第 4 章 マルチ蛍光 PVC フィルムを用い た匂い物質の空間的検出およびた匂い物質の空間的検出および
4.2.4 匂い物質のクラスタリング
前節の実験で得られた,40種類の匂い物質をk-means法を用いてクラスタリングを 行った.まず40種類の匂い物質に対する蛍光変化率パターンをそれぞれの二乗和平方根 で割ることで規格化を行った.規格化した蛍光変化率パターンに対しPCAを行った.合 計の寄与率が99%以上となるように第一主成分から第五主成分を対象に,クラスタ数を
5としてk-meansによるクラスタリングを行った.
4.3 実験結果
4.3.1 蛍光プローブフィルムの新溶媒の検討
イオン液体はそれ自体が蛍光を持つ場合がある.まず,1-ブチル-1-メチルピロリジウ ム ビス(トリフルオロメチルスルホニルイミド)の励起スペクトルおよび蛍光スペクトル を図4.7に示す.このイオン液体にローダミン6Gを混ぜ,更にヘキサン酸を混ぜたが蛍 光変化は観測できなかった.また,1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム=クロリドも同様 にヘキサン酸に対する応答は見られなかった.しかしながら,トリオクチルメチルアン モニウムブロミドとフルオレセインの組み合わせの場合,ヘキサン酸に対する応答が見 られた.図4.8にトリオクチルメチルアンモニウムブロミドの励起・蛍光スペクトルを,
図4.9にヘキサン酸に対する応答を示す.図4.9(a)はトリオクチルメチルアンモニウムブ ロミドとフルオレセインを430 nmで,(b)は460 nmで励起したもので,それぞれ消光,
増光が観測できた.これより,トリオクチルメチルアンモニウムブロミドを新溶媒とし て用いることとした.
イオン液体をフィルム化するためには,ゲル化剤等を用いて固める必要がある.こ こで,トリオクチルメチルアンモニウムブロミドがポリ塩化ビニル(Poly Vinyl Chloride,
PVC)の可塑剤として用いることができることに着目する.これまでゲル化剤としてアガ ロースを用いてきたが,これに代わってPVCを用いることで,トリオクチルメチルアン モニウムブロミドが可塑剤としても溶媒としても機能することになる.本研究では,新 たな蛍光プローブフィルムとして,PVC,トリオクチルメチルアンモニウムブロミド,蛍 光プローブからなる蛍光PVCフィルムを提案する.
図4.7 1-ブチル-1-メチルピロリジウム ビス(トリフルオロメチルスルホニルイミド)の励 起・蛍光スペクトル
図4.8 トリオクチルメチルアンモニウムブロミドの励起・蛍光スペクトル
図4.9 トリオクチルメチルアンモニウムブロミドのヘキサン酸応答特性
4.3.2 蛍光 PVC フィルムの可逆性
蛍光PVCフィルムにヘキサン酸ガスを吹き付けた際の蛍光変化の時間応答を図4.10 に示す.ヘキサン酸のガスが吹き付けられている間は蛍光強度が増加している.吹き付 けが終了した後はゆっくりとではあるが時間をかけて蛍光強度が元のレベルに戻ってい る.これは蛍光アガロースゲルフィルムにはない特徴であり,蛍光PVCフィルムにする ことで可逆性の付与に成功している.
図4.10 蛍光PVCフィルムの時間応答
4.3.3 マルチ蛍光 PVC フィルムによる匂い物質のハイパースペクトルイ
メージング
作成したマルチ蛍光PVCフィルムを図4.11に示す.マルチ蛍光PVCフィルムとハイ パースペクトルカメラによって各匂い物質の蛍光変化画像をスペクトル的に連続して得ら れた.40種類の匂いのうち,プロピオンアルデヒド,アセトフェノン,ヘキサン酸,2-ヘ キサノール,(s)-ペリラアルデヒドに対する蛍光変化のハイパースペクトルイメージを図 4.12(a)〜(e)に示す.また,図4.12(a)〜(e)に対応する蛍光変化のスペクトルを図4.12(f) に示す.今回測定した多くの匂い物質は,主に570 nmおよび650 nm付近で蛍光変化を おこしており,各波長で増光・消光の組み合わせと度合いが異なっている.
酸,アルコール,アルデヒド,ケトンの規格化蛍光変化率パターンをそれぞれ図4.13, 図4.14,図4.15,図4.16に示す.匂い物質によっては大きな蛍光変化を示しているもの もあったため,蛍光変化率パターンをそれぞれの二乗和平方根で割ることで規格化して いる.今回選択した物質は1,8-シネオールや6-メチル-5ヘプテン-2-オン等の水にほとん
図4.11 マルチ蛍光PVCフィルム
ど溶けない物質や,蛍光アガロースゲルフィルムでの検出が難しかったケトン類が含ま れているが,選択した40種類全ての匂い物質に対して蛍光変化が観察できた.これは,
蛍光PVCフィルムが多くの匂い物質を対象に測定が可能であることを示している.
図4.12 匂い物質のハイパースペクトルイメージングと蛍光スペクトルの変化
図4.13 酸の規格化蛍光変化率パターン
図4.14 アルコールの規格化蛍光変化率パターン
図4.15 アルデヒドの規格化蛍光変化率パターン
図4.16 ケトンの規格化蛍光変化率パターン