<論文>数の表し方に対する児童の捉えに関する調査研究
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(2) 数の表し方に対する児童の捉えに関する調査研究. てこのような表記が扱われている. (2)教科書における位取り板 佐々(2012)は,図 3 のように位取り板に大きさの異な るブロックを用いる表記を取り上げ,「このような位取 り表の表現方法は,数と量を結び付けて理解させようと する日本の教科書では一般的な表現方法である.」と述. 図 6 部屋考え方を. 図 5 位取り板に具体物 を用いた表記. 用いた表記. 第 2 学年においても,位取り板の中に,ブロックや数 え棒などの具体物や,数カードなどの半具体物を用いた 表記がなされている.「1000 より大きい数」の単元にな ると,位取り板の各位に属性の同じ記号を用いた表記(図 図3 教科書の表記. 7)が扱われ始める教科書がある.また,トピックとして 「同じ色のおはじき 3 枚でどのような数が作れるかを考. べている.一方で,長谷川(2002)が「タイルを半具体物. える」という内容が扱われている教科書もある.これら. としてのみ使用するのであれば問題はないが,位取り記. は,位取り板を「仲間分けのための部屋」ではなく「位. 数法の教具として用いる点が問題である.」と述べてい. 置の違い」として扱っている.. ることや,片桐(1991)が「(各位に同じ記号を用いた表記) が位置によるものである.位取り板に数え棒やブロック をおくのは問題である.これでは,十の位に 20 個入っ ているので,200 を表すようにとれる.」と述べている ように,位取り板の中にブロックなどを用いる表記につ. 図 7 位取り板に属性の同じ記号を用いた表記. いての批判もある.また,学習指導要領解説において, 「十進位取り記数法は,(中略),位ごとに異なる記号を用. 第 3 学年になると,単元の導入の際には,数カードな. いるのではないところにその特徴がある.」と述べられ. どの半具体物が用いられているが,その後はすべて属性. ている.. の同じ記号を用いた表記や数字のみの表記が用いられて. 上記のような指摘があるが,実際には,現行の教科書 (6 社)について,位取り板を用いた表記がどのように扱わ れているのかをまとめる.なお,分析の対象は位取り板 を用いた表記が扱われる第 1 学年から第 4 学年の記数法. いる. 第 4 学年では,半具体物も用いられず,位取り板には 数字のみの表記が扱われている. 以上から,教科書の表記に関しては第 2 学年の後半か. の学習単元や筆算の学習単元とする.. ら第 3 学年にかけて,「仲間分けのための部屋」という. ①記数法の学習における位取り板を用いた表記について. 扱いから「位置の違い」という扱いへと移行がされてい. 第 1 学年では,「20 より大きい数」において数の学習 で初めて位取り板が出てくる.この単元では,位取り板 の中にブロックや数え棒などの具体物が取り扱われてい. る. ②筆算の学習における位取り表を用いた表現 第 2 学年,第 3 学年の筆算の学習においても位取り板. る.(図 5)その際に,バラバラにおかれた数え棒を「10 の. を用いた表記が扱われている.その際の表記は,位取り. 束」と「バラ」に分けて位取り板の各位に整理するよう. 板に数字だけを入れるのではなく,具体物としてブロッ. な表記や十の位に当たる場所を「はこのへや」一の位に. クや数え棒,数カードが用いられた表記となっているも. 当たる場所を「ばらのへや」としてブロックをおく表記. のが多い.. (図 6)がみられた.これは,位取り板を「仲間分けのため の部屋」として取り扱っている.. 例えば,このような表記は,記数法の学習で位取り記 数法は位置の違いに意味があることを理解し,位取り板 の中に属性の同じ記号を用いた表記を理解した児童にと 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 31.
