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韓国の対中直接投資:その特徴と方向性

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韓国の対中直接投資:その特徴と方向性

著者 韓 允花

雑誌名 人間社会環境研究

15

ページ 85‑94

発行年 2008‑03‑27

URL http://hdl.handle.net/2297/9834

(2)

論文

人間社会環境研究第15号2008.3 85

韓国の対中直接投資

-その特徴と方向性一

人間社会環境研究科人間社会環境学専攻

韓允花

ForeignDirectInvestmentinwardChmafiomSouthKorea

-TheCharacteristicsandTrend-

HANYimhua

Abstract

hthisthesis,Itookuptheconcretestatisticaldataandtheproofoftheenterpriseinvestmentactually

bemgdonebasedonstatmgthetransitionandthefeatureofadirectmvestmentofSouthKoreamChina

andverifiedthatthemcreasedmvestmentmHuadongareawastakenbythebigenterprisemSouth KoreawhichvaluesChinesemarket;atthesametime,somesmaUandmed皿n-sizedenterprisemSouth KoreastillvalueslowmanpowermChmaandtheinvestmentbemgtakenmtheHuabeiareaasa productionbaseatthetraditionalmvestmentdestmationA1so,IanalyzedthefactorsthatSouthKorea

bigenterprise,smvestmentmChmaconcentratesontheHuadongareaftomtheHuadong,sregional advantageandthestrategiclnotivationofSouthKoreabigenterpriselalsoverifiedthattheHuadong,s

regionaladvantageattractedthemvestmentofthebigentelprisemSouthKoreaandHuadongareaisthe

mostsuitableareafbrKoreabigenterprisetogetbenefitfTomChmesemarket.

Keyword:DirectlnvestmentmChina,ConcentrateonHuadongArea,ValueChmeseMarket

年に引き続き香港(177億ドル、前年比0.9%減)が トップで,続いて英領バージン諸島(58億ドル,

5.6%減),日本(51億ドル,20.6%増),韓国(45

億ドル,65.0%増),米国(42億ドル,22.6%減),

台湾(34億ドル,14.9%減)の11項となっている。米

国,台湾など上位投資国・地域からの投資が減少す る中,韓国からの投資は急増を見せている2.2004 年の実行額を見ても香港(190億ドル)が2003年に 引き続いて第一位,第2位には韓国(62億ドル)が 躍進している。韓国は件数では前年比14%増であ

ったが,契約ベースでは51%,実行額でも39%と いう高い伸びを記録した3・

韓国の対中直接投資について,池晩洙が1992~

2002年の韓国の地域別投資を分析し,投資誘因と はじめに

中国商務部の統計によると,1979年の改革・開放

政策実施から,2004年までの25年間に中国が受け 入れた外国からの直接投資金額は累計で5,621億 ドルに達している(実行ベース)。1996年以降は,

毎年500億ドル前後の外資を受け入れている'。こ

のように,中国への資本の流入は衰えを見せてな

いばかりか,WTO加盟による中国の外資に関する

規制緩和,すなわち市場参入の機会増大もあって,

中国は投資市場として世界での地位をますます高

めている。この点,韓国の対中直接投資はどのよ うな動きを見せているのだろうか。2003年の主要 国・地域別の対中直接(実行ベース)によると,前

(3)

人間社会環境研究第15号2008.3 86

い市場である上海を含む華東地域への投資を活発 化させて来ている。

本論文はこの分野で先行する多くの研究者の研 究に基づいて,韓国の対中直接投資の推移と現状 及び特徴を述べた上で,韓国大企業の対中直接投 資が華東地域へ集中していて,韓国の中小企業の 対中直接投資はやはり華北地域に集中している二 極化とその要因を検証することを目的として,韓 国の大企業一サムスンを実例として取り上げて実 証する。

して賃金はアジア金融危機後には優位ではなくな り,市場`性がより重要となっていることを実証し ている。池は伝統進出地域の賃金が上昇傾向にあ ることもあり,山東省,天津市,北京市,東北地 方など伝統的な地域に進出した中小企業の多くも また,大企業の投資趨勢に伴って後背地の大きな 上海圏に移るか,もしくはより内陸に移ってゆく 可能性があると指摘した4。さらに,深川由起子 も韓国の対中の進出を目指し,直接投資はアジア 金融危機後大きく変わりつつあると述べている。

深川によると,大企業は,衣類,靴,玩具産業な どの労働集約型輸出産業というより,携帯電話の ようなⅡハードと通信サービス,自動車など,中 国国内販売を目指すものも増えている。中国国内 販売のためには,安価良質の現地労働力を求める よりも,所得が高く,市場性が大きく,さらに高 付加価値生産を支え得る人的資源を持つ地域を志 向するのは必然である。このため韓国の対中直接 投資も,伝統的進出先であった山東省,天津市,

