はじめに 運用委託者が外部のマネジャー(運用機関) に運用を託すのは,自身に十分な運用能力がな く,資産運用サービスを活用したほうが有益で あると考えるからである.その際,厳選したマ ネジャーが本当に有能で,期待に添う成果を上 げてくれれば問題はないが,実のところ数年ご とに見直しが行われることが少なくない.パ フォーマンス評価がマネジャーの能力を十分に 捉えられないという問題が未解決である証左 といえる.効率的な市場を前提とする伝統的な 投資理論では,ファンドが市場平均を上回る優 れたパフォーマンスを残しても単に運に恵まれ た結果に過ぎないと解釈される.しかし,運だ けでは説明できないマネジャーの実力を認める 研究も多く報告されている.また,エージェン シー問題がマネジャーのリスクテイクに影響を 与え,投資環境によってファンド間のパフォー マンス分布が変化するなど,統計的な検定から マネジャーの能力が明らかにされない場合があ る.さらに,好成績のファンドに投資家からの 資金流入が続くとパフォーマンスの希薄化が起 きてしまうなど,マネジャーの能力の見極めを 難しくする課題がある. 本論文の目的は,銘柄選択の優劣とリスクテ イクに対するプレミアム1),そして運の要因を 総合計した超過リターン(
α
)から,マネジャー の能力をいかに捉えるかという問題について サーベイすることである.パフォーマンスの評 価はベンチマークの設定や分析モデルによっ て結果が異なり,マネジャーの能力を十分に識 別できるとはいえない.そこで,これまでの先 行研究からマネジャー固有の特性やパフォーマ ンスの評価方法について整理し,有能なマネ ジャーを把握するための課題について考察す る. 本論の第 1 節では,マネジャーの能力を示すα
を見出すことができるのか,またα
に持続 性があるのかをパフォーマンスの評価方法から 整理し,合わせてファンドの資金移動の問題を 検討する.第 2 節では,どのようにマネジャー の能力を把握するのかという課題に対する評価 手法の試みや統計的検定手法に関する知見に ついてサーベイする.パフォーマンス評価が 依存するベンチマークやモデルの設定における 問題,また分析対象とするデータの違いから生 じる課題について整理する.第 3 節では,マネ ジャーのリスクテイクやインセンティブ等に影 響を与えるエージェンシー問題,投資環境の変 化とマネジャーの能力の関連性について検討す る.第 4 節では,まとめと課題から研究の方向 性を示す.アクティブ運用のパフォーマンス評価とマネジャーのスキルに関する研究:
サーベイ
四 方 健 彦
1)投資スタイルなどのリスクテイクに対する プレミアムは,一般にマネジャーのスキルとはみ なされていない.96 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 6 号(2010 年 2 月) 1.パフォーマンスとマネジャーの運用能力 1.1.ベンチマークに依存するパフォーマンス 評価 ファンドのパフォーマンスは,ベンチマーク に対する超過リターン(
α
)の水準,あるい は他のファンドと比較することによって評価さ れる.そしてα
の実績が優れたマネジャーは 将来の株式リターン予測と投資の意思決定の能 力があると判断される.したがって,パフォー マンス評価はマネジャーの能力を示すα
をど のように捉えるかが重要である.一般にα
は 大別して次の 2 通りの手法で計測される.一つ は,ファンド i の期間 t におけるリスクフリー・ レートを上回るリターン ri,tからベンチマーク のリスクフリー・レートを上回るリターン rm,t を引いた超過リターン αi,tを合計し,運用期間 n で平均する⑴式の方法で,もう一つは,単一 または複数のベンチマークを設定し,ファンド i のリターン ri,tを⑵式で回帰してα
を推定す る方法である.ここで,fk (k = 1, 2,…, k)はファ ンドのリターンを説明する共通ファクターであ り,βi, k (k = 1, 2,…, k)は fkに対するファンド i の感応度を示す.αiは超過リターン,εi,tは誤 差項である. ai, ta = ri,t i, tri-r,trm, t m,t 㧘 , αi =¦
n t it i n a 1 , 1 D 㧔㧝㧕 t i n k ik k i t i k k i i i t i f f f r , 1 , , , 1 1 , , D E E H D¦
E H ai, t ⑴ ri, t = αi+βai, 1i, f1+…βt ri,tri, km f,t 㧘 k+εi, t = αi+¦
n t it i n a 1 , 1 D 㧔㧝㧕 t i n k ik k i t i k k i i i t i f f f r , 1 , , , 1 1 , , D E E H D¦
E H βi, k fk +εi, t ⑵ ただし,パフォーマンス評価はα
の単純比較 では十分でないとされ,シャープレシオ(Sharpe, 1966),ト レ イ ナーレ シ オ(Treynor,1965)2), ジェン セ ン のα
(Jensen,1968)3)な ど,リ ス ク調整後で評価される.投資スタイルから生じ るパフォーマンス格差は,マネジャーのスキ ルとはみなされず,⑵式のファクターモデル の誤差項でα
を割ったインフォメーションレシオ(information ratio = IR)4)などが評価尺 度として広く利用される.Grinold and Kahn (1999)は,IR を高めるためにマネジャーは銘 柄リターンの予測確度を高めるとともに,その 機会を数多く発揮する必要性があることを示 した5).ところが,マネジャーが銘柄選択能力 を備えていても運用制約があるとポートフォ リオが上手く構築できない場合があるとして, Clarke, de Silva and Thorley(2002)は,銘柄 選択能力に加えてポートフォリオを組成する 能力も評価する必要があると指摘し,Grinold and Kahn の示した式を修正した6).IR で留意
すべき点は,ファクターモデルを使った
α
の 推計には誤差が生じる場合があり,定義式が前 提とするベンチマークやファクターによるリ (762) 2)シャープレシオ=(平均収益率-無リスク 資産利子率)/ 標準偏差.トレイナーレシオ=(平 均収益率-無リスク資産利子率)/β(ベータ). 3)ポートフォリオとベンチマークの事後的な リターンデータから CAPM のシングルファクター モデルで回帰した切片項αを超過リターン,β をリ スク測度としてリターンとリスクの関係を表した 証券市場線とポートフォリオ・リターンとの差を 次式に従って推定する. rP- rF = αP+ βP (rM- rF)+ εP た だ し,rP:ポート フォリ オ の リ ターン,rF: 安全資産の利子率,rM:ベンチマークのリターン, αP:ジェンセンの α,βP:ポートフォリオの β 値, εP:推計の誤差項. 4)IR =α(超過 リ ターン)÷ω(超過 リ ターン の標準偏差).αを⑵式で推計したときは Treynor and Black(1973)の Appraisal Ratio と同じものに なる. 5) IR ICu BR㧘 BR IC TC IR u u㧘
,IC(information coefficient) はマネジャーの情報係数でアクティブな予測と実 際の結果との相関係数,つまり事前の予測の的中 率を表す.BR(breadth)は測定期間内で独立し た意思決定を行う回数である. 6) BR IC IR u 㧘 BR IC TC IR u u ,ポートフォリオにおける㧘
各銘柄のアクティブ・ウェイトとαの相関である TC(transfer coefficient:伝達係数)を 銘柄配分 効果として取り入れた. kターンの説明力が十分でないことから,IR で 有能なマネジャーを識別するには限界があると いえる. ベンチマークを使ったパフォーマンス評価 モデルとしては,単一ベンチマークのほかに Fama-French(1992,1993) の 3 ファク ター モ デ ル ⑶式7)や,Carhart(1997)の 4 ファク ターモデル⑷式によって
α