(3) 数の表し方に対する児童の捉えに関する調査研究. って,再び位取り板が「仲間分けのための部屋」として 扱われることになる.その結果,その児童にとって,本. (4)数の表し方に関する先行研究 佐々(2012)は,「おはじきと位取り表」を操作的証明. 来別々に使われるはずである属性の違いを利用した表現. の道具として利用す. と位置の違いを利用した表現の 2 つの表現が混在した表. るにあたって,その基. 記となってしまい,どちらで考えればよいのかと混乱し. 本的な操作について. てしまう可能性がある.. の学習者の実態を明. (3)児童にとっての位取り板の解釈とその指導. らかにすることを目. 教科書における位取り板の表記を見たところ,位取り. 的として,第 5 学年の. 板の捉え方として,(a)位置の違いという捉え方と(b)仲間. 児童を対象に位取り. 分けのための部屋という捉え方の少なくとも2つがある.. 表におはじきで示さ. 図8. (a)位置の違いという捉え方. れた数を読むことや. 佐々が調査で用いた位取り表. 十の位にある数字と一の位にある数字は,同じ数字で. 数をおはじきで表現. も数としては異なる.例えば,十の位にある 2 は 20 を. することに関する調査を行っている.結果としては,概. 表し,一の位にある 2 は 2 を表す.この捉えの場合,各. ね児童は表現のルールを理解し,おはじきで表された数. 位に同じ属性の記号が入ることとなり,十の位に 10 の. を読んだり数をおはじきで表現したりすることはできる. 束,一の位にバラといったように属性の異なる記号が用. としている.しかし,その調査においては教科書で扱わ. いられることはない.各位で 10 個集まると次の位へと. れている位取りの表現(図 3)は示さずおはじきと位取り. 移行する必要がある.. 表による数の表現のみ(図 8)を扱ったため児童はその表. (b)仲間分けのための部屋という捉え方. 記の違いに混乱せずに理解ができた可能性もあるとして. 各位はそれぞれの大きさをもつものを整理するための. いる.この研究で対象とされた第 5 学年は第 4 学年にお. 部屋であり,例えば,十の位は十の束を入れる部屋で一. いて,十進位取り記数法のまとめまで学習済みである.. の位はバラを入れる部屋として扱われる.この場合,各. 記数法について学習中である第 1 学年から第 4 学年の児. 位には属性の異なる記号が入ることとなり,例えば,十. 童はどのようにとらえるのかを明らかにしていく.. の位の数が 2 であるとき,十の位の2は 10 の束が 2 つ あることを意味するため20 を表すことになる. つまり, 位置の違いを利用した表記ではなく,属性の違いを利用 した表記といえる.. 3.調査の枠組み 「2(2)教科書における位取り板」の中で現行の教科書 では本来別々に使われるはずである属性の違いを利用し. 上記の(a),(b)の捉え方に関して,片桐(1991)は,「表. た表現と位置の違いを利用した表現の 2 つの表現が混在. 記された数を見て,『左の十の位の 2 は,10 の束が 2 つ. した表記となっていると述べた.このような表記は具体. ということで 20 です.』といった数構成についてはよ. 物と結び付けて理解を促すことができるなど利点がある. くわかっていても,それは位取り記数法が分かっている. が,その反面,児童の中には児童はこのような表記がな. ということではない.」と述べている.位取り板を「仲. されることによって混乱をしてしまう児童や,その表記. 間分けのための部屋」という捉え方で考えているときに. が本来意図していることとは異なる捉えをしてしまう可. は,数構成についての理解がしやすい.しかし,それだ. 能性があるのではないか.そこで,実際に数の表し方や. けでは,位取り記数法の理解としては不十分であると指. 位取り板についてどのようにとらえているのかを明らか. 摘されており,片桐(1991)は「書く位置の違いによって,. にするために調査を行う.. 10ⁿや 10⁻ⁿの大きさを表すのだという十進位取り記数法. (1)調査目的. のアイデアの発見はなかなか難しいことである. しかし,. 調査の目的は,数の表し方や位取り板に対する児童の. 小学生のどこかの段階で明確に認識させたい.」と述べ. 捉えの特徴を明らかにすることである.. ている.それらを踏まえると,小学校のいずれかの学年. (2)調査対象. で「仲間分けのための部屋」という捉え方から「位置の 違い」 という捉え方へと移行することが求められている.. 調査対象は,神奈川県立小学校第1学年 101 名,第 2 学年 103 名,第 3 学年 122 名,第 4 学年 111 名の計 437 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 32.
