全体の速度域がど のように決まってくるかは興味深いが、本稿の問題 意識は、そもそも運転スタイルは地域によって違い があるのか、という点である。本稿では、運転スタ イルのうち、運転速度に分析対象を限定して、地域 差があるとすればどのような傾向があるのか、につ いて、全国アンケートの結果をもとに検証する。  速度意識の地域間差異を検証した先行研究は見当 たらないが、速度取締や速度超過に関する研究自体 は多く存在する。例えば、心理学的視点から速度制 限遵守行動を分析したElliott and Armitage(2003)1) や、運転者の性格等が速度制限遵守行動に影響する

特集●速度マネジメントと道路交通/報告

 1. 問題提起

ことを明らかにしたGriffin and O cass(2010)2) ほか、速度超過に対する罰則の影響を分析した Strand(2005)3)、警察車両配置による速度抑制の 効果を分析したDixon et al.(2014)4)、罰則と大学 内の速度制限遵守行動に関して分析したIlgaz and Saltan(2018)5)などがある。また、交通行動につ いて地域間差異を分析した先行研究としては、訪日 外国人の交通安全意識を日本人のそれと比較した猪 井ほか(2018)6)や、運転者の交通安全意識に関す る国際比較である加古ほか(2020)7)、警察署単位 で交通取締と交通事故の傾向について地域間比較を した津國ほか(2012)8)などがある。  本研究は、公表される統計データからは検証でき ない全国アンケート調査データを用いて、これまで の研究では分析されてこなかった地域間の運転速度 意識を分析する研究であり、この点が本研究のオリ ジナリティである。都道府県間を中心に速度意識の 地域間差異を分析した結果、近接地域では速度調整 の態度が類似しているが、物理的な距離が遠くなる と地域差がみられることなどが明らかとなった。  本稿では、2014年12月に実施した「運転に関す るアンケート調査」のデータを用いる。  当該アンケート調査は運転者を対象とし、一定の 頻度で運転をしている回答者を抽出するため、事前 のスクリーニング調査を実施している。スクリーニ ング調査では、普段の運転頻度など全10問を調査 し、「週1回以上運転してい る 回 答 者」と、「運 転 は す るものの週1回未満の頻度 の回答者」を一定数ずつ抽 出し、二段階目の本調査に 進む形とした。スクリーニ ング調査では、47都道府県 に均等割り付けし50,000サ ンプルを対象とした。  二段階目の本調査では、 47都道府県でそれぞれ、「週 1回以上運転している回答 者」を103サンプル、「運転 はするものの週1回未満の 頻度の回答者」を31サンプ ルと設定して、ランダム抽 出して調査した(合計6,298 サンプル)。いずれの調査においても年齢性別など の割り付けは行っていない。従って、年代などにつ いては、各都道府県でサンプル分布が異なることと なる。  前章で挙げた先行研究からも、年代等により運転 傾向が異なることは示されている。そこで、本研究 ではまず、47都道府県の調査サンプルをプールし て、年代性別による速度意識の差異を観察する。な お、以降の分析では、速度意識の差異を観察すると いう目的に鑑み、本調査の「週1回以上運転してい る回答者」のみを分析対象とする(合計4,841サン プル)。  本研究では、次章で速度意識の地域間比較を行う が、そこで比較対象とした視点は、「走行中道路の 制限速度に対する認知度」、「速度取締に対する速度 調整の態度」、「通学路走行における速度調整の態度」 の三点となる。具体的に利用するのは、次のような 設問に対するアンケート調査結果である。  2-1 走行中道路の制限速度に対する認知度  まず、「走行中道路の制限速度に対する認知度」 については、走行している道路の制限速度に対する 認識について調査した設問の調査結果を利用する。 同設問の回答は択一回答方式をとっており、各選択 肢は一定の範囲の数値を示す形としている。同設問 の調査結果の年代性別分布をFig.1に示す。Fig.1で は、年代を3分類(18−34歳、35−64歳、65歳以上) として性別年代別の分布を示している。なお、縦軸 は各性別・年代内の比率を示している。Fig.1から は、高齢者の制限速度の認 知率が低いことのほか、性 別では男性の方が制限速度 の認知度がやや高い傾向が 読み取れる。もちろん、こ うした差異は自動車で外出 する際の行動範囲を反映し ている可能性もある。近隣 の普段利用している道路で あれば、交通の流れも含め 交通状況を理解しているこ とから、走行中道路の制限 速度の認識が低いこともあ り得よう。  2-2 速度取締に対する     速度調整の態度  次に、「速度取締に対す る速度調整の態度」につい ては、アンケート調査の中 から「あなたは速度取締が あることによって、普段の 自動車やバイク(原付を含 む)の速度超過や無謀な運 転を控えるようにしていま すか?」という設問の回答 データを利用した。調査で は、当該設問に対して、4 つ(「十分控える」「ある程 度控える」「取締場所のみ 控える」「まったく控えな い」)の択一回答を用意し た。同設問の調査結果の年代性別分布をFig.2に示 す。なお、縦軸は各性別・年代内の比率を示してい る。Fig.2からは、女性の方が速度取締に対して「十 分に速度を控える」割合が高いことが分かる。また、 特に男性の高齢者以外のグループで「取締場所のみ 控える」、「まったく速度を控えない」がやや高い傾 向が観察される。  2-3 通学路走行における速度調整の態度  続いて、「通学路走行における速度調整の態度」 については、「通学路と認識した場合、速度を落と しますか?」という設問に対する回答データを利用 した。調査では、当該設問に対して、3つ(「速度 を落とす」「注意するが速度は落とさない」「特に運 転に変化はない」)の択一回答を用意した。同設問 の調査結果の年代性別分布をFig.3に示す。なお、 縦軸は各性別・年代内の比率を示している。Fig.3 からは、高齢者ほど通学路と認識した場合に速度を 控える傾向があることが分かる。  このように性別年代別の速度意識は、一定の差異 があることが観察される。そのため、次章以降の分 析では、各都道府県でサンプル分布が異なることを 考慮し、次のようなサンプルウエイトを作成して分 析することとした。  2-4 ウエイトの作成  ウエイト作成の手順として、まず、スクリーニン グ調査の50,000サンプルを対象に、各都道府県にお ける「週1回以上運転している回答者」の構成比率 を年齢階層別(10代を除き5歳刻み)で計算した。 同様に、総務省統計局平成27年国勢調査9)による 都道府県別年齢階層別人口分布に、スクリーニング 調査データから計算した年齢階層別の「週1回以上 運転している回答者」の回答者比率を掛け合わせる ことにより、各都道府県において「週1回以上運転 している回答者」の年齢階層別の人口分布を算出した。 