を回帰推計する方 法が一般的である.モデルのリスクファクター についてはその選択や安定性が課題とされる が,大型/小型,バリュー/グロースなど投資ス タイル別のリターン格差8)を調整するモデルと して支持されている9). ri, t = αi+bi RMRFt+ si SMBt+hi HMLt +εi, t ⑶ ri, t = αi+bi RMRFt+ si SMBt+hi HMLt +pi PR1YRt+εi, t ⑷ ただし,ri, tはファンド i の期間 t におけるリス クフリー・レートに対する超過リターン,RMRFt は市場インデックスのリスクフリー・レートに 対する超過リターン,SMBtは小型株/大型株の リターン格差,HMLtは簿価時価比率でみたバ リュー株/グロース株のリターン格差,PR1YRt は 過去 11 ヵ月 の 銘柄 リ ターン 上位/下位 30% の平均リターンの格差(モメンタム・ファク ター),εi, tは誤差項である. 一方,ファクターやモデルに依存しないパ フォーマンスの評価手法として Grinblatt and Titman (1993)は,ファン ド の 保有銘柄情報 を基に評価期間に売買された銘柄のリターン格 差を推定し,銘柄リターンに対するマネジャー の予測力を分析した.その結果,マネジャーの 投資行動が四半期以上の期間を介してパフォー マンスに寄与すること,また積極的グロース株 やグロース株ファンドが有能なマネジャーに運 用されていることを明らかにした.ただし,銘 柄ベースの分析は,実務上,保有銘柄情報の入 手の難しさが課題である. また,マネジャーの能力には銘柄選択のほか にマーケット・タイミングの能力があるが,本 論ではマネジャーのタイミング能力が確認され ないという米国での検証結果に鑑み,銘柄選択 によって示されるマネジャーの運用能力に限定 して議論を進める. 1.2.パフォーマンスの持続性 本節では優秀な運用実績を残したファンドが その後も継続的に優れたパフォーマンスを上げ られるか,また優秀なファンドを事前に識別で きるのかというパフォーマンスの持続性につい て実証例の多い米国ミューチュアルファンドの 研究を中心に検討する. ファンドのパフォーマンスの持続性に関する 研究として,最も古くかつ大きな影響を与えた のが Jensen(1968)の論文である.Jensen は 1945 年~1964 年の 115 のミューチュアルファ ンドの年次リターンから,リスク調整後のファ ンドの平均リターンが年率-0.9% であり,報 酬や手数料を戻し入れた場合にリターンがほぼ ゼロになることを示した.またサンプル期間を 前・後半の 5 年に分けたリターンの相関から, 7)株式 の リ ターン に 対 す る β 値(市場効果) の 説明力 は 有意 で な く,企業規模(SMB=small minus big;サ イ ズ 効果)と 簿価時価比率(HML = high minus low;バ リュー株効果)の 特性 を 組 み合わせて回帰分析することによって,銘柄間の リターンの格差が説明できることを実証したモデ ル. 8)Hansen (1992)によると中長期では運用パ フォーマンスの 60% が投資スタイルによって説明 できるという. 9)Fama-French が SMB,HML を リ ス ク ファ クターであるとする立場に対して,Lakonishok, Shleifer and Vishny(1994)は,バ リュー株効果 を市場の非合理性を起因とするミスプライシング であると主張,また Daniel and Titman(1997)は 財務属性モデル (Characteristics based Model)の 概念から HML はリスクファクターでなく,市場 の過剰反応かもしくはバリュー株の流動性不足に 基づく Missspecified factor として解釈すべきと反 論している.98 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 6 号(2010 年 2 月)
パフォーマンスがマイナスの時には持続性を確 認できたものの,プラス時には確認できなかっ た.
パフォーマンスの持続性を肯定する研究とし て,Grinblatt and Titman (1992) は 1975 年~ 1984 年の 279 の米国ファンドを対象に証券属
性に基づく「P8」10)と呼ばれる仮想ポートフォ
リオをベンチマークとして分析し,弱いなが らもパフォーマンスの持続性を確認している. Hendricks, Patel and Zeckhauser (1993)は, 1974 年~1988 年 の 販売手数料 の な い 成長株志
向ファンド11)の四半期リターンには短期間な
がら持続性があるが,4 四半期(1 年)を超え ると持続性が消滅することを示した.Brown, Goetzmann, Ibbotson and Ross (1992)は,1976 年~1987 年の成長株ファンドの一部にパフォー マンスの持続性を確認したが,それはサバイ バーシップ・バイアスの影響であると論じてい る12).
パ フォーマ ン ス の 予測可能性 に つ い て, Goetzmann and Ibbotson (1994) は,1976 年 ~ 1988 年の米株ファンドを対象に 1 か月,1 年,3 年の期間について,また Elton, Gruber and Blake (1996)は,1977 年~1993 年 の 188 の株式ファンドの
α
の順位関係について,と もに統計的に有意なパフォーマンスの予測可能 性があることを確認した.彼らはパフォーマン スの持続性がマネジャーの銘柄選択能力に起因 することを認める一方,パフォーマンスの劣る ファンドはその要因が高い経費率によるもので あると指摘している. パフォーマンスの持続性に懐疑的な結論を示 し た 研究 と し て,Kahn and Rudd (1995)は,株式ファンドの報酬控除後のパフォーマンスに は持続性がないが,債券ファンドには若干ある と実証し,Teo and Woo (2001)は,スタイル 調整後のパフォーマンスに 3 年までの持続性が あるが,スタイル調整を行わない場合には持続 性がないことを確認している.
英国株ファンドでは,ジェンセンの
α
で分析し た Leger (1997), Carhart (1997)の 4 ファク ターモデルで分析した Lunde, Timmermann and Blake (1999)の ほ か,Allen and Tan (1999), Fletcher and Forbes (2002)な ど が あ る が,総 じて短期的なパフォーマンスの持続性を認める 一方,長期的な持続性は弱いという結論に至っ ている. 日本株 ファン ド で は,鈴木(1998)は 1991 年~1997 年の信託銀行の合同口株式ファンド と公社債ファンドを対象にパフォーマンスには 持続性はないが,特定の期間や特定の評価尺度 を用いる場合には,若干ながら持続性の可能 性を見出した.それに対して,宇野(2002)は 1995 年~2001 年の年金向け株式ファンドを対 象とした検証から,調整なし
α
,スタイル調 整後のα
において若干ながらパフォーマンス の持続性の存在を認めている.Blake and Morey (2000)は,ファン ド 評価 機関モーニングスター社のレーティングと米国 株ファンドのパフォーマンスの持続性につい て調べ,実績の優れた 5 つ星ファンドの事後リ ターンが,平均的な 3 つ星ファンドにアンダー パフォームし,ファンドのパフォーマンスの持 続性とレーティングが必ずしも一致しないこと を明らかにした. Carhart (1997)は,1963 年~1993 年 の 1800 の 米国株 ファン ド の 過去 1 年,3 年 の 実績 リ ターンに対し,Fama-French の 3 ファクターモ デルと Carhart の 4 ファクターモデルで
α
をラ ンキングし,パフォーマンスの持続性を検証し た.その結果,3 ファクターモデルのα
には持 続性が認められるが,4 ファクターモデルのα
では持続性が消滅することを示した.ただし, (764) 10)「P8」は 4 つの規模別ポートフォリオと,3 つの配当利回り別のポートフォリオ,ならびに, 過去 の リ ターン が 最 も 悪 かった 計 8 個 の ポート フォリオで構成される.11)Growth Oriented Fund.
