幼児期の心の理解の発達と視点取得の過程について
小沢 日美子
On the Development of the Understanding of the Mind in Infancy,
and the Process of “Perspective - Taking”
Himiko OZAWA
幼児期の心の理解の発達について,知覚的な情報アクセスにより見るための協応関係 を促すと考えた手がかり提示を視点取得課題に用いて検討した。手がかり作用の影響か ら,幼児期より情報アクセスと知識のつながりの洞察は進められているが,作用の発達 差から,5 歳児 6 歳児は,それぞれに知識のつながりが促されることが示唆され,幼児 期の視点取得過程においても,ゆるやかな三者関係的な構造化やその理解が始まってい ると考えられる。 Ⅰ.問題 1.心の理解研究のはじまり 子どもは,いつ頃から,人の心の存在やその働きに気づくのだろうか。7 ヶ月の乳児が, 人は外部からの力がなくても自由自在に移動するが物体は外部から力がかからないと自ら動 くことはないということを理解できているという(Woodward et.al.,1993)。人が,人と物 の動きについての因果性には違いがあり,物の動きのような因果関係では人は予期できない 行動をするのは,「心」という内的世界を持ち,その内的世界によって行動するからといえる。 それでは,人は内的世界である「心」というものの存在そのものについても,人生早期から 理解しているのだろうか。また,「心」という存在を理解し,その働きについて認識した知 識やその理論をもつようになるのは,いつ頃なのだろうか。内田(1985)によれば,人の 因果的な推論のはじまりは5 歳後半過ぎだという。乳児初期には前から後ろへの関係を因果 的に知覚することはできるが結果から原因に遡ることはできない。しかし,5 歳後半過ぎに なると原因から結果を推測するだけではなく,結果から原因に遡って推測するための可逆的 操作が使えるようになって因果推論が成立するようになるという。このように乳児初期の因 果的な知覚が,因果的な説明の枠組みをもつものへと変化していくことと,内的世界である 「心」というものの存在そのものについて理解していくこととは,同じような発達過程を推 移していくのだろうか。Piaget,J.(1926)によれば,認識の発達は,①感覚運動期,②前操作期,③具体的操作期, ④形式的操作期の 4 つの段階に分けられる。前操作期にあたる幼児期には,心的操作は不完 全であるが,言語の組織的な習得が始まると同時に象徴機能ができあがってくるという。そ の後に概念化が進むと,事物を分類し関連づけることが進歩する(直感的思考段階)ように なるが,推理や判断が直観作用に依存しているため知覚的に目立った特徴に左右されやすい。 そのために論理的な思考の枠組みができ上がりつつも,知覚的束縛との葛藤事態では知覚的 特性が優勢となる。したがって,「見え」が変わっても対象の本質は変わらない保存の概念 課題,後述する視点取得課題などでも目前の知覚に束縛された反応を示すと考えられている。 つまり,幼児は,因果的な説明の枠組みの獲得過程で,目前の「見え」に依存しやすいが, 動作や感覚などの体性的な感覚に頼らずに自由に心的操作ができるようになると,ものの存 在や機能についての概念形成ができるようになってくると考えられる。 2.心の理解研究の展開 子どもにおける心の理解についての研究は,考えや夢のような心的現象の理解を研究し た Piaget,J.(1926)によって始められたといえる。4 歳から 12 歳の子どもに対し,「夢はど こから来るのか?」「人はどこで考えるのか?」などといった質問を面接の中で行った。そ の後,発達のいくつか異なる段階において,思考の特徴と全体的な統一性を求めた結果,子 どもは 6 歳以前には心的状態を理解していないと結論づけた。そして,6 歳以前の子どもの 思考の特徴を説明するのに,「実在論(心的存在と物理的な物とは区別できない)」「汎心 論(物理的存在にも心的特性がある)」「自己中心性(主観性も客観性ももたない子どもの 思考的特徴)」という 3 つの概念を提出したのである。つまり,幼児は心的現象を物理的実 態であるかのようにみなし,心的存在は物理的世界の特性があると考え(「実念論」),反対 に物理的存在には心的な特性があると考えるという逆の誤りをし(「汎心論」),このよう な子どもの思考特徴を説明し得るのが自己中心性であるとした。自己中心化から脱中心化 への発達図式を描いたPiaget,J.(1948)の視点取得研究では,特に1970 年代以降,視点取 得(perspective-taking)について社会的認知能力に焦点をあてた研究が行われるようにな り(e.g.,Borke,H.1975; Flavell,J.H.1992),課題や質問の負荷を軽減するよう配慮していくと Piaget の発達像と比較し,幼児がより有能であるということが示されている。 3.他者の心の理解の発達と視点取得 子安(1999)によれば,視点取得及び視点取得における他者の心の理解は,次のように 考えられる。「自己と他者の視点が必ずしも一致しないこと,したがって対象の見え(view) や相(aspect)も個人間で同一でないことに気づくことは,自−他の分離の意識につながる。
