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志 村 結 美
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1.緒言 現在の日本の食生活は、朝食欠食率や偏食の増加など、多くの問題点が認められ、特に、20歳代、 30歳代を中心とした若者の食生活の乱れが顕著であると指摘されている。その他、中高年男性の肥満 や若い女性の「やせ」傾向、生活習慣病の増加等、食をめぐる諸問題は増加する一方である。また、 食糧自給率の低下や食べ残し・食品の廃棄の増加、伝統的食文化の衰退等も問題視されて久しい1。 一方、健康志向、ダイエット志向、グルメ志向などに基づいた食への関心は高く、食の安全性への懸 念の高まりと相まって、食に関する正確な情報や指導が求められている。 しかし現状は、食品のもつ特定の生体調節機能のみが強調される等といった偏った情報、フードファ ディズム(食べものや栄養が健康や病気へ与える影響を過大に信奉し評価すること2)的情報、食品 関連企業の営利優先情報等がマスメディアから多く流布されている。このような中で、健康的な食生 活を送るために、氾濫する情報から科学に裏打ちされた正確な情報を取捨選択する能力が求められて いるといえよう。そのためには、食に関する正確な基礎的知識が必要であることは言うまでもない。 しかし実際には、健康面から「食育」に関心があると回答するものが多い一方で、栄養摂取の方法等、 食に関する知識等は十分であると言える状況ではない3。 以上の現状を踏まえ、行政においても食に関する積極的な取り組みがなされている。国民一人一人 の健康の増進、生活の向上、食料の安定供給の確保を図ることを目的として、「食生活指針」が文部科 学省・厚生労働省・農林水産省の3省合同で2000年に公表された。さらに同年に厚生労働省が21世紀 の国民健康づくりを目標として、「健康日本21」運動を実施している。また、2005年に「食育基本法」 が国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性を育むことができるようにするため、食育 を総合的、計画的に推進することを目的として制定された。これに基づき、内閣府において食育推進 会議が設置され、「食育推進基本計画」が2006年に決定した。食育推進基本計画の基本的な方針は、「国 民の心身の健康の増進と豊かな人間形成」、「食に関する感謝の念と理解」、「食育推進運動の展開」、「子 どもの食育における保護者、教育関係者等の役割」、「食に関する体験活動と食育推進活動の実践」、「伝 統的な食文化、環境と調和した生産等への配意及び農山漁村の活性化と食料自給率の向上への貢献」、 「食品の安全性の確保等における食育の役割」である。2011年には「第2次食育推進基本計画」が決定し、 内閣府を中心に、厚生労働省、文部科学省、消費者庁、農林水産省等々で総合的に食育の推進を掲げ ている状況である。しかし、食生活をとりまく問題は完全に解決されていないのが現状である。 2.研究の目的 上述したように、朝食欠食率や偏食の増加など、食事の内容や食べ方の乱れといった食に関する問 題状況が注目される中、健康志向、ダイエット志向、グルメ志向などに基づいた食への関心が強く、 食に関する情報がテレビやインターネット等のマスメディアから溢れている。特に、「○○を食べてコレステロール低下」や「××を食べるとガンになる」といった、食べものや栄養が健康や病気に及ぼ す影響を過大に評価する「フードファディズム」的食の情報が、人気を得ている現状が伺える4。本 来食べものはそれ一つで身体に良い、悪いと判断できないものであり、身体にとってさまざまな作用 があるものである。しかし、昨今の食に関する情報では食品のもつ特定の生体調節機能のみが強調さ れ、効用がある、すなわち身体に良いとする情報が氾濫している傾向もみられる5。食生活の基本は、 必要な栄養素を過不足なく摂取することにあるにも関わらず、「身体に良い食品」の摂取に夢中になり、 「身体に悪い食品」の排除に躍起となる人も見受けられる6。 