修 士 学 位 論 文
題 名 湯 川 型 T ho m as - F er mi 模 型 お よ び 関 連 模 型 の 数 学 解 析
指 導 教 員 倉 田 和 浩 教 授
2 0 2 0 年 1 月 9 日 提 出
首都大学東京大学院
理 学 研 究 科 数 理 科 学 専 攻 学修番号 18843423 氏 名 山 口 浩 人
学位論文要旨
(
修士(
理学))
論文著者名 山口 浩人
論文題名:湯川型Thomas-Fermi模型および関連模型の数学解析
Thomas-Fermi模型(以下TF模型と呼ぶ)は,原子番号の大きい原子の電子全体の粒子密度ρ(x)についての 近似的な理論である. TF模型についての数学的に厳密な詳細,広範な考察は,すでにLieb, Simonの[1]にある.
TF模型では原子核・電子間の引力も電子相互の斥力もクーロン相互作用としているが,本論文ではどちらも 湯川型相互作用とした湯川型Thomas-Fermi模型(以下YTF模型と呼ぶ)を考察した.物理的な設定として妥 当ではないかもしれないが,たとえば金属結晶中の正イオン・伝導電子間の引力や伝導電子間の斥力が湯川型 相互作用で近似できるのは知られている[2].
以下にYTF模型の電子全体の粒子密度ρ(x)についてのエネルギー汎関数Eα(ρ)を与える. Eα(ρ):= 3
5
∫
R3ρ(x)53dx−
∫
R3ρ(x)Z e−α|x|
|x| dx+1 2
∫
R3×R3ρ(x)ρ(y)e−α|x−y|
|x−y| dxdy, ρ∈T :={ρ∈L53(R3)|ρ≥0}.
Zは原子核の電荷を表す正定数,αは湯川相互作用の減衰距離の逆数を意味する正定数である.以下を定める. Eα,K(ρ):= 3
5
∫
R3ρ(x)53dx, Eα,A(ρ):=−
∫
R3ρ(x)Z e−α|x|
|x| dx, Dα(f,g):= 1 2
∫
R3×R3 f(x)g(y)e−α|x−y|
|x−y| dxdy. エネルギー汎関数Eα(ρ)は運動エネルギー項Eα,K(ρ),原子核・電子間引力湯川ポテンシャルエネルギー項 Eα,A(ρ),電子間斥力湯川ポテンシャルエネルギー項Dα(ρ, ρ)の3つの項からなる.電子の総量∫
R3 ρ(x)dxは連 続量と考える. TF模型のエネルギー汎関数はα=0, ρ∈T0 :={ρ∈T ∩L1(R3)}としたものであることは知 られている.変分問題Eα:=inf{Eα(ρ)|ρ∈T}とEα(λ):=inf{Eα(ρ)|ρ∈T,||ρ||L1(R3)=λ≥0}を考え次の4 つの定理と1つの命題を証明することができた.
定理1 α >0を固定したときEαとそのミニマイザーραについて次が成り立つ.
(1)Eαはただ1つのミニマイザーραを持つ. ρα(x)は|x|の関数.
(2)ミニマイザーραは以下のオイラーラグランジュ方程式と不等式を満たす.
ρα(x)23 = Z e−α|x|
|x| −
∫
R3ρα(y)e−α|x−y|
|x−y| dy (∀x∈R3\ {0}), Z ≥
∫
R3ρα(x)dx. (3)ρα(x) ∈C∞(R3\ {0}).
(4)ρα(x)>0 (∀x∈R3\ {0}).また, t ≤1として|x|32tρα(x)は|x|について狭義減少,狭義凸関数となる.
定理2 α >0を固定し, Eα(λ):=inf{Eα(ρ)|ρ∈T,||ρ||L1(R3)=λ≥0}について.λα:=∫
R3ρα(x)dxとして次 が成り立つ.
(1)λ>λαでは, Eα(λ)は,ミニマイザーを持たない.さらにEα(λ)=Eαは一定値.
(2)λ≤λαでは,Eα(λ)はただ1つのミニマイザーを持つ.さらにλについて狭義減少狭義凸関数.