(4) 数の表し方に対する児童の捉えに関する調査研究. 名である.調査時期は 2018 年 2 月上旬である.なお, 全学年とも各学年の数に関する学習内容は既習となって. ことができる. 問題 1(2)は,位の中に属性の異なる記号を入れて表現. いる.. した問題である.十の位には 10 を表す黒丸を,一の位. (3)調査問題と出題の意図. にはバラを表す白丸を入れている.予想される児童の回. 調査問題は,位取り板を用いて表された数を数字で答. 答としては,「45」「405」があげられる.「45」と回. える問題(図 9)を 3 問と,位取り板を用いた表記として. 答する児童は,位取り板は「仲間分けのための部屋」と. 正しいと思うものを選びその理由を記述する問題(図 10). いう捉え方をしているため, 十の位には10 を表す黒丸,. の計 4 つを行った.なお,各問題ともに,白丸が 10 個. 一の位にはバラを表す白丸が入っていることに疑問を感. 集まると黒丸になるという前提条件を言葉と図を用いて. じていない可能性がある.もしくは,位取りについては. 提示し,問題 1 については例題を提示している.問題 2. 考慮しておらず,属性のみに着目して見ている可能性も. については,会話の形式で問題を提示し,問いに流れが. ある.いずれの場合も,10 集まると繰り上がるという点. 見えるようにした.問題 1 では記号を用いて表された数. に関しては考慮していないといえる. 「405」と回答する. を読み取るときの子どもの捉えの特徴を,問題 2 におい. 児童は,位取り板は「仲間分けのための部屋」という捉. ては数を記号を用いて表すときの子どもの捉えの特徴を. え方をしておらず,十の位に 10 を表す黒丸が入るので. 明らかにすることができる.さらに,問題の与えられ方. はなく,十の位に 10 ができたら次の位に繰り上がると. や読み取るときと表すときとでは捉え方が異なっている. いう「位置の違い」という捉え方で考えていると捉える. 可能性があるため,それらについて 2 つの問題のクロス. ことができる.. 分析をすることにより児童の数の表し方の認識に関する. 問題 1(3)は,十の位にはバラを表す白丸,一の位には. 一貫性を明らかにしていく.以上のことから,問題 1 と. 10 を表す黒丸を用いて表現している.この問題では,十. 問題 2 を設定し,調査を行う.. の位に白丸があることから,位取り板を「仲間分けのた. それぞれの出題意図と予想される児童の回答について. めの部屋」として用いることは意図されておらず,一の. 述べる.. 位の 10 を十の位へと繰上りできるかどうかが問われる. ①位取り板を用いて表された数を数字で答える問題. ことになる. 予想される児童の回答としては, 「70」 「52」. 問題 1 は位取り板を用いて表された数を数字で答える. 「25」があげられる.「70」と回答する児童は,一の位 の黒丸が 10 であり,繰り上げる必要性を理解している. 問題 3 問である. 問題 1(1)は,十の位にも一の位にも同じ属性の記号(白 丸)を用いて表現した問題である.. と捉えることができる.「52」と回答する児童は,属性 については考慮しておらず,それぞれの位にある記号の 数を見ていると捉えることができる.「25」と回答する 児童は,位取り板を考慮せず,黒丸が 10 であり白丸が バラであるという属性のみに着目して見ていると捉える ことができる. ②位取り板を用いた表記として正しいと思うものを選び その理由を記述する問題 問題2は「32」という数の位取り板を用いた表し方を 2 種類(あすかさんの考え,けんとさんの考え)提示し,そ のどちらの考えに賛成するか,もしくはどちらにも賛成. 図 9 問題1. するか,及び,その理由を問う問題である.. 予想される児童の回答としては,「64」「10」があげ られる.「64」と回答する児童は,位置に着目してみて いると捉えることができる.「10」と回答する児童は, 位取り板があるにもかかわらず,バラを表す白丸の個数 を回答しており,属性のみに着目してみていると捉える 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 33.