そして,自己視点とは異なる視点に立つ他者がどのようなもの(視覚表象)を見ているかを 推測することが,他者の心の理解の基礎にある重要な情報となる。このような,視点の異な る他者のもっているであろう視覚表象を推測する行為を視点取得(perspective-taking)と いうのである」。視点取得研究で提唱された幼児の自己中心性概念(Piaget,1948)を越える ことが目指される中で出現した研究に心の理論研究がある。視点取得研究と心の理論研究は 同じように単一の心をモデルに考えているが,視点取得研究では,他者がどのように見てい るかに焦点が当てられており,心の理論研究では,他者がどのように思っているかに焦点が 当てられている。いずれも他者の心の理解を求めているが,視点取得研究では,主に,いま, ここの空間的な関係の変化について,自分と異なる他者の見えの理解を求めており,心の理 論研究では,主にストーリー性など,課題の構造的変化において,自分と異なる視点に立つ 他者の信念の理解を求めていると考えられる。 4.空間概念の発達と視点取得 Piaget,J.(1948)は空間概念の表象段階の発達を 3 つに分けて説明している。①「位相的 空間概念(l�espace topologique):接近・分離・連続・包囲・順序などの点からものの性質を抽 象する」,②「射影的空間概念(l�espace projectif):物体や形が 1 つの視点を通して結びつ けられるような空間が成立する」,③「ユークリッド的空間概念(l�espace Euclidien):水 平−垂直という強固な枠組みによってその位置が定められ,距離・大きさ・角度・水平といっ た概念がすべて保存されるようになる」である。これらは概ね順に出現し相互に作用しなが ら発達していくと考えられている。 5.視点取得研究の展開 Piaget,J.& Inhelder,B (1948)は射影的空間概念の段階における視点の弁別と協調を扱っ た視点取得課題である。この研究以降,特に 1970 ~ 80 年代頃まで数多くの追試的研究が行 われた。20 世紀半ばから後半にかけて, Piaget,J.(1948)の実験結果の再現可能性と,同 時に,Piaget 理論の一般化可能性を確認する追試的研究が盛んに行われた(e.g.,田中,1968; Shantz & Watson,1971;岩田,1974;Borke,1975;渡部,1987;子安,1990;鈴木,1993;杉村 ら,1992)。課題設定を工夫し詳細に分析し直す研究が継続的に行われ,幼児は自己中心的な 反応しかできないという単純な図式から幼児のもつ有能性が検討され,その後,発達の図式 に関してもいくつかの仮説が検討されている(e.g., 鈴木ら ,1991; 杉村 ,2000)。Piaget(1948) の追認から始められた視点取得研究の流れだったが,論理的一般化の過程では,幼児の有能 性を示すために正答率を上げることを目指す研究の展開の中で,この問題が子どもの心の理 解のどの領域をどのように説明するのか,あまり十分な検討がなされてこなかったといえる。
幼児の空間的な自己中心性について,鈴木(1993)は,「切り取り」という独自の視点か らの捉えなおしを試みている。鈴木(1993)は,(a) 他視点への移動の効果と(b) 刺激布 置の回転の点から,先行研究を考察すると子どもは与えられた刺激材料の構成要素を空間的 に表象する際,自己視点だけでなく刺激材料をとりまく空間的文脈にかなり依存しているこ とが示され,子どもは各対象の位置をすべて自己視点に関係づけているとは必ずしもいえな いと述べる。刺激材料を「見えるとおり」に再生するためには,実在感覚に支えられた認識 の次元から,「見え」という形で一定の範囲の空間関係を抽象化する,いいかえるならば,「切 り取る」必要があると述べる。因果的な知覚が発達する幼児期の空間認識において,視点取 得課題の枠組みを超えた「実在感覚に支えられた認識の次元(鈴木,1990)」を認めている。 つまり,(1)課題本来の教示が指示している前方視野内における手の届くような空間の次元 と(2)自己が定位している比較的大きな空間の次元があるといえる。(2)は,自己(主体) が存在する動的空間における認識を指すのだが,(1)は,より小規模で静態的な空間で,「見え」 という形で一定の範囲の空間関係を抽象化することが求められると考えられる。そのために は,動的空間を,一旦,自己と切り離し,静的空間の次元で扱うことができるようになるこ とが必要である。つまり,主に自己が関与する空間の性質を動的空間から,静的空間へと切 り替えて,アクセスすることが求められると考えることができる。したがって,視点取得課 題を用いた他者の心の表象である見えの理解について,空間知識の知覚的情報アクセスの課 題という側面からの再検討が必要だと考え,ここでは,視点取得課題(Piaget,1956)に視 覚的協応関係システムの 2 つの手がかり提示を行って検討する。 Ⅱ.実験 1.目的 筆者が視覚的協応関係システムを促すと考えた 2 つの手がかり提示を視点取得課題(cf. Piaget,1956)に行い,知覚的な情報アクセスによる他者の心の理解を促すかどうか,発達 的検討を行う。<仮説>(1)空間的知識を獲得するための知覚的情報アクセスの手がかり 提示が,視点取得課題(Piaget,1956)では教示が理解できずに失敗するとされる 4 歳児以下 が自己と異なる他者の視点取得の理解につなげ課題の成功につながるかどうか,(2)課題に 正答することが可能となる 5 歳児以上においては,2 つの手がかり(穏やかなアングル,視 覚的方向)が,その課題遂行に作用するかどうか。そして,7 歳児未満の幼児は,同じよう に手がかりを利用するのかどうか,について考察する。なお,併せて,課題遂行過程におけ る幼児の行動観察(1)~(3)を行って結果を整理し,内的対象と外的対象の因果関係の理 解の発達とどのような関連が見られるのか検討を試みる。 <行動観察について>(1)自己からの見えの獲得(迷う:あり/なし):自己からの見え(プ
