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銀行法における株式会社法制

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銀行法における株式会社法制

著者 川口 恭弘

雑誌名 同志社法學

巻 69

号 2

ページ 547‑576

発行年 2017‑06‑30

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000419

(2)

   同志社法学 六九巻二号

二一五五四七

           

一  はじめに   わが国の銀行法(昭和五六年法律五九号)は、同法上の銀行 )1

(は株式会社でなければならないと定めている(銀行法四条の二)。株式会社に関する規律は会社法(平成一七年法律八六号)が規定する。銀行には会社法の規定が適用され、その補充または修正が必要な場面において、銀行法が特別の規制を定めている。

  本稿は、銀行法が定める会社法の特別法の規定について検討を行うものである。そこでは、まず、銀行の企業形態として株式会社が要求されている点について、その沿革と意義を確認する。その後、株主の規制、役員の規制および財務の規制に焦点を当て、銀行法が定める規定の意義を検討することにしたい。

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   同志社法学 六九巻二号

二一六五四八

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二  銀行の企業形態

1   沿   革

  明治維新の後、政府は、封建社会から資本主義経済に移行するには、近代的企業形態である会社制度の導入が不可欠と考え、明治二三年に商法(明治二三年法律三二号)を制定した(以下、﹁旧商法﹂という) )1

(。さらに、わが国の実情により適合したものとして、明治三二年に商法(明治三二年法律四八号)が定められた(以下、﹁商法﹂という)。商法は、平成一七年の会社法の制定まで、数多くの改正がなされ、わが国の会社制度に関する基本的規律を定めるものとなった。

  ところで、明治政府は、明治五年に国立銀行条例(明治五年太政官布告三四九号)を定めた。近代的資本主義国家を樹立するためには、その根幹である銀行制度を確立する必要があり、会社に関する一般法である商法の制定に先駆けて、同条例が制定されたことが注目される。国立銀行条例は、国立銀行の設立および運営に関する法規で、銀行の会社としての組織を規律するものであると同時に、銀行の業務の規制を定める業法でもあった )2

(。国立銀行は、﹁国立﹂との名称にも係らず、純然たる民間企業であった )3

(。さらに、国立銀行は、企業形態としては株式会社であり、この点で、国立銀行条例は、わが国最初の株式会社法制を規律したものであった )4

(。

  明治一五年に、中央銀行である日本銀行の開設のために日本銀行条例(明治一五年太政官布告三二号)が制定されるとともに、国立銀行は普通銀行(私立銀行)に転換することとなった。私立銀行については、当初、それを規律する法

(4)

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二一七五四九 令はなかった。その後、明治二三年に銀行条例(明治二三年法律七二号)が制定され、普通銀行の監督制度が整備されることとなった )5

(。銀行条例で注目すべきことは、株式会社のほか、合名会社または合資会社での銀行の設立が許容されていたことである )6

(。銀行条例の制定当時、旧商法の施行が予定されており、同条例では、旧商法で規定されている会社形態(合名会社、合資会社および株式会社)で銀行業を行うものとされたと考えられる。なお、会社組織に限らず、個人でも銀行を設立することが可能であった。

  その後、明治時代から大正時代にかけて、多くの銀行が設立され、そして破綻した。銀行の破綻による金融恐慌が発生することも少なくなかった。その原因は、多数の弱小銀行の存在にあった。これらの銀行では、地方の有力者と密接な関係があり、情実貸付けおよびその固定化は珍しくはなかった。そこで、預金者保護のための厳格な監督を実施し、経営の健全化を図り、弱小銀行を整理するため、昭和二年に銀行法(昭和二年法律二一号)(以下、﹁旧銀行法﹂という)が制定された )7

(。

  前述のように、銀行条例のもとでは、株式会社以外の企業形態でも銀行業を営むことが可能であった。しかし、旧銀行法では、銀行の企業形態を株式会社に限定することにした。すなわち、旧銀行法では、銀行業は主務大臣の免許を受けなければ営むことができないと定め(旧銀行法二条)、銀行業は資本金一〇〇万円以上の株式会社でなければ営むことができないとした(旧銀行法三条前段本文) )8

(。最低資本金制度は、弱小銀行を淘汰するためのもので、銀行法の施行により、当時の普通銀行の約半数が資格を失った )9

(。

  旧銀行法については、約半世紀にわたり、大きな改正がなされなかった。もっとも、国債等の窓口販売の可否という業際問題を契機として、昭和五六年に現行の銀行法(昭和五六年法律五九号)が制定された )₁₀