(5) 数の表し方に対する児童の捉えに関する調査研究. るときと表すときに一貫して属性に着目して見ているの か,位置に着目して見ているのか,問題の提示のされ方 によって見方が変化するのか,について児童の認識の特 徴を明らかにする.また,学年間での差異を比率の差の 検定をもとに明らかにする. なお,本調査は紙面での調査問題となっており,イン タビュー等の実施はしていないため,以下のような児童 がいた可能性があるがその特定まではできていない.こ れらを特定することは今後の課題である. a:白丸が 10 個集まると黒丸になるという前提条件につ いて理解ができず答えることができなかった児童や誤っ た解釈の下で回答した児童 なお,これらの児童の中には,問題文の意味が理解で 図 10 問題2. あすかさんの考えは,十の位に 10 を表す黒丸を,一. きなかった児童や,タイルや数え棒ではなく白丸や黒丸 という記号を用いたことで理解が難しかった児童が含ま. の位にバラを表す白丸を入れて表現している.この表現. れると考えられる.. は,位取り板を仲間分けのための部屋として認識してい. b:問題 1(1)~(3)は同じに見えるがわざわざ異なる表記. る児童にとっては自然なものであり,教科書で扱われて. をしているから答えも違うだろうなどのように,並べて. いる,位取り板の中に属性の異なる記号を用いた表記に. 提示したことに影響を受けた児童. 近いものとなっている.この考えを選択する児童は,数. c:問題 2 の記述において,自分の考えはあったが,記述. を属性に着目してみている,もしくは,位取り板を「仲. としてうまく表現できなかった児童. 間分けのための部屋」と認識していると捉えることがで きる. けんとさんの考えは,十の位にも一の位にもバラを表 す白丸を用いて表現している.この表現は,位ごとに異. また,本調査に際して前学年までの指導について把握 できていないためこれまでの指導による影響は測れてお らず,1 校のみを対象としているため,使用している教 科書の違いによる影響は明らかになっていない.. なる記号を用いるのではなく位置の違いを利用するとい う十進位取り記数法の特徴を用いている.この考えを選 択する児童は,位取り板による表現を「位置が違うこと. 4.調査の結果・分析 (1)各問題の結果と分析. に意味がある」と認識していると捉えることができる.. それぞれの問題について,位置の違いに着目して回答. どちらにも賛成を選択する児童は,黒丸が 10 を表し. する児童,属性に着目して回答する児童,位取り板を「仲. ているという属性について無視し,あすかさんの考えも. 間分けのための部屋」と認識していると考えられる児童. けんとさんの考えも十の位に 3 つの丸と一の位に 2 つの. がいた.位取り板を用いた同じ表記についても見方によ. 丸があるとみていると捉えることができる.. って児童の回答は異なっていることがわかった.. (4)分析の方法. ①問題 1(1). 調査結果の分析は,各問題の分析と問題 1 と問題 2 の クロス分析の 2 通りで行う.. 約半数(266 名,61%)が「64」と回答しており,位置 の違いに着目していると捉えることができる.ただし,. 各問題の分析ではそれぞれの回答率から, 数表記につい. 位取り板は位置の違いに意味があると理解していない児. て属性に着目して見るのか位置に着目して見るのか,ま. 童も含まれていることが考えられる.また,「10」と回. た位取り板をどのようにとらえているのか,について児. 答している児童は 145 名(33%)いることから,学年を問. 童の認識の特徴を明らかにする.また,学年間での差異. わず位置については無視しており,属性のみに着目して. を比率の差の検定により明らかにする.. 数表記を見ている児童がいることがわかった.. また,問題 1 と問題 2 のクロス分析より,数を読み取. 学年間での差を見ると,「64」と「10」ともに,3年 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 34.