12)Brown and Goetzmann (1995) も 1 年~3 年の短期的な持続性があることを示した.
期間 1 年のパフォーマンスの持続性が保有銘柄 リターンに起因するモメンタム効果によるもの でスキルとはいえず,成績の悪いファンドに は 3 年までの持続性を認めた.さらに,個別銘 柄の財務属性を基に検証した Daniel, Grinblatt, Titman and Wermers(1997),Wermers (1997) もモメンタム効果が要因であると指摘してい る. Wang (2006)は,1990 年~2004 年 の 米国 ファンドを対象に,有能なマネジャーにはモデ ルでは説明されない 1 年程度までのパフォーマ ンスに強い持続性がある一方,それより長い 2 年を超えた期間では持続性が消えてしまうこと を示した.また小型株やグロース株寄りの投資 対象や運用スタイルを採るマネジャーに優れた 能力が見られ,リスクレベル,流動性,株価の 発見性や効率性がその要因になっていると指摘 している. これまでの先行研究はパフォーマンスの持続 性を完全に否定している訳ではないが,プラス のパフォーマンスの持続性が数か月から 1 年程 度の短期間に留まる一方,マイナスのパフォー マンスは長期的に継続する可能性が高いと考え られる. 1.3.資金移動とパフォーマンス 良いパフォーマンスに長期の持続性を期待で きないとするならば,過去の運用実績を基に 資金の運用先を追い求める行為は合理的とは 言い難いが,実際にはパフォーマンスの優れた ファンドに資金が向かっているという証拠があ る.Sirri and Tufano (1998)は,過去 の 実績 が特に優れた勝者ファンドには大量の新規資金 の流入が起きることを確認している.Gruber (1996),Zheng (1999)も新規の投資資金を受 け入れたファンドのパフォーマンスが同じユニ バースのファンドの平均リターンよりも高いと 指摘する. 反対に,ファンドの規模拡大がパフォーマン スの低下要因になることについて,Berk and Green (2004)は,有能なマネジャーが上げた 超過リターンが投資家ではなく,報酬としてマ ネジャーに帰属することをマネジャーの報酬 と運用額の関係をモデル化して指摘してみせ た.優良なファンドには高いリターンを期待 して資金が流入するが,規模が大きくなると マーケットインパクトが大きくなるなどしてパ フォーマンスが劣化する.このプロセスは,超 過リターンが得られなくなるまで続いて,結 局,超過リターンがなくなったところで均衡が 成立するというのである.彼らはマネジャーの スキルに変化がなくても,ファンドへの資金流 入がパフォーマンスの持続性を阻むという理由 から,パフォーマンスに持続性がないことがマ ネジャーに能力が無いことを意味する訳でない と説明する.ところで,マネジャーの報酬は一 般にファンドの運用資産額に一定の料率を掛け 合わせて決まる.この制度的な仕組みはマネ ジャーにファンドの資産額を増やそうとするモ チベーションを与える一方,投資家は現在の運 用成果ではなく,過去の超過リターンに対する 代償を報酬として支払うことを示唆する.この 研究に関連して Chen, Hong, Huang and Kubik (2004)は,ファンドの規模による分散投資が パフォーマンスの低下要因になることを指摘し た.特に大規模ファンドは,投資妙味はあるが 流動性が乏しい銘柄の保有に制約を受けるた め,小規模ファンドにパフォーマンスで劣後す るという. Boyson (2008)は,ファンド特性の規模 (size) と成熟度 (age)と資金フローの関係に着眼し, ヘッジファンドのパフォーマンスの持続性と予 測力を分析した.その結果,小規模でトラック レコードが短く,優良なヘッジファンドは,大 規模で成熟度が高く,パフォーマンスが劣る ヘッジファンドを年率で 10% 程度もアウトパ フォームした.これは Berk and Green が示し た結果と整合している.ファンドの成熟度や規 模の特性を勘案することによって,将来のパ フォーマンスをある程度予測できるとともに,
100 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 6 号(2010 年 2 月) ファンドには最適な運用規模,あるいは成熟度 があると考えられる. 日本株ファンドを対象に規模とパフォーマン スの関係を分析した黒木(2001)は,運用規模 が拡大するにつれて実現 IR が小さくなる傾向 を確認した.また,ファンドの規模拡大はマネ ジャーにパッシブ寄りの運用を志向させる可能 性があること,過去の実績が優れたマネジャー が必ずしもコストに見合う付加価値を将来にお いて提供できるとは限らないことを示した.齋 藤・宇野(2007)は,R&I 社 が 収集 し た 2001 年~2004 年 の 年金株式運用 データ を 用 い て, ベンチマーク対比の超過リターンと IR につい て運用規模との関連性を分析した.その結果, マネジャーがファンド規模の拡大に伴って IR を維持するためにアクティブ・リスクを抑える 傾向があること,そのために
α
が低下するこ とを確認している.ただし,統計的な有意性は ないとしながらもパフォーマンスの持続性につ いては肯定的であり,Berk and Green の結論 とは異なる見解を示している. 敗者 ファン ド の 資金 フ ローか ら Berk and Tonks (2007)は,1 年だけ成績が悪かったファ ンドの資金流出は相当量に及ぶのに対し,それ 以上の期間続いた場合には資金流出の度合いが 驚くほど小さくなるという,投資家の不合理な 行動を明らかにしている. 以上のことから,過去のファンドのパフォー マンス実績は投資家に資金移動を促す重要な指 標となっていることは明らかである.パフォー マンスの持続性についての議論は未解決な問題 ながら,優良なファンドに資金移動することは 必ずしも投資家の非合理性を示すとは言い切れ ない.なぜなら,パフォーマンス評価とマネ ジャー能力の評価は同列に扱うものではなく, 次元が異なると考えられるからである.またパ フォーマンスに持続性がないことが,単にマネ ジャーに能力がないことを意味するものではな い. 2.パフォーマンス評価に関わる問題 本節ではパフォーマンス評価が依存するベン チマークについて,ベンチマーク自体が持つ歪 みの問題,ベンチマーク構築に係る効率性の問 題に着眼した代表的な先行研究をサーベイし, マネジャー能力をどのように把握するかについ て整理する. 2.1.ベンチマークの歪みの問題 ベンチマークの多様化はマネジャーの能力を より正確に捉える効果をもたらす一方,ベンチ マーク自体の歪みがパフォーマンス評価の解釈 を困難にしている.スタイル別,規模別のスタ イルベンチマークはα
の源泉をより細分化でき るが,一方で定期的な構成銘柄の入替えなどが 指標としての安定性を欠く原因となる可能性が 考えられる.Bourguignon and de Jong (2003) は,先進国 MSCI ス タ イ ル・イ ン デック ス を 使い,グロースからバリュー,バリューからグ ロースへと属するスタイル区分が入替わった銘 柄の指数に対する影響について分析した.その 結果,バリュー指数とグロース指数のリターン 差が銘柄入替え調整前ではバリューが高く,調 整後では逆になったことから,スタイル指数が 銘柄入替えによる影響を受けていることを確認 し た.矢野(2005)は,Russell/Nomura 日本 株インデックスを使って,銘柄入替え時に指数 の構成ウェイトが変わった銘柄の事後リターン と指数リターンを比較し,スタイル指数に依存 したパフォーマンス評価ではマネジャーの能力 を誤認する可能性があることを指摘した.さら に花塚・矢野 (2006)は,日本株ファンドを用 いてスタイルベンチマークを採用したパフォー マンス評価についてグロースマネジャーにとっ て有利に働くが,バリューマネジャーに不利な 評価になることを実証した.彼らは銘柄入替え が一時的にベンチマークのリターンを歪める要 因となり,それを利用してファンドがスタイル ベンチマークに対して十分なエクスポージャー (766)を取らないことで優位なパフォーマンスを上げ ることができると論じている.
