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110_日研紀要11号_論文_粟飯原さま02p.indd

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1.はじめに ―本研究の目的―

海外で、日本語で実務に携わる日本語母語話者(以下、「JJ」と略称)と母語以外(駐 在地の現地語や職場の公用語など)で実務に携わる日本語母語話者(以下、「JF」と略称) がビジネス接触場面で意識する問題にどんな共通点や相違点があるのだろうか。また、JJ と JF 間に共通点や相違点が存在する場合、その内容は JF の使用言語によりどのような様 相・変容を示すのであろうか。 こうした JF と JJ 間の共通項や相違が明らかになれば、これまで経験的・概念的にしか 語られてこなかった海外におけるビジネス日本語教育に対し、二つの異なった教育内容の 提示をするための足がかりが得られよう。まず複数の国でのデータに共通する JF と JJ 間 の共通点や相違点からは「A:最大公約数的な汎用性の高い教育内容の基礎」が、次に、

日本語母語話者の問題意識

―使用言語の違いから見る問題意識の共通点と

相違点―

粟飯原 志宣

要 旨 本稿は、香港で日本語で仕事をする日本語母語話者 15 名と、日本語以外で仕事 をする日本語母語話者 10 名を対象に半構造化面接調査を行い、海外のビジネス接 触場面で日本語母語話者が意識する問題を質的に分析したものである。調査から 得られた 175 件の基礎データから 29 の概念が抽出され、それらの概念は【Ⅰ . 対 照言語行動】、【Ⅱ . ビジネススキルと日本語教育の領域】、【Ⅲ . 基礎的言語能力】、 【Ⅳ . 日本語能力の判定基準】、【Ⅴ . ビジネス接触場面の背景 1(当事者)】、【Ⅵ . ビ ジネス接触場面の背景 2(日本関連)】の六つのカテゴリーに分類された。各概念 には、そこに分類された JJH と JFH の数を手がかりに、共通点、相違点、その他 の 3 つのラベルをつけた。各カテゴリー、各概念、ラベルにどのような関連があ るかをビジネス日本語教育の内容という視点から探る。 キーワード ビジネス日本語 ビジネス接触場面 接触場面の使用言語  日本語母語話者の問題意識 汎用性と地域性

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個別調査国に特有な JF と JJ 間の共通点や相違点からは「B:使用言語の文化背景に応じ た地域性の強い教育内容の基礎」が、それぞれ得られる。もちろん、A および B の具体 的な内容を探るには、JF と JJ 間の共通点や相違点だけではなく、接触場面のもう一方の 参加者である日本語で実務に関わる非日本語母語話者(以下、「FJ」と略称)と日本語以 外の言語で日本人と仕事をする非日本語母語話者(以下、「FF」と略称)からの調査デー タを同じ比重で研究しなければならないが、本稿ではまず基礎研究として行った香港の JJ と JF に対する調査結果について考察し、そこにビジネス日本語教育の内容として提示す べき事象について汎用性と地域性が見いだせるかどうかを検討したい。 なお、本稿は、筆者修士論文の一部に追加調査によるデータを加え、2011 年 8 月天 津の世界日本語研究大会で行った発表内容に、さらに大幅な修正・加筆を施したもので ある。

2.先行研究

2.1 「ビジネス接触場面で発生する問題」に関する先行研究 日本経済のグローバル化に伴い、90 年代より海外の日系企業に勤める日本語母語話者 と現地社員との間に生じる問題を取り扱った調査は増えた。具体的な JOP 教育、特にビ ジネス接触場面の当事者の要望や問題意識に関する先行研究としては、清(1995・1998) や近藤(1998)が挙げられる。清は、上級日本語話者の外国人ビジネスピープルは「意見 述べ」や「断り」における産出・受容でのスピーチレベルの設定に支障点があると述べて いる。近藤の日本における量的研究では、日本で仕事をする外国人社員が訴える問題点を 「不当な待遇」「仕事の非効率性」「仕事にまつわる慣行の相違」「文化習慣の相違」の 4 因 子に分類している。海外のビジネス日本語関連研究では、島田・渋川(1999)に香港を 含んだアジア 5 都市の日本企業における「日本語が求められる場面と実態」調査があり、 企業側の社内会話に対する高い期待と学習者の日本語使用実態が報告されている。 また本稿の調査地である香港の先行研究も1990年代から増えており、板井(1998) では、 大学における教育方法の実践研究報告、宮副(1997・2003)では香港の多言語職場におけ る接触場面の参加者にみられる問題点についての事例研究などが挙げられる。その他の海 外におけるビジネス日本語研究も、タイにおける田中(2002)の研究、松嶋(2003)の中 国のビジネス日本語テキストにおける敬語の研究、窪田(2004)のハワイにおけるサー ビス日本語、小野寺(2005)の日韓テキストの比較分析など、2000 年に入り如実に増え、 本研究の計画にあるアジア諸国における調査の基盤はできていると言えよう。 しかしながら、近藤(2004)の「ビジネス日本語研究動向報告」には 、ビジネス日本 語領域ではまだ実証的研究が不足しているとの指摘がある。それでも、野元(2007)の日 系企業が現地スタッフに求める日本語、服部(2008)の電話・クレーム終結部における学 習者の問題、山本他(2008)や堀井(2009)に見られる企業が求める日本語能力、粟飯原 (2009)の接触場面における日本語母語話者と学習者間の問題、趙(2010)の依頼の言語 行動の日中対照研究など、接触場面に即し、教育現場の具体的な教育内容の検討につなが る研究が増えている。