(。

  銀行法は、銀行は株式会社であって、①取締役会、②監査役会、監査等委員会または指名委員会等 )₁₁

(、③会計監査人と

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   同志社法学 六九巻二号

二一八五五〇

いった機関を置くものでなければならないと規定している(銀行法四条の二) )₁₂

(。銀行が株式会社組織でなければならないとしている点は、旧銀行法の規定を受け継いでいる。その上で、銀行法では、機関設計について限定したものを要求していることが注目される。

2   銀 行 と 株 式 会 社 組 織

  前述のように、わが国では、旧銀行法以来、銀行は株式会社組織であることが要求されてきた。   旧銀行法において、株式会社組織が必要とされた理由として、﹁(イ)株式会社の生命は社員の人的条件に依り影響を受くることなき為め、其の法人格の永遠性は最も顕著なること、(ロ)株式組織は資本を集合すること極めて容易なる為め、大規模の事業を行ふに適すること、(ハ)株式会社には株主総会あり、取締役あり、監査役あり、内部各機関の組織整然として、事業を組織的に経営するに適すること、(ニ)株式会社には各種の事項に亙り公示の原則行われ、一般取引者に其の財産状態を公開して之が判断の機会を与へ得ること﹂といった株式会社組織が有する特質から、﹁銀行の如く公衆の信用を唯一の生命として、之が事業を大規模に、堅実に且正確に営むことを要するもの⋮であり、銀行法が此の事実に鑑み、銀行業の経営主体を株式会社に限定したことは、銀行の基礎を強固ならしむる上に於て極めて適切なる規定と言ふべきである。﹂と述べられている )₁₃

(。すなわち、そこでは、株式会社は、(イ)法人格を備えていること、(ロ)株式発行等による資金調達が容易であること、(ハ)会社の機関が充実していること、(ニ)開示制度が整備されているということから、信用を基礎に業務を行う銀行にとって、最も適切な企業形態と考えられた。

  また、旧銀行法については、上記と同様の株式会社の特徴を指摘した上で、﹁銀行業の如く信用を基礎とする恒久的大企業にして且多数の債権者(預金者)を有する者に付ては、株式会社が最も適当なる組織であることは異論が無いで

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   同志社法学 六九巻二号

二一九五五一 あらう。⋮勿論株式会社でなければ健全なる経営を為し得ないとは断定できないが銀行制度の根本的改善を為さんとする機会に際しては其の経営主体と前述の如き特長を有する株式会社組織に限定して例外を認めない方が銀行其のものの発達上又之が監督の統一上得策であらう。⋮要するに経済界の大勢に順応したものと謂ふべきである。﹂とも述べられている )₁₄

(。すなわち、そこでは、銀行の企業形態として株式会社以外のものも想定できるとしながら、監督上の観点からも、株式会社に統一することが得策であるとされている。

  これらの立場は、銀行法においても妥当する。現在の会社法が定める会社は、株式会社、合名会社、合資会社および合同会社である(会社法二条一号参照)。このうち、株式会社が有する特質は、現行法でも同様であり )₁₅

(、株式会社が公益性の高い業務を安定かつ継続的に行うためには最も的確な企業形態であることに変わりはない )₁₆

(。

3   協 同 組 織 の 金 融 機 関

  ところで、銀行が行う業務またはそれに類似する業務を行う金融機関は銀行に限らない。すなわち、信用金庫、信用組合 )₁₇

(、農業協同組合などの協同組織金融機関も同様の業務を営むことができる。

  協同組合は、組合員等の相互扶助を図るためのものである。そのため、株式会社のように、営利を目的とするものではない )₁₈

(。たとえば、大正時代から昭和初期にかけて、中小企業は銀行からの融資ための十分な担保を有さないことから、必要な資金を調達することができなかった。そこで、中小企業が相互扶助による融資を受けるため、協同組織の金融機関である信用組合(信用協同組合)を設立した。他の協同組合による金融業務も、同様に組合員の便宜を図るために行われるものである )₁₉

(。銀行業の有する公益性のゆえに株式会社組織が最適の企業形態とされながら、協同組織の金融機関が存在している理由は、このような歴史的経緯によって説明するしかない )₂₀