Cremers, Petajisto and Zitewitz(2005)は, S&P 等の代表的なベンチマーク指数を対象に, Fama-French-Carhart モデルで回帰して得た
α
の推計からスタイル・インデックスの構築に係 る効率性の問題を指摘した.分析では大型株指 数のα
が有意にプラスになったが,その要因 がモデルに組み入れるスタイル・インデックス の構築方法の歪みであると説明する.例えば, Fama-French の 3 ファク ターモ デ ル は,小型 株と大型株インデックスのリターン差で定義す る SMB とバリュー株とグロース株インデック スのリターン差で定義する HML のファクター を用いる.このとき市場時価総額に対する比率 をみると,大型グロース株のウェイト 43% に 対し,小型バリュー株は僅か 2% に過ぎないが, モデルではウェイト差を調整しない単純なリ ターン差が使われる.前述の大型株指数のα
が 優位となった理由は,単に SMB のマイナス寄 与を回避できた結果に過ぎないのである.この ようにスタイルベンチマークは,銘柄入替え時 に生じたバイアスがパフォーマンスを歪めてい る.また,市場時価構成に対して不均衡な状態 にあるファクターを含むモデルで分析すること は,α
の推計に誤差を生じ,マネジャー能力を 誤認してしまう可能性が出てくる. 2.2.運と実力(分散不均一の問題)α
の統計的な有意性は対象サンプルに正規 性があることを想定した t 検定で行われる場合 が多いが,実際はマネジャーのリスクテイクは 常に変化し,リターン分散も一様でないことか ら,検証結果は安定性を欠き,マネジャーの真 の実力を十分に捉えているとはいえない.それ でも,運だけでは説明できないマネジャーの能 力を認める証拠が多くある.Kosowski, Timmermann, Wermers and White (2006)は,非正規 に 分布 す る ファン ドの
α
の検証に,パラメトリックな手法より Bootstrap 法13)を用いれば精度を向上できるこ とを示した.彼らはマネジャーの実力と運を見 分けるために, Carhart の 4 ファクターモデル による米株式ファンドのα
について Bootstrap 法で分析した結果,パフォーマンスの上位 10% までのファンドには運だけでは説明できないα
があると検証した.さらに上位 10% のファ ンドにはパフォーマンスの持続性があり,中で もグロースファンドにおいて優れたマネジャー のスキルが存在することを実証した.Fung, Hsieh, Naik and Ramadorai (2006)は,1995 年 ~2004 年の 1603 のヘッジファンドについて, Fung-Hsieh (2004)の 7 ファクターモデルで推 計したリスク調整後α
を Bootstrap 法で分析 し,期間によるばらつきがあるものの,平均す ると上位 22% のファンドに有意なプラスのα
を確認している. 脇村・矢野 (2008)は,Kosowski et al. (2006) の分析手法に倣い 2002 年~2006 年の期間に 5 年以上継続 し て 運用 さ れ た 日本株 302 ファン ドの月次リターンのα
と t 値の分布からマネ ジャーの能力について検証した.その結果,上 位 20% までのファンドには運だけでは起こり えない有能なマネジャーがいることを明らかに した.また,実証の過程で t 検定では有意を示 したα
が,Bootstrap 法では必ずしも有意でな い場合があることを指摘し,統計的な有意性や マネジャーの能力についての判定がパフォーマ ンスの検証手法によって変わってしまう可能性 を示唆している.一方,Cuthbertson, Nitzsche and O’Sullivan (2006)は,1975 年~2002 年 の 英国株 842 ファ ンドをサンプルに Bootstrap 法で分析し,上位 20 位までのファンドのうち有意水準 10% 以下 の水準でスキルが認められたファンドは僅か 12 13) クロスセクションにランク付けしたファン ドのパフォーマンスをランダム・リサンプリング による回帰推定を繰り返すことによって得た仮想 のαと t 値の分布をベースに p 値(p-value)で有 意確率を推定する手法.