(6) 数の表し方に対する児童の捉えに関する調査研究. 生と4年生の間に有意な差がみられた.つまり,4 年生. 「70」と回答した児童は 104 名(24%)であり,この児. では,属性で見る児童が減り位置で見ている児童が増え. 童は「位置の違いに意味がある」ことを理解していると. ているといえる.教科書においても,属性の異なる記号. ともに,繰上りについても理解ができているといえる.. を用いた表記が減り,同じ記号で位置の違いを用いた表. 一方で「52」と回答した児童 112 名(26%)は,繰上りに. 記が増えていることで,位置の違いに意味があるという. ついて考えておらず,属性を無視して位置のみに着目し. ことへの意識が向きやすくなっている可能性がある.. て考えていると捉えることができる.また,「25」と回. 表 1 問題 1(1)の回答数と割合. 答した児童 161 名(37%)は,位取り板を用いているにも かかわらず位置については無視し,属性のみに着目して 考えていると捉えることができる. 表 3 問題 1(3)の回答数と割合. ②問題 1(2) 「405」 と回答した児童は 69 名(16%)のみであったが, この児童は,「位置の違いに意味がある」ことを理解し ており,繰上りについても理解ができていると捉えるこ とができる.「45」と回答した児童は 338 名(77%)と約. 学年間での差を見てみると,「70」「52」「25」すべ. 8 割に上る.この児童は,属性に着目して見ているもし. てにおいて, 1 年生と 2 年生の間に有意差がみられ, 「70」. くは,位取り表を「仲間分けのための部屋」と考えてい. と「25」は 3 年生と 4 年生の間,「52」は 2 年生と 3 年. ると捉えることができる.. 生の間に有意差がみられた.「70」について 1 年生と 3. 表 2 問題 1(2)の回答数と割合. 年生の間で差がみられるのは,筆算の学習で「一の位に 10 の束ができたら繰り上がる」ということを位取り板を 用いて学習したことが影響している可能性もある. ④問題2 あすかさんの考えに賛成,けんとさんの考えに賛成, どちらにも賛成,それぞれ選択した児童の人数と割合は 表 4 の通りである. 表 4 問題 2 の回答数と割合. 学年間での差を見ると,「405」に関しては1年生と 2 年生の間, 2 年生と 3 年生の間に有意な差がみられ, 「45」 に関しては 2 年生と 3 年生の間に有意な差がみられた. ただし,第 1 学年に関しては,百の位についての学習を 行っていないため, 「405」という回答をした児童が出て こなくても自然なことである.2 年生と 3 年生の間の差 については,教科書において,位取り板に属性の異なる 記号を用いた表記から同じ属性の記号を用いた表記へと 移行している時期であり,それが児童の認識に影響して いる可能性がある. ③問題 1(3). あすかさんの考えに賛成を選択した児童は 278 名 (64%)と 6 割以上である.あすかさんの考えを選んだ児. 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 35.
(7) 数の表し方に対する児童の捉えに関する調査研究. 童は,属性に着目して数の表し方を捉えており,けんと. 表現の移行が行われていると捉えたとき,3,4年生で. さんの考えを選んだ児童は,位置に着目して数の表し方. は児童の捉え方も移行していることが考えられるが,少. をとらえているとみると,6 割以上の児童が,属性に着. なくとも 51 名(22%)は,移行がなされていないというこ. 目してみているということがわかる.特に,第3,4 学. とになる.これは,低学年時から教科書等で位取り板の. 年の記数法の学習において,教科書の位取り板を用いた. 中に異なる属性の記号を用いた表記を見慣れており, 「仲. 表記は,各位に属性の同じ記号を用いる表記に移行して. 間分けのための部屋」という捉え方が自然なものになっ. いるが,属性で捉えている児童が 132 名(57%)いる.こ. ている可能性がある.. こから,10 がいくつとバラがいくつという数構成につい ては理解できていたとしても,位置の違いに意味がある という「位取り」を理解できているとは言えない児童が. けんとさんの考えを選択した児童の記述は 3 つに分類 しており,それぞれの割合は以下の通りである. 表 6 問題 2 けんとさんの考えを選んだ理由. おり,学年が上がるにつれて自然とそれを理解できるよ うになる児童が大半とは言えない可能性がある. カイ二乗検定を実施したところ,学年間での有意差が みられた(p<0.01).