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マルチ蛍光プローブフィルムの スペクトルイメージングによる

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(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

マルチ蛍光プローブフィルムのスペクトルイメージ ングによる匂い物質の空間分布計測

吉岡, 大貴

https://doi.org/10.15017/1931942

出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

マルチ蛍光プローブフィルムの スペクトルイメージングによる

匂い物質の空間分布計測

吉岡 大貴

平成

30

1

19

博士後期課程 電気電子工学専攻

情報エレクトロニクスコース

(3)
(4)

目 次

1

章 序論

1

1.1

はじめに

. . . . 1

1.2

匂いおよびガスの識別技術

. . . . 3

1.2.1 E-nose . . . . 4

1.2.2

酸化物半導体ガスセンサによる識別

. . . . 6

1.2.3 QCM

ガスセンサによる識別

. . . . 7

1.2.4

導電性ポリマーによる識別

. . . . 8

1.2.5

色素による識別

. . . . 9

1.2.6

赤外線による識別

. . . . 10

1.3

匂いおよびガスの空間検知技術

. . . . 11

1.3.1

半導体ガスセンサによる空間分布検出

. . . . 12

1.3.2

酵素による空間分布検出

. . . . 13

1.3.3 LSPR

センサによる空間分布検出

. . . . 14

1.4

蛍光による匂い物質の検出

. . . . 15

1.4.1 pH

効果

. . . . 16

1.4.2

蛍光共鳴エネルギー移動

. . . . 18

1.4.3

光誘起電子移動

. . . . 20

1.4.4

マトリクス効果

. . . . 24

(5)

1.4.5

溶媒効果

. . . . 25

1.5

本研究の目的と新規性

. . . . 26

1.6

本論文の構成

. . . . 28

2

章 蛍光アガロースゲルフィルムを用いた匂い物質の空間的検出および識別

29 2.1

はじめに

. . . . 29

2.2

匂い物質による蛍光プローブの蛍光強度変化

. . . . 29

2.3

実験手順

. . . . 30

2.3.1

匂いの空間分布検出

. . . . 32

2.3.2

蛍光プローブ間の

FRET

発生可能性の検証

. . . . 35

2.3.3

匂い物質に対する蛍光変化パターンの検出

. . . . 38

2.3.4

匂い物質の識別能力の検証

. . . . 41

2.4

実験結果

. . . . 41

2.4.1

匂いの空間分布検出

. . . . 41

2.4.2

蛍光プローブ間の

FRET

発生可能性の検証

. . . . 43

2.4.3

匂い物質に対する蛍光変化パターンの検出

. . . . 49

2.4.4

匂い物質の識別能力の検証

. . . . 51

2.5

まとめ

. . . . 51

3

章 匂い源における匂いの領域分割と濃度推定

53 3.1

はじめに

. . . . 53

3.2

実験手順

. . . . 54

3.2.1

匂い源における匂い物質の領域分割

. . . . 54

3.2.2

匂い源濃度の推定

. . . . 57

3.3

実験結果

. . . . 60

(6)

3.3.1

匂い源における匂い物質の領域分割

. . . . 60

3.3.2

匂い源濃度の推定

. . . . 62

3.4

まとめ

. . . . 67

4

章 マルチ蛍光

PVC

フィルムを用いた匂い物質の空間的検出および識別

68 4.1

はじめに

. . . . 68

4.2

実験手順

. . . . 69

4.2.1

蛍光プローブフィルムの新溶媒の検討

. . . . 69

4.2.2

蛍光

PVC

フィルムの可逆性

. . . . 71

4.2.3

マルチ蛍光

PVC

フィルムによる匂い物質のハイパースペクトルイ メージング

. . . . 72

4.2.4

匂い物質のクラスタリング

. . . . 76

4.3

実験結果

. . . . 76

4.3.1

蛍光プローブフィルムの新溶媒の検討

. . . . 76

4.3.2

蛍光

PVC

フィルムの可逆性

. . . . 79

4.3.3

マルチ蛍光

PVC

フィルムによる匂い物質のハイパースペクトルイ メージング

. . . . 80

4.3.4

匂い物質のクラスタリング

. . . . 85

4.4

まとめ

. . . . 87

5

章 結論

88

6

章 謝辞

91

参考文献

93

(7)

図 目 次

1.1

哺乳類の嗅覚システムと

E-nose

のモデル13)

. . . . 5

1.2 E-nose

のセンサシステム概要図16)

. . . . 6

1.3

酸化物半導体ガスセンサアレイを用いたガスの応答パターン20)

. . . . . 7

1.4 QCM

ガスセンサアレイによるガスの応答パターン26)

. . . . 8

1.5

導電性ポリマーを用いたガスセンサアレイによるガスの識別28)

. . . . . 9

1.6

様々なガスに対する色素センサアレイの応答パターン33)

. . . . 10

1.7 FTIR

によるガス分子の吸光スペクトル34)

. . . . 11

1.8

半導体ガスセンサによる空間分布の検出39)

. . . . 12

1.9

酵素を用いたアルコールセンサによるエタノールガスの時間応答42)

. . . 14

1.10 LSPR

を用いたガスセンサによるエタノール流れの時空間測定48)

. . . . 15

1.11

蛍光の光吸収と発光過程50)

. . . . 16

1.12 pH

効果による蛍光色素の分子構造変化53)

. . . . 17

1.13 pH

効果による蛍光色素の蛍光スペクトル変化53)

. . . . 18

1.14 FRET

の発生条件61)

. . . . 20

1.15 PET

の電子遷移過程69)

. . . . 21

1.16 PET

センサ69)

. . . . 22

1.17 PET

を用いたイオンの定量分析73)

. . . . 23

1.18

マトリクス効果の影響による鉛の検出下限の変化75)

. . . . 24

(8)

1.19

ジオキサン

/

水比率によるナイルレッドの蛍光変化78)