102 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 6 号(2010 年 2 月)
本で,優良なパフォーマンスの要因が運による ものであると結論付けている.また,Barras, Scaillet and Wermers (2008)は,1975 年~2006 年の米国株 2076 ファンドについて Carhart の 4 ファクターモデルによるクロスセクショナルな
α
を Monte Carlo 実験 し,t 検定 に よって 運用 スキルを認められた大半のファンドが単に運に 恵まれたに過ぎないことを示した. 2.3.保有銘柄を使った能力の把握 ファンドの保有銘柄情報を用いたパフォーマ ンス評価は,実績リターンを用いた場合に比べ, ベンチマークの非効率性の問題を和らげる方法 と考えられる.ただし,ファンドの情報開示が 義務付けられている米国では銘柄レベルの実証 研究が他国と比べて進んでいるものの,依然と して保有銘柄情報の収集には制約が大きく汎用 的な実証分析は難しい. 銘柄情報を用いたファンドのパフォーマンス 分析の先駆とされている Grinblatt and Titman (1993)の 研究 は,1975 年~1984 年 の 米国株 274 ファン ド の 四半期毎 の 保有銘柄 の ウェイ ト 変化 を 基 に,自 ら が ⑸式 で 導出 し た 指標 (PCM=portfolio change measure)を使ってパフォーマンスを検証した. PCM ¦ ¦
>
Rj,twj,twj,tk T@
㧔㧡㧕⑸ た だ し,Rj, t:銘柄 j の t 期 リ ターン,wj, t: 銘柄 j の t 期ウェイト,T:四半期の数である. 彼らは,四半期(k = 1)と年次(k = 4)の変 化指標の平均リターンを計測しているが,年 次指標において年率約 2% の統計的に有意な異 常なプラスのリターン(abnormal return)が あり,マネジャーの銘柄選択効果が 1 年程度経 過してから現われることを示した.この傾向は 特にアグレッシブ・グロースファンドやグロー スファンドに顕著で,有能なマネジャーの運用 スタイルに傾向があることを示唆した.Chen, Jagadeesh and Wermers(2000)は,コ ス ト控除前のファンドにおいて,購入銘柄のリター ンが売却銘柄のリターンをアウトパフォームし たことから,マネジャーに銘柄選択能力がある ことを実証した.中でも,グロース株ファンド のマネジャーが大型グロース株の銘柄選択にお いて優れた能力を発揮していることを明らかに した.また,Wermers (2000)は,保有銘柄の ウェイト情報を基に,売買回転率の高いファン ドのほうが低いファンドより平均リターンが高 く,銘柄選択能力がファンドのリターン格差に 起因していることを実証している. 保有銘柄情報 が あ れ ば 長期 の パ フォーマ ン ス・データを必要としない独創的な研究として Cohen, Coval and Pastor (2005)は,あ る ポー トフォリオの構成銘柄と成績の良いファンドの 銘柄の重複度合いを指標として,マネジャーの 運用スキルを評価した.優れた銘柄選択能力を 有するマネジャーには,ポートフォリオの構成 銘柄について高い同一性が見られた.彼らはシ ミュレーションによってパフォーマンスの持続 性も確認しており,将来のファンドのパフォー マンスを予測する上でもこの指標は有益になり 得ることを示した.同様にファンドの開示情報 か ら Wermers, Yao and Zhao (2007)は,勝者 ファンドの保有銘柄で構築したポートフォリオ が,次年度のリスク調整後の超過リターンもプ ラスとなったことから,ファンドの保有銘柄が 銘柄選択能力を評価するシグナルになると論じ ている.
また,Cremers and Petajisto (2007)は,ア クティブ運用と称しながらクローゼット・イ ンデックス化 (closet indexing)しているファ ンドと純粋にアクティブ度の高いファンドを 識別するために,「Active Share」14)という新 たなアクティブ度の測定法を考案した.Active (768) 14) 例えば,1 銘柄で構成されるベンチマークが ある場合,ポートフォリオがその銘柄と別の銘柄を それぞれ 1/2 ずつ保有しているとすると,Active Share
100% 50% 0% 50% 50% 2 1 Share Active になる.Share は,ベンチマークとポートフォリオの構 成銘柄のウェイト差を⑹式で求め,トラッキン グエラーでは測れないファンドのアクティブ度 を銘柄ベースで測定する.
¦
N i i i Windex Wfund Share Active 1 2 1 㧔㧢㧕 ⑹ ただし,Wfumdiはファンドの銘柄 i のウェイ ト,Windexiはベンチマークの銘柄 i のウェイト である.米国ミューチュアルファンドでは,90 年代以降のインデックスファンドの増加とク ローゼット・インデックスの拡大から Active Share 60% 以下のファンドの市場残高比率は, 1980 年の 1.5% から 2003 年の 44.8% に急拡大す る一方,Active Share 80% 以上のファンドが同 期間中に半減し,2003 年に 23.3% になった.分 析によると,Active Share の高さと超過リター ンには正の関係があり,Active Share 80% 以 上のファンドは年率 1.1% ~ 2.4% の水準でベン チマークをアウトパフォームしている.とりわ け,Active Share が高い小規模ファンドには優 れたパフォーマンスと持続性が相当程度認めら れ,Active Share が将来のパフォーマンスにつ いて有益な情報を提供できると考えられる. Kacperczyk, Sialm and Zheng(2005) は, リスク調整後のリターンでみたとき,特定の産 業に集中投資しているファンドほど相対的に高い
α
を獲得していること,特に小型・成長株バイアスの強いファンドにはその傾向が顕著で あることを実証している.
Cohen, Polk and Silli ( 2008) は, ファン ドの保有銘柄の中でベンチマーク対比のアク ティブ・ウェイトが最高の銘柄,いわゆる「ベ ス ト ア イ デ ア 銘柄」で 構築 し た ポート フォ リ オ15)と 残 り の 銘柄 で 構成 し た ポート フォ リオのパフォーマンスを比較し,ベンチマー クの設定によって幅が出る場合があるが,ベ ストアイデア銘柄のリスク調整後の
α
が有 意に優れ,マネジャーの銘柄選択能力を示し て見せた.この分析結果は,リスク回避的な 投資家志向 や 高 い 固有 リ ス ク(idiosyncratic volatility)の保有が相対的なパフォーマンス 評価において不利に働くために,マネジャー に本来意図しない銘柄分散を促す結果,α
の 希薄化が進む可能性があることを示唆してい る. データの制約がある中で日本における銘柄 ベースのパフォーマンスについて,福島(2002) は投資スタイル別に投信ファンドの構成銘柄 ウェイトとリターンの相関を分析している.福 島によると,ウェイトを引き上げた銘柄が事後 的に見てスタイル調整後のリターンが高いとい う結果から,マネジャーの銘柄選択能力を認め ている.スタイル別では,グロースファンド にその傾向が強く現われている.朝倉・宇野 (2004)は,Grinblatt and Titman (1993)の提 案した PCM 指標を使い,1995 年~2002 年の 期間の 53 の日本株年金ファンドの半年ごと保 有銘柄ウェイトから,マネジャーがウェイトを 変化させた銘柄のパフォーマンス寄与が有意に プラスとなるものはほとんどなく,有能なマネ ジャーの存在は限定的という見方を示した.ま た,日本株マネジャーの投資行動の特徴として, 高リターンであった銘柄のウェイトを引上げる (逆に低リターンの銘柄ウェイトは引下げ)モ メンタム戦略(順張り)を取る傾向が強く,ス タイル別ではグロースだけでなく,バリュー ファンドにもモメンタムな投資行動が行われて いると指摘している16). 15)1991 年~2005 年 の 期間 で 構成銘柄 が 判明 している米国株式ファンド約 850 ~ 1600 本を対象 に,各ファンドのアクティブ・ウェイトが最大で ある銘柄を集計し,全体の上位 25% の銘柄を均等 ウェイトで保有したポートフォリオ. 16)IT バブルの影響が考えられるが,朝倉・宇 野はその影響を取り除いてもモメンタムな傾向が 強いと論じている.104 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 6 号(2010 年 2 月) 2.4.個別銘柄のボラティリティを使った能力 の把握 個別銘柄のボラティリティに着目した Duan, Hu and McLean (2008)は,1980 年~2003 年 の 米国株 ファン ド に つ い て 四半期毎保有銘柄 データから,Chen et al. (2000)が提案した銘柄 別の取引を代替する指標17)により,有能なマネ ジャーが固有リスク(idiosyncratic volatility) の高い銘柄に対して優れた銘柄選択のスキルを 発揮していることを示した.固有リスクの高い 銘柄の株価は,企業特有の情報の非対称性等か らミスプライシング(mispricing)され易く, 平均的な銘柄より株価の変動が大きいとされる が.株価 が 適正価格(fair value) に 回帰 す る 過程が有能なマネジャーにとっては格好の収益 機会になると考えられる.また 1995 年以降の マネジャーの銘柄選択能力に低下傾向が表れて いるが18),その背景にはミューチュアルファン ドやヘッジファンドの乱立による競争の激化に よって
