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統計教育にいま、何が求められているか? : 高校までの数学教育と社会からのニーズの狭間にたつ大学での統計教育のあり方

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Academic year: 2021

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統 計 教 育 に い ま 、 何 が 求 め ら れ て い る か?

高校までの数学教育と社会からのニーズの狭間にたっ大学での統計教育のあり方

中條安芸子

Ideal Educational

Programs

on Statistics

at Universities

Akiko Nakaio

Abstract

Repeatedly revised government guidelines for teaching after World War 11 have lead to the serious concern for education on statistics, because the revisions, e specially the last one, had caused the reduction of items in this category in every education course.

,For example, children will have no chance to learn probability in primary school. Even in higher education, students may not receive an education on statistics because corresponding subjects are optional.

On the other hand, acquiring statistical methods are conspicuously desired these days, resulting in in-house trainings are widely planned. This kind of trainings obviously aims at applying methods in decision making.

For now, programs selected with care at a university are eagerly demanded for providing the last chance to master statistics.

In this paper, after examining the revised guidelines for primary , secondary, and higher education, we present one trial curriculum in statistics allowing for social needs for it.

1.は じ め に 数 学 教 育 に たず さ わ る研 究 者 、 教 育 者 の 間 で は、 小 学 校 か ら高 等 学 校 ま で の 数 学 の カ リキ ュ ラ ム にお い て 、 厂確 率 ・統 計 」 に 関 す る項 目が 減 少 して い る こ と に対 して 懸 念 が 広 ま っ て い る 。 年 間 の授 業 数 の 軽 減 は 、 指 導 内 容 の 削 減 を余 儀 な く して い る が 、 そ の 削 減 対 象 が 「確 率 ・統 計 」 に広 く及 ん で しま っ て い る 。新 指 導 要領 の 実 施 に 反対 す る動 き も あ る 。 戦 後 学 習 指 導 要 領 は、 大 幅 な改 訂 が ほ ぼ10年 ご と に、 そ の 間 に 更 に数 回小 規 模 な 改 訂 が 行 わ れ て き た 。 そ の た び に、 確 率 ・統 計 分 野 の 学 習 内 容 は 、 高 学 年 へ 、 あ るい は上 位 の教 育 課 程 へ と 移 行 し、'高等 学 校 に お い て は 選 択 科 目の項 目 と して 盛 り込 ま れ る よ う に な っ た 。 全 員 が 学 ぶ 必 修 科 目の なか で の 位 置 づ け は 薄 くな っ て い っ た の で あ る 。 そ の 一 方 で 、 企 業 の 社 員 研 修 な どで は 、'統計 的 手 法 が 業 務 で活 用 で きる よ うに した とい う要 望

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が 強 くあ る 。 しか もそ の 内 容 は幅 広 い 。 ッ ー ル と レて 統 計 的 手 法 壷 身 に つ!ナ、 活 用 す る方 向 を見 串せ る よ う}こす!る十 分 な機 会 は 、 大 学 で の4年 間 に凝 縮 され て き た とい っ て も過 言 で は な い 。 本 論 文 で は 、 まず 、 大 学 入 学 以 前 に お け る統 計 教 育 を 、 学 習 指 導 要 領 か ら見 る 内 容 で 検 討 し、 問 題 点 を指 摘 す る 。 次 に 、企 業 で の 社 員 研 修 で は 、統 計 手 法 の 習 得 に つ い て どの よ う な 要 望 が あ る の か 。 ま た 、 筆 者 が 担 当 した研 修 プ ロ グ ラ ム の 経 験 か ら、 研 修 の実 施 上 の 問 題 や 、 取 り上 げ る 内 容 に つ い て 指 摘 す る。 最 後 に 、 以 上 を踏 ま え て 、 大 学 にお け る統 計 教 育 は ど う あ るべ きか 、 意 味 づ け と と も に カ リキ ュ ラ ム の試 案 を提 示 す る。 2.高 校 まで の確 率 ・統 計 に関 連 す る教 育 内容 岡 山 理 科 大 学 の 森 氏 が 、 日本 統 計 学 会 会 報 の な か で 統 計 ・確 率 に 関 わ る項 目 を 新 指 導 要 領 (小 ・中 学 校 は平 成14年 度 、 高 等 学 校 は平 成15年 度 か らの 実 施)の なか か ら抜 き 出 し て い る の を ま とめ る と、 次 の よ う に な る 。 表1:各 教 育 課 程 る学 年 別 の 確 率 ・統 計 の項 目

