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初等教育教員として児童の造形活動を支援するために求められる能力に関する考察 (8) : 実技センター美術教育分野におけるグレードAの検討

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(1)初等教育教員として児童の造形活動を支援するために 求められる能力に関する考察(8) ∼実技センター美術教育分野におけるグレードAの検討∼. 初田隆*岩下碩通* (平成14年10月30日受理). はじめに. 専任教官が配置され、グレード内容も改変が重ねられて. 兵庫教育大学学校教育学部附属実技教育研究指導セン ター(以下実技センターとする)は、 「初等教育におけ. きた。これまで、グレード課題の内容がどのように改変 されてきたのかを概観することによって、実技センター. る芸術、体育および語学に関する教育のあり方を研究し、 指導方法の開発を行うとともに、本学学生に対して行う 実技に関する教育について企画運営し、併せて自学自習. に課せられた機能およびその可能性と限界性を再確認し ておきたい。以下、グレード課題の内容を中心にこれま での経緯をまとめる。. の場を提供する」ことを目的とし、昭和57年4月、第 1期の学部生入学と同時に設置された。. ○昭和57年 ・ 「美術教育分野」は「造形表現」と「書・書写」か. 爾来、美術教育分野では、自学自習によって一定の水 準に達したと認められた学生に「グレード」を付与する 「グレード制」を基軸に、学部学生の実技力の向上を図っ. ら構成されており、専任教官は「書写」担当の助教 授1名であったため、 「造形表現」のグレード課題 の作成や作品の評価は、講座からの兼任教官が行っ ていた。 ・グレード課題. てきた。また、初等教育教員として求められる実技能力 の要素や構造、水準などを明らかにする研究も進めてき たのである。. 「I絵具の研究/紙とはさみの研究」 「Ⅱモダンテ クニック/粘土と木材の研究」 「Ⅲ子どもの絵を模 写する/ボックス」. しかし現在、国立大学の統廃合、および独立法人化への 移行といった課題への対応が迫られており、そのあり方. ○昭和59年. や方向性が改めて問われることとなった。 そこで本稿では、これまでのグレード課題の内容や指 導体制等を振りかえり、問題点や課題を焦点化させた上. ・グレードガイドブックの発行 ・グレード課題 「I絵具の研究/紙を切る・貼る・折る」 「Ⅱモダ ンテクニック/粘土と木材の研究」 「Ⅲ描画/版画. で、実技センターの今後の活動に新たな方途を見出して いこうとするものである。. /木工芸/彫塑」 ○昭和61年. 尚、近年の教員採用率の著しい低下に伴う学生の意識 の変化や新たな教育課題に応じるべく、グレード課題C、. ・ 「造形表現」の専任教官が配置され、グレード課題 はE∼Aの5段階に分割された。内容はほぼ過去と. Bについては、平成9年度より検討を重ねてきており、 本年度からはその内容を刷新している。従って本稿では、 主に「グレードA」に検討を加えることによって、実技 センターの可能性や改善の視点を明らかにしていきたい。. 同様である。 ○昭和63年・平成元年. 1、実技センター美術分野におけるグレード制 本項では、実技センタ-設立時より現在に至るまでの. ・昭和62年度末に専任教官が転任し、再び専任教官 が配置されない状態となる。 ○平成2年 ・専任教官が配属される。. グレード課題の内容や指導体制等の変改の経緯をたどり、 実技センターの問題点や課題を明確にする。. ・平成3年度よりグレードがC∼Aの3段階となる。 ・内容的にはほぼ同様であるが、 「木材と粘土の研究」 が廃止される。. 1-1グレード課題の内容 現在美術教育分野では、グレードCからAまでの3段 階を設定しており、 C、 Bはガイドブックに従って自学. ○平成7年. 自習で進めるものとし、 Aはワ-クショップ形式で行っ. ・専任教官が2名となる。 ・平成8年、グレード課題の改訂. ている。実技センターの設立当初は美術講座全体でグレー ド課題の検討・実施がなされていたが、その後センター. それまでの課題は細分化された活動単位で設定され. *兵庫教育大学学校教育学部附属実技教育研究指導センター -49-.