北京市,東北地方から,今後はやはり上海圏にシ フトすることが予想されると言う。ただし,韓国 の中小企業の対中直接投資については,立地転換 のコスト,労働コスト,生産の高付加価値品に切 り替えコストなどを考えると,急激な再シフトは,

当面は置きにくいように見えると指摘する5゜

韓国の対中直接投資に関しては,大企業は華東

地域(上海市、江蘇省、漸江省を含む)に集中して いるように見えるが,韓国の中小企業の対中投資 はどうなるのだろうか。池晩洙が指摘したように 華東地域か,もしくは内陸地域へ移るのだろうか。

それとも深川由起子が指摘したように,華東地域 と内陸地域のどっちにも行かず,やはり伝統地域 の渤海地域に留まるのだろうか。

かつては中国の賃金水準の低さ,地理的・文化 的な近さが韓国の対中直接投資の最も重要な要因 であった。しかし,中国は2000年末にWTOに加盟 し,世界の工場から世界の巨大市場に変貌しつつ ある。韓国の対中直接投資は輸出向け生産拠点の 形成より中国国内市場の獲得を重視するようにな った。そのために韓国の大企業は中国で最も大き

1.韓国の対中直接投資の推移と現状 韓国の対中直接投資は1992年の国交修復以降,

10年余りの間に急速に増加した。国交がなかった 1990年当時はわずかに24件,1,600万ドルに過ぎな かったが,その後急激に増大し,件数では1994年

(841件),金額では1996年(8億8,800万ドル)が 第一のピークとなった6゜この時期まで韓国の対 中直接投資が短期間に急増したのは,当時の韓国 国内の急速な賃金上昇などにより輸出市場で競争 力を失いかけていた衣類,靴,電子部品産業など の労働集約的輸出産業が,低廉な労働力を活用で きる中国に生産基地をこぞって移転したためであ る。

その後,1997年に韓国はアジア金融危機に襲わ れ,大きい衝撃を受け,韓国経済は困窮した7。

そのため,韓国企業の投資余力が低下し,海外投 資自体を大幅に減少させざるを得なかった。この 時期の韓国企業の投資,特に海外投資ピヘイビア は企業の財務状況及び景気によって急激な変動を 見せた。90年代の韓国企業の全世界に対する直接 投資も急激な変動を表しており,対中投資も経済 危機による企業の投資保留などの影響を受けざる を得なかった。そのため,韓国の対中直接投資は 件数・金額とも1998年から1999年にかけては急減

した。

しかし,2000年以降,韓国国内の経済構造調整 によって流動’性危機が改善するとともに,中小企 業は一斉に輸出構築を求めて中国への投資に乗り

(4)

韓国の対中直接投資 87

グラフ寧笹国の対中直接投寳の推可喜

億ドル

輻麺玉工率卒七℃函。 Ss43z1。

■■■契約件数(左軸)

→-契約全額(右軸)

 ̄実行全額(右軸)

1SggggSggZOZOZO 出所:中国対外琿易合作部「中国対外纒済貿易年鑑」1SSZ~Z○○s

出し,2002年からは経済構造調整を終えた「財閥」

系大企業も大型投資を相次いで発表した。そのた め,投資件数は急激な上昇を続け,2002年には 1,297件で過去最高を記録し,1999年以降、日本の 5~6倍に達する件数が継続している。また実行 ベース金額でも2002年には27億2,100万ドルと過 去最高に迫る水準にまで増大した8・

韓国の対中直接投資が活発化するようになった のは,①韓国が80年代後半から90年代前半にかけ て,直接投資の受け手から出し手に転換した時期

がちょうど中国の本格的な直接投資受入れの拡大

期に当たっていたからである。②アジア金融危機 後の韓国国内の経済構造調整では海外資産,特に 先進国の生産拠点や資産がかなり集中的に見直さ

れた反面、海外戦略再構築時のタイミングがWTO

加盟の決まった中国への投資ブームに重なったか

らである9.

蘇州に液晶パネルの後工程工場を建設し,また,

韓国のもう一つの大企業のLGフィリップスLCD も10月に南京に液晶パネルの後工程工場を建設し

た'0.