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2.2 粟飯原(2009)からの知見 粟飯原(2009)では、これまで教育現場の教師・学生、そして FJ に認識されにくかっ た JJ の問題意識を調査し、教育現場(教師と学習者)での「気づき」を 促すための基礎 研究を行っている。香港の JJ から得られた問題意識 45 件を、大きく①接触場面がもたら す結果が双方の心的距離を拡大させた問題、②実務の責任範囲に対する理解のずれに起因 する問題、③対照語用論的言語行動の相違に起因する問題、④コミュニケーション能力不 足に起因する問題の四つに分析を試みている。 各項目に分類された JJ の個別の問題意識 45 件は、これまでビジネス日本語の担当者や 学習者に「気づき」が行われにくかった内容を提示したという点では価値がある。しかし、 そうした「気づき」の内容の中に、香港以外で業務を行う日本人の問題意識と共通するも のと、香港特有であるものとがあるか否かを識別するまでの研究はなされていない。また、 JJが意識した問題項目 45 件には、接触場面の背景を構成する企業や経営の形態を含めた 当事者の共文化1に関する問題意識は取り上げられていない。しかし異文化間コミュニ ケーションでもあるビジネス接触場面において、共文化の理解は欠かせない要素であり、 本稿ではこれに関する問題意識も取り上げる。 以上、本稿では、FJ に対するビジネス日本語教材のあり方を検討するために、まずは 香港の JJ と JF の問題意識を収集し、そこにビジネス教育内容としての汎用性と地域性を 見いだすための足がかりとして、詳細な比較分析を行う。

3.研究方法と被調査者

3.1 研究方法 本研究では、2006 年から 2011 年 6 月までに、香港に在住の JJ(以下、「JJH」と略称) 15 名と香港の JF(以下、「JFH」と略称)10 名に半構造的面接調査2(平均 2 時間)を行い、 被調査者の了解の上、録音、文字化した。そこから問題意識を窺わせる発言を基礎データ として抽出し、KJ 法、修正グラウンデッドセオリーを参照し、具体的には以下の手順で 研究を進めた。 ①分析ワークシートを用い、基礎データを類似した内容別にまとめ、概念生成を行った。 ②問題意識の対象という視点から、生成した概念を更に 6 つのカテゴリーにまとめた。 ③ 各概念に分類された JFH と JJH のデータ数と概念間の関連を手がかりに 3 種類のラ ベル、共通点・相違点・その他を概念別につけた。 ④各カテゴリー、概念、ラベルがどのような関連性を持っているかを考察した。 3.2 被調査者 本稿の被調査者は業種、職種、職責、年齢も多岐にわたる(参考資料 1、2)。海外駐在 期間や個人の性格により多少の相違はあるものの、異文化適応能力が高く、公私ともに海 外での生活に適応している。本論には、被調査者が問題意識を語った生の声を資料として 掲載しているが、一度に読むと、被調査者が常にそうした「文句」を言っているような誤

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解をされるかもしれない。実際にある勉強会でこうした資料を見せたところ、元商社マン だったビジネス日本語担当者から、「私はそうじゃなかった。被調査者はあまり優秀なビ ジネスマンではなかったのでは」という質問を受けたことがある。そうした印象は全くの 誤解である。被調査者は異文化接触としてのビジネス接触場面で、自文化の行動規範や常 識といった「前提」を揺すぶられ、対処を求められてきた。これを放置したり、自分の「前 提」に固執したりすれば、この元商社マンの言う通りかもしれない。しかし本稿の各基礎 データは、インタビューの流れの中で、彼らを揺さぶり、これまでに対処してきた、ある いは対処すべきだと気づいたことについて語ってもらったものである。基礎データは、そ うしたものであることを念頭において読み進められたい。

4.調査結果

調査の結果、JJH から 120 件、JFH から 55 件の基礎データが得られた。これを 3.1 の 研究手順に従い分析した結果(表 1)、175 件の基礎データに対し、29 項目の概念と 6 つ のカテゴリーが生成された3。カテゴリー番号と名称、その内容は以下の通りである。 Ⅰ . 対照言語行動 :インターアクションに具現化した共文化の違い Ⅱ . ビジネススキルと日本語教育の領域 :言語能力以外に求められる能力等 Ⅲ . 基礎的言語能力 :主に日本語の言語形式/運用に関する問題 Ⅳ . 日本語能力の判定基準 :求められる日本語人材(社内用、対外用) Ⅴ . ビジネス接触場面の背景 1 当事者 :異文化 / 外国人に対する接触場面の当事者の意識 Ⅵ . ビジネス接触場面の背景 2 日本関連 :JJ が抱く日本 / 日本企業 / 日本人に関する意識 29 の概念の詳細については、「5. 考察」でそれぞれが分類されたカテゴリー別に説明を 加える。各概念に付けたラベル別の数は、共通点 11 項目、相違点 7 項目、その他 11 項目 という結果になった。

5.考察

調査の分類結果に対し、5.1 では、各カテゴリーにおける JJH・JFH の割合を手がかりに、 5.2 では、各概念の内容とラベルを手がかりに考察を進める。5.3 では JJH と JFH の問題 意識を教育内容という視点からラベルを手がかりに考察を行う。 5.1 各カテゴリーにおける JJH・JFH の割合 ⅠからⅥまでの 6 つのカテゴリーにおける JJF と JFH の割合を表 2 に示す。ここに表 示した割合は、JJH、JFH それぞれの全体の何%がそのカテゴリーに含まれているかを表 している。例えば、【Ⅰ . 対照言語行動】に分類された 1 番から 12 番の 12 の概念すべて のバリエーションの合計数は、JJF で 52 件である。この 52 件を、JJF の総合計数 120 件 を分母として割合を出したものが 43.3%という数値である。同様に、【Ⅰ . 対照言語行動】