教育課程

学 年 項 目 改訂部分

小学校

2年 生 簡単 な事柄 の分類i整理 な し 3年 生 資 料 の 表 現 と読 み と り な し 4年 生 資 料 の収 集 ・整 理 な し 5年 生 資 料 の分 類 整 理 と グ ラ フ に よる 表 現 平 均 を削除 6年 生 平均 統 計 的 な考 察 、起 こりうる場 合 を削 除 中学校 1年 生 (該 当 す る 内 容 は な し) な し 2年 生 確率 資料 の整理 を削 除 3年 生 (該 当 す る 内 容 は な し) 確 率 、 標 本 と母 集 団 を削 除 高等学校 数学基礎 身近 な統 計 新 設 科 目。 数 学1と の選 択 必 修 数学A 場合 の数 と確 率 項 目を新設 数学B 統 計 と コ ン ピ ュ ー タ 確 率分布 を削 除 数学C 確 率分布 、統計処理 代 表値 と散布度 を削除 森 裕 一 厂学 習 指 導 要 領 と 確 率 ・統 計 」(日 本 統 計 学 会 会 報N(L103,2000.3.10)よ り作 成 な お 、 高 校 の数 学1、 数 学H(選 択 科 目)、 数 学 皿(選 択 科 目)に は 、 確 率 ・統 計 の 内 容 は含 ま れ て い な い 。 問 題 点 は 、 第 一 に 、 小 学 校5年 生 で十 分 学 ぶ こ との で き る 「平 均 」 を6年 生 に移 し、 現 行 の 指 導 要 領 で6年 生 の うち に学 ん で い る 「統 計 的 な 考 察 」(度 数 分 布 表 な どが 含 ま れ て い る)や 厂起 こ り う る場 合 」 を全 て 削 除 した こ と。 第2に 、 中 学 校 で は2年 生 で の み確 率 を学 び 、 統 計 的 な こ と は3年 間 扱 わ ない こ と。 第3に 、 高 校 で は 、 数 学1と 数 学 基 礎 が 選 択 必 修 の た め 、 学 校 に よ っ て は 数 学1を 設 定 し、 そ の 後 数 学A,B,Cの 科 目の 履 修 状 況 に よ っ て は 生 徒 は確 率 ・統 計 に 関 す る 一76一

