著者 松井 和也
雑誌名 同志社法學
巻 69
号 8
ページ 3786‑3740
発行年 2018‑03‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000327
公開買付けに対する防衛策の制限
松 井 和 也
目次
Ⅰ はじめに
Ⅱ 防衛策の制限 ――株主判断の尊重 一 英国
二 カナダ
Ⅲ 米国における防衛策の容認 ――取締役会の判断の尊重
Ⅳ 防衛策を認める判例法理への批判
Ⅴ 買収法制のあり方
Ⅰ はじめに
ある会社を買収するには、買収者が公開買付けをして、その会社を支配す ることが可能になるほどの株式を取得する、という方法がある。公開買付け を行う者は、プレミアム付きの買付価格を提示することが多い。その価格で 持株を売却したいと考える株主は、公開買付けに応募するだろう。
公開買付けに対して、対象会社の取締役会が防衛策をとろうとするかもし れないが、わが国の裁判所は、取締役会の判断に基づく防衛策に対して、厳 しい姿勢をとるだろう(1)。これに対して、対象会社の取締役会が防衛策をとる
(1) 最決平成19年8月7日民集61巻5号2215頁(ブルドックソース事件)、東京高決平成17
ことを認めるべきだという主張がある(2)。
そこで、公開買付けに対する防衛策に関する外国の規制を参照すると、防 衛策に否定的な国だけでなく、一定の場合には防衛策を容認する国もあるこ とがわかる。本稿では、前者の例として英国とカナダ(本稿Ⅱ)、後者の例 として米国の規制を参照する(本稿Ⅲ)。
すなわち、英国のシティ・コードは、対象会社の取締役会が公開買付けに 対する防衛策をとることを禁止する。その一方で、シティ・コードは、公開 買付後に買付者が50%超に相当する対象会社の株式を所有する結果になる ほどの応募がなければ、買付者は株式を取得できないことにするなど、公開 買付規制を充実させている。
このようなシティ・コードのもとでは、対象会社の株主の判断(すなわち、
公開買付けを成立させるほどの応募があるかどうか)が、公開買付け(買収)
の成否を左右することになるだろう。
英国とは異なり、米国やカナダでは、対象会社の取締役会は、ポイズン・
ピル(ライツ・プラン)を採用することで、不招請の公開買付けに対抗する ことができる(3)。ポイズン・ピルが採用されている場合、敵対的買収者は、対 象会社の株式を一定割合以上取得することが事実上できなくなる(4)。そのため、
年3月23日判時1899号56頁(ニッポン放送事件)参照。
(2) 森田章『上場会社法入門[第2版]』153頁(有斐閣、2010年)参照。
(3) 取締役会がポイズン・ピルを採用する際に、株主の承認は必要ない。これに対して、英 国では、ポイズン・ピルは株主総会の特別決議に基づいて採用されるが、対象会社の株主、
と り わ け 機 関 投 資 家 は、 ポ イ ズ ン・ ピ ル の 採 用 に 賛 成 し な い だ ろ う。See William Underhill and Andreas Austmann, “Defensive Tactics” in Payne (ed), Takeovers and English and German Law 105 (2002); see also Paul L. Davies, “The Regulation of Defensive Tactics in the United Kingdom and the United States” in Hopt and Wymeersch
(eds), European Takeovers: Law and Practice 216 (1992).
英国のシティ・コードは、公開買付けによらずに会社支配が取得されることを防止する ための規定を設けている(本稿Ⅱ一2参照)。そのため、機関投資家は、ポイズン・ピル を採用することによるメリットはあまりないと考えているようである。
(4) ポイズン・ピルが採用されている場合、何者かが、取締役会の同意を得ずに、一定割合 以上の会社の株式を取得した場合、当該株式大量取得者以外の株主は、ライツを行使でき るようになる(当該大量取得者のライツは無効になる)。
すなわち、当該大量取得者以外の株主は、安い価格(たとえば時価の半額)で、会社の
対象会社の取締役会がポイズン・ピルを採用し、それを存続させることは、
公開買付けに対する防衛策になるといえる。
ただし、カナダでは、買収者の求めに応じて、州の証券委員会が、対象会 社にポイズン・ピルの差止めを命令することがある(本稿Ⅱ二1~3参照)。
そのような場合は、英国と同様、対象会社の株主の判断(すなわち、公開買 付けを成立させるほどの応募があるかどうか)が、買収の成否を左右するこ とになるだろう(5)。
これに対して、米国の裁判所は、買収者がポイズン・ピルの消却を対象会 社に命令するように請求してきたとしても、対象会社の取締役会が公開買付 けの買付価格は不十分だと判断したのであれば、取締役会の判断を尊重し、
買収者の請求を棄却する。すなわち、米国の裁判所は、対象会社の取締役会 が防衛策をとること(ポイズン・ピルを存続させること)を認める。本稿の
Ⅳでは、このような判例法理を支持してよいのかを検討する。
Ⅴでは、わが国の買収法制のあり方を提示する。
株式を、何株か会社から購入することができる。株主がライツを行使すれば、当該大量取 得者の株式所有割合は低下するだろう。買収者はそのような事態を避けたいので、対象会 社の株式を一定割合以上取得することは差し控えるだろう。See eg, William T. Allen and Reinier Kraakman, Commentaries and Cases on the law of Business Organizations 543
(2016).
(5) カナダでは、最近、公開買付規制が改正された。本稿Ⅱ二8(2)参照。
カナダでは、ポイズン・ピルを採用する際に、一定の条件をみたす公開買付けが行われ る場合には、ポイズン・ピルは発動しないと規定しておくことが多い。注(28)参照。
以上のような場合、買収者は、シティ・コードのもとで公開買付けを行うのとあまり変 わらないといえるだろう。
Ⅱ 防衛策の制限
――株主判断の尊重 一 英国
1 ノー・フラストレーション・ルール
英国のシティ・コード(6)は、対象会社の取締役会が公開買付けに対して防衛 策をとることを禁止する。
すなわち、シティ・コードの規則21.1は、公開買付けが差し迫っている、
あるいは公開買付けが開始された場合、対象会社の取締役会は、株主総会の 承認なく、公開買付けを阻止する、または株主が公開買付けについて判断す る機会を奪うことになる行動をとってはならない、と規定する(7)。
テイクオーバー・パネルは、対象会社側が公開買付けを妨げる行動をとっ ているのではないかと懸念する買収者から請求されれば、対象会社の取締役 会が株主の同意なくそのような行動をとることを禁止するだろう(8)。
以上のようなノー・フラストレーション・ルールは、1968年のシティ・
コードで採用された(9)。シティ・コードの前身は、1959年のノート(10)である。
ノートは、1950年代初めの敵対的企業買収の波に対応するために作成され
(11)た
。ノートは、マーチャント・バンク、機関投資家、商業銀行および証券取 引所で構成される委員会によって提案されたが、ノートは取締役の地位を安 全にすることではなく、株主の利益を擁護することに焦点をあてていた(12)。
(6) The City Code on Takeovers and Mergers.