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における JFH の合計 22 件を、JFH の総合計 55 件で計算すると 40%になる。 表 2 からは、① JJH / JFH 同じように意識されるもの、② JJH に多く意識されるもの、 ③ JFH に多く意識されるものというおおまかな傾向がカテゴリーごとにあることが窺わ れる。 表 1  分析シート:日本語母語話者が外国人と仕事をしていて意識した問題(JJH120 件 と JFH55 件) カテゴ リー 概念番号 概念名称 JJ件数 JF 件数 ラベル Ⅰ.対照言語行動 (43.3%)52 (40.0%)22 1 自分の言語行動は通じない 8 5 共通点 2 待遇表現:なんか不愉快 / いい感じ   18 共通点 3 失敗は許されるかどうか、そして笑いから 1 3 共通点 4  謝罪の意味の違い 5 4 共通点 5  難しい注意、アドバイス。愛の鞭は通じない 2 4 共通点 6 職務範囲の違い、評価あり方の違い 3 3 共通点 7  一件、時間概念の違いのようだが、 2 共通点 8 コミュニケーション、どちらが優先?「話す」「聞く」 3 1 共通点 9 問い合わせ、念押し、催促の違い 4 相違点 10 報告(プロジェクト等の進行過程における報告のあり方) 2 相違点 11 お辞儀の意味の相違 2 相違点 12 期待される言語行動と一致しない言語活動は評価されない 4 その他 Ⅱ.ビジネススキルとビジネス日本語教育の領域 (24.2%)29 (16.4%) 9 13 言語以外に求められること 15 5 共通点 14 ビジネスマナー:どこまでが言語教育の領域か 11 3 共通点 15 ビジネス日本語教育の範疇:それも言語の問題なんです 3 1 その他 Ⅲ.基礎的言語能力 (16.7%)20 (3.6%) 2 16 報告の仕方(要約力や報告の要素 / 構成) 7 1 共通点 17 語彙レベル 6 相違点 18 助詞、表記 4 1 相違点 19 狭義の敬語 2 相違点 20 社会言語、パラ言語 1 相違点 Ⅳ.日本語能力の判定基準 (14.2%)17 − 21 日本語能力:社外対応可 8 その他 22 日本語能力:社内用 9 その他 Ⅴ.ビジネス接触場面の背景 1(当事者) (2.5%) 3 (20.0%)11 23 異文化接触の衝撃:外国語使用/長期海外滞在の影響 3 2 その他 24 第三言語使用の功罪(丁寧さや配慮表現の欠如の要因?) 7 その他 25 外国人の日本語:下手なら聞きたくない 2 その他 Ⅵ.ビジネス接触場面の背景 2(日本関連) (7.5%) 9 (25.5%)14 26 海外から見た日本的企業の問題点: 3 9 その他 27 共通語を使わない危険性 1 2 その他 28 日本化、現地化、第三の企業文化 2 1 その他 29 その他、気になる日本のいろいろ 3 2 その他 注: 各カテゴリー名の右側に表示されている割合(%)は、そのカテゴリーに分類された概念すべての基礎デー タの合計を、JJ であれば 120 件、JF であれば 55 件を分母にして計算されている。

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① JJH、JFH が同様に問題意識の高さを示すのが【Ⅰ . 対照言語行動】と【Ⅱ . ビジネ ススキルとビジネス日本語教育の領域】の 2 つのカテゴリーである。同様な傾向を 示しているという点で、この 2 つのカテゴリーは、日本語母語話者が他言語を使用 した際にも働く問題センサー4として、ビジネス日本語教育の内容としてまず取り上 げてよい内容を含んでいると評価していいのではないかと思われる。 ② 【Ⅲ . 基礎的言語能力】と【Ⅳ . 日本語能力の評定基準】では、JFH に比べ JJH の割 合が高い。Ⅲ、Ⅳともに接触場面で使用する日本語自体に関連する内容なので、接触 場面で日本語を使用していない JFH の意識が少ないのは容易に理解される。JFH の 意識は少ないが、JJH が問題として意識しているのであれば、ビジネス日本語教育内 容に生かすべき内容である思われる。 ③ ⅤとⅥの【ビジネス接触場面の背景 1 / 2】では、②とは逆に JJH に比べ JFH の割 合が高い。この結果から筆者は 2 つの疑問を抱いた。第一に、問題の素地とでも言う べき接触場面の背景である企業のあり方や接触場面の当事者のあり方に対する疑問や 客観的評価が、JFH よりも JJH のほうが少ないのはなぜか。第二に、JFH に多く意 識され、JJH にあまり意識されない内容は、ビジネス日本語教育内容としてどのよう な価値があるのだろうか。 以上、JJH と JFH の割合から、各カテゴリーがビジネス日本語教育内容としてどんな 価値があるのかといった大まかなアイディアを得ることはできた。しかし、その教育内容 として取り入れるべき具体的内容は分からない。また、③の 2 つの疑問になんらかの示唆 が必要である。 以上の問いに示唆を得るため、5.2 では、各概念の JJH と JFH の割合と具体的内容を手 がかりにつけた三つのラベルに着目しながら詳細に考察する。なお、ラベルをつける際に は同じ概念の JJH と JFH の意識の割合はもとより、詳細な考察を行うために別な概念と の横断的な観察も行った。 5.2 各概念の内容とラベル 筆者は当初、5.1 で考察したカテゴリー別の JJH と JFH の割合から単純に考え、Ⅰ / Ⅱ (JFH、JJH ともに比較的に多い)に分類された概念には共通点のラベル、Ⅲ / Ⅳ(JJH に 多い)とⅤ / Ⅵ(JFH に多い)に分類された概念は相違点のラベルが張られるだろうと仮 定した。しかし、各概念に分類された基礎データ(以下、「バリエーション」と呼ぶ)の � �� �� �� �� �� Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ ��� ��� カテゴリー名 JJH JFH Ⅰ.対照言語行動 43.3% 40.0% Ⅱ. ビジネススキルとビジネス日本語教育の領域 24.2% 16.4% Ⅲ.基礎的言語能力 16.7% 3.6% Ⅳ.日本語能力の評定基準 14.2% 0.0% Ⅴ. ビジネス接触場面の背景 1(当事者) 2.5% 20.0% Ⅵ. ビジネス接触場面の背景 2(日本関連) 7.5% 25.5% 表 2 各カテゴリーにおける JJH・JFH の割合