第二の特徴は,韓国の大企業の中国への進出が 生産基地化から中国市場獲得型の投資へシフトし ていることである。例えば,サムスン電子は中国 での事業構造を携帯電話や通信施設,パソコン,

壁掛けテレビ,デジタル家電など,中国市場向け

高級品分野にシフトさせているとされる'1。また,

韓国の現代自動車は2002年10月に北京汽車と合弁

で「北京現代汽車有限公司」を設立し、中国国内

の販売を本格的に開始した。同社の売上は好調で,

中国国内販売台数は2002年に5,549台(シェア 0.4%),2003年に66,391台(シェア3.2%)と中国で

のシェアを伸ばしている。同社は,グループ内の

起亜自動車と合わせて中国国内での年産台数を 2007年までに60万台に,2010年には100万台に拡大 する計画であるとされる。このように,韓国大企

業は中国国内市場獲得を強化している'2.近年の 大企業の中国進出状況を具体的に取り上げたのが 表1である。

ただし,韓国の中小企業の対中直接投資に関し

ては,そうは言い難い。かつて華北地域に進出し

ていた中小企業は主に輸出型投資であって,繊維,

靴,電子,玩具,コンテナ,服装など労働集約的 な産業が多く,依然として低賃金が重要な要因を 2韓国の対中直接投資の特徴

中国WTO加盟後,韓国の対中直接投資の特徴は

ほぼ以下の3点にまとめることができる。

第一の特徴は,技術的にかなり高度な分野にお

いて,中国における生産拠点が広がっていること

である。特に注目されるのは,半導体に続き,LCD

(液晶パネル装置)の後工程(最終組立)も中国

にシフトしていることである。実例として,韓国 の財閥大企業であるサムスン電子が2002年11月に

(5)

人間社会環境研究第15号2008.3 88

表1韓国大企業の中国進出状況と特徴'3

出所:日本貿易振興機構上海代表処「韓国企業の中国進出と今後の展望一IT産業を中心に-』より。

はや'まり難しい゜伝統的産業は中国国内の市場獲 得による利益より,生産拠点として獲得した利益 の方がはるかに高いが,生産拠点としては華東地 域のコストが高すぎるからである。

第三の特徴は,中国の華東地域への投資が増加 していることである。韓国の対中直接投資は1989 年に地理的近い山東省の青島市から始まって,華 北地域が中心となっていた。それは,規模が小さ く,技術力が低い労働集約型の投資で,主な業種 は繊維,靴,玩具,コンテナ,服装などで,生産 基地としての投資であった。しかし,近年の中国 経済市場の急速な拡大とともに,韓国大企業の中 国への進出も生産基地から市場獲得へとシフトし ていった。そのために,韓国の対中直接投資は,

中国で最も大きい市場である華東地域に比重が移 り,しかも大型の,ハイテク産業の投資を活発に 進展させていった。2003年の韓国の対中直接投資 を地域別に見ると,華東地域への投資は伸び率が 88.6%と急増していることが伺える(表2を参照)。

なし,生産品は韓国または第3国に輸出すること が多かった。立地を変えるコストのこともあり,

また渤海地域の山東省のように韓国に近く,航路 など交通インフラも整っているため,中国国内市 場の獲得より,やはり輸出型投資を優先するだろ う。深川由起子は,労働コストの削減への取り組

みは必要となるとせよ,本国との連携によって生 産を高付加価値品に切り替えたり,納期を縮小し

たり,さらには輸出の一部を中国国内販売に切り 替えたりすることでまだ工夫の余地が残ると言う。

そして,現在の中小企業の急激な再シフトは,当 面は起きにくいように見えると論じる'4。また深 川は,再びシフトが起きない場合,韓国の対中直 接投資は,2つのタイプを並存させたものになる ことを想定できると言う。一つは,上海圏を中心 とした内需対応型の大型投資であり,もう一つは,

黄海・渤海経済圏における輸出型投資である'5.

新規の韓国の中小企業による華東地域への進出も かつての伝統的産業,つまり労働集約的な産業で

企業 主要進出地域及び業種 特徴及び戦略

サムスン (三星)

北京,天津 上海,蘇州

電子、電気

家電,半導体,金融 広東省(東莞,深tlll,海洲)

主に電子業種主体

高付加価値分野志向,携帯電話,TFT ジタル家電

中国国内で「第二のサムスン」構築

LCD,デ

・生産基地を越えて戦略市場として認識,高級ブラ ンドで差別化

LG 北京,天津,上海:電子部品,通信 湖南省長沙:CPT,CDT

広東省海洲:VCD,CD 天津:PVC

杭州:生活健康(化粧品)

家電,生活化学など,消費者と直接接触する品目 が多数

・マーケティング,ブランドイメージ構築を重視(徹

底した現地化志向)

中国法人を第二の本社として育成

SK 北京:SKテレコム 上海:SKチャイナ

上海:ベンチャーインキュベーターセンター 青島:化学

、徹底した中国企業化志向,中国中のSK

・現地法人の代表に中国人任命

。’T(通信サービス)分野重点

現代 自動車

北京:北京自動車工業集団と合作契約 江蘇省:自動車生産法人

・上海中国総括本部の機能強化

・現在生産体制早期構築 浦項

製鉄所

大連,順徳:鋼板、西部大開発ガス輸送事業入 札成功(鋼管用ホットコイル)