(。なお、その業務の公益性から、協同組織金

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二二〇五五二

融機関については、銀行法と同様の規制が定められていることに留意が必要である )₂₁

(。

  株式会社組織の金融機関と協同組織の金融機関が併存する状況は、保険分野にも存在する。すなわち、保険業務は、株式会社または相互会社によって営まれる(保険業法六条一項)。相互会社は、保険契約者が社員となった法人を組織し、それが保険者として保険を引き受ける会社である。相互保険の引受けは営利目的(保険契約者に利益を配分する目的)で営むことはできない。このような保険も、相互扶助のために保険制度が発展してきたことを背景とするものである )₂₂

(。

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二二三五五五 三  株主の規制

1   資   格

  会社法上、株式会社の株主となる資格について制限はない )1

(。銀行法では、銀行の議決権の一定割合以上の株式を保有する場合に、特別の規制が定められている。

  まず、銀行の総株主の議決権の五%を超える議決権の保有者(銀行議決権大量保有者)は、銀行議決権大量保有者となった日から五日以内に、内閣総理大臣に届出を行わなければならない(銀行法五二条の二の一一第一項) )2

(。このような届出は、規制当局が、銀行議決権大量保有者についての情報を把握することができるようにするためのものである )3

(。

  つぎに、銀行の総株主の議決権の二〇%(主要株主基準値)以上を保有するためには、内閣総理大臣の認可が必要となる(銀行法五二条の九第一項) )4

(。内閣総理大臣の認可を受けずに、主要株主基準値以上の数の議決権を保有している者に対しては、内閣総理大臣は、そのような事態を解消するように、株式の売却など必要な措置を命じることができる(銀行法五二条の九第四項)。このような認可制度は、主要株主基準値以上の議決権を有する株主は銀行経営に深く関与することが可能であることから、事前に、その適切性について判断することが必要と考えられたことによる )5

(。

  ところで、銀行法は、銀行の主要株主のうち、銀行の総株主の議決権の五〇%を超える議決権の保有者(銀行支配株主)について特別の規定を置いている )6

(。すなわち、銀行支配株主の業務または財産の状況に照らして、当該銀行の業務の健全かつ適切な運営を確保するために﹁特に必要があると認めるときは﹂、その必要の限度において、当該銀行主要株主に対して、銀行の経営の健全性を確保するための改善計画の提出を求め、もしくは、提出された改善計画の変更を命じ、または、監督上必要な措置を命じることができる(銀行法五二条の一四第一項)。また、銀行持株会社に対して、

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   同志社法学 六九巻二号

二二四五五六

同様の改善計画等の提出を命じることもできる(銀行法五二条の三三) )7

(。これらのことから、監督官庁は、自己資本比率の低下を生じている銀行について、資本増強のための経営計画の策定または資本増強のための支援を銀行支配株主に命じることができる。会社法上、株主は会社に対する出資を限度としてしか責任を負わない(会社法一〇四条)。上記の規定は、会社法の規定の例外を定めるものと言える )8

(。

  明治二三年の銀行条例の制定以前において、私立銀行について、大蔵省の規則により、設立の認可の際に、株主の責任を無限とするものがあった )9

(。もっとも、銀行条例の制定以降、株主の責任に関する規定は定められず、もっぱら、商法の規定に委ねられることとなった。銀行条例と同時期に制定された旧商法では、﹁会社ノ資本ヲ株式ニ分チ其義務ニ対シテ会社財産ノミ責任ヲ負フモノヲ株式会社ト為ス﹂(旧商法一五四条)と規定し、株主の有限責任を明記した。その後、明治三二年の商法では、﹁株主ノ責任ハ其引受ケ又ハ譲受ケタル株式ノ金額ヲ限度トス﹂(商法一四四条一項)とされ、この規定が会社法にも引き継がれている(会社法一〇四条)。

  株主の有限責任は、会社が法人であることの当然の属性ではなく、多額の資本を投資家から集めることのできるように政策的に認められたものである )₁₀

(。さらに、諸外国では、会社の支配株主に対して忠実義務を課し、一定の要件のもとに、支配株主の責任を肯定するものも見られる )₁₁

(。他方で、銀行はその経営を行うにあたって、参入規制による競争制限、預金保険制度の適用による低コストでの預金集めを可能にするといった恩恵を受けている。金融秩序の維持のためやむを得ず国民の税金を投入する前に、制度から利益を得ている者に損失の負担をさせることにも合理性が認められ )₁₂

(る )₁₃

(。

2   会 計 帳 簿 の 閲 覧 権

  会社法は、一定割合以上の議決権または株式を保有する株主に会計帳簿の閲覧権を与えている(会社法四三三条)。

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