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項 目は3年 間 学 ば ない 可 能 性 が あ る こ と。 以 上 の3点 に ま とめ る こ.とが で き る 。 よ っ て ρ こ う 中 学 ・高校6年 間丶 統 計 的 考 察 に触 れず に終 わ る こ とが 予 想 され る。 古 典 的 確 率 の 導 入 部 分 は 、 起 こ り う るい'ろい ろ.な場 合 を論 理 的 に想 定 して 数 え 上 げ る と い う能 力 を 育 て る もの で あ り、.小学 校 で は学 ば ず 、 中 学 校 の 時 も わ ず か な期 間 しか触 れ る こ とが な い の は ぐ の ち の ち に 統 計 的 手 法 を活 用 す る場 面 で再 び古 典 的確 率 を初 歩 か ら学 ば な け れ ば な ら な い状 況 を必 然 的 に招 い て い る 。 高 校 で の 科 目の 設 定 に お い て は ≦ 選 択 科 目 とい う位 置 づ け に な っ て い る もの は 、 大 学 入 試 の科 目 に採 用 さ れ て い な け れ ば は ず す と い う こ とが 可 能 と な っ て し まい 、 た と え ば 、 こ の こ と は現 行 の 数 学Cで もす で に生 じて い る 。 現 行 の 数 学Cで は 、代 表 値 と散 布 度 、相 関、母 集 団 と標本 、正規 分 布 、 推 定 、 とい っ た 統 計 の 考 え 方 の入 門 とな っ て い る の だ が 、 この 科 目 を高 校 時 代 に学 ん だ と い う大 学 生1ま非常 に少 な い 。 新 指 導 要 領 の 下 の 数 学Cに 盛 り込 ま れて い る の は さ ら に本 格 的 な記 述 統 計 や確 率 統 計 の 分 野 で 、 そ の項 目 を挙 げ る と、 ① 確 率 分 布 … 条 件 付 き確 率 、 確 率 変 数 、2項 分 布 、 平 均 、 分 散 、 標 準 偏 差 、 な ど ② 統 計 処 理 … 正 規 分 布 、 母 集 団 と標 本 、・統 計 的 推 測 で あ る 。 しか し、 せ っか く設 定 して い で も こ れが 学 ば れ る 見 込 み は少 な い 。 算 数 、 数 学 の科 目で 確 率 ・統 計 が軽 視 さ れ る と、 他 の 科 目、 た と え ば社 会 や 理 科 に も影 響 が 出 る 。 資 料 を読 み と、った り作 成 した りす る場 面 が 頻 繁 に あ る か らで あ る。 3。 統 計 教 育 へ の社 会 的 二 兩 ズ と浮 上 した問 題点 企 業 の社 員 研 修 の プ ロ グ ラ ム の 憎 つ と し て 、 統 計 学 の コ ー ス を設 定 し、 そ の 講 師 を請 け 負 う こ とが あ る 。 要 請 さ れ るプ ロ グ ラ ム の特 徴 と して は く 対 象 が企 業 の 業 種 に 関係 な い こ と、 さ らに、 企 業 内 の 職 種 に 関 係 な い こ とで あ りぐ これ はす な わ ち 、 幅 広 い業 務 の 中 で 統 計 的 手 法 を踏 ま え て い る ζ とが基 礎 中 の基 礎 で あ る との 企 業 側 の 認 識 の 表 れ で あ る6社 内 で の 報 告 書 の 作 成 、 ク ライ .ア ン トに対 す る プ レ ゼ ン テ ー シ ョン の 際 に 、 わ か りや す い グ ラ フの 提 示 か ら、 統 計 指 標 の 提 示 、 デ ー タ め 分析 まで 必 要 とな っ て くる の で あ る 。 統 計 教 育 の 重 要 性 を理 解 し、・そ れ へ の ニ ー ズ の あ る こ とは わ か っ た 。 ま た 、 こ う した 重 視 す る 傾 向 も変 わ ら な い で あ ろ う 。 問 題 は 、『ま ず 第 一 に、 そ れ で は企 業 の 人 材 開 発 な どの研 修 を企 画 す る部 署 が 、 統 計 学 の 研 修 コ ー ス の プ ロ グ ラ ム を独 自 に 組 め る か と言 う こ と で あ る 。 た い て い の場 合 、 企 画 書 の 段 階 で は一 般 的 な 統 計 学 の テ キ ス トに列 挙 して あ る項 目を並 べ た だ け で 、 しか も少 な1い時 間 の わ りに は 多 くの 項 目 を盛 り込 ん で あ る か な り 「過 酷 な」 プ ロ グ ラ ム に な:って し ま う。*1項 目が 思 い つ くな ら ば ま だ よい ほ う で 、 統 計 学 的 手 法 を学 び た い が プ ロ グ ラ ム 自体 が ま っ た く立 て ち れ な い こ と もあ る。 1あ る会 社 で は 次 の9つ の 項 目を2時 間 で 学 ぶ とい う企 画 書 を は じめ に作 成 して きた 。 ① 正 規 分 布 ② 相 関 分 析 ③ 回 帰 分 析 ④ デ ー タ か ら将 来 を予 測 す る手 法 ⑤ 時 系 列 分 析 ⑥ 区 間 分 析 ⑦ 多 変 量 分 析 ⑧ 分 散 分 析 ⑨ 表 計 算 ソ フ トが あ る もの は そ の紹 介 も入 れ る。 これ を 実 行 した と して も、 研 修 の効 果 が あ る とは期 待 で き ない 。