(3)Eα(λ)はλについて0≤λで連続,0< λでC1級関数でlimλ↓0 dEdλα(λ)=−∞.さらに0< λ≤λαでEα(λ) のミニマイザーをρα,λとすれば以下が成り立つ.ϵαF(λ)は物理的にはフェルミエネルギーである.
dEα(λ)
dλ =ϵαF(λ), 但しϵαF(λ):= 1 λ
∫
R3ρα,λ(x)(
ρα,λ23 (x) − Z e−α|x|
|x| +
∫
R3
ρα,λ(y)e−α|x−y|
|x−y| dy )
dx.
注意1.定理1,定理2はα=0のTF模型でも成り立ち, TF模型ではλ0=Zであることが知られている[1].こ れよりTF模型の持つ重要な性質はYTF模型も持っていることがわかる.
さらにρα, λα, Eαなどの各種の量のパラメータαに関する連続性,単調性,およびα→0およびα→ ∞に おける詳細な漸近公式を得ることができた.
命題A 各点x∈R3\{0}での電子密度ρα(x),電子総量λα,エネルギーの大きさ−Eαについて,次が成り立つ.
(1)これら3つの量はすべて0 ≤αでαについて狭義単調減少であり,α→ ∞で0に収束する.電子総量λα
を除く2つの量は0≤αでαについてC1級である.電子総量λαは0≤αでαについて連続であり,0< αで αについてC1級である.
(2) −Eαは0≤αでαについて狭義凸関数.
定理3 α→0での漸近挙動について,以下が成り立つ. 但しC1,C2,C3は次で定まる正定数で,ρ0はTF模型 のミニマイザーである.
C1:=
∫
R3|x|ρ0(x)dx,C2:=
∫
R3ρ023(x)dx, C3:=Z
∫
R3|x|ρ0(x)dx−1 2
∫
(R3)2|x−y|ρ0(x)ρ0(y)dxdy. ρ0(x)> ρα(x) > ρ0(x) −3
4C1ρ0(x)13α2 (x∈R3\{0}), λα = Z− 1
4πC2α2+o(α2), Eα = E0+1
2Z2α−1
2C3α2+o(α2).
注意2.E0 <0, ρ0(x) ≤min{Z32/|x|32,27/(π2|x|6)}=:m(x)であり,Z =1のときのE0とρ0(x)をそれぞれE˜0と ρ˜0(x)とするとE0 =Z73E˜0,ρ0(x)=Z2ρ˜0(Z13x)であることが知られている[1].本論文中でρα(x) ≤m(x), α >0 も示した.
定理4 α→ ∞での漸近挙動について,以下が成り立つ.但しC4,C5,C6は次で定まる正定数. C4:=
∫
R3
e−32|x|sinh(|x|)
|x|52 dx, C5 :=2 5
∫
R3
e−52|x|
|x|52 dx, C6 :=1 2
∫
(R3)2
e−32|x|e−32|y|e−|x−y|
|x|32|y|32|x−y| dxdy.
(Z e−α|x|
|x| )32 > ρα(x) > (Z e−α|x|
|x| )32(1− Z12C4
α32 )32 (x∈R3\{0}), 2(2πZ
3α )32 > λα > 2(2πZ
3α )32(1−Z12C4 α32 )32, Eα =−C5Z52
α12 +O( 1
α2), Eα,K(ρα)=3 2
C5Z52 α12 +O( 1
α2), Eα,A(ρα)=−5
2 C5Z52
α12 +O( 1
α2), Dα(ρα, ρα)=C6Z3 2α2 +O( 1
α72).
注意3.証明に際しTF模型で証明に使った道具をYTF模型用に新たに作った.例えばクーロン力でのニュー トンの定理に対し湯川相互作用でのニュートンの定理を新たに作った.すなわち球対称関数ρ(x) ∈ L53(R3)に 対し
クーロン力のニュートン定理 湯川型のニュートン定理
∫
R3
ρ(y)dy
|x−y| =
∫
R3
ρ(y)dy
max{|x|,|y|} に対応し
∫
R3
ρ(y)e−α|x−y|
|x−y| dy=
∫
R3
ρ(y)dy
α|x||y|max{sinh(α|y|)eα|x| ,sinh(αeα|y|x|)| }を使った.