(2) ていたため、機械的な作業が中心となり、造形表現 本来の創意工夫や創作の喜びなどとは幾分距離を置 いたものになっており、実際の指導に活かすための. しかしその後、グレード制が確立してくるに従い、細 分化された活動単位で課題が設定、固定化されるように なり、教育現場への応用発展という視点が希薄になって. 視点も持ちにくいものであった。そこで、基本的に は過去の課題傾向を踏聾してはいるものの、課題毎. いく。また、作業性が強く創意工夫の余地に乏しい課題 は学生の自学自習に向かう意欲を損ない、教員採用率の. に小作品の制作を行う設定となった。 ・グレード課題. 低下がそれに一層拍車をかけることとなるO. 「C絵具の研究/紙とはさみの研究(シフティング. 一方、平成3年に「木材や粘土の研究」が廃止された ことからもわかるように、材料や活動場所の提供、作品. /モンタージュ)」 「B版機能の研究/紙立体を作る 研究(立ち上がる名刺)」. の保管等に困難が伴う課題は次第に縮小されていき、課 題内容の価値よりも管理の簡便さが優先されてきた点を. ○平成14年 ・グレード課題およびガイドブックの改訂. 指摘することも出来る。 そこでその反省に立ち、平成8年度のグレード課題の. 平成9年度より、美術教育分野で育成すべき能力 や目標、課題内容などの再検討をはじめ、翌10年、. 改定では、学生の興味・関心を重視し、造形活動を楽し むことが出来るような課題設定に改め、更に平成14年. 「教育活動の改善試案」、 12年には「グレード課題 およびガイドブックの改訂案」を作成した。美術教. 度の改訂では、 「初等教育教員養成に向けた造形基礎教 育」と「青年期における美術教育」という2つの側面か ら内容構成を行ったのである。しかしグレードAについ. 育分野では、グレード課題の内容を将来的に教育現 場で機能させるための造形スキルのみに限定するの. ては留保されたままになっており、ワークショップ形式 の妥当性、グレードAとしての専門性の捉え方、グレー ドC、 Bとの関連性、指導者の関り方等、課題は山積し. ではなく、現在の大学生の問題意識や学ぶ姿勢を勘 案し、 「青年期における美術教育」という視点から. ている。. の検討も加えることとした。また、今日的な芸術文 化の諸相、教育の現代的課題、学生の意識などに対 応するために、従来の専門領域を横断する内容構成 を行った。 ・グレード課題. 1-2グレード制と指導体制 先にも見たように、実技センターの行う、学生への教 育的営為としては、各分野ともグレード課題の提示・支. 「C 1、線からはじめよう2、面を意識して3、 立体的に表す4、明暗を表現する5、そっくりに. 援・点検・評価が中心となっている。グレ-ド制は独自 の「実力認定制度」として、実技センターの構想段階か. かき写すこと6、遠近法について7、質感を表す 8、小さなものへ9、1枚の板で作る」「B l、紙 の性質と彩色2、図のズレを楽しむ3、絵具の表. ら検討課題とされていた。 「教員のための新しい大学・大学院の構想について (報告)」 (昭和49年、 「新構想の教員養成大学に関する 調査会」)では「外Eg語、音楽、美術など実技を伴う教 科についての実技指導能力を高めるための特別の施設と. 現技法4、タイルぼり模様5、版機能の研究6、 児童画を読む7、社町野外彫刻マップ8、美術史. して、必要に応じ、例えば『外国語教育センタ-』 『音. から学ぶ」 (グレードAは従来どおり) ・これまでのガイドブックから形式を改め、直接描き 込むことができるワークブック形式のものにした。. 楽教育センター』等を設置する」。また、 「音楽、美術、 体育等の実技を伴う教科についても実際的な指導能力の. ・運用面では、 「初等図画工作」などの授業と単位認 定において連動させるという縛りを解き、学生の自. 向上を図ることに特別の配慮を行う。このため、前述の 各種センターを十分整備して、学生の自発的な学習を助. 由意志に任せることとする。また、ガイドブックの 提出時や返却時に個別の指導・アドバイスを行うこ ととした。. 長するとともに、センターにおける実力認定制度を設け て、単位認定に代える方式などの採用も検討すべきであ る」とされている。これを受けて「基本問題検討委員会」 (昭和53年、設置)で実技センターの具体化が図られて. 昭和57-58年の実技センター運営委員会議事録や会 議資料等によると、 「初等教育教員としての必須実技力 とは何か」という観点から実技能力の分析を行うことや、 実践例の蒐集、教科書の研究、授業展開についての研究. いくのである。 「実際的な指導能力の向上」 、 「学生の自発的な学習. を助長すること」、 「(単位認定制度に代わる)実力認定 制度」の設定等が当初の課題であり、グレード制が創出. など「初等教育教員としての実技教材と指導法の開発」 についても進むべき方向が論議されている。確かにグレー ド課題の試案や、初期の課題には「子どもの絵の模写」. された背景といえる。つまり、実技力を高めるためには 長期的、継続的なトレーニングが必要となることや、実 際の指導場面で有効に機能する実技能力の育成が目的に. 等のように現場教育との関連性が色濃く出ている。. -50-.