分析に利用するサンプルウエイトは、本調査の各都道 府県サンプルの分布が、ここで計算した年齢階層別 人口分布に一致するように算出した。従って、本分 析では、各都道府県で「週1回以上運転している回答 者」の年齢階層比率は異なるものの、現実の運転者 の分布に近い形で、地域間比較が可能となっている。  なお、二段階目の本調査では、各都道府県サンプ ルの中に25歳以下のサンプルが確保されていない 都道府県も多かった。そのため、該当都道府県では、 当該年代のウエイトは0としている。  次章以降の分析では、当該ウエイトを用いて本調 査のデータを分析するが、ウエイトバック前後の本 調査の基本統計量をTable1に示す。本調査のサン プルは男性54.1%、女性45.9%となった。また、年 齢の平均値は44.9歳となり、各年代の比率は20代 未満0.2%、20代11.8%、30代23.3%、40代29.7%、50 代21.3%、60代以上13.7%となった。「走行中道路の 制限速度に対する認知度」「速度取締に対する速度 調整の態度」「通学路走行における速度調整の態度」 について、制限速度を認知していることや、速度取 締・通学路走行において速度を調整する意思が強い ことなど、規範的な運転を心掛けている傾向が見受 けられる。  前章でも述べた通り、本稿では、「走行中道路の 制限速度に対する認知度」、「速度取締に対する速度 調整の態度」、「通学路走行における速度調整の態度」 の三点に関して地域間差異を観察する。なお、前章 でも述べた通り、本研究では各都道府県で103名ず つ調査した「週1回以上の頻度で運転している運転 者」を分析対象としている。  前章では、該当する項目の調査データについて、 単純集計により性別年代別分布を示したが、本章の 地域間比較に当たっては回答データを再集計して、 その差異を検証することとした。具体的には、次の ような再集計後のデータで地域間比較を実施してい る。  まず、「走行中道路の制限速度に対する認知度」 についての回答データは、前章でも述べた通り、択 一回答方式をとっていた。Fig.1の凡例の通り、各 選択肢は一定の範囲の数値を示す形としたため、そ の代表値を回答データとし、地域別の平均値を算出 し、当該平均値により地域間比較を実施した*1 Table 2に、各都道府県の平均値および標準偏差を 示す*2  次に「速度取締に対する速度調整の態度」の回答 データは、前章の通り、設問に対して、4つの選択 肢(「十分控える」「ある程度控える」「取締場所の み控える」「まったく控えない」)からの択一回答で る傾向が分かる。  続いて、「通学路走行における速度調整の態度」 についても、同一エリア内の都府県間の差異を検証 する。ここでも同様に、2次元分割表による分析方 法を採用した。分析結果をTable 8に示す。分析結 果を見ると、前節の「速度取締に対する速度調整の 態度」と同様に、同一エリア内であっても物理的距 離が遠く、経済圏が異なると速度意識に差が生じて いる傾向が分かる。  以上の分析結果から、制限速度の認知度について は同一エリアの都府県間で差異はないものの、速度 取締や通学路などでの速度調整の態度については、 物理的な距離が遠くなると差異が生じる傾向が明ら かとなった。  本稿では、前章まででさまざまな地域区分を設定 し、「走行中道路の制限速度に対する認知度」、「速 度取締に対する速度調整の態度」、「通学路走行にお ける速度調整の態度」の三点に関して地域間差異を 観察してきた。  Fig.4、5、6は、本稿で分析した「走行中道路の 制限速度に対する認知度」、「速度取締に対する速度 調整の態度」、「通学路走行における速度調整の態度」 の全都道府県の個別の数値である。縦軸は、それぞ れ制限速度を認知している回答者の割合(最大:京 都府78%、最低:岐阜県66%)、速度取締下で速度 を落とす回答者の割合(最大:神奈川県100%、最低: 佐賀県93%)、通学路と認識した場合に速度を落と す回答者の割合(最大:北海道91%、最低:山梨 県67%)を示している。いずれも数値の大きさで ソートしてあり、Fig.4では認知度が低い都道府県 が左側、Fig.5、6では、速度を調整しない傾向が大 きい都道府県が左側である。  運転傾向について地域間差異を検証した先行研究 は少ないが、先述の津國ほか(2012)8)では、都市 の地形や位置、規模により取り締まりの地域間差異 を明らかにしている。津國ほか(2012)8)の分析結 果と比較してFig.4、5、6を見ても、都道府県間の 比較では一定の傾向が観察されておらず、都道府県 レベルでは、都市規模や地形など交通行動に影響を 与える要因を分析しきれていない可能性は高い。し かしながら、本稿の分析からは、「走行中道路の制 限速度に対する認知度」については、都市部、地方 部という居住地の違いや都道府県間の違いといった 単純な傾向としての地域間差異は観察されていな い。より詳細に速度調整の態度に関して居住地の違 いを分析すると、近接地域では地域間差異は観察さ れず、物理的な距離が遠くなると差異がみられる。 これは一定のエリア内では類似の速度意識が形成さ れているが、物理的にも経済圏としても離れたエリ アでは速度意識の差異は存在していることを示唆し ている。居住地とは異なる地域で運転する際は、速 度意識の地域差の存在を意識しておくことも重要で あると言えよう。  また今後、自動運転車の普及に伴い、道路上に異 なる速度域の車両が混在することが想定される。 SAE(Society of Automotive Engineers)J3016 の 定義による自動運転レベルでは、レベル2(運転支 援技術)までは実勢速度に合わせた追従走行が可能 であるが、システム3以上の自動運転では、車両は 道路交通法の制限速度を超えて走行することができ ない。そのため、各地で実勢速度の一般車と法定速 度の自動運転車の間に乖離が生じ、それが原因とな る交通事故の増加が懸念される。自動運転車の普及 に向けては、ドライバーの速度意識には地域差があ ることを念頭に、啓蒙活動などの安全対策を講じる ことが望ましい。 謝辞  本研究は、IATSS研究調査プロジェクト(H2647): 「交通安全政策のパーセプション ∼受容者意識に対 する分析∼」(加藤一誠PL)の一環として実施され た調査をもとに、データを再整理したものである。 記して謝意を示します。 参考文献

1 ) Elliot, M. A., Armitage, C. J., Baughan, C. J.: Driver s Compliance with Speed Limits: An Application of the Theory of Planned Behavior, Journal of Applied Psychology, Vol.88, No.5, pp.964-972, 2003.