. . . . 26

2.1

蛍光変化原理

. . . . 30

2.2

匂い物質の空間分布検出装置の概要図

. . . . 33

2.3

匂い源の形状検出実験

. . . . 34

2.4

空間分解能測定実験の匂い源配置

. . . . 35

2.5

蛍光色素の構造式

. . . . 38

2.6

匂い物質の構造式

. . . . 39

2.7

円状匂い源による匂い暴露

. . . . 40

2.8

匂いガス流れ画像

. . . . 42

2.9

匂い源形状画像

. . . . 42

2.10

蛍光アガロースゲルフィルムの空間分解能

. . . . 43

2.11

蛍光色素の励起スペクトルと蛍光スペクトル

. . . . 44

2.12 FRET

による蛍光変化

. . . . 46

2.13

匂い蛍光変化まとめ

. . . . 50

2.14

三次元主成分空間における匂いの分布

. . . . 51

3.1

匂い源における各匂い物質の配置

. . . . 55

3.2

匂い源形状のマルチスペクトルイメージング

. . . . 55

3.3

蛍光変化行列

. . . . 56

3.4

各匂い源の配置

. . . . 59

3.5

混合匂い源の暴露

. . . . 59

3.6

匂い源形状のマルチスペクトルイメージング

. . . . 60

3.7 PCA

による匂い物質の領域分割

. . . . 61

3.8

コサイン類似度を用いた匂い源の領域分割

. . . . 61

(9)

4.1

調査したイオン液体の構造式

. . . . 71

4.2

可視化フィルムに用いたレーザー色素の構造式

. . . . 73

4.3

有機酸の構造式

. . . . 74

4.4

アルコール類の構造式

. . . . 74

4.5

アルデヒド類の構造式

. . . . 75

4.6

ケトン類の構造式

. . . . 75

4.7 1-

ブチル

-1-

メチルピロリジウム ビス

(

トリフルオロメチルスルホニルイミ

)

の励起・蛍光スペクトル

. . . . 77

4.8

トリオクチルメチルアンモニウムブロミドの励起・蛍光スペクトル

. . . 78

4.9

トリオクチルメチルアンモニウムブロミドのヘキサン酸応答特性

. . . . 79

4.10

蛍光

PVC

フィルムの時間応答

. . . . 80

4.11

マルチ蛍光

PVC

フィルム

. . . . 81

4.12

匂い物質のハイパースペクトルイメージングと蛍光スペクトルの変化

. . 82

4.13

酸の規格化蛍光変化率パターン

. . . . 83

4.14

アルコールの規格化蛍光変化率パターン

. . . . 83

4.15

アルデヒドの規格化蛍光変化率パターン

. . . . 84

4.16

ケトンの規格化蛍光変化率パターン

. . . . 84

4.17

主成分空間における各クラスタの分布

. . . . 85

(10)

表 目 次

2.1

分光条件

. . . . 40

2.2

蛍光色素の励起・蛍光ピーク波長81–84)

. . . . 45

2.3

ドナーの規格化蛍光スペクトルとアクセプタの規格化励起スペクトルの積

45 2.4 FRET

発生時と非発生時における匂い物質に対する蛍光変化値

. . . . 47

2.5

蛍光色素の量子収率および蛍光強度81, 82, 84)

. . . . 48

3.1

匂い源の濃度

. . . . 58

3.2

匂い源に対する蛍光変化画像

. . . . 63

3.3

各匂い源濃度に対する蛍光変化パターン

. . . . 64

3.4

匂い源の推定濃度

. . . . 65

3.5

アルデヒド濃度と酸濃度

. . . . 66

4.1

匂い物質のクラスタリング

. . . . 86

(11)

第 1 章 序論

1.1

はじめに

生物は匂いを利用して,様々な情報を得てきた.匂いがする化合物は

10

万種類から

40

万種類あるといわれており1),本論文ではこれら匂いがする化合物を匂い物質と呼ぶ ことにする.匂い物質は単体の化合物で匂いとなる一方で,多くの場合,には複数の匂 い物質が様々な濃度で混ざり合うことで一つの匂いを形成している.様々な匂いが存在 している空間には,複数の匂い物質群が複雑に混ざり合っていることになる.匂い物質 の種類が膨大である点,複雑に匂いが混ざり合っている点から,匂い物質の全てを包括 的に検出することは困難である.しかしながら,匂いに含まれる化学物質は様々な情報 を含み,それらを活用することで人類の生活の向上につながる.匂いが含む情報として いくつか例を挙げる.

植物は成長度合いによって発する匂いが異なる.トマトは成長に従って,6-メチル-5- ヘプテン-2-オンのようにほとんど揮発量が変化しない匂い物質もあれば,ヘキサナール やフラネオールのように揮発量が増加する匂い物質がある2–4).これらの物質の揮発量を それぞれモニタリングすることで,農業の自動化に利用することが考えられる.

人の体臭は様々な情報を持っている.加齢によって体臭等の変化することが知られて おり,加齢によって体臭成分における

2-ノネナールの増加や尿中の匂い成分として 2-フェ

ニルアセトアミドが増加するといった報告がされている5–7).また,病気のバイオマーカ となる匂い物質の研究も行われており,呼気中に含まれる

2-プロパノール・アセトアル

(12)

デヒド等は癌のバイオマーカーとなるといった報告8)や,同じく呼気中のオキセタンや

3-(1-メチルエチル)-ドデカン等は結核のバイオマーカとなるというといった報告がされ

ている9)

これらのように特定の匂い物質をマーカ物質として検出することで,特定の情報を得 ることにつながる.そのため,これまでのガスセンシングではガスセンサに選択性を持 たせることで,特定のマーカ物質を検出することが多かった.これは,ガスセンシング 技術が未だに発展途上であり,ガスセンサによって取得できる情報量が少ないためであ る.ガスセンサの性能が未だに発展途上であると言う理由は,生物の鼻の性能の高さに ある.生物の鼻は匂いを鋭敏に感じ取り,嗅ぎ分けることができる.空間中に漂っている 匂いを感じ取とることで危険の察知や獲物の追跡を行ったり,香料によって食品,身体,

室内等に香り付けにも利用されてきた.すなわち,生物の鼻は感度や識別能が非常にす ぐれたセンサであると考えられる.人の嗅覚の感度は高く,多くの匂い物質を

ppb

オー

10, 11)で感じることができる.これは高性能なガスセンサが一人一人に備えついている

ことを意味しており,ほとんどの匂い・ガスセンシングの目的を自身の鼻で達成できて しまい,匂い・ガスセンサの発展が遅れている一因にもなっていると考えられる.一方 で,人間の鼻は定量ができない点,有毒ガスは吸い込めない点から,上記のようなマー カー物質の定量分析や一酸化炭素センサ等は盛んに研究が行われており,既に製品化さ れているものもある.