リ・テストで最初の子どもの位置:A 地点からの見えを問う質問)を獲得する際,迷う行動 のあり/なしについて行動観察を行い,発達差を分析・考察する。(2)指さし行動(出現: なし/あり):内田(2002)によれば,指さしの出現は乳児の世界の捉え方が質的に変化し た兆候になるという。最初,外界の「もの」と「自分」との「二項関係」ができ,さらに生 後 9 ヶ月頃から,それを意味づけ,それに働きかける他者がいることに気づくようになり,�自 分−もの−他者� の「三項関係」が成立するようになるという。指さし行動の出現は,他者 が注意を向けた対象物が他者の心的状態を構成する要素となり,三項関係は他者とのやりと りの中で発達し,ものの存在や機能を知る手がかりになるが,やがては非言語的コミュニケー ション機能の発達の中で指さし行動は消失する。ここでは課題遂行過程において出現した指 さし行動の頻度から,発達差について検討する。(3)理由づけ(因果関係反応,知覚的反応, その他の反応):子どもは,ありのままの空間から成り立つ情報を見るわけではなく,自己 との空間関係を調整することで,その空間がわかる,知るということができる(自己にとっ て意味がある)情報をより含むように情報を調整していると考えられる。この空間理解の操 作について,カードを選んだわけについての応答内容より分析・考察する。 2.方法 年齢3(4,5,6歳)×手がかり2(手がかり‘Route’,手がかり‘Window’,手がかり‘なし’ を示す,手がかり‘Control’)×テスト期2(プリ・テスト/ポスト・テスト実施期)。得点化 :正答: 2,誤答A (自己中心的反応以外の誤答):1,誤答B(自己中心的反応):0。被験児 :幼児 4,5,6歳児108人(各36人)。表1参照。 表1 各群における被験者数・平均月齢・範囲 〔材料〕:①対象 3 個(三角形の頂点を描くように配置),大中小の色の異なる市販カラーボー ル(黄色:直径 7.5cm,ピンク色:直径 5.5cm,青色:直径 2.5cm)を各地点からの見え方 の違いが顕著になるように配置した(図 1)。②反応様式:カード選択法。カード 1 組(4 枚: 正位置から反時計回りに,0°,90°,180°,270°を示す A,B,C,D の 4 地点の方向から見え 12 4歳 12 12 12 5歳 12 12 12 6歳 12 12 人 数 群 年齢 4.0 3.9 4.1 5.2 5.0 5.1 6.2 6.2 6.1 平均月齢 3.5−4.5 3.5−4.6 3.5−4.6 4.6−5.6 4.8−5.5 4.7−5.6 5.5−6.7 5.6−6.6 5.5−6.6 範 囲 ‘ R o u t e ’群 ‘Window’群 ‘Control’群 ‘ R o u t e ’群 ‘Window’群 ‘Control’群 ‘ R o u t e ’群 ‘Window’群 ‘Control’群
を撮ったカラー写真)から 1 枚のカードの選択を求めた。③他者視点(代理「視点」):市販キャ ラクターのうさぎ(ミッフィー)のフィンガー・パペット(高さ 8cm)1 個。④手がかり‘Route’: 白い厚紙でつくられた細長い直方体(高さ×底辺×長さ:1cm× 2cm × 18cm)を橋と見た て対象と代理 「 視点 」 を繋ぐよう布置させた(図2)。⑤手がかり‘Window’:白い厚紙で つくられた窓型の枠(枠の外形の高さ×底辺:12cm× 18cm,刳り抜かれた枠の大きさ: 10cm ×16cm,枠自体の幅は一定で1cm)1枚を窓と見たて,対象と代理「視点」の中間に 布置させた。カード立て(透明プラスティック製,直径 4 ㎝の円台に 2.5 × 1.8 長方形型のカー ド挟みが付属)1個により窓型の枠を,対象と代理「視点」の真中に垂直に立てた(図3)。 ⑥テーブルクロス:茶色の布地(45 × 45cm)を台紙の代わりに,緑の布地(110 × 80cm) を机上用に用いた。 〔課題〕:被験児は,テーブル中央に置かれた対象(色違い,青・ピンク・黄色 3 つのカラーボー ルを各方位からの見え方の違いが顕著になるように配置)の A,B,C,D(被験児位置から 反時計回りに, 0°,90°,180°,270°の地点)4 地点からの他者視点(うさぎのパペット)の 見えをランダムに求められた。被験児はカード 1 組(4 枚:A,B,C,D 地点からの見えの写真) をランダムに提示され試行ごとに 1 枚を選択することを求められた。ポスト・テストの後に はカードを選んだ理由を尋ねられた。実験は個別に行われた。〔手順〕:プリ・テスト(A,B, C,D:4地点×1回),手がかり提示の試行(A,B,C,D:4地点×2回),ポスト・テスト(A, B,C,D:4地点×1回)。手がかり:空間情報への知覚的アクセスを促すように考えて工夫 した。手がかり‘Route’は他者の見えと自己の視点の協応を促すように,手がかり‘Window’ は他者の見えの方位を明らかにして自己視点との弁別を促すようにした。 〔手続き〕:実験者は子どもを遊びに誘い共に入室する。被験児は,実験者の左横となる A の位置に着席する。うさぎのパペットと,自己紹介などの挨拶のやりとりを通して場面に対 する緊張感・不安感を低減する。プリ・テストは,初めに他者視点(「代理」視点)が A の 位置(被験児の前)で正答ができるかどうかを確認して行う。このときに限り,一度で正答 できない場合「そうかしら」「よく見てね」などの言葉かけをして正答を促す(実際にそれ C D B A(被験児の位置) 図1 対象の配置 図2 手がかり‘Route’ (立方体型) 図3 手がかり ‘Window’(窓枠型)