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第 二 に 、 統 計 学 の研 修 と言 っ て もそ の 目的 は何 か をつ きつ め て い な い こ とが 多 い 。 大 まか に言 っ て 、 記 述 統 計 や 簡 単 な 回 帰 分 析 な ど よ く使 わ れ る 手 法 の 習 得 に重 点 をお くの か 、 デ ー タ分 析 の あ とそ の結 果 を どの よ うに 業 務 、 経 営 の 意 思 決 定 に 反 映 して い くの か の 情 報 の 読 み 取 り(情 報 の 活 用)に 重 点 を お くの か 、 の2つ に分 け る こ とが で き る の だ が 、 後 者 を意 識 して 研 修 を企 画 す る こ とが なぜ か 少 な い 。 手 法 を学 べ ば 、 そ れ を用 い た分 析 が科 学 的 に な っ て す ば ら しい 結 論 を導 き 出 して くれ るの で は な い か とい う過 大 な期 待 が あ る 。 時 系 列 デ ー タ の取 り扱 い につ い て話 をす る と、 トレン ドの 推 定 か ら完 全 な市 場 予 測 が で きる と思 わ れ が ち だ が 、*2む し ろ予 測 が外 れ た と きに 、 設 定 した モ デ ル や扱 っ た デ ー タ の処 理 が 適 切 で あ っ た か が 見 直 せ る 能 力 を養 う こ とが 肝 心 で あ る 。 内容 に関 す る 問 題 点 と して は 、 ま ず 基 本 的 指標 へ の 誤 解 が あ る 。 平 均 値 は 中 心 の尺 度 の 一 つ で 、 得 られ たす べ て の デ ー タ を 用 い て 算 出 す る の で 情 報 を無 駄 に しな い 面 で は 優 れ て い る が 、 逆 に す べ て の デ ー タ を使 う た め に極 端 な 値 に 影 響 を受 け る 。 そ の た め 、 平 均 値 の 変 動 だ け を見 て も、 デ ー タ全 体 が 同 じ方 向 へ 動 い て い る とは 言 え な い。 また 、 平 均 値 は 真 ん 中 の 指 標 で は な い 。 た と え ば 、 貯 蓄 デ ー タ を 見 る と、 平 均 値 よ り少 な い 貯 蓄 の 世 帯 は全 体 の3分 の2以 上 あ る こ と もあ る 。 した が っ て 、 平 均 値 以 外 の 中 心 の 尺 度(中 央 値 や 最 頻 値)と 平 均 値 と を比 較 し、 さ ら に散 らば り の 尺 度(分 散)を あ わ せ て み る こ と に よ り、 得 られ た デ ー タ セ ッ ト(標 本)の 特 性 を と ら え る 。 分 散 な どは 検 定 の 際 に使 うだ け で な く、 標 本 の 多 様 性 と して の 意 味 合 い の あ る こ と を忘 れ て は な らな い 。 第 二 の 問 題 点 と して 、 必 要 な デ ー タ を収 集 す る とい う行 為 が 、 特 に独 自 に調 査 を して 行 う場 合 、 標 本 抽 出 で あ る こ と を意 識 して い な い よ う で あ る。 ア ンケ ー トな どの 調 査 は 、 調 査 の 対 象 の 選 定 、 調 査 項 目、 回 答 方 法 、 調 査 時 期 、 調 査 の 回 収 方 法 等 を どの よ う に行 うか に よ って 結 果 に 影 響 を 及 ぼ す 。 と こ ろが 、 実 際 の研 修 で は 、 どの よ う に調 査 対 象 を絞 っ た ら よい か とい う質 問 もあ り、標 本 抽 出 の手 順 が 取 られ て い な い こ と もあ る 。 雑 誌 な ど で よ く見 か け る ア ン ケー トの結 果 も、 標 本 の 絞 り方 が あ い まい で あ る と きは う の み に で き な い 。 た と え外 部 の 調 査 機 関 に調 査 を委 託 す る場 合 で 転 標 本 抽 出 の 手 法 が 取 られ て い る か ど うか 内部 で も判 断 で き な け れ ば な らな い 。 第 三 の 問 題 点 と し て は 、 得 られ た数 値 デ ー タ の う ち 、 そ の ま ま利 用 す る もの と 、 目 的 に 応 じて 必 要 な 加 工 を施 して か ら利 用 す る もの が あ る こ との 判 断 に 自信 の な い こ とが あ る点 で あ る 。 原 デ ー タか ら基 本 的 な 指 標 を確 認 した 後、 指 数 に加 工 す る場 合 、 トレ ン ドを除 去 す る場 合 、 季 節 変 動 を取 り除 く場 合 とい っ た よ う に 、 どの よ うな と き に ど の よ う な処 理 を して か ら分 析 に入 る か 、承 知 して い な け れ ば な らな い 。 第 四 に 、 数 値 と し て得 られ な い 性 質 の 項 目 は どの よ うに 取 り入 れ た ら よい か が 、 あ ま り知 られ て い な い 。 定 性 要 因 を考 慮 す る の を あ き らめ て し ま う と、 考 え るモ デ ル が 制 約 さ れ て し ま う6ダ ・ミー 変 数 な ど を使 う こ と に よ り容 易 に モ デ ル に取 り込 め るの で あ る 2研 修 後 の 質 問 で も予 測 に関 す る もの が 目立 っ て多 い。 実 務 で は 予 測 が 外 れ や す く、統 計 学 を学 べ ば 予 測 は外 れ な くな る と考 え られ て い る よ うで あ る 。 一78一