2 ) Griffin, D., O’cass, A.: An Exploration of Personality and Speed Limit Compliance, Journal of Nonprofit & Public Sector Marketing, Vol.22, pp.336-353, 2010.

3 ) Strand, J.: Deriving Values of Statistical Lives from Observations of Speed Limits and Driving Behavior, Journal of Transport Economics and Policy, Vol.39, No.1, pp.93-108, 2005.

4 ) Dixon, M. R., Loukus, A. K., Bogdanovich, T., Doctor, K., Marlett, K., Stocks, R., Westlake, S.: Naturalistic Experimental Analysis of Driver Compliance with Posted Speed Limits, Journal of Organizational Behavior Management, Vol.34, pp.196-206, 2014.

5 ) Ilgaz, A., Saltan, M.: Point-to-Point Speed Enforcement: A Case Study on Driver s Speed Behavior in Turkey, International Journal for Traffic and Transport Engineering, Vol.8, No.2, pp.184-197, 2018. 6 ) 猪井博登、森川美紅、土井健司、葉健人「レン タカーを利用する訪日外国人の交通安全意識に 関 す る 研 究」『土 木 学 会 論 文 集D3』Vol.74、 No.5、pp.1169-1177、2018年 7 ) 加古陽子、中村英樹、鈴木一史、柿元祐史「自 動車運転者の交通安全に関する意識の国際比較 分析」『国際交通安全学会誌IATSS Review』 Vol.45、No.1、pp.58-66、2020年 8 ) 津國翔太、森本章倫、加藤一誠、神谷大介「違 反種別からみた交通取締りの地域的傾向に関す る 研 究」『土 木 計 画 学 研 究 講 演 集』Vol.46、 pp.1-6、2012年 9 ) 総務省統計局「平成27年国勢調査」2015年 10 ) Dobson, A. J.『一般化線形モデル入門 原著第 2版』(田中豊、森川敏彦、山中竹春、富田誠 訳)、 共立出版、2008年 いが、当該結果からは、一定の経済圏内では、速度 意識について同一の傾向を持っている一方で、別の 経済圏間では、速度意識について差異がある可能性 が推察される。  3-3 同一エリア内の都府県間の速度意識の差異  政令指定都市を擁する都道府県間の速度意識の差 異を計測した結果、一定のエリア内では差異がほと んど観察されないものの、異なるエリア間では地域 差が認められるという結果が得られた。先の分析で は、政令指定都市を擁する都道府県間のみの比較で あったため、本節では、それを拡張し、同一エリア に属する都府県間の速度意識の差異を検証すること とした。同一エリアとは、東北地方、関東地方、中 部地方、近畿地方、中国地方、四国地方、九州地方 を指す。なお、北海道、沖縄県は分析の対象から外 している。分析については、前節と同様に、それぞ れ2つの都府県における速度意識について、一対比 較を実施することとした。  まず、「走行中道路の制限速度に対する認知度」 について比較する。これまでの比較時と同様、アン ケート回答データを連続変数に変換し、回答者グ ループごとの平均値の差異をANOVAで検定する こととした。分析結果からは、いずれのエリアの都 府県間*5についても、制限速度の認知度に差異は観 察されなかった(p>0.10)。  続いて、同一エリア内の都府県間で「速度取締に 対する速度調整の態度」に関して差異があるかにつ いて、前節と同様の一対比較で検証した。同一エリ ア内の都府県について、一対比較した分析結果を Table 7に示す。これまでと同様、網掛けされてい る都府県ペアが1%以下(網掛けパターンによる) の有意水準で統計的に有意な差があることを示して いる。関東地方や関西圏などをみると、東京・神奈川、 大阪・兵庫など隣接する都府県間では速度意識に差 はないが、同一エリア内であっても物理的距離が遠 いなど、経済圏が異なると速度意識に差が生じてい あった。本章の地域間比較に当たっては、当該4選 択肢を、「控える」「控えない」の2つにグルーピン グし、その回答者比率について地域間比較を行った。 具体的には、最初の3つの選択肢を選択した回答者 を「速度取締に対して運転速度を控える行動をとる 運転者」、「まったく控えない」を選択した回答者を 「速度取締に対して運転速度を控えない運転者」と グルーピングした。  最後の「通学路走行における速度調整の態度」に ついては、3つの選択肢に関して、速度を落とす回 答者(「速度を落とす」)と速度を落とさない回答者 (「注意はするが速度は落とさない」「特に運転に変 化はない」)の比率について地域間差異を観察する こととした。  このように再集計したアンケート調査データか ら、速度意識に関して地域間比較を実施するが、地 域のグルーピングはさまざまな分類方法が可能であ る。しかしながら、本稿で用いるアンケート調査デー タは、都道府県別に一定数のサンプルを収集したこ とから、地域間比較については都道府県間比較が中 心となる。  一方、津國ほか(2012)8)のように、取り締まりの地 域間比較を行った結果、都市の地形や位置、規模に より、多く行われている違反種別に差異があること を指摘する先行研究も存在する。そのような点を考 慮し、本研究においても、データの制約があるもの の、まずは政令指定都市を擁する都道府県にサンプ ルを限定して、政令指定都市に居住する回答者(都 市部)と、それ以外の都市に居住する回答者(地方部) について、速度意識の差異を検証することとした。  3-1 都市部居住者と地方部居住者の速度意識の     差異  本節では、まず、都市部居住者と地方部居住者の 速度意識の差異について検証する。具体的には、政 令指定都市を擁する都道府県を抽出し、回答者から 収集した居住地の郵便番号データを用いて、同都道 府県内の政令指定都市内に居住する回答者(都市部 居住者)と、政令指定都市以外に居住する回答者(地 方部居住者)に分け、その2グループ間で速度意識 に差異があるかを検証することとした。具体的に抽 出した都道府県は、北海道、宮城、埼玉、千葉、東京、 神奈川、新潟、静岡、愛知、京都、大阪、兵庫、岡山、 広島、福岡、熊本の16都道府県である。  まず、「走行中道路の制限速度に対する認知度」 について比較する。先に述べた通り、走行中道路の 制限速度の認知度は、本アンケート調査では数値と して把握されている。そのため、当該数値を連続変 数と捉え、回答者グループごとの平均値を比較する こととした。