シティ・コードの内容を紹介する邦語の文献として、たとえば田中亘『企業買収と防衛 策』394頁(商事法務、2012年)がある。
(7) なお、シティ・コードは、事前の防衛策については規定を設けていない。
(8) See John Armour and David A. Skeel, Jr., “Who Write the Rules for Hostile Takeovers, and Why?-The Peculiar Divergence of U.S. and U.K. Takeover Regulation” (2007) 95 The Georgetown Law Journal 1727, 1744-46.
(9) See Andrew Johnston, “Takeover Regulation: Historical and Theoretical Perspective on the City Code” (2007) 66 Cambridge Law Journal 422, 442-43.
(10) Notes on Amalgamation of British Businesses.
(11) See Louise Gullifer and Jennifer Payne, Corporate Finance Law: Principles and Policy 568 (2011).
1968年のシティ・コードは、ノートよりも詳細であり、シティ・コード は取締役会が公開買付けを阻止する行動をとることを禁止する規定を設ける ことで、ノートを補った(13)。
ただし、シティ・コードは、公開買付けが開始された場合、対象会社の取 締役会に、完全な消極性を要求するわけではない。対象会社の取締役会は、
公開買付けに関する取締役会の見解を株主に伝える義務を負うが(規則 25.1)、取締役会は、公開買付けの買付価格は、会社の価値を適切に反映し ていないなどと主張し、会社の株主に、公開買付けに応募しないように勧告 することができる(14)。取締役会は、ホワイト・ナイトを探すこともできる(15)。
2 公開買付規制の充実
シティ・コードは、防衛策を禁止する一方で、公開買付規制を充実させ、
会社支配が公開買付けで取得されるように促している。換言すれば、シティ・
コードは、会社支配が市場取得で取得されることを防止しようとしている。
すなわち、シティ・コードの規則9.1は、ある者が、会社の議決権の30%
以上に相当する株式を取得した場合(すなわち、会社支配が取得された場合(16))、
その者に対して、公開買付けを行うように要求する(17)。これは義務的公開買付
(12) See ibid.
(13) See ibid, 569.
(14) See ibid, 593.
(15) See ibid, 594.
(16) See ibid, 609.
(17) シティ・コードは、会社の議決権の30%以上50%以下に相当する株式を所有する者が、
議決権付株式を追加取得した場合(すなわち会社支配が強化された場合)にも、その者に 対して、公開買付けを行うように要求する。
50%超所有している者(すでに会社を支配している者)は、公開買付けをする義務を生 じさせることなく、株式を買い増すことができる。See Brenda Hannigan, Company Law 708 (2012).
1998年改正前は、30%以上50%以下の議決権の所有者は、1年間で一定割合以下であれ ば、公開買付けをする義務を生じさせることなく、株式を買い増すことができた。See The Takeover Panel, Rule Changes (1998/10).
(18) 義務的公開買付制度に関する邦語の文献として、渡辺宏之「『制定法に基づかない企業 買収規制』とその変容――EU企業買収指令の国内法化と英国テイクオーバー・パネル」
神田秀樹編『市場取引とソフトロー』82頁(有斐閣、2009年)、飯田秀総『公開買付規制 の基礎理論』41頁(商事法務、2015年)などがある。
義務的公開買付けの基準値は、20%が適切であるという意見もある。たしかに、買付者 は公開買付けの前に最大で29.9%まで取得することが可能だが、ほとんどの公開買付けは 29.9%より相当低い状態から行われており、現在の基準値(30%)で問題はないと考えら れている。See The Takeover Panel, Panel Statement on the Report of a Panel Working PartyonTakeoverRulesandPractices 4-5 (1989/10).
(19) これは、株主総会の普通決議の可決を可能にする所有割合と同じ値である。この基準 値(50%超)を引き上げる必要はないと考えられている。See The Takeover Panel Code Committee,ReviewofCertainAspectsoftheRegulationofTakeoverBids 4.3 (2010/22).
(20) 公開買付けが確定的になった場合、公開買付けの応募期間は少なくとも14日間延長さ れなければならない(規則31.4)。
公開買付けの対象会社の株主が、公開買付けの買付価格を不十分だと感じていても、他 の株主が公開買付けに応募し公開買付けが成立した場合に自分が少数株主になることを避 けるため、公開買付けに応募してしまうことを公開買付けの強圧性というが(See eg, Lucian Arye Bebchuk, “The Pressure to Tender: An Analysis and a Proposed Remedy” in Coffee, Lowenstein and Rose-Ackerman (eds), Knights, Raiders, and Targets 371 (1988);
Paul L Davies, “The Notion of Equality in European Takeover Regulation” in Payne (ed), supra note 3, 15-16)、公開買付けの延長を買付者に義務づける規制は、強圧性の問題の解 決に役立つだろう。
田中・前掲注(6)418頁、藤田友敬「支配株式の取得と強制公開買付」岩原紳作=山下 友信=神田秀樹編集代表『会社・金融・法[下巻]』64頁(商事法務、2013年)、黒沼悦郎
「公開買付規制の理論問題と政策問題」江頭憲治郎編『株式会社法大系』553-554頁(有斐 閣、2013年)、Mike Burkart and Fausto Panunzi, “Mandatory Bids, Squeeze-Out, Sell-Out, and the Dynamics of the Tender Offer Process” in Ferrarini, Hopt, Winter and Wymeersch
(eds), Reforming Company and Takeover Law in Europe 753 (2004)などを参照。
延長制度は、対象会社の株主に、公開買付けに応募しないインセンティブをわずかなが ら与えてしまうおそれがあるが、そのような問題はあまり気にしなくてもよいとされる。
田中・前掲注(6)420頁注213、飯田秀総「公開買付けに関する行為規制」田中亘=森・
濱田松本法律事務所編『日本の公開買付け――制度と実証』89頁(有斐閣、2016年)参照。
制度と呼ばれる(18)。
そして、公開買付けは、買付者が対象会社の議決権の50%超(19)に相当する株 式を所有する結果になるほどの応募がない限り、確定的にならない(20)(規則 10)。
義務的公開買付けの場合、買付者は、対象会社の議決権の50%超に相当す る株式を所有する結果になるほどの応募があること以外の条件を付すことが
できない(規則9.3)。
買付者は、任意の公開買付けを行う場合、公開買付けに次のような条件を 付すことができる。すなわち、買付者は、①買付後に特別決議の可決が可能 になるようにするため、議決権の75%に相当する株式を所有する結果になる ほどの応募があることや、②買付後に少数株主の株式の強制取得が可能にな るようにするため、議決権の90%に相当する株式を所有する結果になるほど の応募があること、という条件を付すことができる(21)。①よりも②の条件が付 されることのほうが多いようである(22)。
義務的公開買付けの場合は、公開買付けに①や②の条件を付すことができ ないので(23)(規則9.3参照)、会社支配を取得したい者は、30%未満の状態から、
任意の公開買付けを行うであろう(24)。
二 カナダ
Ⅰで述べたように、対象会社の取締役会の判断でポイズン・ピルを採用し、
それを存続させることは、公開買付けに対する防衛策になるといえる。
カナダでは、公開買付けに対する防衛策に関して、1997年に次のような 方針が採用された(25)。すなわち、公開買付けの最中に、あるいは公開買付けの 直前に、防衛策がとられた場合、審査の対象になるかもしれない(26)。カナダの 証券規制当局は、防衛策のせいで、株主が公開買付けに対応することができ なくなると判断すれば、適切な行動をとるだろう(27)。
(21) See Paul L. Davies and Sarah Worthington, Gower and Davies’ Principles of Modern Company Law 1081 (2012).