注意4. YTF模型については今まで考察されてこなかったと思われるが,この4つの定理からわかるように,
YTF模型はTF模型に似た性質を持ち,α→0でなめらかに単調にTF模型に近づくことがわかった.α→ ∞ ではDα(ρα, ρα)の挙動でわかるように電子間斥力エネルギーの影響が小さくなり,ミニマイザーは運動エネル ギーと引力エネルギーだけからなるエネルギー汎関数の定める解ρ(x):=(Ze|x|−α|x|)32 に近づくこともわかった.
参考文献
[1] E. H. Lieb and B. Simon, The Thomas-Fermi theory of atoms, molecules and solids, Advance in Math. , 23(1977)pp. 22-116.
[2] 中嶋貞雄,超伝導入門,培風館(1971)10ページ.
湯川型 Thomas-Fermi 模型および関連模型の 数学解析
首都大学東京 数理科学専攻 修士
2
年18843423
山口浩人2020
年1
月10
日目 次
1 はじめに 3
2 YTF模型の問題設定と主な定理 4
2.1 YTF模型の問題設定 . . . 4
2.2 YTF模型の主な定理 . . . 5
3 BTF模型の問題設定と主な定理 8 3.1 BTF模型の問題設定 . . . 8
3.2 BTF模型の主な定理 . . . 9
4 準備 11 4.1 あとで使う補題(結果のみ)と湯川型ニュートンの定理 . . . 11
4.2 内積Dα(f, g)についての補題 . . . 15
4.3 エネルギー汎関数のL53−弱下半連続性などのあとで使う補題 21 5 定理2.1(YTF模型のミニマイザーの一意存在と基本的性質)の証明. 26 5.1 定理2.1(1)の証明. . . 26
5.2 定理2.1(2)の証明. . . 27
5.3 定理2.1(3)の証明. . . . 30
5.4 定理2.1(4)の証明. . . 30
6 定理2.2(YTF模型のL1ノルム制限付き変分問題の基本定理)の証明. 32 6.1 定理2.2(1)(2)の証明. . . 32
6.2 定理2.2(3)の証明. . . . 35
7 命題7.1(ρα(x)のαに関する一様評価)と
命題7.2(ρα, λα, Eαの連続性および単調性)の証明. 41
7.1 命題7.1(ρα(x)のαに関する一様評価)の証明. . . . 41
7.2 命題7.2 . . . 42
7.3 命題7.2(1)(Eαの連続性)の証明. . . . 43
7.4 命題7.2(2)(ρα(x)のαに関する連続性)の証明. . . 44
7.5 命題7.2(3)(λαの連続性)の証明. . . . 45
7.6 命題7.2(4)(ρα(x)のαに関するL1(R3), L53(R3)連続)の証明.. 45
7.7 命題7.2(5)(Eαの狭義増加性)の証明. . . 46
7.8 命題7.2(6)(Eαの狭義凹性)の証明.. . . 48
7.9 命題7.2(7)(ρα(x)のαに関する狭義減少性)の証明. . . 50
8 定理2.3(α→0における漸近挙動)の証明. 63 8.1 定理2.3(1)の証明. . . 63
8.2 湯川型ビリアル定理と定理2.3(2)の証明. . . 63
8.3 定理2.3(3)の証明. . . . 66
9 定理2.4(α→ ∞における漸近挙動)の証明. 71 10 定理2.5の証明. 73 11 定理3.1(BTF模型のミニマイザーの一意存在と基本的性質)の証明. 75 11.1 定理3.1(1)の証明. . . 75
11.2 定理3.1(2)の証明. . . . 76
11.3 定理3.1(3)の証明. . . 80
11.4 定理3.1(4)の証明. . . . 80
12 定理3.2(BTF模型のL1ノルム制限付き変分問題の基本定理)の証明. 81 12.1 定理3.2(1)の証明. . . 81
12.2 定理3.2(2)の証明. . . . 82
12.3 定理3.2(3)の証明. . . 83
13 命題13.1(ρR, λR, ERの連続性および単調性)の証明. 87 13.1 命題13.1 . . . 87
13.2 命題13.1(1)(ERの連続性)の証明. . . 88
13.3 命題13.1(2)(ρR(x)のRに関する連続性)の証明. . . . 89
13.4 命題13.1(3)(λRの連続性)の証明. . . 90
13.5 命題13.1(4)(ρR(x)のRに関するL1(R3), L53(R3)連続)の証明. 90 13.6 命題13.1(5)(ERの狭義減少性)の証明. . . 91
13.7 命題13.1(6)(λRの狭義減少性)の証明. . . . 93
14 定理3.3(R→ ∞における連続性)の証明. 96
14.1 定理3.3(1)の証明. . . . 96
14.2 定理3.3(2)の証明. . . . 96
14.3 定理3.3(3)の証明. . . 97
14.4 定理3.3(4)の証明. . . . 98
15 定理3.4(R→0における漸近挙動)の証明. 99
16 定理3.5の証明. 100
17 参考文献 101
1
はじめにThomas-Fermi模型(以下TF模型と呼ぶ)は,原子番号の大きい原子の電子
全体の粒子密度ρ(x)についての近似的な理論である.非線形とはなるが,電 子の数だけ関数を持つハートレーフック近似に比べればたった1つの関数ρ
の単純な(すっきりとした)模型である. TF模型についての数学的に厳密な
詳細,広範な考察は,すでにLiebとSimonによる([6])にある.その後TF模 型の研究は, Thomas-Fermi-von WeizsackerÜ 模型([1]), Thomas-Fermi-Dirac-von WeizsackerÜ 模型([7][11])へと進展している.