でも答えられない者はいなかった)。初めにプリ・テスト(A,B,C,D 地点,各 1 試行)後, 手がかり 2 群では各々の手がかりを提示し,課題(A,B,C,D 各地点,ランダムに1 試行) を 2 試行(各地点計 2 試行)行い最後にポスト・テスト(各地点ランダムに各 1 試行)を行った。 プリ・テストは,どの群も手がかりなし,課題(1,2 試行目)は,‘Route’群と‘Window’ 群は各々の手がかりを提示,ポスト・テストはプリ・テストと同様にどの群も手がかりなしで 行った。 〔手がかり提示〕:手がかり‘Route’(視覚的方向)は,「ここに,橋ができました。うさぎさんは, この橋をまっすぐ歩いていくとボールのところまでいけますよ」といい,橋に見たてた細長 い直方体の上のうさぎを対象(ボール)近くの橋の先端まで移動させた後,初めの位置に戻 し,カードを選ぶように求めた。この操作はどの地点でも行った。手がかり‘Window’(穏 やかなアングル)では,「ここに窓ができました。うさぎさんは,窓からボールを見ること ができますね。うさぎさんが窓から見ているように見えますか」といい,「うん」または頷 くなど被験児の反応を確認した後,カードを選ぶよう求めた。他者視点の配置はランダムに 行った。答える際,カード選択の為の動作は用いないように説明した。 《行動観察について》:(1)自己の視点取り行動(迷う:あり/なし):自己視点からの見え の獲得は迷いあり/なしの 2 水準にした。「迷いなし」:1 回目の教示後,すぐに正答のカー ドを選択した場合。「迷いあり」:1回の教示で理解できない場合。(例)①別のカードを選 んだ。②直接にボールを指差しした。③カードを選ぶのに迷う(e.g., 複数のカードに指さし を繰り返す。首を傾けたり,複数のカードに目をやってあれこれと見比べる)。④自発的にカー ドを選択しない(e.g., 実験者の顔をのぞきみる,ウサギのパペットの話をする,何をしてい いのかわからない)。(2)指さし行動(なし/あり):指さし行動なし/ありの 2 水準にした。 「指さし行動なし」:指さし行動が出現しなかった。「指さし行動あり」:指さし行動が出現し た。(例)①カードを選ぶ際に写真の特定のボールを示すような言葉とともに指さす。例え ば,「あおっ!」などと言いながら,特定のボール(写真)を指さす。②直接ボールを指さ した。例えば,「このボール!」といいながらボールを指す。③カード選択の際,「これ,大 きい」といってボールの大きさについて指す。④カードを選ぶ際,ボール同士の位置関係を 確かめるようなボールを指さす。例えば「これが後ろだから」と言いながら,重なりを確か める際に指す。⑤カードを選ぶ際に,他者の視線の方向をなぞるようにして,指さし行動を 行う。例えば,「反対側からだから」といい,反対側の 180°地点方向から,0°の位置である 自分に向かって指を動かす。(3)理由づけ:ポスト・テスト後,「○○ちゃん(被験児の名前) は,どのようにしてカードを選んだのか,そのわけを答えてください」と質問した。どの点 に着目して他者の見えを理解しようとしたのかを調べるために3 つに分類した。①因果関係 的反応(教示した空間関係について言及した反応)(例)対象の位置関係,他者の視線・視点,
②知覚的反応(対象の知覚的な特徴について言及した反応),(例)対象の色・形,③その他 の反応(空間の関係にも対象の知覚的な特徴にも言及しないもの),(例)「4歳だから」「見 てるから」,以上の評価基準に基づき「自由回答」の分類は2 人の評価者で行った(2人一致 が 86.7%。不一致のケースは評価者間の協議により一致させた)。 Ⅲ.結果 手がかり提示を行った視点取得課題の遂行成績のそれぞれの結果を図 4,表 2 に示す。3 要 因の分散分析,年齢(4,5,6歳児)×手がかり(手がかり‘Route’,手がかり‘Window’, 手がかりなし‘Control’)×テスト期(プリ・テスト/ポスト・テスト)の結果,年齢と手が かりとテスト期の交互作用が有意だった(F(4,99)=3.50,p< 0.01)。テスト期の主効果が 有意だった(F(1,99)=7.11, p< 0.01)。その他の主効果,交互作用はいずれも有意ではな かった(いずれも,p> 0.1)。下位検定では, テスト期のポスト・テストにおける年齢× 手がかりの交互作用は有意だった(F(4,99) =3.08,p< 0.05)。その他の交互作用はい ずれも有意でなかった(いずれも, p> 0.1)。 その後にテスト期のポスト・テストにおけ る検定を行った結果,手がかり‘Route’ の単純主効果が有意であった(F(2,99)=6. 822,p< 0.01) 。手がかり‘Window’の単純 主効果が,有意であった(F(2,99)=3.544,p< 0.05)。手がかり‘Control’の単純主効果 は有意でなかった(p> 0.1)。 《行動観察》(1)自己の視点取り行動(被験児のA地点における1回目の反応):結果を図3, 表 5 に示す。次に年齢(4,5,6歳)×自己の視点取り行動(迷いなし/迷いあり)のχ2 検 定を行った結果,有意傾向だった(χ2 (2)=4.71,p < 0.1)。 4歳 5歳 6歳 2.25 プリ・テスト 2.50 2.17 2.33 2.17 2.08 2.92 2.42 2.42 1.48 プリ・テスト 0.52 2.33 1.37 1.47 2.42 1.16 1.78 3.00 2.83 ポスト・テスト 3.33 1.59 2.00 3.17 1.38 4.17 1.75 1.38 1.34 ポスト・テスト 1.37 1.97 1.54 1.27 2.35 1.47 2.05 2.56 平均点 群 年齢 標準偏差 ‘R o u t e’群 ‘Window’群 ‘Control’群 ‘R o u t e’群 ‘Window’群 ‘Control’群 ‘R o u t e’群 ‘Window’群 ‘Control’群 0 1 2 3 4 5 6 平 均 点 ポスト・テスト プリ・テスト 4歳‘ 4歳 4歳 5歳 5歳 5歳 6歳 6歳 6歳 R o u te ’ 群 ‘ W in d ow ’群 ‘ C on tr ol ’群 ‘ R o u te ’ 群 ‘ W in d ow ’群 ‘ C on tr ol ’群 ‘ R o u te ’ 群 ‘ W in d ow ’群 ‘ C on tr ol ’群 表2 課題成績 平均点 (MAX=6) 図4 課題成績 平均点