(22) A Practitioner’s Guide to the City Code on Takeovers and Mergers 2013/2014 194お
よびJohn Armour=渡辺宏之「英国における企業買収ルールの構造分析」早稲田法学88
巻2号238-239頁(2013年)参照。
(23) そのため、義務的公開買付けはあまり行われていないようである。See Hannigan, supra note 17, 700.
(24) See Davies & Worthington, supra note 21, 1061.
(25) National Policy 62-202-Take-Over Bids-Defensive Tactics.
(26) See ibid, 1.1 (4).
(27) See ibid, 1.1 (5).
以下で紹介する1~3事件では、州の証券委員会は、上限付きではない公 開買付けを開始した敵対的買収者の求めに応じて、ポイズン・ピルの差止め を対象会社に命令した。ポイズン・ピルが取り除かれれば、英国と同様、対 象会社の株主の判断(すなわち、公開買付けを成立させるほどの応募がある かどうか)が、買収の成否を左右することになるだろう(28)。
8では、カナダにおいて最近、公開買付規制が改正されたことを紹介する。
1 バフィンランド・アイロン・マインズ事件(29)
[事実の概要]
バフィンランド・アイロン・マインズ社の株主は、2009年3月24日に、
ポイズン・ピルを承認した。ヌナブト・アイロン・オーレ・アクイジション 社は、2010年9月22日に、バフィンランド社の普通株式に対する、上限付 きではない不招請の公開買付けを開始した。公開買付けの買付価格は1株あ たり現金0.80ドルであり、買付期間は11月22日までだった。
(28) カナダでは、ポイズン・ピルを採用する際に、①買付期間が60日以上あり、②買付者 が所有する株式を除く会社の株式のうち過半数の応募がなければ買付者は株式を取得せ ず、③買付者が株式を取得する場合は、買付期間を10日間延長するのであれば、公開買付 けは適格公開買付け(permitted bid)に該当すると規定することが多い。See CSA Notice and Request for Comment: Proposed National Instrument 62-105 Security Holder Rights Plans, Proposed Companion Policy 62-105CP Security Holder Rights Plans, and Proposed Consequential Amendments 3 (2013).
公開買付けが適格公開買付けに該当すれば、ポイズン・ピルが採用されている場合であ っても、ポイズン・ピルは発動しない。
3のレッド・イーグル事件では、買付期間が60日以上あり(買付期間は、買付者が株式 を取得する場合は10日間延長される)、50%に相当する応募があることを買付けの条件と する、上限付きではない公開買付けに対しては、ポイズン・ピルは発動しないことになっ ていた。See 2015 BCSECCOM 401, para 31.
米国の事例であるが、サード・ポイント対ルプレヒトでは、買付期間が100日以上あり、
現金を対価とする、上限付きではない公開買付けに対しては、ポイズン・ピルは発動しな いことになっていた。See Third Point LLC v. Ruprecht, et al., 2014 WL 1922029 (Del.
Ch.2014), *10.
どのような公開買付けが適格公開買付けに該当するのかは、事例ごとに異なることに注 意する必要がある。
(29) Re Baffinland Iron Mines Corp., [2010] 33 OSCB 11385.
11月8日、アルセロールミタル社は、アルセロールミタル社が、バフィン ランド社の普通株式に対する、上限付きではない公開買付け(買付価格は1 株あたり現金1.10ドル)を行うことで、バフィンランド社と合意したことを 公表した。
11月1日に、ヌナブト社は、オンタリオ州の証券委員会に、バフィンラン ド社のポイズン・ピルを差し止める命令を下すように請求していた。委員会 は、聴聞を11月18日に行い、翌日、ポイズン・ピルを差し止める命令を下 した。
[委員会の判断]
ポイズン・ピルは、バフィンランド社の取締役会に、競合する公開買付け を探すための時間を与えた。……アルセロールミタル社の公開買付けの買付 価格(1株あたり現金1.10ドル)は、ヌナブト社の公開買付けの買付価格(1 株あたり現金0.80ドル)を約38%上回っていた(30)。……オークションを促すた めに、ポイズン・ピルを存続させる必要はない(31)。
ヌナブト社がアルセロールミタル社と争う場合、ポイズン・ピルが存続す るのであれば、ヌナブト社は公開買付けを延長しなければならなくなる。そ のことは、ヌナブト社にとってリスクになる(32)。……当委員会がポイズン・ピ ルを差し止める命令を下し、[ヌナブト社が公開買付けの買付価格を引き上 げれば]バフィンランド社の株主は利益を受ける(33)。
われわれは、ポイズン・ピルを差し止めることが公益に合致すると結論づ ける(34)。
本件では、バフィンランド社の取締役会は、ポイズン・ピルのもとで、ヌ ナブト社からの公開買付け(上限付きではない公開買付け)への対案を探す
(30) Ibid, 19.
(31) Ibid, 32.
(32) Ibid, 37.
(33) Ibid, 38.
(34) Ibid, 56.
ための時間を得た。アルセロールミタル社が、ヌナブト社の公開買付けを上 回る条件で上限付きではない公開買付けを行うことになった。
オンタリオ州の証券委員会は、ヌナブト社が公開買付けを開始してから57 日目に聴聞を行った。委員会は、ポイズン・ピルは役割を果たしたと考え、
聴聞の翌日に、ポイズン・ピルを差し止める命令を下した。
2 ライオンズ・ゲート・エンターテイメント事件(35)
[事実の概要]
アイカーンは2006年1月に、ライオンズ・ゲート・エンターテイメント 社の株式を取得し始めた。アイカーンはライオンズ・ゲート社の経営陣との 間で、同社の事業について議論した。
2010年2月11日、アイカーンは、公開買付けを行って、株式所有割合を 29.9%に上昇させることを検討しているとライオンズ・ゲート社に伝えた。
2月16日、アイカーンは公開買付けを行うつもりであることを公表した。
3月1日、アイカーンは、1,300万株を上限とする公開買付けを開始した。
公開買付けの買付価格は1株あたり現金6ドルであり、買付期間は4月6日 までだった。買付価格は、アイカーンが公開買付けを行うことを公表する直 前の、ニューヨーク証券取引所におけるライオンズ・ゲート社の株式の終値 よりも14.7%高かった。アイカーンはすでにライオンズ・ゲート社の株式を 18.8%所有していたので、公開買付けが成功すれば、アイカーンの所有割合 は29.9%になる。
3月11日、ライオンズ・ゲート社の取締役会はポイズン・ピルを採用した。
取締役会は、翌日、ポイズン・ピルを承認するための株主総会を5月4日に 開催することを公表した。
3月19日と4月15日に、アイカーンは公開買付けに変更を加えた。すな わち、買付価格を7ドルに引き上げ、上限付きではない公開買付けにし、買
(35) Re Icahn Partners LP, 2010 BCSECCOM 432.