更に,人は自身の鼻より優れた嗅覚を持つ犬を様々な用途に使用してきた.用途に合 わせて訓練された犬がおり,麻薬探査犬,動植物検疫探知犬,災害救助犬,警察犬,軍用 犬等,様々な分野で活躍している.例えば,日本の税関では全国で

130

頭以上の麻薬探査 犬を配備しており12),爆発物探知犬,銃器探知犬と共に空港や国際郵便局において覚せ い剤や薬物,爆発物,銃器の摘発を行っている.このような複雑に匂いが混ざり合った環 境においても,極微量の対象の匂いだけを嗅ぎ分けられるのは,犬の鼻が人間の

100

(13)

倍から

1

億倍の感度と高い物質識別能を持つためである.しかし,犬に麻薬探査をさせ るためには半年程度の訓練が必要であり,ハンドラーへの報酬や餌代等のコストも掛か る.これに対し,麻薬探査犬の役割を匂いセンサに代替する研究が行われているが,麻 薬探査犬の代替となるポータブルな匂いセンサは開発されていない.これは,犬の嗅覚 が感度・物質識別能の点で極めて優れており,現在のテクノロジーでは様々な物質に対 する感度も物質識別能も超えることができないためである.未だに人類は匂いによる探 査において,生物の嗅覚に依存している状態にある.匂い・ガスセンサの技術が発展す るためには,生物の代替となるようなセンサか生物では検出できない情報を検出するよ うなセンサが必要とされている.

1.2

匂いおよびガスの識別技術

生物の鼻は現在の匂い・ガス識別技術を上回る性能を持っている.匂い・ガスの識別 技術は人類の生活を支えていると同時に,これから発展をさせるために重要な技術であ るといえる.今日の匂い・ガスセンサのうち,物質の識別を行うものは生物の嗅覚シス テムを模倣して作られており13),嗅覚受容体をセンサに見立て,異なる複数の匂いセン サから出力される信号から匂い物質を識別している.このような匂いの識別システムは

E-nose(Electronic nose)

14, 15)と呼ばれている.これらのセンサおよびセンサシステムは,

測定対象の化学物質に対してそれぞれ異なる応答を示すガス・匂いセンサをアレイ化し ている.ここでは識別のために,各物質に対する応答パターンがそれぞれ異なることが 重要になる.下記に,

E-nose

の基本的な概念と匂いの識別技術に関していくつかの例を 示す.

(14)

1.2.1 E-nose

E-nose

1982

年に発表され,図

1.1

に示すように,哺乳類の嗅覚システムを模倣し

て作製されたセンサデバイスである13).神経細胞をトランスデューサと増幅器に,嗅覚 皮質をコンパレータに置き換えたもので,初期の

E-nose

は匂い情報を半導体ガスセン サアレイによって複数の電気信号に変更し,応答パターンによって匂いを識別していた.

E-nose

は図

1.2

のような流れで匂いを認識している.まず,匂い物質をガスセンサで電気

信号に変換し,データの前処理を行った後に特徴抽出をする.続いて,パターン認識に よって検出したガスに関して,ガス分子の種類,匂いの質,毒性の有無等の結果を得る.

初めて

E-nose

が発表されて以来,センサアレイには半導体ガスセンサの他に導電性ポ

リマー,

QCM(Quartz Crystal Microbalance)

,色素等がセンサとして用いられてきた14, 15) 以降の節には,半導体ガスセンサも含めた様々なガスセンサを用いたアレイによる匂い・

ガスの識別例を示す.

(15)

1.1

哺乳類の嗅覚システムと

E-nose

のモデル13)

(16)

1.2 E-nose

のセンサシステム概要図16)

1.2.2

酸化物半導体ガスセンサによる識別

酸化物半導体ガスセンサはその表面に酸素が存在し,還元性ガスが存在すると還元性 ガスの酸化反応で半導体ガスセンサの表面から酸素が奪われ,酸素に補足されていた自 由電子が移動できるようになるため,抵抗変化が起きる17, 18).この抵抗変化を検出する ことでガス検出を行う.上記に示したように酸化物半導体ガスセンサをアレイ化し,そ れぞれの応答をパターンとして考えることで匂い・ガスを識別できる19, 20).図

1.3

に酸 化物ガスセンサアレイの応答パターンを示す.図

1.3

は,6つの酸化物半導体ガスセンサ からなるアレイを用いて

9

日目の牛肉と羊肉から発生するガスをそれぞれ測定したもの である.この報告では,このような応答パターンを経過日数毎に検出し,主成分分析を

(17)

1.3

酸化物半導体ガスセンサアレイを用いたガスの応答パターン20)

通して識別することで鮮度情報を得ている.

1.2.3 QCM

ガスセンサによる識別

QCM(Quartz Crystal Microbalance,

水晶振動子マイクロバランス法

)

は水晶振動子の発 振周波数が質量変化によって変化することを利用して,ガスのセンシングができる21, 22) しかしながら,

QCM

ガスセンサは分子に対する選択性を持たないため,そのままアレイ 化したのではガス分子を識別することはできない.そこで,ガス分子に対して特異性を 持ったポリマをコーティングすることで分子選択性を持たせ,ガス分子の識別を行って いる23).選択性を持たせた

QCM

ガスセンサをアレイ化することで,ガス分子の識別が

できる24–26)

QCM

ガスセンサアレイによってガスの応答パターンを測定したものを図

1.4

に示す.図

1.4

4

つの

QCM

ガスセンサによって鰯の鮮度を評価するために鰯から 出るガスを測定したものである.ここでは,これらのデータを元に主成分分析とサポー トベクターマシンを用いて,鰯を

2

日以内,

3

日後,

4

日以降の鮮度に分類することに成 功している.