このような食に関する情報が氾濫する中、我々の食べものに対する健康認識は、実際の味の記憶や 外見、学校や家庭及び社会などから得る食に関する知識や情報、食品の成分・栄養的特質や安全性に 関する科学的知識などを基に形成されると考えられている。しかし、食べものは外観、栄養性、味、 香りなど多くの属性をもち、しかも食品の種類は多いため、我々がそれらの食べものに含まれている 栄養素の種類と量、安全性などをすべて把握することは難しいと思われる。そのため、実際の生活場 面では、学校、家庭、社会などから得た食品に関する多くの知識や情報をそのままではなく、それら を単純化したり、誇張したり、カテゴリー化したりしながら、食品に関する情報や知識をイメージと して保持し、そのイメージを利用して食品選択等の食物摂取行動が行われていると考えられる7。 健康的な食生活を送るためには、食べものの特性が反映された適切な健康認識の形成が必要であり、 特に家庭科教育における食品や栄養に関する学習が重要であると考える。過去の先行研究においても それを実証する研究は多く認められる。高校生を対象とした、石井・川嶋らによる「高校生の食べも のに対する健康認識8」では、現在の家庭科教育の食に関する学習が、子どもたちの日常的な食生活 と乖離していないか、子どもたちの問題状況を看過してはいないか見直す必要があるのではないかと 問題提起をしている。また、中学生を対象とした矢野による「中学生の加工食品に対するイメージ9」 では、学校において栄養や食品について学んだことがどのようにイメージとして保持されているのか を探っている。そこでは技術・家庭科における食生活に関する学習内容を考えるための資料とするこ とを目的として中学生の加工食品に対するイメージの調査を行い、家庭科における食品や栄養に関す る学習の重要性を述べている。同様に食品のイメージを調査した、矢野による「食品イメージとそれ に関わる要因(第1報)10」では、小学生から大学生を調査対象とし、小学生から大学生までの発達 段階においてどのような食品イメージが持たれているかを検討している。大学生は他の学校段階に比 べて明確なイメージを持っていたと明らかにしている。大学生を対象とした植田による「食生活と健 康に関する研究 第2報11」では、欠食及び孤食状況、食品の摂取頻度、外食の回数、調理済み・半 調理済み食品の利用状況、起床・就寝時刻、喫煙及び飲酒状況、自覚症状などを検討している。また、 矢野による「高校生の食生活に対する志向性ならびに価値観と食に関する知識及び食生活への参加状 況との関連12」では、食に関する知識や食生活への参加状況が個人の食生活に対する指向性や価値観 にどのような影響を及ぼすかを検討している。 以上を踏まえ、そこで本研究では、高等学校において家庭科を中心とした食に関する学習を履修し 終えた国立<大学の学生を対象に、食生活や生活の実態をはじめ、身体に良い、悪いといった食べも のに対する健康認識、食に関する知識及び人間力に関する実態について調査を行った。学生の食べも のに対する健康認識における課題を探ると同時に、先行研究の少ない食生活と人間力の関連性を検討 し、健康的な食生活を推進するための行政や教育のあり方を考える一助とすることを目的とする。 3.研究方法 調査方法はアンケート調査法、調査対象は国立< 大学学生363名(男性195名、女性168名)、調査
期間は2007年7月中旬∼10月上旬である。調査内容は以下の通りである。 (1) 食生活や生活の実態 15項目 食生活や生活等の「健康自己認識」に関して5項目、食事や食品の摂取状況等の「食生活の実態」 に関して6項目、運動や睡眠等の「生活の実態」に関して4項目を設定した。 (2) 食べものに対する健康認識 石井他「高校生の食べものに対する健康認識」を参考に「身体に良い・悪い」食べもの、各々の理由、 情報源、摂取頻度及び嗜好に関する項目を設定した。 (3) 食に関する知識 5項目 大学生として必要とされる基本的な食生活全般の知識に関して項目を設定した。 (4) 人間力に関する実態 8項目 内閣府の人間力戦略研究会による「人間力戦略研究会報告書13」、板津による「生き方尺度14」、柳 井等による「新性格検査15」等を参考に項目を設定した。 