付期間を4月30日までにした。
アイカーンの公開買付けには、公開買付後に買付者を50.1%以上の所有者 にするほどの応募(すなわち31.3%に相当する応募)があること、という条 件が付されていた。アイカーンは、このような応募の条件を放棄する権利を 維持した。公開買付けにはポイズン・ピルが取り除かれること、という条件 も付されていた。また、アイカーンは、応募の条件が満たされた場合、ある いは応募の条件を放棄した場合には、公開買付けを延長すると約束していた。
3月24日、アイカーンは、ブリティッシュ・コロンビア州の証券委員会に、
ライオンズ・ゲート社の取締役会が2010年3月11日に採用したポイズン・
ピルを差し止める命令を下すように請求していた。委員会は、4月26日と 27日に聴聞を行い、4月27日に、ポイズン・ピルを差し止める命令を下した。
[委員会の判断]
本件では、ライオンズ・ゲート社のポイズン・ピルを差し止める命令を下 すことが公益に合致するかどうかが問題になる(36)。
カナダの証券規制当局は、……ポイズン・ピルを規律する原則を明らかに してきた(37)。すなわち、対象会社の株主に、公開買付けに応募するかどうかを 判断する機会を与えることは公益に合致する。……ポイズン・ピルは、対象 会社の取締役会が公開買付けに対応するための時間を稼ぐために用いられる 場合、公益に反しない。……ポイズン・ピルが差し止められるのはいつなの かが問題になる。……取締役会は公開買付けへの対案を提示できそうか。株 主はポイズン・ピルを承認したか。公開買付けは強圧的か。考慮される要素 は事件ごとに異なり得る(38)。
本件では、ライオンズ・ゲート社の取締役会は、ライオンズ・ゲート社の 株主のために、競合する公開買付けや別の取引を探そうとしなかった(39)。……
(36) Ibid, para 28.
(37) Ibid, para 32.
(38) Ibid, para 33.
(39) Ibid, para 67.
対象会社の取締役会は、……別の取引を提示するなどして、株主価値を増大 させる措置をとろうとしていなかったので、ポイズン・ピルの存続は認めら れない(40)。
われわれがライオンズ・ゲート社のポイズン・ピルを取り消さなかったら、
ポイズン・ピルはいつまでも存続しただろう。取締役会が公開買付けへの対 案を探そうとしていない場合、ポイズン・ピルを存続させることは、カナダ の証券規制当局のポイズン・ピルに関する政策と一致しない(41)。
われわれは、ライオンズ・ゲート社のポイズン・ピルを差し止める(42)。 われわれは、[アイカーンの公開買付けは強圧的だというライオンズ・ゲ ート社の主張に]同意しない(43)。……アイカーンの公開買付けでは、公開買付 けの条件が満たされた場合、買付期間が10日間延長される。その結果、公開 買付けに応募しなかった株主は、公開買付けに応募する機会を得る(44)。アイカ ーンが公開買付けの条件を放棄することにした場合にも、……買付期間は延 長される。公開買付けに応募しなかった株主は、条件が放棄されたことを知 り、自分の判断を再検討することができる(45)。
本件では、ライオンズ・ゲート社の取締役会は、ポイズン・ピルを採用し たが、公開買付けへの対案を探そうとしていなかった。そのため、ブリティ ッシュ・コロンビア州の証券委員会は、アイカーンが公開買付けを開始して から57日目に、ポイズン・ピルを差し止める命令を下した。アイカーンの公 開買付けは上限付きではなかった。
委員会は、公開買付けの強圧性については、買付者が株式を取得する場合、
買付期間を延長することで解決できる、という判断を示した(46)。ただし、8⑵
(40) Ibid, para 68.
(41) Ibid, para 88.
(42) Ibid, para 134.
(43) Ibid, para 129.
(44) Ibid, para 130.
(45) Ibid, para 131.
(46) アイカーンが一定の場合に公開買付けを延長することを予告していなければ、ライオ
参照。
3 CBゴールド事件(47)
[事実の概要]
a レッド・イーグル社の公開買付けの背景
レッド・イーグル社と
CB
ゴールド社は、2014年前半に、友好的買収につ いて議論したが、合意にはいたらなかった。8月27日、CBゴールド社はポ イズン・ピルを採用するつもりであることを公表した。2015年1月28日、CBゴールド社の株主総会で、ポイズン・ピルが承認さ れた。
5月19日、CBゴールド社は、CBゴールド社が(同社の事業部門の)レ イハットを
OML
トレーディング社に売却することで、OMLトレーディン グ社と合意したことを公表した。b レッド・イーグル社の公開買付け
6月16日、レッド・イーグル社は、CBゴールド社株式に対する、対価が 株式の、上限付きではない公開買付けを行うかもしれないことを公表した。
この取引は、CBゴールド社の株主に、1株あたり0.051ドルの価値をもたら す。
レッド・イーグル社は、50%に相当する応募があることを公開買付けの条 件にしていた。レイハットの
OML
トレーディング社への売却は、CBゴー ルド社の株主の承認を得る必要があった。レッド・イーグル社は、レイハッ トの売却が行われないことも公開買付けの条件にしていた。6月22日、CBゴールド社は、第三者割当増資で、350万ドルを調達する つもりであることを公表した。
ンズ・ゲート社の株主は、公開買付けの買付価格は不十分だと感じていても、アイカーン によって支配される、あるいはアイカーンによって経営に影響が及ぼされる会社の株主に なるよりは、公開買付けに応募して株式を売却するほうがよいと考え、公開買付けに応募 してしまうかもしれない。
(47) Re Red Eagle, 2015 BCSECCOM 401.