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JJHと JFH の比率、そして他の概念との関係も考慮しながら実際に分けると、共通点と 相違点だけでは分類できず、表1にあるようにその他というラベルの設定が必要となった。 5.2 では、ラベルを付ける作業を通し、各概念にビジネス日本語教育の内容という視点か ら考察を加える。ラベルは以下の観点から付けられた。なお、紙面の制限上、29 の概念 のバリエーションとして分類された 175 件の全基礎データを記載するのは難しく、代表的 なバリエーション58件を各概念別に記載する。なお、カテゴリー名は【 】、概念名は《 》 で表している。 共通点:接触場面での使用言語が異なっても、JJH と JFH に共通する問題意識 相違点: 接触場面での使用言語が異なるため、JJH、JFH 間で共通せず、一方だけに特 有、あるいは評価が反対である問題意識 その他: 接触場面での使用言語の種類に関わらず、駐在期間の長短や雇用条件(駐在員 か現地採用か)といった使用言語以外の要因で共通点や相違点が見られるもの や、JJH と JFH 双方を取り巻くビジネス接触場面の背景についての問題意識 5.2.1 【対照言語行動】 共通点:8 概念 相違点:3 概念 その他:1 概念 筆者は言語行動とは「依頼」「謝罪」「断り」「褒め」など「ある目的を達成するために 言語を用いて相手に働きかける様々な行動」と考えている。言語行動で大切なのはまず目 的を効率的に達成させること、次に人間関係への配慮ではないだろうか。そのために我々 は言語形式を選んだり、働きかけるときの順序などに工夫を凝らしたりする。言語形式の 選択については【基礎的言語能力】で述べるとして、このカテゴリーには、インターアク ションにおいて具現化した共文化の解釈の差異に起因する言語行動上の問題を分類した。 その特徴として、「異文化間コミュニケーションであるビジネス接触場面においても、そ こで発生した言語行動を判断するときの問題センサーとして、自文化の基準が強く影響し ている」ということがあげられる。 共通点 《1. 自分の言語行動は通じない》《2. 待遇表現》《3. 失敗と笑い》《4. 謝罪の意味》 《5. 注意、助言》《6. 職務範囲の違い》《7. 時間概念》《8. 話し方》 概念 番号 概念名称 (%) (%) ラベル 代表的なバリエーション(抜粋) JJ件数 JF件数 Ⅰ.対照言語行動 52(43.3) 22(40.0%) 1 自分の言語行動は通じない 8 5 共通点 (JJ5–9)よく遅刻すると「何で遅刻したんだ∼」って怒ると、例えば「バスが遅れて渋滞だったんですよ」っ て。コミュニケーション上この会話には何の間違いもありませんよね。でも上司はいった「なぜ遅刻したん だ」って言う意味は「おまえ謝れ」という心が先で中国人なら「謝れ」って先に言うんでしょうけど、日本 人は謝れって言わないんですね。「なぜ遅刻したんだ」って言ってしまう。(中略)コミュニケーションのレ ベルというものは、言葉だけではなくて最低限意味は何? と。さらに意図や感情や場と言うのまでつかん でいかないといけないときに、日系企業が欲しいのはせめてここまで、場までは読めればと、そういうのが 分かるような人が欲しいと、あるいはそうなって欲しいといってるところじゃないかなと思いますね。 (JF3–8)シンセン営業の日本人は今 36 歳で、シンセンと香港トータルで 8 年いる。彼が 3 月で帰任になっ た。それで彼がオフィスのクリーニング代月 200 元で安いんだけど、これから毎月払わなければならないん で、年間分を申請したいと言ってきた。稟議を本社に送ろうとしたんだけど、ちょっと気になって聞くと今 まで 3 年間は「いや実は僕、自腹で払ってたんです」と。それで香港オフィスの 8 年いる会計の財務のほう に言った。今までのこと聞かれて、実は、XX さんが自腹で払ってたみたいですって言ったら、英語で「バ カ∼っ」って。そういわれて、やっぱり。8 年日本の会社で日本人の MD に仕えても分からない。その営業