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4.大 学 で の統 計 教 育 (1)大 学 で学 ぶ意 味 と位 置 づ け 以 上 の よ う に 、 大 学 入 学 以 前 に統 計 的 思 考 や 手 法 に触 れ る 機 会 の 少 な さ、 社 会 的 な ニ ー ズ が あ りな が ら手 法 を利 用 す る現 場 で の 問 題 点 の多 さが わ か る。 そ こで 、 大 学 で 統 計 学 を学 ぶ 意 味 が か な り大 き くな る こ とが 理 解 で きる し、 また 、 科 目 の位 置 づ け も、 特 定 の 学 部 に属 す る専 門科 目 と い う よ りは 、 学 部 ・学 科 の 専 攻 に 関 わ らず 設 定 す べ き 「教 養 科 目」 的 に な る で あ ろ う。 目的 は 、 問 題 解 決 に必 要 な情 報 の判 断 能 力 、 そ う した 情 報 の 収 集 能 力 、情 報 を 分析 して そ の結 果 の 示 す 意 味 を読 み取 り活 用 で き る能 力 、 を養 う こ と に あ る 。 (2)統 計 学 カ リキ ュ ラ ム に関 す る 試 案 高 校 まで の 数 学 の 内 容 か ら考 えれ ば 、 有 効 桁 数 や 表 現 す る グ ラ フ の 選 択 、 記 述 統 計 か ら始 め る 必 要 が あ る。 検 定 の 手 法 な ど で は あ ま り専 門 的 な もの まで は欲 張 らず 、 シ ン プ ル な 手 法 で 明確 な 結 論 を導 くほ う に 主 眼 を 置 く。 モ デ ル の構 築 にお い て も膨 大 な 連 立 方 程 式 に よ る記 述 よ りは 、 土 台 と な る 基 本 的 な理 論 を踏 ま え た 、 操 作 性 の よい モ デ ル で 説 明 力 の高 い ほ うが 価 値 が あ る 、 と い う こ と を伝 え る。 こ こで 、 統 計 学 の カ リキ ュ ラ ム を試 案 と して提 示 した い 。