(3) 今日の大学を取り巻く社会的状況は本学設立当時のそ れと大きく異なってきている。大学の統廃合、続く独立 法人化といった改変の動向をにらみ、生き残りをかけた. 掲げられたことなどから、通常の授業とは別の目標と方 法、内容をもったシステムとして、グレード認定制が構 想されたのであった。. 自助努力が求められている中、グレード制を基軸とした 実技センターの機能も再検討を余儀なくされている。自. グレード制の大きな特徴は、授業以外に自学自習で実 技の研修を行うという点にあるが、このことは学生にとっ. 学自習の理念を堅持し、更なる自学プログラムの開発や 学部学生への支援活動の充実を回るべきか、または美術 講座と融合した指導体制の構築にセンターの方途を定め. てかなりの負担になっていることは事実であろう。教育 内容の過密化は設立当初から問題になっている。 特に近年の教員採用率の著しい低下は、教職を希望す. るべきかの判断が迫られているともいえる。 いずれにせよ、改めてセンターの独自性を鮮明にする. る学生数の減少と学習意欲の低下を招いており、当時と 比べ現在は自学自習が受容されにくい状況にあるといわ. 必要はある。そもそも、実技センターの設立を巡る審議 の中で、 「滴養すべき実技能力」として、 「絵画に関する 実技能力」、 「デザインに関する実技能力」など、美術の. ざるを得ない。また、美術教育分野では、体育や音楽の ように出来なかったことが出来るようになったり、記録 が伸びたりという、変容の様子が明確に自覚できないこ. 専門領域に対応させて能力目標を捉えていたことが、実 技センタ-の限界を示すものであったのではないかと思. とや、教員採用試験に出題されるケースがまれであるこ となど、学生の意欲を喚起するための動機は乏しい。. われる。育成すべき実技力が各専門領域に依存している 限り、実技センターの独自性は十分に発揮できない。あ くまでも講座の付属機関として各専門領域の内容を補完. とはいえ、 1997年度に実施した、グレード(美術教 育分野)に対する意識調査では、自学自習はどちらかと いうと「やりやすい」という傾向が示されており、 「指. するということになる。講座の各授業で育成した能力を 実技センターで統合させる、もしくは講座の各授業の基. 導の必要性」についても「必要である」、 「どちらかとい えば必要である」を併せても全体の3分の1に満たない。. 礎となる能力の育成を実技センターが担う等、従来の専 門領域を横断する視点から実技センター独自の機能を策. 更に、 「制作場所の確保」や「材料の確保」についても 「特に問題はなかった」とする回答が多数を占めていた。 しかし、必ずしも学生が課題の意味や目的を自覚し、. 定した上で、大学または学部におけるセンターの位置付 け、および講座との協働の可能性を検討すべきであろう。. 自発的に学習を進めていたとは言いがたい。当時はグレー ドが「初等図画工作I」の単位認定と連動していたこと. 2、グレードAの検討 先述の通り、本年度よりグレードC、 Bは新たな内容・ 形式で実施している。これが今後の実技センターの独自. や、授業で拘束されるよりも自習の方が融通が利くこと、 場合によっては友だちとの共同作業が可能であることな どから、ノルマとして課題をそつなくこなしていく学生. 性や方向性を定める際に有効に機能するか否かについて は、実施結果の考察を得たねばならない。. の姿が想像されるからである。実際には、提出作品の中 に同一の作品が多数散見されたり、 「テキストの解説」. 一方、グレードAについては、平成12年度に改善の 方向性を示しはしたものの試行錯誤が続いている。前項. がわかりにくいと答えた学生が66名いるにもかかわら ず、質問に訪れる学生は僅かであること、自由選択制の. で検討した課題を踏まえ、グレードAのあり方について 考察する。 211グレードAの現状. グレードAの受講生が定員に満たない状態が続いている こと、実技センターの教室や備品の利用者がほとんどい ないことなどから、グレードに対する学生の意識は期待 するほど高まってはいなかったと思われる。