本稿はこの流れとは別の角度でTF模型を拡張するものであり,主に湯川型
Thomas-Fermi模型(以下YTF模型と呼ぶ)を考察の対象としている. TF模型
では,エネルギー汎関数での粒子間の相互作用項はクーロン相互作用としてい る.それに対しYTF模型は,粒子間の相互作用を湯川相互作用としたTF模型 である.
湯川相互作用について少し述べる.静電気力は,粒子間の距離をrとして 1
r
に比例するクーロンポテンシャルで表現され,遠距離力と言われる.これに対 し湯川相互作用は,粒子間距離r,正定数αとしてe−αr
r に比例する湯川ポテン シャルで表現される. (定数α=0としたときがTF模型である. )物理的にこ のような設定が適切となる状況があるかどうかは断定できないが,例えば金属 結晶内の正イオン・伝導電子間の引力や伝導電子間の斥力が湯川型相互作用 で近似できることはよく知られている([9, 10ページ]).結晶内では,主に電子 による遮蔽効果でクーロンポテンシャルは湯川ポテンシャルに置き換わるの である.
本稿ではYTF模型について5つの定理を得た.定理2.1と定理2.2は, YTF 模型はTF模型の基本的な性質を全て持っているということを意味する定理で ある.定理2.3はα→0,つまりYTF模型をTF模型に近づけていくときの基 本的な量の漸近挙動に関するものである.定理2.4はα→ ∞,つまりYTF模 型をTF模型から遠ざけどんどん近距離力にしていくときの基本的な量の漸
近挙動に関するものである.定理2.5はαを変化させたときの基本的な量の変 化の単調性,なめらかさ,凸性などに関するものである. YTF模型については 今まで考察されてこなかったように思われる.この5つの定理は新しく得られ たものと思われる.この5つの定理に至る方法は([6])によるところが大きい. YTF模型に関連する模型としてもう1つの模型(以下BTF模型と呼ぶ)も 考察した.これはもっと単純なもので, TF模型のエネルギー汎関数を変えずに 単に電子の存在する関数空間を原点にある原子核を中心とする半径Rの開球 B(R)に限定しただけの模型である.ある意味 1
α という長さのパラメータに対 応させてRというパラメータをTF模型に導入し拡張した模型と考えられる. BTF模型についても5つの定理を得た.定理3.1,定理3.2,定理3.4につい ては,対応するYTF模型の定理2.1,定理2.2,定理2.4と同等の結果が得られ たが,定理3.3,定理3.5については対応するYTF模型の定理2.3,定理2.5ほ ど詳しい結果は得られなかった.
2 YTF
模型の問題設定と主な定理2.1 YTF
模型の問題設定以下にYTF模型の電子全体の粒子密度ρ(x)についてのエネルギー汎関数 Eα(ρ)を与える.エネルギー汎関数Eα(ρ)は3つの積分項Eα,K(ρ), Eα,A(ρ),
Dα(ρ, ρ)からなり,それぞれ運動エネルギー項,原子核・電子間引力湯川ポテ
ンシャルエネルギー項,電子間斥力湯川ポテンシャルエネルギー項である.電 子の総量∫
R3ρ(x)dxは連続量と考える.α=0とすればTF模型エネルギー汎 関数E0(ρ)となる.