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とも 4 年間は香港で一緒に働いているわけでしょ。で、バカって言い方はね、そこで、ああ、やっぱり、違 うなって。別に彼もいい人だし信用できるし、すごく頭もいいんだけど、もう日本人はバカだなって、自腹 でなんでそんなことするのって。だから香港人は絶対これはしない。したら馬鹿。で、日本だといい人に向 かっても「バカだな」って言うけど、この彼が思ったのは「本当にバカ?」って言うこと。 (JF3–11)日本人だったら、ちょっと「お金返して」って言いにくいときがあるでしょ。でも欧米人なら「君 は僕にこれだけ借りているんだよ」ってはっきり言うでしょ。日本人だとなんか、忘れてるだけかなとか 思って取り立てるみたいで悪くて言いにくい。欧米人だと「なんで言ってあげないの? 逆に言わないこと の方が冷たいよ」って怒られたことがあって。これは気をつけようって思ったの。日本人と全然違う。 《1. 自分の言語行動は通じない》の JJ5–9 では、使用する言語の言語行動を理解する必 要性が述べられている。続く 2 つの例は、共に JFH が当然だと思っている言語行動につ いて、相手からの否定的な解釈を受けた例である。JF3–8 では、相手に対する失望(長年 日系で日本人の上司に仕えてきたのだから日本的な価値観や美徳を理解していると期待し ていたが違った)、次の JF3–11 では、反省(日本的な言語行動は他言語を母語話者とする グループには通じないことは知っているつもりだったのに、適応できていなかった)を感 じている。 2 待遇表現:なんか不愉快 / いい感じ   18 0 共通点 (JJ1–3)ビジネスメールだけれど「何々でございます」っていうのが多かったり、テレビの皇族の方のニュー スを言うときみたいな感じになってしまって…、ちょっと…逆に慇懃に聞こえてしまう。 (JJ2–2)口調がきついじゃないですか、香港人って。それをそのまま日本語に訳してしゃべってしまうと、 お客さん、すごく嫌われる。事務所の人はふだん日本人のやり取りを聞いているから、そんなにきつくない。 でもガイドは自分が話したいから、指示するときとかきつくなる。ガイドは一方通行の会話ですね。受け答 えがないから。事務所は受け答えがあるじゃないですか。だから…「あ∼、そこ、そこ、そこ」みたいな。 敬語、落ち着いて決まったこと話すときは大丈夫ですけど、急になにかとなるとテンぱっちゃう。 (JJ3–4)彼は私の上司であるので、私のことは、社外に対しては呼び捨てにするでしょ、でも彼は社内でも 呼び捨てにする、さん付けにしないんですよね。名前じゃなくてファミリーネームのほうを。私はまだそれ についていったことはないけど、嫌な気分というか、それよりも、まあ香港の気質なのかな∼と思う。「う ちの部署に XX(姓)というものがいるんだけど、XX のパソコンを直してもらえませんか」というようなメー ルを書いてしまう。日本人なら社内なら「XX さんのパソコンなおしてもらえませんか」って書きますよね。 総経理も日本人だから「XX さん」って言うメールを書いていて、見ているはずですよね。でもそれは見て いないのか、それともやっぱり、自分は上司だからって思っているのか、私には分からない。 (JJ4–11)(打ち合わせする時、敬語が漏れるという FJ にたいして)JJ:気にならないですね。逆にその辺は、 あえて使ってないのかな、いい感じで(と思っていました。) 《2. 待遇表現》では、狭義の敬語以外の待遇表現、丁寧さや配慮のあり方についての問 題意識が 18 件も収録され、ビジネス日本語教育内容としての需要の高さを示している。 ここには日本語の待遇表現についての意識が集められているので、JFH からの意識は見ら れない。しかしそれは、JFH に丁寧さや配慮のあり方についての問題意識がないことを意 味するのではない。概念を横断的に見ると、JFH が抱く待遇表現についての意識は、いわ ゆる日本語の敬語ではなく、《24. 第三言語使用の功罪》の JF1–3 や JF7–3 に見られる情意 的表現の欠如による「英語のきつさ」として現れていると筆者は考えている。つまり《2. 待 遇表現》と《24. 第三言語使用の功罪》はお互いに強い関連があると言える。こうした考 えのもとにここには JFH からの意識がないにもかかわらず共通点となっている。この関 連性については《24. 第三言語使用の功罪》で詳しく述べる。 3 失敗と笑い:失敗は許されるかどうか、そして笑いから 1 3 共通点 ミスを指摘されるといいわけから始まる。いいわけがあっても先ず「すみません」と言えば、注意するほう もソフトタッチになって「注意」から「教え」に変わるのに。(JJ7–5) 香港人は、他人の失敗を笑う。だから失敗して他の人に笑われることを極端に恐れる。香港人は人の失敗を 笑うので、笑われることを恐れて失敗を怖がる。(JF1–8) 4  謝罪の意味 5 4 共通点 (日本人はよく謝るじゃないですか。でも英語の方や中国語の方はあまり謝らない)JJ:その例、あります