また,あすかさんの考えを選択した 児童とけんとさんに賛成した児童の割合について,2 年 生と 3 年生の間に有意な差が認められた(p<0.05).なお, 1 年生と 2 年生の間,3 年生と 4 年生の間については有 意な差は認められなかった. 次に,それぞれを選択した児童の理由の記述を見てい. アの記述は,「白丸が十こで十になるけど上に十の位. く.あすかさんの考えを選択した児童の記述は 3 つに分. とかいてあるので白丸でいいと思ったのでけんとさんに. 類しており,それぞれの割合は表 5 の通りである.. さんせいしました.」のように十の位にも一の位にもバ. 表 5 問題 2 あすかさんの考えを選んだ理由. ラを表す白丸を入れる,つまり,属性の同じ記号を用い るということが読み取れるものである.イの記述は, 「十 の位に分けて説明するとあすかさんは十の位が黒丸が 3 個入っています.これだと 10 が 10 個で 100 になって しまうのであすかさんは 302 になってしまいます.だか らけんとさんだとわかりました.」のように,十の位に 黒丸があると 10×10 になってしまうということが読み 取れるものである.ア,イともに「位置の違い」と認識 していると読み取ることができる記述である.つまり,. アの記述は,「黒丸が 30 で白丸が 2 で 32.けんとさ. 位置に着目しており,「位置の違い」と理解していると. んの考え方だったら十の位が黒丸じゃないからけんとさ. 考えられるのは,65 名(14%)であり,「仲間分けのため. んのかんがえだったら合わせて 5 になってしまうから. 」. の部屋」と捉えている児童と比べて少ないといえる.. のように,十の位は黒丸,一の位は白丸でなければなら ないということが読み取れるものである.イの記述は,. 両方の考えを選択した児童の記述は 3 つに分類してお り,それぞれの割合は表 7 の通りである.. 「あすかさんは黒丸 3 個で 30 個だから白丸を2こで2. アの記述は,「どちらも 32 であすかさんは十の位が. だから 32 といっているから賛成.」のように,あくまで. 黒丸になっているだけだからです.表し方が少しちがっ. 10 を表す黒丸が 3 つとバラを表す白丸が 2 つといった. ても書いてあることはだいたいおなじだからです.」の. 属性に着目してみていると読み取れるものである.. ように,属性について無視しており,位置によってのみ. アのように,位置に着目してはいるものの,位取り板. 考えていると読み取れるものである.イの記述は,「○. は「仲間分けのための部屋」と捉えている児童は 111 名. が 10 こで●なのであすかさんの考えも正しいと思いま. 25%と約 3 割に上る.2年生の後半から3年生にかけて. す.○であらわしていますが十の位と一の位で分けてい 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 36.
(8) 数の表し方に対する児童の捉えに関する調査研究. るのでけんとさんの考えも正しいと思います.」のよう. A, B, C の児童は一貫性があると捉えられる. ただし,. に, 属性を中心としてみるとあすかさんの考えも正しく,. 位取りについて理解ができている児童は A の児童のみ. 位を用いて表すなら,けんとさんの考えでも問題ないと. であり,B の児童や C の児童は一貫性はあるが, 位取り 表 8 A~E の児童の人数と割合. いうように意味を理解した上でどちらもを認めていると. の理解ができているとは言えないと考えられる.なお,. 読み取れるものである.. それぞれの詳細は以下のとおりである.. 表 7 問題 2 両方の考えを選んだ理由. (2)問題 1 と問題 2 のクロス分析 問題 1 と問題 2 のクロス分析より,数表記の種類と一 貫性に着目して分析を行った.この分析より,一貫性の ない児童が約半数いるということが明らかになった. 