(2)指さし行動の出現:結果を図 6,表 4 に示す。 次に,年齢(4,5,6歳)×指さし行動(あり/ なし)のχ2 検定を行った結果,有意だった(χ2 (2) = 6.91, p< 0.05)。残差分析の結果,4 歳の「なし」 群が有意に少なく(p< 0.05),6 歳「なし」群が 有意に多かった(p< 0.05)。 (3)理由づけ:他者の見えを理解しようとした 3 つの分類結果を図7,表5に示す(分類基準は, 方法を参照)。因果関係的反応(教示した空間関 係について言及した反応)e.g.,対象の位置関係,他者の視線・視点。②知覚的反応(対象 の知覚的な特徴について言及した反応)e.g.,対象の色・形。③その他の反応(教示した空間 関係にも対象の知覚的な特徴にも言及しないもの)e.g.,「4 歳だから」「見てるから」。 年齢(4,5,6歳)×理由づけの分類(因果関 係的反応,知覚的反応,その他の反応)のχ2 検 定を行った結果,頻度の偏りは有意だった。χ2 (4) =32.43,p< 0.01。残差分析の結果,4 歳児では, 「その他の反応」の残差がプラスに有意(4.8, 迷いなし 21(58%) 27(72%) 29(81%) 75(71%) 迷いあり 15(42%) 9(28%) 7(19%) 24(29%) 計 36 36 36 108 年齢 4歳 5歳 6歳 計 0 5 10 15 20 25 30 35 4歳 5歳 6歳 迷いあり 迷いなし 人 数 指さしなし 14(39%) 18(50%) 25(69%) 57(52%) 指さしあり 22(61%) 18(50%) 11(31%) 51(48%) 計 36 36 36 108 年齢 4歳 5歳 6歳 計 0 5 10 15 20 25 30 4歳 5歳 6歳 人 数 指さしあり 指さしなし 年齢 因果関係的な反応 知覚的な反応 その他の反応 計 4 5 6 計 1 9 16 26 12 20 14 46 23 7 6 37 36 36 36 108 0% 20% 40% 60% 80% 100% 5歳 4歳 6歳 因果関係的反応 知覚的反応 その他反応 表3 自己の視点取り行動 表4 指さし行動の出現 表5 理由づけの頻度 図5 自己の視点取り行動 図6 指さし行動の出現 図7 理由づけの頻度
p< 0.01),「因果関係的反応」がマイナスに有意(− 3.7,p< 0.01)だった。5 歳児は,「そ の他の反応」の残差が,マイナスに有意(−2.2,p< 0.05),「知覚的反応」がプラスに有意 傾向(1.9,p< 0.1)だった。6 歳では,「因果関係的反応」の残差がプラスに有意(3.5, p< 0.01), 「その他の反応」がマイナスに有意(− 2.6,p< 0.01)だった。 Ⅴ.考察 幼児期の子ども4,5,6歳児の視点取得課題における手がかり作用の影響が示された。3 要因の分散分析,年齢(4,5,6歳児)×手がかり(手がかり‘Route’,手がかり‘Window’, 手がかりなし‘Control’)×テスト期(プリ・テスト/ポスト・テスト)の結果,年齢と手 がかりとテスト期の交互作用が有意だった(F(4,99)=3.50,p< 0.01)。また,テスト期の 主効果が有意だった(F(1,99)=7.11,p< 0.01)。下位検定でテスト期のポスト・テストに おける年齢×手がかりの交互作用が有意であり(F(4,99)=3.08,p< 0.05),その手がか り‘Route’と手がかり‘Window’のみの単純主効果が,それぞれ有意だった(F(2,99) =6.822,p< 0.01,F(2,99)=3.544,p< 0.05)。これらから,仮説(1)(2)について検討したい。 仮説(1)は,知覚的情報アクセスの手がかり提示が,教示が理解できずに失敗するとさ れる 4 歳児以下が自己と異なる他者の視点取得の理解や成功につながるかどうかであるが, ポスト・テストにおける年齢と手がかりの交互作用からみると,ポスト・テストの平均得点の 変化からも,2 つの手がかりは同じように作用したと考えられる。仮説(2)は,課題に正 答することが可能となる 5 歳児以上について,2 つの手がかりは課題遂行に作用するかどう か,7 歳児未満の幼児は同じように手がかりを利用するかであった。ポスト・テストにおけ る年齢と手がかりの交互作用からみると,5,6歳児とも2 つの手がかり提示の影響をそれ ぞれに考えることができ,その影響を視点取得につなげるかどうかでは,5 歳児では手がか り‘Window’,6 歳児では手がかり‘Route’においてと考えられる。7 歳児未満の幼児の 発達差としては,4 歳児では,2 つの手がかりが同様に視覚的な強調として課題遂行に作用 し,理解が難しかった教示内容の理解に作用し成功に作用したことが示唆される。手がかり ‘Window’は5歳児が知覚的情報アクセスを行う手がかりとして作用し,手がかり‘Route’ は 6 歳児の他者の見えの方向を明らかにするよう作用したと考えられる。次に,行動観察(1) ~(3)の結果についての考察を述べる。 「行動観察」:(1)自己からの見えの獲得(迷う:あり/なし):4 歳児では,半数近く(42%) に迷う行動があるが,5,6歳児になると,迷う行動が減少し(5歳児:28%,6 歳児: 19%),多くが迷わずに自己の見えを答えることができるようになる。年齢(4, 5, 6歳) ×自己の視点取り行動(迷いなし/あり)のχ2 検定を行った結果,有意傾向だった(χ2 (2) = 4.71,p< 0.1)。年齢により正答につなげられていくことが示唆されるが,年齢以外の要因