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表2統 計 学 カ リキ ュ ラ ム 案 項 目 目 的 内 容 時間数 (コマ数) デ 「 タの種類 数 値 以 外 の デ ー タ も あ る こ と を知 る 収 集 す る情 報 として数値 ばか りで な く、属 性 として 取 り扱 う定性 要 因 も無視 して はな らない こ とを知 る。 有 効桁 数 の考 え方。 指 数 の作成 方法 。 1 記述統計 基本 的 な指標 の意 味 を知 る デ ー タ の 特 性 を 中 心 の 尺 度 と散 ら ば りの 尺 度 で 表 す こ と を 学 ぶ 。 実 際 の 算 出 は ア プ リケ ー シ ョ ン ソ ラ トを使 用 す る と して も、 どの よ う に 計 算 を して い る か の 指 標 の 成 り 立 ち は 理 解 す る 。 1 グラ フの作成 と 読 み取 り デー タの性 質 や分析 目的 に応 じたグ ラ フ の作 成が で きる 単 純 な 折 れ 線 グ ラ フ 、 棒 グ ラ フ か ら ヒス トグ ラ4 (規 準 化 相 対 度 数 柱 状 図 も含 む)の 作 成 に 際 して 、 どの よ う な グ ラ フ を 提 示 した ら説 得 力 が あ る の か を 理 解 す る。 グ ラ フ か ら何 が 読 み 取 れ る の か まで を プ レゼ ンテ ー シ ョ ンが で き る よ う に す る。 2 標本 抽 出 デ ー タ の 収 集 と は標 本 抽 出 で あ る こ と を 知 る 特 に母 集 団 リス トに関 す る知 識 を生 か した標本 抽 出 方 法 の代 表 的 な もの を学 ぶ。 層 別抽 出法 や系統 抽 出法 、多段 階抽 出方法 な ど。 非標 本 誤差 の発生 して い る場 合 を理解 し、そ の よ う な こ とが ない よ うに調査 計画 を立 て られ る よう にす る。 1 時 系 列 デ ー タ 時系 列 デー タの取 り 扱 い方 を学 ぶ トレ ン ドの推 定 、 トレ ン ドの 除 去 、 季 節 変 動 の 除 去 の た め の 移 動 平 均 法 な ど。 1 相 関関係 複数 の事柄 の 因果 関 係 の深 さ を見 る 相 関係 数 の意味 。 1 古典的確率 場 合 の数 の数 え方 と 古 典 的確 率 順 列 ・組 み合 わせ 。 確 率 とは 。 加 法 定 理 と乗 法 定 理 。 条 件 付 き確 率 。 1 確 率 モ デル 確 率 モ デルの考 え方 と確率 分布 の紹介 なぜ 確 率 モ デ ル の 考 え方 を取 り入 れ る の か 。 ベ ル ヌ ー イ試 行 。2項 分 布 。 ボ ア ソ ン分 布 。 正 規 分 布 。 2 回帰分析(1) モデ ルの構 築 と推 定 簡単 なモ デルの構 築 。単純 回帰 分析 に よる推 定方 法。 1 回帰分析(2) 推 定 され たモ デルの 説 明力 を判 定 決 定 係 数 。 推 定 さ れ た パ ラ メ タ の検 定 。 自 己 相 関 の 有 無 の 判 定 、 な ど。 計 算 過 程 よ り は ア プ リ ケ ー シ ョ ン ソ フ トで 出 力 され た もの か ら何 を読 み 取 れ る か の 判 断 の ほ う に 重 点 を 置 く6 2 ま とめ 実 際 のデ ー タで情 報 活用 が で きる こ と 具 体 的 で よ く使 わ れ る デ ー タ を 用 い て そ れ を分 析 し、 い っ た い そ こ か ら何 を 提 示 で き る の か を 考 え る。 2 一80一