(18)

1.4 QCM

ガスセンサアレイによるガスの応答パターン26)

1.2.4

導電性ポリマーによる識別

導電性ポリマーを用いたガスセンサは,櫛型電極に導電性ポリマーをコーティングし た形をしている.ガス暴露によって,導電性ポリマーの抵抗が変化することによってガ スを検出する27, 28).図

1.5

に導電性ポリマーを用いたセンサアレイとその応答パターン を示す.図

1.5A

のように,異なる特性の導電性ポリマーを用いたセンサアレイに対し

3

種類のガスを暴露させている.Bがアセトン,Cがベンゼン,Dがエタノールに対する 抵抗変化率の応答パターンを示しており,それぞれの応答パターンからガスの種類を識 別可能である.

(19)

1.5

導電性ポリマーを用いたガスセンサアレイによるガスの識別28)

1.2.5

色素による識別

色素がガス応答として色を変化させることを利用して,ガスを検出することが可能で

ある29–32).色素によるガスセンサをアレイ化させ,様々なガスに応答させたものを図

1.6

に示す.これは金属ポルフィリンや色素で構成された

5

×

5

のガスセンサアレイに対し,

(20)

1.6

様々なガスに対する色素センサアレイの応答パターン33)

様々なガスを暴露させたものである.このガスセンサアレイは

pH

指示色素,ソルバト クロミック色素,有機配位子と選択的に結合する金属ポルフィリン等で構成されている.

そのため,一つ一つの色素の反応からガス分子の特徴を得ることができ,得られた応答 パターンからガス分子の識別を行っている.

1.2.6

赤外線による識別

FTIR(Fourier transform infrared spectroscopy,

フーリエ変換赤外線分光法)を用いたガ スの識別も行われている34–36).FTIRは分子の回転や振動に赤外線領域の光が共鳴し吸 収されることを利用した分析方法である37).分子構造や官能によって固有の吸収スペク トルを示すことから,物質の同定に用いられる.この手法は上記のようにガスセンサを アレイ化したものではないが,一つ一つの波長から応答パターンを得るという考え方は

E-nose

と同様である.FTIRを用いてガス分子を測定した際の吸収スペクトルを図

1.7

(21)

1.7 FTIR

によるガス分子の吸光スペクトル34)

示す.FTIRでは,図

1.7

のように物質固有の特徴的なピークが現れるため,ピーク波長 の位置から物質の識別が可能である.

1.3

匂いおよびガスの空間検知技術

空気中における匂い・ガスの空間分布を検出する技術は,特定の場所に有毒もしくは 危険なガスが存在するか,特定のガスがどこから漂ってくるか,といった動機で研究さ れていることが多い38).匂い・ガスの空間分布を検出可能なセンサシステムは,前節と 同様に匂い・ガスセンサを二次元にアレイ化するが,一つ一つのセンサは全て同じ特性 のセンサで構成されている.それぞれのセンサ応答から匂い・ガスの濃度を検出し,セ ンサ全体の応答から空間分布を検出している.本節ではガス・匂いの空間分布を検出し たガスセンサアレイの例を挙げる.

(22)

1.3.1

半導体ガスセンサによる空間分布検出

半導体ガスセンサを用いてガス・匂いの空間分布の検出を行う際には,密に半導体ガ スセンサを配列することでガスの流れを検出する場合39)と間隔を開けて配列することで 空間中のガス分布を検出する場合40)がある.図

1.8

に密な半導体ガスセンサアレイを用 いたガスの空間分布の検出法を示す.ここでは,線香の煙をガスのトレーサーとして用 いており,煙の画像とセンサ応答画像を比較している.およそ

8 mm

の空間分解能を持っ ており,動的なガスの空間分布を検出することで匂い・ガス源の検出を可能としている.

1.8

半導体ガスセンサによる空間分布の検出39)

(23)

1.3.2

酵素による空間分布検出

酵素は化学反応で用いられる触媒と同様に反応の活性エネルギーを低下させて反応を 促進する.酵素は触媒として作用できる反応を厳密に区別し,基質分子を識別する基質 特異性を持つ41).この性質を利用した酵素によるアルコールセンサを二次元化した匂い イメージング技術が報告されている42–44).これは人体におけるアルコール分解と同様の 反応を利用しており,アルコール分解酵素であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチ

(Nicotinamide Adenine Dinucleotide, NAD)

を用いている.

NAD

には電荷を蓄えている 状態

NAD

+と電子を放出した状態

NADH

がある41)

NAD

+がエタノールと反応し電子を 奪うことで,

NADH

とアセトアルデヒドと

H

+が生成される.

NAD

+は蛍光を発さない が,

NADH

が蛍光を発することを利用して,アルコールの空間分布を検出ができる.報 告されてる酵素によるアルコールセンサはコットンメッシュに酵素を分散させたもので,

コットンメッシュ上の蛍光強度を高感度

CCD

カメラで撮影することで,アルコールの空 間分布を検出している.

1.9

にコットンメッシュ上にエタノールを吹き付け,エタノールの空間分布を検出 したものを示す.酵素を用いたセンサは数十〜数百

ppm

の範囲でエタノールのガスを可 視化できる.本手法では一つの酵素が一つのアルコールセンサと考えることができ,そ れがコットンメッシュ上に無数に分散していることになる.従って,高密度にアレイ化 されたアルコールセンサアレイとみなせ,非常に高い空間分解能を持っている.

(24)

1.9

酵素を用いたアルコールセンサによるエタノールガスの時間応答42)

1.3.3 LSPR

センサによる空間分布検出

LSPR(Localized Surface Plasmon Resonance)

を用いたガスセンシングは盛んに行われ

ている45, 46).LSPRは金属ナノ粒子に入射光を照射した際に発生する共鳴現象で,金属

内部で分極が発生する47).この共鳴は金属の誘電率に依存しており,特徴的な透過光ス ペクトルを示す.ガスセンシングの際には,ガス分子によって金属ナノ粒子の誘電率が 変化することによって,透過スペクトルが変化することを利用してガスを検出する.金 属ナノ粒子を成長させたガラス基板によって

LSPR

を用いたガスの空間分布検出が可能 である48)

実際にガスの流れを検出した例を図

1.10

に示す.この研究では,エタノールの流れを 高速かつ高解像度に可視化している.上記の酵素によるアルコールセンサと同様に

LSPR

(25)

1.10 LSPR

を用いたガスセンサによるエタノール流れの時空間測定48)

基板は二次元にアレイ化されたセンサに見えない.しかしながら,各金属ナノ粒子とガ スセンサと考えると高解像度を持つ二次元ガスセンサアレイとみなすことができる.