も影響していると考えられる。例えば教示理解の問題が上げられる。課題の構造的な枠組み についての質問(e.g.,「何がわかるの」),あるいは位置関係の細部についての質問(e.g.,「こ れは写真,どうやって撮ったの」)など,その言語理解の発達の影響なども考えられる。 (2)指さし行動(出現:なし/あり):子どもは,生後 9 ヶ月頃から,�自分−もの−他者� の「三 項関係」が成立するようになるといわれるように,指さし行動の出現は,他者が注意を向け た対象物が他者の心的状態を構成する要素となりうる。対象とした4,5,6歳児における指 さし行動の出現の頻度から,その発達差を検討した。年齢(4,5,6歳)×指さし行動(あ り/なし)のχ2 検定を行った結果,有意だった(χ2 (2)=6.91, p< 0.05)。残差分析の結果, 4 歳の「なし」群が有意に少なく(p< 0.05),6歳「なし」群が有意に多かった(p< 0.05)。 年少児には,視点取得課題における知覚的情報にアクセスは簡単ではないが,指さし行動を 用いて成功へつなげようとしていることが示唆される。これらの有意な差のある結果 から は,発達差による年齢要因の影響が示される。また,ここでは,教示をどのように理解する かという言語理解の発達に見られるような個人差の問題よりも,幼児がよりプリミティブな レベルにおける問題を解決しようとして用いられていることが考えられる。 (3)理由づけ(①因果関係反応,②知覚的反応,③その他の反応):幼児は,ありのままの 空間から成り立つ情報を見るわけではなく,空間関係を調整し,空間は自己が知ることがで きる(自己に意味のある)情報をより含むように調整されると考えられる。カードを選んだ 理由づけについて,年齢(4, 5, 6歳)×理由づけの分類(因果関係的反応,知覚的反応, その他の反応)のχ2 検定を行った結果,頻度の偏りは有意だった(χ2 (4)=32.43,p< 0.01)。 残差分析の結果,4歳児は「その他の反応」の残差がプラスに有意(4.8,p< 0.01),「因果関 係的反応」がマイナスに有意(− 3.7,p< 0.01)だった。4 歳児では,対象と自己との関係を,ボー ルの色や形・大きさなどの自己の興味・関心などとむすびつけて考えており,課題の教示内 容を理解して答えているというよりも直観的な推理・判断にもとづき答えていると考えられ る。4 歳児では 2 つの手がかりの作用の差は顕著でなかったが,4 歳児はそれらの直観的な印 象により利用していることが考えられる。5歳児では,「その他の反応」の残差が,マイナ スに有意(− 2.2,p< 0.05),「知覚的反応」がプラスに有意傾向(1.9,p< 0.1)だった。5 歳 児は,直観的な推理・判断が減少し現在何が見えているか,そのときどきにおける<知覚体 制>に支配され始めることが示唆されている。子どもの注意は対象の最も目立った唯一の側 面(次元)に集中してしまうからである(e.g.,「これが,青いから」「これが,大きいから」)。 そのため子どもの思考は現象(見かけ)に左右されやすく,現象にさからって<本質>をつ かむだけの力をまだ持っていないことを表わしている。6 歳では,「因果関係的反応」の残 差がプラスに有意(3.5,p< 0.01),「その他の反応」がマイナスに有意(− 2.6,p< 0.01)だった。 見かけに左右されやすく,それにさからって<本質>をつかむ力をもつために必要な,対象
と対象の関係,自己と他者との関係,自己と対象との関係,自己と対象と他者との関係につ いて,まだ十分な知識は持っていないがそれを知る仕組みがつくられ始めていることを表わ していると考えられる((例)「(3 つのボールの配置が)ミッキーに似ているから」)。 Ⅵ.総括的考察 3 要因の分散分析の結果,手がかり提示の作用には発達差があること,課題遂行の成績の 変化につながること,2 つの手がかり提示の作用は同じではないことが示唆された。4 歳児は, 2 つの手がかりの相違を認識していないが,空間知識への知覚的情報アクセスに作用してい ることが示唆された。視点の投射が可能になる5,6歳児は対照的に作用していたと考えら れた。5 歳児は,手がかり‘Window’によって,投射地点からのどのような方位に視線を 向けるかどうかといったアングルを手がかりにすることはできるが,6歳児のように,すぐ に自己と他者と対象が空間関係の中に異なる実在性をもっていることを知り,位置関係を3 次元的に理解して手がかり‘Route’を利用することは,難しいことであると考えられた。 幼児期の子どもが,視点取得課題の課題遂行過程に提示した他者の知覚的情報アクセスに 関する 2 つの手がかりの両方を解釈して課題遂行に利用しなかったことは,内的表象と外的 表象との因果関係の理解が未発達でまだ完成されていないことを示唆していると考えられ る。しかし,乳児初期には前から後ろへの関係を因果的に知覚することができ,幼児期 5 歳 後半からこれを後ろから前への関係に,つまり結果から原因に遡って推測するための「可逆 的操作」が使えるようになる(内田 ,1985)。Wimmer ら(1988)は,心の理論研究の誤信 念課題に見られる 4 歳頃の変化は,信念内容の内的表象と表象された外的事実の「因果関係 の理解」によるものであるとする。しかし,今回の視点取得課題の成績は,幼児期には因果 関係の理解が未発達であるという可能性の一端としても考えられる。
Silberstein,C.S. & Spelke,E.S.(1995)は,幼児の空間的理解の発達における因果関係の 理解の能力の始まりは,4 − 5 歳の子どもが,直感的に Euclid の最初の 4 つの公準の主要な 関係を理解できることによって示唆されているという(Euclidの最初の 4 つの公準:(例) ① 2 つの点がいつも1 つの直線によって結合されることができること,②3 つの点は時には そうされ得ないこと,③多くの異なる直線はある 1 つの点を通過することができること,④ ただ 1 つの線が 2 つの異なった点を通過することができること) 。これまでの研究でも,幼い 子どもは位置を見積もることはできないとされてきた。しかし,16 ヶ月児が直接的なラン ドマークを用いないで,1 つの大きい長方形の砂箱に隠された対象の位置を符号化すること ができるといわれる(Huttenlocher et al.,1994)。これは,ユークリッド座標システムとい うよりも基準点からのアングルや方向を基礎とした放射状基準システムに基づくと考えられ る(Lidster W.& Bremner G.,1999)。また,3 歳半くらいの子どもが,2 人の警官の視界の