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従 来 か らあ る科 目で 、 た とえ ば経 済 統 計 論 や 計 量 経 済 学 な ど に盛 り込 ま れ て い た 項 目が あ る。 こ こで は デ ー タ分 析 に 必 要 と判 断 して 、 そ れ ら を含 ん で い る。 前 半 は 、 広 くい え ば 情 報 の 取 り扱 い に 関 係 す る もの で あ る。 どの よ う な もの が 分 析 の土 壌 に の る 情 報 な の か を知 り、 まず デ ー タ を手 に し た と き に ど の よ う に取 りか か る か の 作 法 を学 ぶ 。 も と も とが 数 値 で 表 され て い な い 情 報 も、 数 値 化 して 分 析 に取 り入 れ る こ とが 可 能 な こ と を は じめ に 言 及 した ほ う が よい 。 平 均 値 や 分 散 とい っ た よ く知 られ て い る指 標 も、 前 述 した よ う な誤 解 や 活 用 し きれ て い な い こ とが 十 分 考 え られ る の で 、 成 り立 ちや 意 味 を 中 心 に 学 ぶ 。 中 心 の 尺 度 と散 ら ば りの 尺 度 が 計 算 さ れ た段 階 で 、 そ こか ら何 が い え る の か を考 え る 。 ま た、 数 値 デ ー タが 示 して い る こ と を わ か りや す く表 現 す る に は 、 表 現 した い 目的 にそ く した グ ラ フへ の 加 工 が 必 要 で あ る の で 、 表 した い こ と とグ ラ フ の 種 類 の 適 切 な組 み 合 わせ を実 際 に プ レゼ ンテ ー シ ョ ン を しな が ら身 につ け る 。 以 上 の と こ ろ まで は 、 大 学 入 学 以 前 に 厂統 計 的 考 察 」 に触 れ て い な い こ と に よ る入 門 的 な 部 分 で あ る 。'・ 次 に デ ー タ の収 集 、 す な わ ち 標 本 抽 出 の 方 法 で あ る 。 た い て い の 調 糞 は 全 数 調 査 で は な い の だ か ら、 どの よ うに 標 本 を選 ぶべ き な の か を知 る 。 調 査 の 方 法 を誤 っ た り、 回 答 率 が 低 い 場 合 な ど 非 標 本 誤 差 の 発 生 を抑 え て 、 有 効 な調 査 に よ っ て デ ー タ を収 集 す る よ う に調 査 の 計 画 を立 て られ る よ うに す る こ とが 目標 で あ る 。 扱 うデ ー タ と して は 時系 列 デ ー タ が 多 い の で 、 なぜ 時 を経 る と値 は変 化 す る の か を変 化 要 因 の 性 質 に 分 解 し て考 え 、 必 要 な処 理 を行 う こ と を学 ぶ 。 た だ 、 トレ ン ドの 推 定 方 法 と して最 小 二 乗 法 を用 い る が 、 手 法 だ け な らば ア プ リケ ー シ ョ ン ソ フ トを用 い て 計 算 が 可 能 で あ る の で 、 最 小 二 乗 法 の 意 味 合 い や 前 提 と し て い る こ とな どに は 回 帰 分 析 の 項 目で 触 れ れ ば よい 。 どの よ う な と き に トレ ン ドの 推 定 をす る の か 、 どの よ う な トレ ン ドの 形 が 考 え られ る の か を知 る こ と に重 点 が あ る 。 ほ か に 、 季 節 変 動 の 除 去 に は 移 動 平 均 を 使 う こ と を学 ぶ 。 公 表 され て い る デ ー タ に は 「季 節 調 整 済 み 」 の もの もあ るの で 、 そ れ は なぜ 季 節 調 整 をす る の か 、 どの よ うに行 う の か を 知 る 。 相 関 関 係 は 、 高 校 で現 行 の 数 学Cに お い て 扱 っ て い る が 、 前 述 した よ う に ほ と ん ど学 習 さ れ て` い な い 。 ま た今 後 も学 習 され る と は考 え に くい 。 そ こ で 回 帰 分 析 で の モ デ ル構 築 の 前 に物 事 の 関 連 を表 す 指 標 と して学 ん で お く 。 確 率 に つ い て も 、 中 学 校2年 生 で 触 れ て い ら い そ の 考 え 方 を用 い る場 面 は教 科 の 中 に は な くな る の で 、 改 め て 学 ぶ と と'もに、 条 件 付 き確 率 は 大 学 以 前 で は習 わ な い 学 生 が 多 くな る と考 え ら れ る の で 内容 に入 れ て お き た い 。 次 の 段 階 で確 率 モ デ ル の 考 え方 と よ く使 わ れ る確 率 分 布 を学 ぶ の で 、 そ の 際 に期 待 値 の 考 え 方 を用 い る た め 、 ど う して も古 典 的 確 率 の 項 目 を 避 け て は 通 れ な い と 考 え られ る。 最 後 に 回 帰 分 析 を学 ぶ 。 モ デ ル の構 築 に は 、 立 脚 す る理 論 を知 ら な け れ ば取 り入 れ る 変 数 の 判 断 が で きな い 。 一 方 で 、 現 実 の世 界 を正 確 に 表 現 し よ う とす るモ デ ル は つ くる こ と が で き な い 。 そ こ で 、 こ の 節 の は じめ に も述 べ た よ う に 、 理 論 に の っ とっ た で き る だ け 操 作 性 の あ る シ ン プ ル な モ デ ル を つ くる こ とが 肝 心 で あ る こ と を伝 え る 。 モ デ ル の推 定 、 推 定 し た モ デ ル の説 明 力 、 推 定 した パ ラ メ タの 有 意 性 な ど を見 て 、 自 己相 関 は 発 生 して い ない か の 判 断 な ど、 一 連 の 最 も よ く 使 わ れ る推 定 か ら検 定 の 手 順 を実 際 の デ ー タ で行 っ て 、 そ の 過 程 を 理 解 す る。 計 算 自体 は ア プ リ ケ ー シ ョン ソ フ トで 簡 単 に行 う こ とが で きる の で 、 出力 さ れ た 結 果 か らい か に判 断 さ れ る か 、 ま た 、 予 想 し て い た よ うな結 果 が 得 られ なか っ た 場 合 、 ど こ ま で さか の ぼ っ て分 析 を反 省 す る の か 、