1.4

蛍光による匂い物質の検出

蛍光は分子または分子の集合体が励起状態から基底状態に戻る際に放出される光であ る.図

1.11

に蛍光の発光過程を示す.蛍光分子は基底状態

S

0から最低励起状態

S

1もし くはそれより高い励起状態

S

2になる.しかし,高い励起状態は内部転換により

S

1とな

(26)

1.11

蛍光の光吸収と発光過程50)

る.励起された分子は最低励起状態

S

1もしくはその振動準位から基底状態

S

0へと戻る 際に光を放出する.この光が蛍光と呼ばれる49, 50)

蛍光を利用した分析法は幅広い分野で利用され,物質の定量やイメージングに用い られてきた51, 52).蛍光に関する現象は数多くあり,それぞれの現象を利用して定量やイ メージングが行われている.

1.4.1 pH

効果

蛍光色素は

pH

によって蛍光スペクトルを変化させることがある53–55).これは蛍光色 素が

pH

変化によってプロトン化もしくは脱プロトン化が起こり,蛍光色素の分子構造が 変化するためである.例として,図

1.12

にフルオレセインと

6-

ヒドロキシ

-9-

フェニル

-

ルオロン

(6-hydroxy-9-phenyl-fluoron, HPF)

pH

変化に伴う分子構造の変化を示す.図

(27)

1.12

の右下に行くほど

(

もしくは番号が大きいほど

)pH

が高い分子構造である.分子構造 の変化に伴って蛍光強度が単純に減少することもあるが,元々の蛍光波長ピークである 第一ピークが消光し,別の蛍光波長ピークである第二ピークが増光することもある.図

1.13

にフルオレセインと

HPF

の蛍光スペクトルの変化を示す.図

1.13

の左

(a)

がフルオ レセイン,右

(b)

HPF

の蛍光スペクトルを示しており,両者とも右に行くほど

pH

低い.フルオレセインと

HPF

pH

変化に伴って,第一蛍光ピークが消光し,第二蛍光 ピークが増光する.特定波長の蛍光強度,蛍光スペクトルの形,第一もしくは第二の蛍 光ピーク波長の蛍光強度を観測することで,溶液の

pH

や溶液中に混入した物質の定量 を行うことができる.

1.12 pH

効果による蛍光色素の分子構造変化53)

(28)

1.13 pH

効果による蛍光色素の蛍光スペクトル変化53)

1.4.2

蛍光共鳴エネルギー移動

蛍光共鳴エネルギー移動

(Fluorescence Resonance Energy Transfer, FRET)

は二つの蛍 光分子間で発光することなくエネルギーが直接遷移する現象である.この二つの蛍光分 子において,エネルギーを供給する側をドナー,受け取る側をアクセプタと呼ぶ.

FRET

の効率はドナーの蛍光スペクトルとアクセプタの励起スペクトルの重なり,距離,配向 性に関係していることは良く知られている56–58).図

1.14

FRET

の発生条件を示す.図

1.14A

にあるように

FRET

が発生するためにはドナーの蛍光スペクトルとアクセプタの

(29)

励起スペクトルが重なり合ってなければならない.加えて,図

1.14B

に示すようにドナー とアクセプタの双極子モーメントの向きが同じ場合には

FRET

が発生し得るが,向きの 角度が

90

°の場合には

FRET

は発生しない.そして,図

1.14C

と図

1.14D

にあるように

FRET

が起きるのはドナーとアクセプタの距離が

100

Å未満のときで,

FRET

の効率は距 離の

6

乗に反比例するため距離が離れるに従って急激に効率が落ちる.

FRET

のエネルギー遷移効率

E

を以下に示す59, 60)

E = 1/(1 + R

6

/R

60

) (1.1)

ここで,

R

はドナーとアクセプタ間の距離であ.また,

R

0はフェルスター距離と呼ば れ,ドナーとアクセプタの特性によって決定される.

R

0を以下に示す.

R

0

= (8.79 × 10

−5

Jq

D

n

−4

κ

2

)

1/6

[Å] (1.2)

ここで,

κ

2は配向因子,

q

Dはアクセプタが存在しない時のドナーの量子収率,

n

は屈 折率,

J

はドナー

-

アクセプター間のスペクトルの重なり積分である.

J

を以下に示す.

J =

∫ ϵ

A

(λ) f

D

(λ)λ

4

∫ f

D

(λ)dλ [M

−1

cm

−1

nm

4

] (1.3)

ここで,

ϵ

A

(λ)

はアクセプタ分子のモル吸光係数,

f

D

(λ)

はピーク強度で規格化したド ナー分子の蛍光スペクトルである.

ドナーとアクセプタ間の距離や配向の制御によって,蛍光の増光・消光を起こすこと で,様々な応用につなげることができる.特に

FRET

を用いた細胞の可視化研究の例は 多く,ドナーとアクセプタ間の距離を制御することで

FRET

による増光もしくは消光を 起こしイメージングを行ったものは多く報告されている62–66).配向を制御することで細 胞のイメージングをしたもの67)

FRET

を用いた定量分析68)も行われている.

(30)

1.14 FRET

の発生条件61)

1.4.3

光誘起電子移動

光誘起電子移動

(Photoinduced Electron Transfer, PET)

はドナーとアクセプタ間におけ る電子の移動現象である69, 70).図

1.15

PET

における電子の遷移過程を示す.

PET

よる電子の移動過程は

2

種類ある.一方は,図

1.15a

にあるようにドナー中の励起電子 が発熱によってアクセプタの励起準位に移動した後,ドナーの基底準位に戻るものであ る.もう一方は,図

1.15b

にあるようにドナー中の電子が発熱によってアクセプタの基 底準位に移動し,アクセプタ中で電子が励起状態になった後にドナーの基底準位に戻る ものである.この電子遷移によって励起された電子は蛍光を発することなく基底状態に 戻るため,蛍光の消光が起こる.ドナー分子に対して,測定対象となるアクセプタ分子 が増えるに従って消光するような系を構築すれば,定量分析が可能である71, 72)

1.16

に示す

PET

センサによって

DMSO(Dimethyl sulfoxide)

中のイオンを検出した

(31)

例を図

1.17

に示す73).図

1.17a

では

DMSO

中において

AcO

の増加に伴って

PET

セン サの蛍光の消光している.図

1.17b

では同じく

DMSO

中で様々なイオンの増加に伴って 消光を観測しているものである.ここでは◇が

F

,●が

AcO

,×が

H

2

PO

4,□が

Cl

▲が

Br

となる.Cl

Br

のように組み合わせ次第では反応しないものもある.このよ うに,蛍光の消光度合いを観測することで,イオン濃度を定量化することができる.