6月23日、
CB
ゴールド社の株主の過半数は、レイハットの売却に反対した。6月29日、レッド・イーグル社は公開買付けを開始した。他方で、7月初 め、CBゴールド社とレッド・イーグル社は、友好的買収の議論を再開した。
その際、CBゴールド社は、企業の継続のためには55万ドルの資金が必要で あることをレッド・イーグル社に示唆した。
しかし、
CB
ゴールド社とレッド・イーグル社は、合意にはいたらなかった。7月14日、CBゴールド社は、レッド・イーグル社の公開買付けは
CB
ゴー ルド社の株主に十分な価値をもたらさないと取締役会が結論づけたことを公 表した。c バテロ社の公開買付け
7月24日、CBゴールド社とバテロ社は、バテロ社が、CBゴールド社株 式に対する、対価が現金およびバテロ社の株式の、上限付きではない公開買 付けを行うことで合意したことを公表した。バテロ社の公開買付けは、CB ゴールド社の株主に、1株あたり0.05ドルの価値をもたらす。
また、CBゴールド社とバテロ社は、バテロ社が、CBゴールド社に 575,000ドルを払い込むことで合意したことを公表した。7月24日に、CBゴ ールド社は第三者割合増資が行われたことを公表した。
d その後の展開
8月4日、レッド・イーグル社は、公開買付けの買付期間を8月31日まで 延長することにした。8月31日、レッド・イーグル社は、公開買付けの買付 期間を9月14日まで延長することにし、50%に相当する応募があることと いう条件を放棄した。
8月11日、バテロ社は公開買付けを開始した。9月4日、バテロ社は、公 開買付けの対価を1株あたり0.06ドルに増大させることを公表した。
レッド・イーグル社は、ブリティッシュ・コロンビア州の証券委員会に、
①
CB
ゴールド社のポイズン・ピルを差し止める命令を下すように請求した。また、②第三者割当増資の効力を停止するように請求した。
委員会は、聴聞を9月10日に行い、翌日に、ポイズン・ピルを差し止める
命令を下した。しかし、②の請求は棄却した。9月10日の時点では、レッド・
イーグル社の公開買付けには、48%に相当する応募があった(第三者割合増 資がなければ、52%に相当する応募があったことになる)。
レッド・イーグル社は、次のように主張した。すなわち、ポイズン・ピル は、CBゴールド社の取締役会に、公開買付けへの対案を探すための時間を 与えた。ポイズン・ピルの役割は果たされたので、ポイズン・ピルを差し止 める時期が到来した、と。
[委員会の判断]
レッド・イーグル社は、ポイズン・ピルが差し止められ、株式を取得する ことにする場合、買付期間をさらに10日間設けることを、われわれに約束し
(48)た
。……われわれは、レッド・イーグル社の請求を認め、ポイズン・ピルを 差し止める(49)。
われわれは、第三者割当増資が防衛策になるとは判断しない。第三者割当 増資のせいで、CBゴールド社の株主がレッド・イーグル社の公開買付けに 応募することが制約されることにはならないと判断する(50)。
第三者割合増資の時点では、CBゴールド社は、企業の継続のために資金 が必要だった。CBゴールド社は、レッド・イーグル社が公開買付けを開始 した後の話合いの際に、レッド・イーグル社に資金の提供を要請していた。
……以上のことから判断すると、第三者割合増資は防衛策ではなかった(51)。 レッド・イーグル社は、50%の応募があることという条件を放棄した。レ ッド・イーグル社には、応募された株式を取得する用意があった。レッド・
イーグル社は、応募の条件を放棄することで、第三者割合増資によって
CB
ゴールド社の株主が公開買付けに応じて株式を売却することが妨げられない ようにした(52)。(48) Ibid, para 66.
(49) Ibid, para 67.
(50) Ibid, para 91.
(51) Ibid, para 92.
(52) Ibid, para 94.
本件では、レッド・イーグル社の公開買付け(上限付きではない公開買付 け)が開始された後、バテロ社が上限付きではない公開買付けを行うことに なった。
ブリティッシュ・コロンビア州の証券委員会は、レッド・イーグル社が公 開買付けを開始してから73日目に聴聞を行い、聴聞の翌日に、ポイズン・ピ ルを差し止める命令を下した。
委員会は、2事件と同様、公開買付けの強圧性については、買付者が株式 を取得する場合、買付期間を延長することで解決できる、と考えているのだ ろう。
以下で紹介する4~6事件では、委員会は、ポイズン・ピルの差止めを命 じるかどうかを判断する際に、ポイズン・ピルに対して株主の承認があった ことを重視し、差止めを命じなかった。
4 カナディアン・ハイドロ・ディベロッパーズ事件(53)
[事実の概要]
2008年2月14日、カナディアン・ハイドロ・ディベロッパーズ社の取締 役会は、ポイズン・ピルを採用することを決議した。ポイズン・ピルは、4 月24日に開催されたハイドロ社の株主総会で承認された。
2008年秋、トランスアルタ社は、ハイドロ社との結合に関する検討を開 始した。2009年3月17日、トランスアルタ社
CEO
のスティーブ・スナイダ ーは、ハイドロ社CEO
のジョン・キーティングに、両社の結合を促す書簡 を送付した。7月7日、スナイダーは、キーティングの後任のケント・ブラウンに、1 株あたり現金4.55ドルでハイドロ社を買収することを提案した。7月13日、
ブラウンは書簡で、そのような提案はハイドロ社と同社の株主の最善の利益
(53) Re 1478860 Alberta Ltd., 2009 ABASC 448.
にならない、とハイドロ社の取締役会は判断したことをスナイダーに回答し た。
7月20日のリリースで、トランスアルタ社は公開買付けを行うつもりであ ることを公表した。公開買付けは7月22日に開始された。公開買付けの買付 価格は、ハイドロ社の普通株式1株あたり4.55ドルだった。公開買付けには、
3分の2に相当する応募があり、ポイズン・ピルが取り除かれること、とい う条件が付されていた。
公開買付けの買付期間は8月27日までだった。ハイドロ社のポイズン・ピ ルのもとでは、公開買付けの買付期間が60日以上であれば、公開買付けは適 格公開買付けになるが、トランスアルタ社の公開買付けは適格公開買付けに 該当しなかった。
トランスアルタ社側は、アルバータ州の証券取引員会に、ハイドロ社のポ イズン・ピルを差し止める命令を下すように請求した。委員会は、聴聞を8 月24日に行い、翌日に判断を示した。
ハイドロ社は、ハイドロ社の株主により大きな利益を与えるかもしれない 公開買付けが行われる可能性があったので、ポイズン・ピルを継続させるこ とは、ハイドロ社の株主の利益になると主張した。
[委員会の判断]
ポイズン・ピルには、対象会社の株主に……より大きな利益を与えるであ ろう対案を探すことができるようにするための時間を、対象会社[の取締役 会]に与えるという役割があると考えられている(54)。……われわれは、防衛策 のせいで株主が投資判断をすることができなくなる場合には、[ポイズン・
ピルなどの防衛策を制約する](55)。
われわれは、[ハイドロ社の株主が公開買付けの前にポイズン・ピルを承 認したこと]を重視する(56)。……2008年4月以降、ハイドロ社の株主も潜在
(54) Ibid, para 38.
(55) Ibid, para 40.
(56) Ibid, para 60.
的買収者も、ハイドロ社の取締役会が……ポイズン・ピルを消却しない限り、
買付期間が60日未満の公開買付けは妨害されることを知っていたのだろう(57)。 ハイドロ社の株主が承認したポイズン・ピルは、ハイドロ社の取締役会に、
公開買付けに対応するための時間として60日間を与えていたことを考慮す ると、トランスアルタ社の公開買付けの買付期間を60日間に延長すれば、[ポ イズン・ピルの]目的は達成されるだろう(58)。
本件では、聴聞の時点で、われわれが干渉する必要はないと結論づける(59)。
本件では、アルバータ州の証券取引員会は、トランスアルタ社が公開買付 けを開始してから33日目に聴聞を行い、翌日に判断を示した。委員会は、ハ イドロ社のポイズン・ピルは株主の承認を得たうえで採用されたことに着目 し、ポイズン・ピルの差止めを命じなかった。
ポイズン・ピルのもとでは、公開買付けの買付期間が60日以上あれば、公 開買付けは適格公開買付け(注(28)参照)に該当し、ポイズン・ピルは発 動しないことになっていたが、トランスアルタ社の公開買付けは適格公開買 付けではなかった。
委員会は、ハイドロ社の株主は、ポイズン・ピルを承認することで、ハイ ドロ社の取締役会に、公開買付けに対応するための時間として60日間を与え ていたと解釈し、そのような条件を満たさない公開買付けは妨害されてもや むを得ないと判断したのだろう。
5 パルス・データ事件(60)
[事実の概要]
2007年6月20日、パルス・データ社は、組織再編でパルス社のすべての
(57) Ibid, para 63.