具体的にはANOVAにより、グルー プ間差異の有無を検証した。16都道府県の居住者 をプールしたデータによる検証結果からは、都市部 居住者と地方部居住者*3で、制限速度に対する認知 度に差異は観察されなかった(p>0.10)。  続いて、「速度取締に対する速度調整の態度」に 関して、両地域の居住者間で差異があるかについて 検証した。今回利用したアンケートデータでは、速 度取締がある場合に速度を落とすか否かについて は、離散データとなっている。離散データでは ANOVAを利用することはできないので(Dobson, 200810))、当該データから2次元分割表を作成し、 グループ間に差異があるかについて、カイ二乗検定 を実施することとした。分析結果をTable 3に示す。 分析結果からは、速度取締に対して速度を落とさな い回答者の割合はかなり低いが、5%以下の有意水 準で居住地により態度が異なることが示されてい る。ただし、「速度を控えない」サンプル数が非常 に小さい点は、検定結果の解釈について注意が必要 であろう。  最後に、「通学路走行における速度調整の態度」 の居住地間差異について検証する。速度取締に対す る態度の設問と同様、当該データも通学路だと認識 した場合に、速度を落とすか否かという離散データ となるため、同様に2次元分割表による分析方法を 採用した。分析結果をTable 4に示す。分析結果を 見ると、通学路だと認識した際に速度を落とさない 回答者の割合は、地方部の方が若干高いが、両地域 で統計的に有意差があるわけではない。  以上の分析結果を見ると、都市部と地方部という 居住地に違いがあっても、速度意識には、それほど 大きな差異はなさそうである。なお、本稿では紙面 の都合から省略するが、同様の分析を全ての都道府 県を対象に、県庁所在地居住者(都市部居住者)と、 それ以外の都市に居住する居住者(地方部居住者) にグループ分けして、同様の分析を実施した。分析 の結果は、いずれの項目についても、都市部居住者 と地方部居住者の間で、速度意識に関する差異は観 察されなかった。  3-2 政令指定都市を擁する都道府県間の速度意     識の差異  前節の分析により、都市部と地方部という居住地 の差異は、速度意識に大きな影響を与えないことが 観察された。次に、速度意識に関する都道府県間差 異の有無を検証することとした。しかしながら、都 道府県間差異を観察するに当たって、47の都道府 県をどのような形で比較するのが適切なのかという 課題がある。本稿では、まず、近隣都道府県間の相違、 遠方の都道府県間の相違の傾向を概観するために、 前節と同じ都道府県、すなわち、政令指定都市を擁 する16都道府県を対象として、それぞれ2つの都道 府県における速度意識について、一対比較を実施す ることとした。  まず、「走行中道路の制限速度に対する認知度」 について比較する。前節での比較時と同様、アン ケート回答データを連続変数に変換し、回答者グ ループごとの平均値の差異をANOVAで検定する こととした。分析結果からは、政令指定都市を擁す る都道府県間*4についても、制限速度に対する認知 度に差異は観察されなかった(P値=0.3902)。  続いて、政令指定都市を擁する都道府県間で「走 行中道路の制限速度に対する認知度」に関して差異 があるかを検証する。ここでも前節同様、2次元分 割表を作成し、都道府県間差異があるかについて、 カイ二乗検定を実施することとした。分析対象の各 都道府県について一対比較した分析結果をTable 5 に示す。Table 5で、網掛けされている都道府県ペ アが、1%有意水準で統計的に有意な差があること を示している。全般的にみると、東京、新潟、広島 において、他都道府県との差異が目立つ。  続いて、「通学路走行における速度調整の態度」 についても、政令指定都市を擁する都道府県間の差 異を検証する。ここでも同様に、2次元分割表によ る分析方法を採用した。分析結果をTable 6に示す。 分析結果を見ると、一見して、先の「速度取締に対 する速度調整の態度」と比べて都道府県間差異が顕 著であることが分かる。ただし、一対比較を細かく 見ると、例えば、関東の一都三県、関西三府県間で は差異がないこと等が分かる。関東関西以外では、 経済圏を同一にしている地域は本分析の対象にはな 東京交通短期大学

Tokyo College of Transport Studies

中央大学経済学部

Faculty of Economics, Chuo University

**

早稲田大学理工学術院

Faculty of Science and Engineering, Waseda University 原稿受付日 2020 年 9 月28日 掲載決定日 2020 年11月 4 日 ***

速度意識の地域間差異についての考察

眞中今日子

中村彰宏

**

森本章倫

***  本稿では、全国アンケート調査データを用いて、都道府県間を中心に運転速度意識の 地域間差異の有無を検証した。分析の結果、走行中、道路の制限速度に対する認知度は、 都市部、地方部という居住地の違いや都道府県間の違いといった単純な傾向としての地 域間差異は観察されなかった。一方、速度取締や通学路における速度調整の態度に関し ては、近接地域では類似しているが、物理的な距離が遠くなると地域差がみられること などが明らかとなった。

Analysis of Regional Differences in Driving Speed Awareness

Kyoko MANAKA*

Akihiro NAKAMURA** Akinori MORIMOTO***

 In this paper, we examined the existence of regional differences in driving speed awareness, mainly between prefectures, using nationwide questionnaire survey data. Our results show that there were no regional differences in driver awareness of the road speed limit while driving on roads in terms of simple trends, namely differences in residential areas such as urban areas and rural areas and differences while driving between prefectures. On the other hand, when looking at the driver s speed adjustment behavior in speed controlled zones or school zones, it was clear to see that speed adjustment behavior is similar in neighboring prefectures, but there are regional differences when the physical distance increases.