・設備新増設計画

・発電所,鉄道,水路,電力など投資に関心

・販売市場及び原材料供給基地

ロツプ 北京:ロッテリア ・割引店設立検討

(6)

韓国の対中直接投資 89 受2襲国の力111域HlI対中盾#碁拷管

出所:JETRO『中国経済』2004年7月版,pl2より。

華東地域に含まれている上海市と江蘇省及び斯 江省への外国からの投資は2000年までは中国全体 の約3分の1のシェアで推移していたが,2001年 には約40%に上昇し,2003年には539億ドル(契約

ベース)に達して,中国全体の46%を占めるに至 っている'7・

上海市への外国からの直接投資は,2000年以降 増加基調に転じ,2003年の実績は,契約件数で前 年比43%増,契約ベース金額で同0.5%増,実行 ベース金額で同28%増と引き続き好調であった。

そのうち独資(1o0%外資)企業への投資は,件数 が3,367件(投資契約総件数の78%)、契約額が78

億ドル(投資契約総額の71%)を占めている18.

江蘇省への外国からの直接投資は,2000年以降

急増している。2000年に100億ドルを超えた外国投 資の契約ベース金額は2001年に前年比42%,2002

年に同30%,2003年には同57%の伸びを示して308 億ドルに達している(全省市で1位)。外国投資実

行ベース金額も2003年に前年比0.4%増の106億ド

ルとなり,広東省(78億ドル)を抜いて全省市1

位となり,中国国内市場の開拓を目指して華東地 a韓国の対中直接投資の実態分析

(1)華東地域の現況

華東地域は上海市,江蘇省,漸江省の1市2省 を含み,総面積は210,741k㎡,人口は13,797万人 (2003年の統計による)であり,それぞれ中国全体の 2%,11%を占めるに過ぎない。しかしながら,華

東地域は過去10年以上にわたり年率10%以上の経

済成長を遂げ,中国の経済成長を牽引している'6。

表3上海市,江蘇省,斬江省の主要計数(2003年)

ビ蕊出所:中嶋誠一,『中国経済統計一改革・開放以降』,ジェト ロ,p49,106;

国家銃汁局国民径済録合銃汁司鋪,『新中国五十五年銃汁資料

>E鋸』,中国銃汁出版社,p371,405,439。

表2韓国の地域別対中直接投資(実行ベース) (閨イ行.イ吐三手IFJしqL1

上海市 江蘇省 蜥江省 面積 6,341k㎡ 102,600k㎡ 101,800k㎡

常住人口 1,711万人 7,406万人 4,680万人 GDP 6,251億元 12,461億兀】 9,396億元 GDP成長率 118% 13.5% 14.0%

1人当たりGDP 46,718九] 12,461元 20,147元 外国投資実行額 2,499億元 5,233億元 4,740億フ己

2002年

件数 金額

2003年

件数 金額 構成比 伸び率

中国投資総計 1,340 896,084 1,633 1,343,885 100.0 50.0

華北 760 487,748 914 633,418 47.1 29.9

山東省 521 219,032 617 370,598 27.6 69.2

天津市 127 93,416 138 80,700 6.0 -13.6

北京市 82 162,398 128 162,483 12.1 0.1

河北省 30 12,902 31 19,637 1.5 52.2

東北3省 206 81,937 244 115,067 8.6 40.4

遼寧省 145 61,911 190 93,554 7.0 51.1

吉林省 41 15,223 37 12,496 0.9 -17.9

黒龍江省 20 4,803 17 9,017 0.7 87.7

華東 277 243,203 348 458,629 34.1 88.6

上海市 104 58.789 103 74,003 5.5 25.9

江蘇省 119 129,640 170 276,369 20.6 113.2

斯江省 54 54,774 75 108,257 8.1 97.6

華南(広東省) 45 33.234 60 44,318 3.3 33.4

(7)

人間社会環境研究第15号2008.3

90

れてきた。それが,近年では上海市を中心とした 華東地域に大企業が活発に投資している。この点 について,深川由起子が、韓国の大企業はITハー ドと情報通信サービス,自動車などの産業が華東 地域の高い市場性を目指して進出していると指摘 している。確かに,韓国の大企業が華東地域へ進 出するには華東地域の高い市場性を目指して活発 に投資を行っている、ただし,韓国の大企業が華 東地域に進出するには,華東地域の地理的な優位 性,外資に対する優遇政策と備えたインフラ整備,

優秀な人材が多いなどの客観的な優位`性もあるか らである。また,コスト面でも,上海市に隣接し ている江蘇省の蘇州市(車で1時間程度)や昆山市 (車で30分程度)では,運輸コスト,賃金コストな ど経営コストがカバーできる。このため韓国の対 中直接投資も韓国の大企業の進出によって華東地 域に活発化しつつある。表2に表しているように,