ラインから外れているように男の子(1人)のモデルを隠すことが出来ることを発見するこ とは,直交の遠近の協応の証拠として理解されている(Hughes& Donaldson,1979)が,こ の問題は,見えるか見えないかで判断でき,遠近,左右の置換えを必要としないので,遠近 法に基づくかは明らかではない(Bridges,A.& Rowles,J.,1985)ともいわれる。何れにせよ, Piaget,J.(1948)がいうユークリッド的空間概念の段階に至る以前には,このように基準点 からのアングルや方向を基礎とした放射状基準システムに基づくような理解が主に用いられ ていると考えられる。それは,Piaget,J.(1948)が水平−垂直の堅固な座標軸を基準とした のに対し,動態的な性質を含み,波状的な性質を含んでいるようなものと考えると,7歳以 下の幼児の発達過程で,これらが利用されていると考えることが可能であろう。鈴木(1993) は,視点取得課題(Piaget,J.,1948)の性質として一度正反応の見えを見たなら再生可能と なるものではない点を指摘している。対象布置の見えを自己の存在を含み入れた自己周囲の 動態的な関係において,空間内に配置された自己−他者−対象のメタ表象の理解を求めるた めに,5 歳後半から因果推論が可能になってくるにもかかわらず,幼児が正答することに失 敗すると考えられる。内的表象と外的表象について2 者的な因果関係的理解の発達段階では 視点取得課題に正答できないといえる。また,視点取得課題(Piaget,J.,1948)では視覚的 な協応関係システムの手がかりは与えられていないが,ビジュアルな協応関係構成が与えら れている課題(e.g., Somervill,S.C. & Bryant,P.E.,1985; Blades,M.& Spencer,C.,1989)と求 めている性質が異なる。Lidster W.& Bremner G.(1999)は,こうした課題の違いを概念 的な空間能力と知覚的な空間能力との違い,構造的な支持がなされていない環境でと,構造 的な支持が豊かな環境でとの能力の違いとする。Piaget(1948)課題の問題解決には,思 考のプロセスが介入するために,心的表象の理解において内的表象と外的表象の因果関係の 理解に概念的な思考能力の発達が求められると考えることもできる。 行動観察の(1)自己の視点取り行動の結果(χ2 (2)=4.71, p< 0.1)から,自己の視点 取り行動の安定には,発達差の他にも課題への取り組み方などの個人差などの要因が影響す ることが考えられる。(2)指さし行動の出現の結果(χ2 (2)=6.91, p< 0.05)から,幼児 期のどの子どもにとっても知覚的情報アクセスの手がかりとして,自己身体と空間関係を関 連づけるような探索的な行動が出現することが重要であると考えられる。(3)の「理由づけ の分析」では,「因果関係的反応」「知覚的反応」「その他の反応」は,年齢ごとの頻度の偏 りが有意であり(χ2 (4)=32.43, p< 0.01),残差分析の結果から,6 歳児と 4 歳児では「因 果関係的反応」が大幅に異なり,5 歳児では「知覚的反応」が目立ち,4 歳児では「その他 の反応」が有意である(プラスに有意 ,p< 0.01)。幼児期には,まだ充分に言語化された表 象操作はむずかしいが,その発達過程における方略があることが伺われる。指さし行動に現 れるような身体的な動きや,自己の視点取り行動における他者の促し(初回に限り1 回で正
反応に至らない場合は,「そうかしら」「よく見てね」と声かけをする)などと関係しながら, 視覚的協応関係システムが働く可能性が考えられる。 ここでは,単純なユークリッド基準系のシステムが 4 歳児,あるいは,5 歳児の時期に出 現している可能性が検討された。緩やかな関係の中に,自己−他者−対象の3 者関係を理解 しながら,自分たちが知覚したり記憶したりしている環境の対象布置(layout)について の情報の一つの部分集合を,その時々に捉えていると考えられる。Baron-Cohen ら(1995) によって,発達の初期における人の認知は,知的な学習のための単一で,一般的なシステム を基盤として現れるのではなく,むしろより,その時々によって,よせ集められた認知シス テムの集まりを基盤としていると考えられている。Cosmides.L.& Tooby,J.(1994)は,こ のようなシステムのコレクションは,人間の理解力や認知発達を構築していくブロックを埋 めていくかもしれないといっている。したがって,もし空間についての人間の認識が,分離 可能な役割が特定されているカプセル化された認知システムの一つの構え(set)から始ま るなら,その後の空間認識の発達では,モジュラー・システムが欠く開放性や適応性が示さ れるはずである。ここでの結果においても,幼児期から情報アクセスと知識のつながりの洞 察は進められており,発達差のある二者関係的な知識のつながりに作用しながら,幼児期の 視点取得においても,ゆるやかな三者関係的な構造化や,その理解が5,6歳児に始まって いると考えられる。 謝辞 本論文は,2004 年度にお茶の水女子大学人間文化研究科に提出した研究結果報告書,及 び日本発達心理学会第 16 回大会(2005)の一部のデータを再分析,加筆修正したものです。 研究室の皆様に厚くお礼申し上げます。また,本研究の実験にご協力いただきました園児の 皆さんに感謝いたします。 <文献>
Baron-Cohen,S. (1995). Mindblindness an essay on autism and theory of mind.The MIT Press.