(58) Ibid, para 71.
(59) Ibid, para 73.
(60) Re Pulse Data Inc., 2007 ABASC 895.
株式を取得するという提案をバリューアクト・キャピタルから受けたが、こ の提案を断った。バリューアクトは、ザイテル社を支配している。
8月3日、バリューアクトはカナダの証券規制当局に書類を提出し、パル ス社の株式を7,360,500株(パルス社株式の約13.5%に相当する)取得したこ とを公表した。
8月10日、バリューアクトは、(ザイテル社の子会社の)6818862カナダ 社が、パルス社株式に対する、上限付きではない公開買付け(買付価格は1 株あたり現金3.10ドル)を行うことを決定したことを公表した。トロント証 券取引所における、前日(8月9日)のパルス社株式の終値は3.00ドルだった。
カナダ社は、公開買付けの最終日である9月18日に、買付期間を9月28日 まで延長することにした。
8月13日、パルス社は、①特別委員会を創設し、株主価値を高めるための 対案を検討させること、②20%を発動基準とするポイズン・ピルを採用した こと等を公表した。
公開買付けには、ポイズン・ピルによって公開買付けが妨げられないこと、
および買付後に買付者が3分の2の所有者になるほどの応募があること、と いう放棄可能な条件が付されていた。
8月21日、パルス社は、ポイズン・ピルを承認するための株主総会を、9 月21日に開催することを公表した。
8月28日、パルス社の取締役会は、パルス社の株主に対して、公開買付け を拒否するように、全会一致で勧告した。パルス社の取締役会が拒否を勧告 したのは、パルス社の取締役会は会社の将来に自信をもっており、公開買付 けは不十分だと判断したからである。
9月21日に開催された株主総会では、74.86%がポイズン・ピルに賛成し た(バリューアクトを除外すれば98.3%がポイズン・ピルに賛成した)。
9月18日、カナダ社は、アルバータ州の証券委員会に、8月13日にパル ス社の取締役会が採用したポイズン・ピルを差し止める命令を下すように請 求していた。委員会は、9月26日に聴聞を行い、翌日に判断を示した。
カナダ社は次のように主張した。すなわち、オークションが行われそうに ない場合、ポイズン・ピルを使って株主が公開買付けに応募できないように することは不適切である。ポイズン・ピルを存続させても、株主により大き な利益を与えるだろう別の公開買付けは行われそうではないので、委員会は すぐにポイズン・ピルを差し止めるべきである、と。
[委員会の判断]
われわれは、2007年9月27日にポイズン・ピルを差し止める命令を下す ことが公益に合致するとは判断しない(61)。
以下の事情を考慮すると、ポイズン・ピルは当面の間存続させるべきだろ う。……ポイズン・ピルは、公開買付けに直面した状況で、……パルス社株 主の過半数の承認を得た(62)。
本件では、公開買付期間中に、パルス社の株主がポイズン・ピルを承認し た。つまり、公開買付けに反対であるという株主の集団的判断が示されたと いえる。この点で、本件はブルドックソース事件に類似する。
アルバータ州の証券委員会は、ポイズン・ピルの存続を容認した。
6 ネオ・マテリアル・テクノロジーズ事件(63)
[事実の概要]
2004年2月5日、ネオ・マテリアル・テクノロジーズ社の取締役会は、
ポイズン・ピルを採用した。ポイズン・ピルは、2004年6月28日に開催さ れた株主総会で承認され、2007年4月18日に再び承認された。ポイズン・
ピルのもとで、買付者が株式を取得するには、ネオ社の普通株式のうち少な くとも50%に相当する応募があることが必要だった。
2009年2月9日、パラ・インベストメンツ・ホールディングス社は、1
(61) Ibid, para 100.
(62) Ibid, para 101 (c).
(63) Re Neo Material Technologies Inc., [2009] 32 OSCB 6941.
株あたり1.40ドルで、2,300万株のネオ社株式(ネオ社株式の約20%に相当 する)を取得するつもりであることを公表した。公開買付けが成功すれば、
パラ社の株式所有割合は約40%になる。
パラ社は、公開買付けの買付期間を60日以上にし、50%に相当する応募 があったことを公表した後、10日間の買付期間を設けることで、公開買付け が適格公開買付けになるようにしていた。
2月12日、ネオ社の取締役会は新たなポイズン・ピルを採用した。ポイズ ン・ピルは上限付きの公開買付けを認めない点で、以前のポイズン・ピルと 異なっていた。
2月25日、パラ社は公開買付けを開始した。
4月21日、パラ社は、公開買付けの買付価格を1株あたり1.70ドルに増加 させること、取得株式数の上限を1,060万株(ネオ社株式の約9.5%に相当する)
に減少させること、および買付期間を延ばすことを公表した。この公開買付 けが成功すれば、パラ社の株式所有割合は29.9%になる。
4月24日に開催されたネオ社の株主総会で、ネオ社の株主はポイズン・ピ ルを承認した。パラ社を除外すれば、81.24%の賛成があった。
4月16日、パラ社は、オンタリオ州の証券委員会に、ポイズン・ピルを差 し止める命令を下すように請求していた。公開買付けの買付期間は5月19日 までだった。委員会は、5月7日に聴聞を行い、5月11日に判断を示した。
ネオ社は次のように主張した。すなわち、4月24日に開催された株主総会 で、ポイズン・ピルが圧倒的割合で承認されたことが重要である。ポイズン・
ピルへの賛成は、パラ社の公開買付けを拒否することを意味する、と。
[委員会の判断]
申立人[パラ社]は、われわれが権限を行使してポイズン・ピルを差し止 める命令を下すように請求するが、われわれは、救済を与えることが公益に 合致するとは判断しない(64)。
(64) Ibid, para 30.
ポイズン・ピルが圧倒的割合で承認されたことは、……パラ社の公開買付 けが拒否されたことを[意味する](65)。
本件では、6事件と同様、公開買付期間中に、ネオ社の株主がポイズン・
ピルを承認した。つまり、パラ社の公開買付け(公開買付けは上限付きだっ た)に反対であるという株主の集団的判断が示されたといえる。したがって、
オンタリオ州の証券委員会は、ポイズン・ピルの存続を容認した。
7 オーガスタ・リソース事件(66)
[事実の概要]
2010年、ハドベイ・ミネラルズ社とオーガスタ・リソース社は企業結合 に関する議論を始めた。2010年夏、ハドベイ社はオーガスタ社の株式の11
%を取得した。2013年春、ハドベイ社はオーガスタ社の株式をさらに取得 した。ハドベイ社の株式所有割合は15%に上昇した。
2013年4月18日、オーガスタ社の取締役会はポイズン・ピルを採用した。
ポイズン・ピルは、10月17日に開催されたオーガスタ社の株主総会で承認 された。株主総会では、64%がポイズン・ピルに賛成した。ハドベイ社を除 外すれば、82%がポイズン・ピルに賛成した。
2014年2月9日、ハドベイ社は、オーガスタ社の株式に対して、上限付 きではない公開買付けを開始したことを公表した。公開買付けには、ポイズ ン・ピルが取り除かれることという条件が付されていた。また、公開買付後、
ハドベイ社の株式所有割合が3分の2未満であれば、ハドベイ社はオーガス タ社の株式を取得しないことになっていた。
2月24日、オーガスタ社は、取締役、役員および4名の株主で構成される グループ(オーガスタ・グループ。同グループ全体でオーガスタ社株式の33
(65) Ibid, para 106.