関数空間T :={ρ∈L53(R3)|ρ≥0}上の関数ρに対して,エネルギー汎関数 Eα(ρ)を次で定める.
Eα(ρ):=3 5
∫
R3ρ(x)53dx−
∫
R3ρ(x)Z e−α|x|
|x| dx+1 2
∫
R3×R3ρ(x)ρ(y)e−α|x−y|
|x−y| dxdy. ここでZ, αは正の定数である.物理的にはZ は原子番号であり, α1 は力の到 達距離の目安となる.また以下を定める.
Eα,K(ρ):=3 5
∫
R3ρ(x)53dx, Eα, A(ρ):=−
∫
R3ρ(x)Z e−α|x|
|x| dx, Dα(f, g):=1
2
∫
R3×R3 f(x)g(y)e−α|x−y|
|x−y| dxdy. ここでは,
T :={ρ∈L53(R3)|ρ≥0}, として次の最小化問題を考える.
Eα:=inf{Eα(ρ)|ρ∈T}.
また,
Tλ:={ρ∈T | ||ρ||1≤λ}, T∂λ:={ρ∈T | ||ρ||1=λ}, として,次の最小化問題も考える.
Eα≤(λ):=inf{Eα(ρ)|ρ∈Tλ}, Eα(λ):=inf{Eα(ρ)|ρ∈T∂λ}.
α=0のYTF模型が通常のTF模型であり,この場合は TT F :={ρ∈ L53(R3) ∩L1(R3)|ρ≥0},
Tλ :={ρ∈T | ||ρ||1 ≤λ}, T∂λ:={ρ∈T | ||ρ||1=λ}, として,
ET F :=inf{E0(ρ)|ρ∈T0},
ET F,≤(λ):=inf{E0(ρ)|ρ∈Tλ}, ET F(λ):=inf{Eα(ρ)|ρ∈T∂λ}, という最小化問題を考える.これについてはすでにLiebとSiminによる参 考文献([6])にある.
以後積分領域はR3やR3×R3の場合∫
の記号に対して省略する場合もある.
2.2 YTF
模型の主な定理定理2.1 α >0を固定したとき次が成り立つ.
(1)Eαはただ1つのミニマイザーραを持つ. ρα(x)は球対称関数. (2)ミニマイザーραは以下のオイラーラグランジュ方程式を満たす.
ρα(x)23 = Z e−α|x|
|x| −
∫
ρα(y)e−α|x−y|
|x−y| dy=:Vα(x) (∀x∈R3\ {0}).
またこれより,
Z ≥
∫
ρα(x)dx. (3)Vα(x), ρα(x) ∈C∞(R3\ {0}).
(4) Vα(x) > 0 かつ ρα(x) > 0 (∀x ∈ R3 \ {0}). また, t ≤ 1として
|x|tVα(x), |x|32tρα(x)は|x|について狭義減少,狭義凸関数となる.
定理2.2 α > 0を固定し, Eα(λ):=inf{Eα(ρ)|ρ ∈ T, ||ρ||1 =λ}について, λα:=∫
ραdxとして次が成り立つ.
(1)λ>λαでは, Eα(λ)は,ミニマイザーを持たない.さらにEα(λ)=Eαは 一定値.
(2)λ≤λαでは,Eα(λ)はただ1つのミニマイザーを持つ.さらにλについ て狭義減少狭義凸関数.
(3) Eα(λ)はλについて0 ≤ λ < ∞で連続, 0 < λ < ∞でC1 級関数で limλ↓0 dEdλα(λ) =−∞.さらにλ >0でEα(λ)がミニマイザーρα, λを持つとき
dEα(λ)
dλ =ϵαF(λ).
但し ϵαF(λ)= 1
λ
∫
ρα, λ(x)(ρα, λ23 (x) − Z e−α|x|
|x| +
∫ ρα, λ(y)e−α|x−y|
|x−y| dy)dx. 注意.定理2.1,定理2.2はα=0のTF模型で成り立つ.これはすでにLieb とSimonによる([6])にある.
以下の定理の証明にも必要な,ρα(x)の一様減衰評価および,ρα, λα, Eαのα に関する連続性,単調性に関する命題が成り立つが,これらについては, Section7 でまとめて扱うこととする.それらをもとに,α→0およびα→ ∞における 種々の量の漸近挙動に関して次を得る.