(2)

 「交通の流れに乗った運転を心がける」というこ とが言われることがある。速度制限の遵守は基本で あり、過度の速度超過は重大な事故を引き起こすが、 速度域の異なる車両が混入することで不必要な車線 変更が発生するなど、他の運転者にストレスを与え ることで事故につながる危険性もある。  それぞれの道路を通行する車両全体の速度域がど のように決まってくるかは興味深いが、本稿の問題 意識は、そもそも運転スタイルは地域によって違い があるのか、という点である。本稿では、運転スタ イルのうち、運転速度に分析対象を限定して、地域 差があるとすればどのような傾向があるのか、につ いて、全国アンケートの結果をもとに検証する。  速度意識の地域間差異を検証した先行研究は見当 たらないが、速度取締や速度超過に関する研究自体 は多く存在する。例えば、心理学的視点から速度制 限遵守行動を分析したElliott and Armitage(2003)1) や、運転者の性格等が速度制限遵守行動に影響する

 2. 利用データ

( 41 )

207

IATSS Review Vol. 45, No. 3 Feb., 2021

速度意識の地域間差異についての考察 ことを明らかにしたGriffin and O cass(2010)2)

ほか、速度超過に対する罰則の影響を分析した Strand(2005)3)、警察車両配置による速度抑制の 効果を分析したDixon et al.(2014)4)、罰則と大学 内の速度制限遵守行動に関して分析したIlgaz and Saltan(2018)5)などがある。また、交通行動につ いて地域間差異を分析した先行研究としては、訪日 外国人の交通安全意識を日本人のそれと比較した猪 井ほか(2018)6)や、運転者の交通安全意識に関す る国際比較である加古ほか(2020)7)、警察署単位 で交通取締と交通事故の傾向について地域間比較を した津國ほか(2012)8)などがある。  本研究は、公表される統計データからは検証でき ない全国アンケート調査データを用いて、これまで の研究では分析されてこなかった地域間の運転速度 意識を分析する研究であり、この点が本研究のオリ ジナリティである。都道府県間を中心に速度意識の 地域間差異を分析した結果、近接地域では速度調整 の態度が類似しているが、物理的な距離が遠くなる と地域差がみられることなどが明らかとなった。  本稿では、2014年12月に実施した「運転に関す るアンケート調査」のデータを用いる。  当該アンケート調査は運転者を対象とし、一定の 頻度で運転をしている回答者を抽出するため、事前 のスクリーニング調査を実施している。スクリーニ ング調査では、普段の運転頻度など全10問を調査 し、「週1回以上運転してい る 回 答 者」と、「運 転 は す るものの週1回未満の頻度 の回答者」を一定数ずつ抽 出し、二段階目の本調査に 進む形とした。スクリーニ ング調査では、47都道府県 に均等割り付けし50,000サ ンプルを対象とした。  二段階目の本調査では、 47都道府県でそれぞれ、「週 1回以上運転している回答 者」を103サンプル、「運転 はするものの週1回未満の 頻度の回答者」を31サンプ ルと設定して、ランダム抽 出して調査した(合計6,298 サンプル)。いずれの調査においても年齢性別など の割り付けは行っていない。従って、年代などにつ いては、各都道府県でサンプル分布が異なることと なる。  前章で挙げた先行研究からも、年代等により運転 傾向が異なることは示されている。そこで、本研究 ではまず、47都道府県の調査サンプルをプールし て、年代性別による速度意識の差異を観察する。な お、以降の分析では、速度意識の差異を観察すると いう目的に鑑み、本調査の「週1回以上運転してい る回答者」のみを分析対象とする(合計4,841サン プル)。  本研究では、次章で速度意識の地域間比較を行う が、そこで比較対象とした視点は、「走行中道路の 制限速度に対する認知度」、「速度取締に対する速度 調整の態度」、「通学路走行における速度調整の態度」 の三点となる。具体的に利用するのは、次のような 設問に対するアンケート調査結果である。  2-1 走行中道路の制限速度に対する認知度  まず、「走行中道路の制限速度に対する認知度」 については、走行している道路の制限速度に対する 認識について調査した設問の調査結果を利用する。 同設問の回答は択一回答方式をとっており、各選択 肢は一定の範囲の数値を示す形としている。同設問 の調査結果の年代性別分布をFig.1に示す。Fig.1で は、年代を3分類(18−34歳、35−64歳、65歳以上) として性別年代別の分布を示している。なお、縦軸 は各性別・年代内の比率を示している。Fig.1から は、高齢者の制限速度の認 知率が低いことのほか、性 別では男性の方が制限速度 の認知度がやや高い傾向が 読み取れる。もちろん、こ うした差異は自動車で外出 する際の行動範囲を反映し ている可能性もある。近隣 の普段利用している道路で あれば、交通の流れも含め 交通状況を理解しているこ とから、走行中道路の制限 速度の認識が低いこともあ り得よう。  2-2 速度取締に対する     速度調整の態度  次に、「速度取締に対す る速度調整の態度」につい ては、アンケート調査の中 から「あなたは速度取締が あることによって、普段の 自動車やバイク(原付を含 む)の速度超過や無謀な運 転を控えるようにしていま すか?」という設問の回答 データを利用した。調査で は、当該設問に対して、4 つ(「十分控える」「ある程 度控える」「取締場所のみ 控える」「まったく控えな い」)の択一回答を用意し た。同設問の調査結果の年代性別分布をFig.2に示 す。なお、縦軸は各性別・年代内の比率を示してい る。Fig.2からは、女性の方が速度取締に対して「十 分に速度を控える」割合が高いことが分かる。また、 特に男性の高齢者以外のグループで「取締場所のみ 控える」、「まったく速度を控えない」がやや高い傾 向が観察される。  2-3 通学路走行における速度調整の態度  続いて、「通学路走行における速度調整の態度」 については、「通学路と認識した場合、速度を落と しますか?」という設問に対する回答データを利用 した。調査では、当該設問に対して、3つ(「速度 を落とす」「注意するが速度は落とさない」「特に運 転に変化はない」)の択一回答を用意した。同設問 の調査結果の年代性別分布をFig.3に示す。なお、 縦軸は各性別・年代内の比率を示している。Fig.3 からは、高齢者ほど通学路と認識した場合に速度を 控える傾向があることが分かる。  このように性別年代別の速度意識は、一定の差異 があることが観察される。そのため、次章以降の分 析では、各都道府県でサンプル分布が異なることを 考慮し、次のようなサンプルウエイトを作成して分 析することとした。  