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よ。ま、あるお客さんが怒ってたんですね。日本人のお客さんですけど、日本人が我々の会社に対してすご く怒って、もうお前の会社とは取り引きしないと、したくないと言ってきたんですよ。で、我々、そこに風 穴あけるために、まず、私は、まあ、お客さん怒ってるんだから、まずすいませんといいに行こうと。お客 さんの話を聞いて改善すべきところは変えましょうというスタンスだったんですが、K(ブラジル系日系人) は、謝る必要はないみたいな。ベースが違う。ま、過去に何があったのか分からないけど、K のスタイルは どんな感じかな…。謝るんじゃなくて…(FJ:謝ると同等じゃなくなるから・・・)(JJ4–12) (香港人の知り合いが言うには)「日本人はすぐに謝る。Sorry って言うけど、Sorry って思ってないのに言 うから罪深い」日本人はなんでもなあなあで済ませるとか。でもそのほうが丸く収まる場合もあるし、そん ないつも白黒つけてたら疲れちゃう。(JF1–9) 5  注意・助言:愛の鞭は通じない 2 4 共通点 (JJ1–11)香港人は打たれ弱いです。上司が期待してアドバイスしたことで、連続して病欠ですよ。若い男 の子。可愛がってもらっていたと思っていたのに、嫌われたって誤解して…。(なんていったのかな)ええ と確か「君の足りないところはここだ」です。でも、自分に対してはすごい自信があるんですよね。 (JF2–4)批判というか、日本人って批判に打たれ強い民族じゃないですか。フィリピン人はプライド高いか ら批判したらだめなんですよ。こうすれば、もっとよくなって一段階成長できて評価あがるよとか・・・詳 しく言わなければ伝わらなかったんじゃない?「こうすればいいよ」ってだけだと、押し付けられてる感じ かも。 次に《3. 失敗と笑い》《4. 謝罪の意味》《5. 注意、助言》であるが、筆者は《3. 失敗と笑い》 を他の二つの上位概念と考えている。例えば、謝罪を例にとろう。「こんな時にする謝罪 には、この表現で」と教えてもどうしても説得性にかける。そこで、「皆さんの文化では、 謝ると失敗を認める事になり、笑われる事になる。アドバイスを受ける事も時には自分の やり方の悪い点を認める事になり、面子が潰れる。しかし、日本では失敗は成長の始まり と捉えられているので、謝罪も助言も成長への扉なんです」と教えれば、謝罪も香港のよ りリラックスしたものになるだろうし、注意・助言を受ける気持ちも和らぐと思われる。 6 職務範囲の違い、評価あり方の違い 3 3 共通点 (JJ5–13)職務と責任の考え方が異文化ギャップ。ここまでやるのが責任よと、普通ですよね。普通としては。 ただし、仕事をしていれば必ずはみ出した仕事が出てきます。このはみ出した仕事は誰がやるのということ が、日本的な考えと海外の考え方は違います。日本では、このはみ出した仕事の部分も自分の周囲の仕事と してそこまでが責任範囲であるとこう考えると、はみ出したものはやると。海外の中では、自分で契約し直 して自分のキャリアジョブを広げていって、仕事を成長してきているケースが多いと。香港の方はこっちだ と思うんですね。転職とか、再度のプロモーションとかででかくしていく。だったら昇格させてくださいよ と。 (JJ1–8)日本語ができるからといって普通の香港人よりもちょっといいお給料で雇っている。その割には働 いてくれない。彼女的にはこの収入で満足してるから、それ以上は求められたくないから、力をセーブして いると思う (JF7–2)担当業務以外で翻訳等比較的負担の大きい日本語貢献をしても評価されない。 7  時間概念:一見、時間概念の違いのようだが、 2 共通点 (JF3–4)やっぱり時間の感覚が日本人とかなり違うので、早くやって欲しい場合とかね、言ってもなかなか 出てこないことがしょっちゅう。それは香港人の気質というか文化なんだろうと思う。 (JF4–1)やっぱり損得というか、そのときの合理的な考え方が、まあ、極端でしょ、ここは。その場、その 場の、というのか長期とか中期というよりは今を大事にして、その先があるからということはあんまり考え ない。 8 話し方:コミュニケーション、どちらが優先?「話す」「聞く」 3 1 共通点 (JJ4–4)香港は相手のことも聞いているけど、自分の言いたいことをばっ∼と言っちゃうと。私たちからす ると、本当にお互いの話を聞いているのかなと(FJ の笑い)。彼はそれはほとんどない。うちの社員を見渡 しても、アシスタント 2 名いるんですけど、女性、広東語日本語で両方とも結構言うところがあるんですけ ど、F の場合は、まあ、いったん飲み込んで、解釈して、消化してから話す。で、K とそのアシスタント 2 名はお互いに言いたいことを言い合ってるという印象を受けます。 (JF1–10)基本的に人の話を聞こうとしない。自分がしゃべり通したいんですから。広東語でやり取りをし ているのを聞くとそんだけ∼長くガッーっとしゃべっているということは、相手はその間何をしているの? 《6. 職務範囲の違い》では、期待していたよりも働かない、頼まれた仕事を完遂しなく ても悪びれないといった内容であるが、これは香港の FJ が職務に対し無責任という事で はなく、粟飯原(2009)、飯田(2007)に詳細な説明があるように職務や責任の範囲に対 する違いに起因する。職務範囲の捉え方が違うために、FJ が善意で手伝っていることを、

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日本語母語話者は当然と考えているとする。そうした誤解のもとではいい関係は生まれな い。《8. 話し方》では、香港の FJ・FF ともに、周りの非日本語母語話者は言いたい事が ある場合、まず相手の意向にかまわず一気に畳み掛けるように話すという指摘がなされて いる。日本語では、話すことに対する配慮が双方で行われる。話し手は聞き手の意向(聞 きたいか)や態度(聞いているか)を確かめながら、また聞き手も聞いていることを相づ ちなどで伝えながら会話が進むのが一般的である。そうした日本語の基準から考えると、 香港的な話し方は自分勝手だと評価されるだろう。しかし香港的な話し方を基準に配慮を 捉え直すと、「言いたい事は相手を気にせず一気に最後まで表現する」ことを許容するの が懐の広い配慮とも言えるのではないか。 相違点《9. 問い合わせ、念押し、催促》《10.報告》《11. お辞儀》 9 問い合わせ、念押し、催促の違い 4 相違点 (JJ1–2)サプライヤーが何度か納期に遅れた事実があったため、部下は自社のバイヤーに対する責任感から 「今度はちゃんと納品してください」という念押しメールを送ってしまった。その結果、先方から上司であ る私宛に「ちゃんと」と言う言葉が不快であるという電話が来た。部下の気持ちも理解できるが、催促の手 段としてこの手のメールを送るとはとんでもないと思うが、部下は私の注意に対し納得できないようであっ た。 《9. 問い合わせ、念押し、催促》では、FJH が問い合わせや催促に必要なクッション言 葉や婉曲、配慮表現を使わなかったり、直接的な「きつい」表現を使ったり、失礼な念押 しを書くことで、FJH の意図しない問題が起きている。JJH に対し、JFH の問題意識がこ こに現れないのは、JFH が日本語による問い合わせや念押しの形式を他言語では使用しな い、使用したとしても情意的な問題が起きないということの他に、JFH 自身が他言語でコ ミュニケーションをとっているために、用件の伝達以外の情意面にはあまり問題センサー が働かないからではないかと思われる。 10 報告:ある程度の期間が必要な企画等の進行過程における報告のあり方 2 相違点 (JJ5–14)なにか仕事をアサインされて、ホンコン的中国的というのは最後の最後まで結果まで報告しない。 で、はい! 出来ました、或いは出来ませんってやっちゃうんですけど、途中で、あれはこうなっています とか中間報告は言われてませんけどやるべきなんですよ。 《10. 報告》では、FJH に比較的長い期間で継続しているプロジェクト等を担当させると、 終わるまで中間報告がないという不満を述べている。《6. 職務範囲》とも関係するが、あ る FJH は「請け負ったものは結果が大事であり、なぜ過程まで報告しなければならない のか」という。しかし JFH からの問題意識が見られないのはなぜだろう。報告という言 語行動の違いによる問題であれば、例えば別な言語を使用した場合にも、FJH はやはり中 間報告をしないと思われる。そうなれば JFH からもこの概念のバリエーションがでても 良さそうだが、今回は得られなかった。このような理由で共通点ではなく相違点のラベル を付けた。 11 お辞儀:意味の相違 2 相違点 (JJ1–3)うちの営業は、一緒に工場に行った時に私と同じようにはお辞儀はしないですね。同等だからよろ しくお願いしますという意味なんですけど。中国人だと違うみたい。 《11. お辞儀》では、JJH から FJH が取引先にお辞儀をしないという内容があげられて いる。中国でのお辞儀には服従のイメージがまつわると聞く。アイデンティティーに関わ る言語行動だとしたら強制は難しい。挨拶儀礼は有標性の高い言語行動であり、JF がお