児童の認識の分類は以下の五通りで行い,それぞれの 人数とその割合は表 8 のとおりである. A:属性と位置が混在しているときに属性のルールと位 置のルールを理解している. B:属性を無視して位置のみに着目して考えている. C:位置を無視して属性のみに着目して考えている. D:問題の与えられ方によってどちらで考えるかが変わ る. E:上記以外(問題 1(1)~(3),問題 2 のどれかに空欄があ る等). A の児童の回答は,問題 1(1)が「64」,問題 1(2)が 「405」,問題 1(3)が「70」,問題 2 が「けんとさんの 考え」である.B の児童の回答は,問題 1(1)が「64」, 問題 1(2)が「45」,問題 1(3)が「52」,問題 2 が「両方 の考え」である.C の児童の回答は,問題 1(1)が「10」, 問題 1(2)が「45」,問題 1(3)が「25」,問題 2 が「あす かさんの考え」である.D の児童の回答は,問題 1(1)が 「10」または「64」,問題 1(2)が「45」または「405」, 問題 1(3)が「25」「52」「70」のいずれか,問題 2 が「あ すかさんの考え」「けんとさんの考え」「両方の考え」 のいずれかである.それぞれの人数とその割合は表 8 の 通りである. ①一貫性のある児童. A の児童は 44 名(10%)のみである.この児童は,属性 の違いによる表記や位置の違いに意味があるということ, 繰上りについて,しっかりと理解できていると捉えるこ とができる.学年間の差を見たところ,2 年生と 3 年生 の間に有意な差が認められた.3,4 年生になると 2 割ほ どではあるが,位置に着目した見方ができるようになる 児童が増えていることがわかる.教科書において,表 記の移行が行われている時期であり,それが影響してい る可能性がある.これらの児童は十進位取り記数法の理 解ができていると捉えることができる.しかし,理解で きるようになってからも教科書における表記が属性の違 いを利用した表記と位置を利用した表記が同時に扱われ るとき,これらの児童にとっては,属性と位置とが混在 した表記となってしまい,どのように捉えたらよいのか という混乱につながってしまう可能性がある. B の児童は,13 名(3%)と少なく,学年間の差を見たと ころ, どの学年間でも特に有意な差は認められなかった. C の児童は 107 名(25%)であり,3 年生が 29%,4 年 生になっても 14%いる.位取り板が用いられているにも かかわらず属性のみに着目して捉えており,位取り記数 法についての理解はなされていないことが考えられる. 学年間の差を見たところ,3 年生と 4 年生の間に有意な 差が認められた(p<0.05). ②一貫性のない児童 D の児童は,例えば問題 1 では属性のみに着目して解 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 37.
(9) 数の表し方に対する児童の捉えに関する調査研究. 答しているが,問題 2 では位置に着目して解答している. してそのような表記を取り扱うことなどが考えられる.. など,問題の与えられ方によって見方が変わっている.. また,表の C の児童のうち 3,4 年生 51 名(22%)のよ. これらの児童は 180 名(41%)であり,4 年生になって. うに捉え方の移行ができておらず属性にのみ着目して見. も 4 割を超えている.なお,学年間の差を見たところ,. ている児童がいることから,表記の移行をする際には,. どの学年間でも特に有意な差は認められず,学年が進行. 児童の認識も変化するように移行を促す指導が必要であ. しても減少傾向にないことが指摘できる.これらの児童. ることが示唆される.さらに,表 9 の D の児童 180 名. は,授業の中でも,問題の与えられ方によって見方が変. (41%)のように問題の与えられ方によって,属性に着目. わることがあり,特に,記数法の学習では,位取り板の. して見るのか位置に着目して見るのか,見方が変わる児. 中に属性の同じ記号を用いる表現が扱われ,筆算の学習. 童がいたことから, 位取り板を用いた指導を行う際には,. では位取り板の中に属性の異なる記号を用いる表現が扱. 位取り板を「位置の違いに意味がある」,「仲間分けの. われる時期などに,その見方の違いが影響することで,. ための部屋」のどちらで捉えるのか,その捉え方につい. 学習が理解できない可能性ある.. ての共有を行うことで,児童の捉えと表記とにズレが生. (3)今後の指導への示唆. じたままの指導にならないようにしていく必要があると. 現行の教科書において,位取り板は「仲間分けのため. いえる.. の部屋」から「位置の違い」へと表現の移行がなされて いた.しかし,調査から,表 9 の C の児童のうち 3,4. 5.知見と今後の課題. 年生 51 名(22%)のように捉え方の移行ができておらず. 本研究では,数の表し方や位取り板に対する児童の捉. 属性にのみ着目して見ている児童や,表 9 の D の児童の. えの特徴を明らかにすることを目的とした調査を行った.. うち 3,4 年生 89 名(38%)ように位置の違いに意味があ. その結果,学年進行に伴い属性のみによる認識は減少傾. ることを理解ができていても移行が行われるがゆえに混. 