投資金額と件数は,依然として華北地域が多い。

これは韓国の対中直接投資中,大きいシェアを占 めている中小企業がやはり伝統的な投資先である 華北地域に進出しているからである。だが,投資 金額の伸び率から見ると華東地域への投資が2003 年は昨年より88.6%も増大している。華北地域の 2003年の件数は2002年より293件増に対し,金額伸 び率は29.9%にしか増加してないが,華東地域の 2003年の件数は2002年より71件増に対し,金額伸 び率は88.6%も大きく増加している。投資件数が 大きく変わってない中,金額は大きく増加したと いうことは,1件あたりの金額が大きいというこ とである。これは韓国の大企業の華東地域への投 資が増えていることを表している。韓国の大企業 と中小企業の対中投資状況は表5に表示したとお りある。表5からも分かるように,韓国の対中直 接投資はやはり中小企業が多きシェアを占めてい

る。

ただし,韓国の大企業の対世界の投資伸び率が -29.4%の中,対中投資伸び率が28.9%も増えて いると言うことは,韓国の大企業が対中直接投資 に力を入れていることを示している。また,韓国 の輸出入銀行の統計データによると,韓国企業の 域に集積する外資企業がさらなる企業集積を呼ぶ

流れとなっている'9.江蘇省内では上海市に近い 蘇南地域20(蘇州市、無錫市など)への投資が同

省の投資の約90%を占めている。その中でも蘇州

工業園区と蘇州国家高新区を擁する蘇州市への外 国からの直接投資が突出していて,2003年には外 国直接投資契約金額が125億ドルと江蘇省全体の 4割を占めている。外国直接投資実行金額は68億 ドルで初めて上海市を超えて国内全都市で1位と なっている21。

表4華東地域各省市の直接投資状況(2003年)

(単位:件、億ドル)

「歪÷i三出所:中国研究所編,『中国年鑑』,創士社,2005年版,p327。

斯江省への外国からの直接投資は2001年から急 増している。2001年は契約件数で前年同期比41%,

契約金額で同100%増、実行金額で37%増と大きく 伸びを見せていた。2003年にも各々32%,79%,

62%と引き続き高い伸び率となっている22。

(2)韓国の対中直接投資の華東地域集中実態とそ の要因

2004年11月10日と11日の「経済日報」によると,

日韓の対中直接投資が,近年上海市,江蘇省,漸 江省という華東地域に移りつつあると指摘してい る23。特に,韓国の対中直接投資は従来渤海周辺

(華北地域)に集中していたのが,近年華東地域に

シフトしつつあると言う。では,韓国の対中直接 投資に関して本当にそう言い切れるのだろうか。

歴史的に韓国の対中直接投資は,地理的な近接性 から山東省や天津市を中心とする華北,あるいは 同じ言語を話す朝鮮族が住む遼寧省や吉林省など の東北3省を中心に行われてきた。特に,山東省 の青島市・煙台市,遼寧省の藩陽市・丹東市では韓 国の中小企業を中心として積極的に事業が展開さ

上海市 江蘇省 斯江省

契約件数 4,321 7,301 4,442

契約金額 111 308 121

実行金額 55 106 50

(8)

韓国の対中直接投資 91

対中直接投資のうち,東北3省の占める割合が 2000年の15.3%から2002年の8.9%に下がった一

方,華東地域は同じ時期に18.2%から29%まで上

がった24。さらに,韓国貿易協会(KITA)上海代表 処によると,2004年4月には、韓国から華東地域 への投資は実行ベースでは1494件,上海へは482 件,中国全体からみればそれぞれ15.6%,5%と 大きな数字ではないが,その急増ぶりは目を見張 るものがある25。

韓国大企業の華東地域への投資が増加した要因 には,韓国大企業の対中投資の戦略的な変化と各

地域全体の投資環境の差異によるものであると考

えられる。

SCB信金中央金庫総合研究所は華東地域の1市

2省の優位』性について表6のようにまとめている。

華東地域は,他の地域に比べて産業集積が比較

的成熟かつ完備しており,そのことが外資系企業 の直接投資を誘致する最も重要な要因となってい る。すなわち,華東地域は2004年にはすでに自動

車,電子通信,集積回路など完成された産業集積 を形成しており,原材料産業の成長だけでなく,

製造業のためのサービスである外資系物流,卸売

り,小売りなどのサービス業も成長している。そ して,華東地域の地理的な優位`性,優遇政策,イ ンフラの整備,優秀な人材など外資系企業に投資 しやすい環境が整っている26。

なお,漸江省は全国で民営企業が最も盛んなる

地域である。工業生産額に占める民営企業の割合

は中国全体では3割未満だが,斯江省では8割近 い。また,中華全国工商業聯合会が発表した2003 年同民営企業ベスト500(売上額ベース)のうち,漸 江省から3割強の183社がランクインし,企業数と

しては6年連続全国一となっている27.