2-4 ウエイトの作成  ウエイト作成の手順として、まず、スクリーニン グ調査の50,000サンプルを対象に、各都道府県にお ける「週1回以上運転している回答者」の構成比率 を年齢階層別(10代を除き5歳刻み)で計算した。 同様に、総務省統計局平成27年国勢調査9)による 都道府県別年齢階層別人口分布に、スクリーニング 調査データから計算した年齢階層別の「週1回以上 運転している回答者」の回答者比率を掛け合わせる ことにより、各都道府県において「週1回以上運転 している回答者」の年齢階層別の人口分布を算出した。 分析に利用するサンプルウエイトは、本調査の各都道 府県サンプルの分布が、ここで計算した年齢階層別 人口分布に一致するように算出した。従って、本分 析では、各都道府県で「週1回以上運転している回答 者」の年齢階層比率は異なるものの、現実の運転者 の分布に近い形で、地域間比較が可能となっている。  なお、二段階目の本調査では、各都道府県サンプ ルの中に25歳以下のサンプルが確保されていない 都道府県も多かった。そのため、該当都道府県では、 当該年代のウエイトは0としている。  次章以降の分析では、当該ウエイトを用いて本調 査のデータを分析するが、ウエイトバック前後の本 調査の基本統計量をTable1に示す。本調査のサン プルは男性54.1%、女性45.9%となった。また、年 齢の平均値は44.9歳となり、各年代の比率は20代 未満0.2%、20代11.8%、30代23.3%、40代29.7%、50 代21.3%、60代以上13.7%となった。「走行中道路の 制限速度に対する認知度」「速度取締に対する速度 調整の態度」「通学路走行における速度調整の態度」 について、制限速度を認知していることや、速度取 締・通学路走行において速度を調整する意思が強い ことなど、規範的な運転を心掛けている傾向が見受 けられる。  前章でも述べた通り、本稿では、「走行中道路の 制限速度に対する認知度」、「速度取締に対する速度 調整の態度」、「通学路走行における速度調整の態度」 の三点に関して地域間差異を観察する。なお、前章 でも述べた通り、本研究では各都道府県で103名ず つ調査した「週1回以上の頻度で運転している運転 者」を分析対象としている。  前章では、該当する項目の調査データについて、 単純集計により性別年代別分布を示したが、本章の 地域間比較に当たっては回答データを再集計して、 その差異を検証することとした。具体的には、次の ような再集計後のデータで地域間比較を実施してい る。  まず、「走行中道路の制限速度に対する認知度」 についての回答データは、前章でも述べた通り、択 一回答方式をとっていた。Fig.1の凡例の通り、各 選択肢は一定の範囲の数値を示す形としたため、そ の代表値を回答データとし、地域別の平均値を算出 し、当該平均値により地域間比較を実施した*1 Table 2に、各都道府県の平均値および標準偏差を 示す*2  次に「速度取締に対する速度調整の態度」の回答 データは、前章の通り、設問に対して、4つの選択 肢(「十分控える」「ある程度控える」「取締場所の み控える」「まったく控えない」)からの択一回答で る傾向が分かる。  続いて、「通学路走行における速度調整の態度」 についても、同一エリア内の都府県間の差異を検証 する。ここでも同様に、2次元分割表による分析方 法を採用した。分析結果をTable 8に示す。分析結 果を見ると、前節の「速度取締に対する速度調整の 態度」と同様に、同一エリア内であっても物理的距 離が遠く、経済圏が異なると速度意識に差が生じて いる傾向が分かる。  以上の分析結果から、制限速度の認知度について は同一エリアの都府県間で差異はないものの、速度 取締や通学路などでの速度調整の態度については、 物理的な距離が遠くなると差異が生じる傾向が明ら かとなった。  本稿では、前章まででさまざまな地域区分を設定 し、「走行中道路の制限速度に対する認知度」、「速 度取締に対する速度調整の態度」、「通学路走行にお ける速度調整の態度」の三点に関して地域間差異を 観察してきた。  Fig.4、5、6は、本稿で分析した「走行中道路の 制限速度に対する認知度」、「速度取締に対する速度 調整の態度」、「通学路走行における速度調整の態度」 の全都道府県の個別の数値である。縦軸は、それぞ れ制限速度を認知している回答者の割合(最大:京 都府78%、最低:岐阜県66%)、速度取締下で速度 を落とす回答者の割合(最大:神奈川県100%、最低: 佐賀県93%)、通学路と認識した場合に速度を落と す回答者の割合(最大:北海道91%、最低:山梨 県67%)を示している。いずれも数値の大きさで ソートしてあり、Fig.4では認知度が低い都道府県 が左側、Fig.5、6では、速度を調整しない傾向が大 きい都道府県が左側である。  運転傾向について地域間差異を検証した先行研究 は少ないが、先述の津國ほか(2012)8)では、都市 の地形や位置、規模により取り締まりの地域間差異 を明らかにしている。津國ほか(2012)8)の分析結 果と比較してFig.4、5、6を見ても、都道府県間の 比較では一定の傾向が観察されておらず、都道府県 レベルでは、都市規模や地形など交通行動に影響を 与える要因を分析しきれていない可能性は高い。し かしながら、本稿の分析からは、「走行中道路の制 限速度に対する認知度」については、都市部、地方 部という居住地の違いや都道府県間の違いといった 単純な傾向としての地域間差異は観察されていな い。より詳細に速度調整の態度に関して居住地の違 いを分析すると、近接地域では地域間差異は観察さ れず、物理的な距離が遠くなると差異がみられる。 これは一定のエリア内では類似の速度意識が形成さ れているが、物理的にも経済圏としても離れたエリ アでは速度意識の差異は存在していることを示唆し ている。居住地とは異なる地域で運転する際は、速 度意識の地域差の存在を意識しておくことも重要で あると言えよう。  また今後、自動運転車の普及に伴い、道路上に異 なる速度域の車両が混在することが想定される。 SAE(Society of Automotive Engineers)J3016 の 定義による自動運転レベルでは、レベル2(運転支 援技術)までは実勢速度に合わせた追従走行が可能 であるが、システム3以上の自動運転では、車両は 道路交通法の制限速度を超えて走行することができ ない。そのため、各地で実勢速度の一般車と法定速 度の自動運転車の間に乖離が生じ、それが原因とな る交通事故の増加が懸念される。自動運転車の普及 に向けては、ドライバーの速度意識には地域差があ ることを念頭に、啓蒙活動などの安全対策を講じる ことが望ましい。 謝辞  本研究は、IATSS研究調査プロジェクト(H2647): 「交通安全政策のパーセプション ∼受容者意識に対 する分析∼」(加藤一誠PL)の一環として実施され た調査をもとに、データを再整理したものである。 記して謝意を示します。 参考文献