1.15 PET

の電子遷移過程69)

(32)

1.16 PET

センサ69)

(33)

1.17 PET

を用いたイオンの定量分析73)

(34)

1.4.4

マトリクス効果

ある試料中の目的元素が励起され発光している際,試料の化学組成に依存して目的元 素の発光強度が大きく変動する現象があり,これをマトリクス効果と呼ぶ74).マトリク ス効果は物質の定量化に利用するというより,分光分析における分析精度の劣化の原因 として考えらることが多い.マトリクス効果の影響例を図

1.18

に示す.図

1.18

は蛍光

X

線分光分析によって食塩水中の鉛濃度の検出を行った際に,食塩濃度によって鉛濃度の検 出下限が変化することを表した図である.これは,食塩濃度の上昇に伴ってマトリクス 効果が発生し,鉛からの発光が弱くなり,検出下限が高くなっていることを示している.

1.18

マトリクス効果の影響による鉛の検出下限の変化75)

(35)

1.4.5

溶媒効果

溶媒によって蛍光色素が発する蛍光に影響を与えることはよく知られており76, 77),励 起波長や蛍光波長,蛍光強度等が変化する79, 80).また,混和した溶媒の比率によっても 蛍光が変化する.図

1.19

にジオキサンと水の比率によるナイルレッドの蛍光スペクトル の変化を示す.水の比率が高まるにつれて蛍光波長のピークがレッドシフトし,蛍光強 度も減少している.

(36)

1.19

ジオキサン

/

水比率によるナイルレッドの蛍光変化78)

1.5

本研究の目的と新規性

生物の鼻の代替となるポータブルな匂いセンサのためには,生物の鼻に匹敵する情報 量を得る必要がある.これまでのポータブルなガスセンサ・匂いセンサのうち,マーカー

(37)

物質や有害ガス等の特定物質を対象に測定してきたものは,生物の鼻に匹敵する匂い情 報を検出する必要がなかった.現在のテクノロジーでは,特定物質の検出においてはガ スセンサの感度が生物の鼻を上回る事もある.しかし,様々な匂いを包括的に識別する という点では生物の鼻を超えることは困難である.一方で,犬が空間中の匂い物質を追 跡するためには,首や身体を横に振りながら走査する必要がある.この動作に着目する と,犬の鼻は高い空間分解能を持たないことがわかる.このように優れた嗅覚を持つ犬 でも空間分解できる匂いセンシング能は所有しておらず,ある程度の物質識別能力と高 い空間分解能を持つ空間分布の検出能力を組み合わせることで,豊富な匂い情報を提供 することができる.生物の鼻の代替となるような性能を持つポータブルな匂いセンサの 有用性はきわめて高く,本件急では空間分布計測が可能な匂いセンサの実現を目指す.

本研究では匂い物質識別と空間分布の検出を同時に行える匂いセンサとして,複数の 蛍光プローブを含んだフィルムを提案する.これまでのガス・匂いセンサは二次元化す るか情報次元を増やすかの二者択一で,物質識別か空間分布検知かのどちらかしか行っ てこなかった.各蛍光プローブが匂い物質に対して応答することで,フィルム上の任意 の点において複数の応答が得られる.更に,蛍光プローブが一様に分散した系にするこ とで,識別のためにアレイ化された匂いセンサが二次元方向にも高密度にアレイ化され ているとみなすことができる.これによって二次元上の任意の点で匂い物質に対する応 答パターンが得られるため,匂い物質の識別と空間分布の検出を同時に行うことができ ると考えている.

本研究の目的は,

1匂い物質の識別と空間分布検出が同時に可能な匂いセンサの開発 と,

2空間分布検出が可能な匂いセンサで得られた情報の処理方法の確立である.

(38)

1.6

本論文の構成

本論文の内容は下記のとおりである.

まず,2章では,匂い物質識別と空間分布検出が同時に可能な匂いセンサとして,複 数の蛍光色素を含むアガロースゲルフィルムを作製した.本センサの応答をマルチスペ クトルイメージングによって検出し,匂い源の形状情報の検出および様々な匂い物質の 検出を行うことで,匂い物質識別能力と空間分布検出能力を同時に持つことを実証した.

3

章では,2章の匂いセンサを用いて,複数の匂い物質が混合した匂い源における匂 い物質濃度の推定と匂い源における匂い物質毎の領域分割を行った.

4

章では,新たなフィルム材料としてポリマー材料を用いることで,保存性の向上,

可逆性の付与,検出可能物質の増加を行った.センサの応答をハイパースペクトルイメー ジングで検出することで情報量を増やし,匂い物質に対する応答パターンから匂い物質 のクラスタリングを行った.

5

章では,

2

章から

4

章までの実験結果と成果を総括する.

(39)

第 2 章 蛍光アガロースゲルフィルムを用 いた匂い物質の空間的検出および 識別

2.1

はじめに

本章の研究では,蛍光プローブと匂い物質間の蛍光相互作用による蛍光強度の変化を 利用し,複数の蛍光プローブを含んだアガロースゲルフィルムによって匂い物質の空間 分布を検出する.以降,複数の蛍光プローブを含んだアガロースゲルフィルムをマルチ 蛍光アガロースゲルフィルムと呼ぶ.本研究では,マルチ蛍光アガロースゲルフィルム に含まれる複数の蛍光プローブと匂い物質間の相互作用による蛍光変化をマルチスペク トルイメージングにより撮影することで,匂い物質の情報を含んだ複数の蛍光変化を得 る.この複数の蛍光変化は,匂い物質の種類に応じた蛍光変化パターンとして扱うこと ができ,匂い物質に対する蛍光変化パターン同士を比較することでマルチ蛍光アガロー スゲルフィルムが匂い物質の識別能力を持つことを実証する.