現在におい. グレードA、つまりはグレードの最高位にあたる課題. ても、グレードC,Bについては「初等図画工作」の授業. であるが、これまでは次のような観点から内容および方 法が定められていた。. を通してある程度の指導を行っていることや課題内容を. (丑絵画・彫塑・工芸・デザイン等の専門領域毎に行う (塾完全な自学自習ではなく、各専門領域の教官が指導 にあたる。. 学生の興味・関心に沿うべく改善してきたこともあり、 一定のグレード認定者数は確保できてはいるが、グレー ドAの受講生は極少数に留まっているし、実技センター. (診グレードBまでと異なり制作の自由度が拡大された ものとなっており、 「作品」の制作を通して楽しく. のその他のサービスを求めに訪れる学生は稀である. いかに自学自習が設立の理念であるとはいえ、学生に. 専門領域の基礎的な技術(材料の生かし方や技法の 工夫)を学ぶ。. 目的意識を持たせ、自主性を発揮させていくことは、益々 困難になってきているといわざるを得ない。目的意識や 主体性を欠き、ノルマとして行われる自学自習では、か. また、設立当初からのグレード課題は次の通りである。 ○昭和57年度∼. えって造形技術の習得や美術の楽しみを感受することか ら学生を遠ざけていくことになる。. グレードⅢ子どもの絵を模写する/ボックス. -51-.

(4) しかし、一般に美術教育の現場で黒陶の制作が取り上 げられることは稀である。 「磨き」、 「煉し」などの工程. ○昭和59年度∼ グレードⅢ. (3)木工芸 ○昭和61年度∼ グレードA. (I)描画(2)版画 (4)彫塑. に余分の時間が費やされることや、そもそも黒陶制作の 方法や魅力があまり知られていないからである。. ①絵画②版画③彫塑 ④工芸6)デザイン. 黒陶はむしろ高度な技術を必要とはせず、入門者にも 取組みやすい方法である。そして何よりも、土の質感が. ①絵画②彫塑③工芸. 転換される不思議さ、新たな土の表情との出会いに大き な魅力がある。成形・磨き・焼成・煉Lといった一連の. ④デザイン. 作業を通し、彫塑におけるテラコッタや工芸における器. O平成2年∼ グレードA. 作りとは異なった「土のあらわれ」との出会いを楽しむ こと、それがひいては立体造形という場への扉を開く契. ○平成14年度∼ グレードA領域名を取り除き、過去の開講講座 を例示。. 機になることを願い、本講座を企画した。 学生が黒陶制作から何をどのように学び、自らの制作. 異体的な講座としては、 「人物画を描こう(裸婦クロッ. や教育的視座にどう取り入れていくのかを確認すること によってグレードAの意義付けを再検討したい。また、. キー)」、 「七宝焼きでアクセサリーを作ろう」、 「プリン トごっこで年賀状を作ろう」、 「シルクスクリーンで年賀 状を作ろう」、 「土笛を作ろう」、 「彫塑を楽しもう(野菜. 自学自習という実技センターの理念を重視したワークショッ プの持ち方、つまり教官が通常の授業のように「教える」. をモチーフに)」、 「金属彫刻を楽しもう」 、「黒陶を楽し もう」等である。尚、グレードAは実技センター教官が. のではなく、情報や場、材料等の提示と最小限度の助言 に留め、学生の主体性をいかに引き出すことができるか を確認したい。. 企画運営にあたり、講座の各専門分野の教官に講師を依 頼し、日程の調整、学生の募集、材料・場所の確保等を. (2)経過. 行うものである。 グレードAはグレードの最高位にあたるわけだが、こ れまで行ってきた課題は造形的にさほど高度なものとは. 平成14年1月30日、 4名の参加者(美術コース3年 3名、美術コース大学院1年1名)でスタートし、 2月 21日に窯出しを行うまで、 10回程度のミーティングを. 言えず、 C、 Bとの発展性も見えにくいものであった。 「実技センターガイドブック」の記述では、 「楽しく表現. 持ったが、成形、窯作り、作品の磨き等は学生が自主的 に行った。なお、グレードA終了後も学生は制作を続け、. することを学びます」ぐ84より)、また「楽しく表現す ることを学び、美術について少しでも自信を付けていた. 7月に「紙窯」による焼成を行い、現在も継続的に制作 を行っている.尚、指導は実技センター美術教育分野. だきます」 ('91より)といった文言で示されているよう に、美術の楽しさが協調された、取っ付きの良い内容と. (立体)の岩下が担当した。 以下に経過の概略を示す。. なっている。