(66) Re HudBay Minerals Inc., 2014 BCSECCOM 154.
%を所有する)は公開買付けに応募しないと判断したことを公表した。
3月14日、ハドベイ社は、公開買付けを4月2日まで延長すること、およ び応募の条件を放棄したことを公表した(67)。3月31日、ハドベイ社は、公開買 付けを5月5日まで延長すること、および公開買付けを延長するのは今回が 最後であることを公表した。
4月8日、オーガスタ社は、ポイズン・ピルの継続を承認するための株主 総会を5月2日に開催することを公表した。
5月2日に開催されたオーガスタ社の株主総会では、74.9%がポイズン・
ピルの継続に賛成した。ハドベイ社を除外すれば、94%がポイズン・ピルの 継続に賛成した。ハドベイとオーガスタ・グループを除外すれば、88.4%が ポイズン・ピルの継続に賛成した。
4月14日に、ハドベイ社は、ブリティッシュ・コロンビア州の証券委員会 に、ポイズン・ピルを差し止める命令を下すように請求していた。委員会は、
4月29日と5月2日に聴聞を行い、5月2日に判断を示した。
ハドベイ社は次のように主張した。すなわち、オーガスタ社は株主に別の 取引を提示せず、単に公開買付けを拒否しているので、ポイズン・ピルを差 し止める時機が到来した、と。
[委員会の判断]
公開買付けに直面した状況で行われた投票[の結果]は、重視されるべき である(68)。……本件において、オーガスタ社の株主は、……公開買付けに直面 した状況でポイズン・ピルの継続を承認した(69)。
われわれは、ポイズン・ピルを5月2日に差し止めることは公益に合致し
(67) ハドベイ社が応募の条件を放棄したのは、(オーガスタ社株式の33%を所有している)
オーガスタ・グループが公開買付けに応募しないことを表明したからである。
ハドベイ社が応募の条件を放棄したことで、オーガスタ・グループ以外の株主が公開買 付けに応募して、株式を売却することが可能になったと考えることもできるだろう。See ibid, para 54.
(68) Ibid, para 66.
(69) Ibid, para 67.
ないと判断する。しかし、ハドベイ社が7月16日まで公開買付けを行い、株 式を取得する場合、公開買付けを10日間延長するならば、ポイズン・ピルを 7月15日に差し止めることは公益に合致するだろうと判断する(70)。
6、7事件では、公開買付期間中にポイズン・ピルが承認されたので、ポ イズン・ピルの存続が認められた(71)。
本件では、公開買付期間中の2014年5月2日にポイズン・ピルが承認さ れたので、ポイズン・ピルの存続は認められたものの、委員会は、公開買付 けが継続されるのであれば、将来(7月15日)差止命令を出すことを肯定し た。委員会は、取締役会が公開買付けを拒否し続けることを防止するために、
このような判断を下したのだろう。
委員会は、公開買付けの強圧性については、2、3事件と同様、買付者が 株式を取得する場合、買付期間を延長することで解決できる、と考えている のだろう。
8 公開買付規制の改正
⑴ 規制当局の見解 a CSAの見解
買 収 法 制 に 関 し て、 カ ナ ダ 証 券 管 理 局(Canadian Securities
Administrators
)は、2013年に次のような見解を示した(72)。すなわち、現在のカナダの規制は買収者に有利になっている。カナダの規 制当局は、公開買付けが開始されてから45~55日後にポイズン・ピルを差
(70) Ibid, para 79.
(71) 他方で、ポイズン・ピルを株主が承認したかどうかは関係なく、対象会社の取締役会 が積極的に公開買付けへの対案を探そうとしていない場合は、取締役会がポイズン・ピル を存続させることは許されない、という見解も示されている。See 2010 BCSECCOM 432, para 106.
(72) CSA Proposal [2013], supra note 28.
(73) See ibid, 7-8.
し止めることが多い。短期間でポイズン・ピルが差し止められることは、対 象会社の取締役会が敵対的買収者と交渉する能力を低下させる(73)。
公開買付けに直面した株主は、集団的に判断を下すことができないので、
買収者が会社の株式を大量に取得し流動性が低下した場合、そのような会社 の少数株主になることを避けるため、公開買付けに応募する圧力を受けるか もしれない(74)。
対象会社の取締役は会社の最善の利益のために行動する義務(信認義務)
を負うが、規制当局の介入は、このような取締役の裁量を制限することにな る。ただし、われわれは、ポイズン・ピルの存続について最終的な判断を下 すのは、取締役会や規制当局ではなく、株主であると考える(75)。
CSAは次のような規制を提案した。すなわち、取締役会がポイズン・ピ ルを採用した場合は、90日以内に株主から承認(買付者の所有する株式を除 く会社の株式のうち過半数の賛成)を得なければならない。公開買付けの公 表または開始後に取締役会がポイズン・ピルを採用した場合は、公開買付け が開始された日とポイズン・ピルを採用した日のうち早いほうの日から90日 以内に株主から承認を得なければならない。ポイズン・ピルの存続について は毎年、株主から承認を得なければならない。株主決議によってポイズン・
ピルを終了させることができる(76)。 b AMFの見解
ケベック州金融市場監督局(Autorité des marchés financiers)も、2013 年に次のような見解を示した(77)。
すなわち、現在の公開買付規制のもとでは、株主は、個別に行動する結果、
会社にとり残されないようにするため、とりわけ買付けの条件が放棄された
(74) See ibid, 8.
(75) See ibid, 10.
(76) See ibid, 11.
(77) Autorité des marchés financiers, Consultation Paper: An Alternative Approach to Securities Regulators’ Intervention in Defensive Tactics (2013).
(78) See ibid, 8.
場合は、公開買付けに応募するか、市場で売却する圧力を受けるかもしれな
(78)い
。
AMFは、強圧性に対処するために、公開買付規制の改正、すなわち、買 付者が株式を取得するには、買付者の所有する株式を除く会社の株式のうち 過半数の応募があることを要求するとともに、それほどの応募があった場合 には、買付期間の10日間の延長を義務づけるように提案した(79)。
⑵ 改正点
aで紹介した
CSA
の提案は実現せず、そのかわり公開買付規制が改正さ れることになった。すなわち、①カナダの各州の証券規制当局は、対象会社の取締役会が公開 買付けに対する見解をまとめたり、公開買付けへの対案を探したりできるよ うにするための時間を取締役会に与えるために(80)、買付者に105日間の買付期 間を要求することにした(81)。なお、買付期間は、対象会社の協力を得て、短縮 することができるが、35日未満にすることはできない(82)。
②各州の規制当局は、買付者の所有する株式を除く対象会社の株式のうち 50%超の応募がない限り、公開買付けで株式を取得することができないこと にした(83)。対象会社の株主から、公開買付けによる支配の取得について、支持 が得られたといえるのでなければ、買付者は株式を取得することができなく なった(84)。
(79) See ibid, 15-16.