2.2

匂い物質による蛍光プローブの蛍光強度変化

本研究の蛍光アガロースゲルフィルムは,蛍光プローブと匂い物質間の蛍光相互作用 から図

2.1

のように増光もしくは消光といった蛍光変化が発生する.この蛍光変化を撮

(40)

影することで匂い物質を空間的に検出する.

1

章で示した通り蛍光相互作用は様々なも のが考えられ,

pH

効果53–55),蛍光共鳴エネルギー移動

(Fluorescence Resonance Energy Transfer, FRET)

56, 57),光誘起電子移動

(Photoinduced Electron Transfer, PET)

69, 70),マトリ クス効果,溶媒効果が挙げられる.これらの蛍光相互作用はフィルム内部で複雑に起こ りあうため,一つ一つの現象を調査しながら匂い物質の検出および識別を行っていくの は効率的ではない.そこで,本研究では全ての蛍光変化は何らかの形で匂い物質の情報 を持っていると捉え,撮影した蛍光変化から情報処理によって匂い物質の情報を取り出 していくことを考える.

2.1

蛍光変化原理

2.3

実験手順

本研究では,匂い検出能力を空間検出,物質識別の観点から検討するため,下記のス テップに分けて実験を行った.

1.

 匂いの空間分布検出

2.

 蛍光プローブ間の

FRET

発生可能性の検証

(41)

3.

 匂い物質に対する蛍光変化パターンの検出

4.

 匂い物質の識別可能性の検証

5.

 匂い源の領域分割

本章の実験は,匂い物質を測定するための蛍光アガロースゲルフィルムを作製し,匂 い物質を暴露させた蛍光アガロースゲルフィルムの蛍光変化画像を撮影し,画像処理や データ解析を行う,という手順で行われる.まず,蛍光アガロースゲルフィルムの作製方 法を下記に示す.蛍光色素水溶液を作製する.水溶液を加熱した後,

5 wt%

のアガロース を入れ,アガロースが溶けきるまで加熱を続ける.溶液がゲル化する前に,

PDMS

の型 に流し込む.その後に,溶液を冷却することで蛍光アガロースゲルフィルムが得られる.

匂い源形状の検出では蛍光アガロースゲルフィルムの空間的な匂い物質の検知能力と匂 い源の検出能力を実証する.ここでは空間的な検知能力のみを対象とするため,蛍光変 化が発生しやすい蛍光プローブと匂い物質の組み合わせを選択し,単一の蛍光プローブ のみを含む単一蛍光アガロースゲルフィルムを用いる.一方で,匂い物質に対する蛍光 変化パターンの検出および匂い源の領域分割では,匂い物質の識別を行うために複数の 蛍光プローブを含むマルチ蛍光アガロースゲルフィルムを用いる.

次に,蛍光変化画像の観測・撮影法を下記に示す.作製した蛍光アガロースゲルフィ ルムの励起にはキセノン光源

(LAX-103,朝日分光)

を用いる.このキセノン光源は

3

類のミラーモジュールによって

240〜300 nm,300〜400 nm,400〜700 nm

のいずれか の帯域を取り出した後,任意の干渉フィルタによって更に帯域を制限できる.本章では,

400〜700 nm

のミラーモジュールを使用する際にショートパスフィルタ

XVS0510(朝日

分光)を組み合わせることで,励起光の波長域として

240〜300 nm,300〜400 nm,400

〜500 nm

3

種類を用いている.これらの波長域を持つ励起光を蛍光アガロースゲル フィルムに照射し,フィルムの蛍光を冷却型

CCD

カメラ(ML4710-1-BB,FLI,USA)

(42)

DG

レンズ(

MACRO 50mm F2.8 EX DG

SIGMA

)組み合わせて暗箱内で撮影した.

この

CCD

カメラに備え付けられたフィルタホイールに

4

種類のバンドパスフィルタ

(380

±

5 nm

420

±

5 nm

510

±

6.3 nm

530

±

6.8 nm)

とハイパスフィルタ

(610 nm)

を装 着することで,

5

種類の観測波長で蛍光画像を撮影した.撮影には専用のソフトウェア

FLIGrab

)を用い,

16 bit

の符号なしグレースケール画像として蛍光画像を出力している.

最後に,撮影した蛍光画像は画像処理ソフト

imageJ(National Institutes of Health

USA)

R

言語を用いて,画像処理および多変量解析を行う.

2.3.1

匂いの空間分布検出

本実験では匂い物質の空間的な検出として,匂いガスの流れの可視化と匂い源形状の 検出を行った.まず,下記の手順で匂いガス流れの可視化を行った.撮影装置を図

2.2

示す.

1.

フルオレセイン

10 µM

を混合した蛍光アガロースゲルフィルムを作製する.

2.

蛍光アガロースゲルフィルムに対し,ヘキサン酸ガスが充満した瓶からポンプを用 いて匂いを吹きつける.

3.

蛍光アガロースゲルフィルムに励起波長

400-500 nm

を照射し,観測波長

510

±

5

nm

で撮影する.

(43)

2.2

匂い物質の空間分布検出装置の概要図

次に,以下の手順で匂い源形状の検出を行った.

1.

上記と同様に,フルオレセイン

10 µM

を混合した蛍光アガロースゲルフィルムを 作製する.

2.

蛍光アガロースゲルフィルムを匂い源に

5 mm

の間隔で向かい合わせるように設置 する

(図 2.3).

3.

匂い源から揮発するヘキサン酸を単一蛍光アガロースゲルフィルムに

5

分間暴露さ せる.

4.

蛍光アガロースゲルフィルムを蛍光変化を上記の撮影条件で再度撮影する.

5.

匂い暴露前後で差分画像を作成する.

(44)

2.3

匂い源の形状検出実験

最後に,蛍光アガロースゲルフィルムの空間分解能を検討した.匂い物質は空間を拡 散するため,極小の匂い源でも濃度が高ければ検出可能である.従って,蛍光アガロー スゲルフィルム上で匂いが検出できた部分を基準に空間分解能を推定することはできな い.そこで,匂い源と匂い源の間に匂いがない隙間を作製し,匂いがない隙間の幅によっ て空間分解能を推定する.図

2.4

に匂い源の配置を示す.図

2.4

の匂い源同士の幅

x

を変 更し,匂い源がない隙間を検出できる幅とできない幅を調査する.