以上のことをふまえて,韓国の対中直接投資の 動因から見てみよう。

第一は,かつて両国ともに中国の改革開放政策 表52003年の韓国の規模別対中直接投資状況

_ ̄「~~T天王襄下ギテ示禿諏蘆

出所:韓国財政経済部(2004年)

以上の分析から見ると,韓国の対中直接投資の 特徴は,大企業が華東地域に集中して投資を行っ ていて,中小企業はやはり伝統的な投資先である

華北地域に投資を行っていることである。つまり,

韓国の対中直接投資は華東地域への比重が高まり

つつあるが,なおも,華東地域(主に大企業)と華 北地域(主に中小企業)への投資の二極並存現象が

見られる。

表6華東地域のメリット

(里付:件一億ドル)

上海市 江蘇省 斯江省

①中国で最も経済発展が進み,資本・技術・人 材・情報量における優位性を持つ。

②外資系金融機関が集中し,国内最大の金融セ ンターである。

③中国各地との交通の要衝であり,物流(航空・

海運・陸運)の中心である。

④購買力のある富裕層・中間層の形成が進み,将 来の大消費市場への期待が大きい。

⑤華東地域への部品産業・裾野産業の集積と品 質・技術力向上に伴う現地調達が可能となり つつある。

①優遇政策,インフラ整備が急速に改善しつつ ある。

②内需及び物流の中心である上海市に隣接して

いる

③用地取得等の諸費用が相対的に安い。

④開発区の姿勢が積極的で,様々な要望に柔軟 に対応してくれる。

⑤教育水準が高く人材が豊富で,人件費も上海 より安い。

⑥日系企業が多数進出しており,大企業を頂点 とした産業集積がさらに関連産業を呼び込む 集積効果がみられる。

①~④は江蘇 省と同じ。

⑤国有企業の 比率が低く,

民営企業が多

大企業 中小企業 個人等

総計 金額

伸び率

26.4

-29.4

23.8 8.2

4.2 55.6

対中国 金額 伸び率 シェア

293

●●●78722 002

●●●647166 819

●●●172

(9)

人間社会環境研究第15号2008.3 92

1990年代後半には「高級製品進出戦略」を展開し た。そして,2001年末からは「販売市場化戦略」

を打ち出し,戦略をさらに-歩推し進めてきてい る31.

サムスンの中国進出の初期では,中国の低賃金 を利用し,生産した商品は韓国か第三国に輸出し,

残りは中国国内で販売した。この時期は主に中低 価格製品を大量に生産することを目的としていた。

すなわち,主に中国の輸出向け生産拠点を狙って 進出していた。当時の主力製品は,カラーテレビ,

VCR(ビデオカセットレコーダー),電子レンジ-,

エアコンなどで,主たる企業戦略は中国の輸出向 け生産拠点として位置付けていた32゜例えば,1990 年代前半,サムスン電子は天津で小型カラーテレ ビ,VCR(ビデオカセットレコーダー),モニター を生産することから中国に進出した。

1990年代後半から,中低価格製品の生産.販売に 注力したサムスンの電子系会社は,少しずつ商品 の質を高くする戦略に変えた。それは,サムスン 電子はこの時期から中国の国内市場を意識してき てあり,中低価格製品では,中国市場で成功でき ないと考え,最新流行と先端技術の高付加価値製 品で市場攻略に出た。サムスン電子が中国進出し た高付加価値製品の成功事例としては,携帯端末 の「エニーコール」が上げられる33.

エニーコールの成功を受けて,サムスンは中国 進出戦略を再検討し,中国市場に高付加価値製品 を導入・販売する販売市場と捉える「販売市場戦 略」に変えた34。また,サムスンは中国市場への 進出に際して,人件費を目当ての競争はせずに,

高付加価値製品を作ることを重視し,数量ではな く収益,性に焦点を合わせた。こうしてサムスング ループは1999年に,中国進出して初めて黒字を計 上した35゜

こうしたサムスンの中国進出戦略の下で,2006 年末にはサムスンの中国投資累計額は50億ドルに も達した。また,2006年の販売額300億ドルのうち,

中国国内販売額が205億ドルを大きく占めている 36.サムスンの中国進出戦略が成功した最も重要 な理由の一つは,輸出向けの生産拠点としての中 開始時には安価の労働力を重視していたが,中国

のWTO加盟を契機に中国を引き続き生産基地と して重視すると同時に,中国国内市場も重視する ことで,総合的な生産コスト削減を考慮する方向 へ転換した点である28゜このような動因の下で,