Borke,H.(1975).Piaget�s Mountains Revisited :Change in the Egocentric Landscape.
Developmental Psychology, 11(2), 240 − 243.
Bridges,A.,& Rowles,J.(1985).Yong children�s perspective abilitiers :what can a monster see? Educational Psychology, 5,251 − 266.
Blades,M.,& Spencer,C.(1989).Young children�s ability to use coordinate references.
Cosmides.L., & Tooby,J.(1994).Origins of domain specificity :The evolution of function organization(Lawrence A. Hirschfeld,&Susan A. Gelman(eds.), Mapping the Mind, Cambridge University Press.)
Hughes,M.,& Donaldoson,M.(1979).The use of hiding games for studying the coordination of viewpoints. Educational review, 31(2),133−140.
Huttenlocher,J.,& Janellen,et.al.(1994).The Coding of Spatial Location in Young Children. Cognitive Psychology, 27(2),115−147.
岩田純一(1974).子どもにおける空間表象の変換に及ぼす感覚−運動的手がかりの効果− . 教育心理学研究,22,21 − 29. 子安増生 .(1990).幼児の空間的自己中心性(Ⅰ)− Piaget の 3 つの山問題とその追試研究− . 京都大学教育学部紀要,12,79 − 91. 子安増生 .(1999).幼児期の他者理解の発達−心のモジュール説による心理学的検討−. 京都大学学術出版 .
Lidster,W.,& Bremner,G.(1999).Interpretation and construction of coordinate dimensions by 4- to 5- year-old children. British Journal of Developmental Psychology,
17,189−201.
Piaget,J(大伴 茂,訳)(1955).児童の世界観:臨床児童心理学Ⅱ 同文書院(Piaget,J. (1926).La repre´sentation du monde chez l�enfant.)
Piaget,J.,& Inhelder,B. Translated by Langdon, F.J.,& Lunzer,J.L.(1956).The child�s conception of space. Routledge and Kagan Paul, London.(Piaget,J. & Inhelder,B (1948).La repre´sentation de l�espace chez l�enfant. Presses Universitares de
France,Paris.)
Shantz,C.U., &Watson,J.S.(1971).Spatial abilities and spatial egocentrism in the young child. Child Development, 42,171−181.
Silberstein,C.S.,& Spelke,E.S.(1995).Explicit vs. implicit processes in spatial cognition.
Poster presented at the Society for Research in Child Development, Indeanpolis,IN. Somervill,S.C.,& Bryant,P.E.(1985).Yong children�s use of spatial coodinates. Child
Dvelopment, 56,604−613. 杉村伸一郎・竹内謙彰・今川峰子.(1992).他者視点取得課題の要因についての分析的研究. 教育心理学研究,40(4),340 − 349. 杉村伸一郎.(2000).幼児の空間定位における知覚・運動的過程と表象的過程.心理学研究, 71(3),227 − 233. 鈴木 忠・松嵜洋子・佐伯 胖.(1990).幼児の空間認識における課題布置の「切り取り」.
発達心理学研究,1(2),128 − 135. 鈴木 忠.(1993).幼児の空間的自己中心性の捉え直し.教育心理学研究,41,470 − 480. 田中芳子.(1968).児童の位置関係の理解.教育心理学研究,16,87 − 99. 内田伸子.(1985).幼児における事象の因果的統合と産出.教育心理学研究,33,124−134. 内田伸子.(2002).幼児心理学への招待−子どもの世界づくり−.サイエンス社. 渡部雅之.(1987).空間表象の変換能力に関する発達研究:下位能力との関連から.教育 心理学研究,35(2),107 − 115.
Wimmer,H.,Hogrefe,J., &Sodiam,B.(1988).A second state in children�s conception of mental life:understanging informational access on origins of knowledge and beliefs. In Developing theories of mind. Cambridge University Press.
Woodward.A.L.,Phillips,A.,& Spelke,E.S. (1993).Infant�s expectations about the motion of animate versus inanimate objects. Proceedings of the Fifteenth Annual Meeting of the Cognitive Science Society, Boulder,CO, 1087 −1091.