4.結果及び考察 41 食生活や生活の実態 (1)食生活や生活の実態 朝食の摂取状況で、朝食を欠食する学生が約3割認められた(図1)。学年においては3、4年生、 住まい方においては一人暮らしの学生の朝食欠食率が有意に高い結果となった(図23)。また、睡 眠時間が6時間未満の学生は約4割、運動状況において「ほとんどしない」「月1∼2回」と答えた学 生も約4割であった(図4)。一人暮らしの学生を中心に健康的とはいえない生活実態が明らかになっ た。 図1 朝食摂取状況 図2 朝食摂取状況(学年比較) 図3 朝食摂取状況(住まい方比較)
(2)食生活や生活等に関する健康自己認識(図5) 「自分の食生活や生活等が健康的であると思うか」という問いに対して約半数の学生に否定的な回 答がみられた。特に一人暮らしの学生は、実家で暮らす学生と比較して有意に否定的な回答が多い結 果となった。また、概して女性の方が食生活、生活の実態は健康的であり、健康自己認識が高い傾向 が認められた。自らの食生活や生活に関して一人暮らしの学生を中心に危機感を覚えている様相が伺 える。 42 食べものに対する健康認識 (1)「身体に良い・悪い」として挙げられた食べもの(表1、図6) 「身体に良い」食べもの972品、「身体に悪い」食べもの827品、総数1799品挙げられた。これらを五訂 日本食品標準成分表の分類を参考に19種類の食品群に分類した結果、「身体に良い」食べものは、野 菜類、豆類、「身体に悪い」食べものは、菓子類、穀類、複合が多く拠出された。また、性別による有 意差は認められなかった。 (2)「身体に良い・悪い」食べものの理由の拠出 食べものの「身体に良い・悪い」とした理由を7のカテゴリーに分類した結果、「栄養素名など」の 拠出数が810と最も多く、次いで「働きや効果」287、「漠然」184となった(表2)。この拠出状況から 本研究における多くの学生が、食べものに含まれている栄養素名や成分名およびエネルギーに関する 知識を持っていることが明らかとなったが、その回答の多くは、栄養素名や成分名のみの単純な回答 であり、認識不足であると推察された。また、おいしいから等の漠然とした回答も多く、理由が曖昧 なまま食べものに対して「身体に良い・悪い」といった認識がなされている傾向が伺えた。 図4 運動状況 図5 食生活や生活が健康であると思うか
表1 身体に良い・悪い としてあげられた食べ物
さらに、最も多く拠出された「栄養素名など」の理由カテゴリーを詳細に分析した結果、「身体に良 い」食べものにおいては、様々な理由が挙げられ多くの種類に分類されたが、「身体に悪い」食べもの の理由においては、分類された種類が少ないことが明らかとなった(図7)。また、食べものと理由 との関係において、「身体に良い」食べものでは、牛乳はカルシウム、ほうれん草やレバーは鉄分といっ た限定された理由が多く拠出され、「身体に悪い」食べものでは、どの理由においてもカップラーメン やポテトチップス等の加工食品、菓子類、ファーストフードが拠出された。 (3)食べものに対する健康認識の情報源について(図8) 「テレビ」が最も多く634、次いで「なんとなく」が633となったことから、本研究の学生は、「テ レビ」から多くの健康認識に関する情報を得ていると同時に、情報源をはっきりと認識していないこ とも明らかとなった。一方、「家庭科の授業から」は292であることから、家庭科教育等、学校教育 から得る知識は、日常の生活場面で十分に活用されているとはいえないことが推察される。 表2 身体に良い・悪い食べものの理由 図7 カテゴリー別理由の拠出数 図8 食べものに対する健康認識の情報源 (4)情報源別にみた理由カテゴリー 情報源と理由カテゴリーとの関係を検討した。その結果、「家庭科の授業」において、「身体に良い・ 悪い」理由ともに「栄養素名など」の理由カテゴリーが最も多い割合を占め、曖昧な理由が少ないこ とが明らかとなり、「家庭科の授業」等、学校教育場面から栄養素名などの知識を多く得ていることが 推察された。また、「なんとなく」といった情報源においては、「身体に良い・悪い」理由ともに曖昧 な理由の割合が最も多く、情報源がはっきりしていないと理由も曖昧であることが明らかとなった。 (複数回答可)