1 ) Elliot, M. A., Armitage, C. J., Baughan, C. J.: Driver s Compliance with Speed Limits: An Application of the Theory of Planned Behavior, Journal of Applied Psychology, Vol.88, No.5, pp.964-972, 2003.

2 ) Griffin, D., O’cass, A.: An Exploration of Personality and Speed Limit Compliance, Journal of Nonprofit & Public Sector Marketing, Vol.22, pp.336-353, 2010.

3 ) Strand, J.: Deriving Values of Statistical Lives from Observations of Speed Limits and Driving Behavior, Journal of Transport Economics and Policy, Vol.39, No.1, pp.93-108, 2005.

4 ) Dixon, M. R., Loukus, A. K., Bogdanovich, T., Doctor, K., Marlett, K., Stocks, R., Westlake, S.: Naturalistic Experimental Analysis of Driver Compliance with Posted Speed Limits, Journal of Organizational Behavior Management, Vol.34, pp.196-206, 2014.

5 ) Ilgaz, A., Saltan, M.: Point-to-Point Speed Enforcement: A Case Study on Driver s Speed Behavior in Turkey, International Journal for Traffic and Transport Engineering, Vol.8, No.2, pp.184-197, 2018. 6 ) 猪井博登、森川美紅、土井健司、葉健人「レン タカーを利用する訪日外国人の交通安全意識に 関 す る 研 究」『土 木 学 会 論 文 集D3』Vol.74、 No.5、pp.1169-1177、2018年 7 ) 加古陽子、中村英樹、鈴木一史、柿元祐史「自 動車運転者の交通安全に関する意識の国際比較 分析」『国際交通安全学会誌IATSS Review』 Vol.45、No.1、pp.58-66、2020年 8 ) 津國翔太、森本章倫、加藤一誠、神谷大介「違 反種別からみた交通取締りの地域的傾向に関す る 研 究」『土 木 計 画 学 研 究 講 演 集』Vol.46、 pp.1-6、2012年 9 ) 総務省統計局「平成27年国勢調査」2015年 10 ) Dobson, A. J.『一般化線形モデル入門 原著第 2版』(田中豊、森川敏彦、山中竹春、富田誠 訳)、 共立出版、2008年 いが、当該結果からは、一定の経済圏内では、速度 意識について同一の傾向を持っている一方で、別の 経済圏間では、速度意識について差異がある可能性 が推察される。  3-3 同一エリア内の都府県間の速度意識の差異  政令指定都市を擁する都道府県間の速度意識の差 異を計測した結果、一定のエリア内では差異がほと んど観察されないものの、異なるエリア間では地域 差が認められるという結果が得られた。先の分析で は、政令指定都市を擁する都道府県間のみの比較で あったため、本節では、それを拡張し、同一エリア に属する都府県間の速度意識の差異を検証すること とした。同一エリアとは、東北地方、関東地方、中 部地方、近畿地方、中国地方、四国地方、九州地方 を指す。なお、北海道、沖縄県は分析の対象から外 している。分析については、前節と同様に、それぞ れ2つの都府県における速度意識について、一対比 較を実施することとした。  まず、「走行中道路の制限速度に対する認知度」 について比較する。これまでの比較時と同様、アン ケート回答データを連続変数に変換し、回答者グ ループごとの平均値の差異をANOVAで検定する こととした。分析結果からは、いずれのエリアの都 府県間*5についても、制限速度の認知度に差異は観 察されなかった(p>0.10)。  続いて、同一エリア内の都府県間で「速度取締に 対する速度調整の態度」に関して差異があるかにつ いて、前節と同様の一対比較で検証した。同一エリ ア内の都府県について、一対比較した分析結果を Table 7に示す。これまでと同様、網掛けされてい る都府県ペアが1%以下(網掛けパターンによる) の有意水準で統計的に有意な差があることを示して いる。関東地方や関西圏などをみると、東京・神奈川、 大阪・兵庫など隣接する都府県間では速度意識に差 はないが、同一エリア内であっても物理的距離が遠 いなど、経済圏が異なると速度意識に差が生じてい あった。本章の地域間比較に当たっては、当該4選 択肢を、「控える」「控えない」の2つにグルーピン グし、その回答者比率について地域間比較を行った。 具体的には、最初の3つの選択肢を選択した回答者 を「速度取締に対して運転速度を控える行動をとる 運転者」、「まったく控えない」を選択した回答者を 「速度取締に対して運転速度を控えない運転者」と グルーピングした。  最後の「通学路走行における速度調整の態度」に ついては、3つの選択肢に関して、速度を落とす回 答者(「速度を落とす」)と速度を落とさない回答者 (「注意はするが速度は落とさない」「特に運転に変 化はない」)の比率について地域間差異を観察する こととした。  このように再集計したアンケート調査データか ら、速度意識に関して地域間比較を実施するが、地 域のグルーピングはさまざまな分類方法が可能であ る。