定理2.3 α→0での漸近挙動に対し,以下が成り立つ.但しC1, C2,C3は次で 定まる正値定数で,ρ0はTF模型のミニマイザーである.
C1:=
∫
|x|ρ0(x)dx, C2:=
∫ ρ023dx, C3:=Z
∫
|x|ρ0(x)dx−1 2
∫
|x−y|ρ0(x)ρ0(y)dxdy. (1)
C2 <∞かつλα =Z− 1
4πC2α2+o(α2).
(2)
C3 >0かつEα = E0+1
2Z2α−1
2C3α2+o(α2).
Eα,K(ρα) = −E0−1
2C3α2+o(α2), (1) Eα,A(ρα) = 7
3E0+Z2α−5
6C3α2+o(α2), (2) Dα(ρα, ρα) = −1
3E0−1
2Z2α+5
6C3α2+o(α2). (3) (3)
C1 <∞かつ ρ0(x)> ρα(x)> ρ0(x) −3
4C1ρ0(x)13α2(x∈R3\{0}), 0> ∂ρα
∂α (x)>−3
2C1ρ0(x)13α(x∈R3\{0}),
α→0lim
∂ρα
∂α (x)= ∂ρα
∂α |α=0(x)=0(x∈R3\{0}).
注意.E0 <0, ρ0(x) ≤min{Z32/|x|32,27/π2|x|6}=:m(x)であり,Z=1のとき のE0とρ0(x)をそれぞれE˜0とρ˜0(x)とするとE0 =Z73E˜0,ρ0(x)=Z2ρ˜0(Z13x) であることが知られている([6]).また命題7.1で,ρα(x)のαに関する一様評 価としてρα ≤m(x), α >0も示した.
定理2.4 α→ ∞での漸近挙動に対し,以下が成り立つ.但しC4, C5, C6は次 で定まる正値定数
C4:=
∫ e−32|x|sinh(|x|)
|x|52 dx, C5 :=2 5
∫ e−52|x|
|x|52 dx, C6:= 1
2
∫ e−32|x|e−32|y|e−|x−y|
|x|32|y|32|x−y| dxdy, (1)
(Z e−α|x|
|x| )32
> ρα(x)>(Z e−α|x|
|x| )32(
1−Z12C4 α32
)32
in R3\ {0}.
(2)
2 (2πZ
3α )32
> λα >2 (2πZ
3α )32(
1−Z12C4 α32
)32 . (3)
Eα = −C5Z52 α12 +O
( 1 α2
),
Eα,K(ρα) = 3 2
C5Z52 α12 +O
( 1 α2
),
Eα,A(ρα) = −5 2
C5Z52 α12 +O
( 1 α2
),
Dα(ρα, ρα) = C6Z3 2α2 +O
( 1 α72
),
dEα
dα = 1 2
C5Z52 α32 +O
( 1 α3
).
注意.α→ ∞ではDα(ρα, ρα)の挙動でわかるように電子間斥力エネルギー の影響が小さくなり,ミニマイザーは運動エネルギーと引力エネルギーだけか らなるエネルギー汎関数の定める解ρ(x):=(Ze|x|−α|x|)32 に近づくことがわかる.
Section7で考察する種々の重要な命題を合わせることで,総合的にまとめて
以下の主張を得ることができる.
定理2.5 各点x ∈R3\{0}での電子密度ρα(x),電子総量λα,エネルギーの大 きさ−Eα,運動エネルギーEα,K,引力エネルギーの大きさ−Eα,A,斥力エネル ギーDα(ρα, ρα)について,
(1)これら6つの量はすべて0≤αでαについて狭義単調減少であり,α→ ∞ で0に収束する.電子総量λαを除く5つの量は0≤αでαについてC1級で ある.電子総量λαは0≤αでαについて連続であり,0< αでαについてC1 級である.
(2)−Eαは0≤αでαについて狭義凸関数.−Eα,AとDα(ρα, ρα)はα→0 でもα → ∞でもαについて狭義凸な関数に漸近していく.λα と Eα,K は α→0ではαについて狭義凹な関数に漸近していき,α→ ∞ではαについて 狭義凸な関数に漸近していく.
