第 2 章 カロリメータ
2.5 Particle Flow Algorithm
ILCでは終状態に多数のジェットを含むため、検出器には高いジェットエネルギー分解 能を持つことが要求される。そのようなジェットエネルギ―分解能を達成する為に、ILC ではParticle Flow Algorithm (PFA)と呼ばれる事象再構成法が提案されている。PFAで はジェットを構成する粒子を、荷電粒子は飛跡検出器で、光子は電磁カロリメータで、中 性ハドロンはハドロンカロリメータでと各粒子を最も良い検出器で測定しジェットエネル ギ―分解能の向上を目指す。
図 2.1: PandoraPFAによる100 GeVジェットの再構成。
2.5.1 PFA によるエネルギー測定
典型的なジェットのエネルギーは60%が荷電粒子、30%が光子、残りの10%が中性ハドロ ンで構成されている。また、荷電粒子のほとんどはハドロンであり、HCALのエネルギー 分解能はECALに比べ良くない(HCAL :σE/E∼60%/√
E、ECAL :σE/E∼20%/√ E)。
従来の方法では、エネルギーの測定はカロリメータのみで測定していたが、ジェットエネル ギー分解能の向上のためにはHCALを極力使わない方が良い。図2.2にTracker、ECAL、
HCALそれぞれのエネルギー分解能を示している。100 GeVを超えるところまでTracker
のエネルギー分解能が良いことが分かる。このことから荷電粒子は飛跡検出器でエネル ギーを測定する方が良い。従ってPFAでは以下の手順でエネルギーの測定を行う。
1. カロリメータにおいてジェット中の各粒子に対応するクラスターを再構成する。
2. 飛跡検出器で荷電粒子の飛跡から運動量を測定する。
3. 飛跡検出器で測定された荷電粒子に対応するカロリメータのクラスターを取り除く。
中性粒子はシャワーの位置 (ECAL/HCAL)により光子、中性ハドロンの粒子識別 を行う。
4. 飛跡検出器で測定した荷電粒子の運動量とカロリメータで測定した中性粒子のエネ ルギーよりジェットのエネルギーを再構成する。
このようにPFAではHCALで測るエネルギーの割合を減らし、精度の良い飛跡検出器 で荷電粒子を測定することでジェットエネルギー分解能を高めることができる。
図 2.2: 各検出器のエネルギー分解能。黒線は飛跡検出器、赤線はECAL、青線はHCAL のエネルギー分解能を表している。
2.5.2 電磁カロリメータに要求される性能
PFAを用いてジェットエネルギー分解能
σ = 3 ∼4% (2.14)
を達成するために電磁カロリメータに要求される単粒子に対するエネルギー分解能は σ
E = 10∼20%
√E(GeV) (2.15)
である。図2.3は縦軸にジェットエネルギー分解能、横軸にシリコンのピクセルサイズを 示したものである。ここでrms90は得られたエネルギー分布において、イベントの90%が 入る最も狭い領域の分散(RMS)のことである。この図から要求されるジェットエネルギー 分解能を達成するためには、ECALの細分度として10 mm以下のセグメントが必要であ ることがわかる。
図 2.3: ECALのセルサイズによるエネルギー分解能の変化。評価に用いたイベントはZ
→qq (q = u,d,s)であり、測定器モデルはLOI (Letter of Intent)のLDCPrimeを使用し ている [4]。