向にあり,位置による認識は増加傾向にあるものの,場. 乱している可能性のある児童がいることが分かった.こ. 面によって属性と位置の認識に一貫性がない児童,すな. のように全体の 6 割を占める C,D の児童,特に 4 年生. わち位置による認識を確実に理解しているとは言えない. は学年の 4 割以上であるが,それらの児童にとって,属. 児童が各学年に一定の割合で存在していることを明らか. 性と位置の混合した図が位置で認識することへの弊害と. にすることができた.そのことから,属性から位置への. なっている可能性があることから,表記を移行するので. 認識の移行を促す指導について考える必要があるという. はなく,1 年生で初めて位取り板を用いた学習を行う時. ことがいえた.また,属性と位置の混合した図を使用す. から属性の同じ記号を用いた表記を用いて指導するとい. ることが 6 割以上の児童にとって,位置で捉えることへ. うことも検討する必要があるといえる.. の弊害となっていることから,混合の図を取り扱うこと. 次に,現行の教科書のように,表記を移行するという 立場に立った場合についてのべる. 教科書分析から,記数法の学習では表記が移行したに. 自体を検討すべきであることが分かった. 以上を踏まえて,今後の研究課題として以下の 2 つを 設定する.. も関わらず筆算の学習では再び 「仲間分けのための部屋」. ①混合の図を用いず,最初から位置のみでの指導を行う. として扱われていることが分かった.「位置の違い」と. ことの可能性と弊害を明らかにすること.. 理解した児童にとって,属性の違いを利用した表現と位. ②属性から位置への認識の移行を促す指導をどのように. 置の違いを利用した表現の 2 つの表現が混在した表記と. 行うか考えること.また,その指導の際に属性から位置. なってしまい,どちらで考えればよいのかと混乱してし. への移行を促す際に混合の図が弊害となってしまう児童. まう可能性が考えられることから,記数法や筆算など位. にとっての混合の図の有効性と弊害を明らかにすること.. 取り板を用いる指導全体の流れを踏まえてどのように扱 うのかを考える必要がある.例えば,繰り上りのある足. 参考・引用文献. し算の筆算の学習の前の段階で,各位に同じ記号を用い. 片桐重男.(1991).新・算数指導実例講座 第 2 巻 数. て表現するという位取りの原理についての学習を取り扱 ったうえで,その後の筆算の学習などにおいては,一貫. と計算[低学年].株式会社金子書房 栗山和広.(1998).子どもの数概念の発達について.宮 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 38.
(10) 数の表し方に対する児童の捉えに関する調査研究. 崎女子短期大学紀要,第 24 号,81-96. 古池若葉.(2016).数表記・数詞・具体物の三項関係に 関する論考.京都女子大学発達教育学部紀要,第 12 号, 99-106. 佐々祐之.(2012).数学教育における「操作的証明 (Operative proof)」に関する研究(Ⅱ)-おはじき と位取り表の操作に関するインタビュー調査を通し て-.全国数学教育学会誌,数学教育学研究,第 18 巻,第 2 号,77-89. 中原忠男.(1995).算数・数学教育における構成的アプ ローチの研究.聖文新社. 長谷川雅枝.(2002).小学校算数の教科書の現状と課題. 教育研究所紀要. 山形恭子.(2015).数の理解と産出における初期発達― 数表記・計数を中心とした研究の概観―.京都ノー トルダム女子大学研究紀要,第 45 号,71-83. 文部科学省.(2008).小学校学習指導要領解説 算数編. 東洋館出版社. 一松信ほか.(2014).みんなと学ぶ小学校算数(1~4 年). 学校図書. 坪田耕三ほか.(2014).小学算数(1~4 年).教育出版. 小山正孝ほか.(2014).小学算数(1~4 年).日本文教出 版 藤井斉亮ほか.(2014).新編新しい算数(1~4 年).東京 書籍 清水静海ほか.(2014).わくわく算数(1~4 年).啓林館 橋本吉彦ほか.(2014).新版たのしい算数(1~4 年).大 日本図書. 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 39.
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