(3)エネルギー比は
−Eα:Eα,K :−Eα,A:Dα(ρα, ρα) →1 : 1 : 7 3 : 1
3 (α→0)
−Eα:Eα,K :−Eα,A:Dα(ρα, ρα) →1 : 3 2 : 5
2 : 0(α→ ∞)
3 BTF
模型の問題設定と主な定理3.1 BTF
模型の問題設定電子全体の密度関数をρ(x)とし,電子の総量∫
R3ρ(x)dxは連続量と考える.
原点中心半径Rの開球B(R)内にしか電子全体は存在しないというBTF模型 の条件は考える関数空間TRの条件として以下のように表現される.この空間 が通常のTF模型の空間TT Fに入っていることに注意する.
TR:={ρ∈L53(R3)|ρ≥0, |x| ≥Rでρ(x)=0}, (4)
⊂TT F :={ρ∈L1(R3) ∩L53(R3)|ρ≥0}.
電子全体の粒子密度ρ(x)についてのエネルギー汎関数E(ρ)は通常のTF模 型と同じく以下の(5)で与える.注意するのは,関数空間TRでは,開球B(R) の外ではρ(x)=0であり,距離|x−y|が2R以上になるとρ(x), ρ(y)のどちら かは0になるので,エネルギー汎関数は(6)のように書いてもおなじというこ とである.ここでχB(R)(x)は,|x|<Rで値1,|x| ≥Rで値0をとる特性関数で ある.さらに(7)のように積分領域をB(R), B(R)2と考えても同じである.
E(ρ): = 3 5
∫
R3ρ(x)53dx−
∫
R3
Zρ(x)
|x| dx+1 2
∫
R3×R3
ρ(x)ρ(y)
|x−y| dxdy, (5)
= 3 5
∫
R3ρ(x)53dx−
∫
R3ρ(x)ZχB(R)(x)
|x| dx +1
2
∫
R3×R3ρ(x)ρ(y)χB(2R)(x−y)
|x−y| dxdy,(6)
= 3 5
∫
B(R)ρ(x)53dx−
∫
B(R)
Zρ(x)
|x| dx+1 2
∫
B(R)2
ρ(x)ρ(y)
|x−y| dxdy (7)
ここでZは正の定数.また以下を定める. EK(ρ):=3
5
∫
R3ρ(x)53dx, EA(ρ):=−
∫
R3
Zρ(x)
|x| dx, D(f, g):=1
2
∫
R3×R3
f(x)g(y)
|x−y| dxdy.
エネルギー汎関数E(ρ)は3つの積分項EK(ρ), EA(ρ), D(ρ, ρ)からなり,それ ぞれ運動エネルギー項,原子核・電子間引力ポテンシャルエネルギー項,電子 間斥力ポテンシャルエネルギー項である.
ここでは,
TR:={ρ∈L53(R3)|ρ≥0, |x| ≥Rでρ(x)=0}, として次の最小化問題を考える.
ER:=inf{E(ρ)|ρ∈TR}.
また,
TR, λ:={ρ∈TR| ||ρ||1 ≤λ}, TR, ∂λ:={ρ∈TR| ||ρ||1 =λ}, として,次の最小化問題も考える.
ER≤(λ):=inf{E(ρ)|ρ∈TR, λ}, ER(λ):=inf{E(ρ)|ρ∈TR,. ∂λ}.
以後,積分領域はR3, B(R)のどちらでもよい場合やR3×2, B(R)2のどちら でもよい場合省略する.
3.2 BTF
模型の主な定理定理3.1 R>0を固定したとき次が成り立つ.
(1)ERはただ1つのミニマイザーρRを持つ. ρR(x)は|x|の関数.
(2)
Z ≥
∫
B(R)ρRdx.
ミニマイザーρRはB(R)\ {0}で以下のオイラーラグランジュ方程式を満たす.
ρR(x)23 = Z
|x| −
∫
B(R)
ρR(y)
|x−y|dy=:VR(x) (∀x∈B(R) \ {0}).
注意. B(R)の外ではρR(x)=0だがVR(x) ≥0で関係はない.
(3)VR(x), ρR(x) ∈C∞(B(R) \ {0}).
(4) VR(x) > 0 かつ ρR(x) > 0 (∀x ∈ B(R) \ {0}). また, t ≤ 1として 0 < |x| < Rで |x|tVR(x), |x|32tρR(x)は|x|について狭義減少,狭義凸関数と なる.