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そ ち らの ほ うが 重 要 とな る 。 で きれ ば 、表2の よ う に 「ま とめ 」 と して 、 デ ー タ の取 り扱 い か ら分 析 、結 果 を 読 み 取 っ て の プ レゼ ン テ ー シ ョ ン まで を 実 習 し、 当 初 目的 と した 分 析 が 成 功 して い る か ど うか ま で をで きる よ う に した い 。 5.お わ り に 分 数 や 小 数 計 算 の で き な い大 学 生 が い る とい う本 が 反 響 を呼 び 、 大 学 生 の学 力 低 下 の危 機 が 叫 ば れ た 。 学 力 の 低 下 と言 う よ りは 「分 散 化 」 な の だ が 、 そ れ に加 え て 事 態 を深 刻 に し て い る の は、 以 前 の 指 導 要 領 を 念 頭 に お い て い る わ れ わ れ に は信 じが た い ほ ど、 大 学 入 学 以 前 に学 ん で くる 項 目が 少 な くな った こ と で あ る 。 しか し、 あ き らめ て は な らな い 。 統 計 教 育 を行 う最 後 の場 所 が 大 学 とな っ た 。 企 業 に広 ま っ て い る統 計 的 な手 法 を共 通 言 語 と し て位 置 づ け た い とい う、 非 常 に 大 切 な 認 識 に も応 え るべ く、 大 学 に お け る統 計 教 育 を よ り推 進 して い き た い 。

参考文献等

1.中 條 安 芸 子 「大 学 に お け る 専 門 教 育 に 基 礎 学 力 は 必 要 か?」1999年 度 数 学 教 育 学 会 秋 季 例 会 発 表 論 文 集1999.9.28-29 2.中 條 安 芸 子 「大 学 に お け る 統 計 教 育 に 求 め ら れ る も の 」2000年 度 数 学 教 育 学 会 秋 季 例 会 発 表 論 文 集2000.9.25-26 3.平 川 孝 三 郎 「高 校 数 学 に お け る 正 規 分 布 の 位 置 付 け に つ い て 」 第68回 日 本 統 計 学 会(北 海 道 大 学)2000.7。26-28 4.森 裕 一 「学 習 指 導 要 領 と 確 率 ・統 計 」 日 本 統 計 学 会 会 報No.1032000.3.10 5.文 部 省 ニ ュ ー ス 「学 習 指 導 要 領 」htΦ:〃www.monbu.gojplnews/00000317! (著者 な か じ ょ う あ き こ 文教 大 学 情 報 学 部 平 成12年9月21日 受 付 〉 一82一

参照

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