しかしながら、本稿で用いるアンケート調査デー タは、都道府県別に一定数のサンプルを収集したこ とから、地域間比較については都道府県間比較が中 心となる。  一方、津國ほか(2012)8)のように、取り締まりの地 域間比較を行った結果、都市の地形や位置、規模に より、多く行われている違反種別に差異があること を指摘する先行研究も存在する。そのような点を考 慮し、本研究においても、データの制約があるもの の、まずは政令指定都市を擁する都道府県にサンプ ルを限定して、政令指定都市に居住する回答者(都 市部)と、それ以外の都市に居住する回答者(地方部) について、速度意識の差異を検証することとした。  3-1 都市部居住者と地方部居住者の速度意識の     差異  本節では、まず、都市部居住者と地方部居住者の 速度意識の差異について検証する。具体的には、政 令指定都市を擁する都道府県を抽出し、回答者から 収集した居住地の郵便番号データを用いて、同都道 府県内の政令指定都市内に居住する回答者(都市部 居住者)と、政令指定都市以外に居住する回答者(地 方部居住者)に分け、その2グループ間で速度意識 に差異があるかを検証することとした。具体的に抽 出した都道府県は、北海道、宮城、埼玉、千葉、東京、 神奈川、新潟、静岡、愛知、京都、大阪、兵庫、岡山、 広島、福岡、熊本の16都道府県である。  まず、「走行中道路の制限速度に対する認知度」 について比較する。先に述べた通り、走行中道路の 制限速度の認知度は、本アンケート調査では数値と して把握されている。そのため、当該数値を連続変 数と捉え、回答者グループごとの平均値を比較する こととした。具体的にはANOVAにより、グルー プ間差異の有無を検証した。16都道府県の居住者 をプールしたデータによる検証結果からは、都市部 居住者と地方部居住者*3で、制限速度に対する認知 度に差異は観察されなかった(p>0.10)。  続いて、「速度取締に対する速度調整の態度」に 関して、両地域の居住者間で差異があるかについて 検証した。今回利用したアンケートデータでは、速 度取締がある場合に速度を落とすか否かについて は、離散データとなっている。離散データでは ANOVAを利用することはできないので(Dobson, 200810))、当該データから2次元分割表を作成し、 グループ間に差異があるかについて、カイ二乗検定 を実施することとした。分析結果をTable 3に示す。 分析結果からは、速度取締に対して速度を落とさな い回答者の割合はかなり低いが、5%以下の有意水 準で居住地により態度が異なることが示されてい る。ただし、「速度を控えない」サンプル数が非常 に小さい点は、検定結果の解釈について注意が必要 であろう。  最後に、「通学路走行における速度調整の態度」 の居住地間差異について検証する。速度取締に対す る態度の設問と同様、当該データも通学路だと認識 した場合に、速度を落とすか否かという離散データ となるため、同様に2次元分割表による分析方法を 採用した。分析結果をTable 4に示す。分析結果を 見ると、通学路だと認識した際に速度を落とさない 回答者の割合は、地方部の方が若干高いが、両地域 で統計的に有意差があるわけではない。  以上の分析結果を見ると、都市部と地方部という 居住地に違いがあっても、速度意識には、それほど 大きな差異はなさそうである。なお、本稿では紙面 の都合から省略するが、同様の分析を全ての都道府 県を対象に、県庁所在地居住者(都市部居住者)と、 それ以外の都市に居住する居住者(地方部居住者) にグループ分けして、同様の分析を実施した。分析 の結果は、いずれの項目についても、都市部居住者 と地方部居住者の間で、速度意識に関する差異は観 察されなかった。  3-2 政令指定都市を擁する都道府県間の速度意     識の差異  前節の分析により、都市部と地方部という居住地 の差異は、速度意識に大きな影響を与えないことが 観察された。次に、速度意識に関する都道府県間差 異の有無を検証することとした。しかしながら、都 道府県間差異を観察するに当たって、47の都道府 県をどのような形で比較するのが適切なのかという 課題がある。本稿では、まず、近隣都道府県間の相違、 遠方の都道府県間の相違の傾向を概観するために、 前節と同じ都道府県、すなわち、政令指定都市を擁 する16都道府県を対象として、それぞれ2つの都道 府県における速度意識について、一対比較を実施す ることとした。  まず、「走行中道路の制限速度に対する認知度」 について比較する。前節での比較時と同様、アン ケート回答データを連続変数に変換し、回答者グ ループごとの平均値の差異をANOVAで検定する こととした。分析結果からは、政令指定都市を擁す る都道府県間*4についても、制限速度に対する認知 度に差異は観察されなかった(P値=0.3902)。  続いて、政令指定都市を擁する都道府県間で「走 行中道路の制限速度に対する認知度」に関して差異 があるかを検証する。ここでも前節同様、2次元分 割表を作成し、都道府県間差異があるかについて、 カイ二乗検定を実施することとした。分析対象の各 都道府県について一対比較した分析結果をTable 5 に示す。Table 5で、網掛けされている都道府県ペ アが、1%有意水準で統計的に有意な差があること を示している。全般的にみると、東京、新潟、広島 において、他都道府県との差異が目立つ。  続いて、「通学路走行における速度調整の態度」 についても、政令指定都市を擁する都道府県間の差 異を検証する。ここでも同様に、2次元分割表によ る分析方法を採用した。分析結果をTable 6に示す。 分析結果を見ると、一見して、先の「速度取締に対 する速度調整の態度」と比べて都道府県間差異が顕 著であることが分かる。ただし、一対比較を細かく 見ると、例えば、関東の一都三県、関西三府県間で は差異がないこと等が分かる。関東関西以外では、 経済圏を同一にしている地域は本分析の対象にはな Fig.1 制限速度に対する認知度

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