韓国の華東地域への投資は資本・ハイテク密集型 の製造業に集中しており,大型プロジェクトと先 端産業製品に進出している。韓国のサムスン,LG などの大企業は華東地域にハイテク産業基地の戦 略的布陣を積極的に進めている。

第二は,韓国企業の対中投資が加工輸出から中 国国内市場での販売を重要視するようになった点 である。華東地域は韓国企業を含む外資系企業が 販売ターゲットとするような市場に発展し,とり わけ上海市は中国の経済・金融センターとして高 く期待されている。そのため,上海市には情報収 集や統括本部機能を持つ事務所の設立が相続いて いる。ジェトロ上海事務所の統計によると,上海 市では駐在事務所が7,353カ所(2003年末時点)あ るほか,79社(2004年8月末時点,以下同)が多

国籍企業統括本部,100社が外商投資』性公司(傘型 企業),131社がR&D投資センタ(200万ドル以上)

をそれぞれ設けている29。

(3)韓国のサムスンの中国進出実態

ここでサムスンの中国への進出を見てみよう。

サムスンは1992年4月に,中韓国交がまだない時 期に中国天津に最初の合弁会社を設立した。これ がサムスンの中国進出の第一歩であった。同じ年 の8月には中韓国交が回復し,サムスンの中国へ

の進出も急激に加速した。現在のサムスン傘下の

30余の会社の中,サムスン電子,サムスンSDI,

サムスン電機,サムスン生命,サムスン火災,サ ムスン証券,サムスン物産等の20社が中国に進出 しており,関連産業は電子・金融・貿易・重工業・

建築・化工・服装・毛紡績・広告などの分野に及ん でいる30.

次は、サムスンの中国進出戦略を見てみよう。

サムスンの中国進出戦略は多く3段階に分けられ る。1990年代前半には「生産拠点確保」を推進し,

(10)

韓国の対中直接投資 93

国から市場としての中国に戦略転換したことであ った。輸出中心から中国市場重視に転換して,中 国での統一的な販売網の構想に力を入れてきた。

その結果サムスン製のディスプレーは2003年まで 3年連続中国市場でシェア1位になっている37.

サムスンは2006年まで中国全国に119社を設立 している。そのうち,28社が生産企業,30社が販 売企業,4社が研究機関,52社がアフタサービス 機関である38.サムスンの在中会社は主に華北地 域・華東地域・華南地域3地域に進出いるが,2001 年の「販売市場戦略」に変えてからは、中国市場 性が最も高い華東地域に積極的進出を図るように なった。実例を挙げると,蘇州にある蘇州工業園 区だけにもサムスン電子(蘇州)半導体有限会社,

蘇州サムスン電子有限会社,蘇州サムスン液晶デ ィスプレー有限会社,サムスン半導体中国研究開 発有限会社,蘇州サムスン電子電脳有限会社など,

8件のプロジェクトを推進している。そのほか,

研究センター,冷蔵庫,洗濯機などの家電製品,

ノートパソコン,液晶ディスプレーなどの重要な 生産拠点も設立した。それにまた,2006年7月に はサムスン電子(蘇り|、|)半導体第2工場を正式に起 工した39。

東地域はすでに自動車,通信電子,集積回路など の完備な産業集積を形成し,原材料業種が発達し ているだけでなく,製造業に奉仕する外資の物流,

小売などのサービス企業も発展しつつある。華東 地域の市場容量と将来性は顕著である。

多くの研究者は韓国の対中直接投資が中国の国 内市場を獲得するため,華東地域に集中している ことを論述してきたが,その具体的な分析がない。

本論文では,韓国の対中直接投資の推移と特徴を 論述した上で,具体的な統計データと実際に行っ ている企業投資の実証を取り上げ,韓国の華東地 域への投資が増加したのは,中国国内市場を重視 する韓国の大企業によっての華東地域への投資で あって,韓国の中小企業はやはり低労働力を重視 して生産拠点として伝統的投資先である華北地域 に投資を行っていることを検証した。そして,韓 国大企業の対中投資が華東地域へ集中する要因を 華東地域の地域的な優位性と韓国の戦略的な動因 から分析し,華東地域の地域的な優位性が韓国の 大企業の投資を誘致し,韓国の大企業にとって中 国国内市場を獲得ためには華東地域が最も相応し い地域であることを検証した。ただし,韓国の中 小企業について見てみると,韓国の中小企業は山 東省を中心とする華北地域への投資が多く,輸出 型投資が多いため,中国国内市場より,生産拠点 として重要視しており,コスト面と地理的な優位

`性を考慮して,華東地域へ移ることは当面ないと 考えられる。これは,本論文で示したように,韓 国大企業の華東地域への投資の伸び率が高いとは 言えないものの,華北地域への中小企業の投資が 依然として増え続けていることからも伺える。