ここでは,蛍光アガロースゲルフィルムにエオシン

10B

100 µM

用い,匂い物質は プロピオン酸,匂い源への暴露時間は

5

分間,励起波長は

400

500 nm

,観測波長は

610

nm

以上とした.

(45)

2.4

空間分解能測定実験の匂い源配置

2.3.2

蛍光プローブ間の

FRET

発生可能性の検証

匂い物質を識別するために複数の蛍光プローブを用いる際には,蛍光プローブ間での 相互作用を考慮して蛍光色素の選択を行う必要がある.これは蛍光プローブ間の相互作 用が匂い物質の検出に対し,どのような影響を及ぼすか不明瞭だからである.本実験で

(46)

は蛍光プローブ間の相互作用として

FRET

に着目して,蛍光プローブ間の相互作用と匂 い物質の検出の関係を調査した.蛍光色素の混合系では,

FRET

により各色素その匂い 物質応答を観測できるとは限らない.しかし,

FRET

を蛍光プローブフィルムに取り込 むことで,

FRET

ドナーへの匂い物質の作用および

FRET

への匂い物質の作用を間接的 に観測できることが期待できる.一枚のフィルムで匂い測定を行うには,このような相 互作用は不可避であるため,

FRET

による消光をセンサ情報として取り込むことは利点 があると言える.

匂い物質が及ぼす

FRET

への影響を調査するためには,

FRET

が発生する可能性のあ る蛍光色素の組み合わせを知っている必要がある.前述した通り,

FRET

はドナー分子 からアクセプタ分子へ無放射でエネルギー遷移が起こる現象であり,その効率はスペク トルの重なり,距離,配向性に依存している.

FRET

の効率のうちスペクトルの重なり に着目し,

FRET

が起こり得る蛍光色素の組み合わせを調査した.

まず,様々な蛍光色素水溶液の励起スペクトルと蛍光スペクトルを用いて測定した.蛍 光色素としてトリプトファン,

8-

アニリノ

-1-

ナフタレンスルホン酸

(8-Anilino-1-Naphtha-

leneSulfonic acid, ANS)

,硫酸キニーネ,バニリン,アクリジンオレンジ,フルオレセイ

ン,エオシン

10B

,ローダミン

B

を用いた.図

2.5

に,使用した蛍光色素の構造式を示す.

励起スペクトルと蛍光スペクトルは蛍光分光光度計

(F-2500

,日立

)

を用いて測定した.

次に,測定したスペクトルからスペクトルの重なりに関する指標の計算を行った.ス ペクトルの重なりは

1.3

式で示している.しかしながら,

1

つの蛍光波長から測定され た励起スペクトルからモル吸光係数は求められないため,

1.3

式を簡単化して計算を行 う.ここでは,スペクトルの重なりに関する指標として,ドナーの規格化蛍光スペクト

f

D

(λ)

とアクセプタの規格化励起スペクトル

a

A

(λ)

の積

J

2.1

式によって計算した.

J

=

a

A

(λ) f

D

(λ)dλ (2.1)

(47)

J

の値が大きいほどスペクトルの重なる面積が広いため,

FRET

の発生が考えられる.

最後に,蛍光プローブ間の

FRET

が匂い物質の検出に及ぼす影響を調査するした.こ こでは,

⃝2 1

種類の蛍光色素間での

FRET

の発生の確認と,

⃝FRET 2

発生時における匂い 物質に対する蛍光強度変化への影響に分けて実験を行った.

⃝2 1

種類の蛍光色素間での

FRET

の発生の確認は以下の手順で行った.

1.

 エオシン

10B

の濃度が

0 µM,5 µM,10 µM,50 µM,100 µM

からなる蛍光アガ ロースゲルフィルムをそれぞれ作製する.

2.

 フルオレセインを

100 µM

含み,エオシン

10B

の濃度が

0 µM

5 µM

10 µM

50 µM

100 µM

からなる蛍光アガロースゲルフィルムをそれぞれ作製する.

3.

 それぞれの蛍光アガロースゲルフィルムを励起波長

400

500 nm

,観察波長

530

±

6.8 nm

で撮影し,蛍光強度を測定する.

⃝FRET 2

発生時における匂い物質に対する蛍光強度変化への影響は以下の手順で行った.

1.

 フルオレセイン

100 µM

,エオシン

10B 100µM

の片方もしくは両方からなる蛍 光アガロースゲルフィルムを作製する.

2.

 作製した蛍光アガロースゲルフィルムに対し,ヘキサン酸,サリチルアルデヒド,

フェネチルアルコールのガスをそれぞれ

5

分間暴露させる.

3.

 匂い物質に対する蛍光変化を励起波長

400

500 nm

,観察波長

530

±

6.8 nm

撮影する.

図 1.1 哺乳類の嗅覚システムと E-nose のモデル 13)
図 1.2 E-nose のセンサシステム概要図 16) 1.2.2 酸化物半導体ガスセンサによる識別 酸化物半導体ガスセンサはその表面に酸素が存在し,還元性ガスが存在すると還元性 ガスの酸化反応で半導体ガスセンサの表面から酸素が奪われ,酸素に補足されていた自 由電子が移動できるようになるため,抵抗変化が起きる 17, 18) .この抵抗変化を検出する ことでガス検出を行う.上記に示したように酸化物半導体ガスセンサをアレイ化し,そ れぞれの応答をパターンとして考えることで匂い・ガスを識別できる 19, 20
図 1.3 酸化物半導体ガスセンサアレイを用いたガスの応答パターン 20)
図 1.4 QCM ガスセンサアレイによるガスの応答パターン 26) 1.2.4 導電性ポリマーによる識別 導電性ポリマーを用いたガスセンサは,櫛型電極に導電性ポリマーをコーティングし た形をしている.ガス暴露によって,導電性ポリマーの抵抗が変化することによってガ スを検出する 27, 28) .図 1.5 に導電性ポリマーを用いたセンサアレイとその応答パターン を示す.図 1.5A のように,異なる特性の導電性ポリマーを用いたセンサアレイに対し 3 種類のガスを暴露させている.B がアセトン,C がベンゼ
+7

参照

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