定理3.2 R>0を固定し, ER(λ):=inf{E(ρ)|ρ∈TR, ∂λ}について. λR:=∫
ρRdxとして次が成り立つ.
(1)任意のλ≥0で, ER(λ)は,ただ1つのミニマイザーρR, λを持つ. ρR, λ(x) は|x|の関数.
(2)任意のλ≥0で, ER(λ)は狭義凸関数.λ≤λRで狭義減少関数,λ≥λR
で狭義増加関数
(3) ER(λ)はλについて0 ≤ λ < ∞で連続, 0 < λ < ∞でC1 級関数で limλ↓0 dEdRλ(λ) =−∞.さらにER(λ)のミニマイザーをρR, λとして,λ >0で,
dER(λ)
dλ =ϵRF(λ).
但し
ϵRF(λ):= 1 λ
∫
B(R)ρR, λ(x)(ρR, λ23 − Z
|x|+
∫
B(R)
ρR, λ(y)
|x−y| dy)dx.
以下の定理の証明にも必要な,ρR, λR, ERのRに関する連続性,単調性に関 する命題が成り立つが,これらについては, Section13でまとめて扱うこととす る.それらをもとに,種々の量のR→ ∞における連続性およびR→0におけ る漸近挙動に関して次を得る.
定理3.3 通常のTF模型のエネルギーの下限をET F,そのときのミニマイザー をρT Fとし,そのときの全電子量はZと知られているが.
(1)R→ ∞で,ER→ET F.
(2)R→ ∞で,ρR(x) →ρT F(x) (x∈R3\{0}).
(3)R→ ∞で,λR→Z.
(4)R→ ∞で,ρR→ρT F inLr(R3) (1≤r≤ 53).
定理3.4 R→0での漸近挙動に対し,以下が成り立つ.
(1)
( Z
|x|)32 > ρR(x)>(Z
|x|)32(1−8πZ12
3 R32)32 (x∈B(R)\{0}).
(2)
8π
3 (Z R)32 > λR> 8π
3 (Z R)32(1−8πZ12 3 R32)32.
(3)
ER = −16πZ52
5 R12 +O(R2), EK(ρR) = 24πZ52
5 R12 +O(R2), EA(ρR) = −8πZ52R12 +O(R2), D(ρR, ρR) = 52π2
3 Z4R2+O(R72), dER
dR = −8πZ52
5 R−12 +O(R).
Section13で考察する種々の重要な命題を合わせることで,総合的にまとめ
て以下の主張を得ることができる.
定理3.5 (1)各点x∈B(R)\{0}での電子密度ρR(x),電子総量λR,エネルギー の大きさ−ERについて,電子総量λRとエネルギーの大きさ−ERは0<Rで Rについて狭義単調増加であり, R → 0で0に収束する.エネルギーの大き さ−ERは0<RでRについてC1級であり,各点x∈B(R)\{0}での電子密度 ρR(x)と電子総量λRは0<RでRについて連続である.
(2)エネルギー比は
−ER:ER,K :−ER, A:D(ρR, ρR) →1 : 3 2 : 5
2 : 0(R→0).
4
準備あとで使う補題を以下に書くが,最初は飛ばすかざっと見て必要に応じて 戻ってほしい.補題4.1から補題4.11までは結果のみ書いた.次に湯川型ニュー トンの定理及びDα(f, g)に関する補題を上げる.最後に他のあとで使う補題 を上げた.
4.1
あとで使う補題(
結果のみ)と湯川型ニュートンの定理補題4.1 (合成積のヤングの不等式) ([5, Section4. 2remark(2)]).1 ≤ p, q, r ≤
∞として,f ∈Lp(R3),g∈Lq(R3)に対して合成積 f∗g(x):=∫
R3 f(y)g(x−y)dy を定義する.このとき1+r1 = p1 +1q として次の不等式が成立する.
||f ∗g||Lr ≤ ||f||Lp||g||Lq.
補題4.2 (共役関数の合成積の連続性と遠方での0への収束) ([5, Section2. 20]).
1 < p, q < ∞, 1 = p1 +q1 として, f ∈ Lp(R3), g ∈ Lq(R3)に対して合成積 f ∗g(x) := ∫
R3 f(y)g(x−y)dyは R3 で連続関数である. また |x| → ∞で f ∗g(x) →0.