43 食に関する知識(図9) 食に関する知識においては、基礎的な調理知識については正解率が高い一方、基礎的な栄養に関す る知識が低い結果となった。また、女性の正解率の方が男性と比較し、有意に高い項目が多く認めら れた。 44 人間力に関する実態 人間力に関する項目は表3のように設定し、調査分析を行った。結果、本研究における学生は、人 間力に関しては、「社会志向性」を問う項目で肯定的な回答が848と最も多く、一方「規律性」、「能 動的実践態度」を問う項目では477、487と少ないことが認められた(図10)。 また、他の項目との関連性を検討した結果、健康自己認識との関連においては、「規律性」と「自己 の創造・開発」の2項目との関連性が高いことが明らかとなった。一方、「社会志向性」と「自己顕示性」 では、健康自己認識のどの項目においても関連性が認められなかった。健康自己認識における「生活 面」では、人間力の6項目との関連性が認められた。一方、健康自己認識における「運動面」、「睡眠面」 では、人間力の2項目間のみで関連性が認められた。食生活や生活の実態及び食に関する知識との関 連性においては、特に「規律性」との関連性が高いことが明らかとなった。 図9 食に関する知識 表3 人間力に関する設定項目 図10 人間力に関する本研究における大学生の実態
5.まとめ 本研究における大学生の食べものに関する健康認識の情報源の多くが、テレビや家族から得ている 状況が明らかとなった。学校教育や行政での指導では、マスメディアや家庭からの食における情報に 関連性を持たせた内容が必要であり、多様な食の情報に惑わされない科学的知識や批判的思考を持ち、 実際の食生活に反映させる能力を身に付けさせる必要があると考えられる。 また、食べものに対する健康認識の状況から、食事の摂り方に柔軟に対処する力が不足しているこ とが懸念され、学校教育特に、家庭科教育において、食品の成分・栄養的特質や安全性に関する科学 的知識を十分に認識させると同時に、食べものの多様な役割を認識させ、栄養や食事のバランスがと れた食生活の実践を促す必要があると考える。 さらに、人間力と食生活、生活との関連が認められたことから、食べものに対する適切な健康認識 を高め、豊かな食生活のあり方を考えさせるためには、栄養や食の知識といったものだけではなく、 人間力を総合的に高めていく必要があると考える。その際、学校教育において生活や人生、社会や環 境を総合的に捉えていく家庭科は大きな責務を果たすことができると考える。 註:本論文は山梨大学教育人間科学部家政教育専修卒業の小田真弓氏の卒業論文をもとに作成した。 1 農林水産省,我が国の食生活の現状と食育の推進について,2012 2 高橋久仁子,フードファディズム,中央法規,S20,2007 3 内閣府,食育に関する意識調査,2009 4 前掲2 5 石井克枝,川嶋かほる,河村美穂,武田紀久子,武藤八恵子,高校生の食べものに対する健康認識,日本 家庭科教育学会誌483,S191205,2005 6 前掲2 7 前掲5 8 前掲5 9 矢野由起中学生の加工食品に対するイメージ.日本家庭科教育学会誌49(1),S3039,2006 10 矢野由起食品イメージとそれに関わる要因(第1報).日本家庭科教育学会誌40(3),S17,1997 11 植田志摩子食生活と健康に関する研究 第2報.帯広大谷短期大学紀要38,S871002000 12 矢野由起高校生の食生活に対する指向性ならびに価値観と食に関する知識及び食生活への参加状況との 関連日本家庭科教育学会誌42(4),S2332000 13 人間力戦略研究会,人間力戦力研究会報告書,2003 14 板津裕己.生き方尺度 .心理測定尺度集Ⅱ.東京,サイエンス社,S1141222001 15 柳井晴夫,柏木繁男,国生理枝子, 新性格検査 .心理測定尺度集Ⅰ,東京,サイエンス社,S114122, 2001, 表4 人間力×健康自己認識 表5 人間力×食生活・生活の実態,知識