グレードC、 Bはトレーニング的な課題が 中心で、 「正しさ」、 「正確さ」等が求められているのに 比べ、どちらかというと学生に追従するかの印象を受け. 01月30日∼ 1回目のワークショップでは、走泥杜の作品や西村陽 平の指導した生徒作品などの写真及びビデオを示し、黒 陶についてのイメージを持たせる。. る。また専門領域の入門的な性格が強く、内容、指導方 法において講座の通常の授業との違いが不鮮明なもので あった。. 続いて信楽貰入粘土100kg、粘土板、へら等を用意し、 学生に自由に土とのふれあいを楽しませる。土の練り方、. そこで、グレードC∼Aの課題内容を、一貫した理念・ 目標・手続きの下に設定し、連続性・発展性を明確にす ること、更には、グレードAを講座の授業と差別化する. 気泡を含むと焼成時に破裂する可能性があること、作品 を乾燥させるときの留意点等基本的な事柄について説明. ために、独自の課題内容と指導法、目標の設定を行う必 要があると考える。. を加える。 自由に制作を進める中で、指や-らの跡から形を立ち. 2-2グレードA「黒陶を楽しもう」 昨年度に開講した「黒陶を楽しもう」の事例研究を基. 上げていったり、板に粘土をたたきっけて生まれる偶然 の形を生かすなど、次第にオブジェへの志向性が芽生え. に、グレードAのあり方について検討を加える。 (1)目的. てくる。幾何学形態を主としたテストピースと、オブジェ 数点を焼成することとなる。. 1940年代、八木一夫をリーダーとする走泥社の活動、 そこで展開された黒陶作品は、土による新しい造形の地. 02月5日 窯作りをはじめる。. 平を切り開いた。また、千葉県立盲学校における西村陽 平の黒陶制作による斬新な美術教育活動がある。. 基礎を作る。一辺700mmの穴を掘り、木枠をはめた 後、穴の底に陶器片を敷き詰めモルタルを流し込んで乾. -52-.

(5) 燥させる。. 一. 6 10. ... .... 02月11日∼. 5 7 0 ^. w. 耐火煉瓦を積み上 'S. B. B. B. H. ^. S. '. げてゆく作業に入る。 耐火セメント1に対 して砂2の割合でモ ルタルを練り、耐火 煉瓦は2分割したも. 86 5. のを組み合せて積み. 2 5 0 一.. 蝣 ^. 上げる。. w. 千. 02月14日 悪童. 窯を2段にするた めロストルを作成す. 衿-B. 2 40 & >.. i,′ ′.-. 弓 真?/. /i.. 近 ま. J=>. る。 溶接については平 成13年度のグレー. 図1窯の見取図. ドA 「金属彫刻を楽しもう」で行っており、参加者のう ち2名は経験者である。 02月15日 電気窯で作品の素焼きを行う。 9時45分に点火、翌14 時に窯出しをする。成形の原則を外れ、かなり自由に制 作したものはこの段階で割れる(およそ3分の1)0 続いて、窯の空焚きを行い、炊き出し口を作っておく。 02月18日 燃料を集める。大学近辺の林に入り、松葉を集める。 また、窯にパイロメーターの挿入口を開ける。 02月19日. 図2焼成前の作品 図3基礎作り 図4耐火煉瓦の積み上げ. 本焼きを行う。 12時に点火、木炭、木屑、木片等を 燃料に直火で灸る。 14時10分、温度は280度。 14時20. 図5窯の完成 図6焼成. 分、 300度になった時点で密閉し松葉を投入。 17時30 分、 270度を確認後翌朝まで放置する。. 図7紙窯での焼成 図8黒陶による学生作品. 02月20日 10時に窯出し。 ある程度の黒色を得ることは出来たが、黒陶本来の黒 には程遠いものとなった。 300度までしか温度が上がら なかったので、燃料の改良、送風機の投入など、改善点 の検討を行う。 2時25分に再び点火。豆炭と木片を燃料とする。 14 時40分に200度になる。 15時より扇風機で風を送り込 み、ベニヤ片を投入する。 16時30分には407度、 18時 には640度まで上昇する。その後密閉し松葉を投入。 02月21日 11時に窯出し。 1回目より深い黒を得ることが出来 た。また、半乾きの状態でよく磨きこんだ作品について は光沢のある美しい黒となった。一般的には700-900 度の焼成温度が必要とされるが、黒陶独自の窯変を体験 することは出来た。 03月∼7月. -53-.