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辞儀の無い国の言語を使用していればそれに対する意識も無かろう。 その他《12. 期待される言語行動》 12 期待される言語行動:言語行動が一致しない日本語は評価されない 4 その他 (JJ1–6)日本語が堪能であればあるほど、考えも日本人的だと誤解しちゃうんですね。それが大きな落とし 穴で、逆に日本語ができるから、香港的な対応をされると怒ってしまうってお客様がいるんじゃないかなと 思ってしまう。外人は日本語がうまい人のほうがやりにくいかも…なんか期待してしまう。 (JJ4–1)日本人が 1.5 人ブラジルで生まれた日系…日本は大学ぐらいから来られてたんで、日本語は問題な い。母語はポルトガル語。日本人のニュアンスとか通じないと思うんですね。 【対照言語行動】の中で唯一その他のラベルである《12. 期待される言語行動》では、文 法や発音の面では問題のない日本語を話すのに、言語行動が伴わないために、日本語母語 話者を失望させる例が挙げられている。言語がうまいということは、 その言語の母語話者 にとっては当たり前の言語行動を伴い、真意を理解できることを意味する。この概念にも JFHからの意識は見られないが、これは JFH 本人を含めた接触場面の当事者が使用言語 の言語行動にまで期待していないからではないかと思われる。しかし、接触場面における 母語使用者側は、相手の言語能力に正比例し、無意識に自文化の言語行動を期待する。対 外的なビジネス接触場面を期待される上級日本語人材の教育を考える際には、言語行動の 教育は欠かせない内容であろう。 5.2.2 【ビジネススキルと日本語教育の領域】 共通点:2 概念 その他:1 概念 このカテゴリーからは、ビジネス日本語教育に対する JJ と JF の誤解を窺うことがで きる。 共通点《13. 言語以外に求められること》《14. ビジネスマナー》 Ⅱ.ビジネススキルとビジネス日本語教育の領域 29(24.2) 9(16.4%) 13 言語以外に求められること 15 5 共通点 (JJ5–18)出来る奴はコミュニケーション能力というヒューマンスキルの方の能力と、それから問題解決力 をつけましょうねと、せっかく日本語を勉強したんなら日本のマナーとか持っていてもいいんじゃないか、 将来的にどうなるかは別として、出来る奴になることは大事じゃないのか。 (JJ5–35)周りの問題は自分自身も問題の原因の一つと気づいている人。自分の問題として考えることが出 来る。上に必要な姿勢、日本人が好きなタイプ。 (JF2–5)日本人だけかもしれないけど、何かするときプラスアルファーのところまでしようとするじゃない ですか。見えないところまで綺麗にするって、そういう感覚じゃないですか。そういうプラスアルファーで 評価されないとしても、いいほうと悪いほうがあったらいいほうを選ぶじゃないですか。(面倒くさがらず ね、)気を使えるかどうかですね。 (JF4–2)香港で長い間いろんな人と働いてきて、逆に日本人より香港人のほうがロイヤリティーが高い、会 社に対しても人に対しても、ずうっと。という感がありますかな。頼りになるかな。やっぱり面倒見がいい じゃないですか。入ってからある程度たったら。 ビジネス関係者向けマニュアル本のタイトルには「文章・書類術」「整理術」「話し方」 「言葉力」「スピード仕事術」「心理テクニック」「思考術」「プレゼン術」「図解術」「セル フコントロール」「段取り術」「時間管理力」「対話力」「交渉力」「文化能力」等のキーワー ドが見られ、本稿の基礎データでも、「報告」「交渉」「ビジネスマナー」「場を読む」など が問題としてあげられている。筆者にはビジネススキルをはっきりと定義をすることはで きないが、こうしたキーワードに代表される「∼術」「∼力」「∼能力」は実際の仕事(実務) そのものではなく、実務遂行の効率をあげるための技術や要領であり、それらの総称がビ ジネススキルであろうと考えている。そしてビジネス関係者は、ビジネススキルを実務で