α
の獲得機会が縮小したことや,マネ ジャーの平均的なクオリティの低下があると彼 らは分析している.Yuan(2009)は,ベンチ マーク対比で固有リスクの高い銘柄を選択する マネジャーの能力について調べ,ファンダメン タル情報の解釈や株価の予測力に優れたマネ ジャーは株価変動が大きく,過小評価されてい る銘柄の有効な選択によって異常なプラスのリ ターンをあげていると論じている. 2.5.ファンドのリターンを使った能力の把握 マネジャーの能力をファンドのリターン実績 から把握する方法は,銘柄ベースの分析に比べ て精徴さの点で劣るかもしれないが,データ収 集や分析の実効性の観点から実務家や投資家が パフォーマンスを検証する手段としてやはり多 くのメリットがある.Sun, Wang and Zheng (2009)は,有能 な マネジャーが平均的なマネジャーとは異なる 独創的な投資アイデアに基づいた運用を行っ ているという仮定の下,ヘッジファンドのリ ターン特性からマネジャーの運用能力を測定す る方法として “Strategy Distinctiveness Index (= SDI)” 19)を 考案 し た.SDI は 同 じ 戦略 で 運用されるファンドの平均リターンとの相関 (correlation)を⑺式で求め,ファンドの独自 性の高低度合いを測定する. SDI = 1 - correlation ⑺ 彼らは 1994 年~2008 年の 3203 のヘッジファ ンドの月次リターンを用いた SDI のクロスセク ショナルな分散から,独自性の高い運用を行っ ているファンドと他のファンドを比較したとこ ろ,明らかにパフォーマンス格差があり,仮定 の通り SDI の高いファンドのパフォーマンス が優れていることが分かった.さらに SDI に は 3 年程度の持続性があり,有能なマネジャー が市場の変動要因等に左右されず,一貫した 運用を行っていることが確認された.SDI の水 準と個別ファンドのパフォーマンスの関連を みると,事前 1 年の SDI を 5 分位に分けたと きに SDI が最高分位のファンドの事後 1 年の リターンは,最低分位のリターンを年率平均で 6% 以上も上回り,統計的にも有意であった20). SDI はファンドを選別する際,ファンド固有 (770) 17)Chen et al. (2000)は,株式の残高データか ら取引データを代替的する指標を次式で求めてい る. 1 , 1 , , , t i t i t i t i s TotalShare SharesHeld s TotalShare SharesHeld Trades
18)Barras, Scaillet and Wermers(2008)は, 1990 年代半ば以降,マネジャーの銘柄選択能力が ほぼゼロに近づいていると論じている.
19) SDI は 0 から 2 の値を取り,2 に近いほど 独自性の高い運用を行っているファンドとみなす. 20) Sun, Wang and Zheng は, survivorship bias や backfill bias の影響について検証している が,その影響が軽微に止まるもので,分析結果を 左右するものではないと説明している.
のファクターとして有益な指標となる可能性 がある.
Amihud and Goyenko(2009)は,ファンド
のリターンから推計した決定係数(R2)で,事 後のファンドのパフォーマンスが比較的容易に 予測できることを示した.彼らは,約 2300 の ミューチュアルファンドの事前 1 年の日次リ ターンから求めた R2から,事後 1 年のファン ドのパフォーマンスを予測できるかどうかを, Fama-French-Carhart の 4 ファク ターモ デ ル による
α
,ならびに IR との関係から分析した. その結果,R2が高いファンドは事後のα
や IR が有意にマイナスとなり,R2にはパフォーマ ンスの予測力があることが分かった.ファンド の R2とα
をそれぞれ 5 分位に分けたとき,R2 が最低分位でα
が最高分位であったファンド の 1 年後のα
の平均は+2.8% となり,統計的 に有意であった.一方,RMSE(4 ファクター モ デ ル の 誤差項 の Root Mean Square Error) とリターンのボラティリティについて,翌年 のパフォーマンスとの関係を調べたところ, RMSE が高いと事後のパフォーマンスはプラ スに,ボラティリティが大きいとマイナスにな ることが分かった.有能なマネジャーは異常な プラスのリターンを獲得するために積極的に固 有リスク(idiosyncratic volatility)を取るので, R2の水準は低くなる.またファンド規模の拡 大,経費率の上昇,成熟度の進行,マネジャー の運用経験の長さは R2を高くする傾向があり,Active Share や SDI とともに R2がファンド固 有の特性を示す指標になりうることを示唆す る.ただし,成績の良いファンドの次年度の R2は上昇傾向があり,資金流入による規模拡 大等がファンドのインデックス化を進める可能 性を考慮する必要がある. 運用の独自性について,内山・長澤 (2009) は, 2007 年夏以降のクオンツ運用の成績不振 の原因が運用機関の活用する銘柄評価上のファ クターや運用プロセスの類似性や,売買タイミ ン グ や 保有銘柄 の 集中度(concentration)や 混雑度(crowdedness)の高まりにあったと指 摘した21).彼らはクオンツ運用における低集中, 高独自性ファクターの開発の重要性を主張する が,SDI や R2などの指標から運用の独自性を 検証する必要がある. これらの研究成果から銘柄データを用いなく とも,ファンドのリターンをベースにした分析 でも,パフォーマンス評価の精度を向上する余 地は十分あると考えられる.特に次節で取り上 げる市場環境の変化に伴う要因とパフォーマン スの関連,あるいは同じ運用スタイルのファン ドに対する特異なパフォーマンス特性をファン ドのリターンデータによって検証できれば,マ ネジャーの能力を容易に把握できるようになる と期待できる. 3.パフォーマンスについてのその他の問題 マネジャーは自身の利益(効用)のため,あ るいは他のライバル運用機関との相対評価に勝 つために,運用委託者の意図に関係なくリスク テイクを変えたり,運用方法を変えたりするモ チベーションを持っている.例えば,成績が低 迷したファンドがギャンブル的な高リスクのポ ジションを取る場合や,成績の良かったファン ドが評価の低下を懼れてリスク回避的な行動を 取ることが挙げられる.一方,投資環境の変化 によってマネジャー間のパフォーマンスに差が 出たり出なかったりすることがある.本節では エージェンシー問題や市場環境の変化に伴うパ フォーマンス評価の問題点を取り上げる.
21)Goldman Sachs Asset Management (2008) 参照.当時,投資家から支持を受けて,クオンツ 運用機関の数と運用資金が大きく増加したために, ポートフォリオで保有する銘柄が特定銘柄に極度 に集中したことが報告されている.2007 年 6 月時 点 で Russell 3000 Index の 構成銘柄 の う ち 1 割 を 超える銘柄が,その発行済株式数の 5% 以上をクオ ンツ運用によって保有されていたと推定している.
