質の空間分布に分離可能であるかを検討した.まず,1種類の脂肪酸と2種類のアルデヒ ドからなる匂い源を作製し,蛍光変化パターンを測定した.蛍光変化パターンを主成分 分析にかけることで,酸領域とアルデヒド領域への分割に成功した.また,測定した蛍 光変化パターンと各匂い物質が持つ蛍光応答パターンとのコサイン類似度を比較するこ とで,それぞれの匂い物質が存在する領域ごとに分割することに成功した.続いて,複 数の匂い物質が混在した状況を想定し,1種類の脂肪酸と2種類のアルデヒドを様々な 濃度で混在させた匂い源を作製し,蛍光変化パターンを測定した.蛍光変化パターンか ら重回帰分析によって匂い源の匂い物質濃度を推定し,酸濃度とアルデヒド濃度への分 離に成功した.次に,3つの匂い物質からなる匂い源を作製し,蛍光応答パターンを測 定した.この事前測定は二次元状に形成された標準サンプルを用いて,センサ特性の一 度の測定で較正情報としたもので,多成分を測定対象とする化学センサにおいては新規 性が高く,画期的な成果である.
4章では,蛍光プローブフィルムの性能を向上させるために,新たなセンサ材料を用 いて蛍光プローブフィルムの作製と匂い物質の測定を行った.匂いセンサの溶媒を水か らイオン液体に変更することで,匂い可視化フィルムの保存性の向上,可逆性の付与,検 出可能物質の増加を行っている.ここでは,イオン液体を候補として,アンモニウム系 可塑剤とポリマー(PVC: Poly-Vinyl Chloride)を用いて,複数の蛍光プローブを含んだ蛍 光性ポリマーフィルムを作製した.まず,このマルチ蛍光PVCフィルムに対し,脂肪酸 ガスを吹きつけ,ガスの流れをマルチスペクトルイメージングで可視化した後,蛍光変 化の時間応答を計測することで可逆性の付与を確認した.次に,マルチ蛍光PVCフィル ムに加えて,よりスペクトル分解能が高いパイパースペクトルイメージングを用いるこ とで,匂い物質に対する情報量を増やし,40種類の匂い物質に対する蛍光変化パターン を計測した.計測した蛍光変化パターンに主成分分析を適用した後,k-meansクラスタ リング法を用いることで,5つのクラスタに分類し,分子構造に従った分類を行うこと
に成功した.
本研究ではマルチ蛍光プローブと2次元ガスセンサによって情報次元を上げたセンサ によって得られた情報の処理手法を確立し,匂い物質の空間分布と識別が同時に可能で あることを示した.以上の成果によって,これまで得ることのできなかった匂い源の形 状情報を匂い物質情報と組み合わせることが可能となり,情報次元が高い化学センサに よって匂い情報の応用範囲を広げることが可能となった.