(6) かかせた(図10)c. 一応グレードAは2月21日の窯出しをもって終了し たが、その後も学部学生3名については制作を続け、 7 月13日に「紙窯」による焼成を行う。紙窯は吉田明の 文献(「ギョ!紙窯」双葉社)を参考にした。紙窯では. O黒陶の魅力 (A)火の力のすばらしさ/焼成後に再び新しい作品 と出会えること. 750度まで温度を上げることが出来た。しかし、窯変に おいてむらが生じたことや、新聞紙の重さでおよそ4分. (B)素材のイメージが大きく変化すること/っやの 美しさ ○印象に残る場面. の1の作品が割れてしまったことなどの反省点が挙げら れる。. (A)徹夜明けに窯出しをしたときの感動/森へ松葉 を拾いに行ったこと. その後、作成した窯に濡らした新聞紙をかぶせて焼成 する方法を考案し、現在まで制作を続けている。. (B)窯出し前の緊張感(楽しみなところと不安感). 2-3グレードA 「黒陶を楽しもう」の考察. ○印象に残る指導(指導言) (A)失敗作と思われた作品を評価してくれたこと/. 4名の受講生のうち1名(Aとする)は黒陶に非常に 興味をもち、卒業制作並びに卒業論文のテーマに黒陶を. 道具類の準備/ 「作品はいい悪いではなく面白 い面白くないで判断すること」. 選んだ上、大学院で研究を続けたいとの希望をもつに至っ た。本項では、 Aおよび教職志望の学生Bに、グレード. (B) 「手を動かしなさい」 /粘土を好きなだけ使え. Aで学んだことや意識の変化などを対象化させ、それを 基に考察をすすめる。. たこと/ 「粘土の厚みを考えなさい」 ○課題の難易度 (A)これでよいという到達点がないので非常にむつ. まず2名の学生に、グレードAの初回より今までの、 自分と黒陶との関りにおける意識変化(好感度の変化) を大まかなイメージ曲線で表し、変化の大きな箇所にそ. かしい/5段階で5 (B)なかなか思うように黒くならないのでむつかし. の理由を記述させた(図9)0. い/5段階で4 0教育への展開可能性 (A)素材のよさを引き出すことが出来る点は教育的 であるが、現実的には窯の準備等、困難である (B)磨くことによって質感が変化する点は子どもの 興味を引く/子供への指導は困難 〇日分の制作に繋がる学び (A)土とふれあいながら作品を構想すること(素材 の持ち味を生かして制作すること) /作家の作 品を見たときに、意図や視点がわかるようになっ てきた (B)造形における問題解決のプロセスが体験できた /展覧会を観にいったり画集を見たりと、造形 への興味がわいた. 図9黒陶の好感度曲線 次に、 「黒陶の魅力」、 「印象に残る場面」、 「印象に残 る指導(指導言)」、 「課題の難易度」、 「教育への展開可 能性」、 「自分の制作に繋がる学び」、のそれぞれについ て聞き取った。最後に「土」を起点にイメージマップを. -54-.