106 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 6 号(2010 年 2 月) 3.1.エージェンシー問題 運用委託者が外部の運用機関に運用を託す の は,自身 に 十分 な 運用能力 が な い た め か, 資産運用サービスを活用したほうが有益であ ると考えるからである.しかし,運用委託者 はマネジャーの運用方法やリスクテイクに一 定の裁量を与えられても,逐次モニターする ことは現実的に難しい.資産運用業界の成長 は,ポートフォリオのリスク分散やコスト軽減 などの利益を運用委託者にもたらす一方,運 用マネジャーは自らが生き残るという根本的 な問題に加え,収入(報酬)を増やすために 運用リスクを調整しようとする可能性がある. Brown, Harlow and Starks (1996),Chevalier and Ellison (1997)は,米国ファンドを対象に 評価年度の半ばまで運用成績が優良であった ファンドは,年度後半にリスクを抑えた保守的 な運用を行う傾向がある一方,成績の劣後した ファンドはリスクを増大させて賭けに出る傾向 があることを明らかにした.この背景には,運 用機関の収入がファンドの運用資産額に一定比 率を掛け合わせて決まるという制度的要因と, パフォーマンスが良い時にはファンドの資金流 入が大きくなるのに対して,悪い時はそれほど 流出しないという非対称なパターンを示すこと が考えられる.運用機関の収益は運用資産額に 比例するので,パフォーマンスが良ければベン チマーク並みの運用で保身を図り,悪ければ賭 けに出て一気に挽回を目論むことになる.仮に 失敗しても契約を解約されるだけで,運用の損 失まで負担する必要はないからである.投資家 サイドも一旦投資したファンドには好意的で, 合理性を欠いた評価を与えやすいといった要因 も考えられる. 林(2005)は,ファンドマネジャーのリスク テイキング行動と報酬インセンティブの関係に ついて Brown, Harlow and Starks (1996)と同 様のアンケート調査から分析しているが,1998 年度~1999 年度のわが国のマネジャーのリス クテイキング行動は,米国における Brown et al. の結果と異なり,前期の勝者が後期にハイ リスクを取り,前期の敗者が後期にローリスク になる傾向があった.一方,2000 年度以降は 平均的にリスク調整がほとんど見られないとい う結果であった.日米のマネジャーの行動の相 違は,報酬体系や運用成績に対するインセン ティブの強弱に起因すると述べている.一方, 朝倉・宇野(2004)は保有銘柄のウェイトを用 いた検証からマネジャーの売買行動に他のマネ ジャーに類似する群れ行動傾向(herding)が あることから,わが国のマネジャーにおいても 米国と同様のリスク調整行動が認められなくは ないことを示した. ところで,投資スタイルの変化もエージェン シーの一種として捉えられるかもしれない.日 本株式の年金ファンドを用いてパフォーマンス と投資スタイルの関係を分析した宇野(2002) は,パフォーマンスが悪かったマネジャーは, リターンの回復を狙って投資環境に相応しいス タイルを後追いする傾向があるが,実際はスタ イルローテーションによって持続的な
α
を獲 得することは難しく,運用成果に改善が見られ ないと指摘する. 投資スタイルの安定性とパフォーマンスの関 係について Brown, Harlow, and Zhang (2009) は,1980 年~2006 年の米国ファンドのリター ンと保有銘柄情報を用いた分析から,投資スタ イルが安定しているファンドは,スタイルドリ フトを行ったファンドに比べてパフォーマンス が優れていることを示した.投資スタイルの安 定したファンドは,売買回転率やファンド経費 を低く抑えることができ,パフォーマンスに優 れるほか,意図しないスタイルドリフトによる パフォーマンスの低下要因を回避している.ま た,スタイルの安定性はファンド特性として, 将来のパフォーマンスの予見指標になり得ると 考えられる. ポートフォリオのリスクレベルに関して,マ ネジャーは超過収益機会を得るためにリスクレ ベルを変化させる場合と,ビジネス上の経済的 (772)収益機会を求めてリスクレベルを変える動機 が あ る.Huang, Sialm and Zhang (2009)は, ファンドが現時点で有する保有銘柄のボラティ リティと過去の実現リターンの標準偏差である ボラティリティとの格差をリスクシフト(risk shifting)と捉え,事後のパフォーマンスとの 関係について研究した.1983 年~2006 年の米 国株ファンドのリターンと四半期毎の銘柄情報 をサンプルに,リスクレベル別に作成した分位 ポートフォリオからリスクシフトのメカニズム について分析した.リスクレベルは,ポート フォリオにおけるキャッシュ・ウェイトの増 減,低 β 銘柄と高 β 銘柄の入れ替え,構成銘柄 数や特定産業への集中度,あるいはスタイル変 化によって変動する.その結果,リスクが安定 的なファンドは,不安定なファンドに比べて キャッシュ・ウェイトが小さく,市場 β 値が低 くなる傾向が見られ,リスクが不安定なファン ドは期初の固有ボラティリティ (idiosyncratic volatility)が高く,個別銘柄あるいは特定産業 への集中度が高く,スタイル別では小型,成長, モメンタムというバイアスを属性として有して いることが分かった.リスクレベルの水準と事 後のパフォーマンスの関係では,リスクが安定 的なポートフォリオが相対的に優れ,固有リス クの変動が有意にパフォーマンスの低下要因と なる一方,市場リスク (systematic risk)に伴 うリスク変動はパフォーマンスへの影響が小さ い.さらに小規模,未成熟,高経費率のファン ドにリスクシフトが起き易く,特にリスクレベ ルを上昇させた場合にパフォーマンス悪化が顕 著となった.ただし,売買回転率は高いほうが よく , これは安定したリスクレベルを維持する には,ある程度保有銘柄の入れ替えのための売 買が必要であることを示唆している. 3.2.投資環境の変化 本節ではパフォーマンス評価やマネジャー能 力の把握における投資環境の変化が及ぼす問題 について検討する.
