九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
炉心プラズマの集団的核反応過程に対する揺動電磁 場の影響に関する研究
杉山, 翔太
http://hdl.handle.net/2324/2236222
出版情報:九州大学, 2018, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
(様式2)
氏 名 :杉山翔太
論 文 名 : 炉心プラズマの集団的核反応過程に対する揺動電磁場の影響に関する研究 区 分 :甲
論 文 内 容 の 要 旨
核融合プラズマでは核融合反応や外部加熱によって高速イオンが生成される。これらの高速イオ ンによって、イオン速度分布関数はMaxwell分布から歪み、非Maxwellテイル(分布関数上の高エ ネルギー成分)が形成される。燃料イオン分布関数は核融合出力の決定に強く関与する。高速イオ ンは様々なプラズマ不安定性を誘発し、それらと相互作用する。従ってイオン分布関数を把握する 事が、プラズマ中の物理現象の理解や炉の安全な運転のために必要である。外部加熱や核融合反応 生成粒子の減速によって形成される非Maxwellテイルについては殆ど理解されている。一方プラズ マの不安定性によって、具体的にどのように分布関数が変化するのかは解明されていない。核融合 炉の成立に先立ち、プラズマ不安定性が、燃料イオン分布関数、核融合反応率係数、及び反応生成 粒子の放出スペクトルへ及ぼす影響、即ち集団的核反応過程へ及ぼす影響を系統的に明らかにして おく事は重要である。
本論文では、Alfvén固有モード(Alfvén eigenmode, AE)の分布関数への影響を解析した。Alfvén 波はプラズマの慣性力と、磁力線を弦と見立てた時の張力に相当する力によって生じるプラズマの 振動であり、AEは基本的にAlfvén波の性質を持つ固有振動である。AEは単体では安定であるが、
高速イオン、特に重水素–三重水素(DT)核融合炉において生成されるアルファ粒子によって不安 定化される事が懸念されている。不安定化された AE は高速イオンの速度を変化させる事でその輸 送特性に影響を及ぼす。その結果高速イオンの損失を促進し、アルファ粒子によるプラズマ加熱が 低減されるため核融合炉の成立条件に影響を及ぼす。AE と高速粒子との相互作用の解明は、現在 の核融合研究の主要な課題の一つである。高速イオンによるAEの不安定化機構や不安定化したAE による高速イオン輸送への影響は研究されているが、集団的核反応過程に着目した研究はこれまで 行われていない。
本研究の目的は、AE によって生じる揺動電磁場の燃料イオン速度分布関数及び中性子放出スペ クトルへの影響を明らかにする事である。そのために、摂動電磁場を考慮してイオン速度分布関数 及び中性子スペクトルを評価する数値解析モデルを開発した。開発したモデルを用いて、不安定な AEが存在する場合に対しイオン分布関数及び中性子放出スペクトルを評価した。
本論文の第 1章では、磁場閉じ込め核融合炉の基本を概観し、燃料イオン分布関数の理解に関連 した問題点を指摘し、本研究の目的を述べた。
第2章では、本研究で新たに開発したイオン速度分布関数及び中性子スペクトルの数値解析モデ ルについて説明した。電磁場中の荷電粒子の軌道をCoulomb散乱による速度変化や不安定性による 揺動電磁場を考慮しながら追跡する事でイオン分布関数を解析するモデルについて述べた。この分 布関数を用いて、核融合反応生成中性子のプラズマからの放出スペクトル及び壁面への入射スペク トルを評価する手法を示した。
第3章では、揺動電磁場の無いプラズマを想定し、中性粒子入射加熱時に非Maxwellテイルが燃
料イオン分布関数上に形成される場合に対して、第一壁への中性子入射スペクトルの壁面位置及び 入射角依存性を明らかにした。得られた結果に基づき、中性子放出の非等方性を利用する事によっ
て、非Maxwellテイルの診断精度を向上させる方法を提案した。燃料イオン分布関数上のテイルは、
核融合生成中性子の放出スペクトルをGauss分布から変化させるため、中性子スペクトル計測によ
って非Maxwellテイルを診断する事ができる。テイルが非等方的に形成される場合、中性子放出ス
ペクトルも非等方性を持つため、中性子計測器の設置の仕方によって観測されるスペクトルが異な る。入射スペクトルの壁面位置及び入射角依存性に基づいて中性子計測器の設置位置及び設置方向 を選択する事で、観測されるスペクトルの非Gauss成分を、プラズマ全体からの放出スペクトルの
非Gauss成分に比べて最大で3桁程度増加可能である事を明らかにした。入射スペクトルの解析に
基づき計測器位置と角度とを決定する事は、Maxwell 成分に比べて小さなテイルの診断に対して特 に有用である。この診断法を利用し、核弾性散乱によって形成される非Maxwellテイルの検証実験 シナリオを提案した。
第4章では、AEがITER級のDTプラズマ中に励起された場合を想定し、燃料イオン分布関数及 び中性子放出スペクトルを評価した。燃料イオン分布関数上に、磁力線方向とその逆方向に非
Maxwellテイルが形成される事を明らかにした。AEによって生じる揺動電磁場との共鳴相互作用に
よって粒子の速度が変化する。熱速度程度のイオンも共鳴条件を満たす事ができ、共鳴エネルギー の近傍で分布関数が歪む。テイルの形成により、揺動電磁場が存在する領域の周辺で局所的に核融 合反応率係数が増加する事を示した。反応率係数の揺動磁場振幅依存性及び、反応率係数が増加す るのに必要な振幅について議論した。揺動磁場が平衡磁場の1%の大きさの時(ITERで予測されて いる値より僅かに大きい時)、核融合出力が最大5%程度増加する事を示した。中性子放出スペクト
ルが非Maxwellテイルの形成方向にGauss分布から歪む事を示し、中性子スペクトル計測による非
Maxwellテイル形成の実験での検証の可能性を議論した。
第5章に本研究で得られた知見をまとめ、今後検討すべき課題について述べた。