おわりに

韓国の対中直接投資の大企業による華東地域集 中実態は,外国の対中直接投資の新たな傾向を示 している。韓国を含む外国から中国への直接投資 は改革・開放政策開始時の安い労働力を求めた投 資から,総合的生産コストの低下をより一層考慮 するようになった。さらに,中国のWTO加盟を契 機に,中国を生産拠点にする同時に,国内市場を より重視するようになった。中国国内市場を獲得 するためには,戦略的方面から考えると,安価な 商品よりも,技術』性が高くて高付加価値の商品を 選択するのが有利であるという事情があった。そ のためには,投資先としては相対的に成熟,完成 した産業チェーンと産業集積効果の高い上海を中 心とする華東地域が最も相応しい地域である。華

l中国商務年鑑編集委員会『中国商務年鑑」中国商務 局出版社,2005年版,p643.

2ジェトロ「貿易投資白書』,JETRO,2004年版,pl67o 3同上,2006年版,pl61o

4池晩洙『赴号フ]君91對号号剋‐曹剋髻斗社寺」対外 経済政策研究院KIEP,2002年,pll3o

5深川由起子「日韓の対中直接投資と3国間経済協力 へ含意」,安部一知・浦田秀次郎『日中韓直接投資の

(11)

人間社会環境研究第15号2008.3

94

欠いており,南北間では大きな経済発展レベルや所得 水準の格差が生じている。

21中国研究所編,前掲書,p327.

22同上。

23「経済日報』2004年11月10日版と11日版の「日韓資 金南下現象調査(上)(下)」(中国版)。

24赴号〒髻召呂憩(韓国輸出入銀行)の統計データよ り作成,http:"wwwkoreaeximgokl/kI/Oeis/mO3/sO1 O40Zjspo

25赴号旱‐詞。(韓国貿易協会くmmdL>)の統計デー タより。

26前掲書,「日韓資金南下現象調査(上)」。

27ジェトロ上海事務所『2004年上半期の華東経済と企 業発展」,ジェトロ上海事務所,2005年1月14日発表 により。

28前掲書,「日韓資金南下現象調査(下)」。

292003年9月に実際に訪問したジェトロ上海事務所 が提供したデータ参考。

30中国三星ホームページ,http:"chinaSamsungcomcn/

about/Iishiasp?Sm=menu5(中国語版)。

31崔創喜「韓国勝ち組企業の中国戦略」「知的資産 創造」,2003年6月号,野村総合研究所,p59o 32張乗煥「韓国電子・IT産業のダイナミズム』,そ

うよう,2005年8月出版,pl67o 33崔創喜,前掲書,p60.

34同上。

35同上。

36中国三星ホームページ,前掲書。

37呉作義「サムスンの中国戦略」,『中国電子情報産 業」,日中ナレッジセンター,2003年6月2日号,pl7o 38中国三星ホームページ,前掲書。

39中国シンガポール蘇州工業園区ホームページ http://wwwsipacgovcnOapanese/J-yqdt/t200705182182

2ht、

進展-3国シンクタンクの共同研究』第3章,日本経 済評論社,2003年版,pl23~125.

6前掲書,pllOo

71997年から1998年にかけて,アジア金融危機によっ て韓国国内経済は大きく打撃を受けた。1998年には,

経済成長率が-6.7%へと一気に下落,失業率も6.8%

とかつてない高記録を達した。にもかかわらず,卸売 物価は12.2%,消費者物価も7.5%とそれぞれ急騰し た。外貨バラスも崩れ,1997年にはウォン対ドルレー トが前年の1ドル=844.1ウォンから1997年には1ド ル=1,4152ウォンにまで急落した。

8深川由起子,前掲書,pllOo 9同上。

10ジェトロ,前掲書,2003年版,pl63o

11向山英彦「中国との経済関係が深まる韓国」,日本 総研,『アジア・マンスリー」,2003年3月版。

12ジェトロ,前掲書,2004年版,pl62o

l3日本貿易振興機構上海代表処「韓国企業の中国進出 と今後の展望-1T産業を中心に』日本貿易振興機構上 海代表処,2004年発表。

14深川由起子「日韓の対中直接投資と3国間経済協力 へ含意」,前掲書,pl24~125.

15同上。

16中国研究所「中国年鑑」創土社,2004年版,p387

~396より作成。

17上掲書,2005年版,p327.

18同上。

19同上。

20江蘇省は長江を挟んで南部(蘇南地域)と北部(蘇 北地域)に分けられている。蘇南地域は蘇州,無錫,

常州,南京,鎮江の5市,蘇北地域は南通(長江を挟 んで蘇州の対岸)を始めとする8市が含まれている。

蘇南地域には外資系企業の集積と郷鎮企業の発展が 見られるに対して,蘇北地域は工業化を促す牽引役を

参照

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