(7) の興味を引くといった指摘は的を射ており、教育的な視 座へと繋がるものである。 また、本学は初等教員養成という機能をもっが、制作 活動-の志向性を否定するものではない。むしろ、グレー ドAが継続的な制作活動への意欲を育む一つのきっかけ となる可能性は検討に値する。学生Aは黒陶の制作を通 して制作-の手がかりを得、大学院進学を選ぶこととなっ た。 Aの好感度曲線からは、土との自由な出会いが意欲 を高めたこと、素焼きと本焼き1の失敗が次の課題解決 -と繋がっていったことが読み取れる。 Bは作業の楽し さや窯変の不思議さに素直に反応しているが、後半は追 及心を失っていく。イメージマップにおいても、 Bは拡 散的で土を通した学びの深まりはさほど感じられない。 但し、ここでも磨いて光沢を出すことにこだわっている ことや、 「教材」や「泥団子」 「幼稚園」といった教育の カテゴリーへと連想が広がっていることなど、 Bの教職. 図10 I土」のイメ-ジマッフ ̄. 志望がうなずける。一方Aは土を自然の一部とみなし、 自然(素材)から美を生み出す営みの豊かさを予感して いる。 「陶」と「用」の関係を否定し、 「美術」、 「芸術」 と結んでいることから、 Aの目指す制作の方向性を読み. 黒陶の制作を通して二人が学んだ最も大きな点は、火 による素材の変化という、クレイワークの特徴的な魅力 であったと思われる。窯出し前の緊張感や窯出し後に新. 取ることも出来る。 今後グレードAの目的として、教職という職能的な方. たな作品と出会う感動などについて印象的に語っている。 また、制作活動を行うためには一定の手順を計画的に進. 向に向かうだけではなく、継続的な制作活動への志向性 を育むという点も包摂し、内容や方法の検討を進めてい きたい。. めていく必要があることや、素材の操作を通して構想を 立ち上げてゆく過程などを学んだこと、更には、 「作品 展を良く観にいくようになった」と語っているように、. 続いてグレードAの指導体制について述べる.今回の グレードAでは、学生の主体性を重視し自学自習を促す ため、過度の指導は差し控えるようにした。材料と制作. 美術全般に対する興味が深まった点などは今回のグレー ドAの成果であるといえよう。 学生Aは、 「作品を見る視点や作家の意図がわかるよ. 場所を確保し、黒陶の作品例を示す以外、制作にあたっ ては学生が自分で作品の方向性を模索していけるように、. うになった」と述べているが、自己の制作経験を基に他 者の制作-とまなざしを移し入れるということは、作品. また、窯作りや焼成についての課題解決も出来るだけ学 生間の討議を尊重するよう心がけた。 「印象に残る指導」 に、 「道具類の準備」や「粘土を好きなだけ使えたこと」. 批評の基礎的姿勢であり、教育的視座へも転ずる重要な 気づきであるといえる。 課題の難易度としては、 2人とも困難性を指摘してい. などが挙がっていることからも、活動の条件整備が学生 の主体性を引き出す要件になっていたと思われる。. るが、成形だけではなく窯作りや焼成などの一連のプロ セスを含むことや、焼成温度の問題、黒くするための方. 学生Aの好感度曲線では、成形段階で「自由に粘土を さわれた」ことをライン上昇の理由としているが、この. 法など各段階で解決を要する課題があり、しかも多くの 時間をかけなければならないといった点からも、グレー. ことからも制作内容に踏みこまない支援的立場が学生の 意欲を引き出していたことが分かる。. ド課題としては高度であったと考えられる。グレードA の専門性をどのように捉えるかが課題の一つであったが、. グレードAの形式として、 1回限りのワークショップ より、学生が主体となって継続的に行う今回のような展 開が今後の可能性を示唆しているように思われる。学部. 今回は専門分野の入門というレベルを超え、卒業制作や 卒業論文で扱う程度のものとなっていたといえる。今後 は今回作成した窯を用いることが可能なので、学生の負. 学生3名が中心となり、スケジュールを調整しつつ可能 な限り自主的に活動を行っていったわけだが、窯作りや 焼成に際しては友人を誘い合い、黒陶を媒介としたグルー. 担はやや軽減されるが、グレードAとして要求される実 技水準を設定し、黒陶制作の各段階に軽重をかけた指導 を行う必要があろう。 課題の困難性から、学生は教育への展開可能性は少な. プが拡張されていく様子が覗えたo実技センターとして. いとみている。とはいえ、素材のよさを引き出す体験の. は、学生が自主的に制作活動を行っていくためのきっか けを与え、そしてその活動を支援していくことが本来的. 重要性や、磨くことによって質感が変化する点が子ども. -55-.