De Silva, Sapra and Thorley (2001)による と,90 年代末 ま で 5~10% で 比較的安定 し て 推移 し て き た ファン ド・リ ターン の バラツキ (dispersion)は,1999 年 に 24%22)ま で 急拡大 し た.そ の 要因 と し て,市場 の 効率性,マ ネ ジャーの能力格差,銘柄リターンの dispersion23) などがあるが,最後の要因が大きいと考えられ る.彼らは過去のファンド・リターンの不均一 分布の問題を緩和するため,銘柄リターンの dispersion の変化からファンドのパフォーマン スを分析し,ファンド・リターンの dispersion の 上昇 が,銘柄 リ ターン の dispersion の 変化 に起因することを示した.マネジャーの評価に はパフォーマンスと銘柄リターンの dispersion の関係を明確にすることが重要である.彼らは dispersion で IR を修正することでパフォーマ ンス評価の誤認の可能性を軽減できると解決策 を提案しているが,この方法は単に時系列デー タを使ったパフォーマンス比較に比べ,マネ ジャーの能力把握の精度を高め,実務的にも有 益といえる.また Ankrim and Ding (2002)は, ファンド間のリターン格差の拡大が,ファンド のアクティブ水準の差異ではなく,ファンド間 の dispersion(リターンの分散)の拡大が原因 であると述べている. Sapra (2008)は,銘柄リターンの相関とク ロスセクショナルな分散の関係に着目して,期 待超過 リ ターン を 予測式「
α
= Dispersion × IC ×スコア24)」で示した.これは先に Grinold (1994)が 導出 し た「α
= Volatility × IC × ス コア」が銘柄リターンに相関があると成立しな い場合があるため,マネジャーがα
を獲得す 22)銘柄 リ ターン の dispersion は 90 年代 の 年 率 20~30% 台から 1999 年に 88% に拡大した.23)Campbell, Lettau, Malkiel and Xu(2001) によれば,個別銘柄のボラティリティの上昇を要 因と推定している. 24)IC(情報係数):予測リターンと実現リター ンの相関係数.スコア:生の予測値からその予測 の期待値を差引き予測の標準偏差で割って標準化 したもの.
108 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 6 号(2010 年 2 月) るには銘柄リターンの相関を適切に予測する能 力が必要になることを示している.単純な分散 共分散行列のもとでこの予測式を考えたとき, クロスセクショナルな銘柄リターンの相関の低 下は
α
の変動を増幅し,相関が上昇するとα
が希薄化する.また,dispersion の過小評価は 過大なリスクをポートフォリオに与え,投資家 の期待効用を損なう可能性があるので,有能な マ ネ ジャーは dispersion の 過小評価 と IC(情 報係数)を過大評価することを回避していると 考えられる. 市場循環の変動に対応した投資戦略の予測 に つ い て,Stivers and Sun (2008)は 1962 年 ~2005 年のクロスセクショナルな米国株式の return dispersion (= RD)に 対 す る 短期,長 期の戦略別ペイオフの関連性について分析した 結果,RD の上昇は短期モメンタム戦略,中長 期の逆バリ戦略,バリュー戦略のペイオフにプ ラスに働く一方,RD の上昇が短期の逆張り戦 略にはマイナスのペイオフに寄与することを確 認した.市場変動の先行指数として RD のトレ ンドを利用すれば,適応した投資戦略を選択で きる可能性が示唆される.Ang, Hodrick, Xing and Zhang (2006)は, 1963 年~ 2000 年の米国株の日次リターンから 計測した過去 1 カ月のボラティリティが高い銘 柄は,事後の株価リターンが統計的に有意に低 くなることを明らかにした.またサイズ,スタ イルなどのリスクファクター調整後の固有リス ク (idiosyncratic volatility)と事後のリターン の 関係 か ら,Fama-French の 3 ファク ターモ デルで回帰した固有リスクが高い銘柄は平均的 な事後リターンが低いことが分かった.さらに, Ang, Hodrick, Xing and Zhang (2008)は先の 検証を先進 23 カ国市場に拡張しているが,固 有リスクが高い銘柄リターンが低い銘柄に比べ 月次平均-1.31% に及ぶことを実証した.ハイ リスク・ハイリターンの理論上の概念とは反対 に,実証データでは極端に高いリスクは事後リ ターンにマイナス効果となる.一方,Malkiel and Xu(2006)らは,固有リスクの高い銘柄 の事後リターンが高くなると反論している. 銘柄間のリターン格差,あるいはクロスセ クショナルなリターンの標準偏差(バラツキ) が大きいときほど,マネジャーの能力差が顕 著に表れることを示す研究がある.呂(2007) は, 1996 年~2006 年の米国株に投資するヘッ ジファンドのうちロング・ショート(LS)ファ ンドとマーケット・ニュートラル(MN)ファ ンドを対象に市場のバラツキに対する感応度 と
α
の相関について分析した.その結果,MN 型ファンドでは感応度とα
の相関が高く,銘 柄間のリターン格差を上手く捉えるスキルが 認められた.一方 LS 型ファンドでは感応度とα
の相関が弱く,マーケット・タイミングに よってα
を得ていた.これは有能なマネジャー が銘柄の固有リスク (idiosyncratic volatility) を捉える能力に優れることを示した Duan, Hu and McLean (2008)や Yuan (2009)の結果と 整合的である.マネジャーの能力を見極める には市場の変動と実現したα
の相関を検討す るとともに,ファンド評価に運用戦略別のパ フォーマンスの要因分析が必要であることを示 唆している. 中島(2005)は,ベンチマークとの相対リス ク (Tracking Error = TE)の時系列推定値を 用いたアクティブ戦略評価のフレームワークを 紹介している.ファンドが評価期間を通じて期 待された TE 水準を量的,効率的に満たしてい るかについて,推定 TE と実現リターンを TE で除した基準化リターンの関係を時系列にモニ タリングしたマネジャーの能力評価を試みた. その結果,TE の変化からリスクテイクの時間 的配分を捉えたマネジャー評価の重要性を示唆 している. 3.3.ファンドマネジャーの個人的特性 運用マネジャーの資質や教育レベル,経験, 年齢など,ファンドマネジャーの個人特性が能 力や投資の意思決定に関連していることを示す (774)研究も多い.そのような個人特性はマネジャー 自身の心理的要因(自信の有無・成功体験・リ スク回避度合い)や社会的要因(地位や報酬) と関連して投資行動を左右する可能性が考えら れる.
Chevalier and Ellison(1999) は, 経験 の 浅いマネジャーほどリスク回避的な行動を取 り 易 く,Cohen, Frazzini and Malloy(2007) は学閥ネットワークを情報源とする投資効果 を 示唆 し て い る.ま た,Cremers, Driessen, Maenhout and Weinbaum(2006)は ファン ド に対するマネジャーの個人的関与が強いほどパ フォーマンスが良いと指摘している. 4.まとめ,および今後の研究方向 ファンドのパフォーマンス評価は,有能なマ ネジャーを見つけ出し,運用成果をモニター する上で最重要な手掛かりを提供するが,今 のところ優れたパフォーマンスがマネジャーの 能力によるのか,運なのかを判別することは難 しい.パフォーマンス評価の結果が設定するベ ンチマークやモデルの選択に依存するため,マ ネジャーの能力把握には限界があるからであ る.一方でファンドの保有銘柄情報を基にした 分析から,マネジャーの運用能力や有能なマネ ジャー固有の特性を示す証拠はマネジャーの能 力を把握するための有益な手掛かりを提供して いると考えられる.しかし保有銘柄情報は取得 が難しく,実証分析や実務に適したものとはい えない. 今後の研究課題の方向は,銘柄ベースで確認 され,蓄積されてきたマネジャーの能力把握 に関する知見について,よりシンプルな評価 手法を可能とするファンドベースで応用する方 策を検討することである.有能なマネジャーを 特定すること,あるいは仮に特定に至らなくて もパフォーマンス評価に優位なマネジャー特性 を利用することによってマネジャー・ストラク チャーの実効性を高める寄与が期待できる. 参考文献
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