(80) See CSA Notice and Request for Comment: Proposed Amendments to Multilateral Instrument 62-104 Take-over Bids and Issuer Bids, Proposed Changes to National Policy 62-203 Take-over Bids and Issuer Bids, and Proposed Consequential Amendments 2
(2015).
(81) See eg, National Instrument 62-104 Take-over Bids and Issuer Bids §2.28.1, 39 OSCB 4241, §2.29.1, 39 OSCB 4242 (2016).
(82) See ibid, §2.28.2, 39 OSCB 4241-42.
(83) See ibid, §2.29.1, 39 OSCB 4242.
(84) See CSA Proposal [2015], supra note 80, 2.
このような規制のもとでは、買付者が事前に株式を取得していたり(2事 件参照)、対象会社に公開買付けには応じないだろうと予想される大株主が いたりする場合(7事件参照)、公開買付けは成功しにくくなるだろう。
③各州の規制当局は、公開買付けが成功した場合、公開買付けに応募しな かった株主に、公開買付けに応募する機会を与えるために(85)、買付者が株式を 取得する場合は、少なくとも10日間、買付期間を延長しなければならないこ とにした(86)。
公開買付けの強圧性の問題は、買付者が株式を取得する場合に、買付者に 買付期間の延長を義務づけることで解決できるかもしれないが(2、3、7 事件を参照)、規制当局は、②と③の規制をセットにして、株主が集団とし ての判断を示すことができるようにすることで、強圧性の問題に対処した。
ポイズン・ピルを採用する際に、以上のような公開買付規制の要件をみた す公開買付けは適格公開買付けに該当すると規定しておけば、対象会社の株 主の判断(すなわち、公開買付けを成立させるほどの応募があるかどうか)
が、買収の成否を左右することになるだろう。買収者はポイズン・ピルにつ いて争わなくてすむ。
Ⅲ 米国における防衛策の容認
――取締役会の判断の尊重
Ⅰで述べたように、対象会社の取締役会の判断でポイズン・ピルを採用し、
それを存続させることは、公開買付けに対する防衛策(87)になるといえる。対象 会社の取締役会がポイズン・ピルを採用し、それを存続させる場合、公開買 付けで会社支配が可能になるほどの株式を取得したい買収者はどうすればよ
(85) See ibid.
(86) See eg, NI 62-104, supra note 81, §2.31.1, 39 OSCB 4243.
(87) 買収防衛策をめぐる米国の論争については、森田果「企業買収防衛策をめぐる理論状況」
太田洋=中山龍太郎「米国におけるポイズン・ピルの『進化』とその最新実務」武井一浩 ほか編著『企業買収防衛戦略』209頁(商事法務、2004年)を参照。
いのだろうか。
買収者には、訴訟を提起して、ポイズン・ピルの消却を対象会社に命令す るように、裁判所に請求するという方法がある(88)。しかし、米国の裁判所は、
公開買付けに直面した対象会社の取締役会が、ポイズン・ピルを採用し、そ れを存続させることを容認する(一、二参照)。
一 ムーア対ウォレス・コンピューター・サービシズ(89)
[事実の概要]
ウォレス・コンピューター・サービシズ社は、デラウェアの会社である。
1995年7月30日(日曜日)、ムーア社は、ウォレス社の普通株式に対する、
1株あたり56ドルを支払う、上限付きではない公開買付けを開始するかもし れないことを公表した。公開買付けの買付価格は、公開買付けが公表された 日のウォレス社の株価の1.27倍だった。公開買付けには、ウォレス社の社外 の普通株式の過半数が提供されることや、ポイズン・ピルが消却されること などの条件が付されていた。
7月31日、ウォレス社は、ムーア社の公開買付けについて検討させるため、
ファイナンシャル・アドバイザーとしてゴールドマン・サックスを雇った。
8月11日に、ウォレス社の取締役会が開催された。ゴールドマンは、1株 56ドルの公開買付けは不十分であるという見解を表明した。
8月14日、ウォレス社の取締役会が再び開催された。ウォレス社の取締役
(88) ポイズン・ピルの消却に関する米国の裁判例を紹介する邦語の文献として、田中信隆「敵 対的テイクオーバーに対する防衛策のデラウェア州法に基づくルールと戦略(4)・(9)・
(10)」国際商事法務28巻7号812頁(2000年)、29巻2号186頁(2001年)、29巻3号301- 302頁(2001年)、太田洋=中山龍太郎「米国におけるポイズン・ピルの『進化』とその最 新実務」武井ほか・前掲注(87)192-193頁、田中・前掲注(6)192-193頁がある。
敵対的買収者には、委任状勧誘をして、取締役の選任を成功させ、新たな取締役会にポ イズン・ピルを消却させる、という方法もある。このような方法は買収者にとって負担に なるだろう。
(89) Moore Corp. Ltd. v. Wallace Computer Services, Inc., 907 F.Supp. 1545 (D.Del.1995).
(90) ウォレス社の売上は、前年に比べて32%~33%増加し、利益も32%増加していた。
会は、ゴールドマンの見解、および5月~7月の経営成績(90)に基づき、全会一 致で、ムーア社の公開買付けは不十分だと結論づけた。8月15日、ウォレス 社は、ムーア社の公開買付けを正式に拒否した。
10月12日、ムーア社は、公開買付けの買付価格を60ドルに引き上げた。
しかし、10月17日、ゴールドマンは、60ドルの公開買付けも不十分だとい う見解を表明した。ウォレス社の取締役会は、ウォレス社の最近の経営成績 が上向きだったので、ゴールドマンの見解に同意した。
ムーア社の公開買付けには、73.4%に相当する応募があった。そこで、ム ーア社は、訴訟を提起し、ポイズン・ピルの消却をウォレス社に命令するよ うに、デラウェア地区の連邦地方裁判所に請求した。
[判旨]
連邦地方裁判所は次のように判示し、ムーア社の請求を棄却した。
すなわち、敵対的公開買付けに直面した取締役会は、その公開買付けが、
会社および会社の株主の最善の利益になるかどうかを判断する義務を負う。
……取締役たちには保身の目的があるかもしれないので、……高められた審 査基準が適用される。……取締役たちは、会社の政策と効率への危険が生じ ると合理的に信じたことを立証しなければならない(91)。……株主が、[会社の]
真の価値や将来の見通しに関する経営者の説明を無視または誤解し、株式を 提供するかもしれない、という危険がある(92)。
ウォレス社の取締役会は、ゴールドマンの見解を考慮し、60ドルの公開買 付けも不十分だと結論づけた(93)。……当裁判所は、ムーア社の公開買付けは、
……ウォレス社が達成した成果を認識する前に株主が株式を売却してしまう かもしれない、という脅威をウォレス社に生じさせると判断する(94)。
(91) Ibid, 1554.
(92) Ibid, 1557.
(93) Ibid, 1558.
(94) Ibid, 1560-61.