(8) な責務であり、今回の事例はそういった点におけるモデ. め、さほど魅力的な課題とはなっていない。また、講座. ルケースとなりえたのではないだろうか。. の授業との差異が不明瞭であり、実際「七宝焼きでアク セサリーを作る」は工芸の授業と重なっているため中止 することになった。. 3、グレードAの今後の展望 「黒陶を楽しもう」の実践から得た、グレードA改善の. 例えば「写生会」も講座の授業で行う場合との差異が 明確でなく、ともすれば趣味的な会に終始してしまう恐. 視点は次の通りである。 ①グレードAの目的として、従来の教員養成に加え、 継続的な制作活動への志向性を育むという点も包摂. れもあるが、テーマを決めて場所の選定をし、継続的に. すること。. 写生会を持ち、額を製作し、作品展を行うといったプロ ジェクト化を図ることによって、グレードAの独自性を. ②制作環境(材料・道具・制作場所)を整備すること。 ③制作に関する情報の提示を行うこと。. 打ち出すことが出来るのではないだろうか。 また、専門領域固有の方法論にとらわれず、今日の美. ④支援的立場から学生への対応を行うこと。 ⑤グレードAを起点に、学生が自主的・継続的に制作. 術が直面している状況を直視することから、グレードA の課題を設定していくことも重要である。環境と関る美. 活動を行っていけるように支援すること ⑥単発的なワークショップだけではなく、継続的な活. 術表現のあり方、癒しを求める表現、民族性を意識した 表現、メディアと関る表現、パフォーマンスやインスタ. 動を保証するプロジェクトを立ち上げること。 ⑦課題の設定、遂行にあたって学生の意見を積極的に. レーション、シュミレーショニズムなど領域横断的な立. 取り入れること。 ⑧制作を進めていくうえでの基本的な手順を身につけ させること. 場からのアプローチが必要なテーマを実技センターが積 極的に担うべきではないだろうか。 今回確認したことを基に、グレードA課題の再検討を 行うとともに、支援体制の整備に努めたい。. 今回の実践で最も示唆的であったのは上記(砂の可能性 である。学生が主体的・継続的に造形的なプロジェクト. おわりに. を立案・遂行していく起点として、グレードAを位置付 けることによって、通常の講座の授業とは異なった、実. グレードAの実践を基に、今後の可能性について見て. 技センター独自の教育活動が具現できるのではないだろ. きた。実技センターの活動を広げ、充実させていくため には、実技センターの置かれている状況の改善が図られ. うか。そのためには学生が必要に応じて使用可能な材料・. ねばならない。大学学部の附属機関としての制度的な拘 束性や、設立よりの経緯、構成員相互の関係による制約 など、実技センターの自在な展開を阻む要素は多い。何. 道具・活動場所を確保しておくことや、情報伝達のシス テムを整備することなどが望まれる。そこで、講座教官 との連携も必要となってくるであろう。実技センター占. よりも先ず、講座と対等な位置関係に立ち、協働の方途 を探るべきであろう。. 有のスペースおよび機材については、一応特定されては いるが、実質的には各専門領域の管轄下となっているた. 今後の実技センターのあり方としては、将来的には学 部の附属機関から美術講座の一領域として、教員養成に. め、センターの自律的な活動は制限されていることや、 各専門領域の教官にその専門性を生かした助言を求める. 向けた基礎的・総合的な実技力の育成と、領域横断的な 視点から青年期の美術教育を担う立場へと移行していく. 場面も想定されるからである。センター教官がコーディ ネーターとなり、講座と協働してプロジェクトを立ち上. ことを期待するものである。 また、実技センタ-が制度改革の渦中でその存在意義. げていく方向で今後検討を進めていきたい。 平成12年度に試案として設定したグレードAの課題. を鮮明にするためには、実技教育についての資料やデー タの蓄積と活用、独自の自学自習プログラムの開発、学. は、 「美術鑑賞会」、 「ヌードクロッキー(木炭/コンテ/ パステル)」、 「写生会(油絵/水彩)」、 「黒陶を作る」、. 部学生だけではなく大学院生や地域の住民などを対象と したサービスの提供などにも着手していくべきであると. 「テラコッタの製作」、 「七宝焼きでアクセサリーを作る」、 「年賀状を作る(孔版/CG)」であった。当時、グレー. 考える。. ド課題を構成するための「規準表」を作成し、それに基 づき、 CからAまで発展性・統一性のある試案を設定し た。しかし、先にも述べたように、 C, Bについては既 に本年度より改訂されているが、 Aは試行錯誤が続いて いる。. C、 Bが領域横断的・総合的な視点で構成されている のに対し、 Aについては、従来からの「専門領域の入門 的な内容を楽しく学ぶ」といった考えに拘泥していたた. -56-.

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参照

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