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統合的に発動させ、利益をあげることが求められる。日本人に面接調査をしているときに よく「ビジネス日本語教育ではビジネススキルについて教えないのですか」と聞かれる ことがあるように、「ビジネス」と名のつく日本語教育にはどうやらビジネススキルの教 育が期待されているようである。例えば、《13. 言語以外に求められること》の JJ5–18/35 の「問題解決力」や「協調性」JF2–5 の「一歩踏み込んだサービス」、JF4–2 の「ロイヤリ ティー」などにその認識が窺える。他にも「実務能力」「情報収集能力」「やる気」などい わゆるビジネススキルをビジネス日本語教育のコンテンツと誤解し、ビジネス日本語教育 と「できるビジネスマン教育」を混同している傾向が JJH と JFH の双方に見られる。 14 ビジネスマナー:どこまでが言語教育の領域か 11 3 共通点 (JJ5–8)香港の方はこのビジネスマナー、日本的なビジネスマナーって知らない方が山ほどいるんですね。 それで損するなよと、どっかでビジネスマナー的なことを教えていっていただきたいんですよね。特に面接 のときの最低限のマナーですね。そういうところのほうが語学よりも大事じゃないかなってい思うんですけ どね。って言う感じがします。 (JJ5–21)挨拶のこと、よく日系企業の日本人は文句言っています。朝来て挨拶しない人がいると。非常に 多いと香港には。<そうですね:香港人>日本人から見ると、挨拶するって相手をリスペクトする最初のア レなんですけど、相手がここにいるよってアクノウリッジメントを伝える一番簡単な手法で、それで変わっ ちゃうんですけど、挨拶ができない。挨拶は自分からするように是非教えていただきたいんです。 (JF4–4)やっぱりその日のうちに、仕事で入ってくることはそれを読んで返事が分からなくても「明日返事 します」とかが一つの礼儀だった。その癖があるから、気になってしょうがない。見ちゃうわけですよ。こ れに神経やられるのが一番嫌なんですよ。仕事のツールとして、ちゃんと返事を来る人とか、来ない人とか いろいろ出てくるし・・・。みんなそれぞれの使い方があるんですね。全員、仕事の関係者が CC で入って いるのに、一人にしか CC しないとかね。そしたらまた二度手間ですよ。 ビジネス日本語教育がビジネス場面で使用する日本語を学ぶことであるとすれば、当然 ビジネススキルを発揮するための日本語を教育内容とする必要はある。しかし、スキルそ のものをビジネス日本語教育のコンテンツとして、言語の専門家である日本語教師が行う ことがビジネス日本語教育であるとは思えない。例えば、《14. ビジネスマナー》JJ5–21 の 挨拶についてであるが、「朝、『おはようございます』と挨拶をすることは社内の人間関係 を良くする第一歩です。」と教えるのは、ビジネスマナー以前に子供に社会生活のマナー を教える親の仕事であろう。これを言語教育とするには、朝の挨拶という行動が、使用言 語でどのような表現(日本語の場合は「おはようございます」)と身体動作(視線や頭の 角度など)を伴うのかはもとより、朝の挨拶に関する学習者の習慣とどう違うのか、会社 で挨拶をしなかった場合に起こりえる情意的問題は何か、といったことに理解を導き、最 終的には学習者が自分で言語行動を選択できるように補助することがビジネス日本語教育 であろう。 その他《15. ビジネス日本語の領域》 15 ビジネス日本語教育の範疇:それも言語の問題です 3 1 その他 (JJ2–8)ガイドの日本語を日本語では勉強してないですよ。どこで何を言うかは広東語で勉強して知ってい るからそれを日本語に直すだけ。(じゃあ、どんなふうに日本語で話すのかなんて、面接のときにチェック しないの)しないですよ。その人の日本語能力を試すだけ。普通の日常会話だけで。ガイドがどのようなガ イドをするのかはその人の性格なんで、別に、どんなんでも、それぞれスタイルがあるんで。 (JJ5–1)会社にどういうご要望があって、どんな日本語力を求めている。ビジネスで使う日本語って何なん だろうと考えると、まあ、最終的にはどうも言葉じゃないなってすごく思ってます。もっと言えば言語は ツールであって、その上のコミュニケーション、その部分の力というのを、日本人の文句をいっぱい聞いて いると、言葉じゃないですねって。(―中略―)そういうところ(ビジネスマナー、場を読む、挨拶、報告 関連等)のほうが語学よりも大事じゃないかなってい思うんですけどね。 この概念は、前述の共通点とは矛盾するように JJH や JFH が「言語教育」に対し、文法・

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発音・表記といった言語形式に限定されたイメージしか持ち合わせていないことを窺わせ る。例えば、JJ5–1 のように、コミュニケーション能力、挨拶、報告など言語運用や言語 行動といった言語教育の領域であるものをそうではないと誤解している。JJ2–8 では、ガ イドの日本語能力を日常会話だけで判断し、待遇表現に関わる丁寧さの欠如などは「性格」 の問題としている。こうした誤解を解き、教育現場で取り扱うべき内容を明確にすること は、ビジネス日本語教育を語る上での大前提となる。この概念は、接触場面における問題 意識の背景であるビジネス日本語の領域に触れていると判断し、その他とした。 以上、このカテゴリーの考察から、ビジネス日本語教育の領域について JJH、JFH とも に二つの誤解をしていることが窺える。つまり、① JJH や JFH は日本語教育とビジネス 日本語教育を全く別のものとして考えた上で、②ビジネス日本語を日本企業文化における ビジネススキル教育(=「できるビジネスマン教育」)と勘違いしているという二点であ る。この二つの誤解の上に、ビジネス日本語に求められる要望に、語学教師、語学の研究 者がどのように対処すべきなのかは、ビジネス日本語教育の大きな課題である。 5.2.3 【基礎的言語能力】 共通点:1 概念 相違点:4 概念 このカテゴリーに分類された基礎データは全体の 20%と比較的に低く、粟飯原(2009) の結果と同様の傾向を示している。しかし JJH が意識した内容は、言語形式をあまり気に しない JJH であっても意識するものとして、教育内容として取り上げられなければなら ない内容である。このカテゴリーは基礎的日本語能力についての意識なので、FJ と接触 のない JFH からの意識は《16. 報告》以外には見られず、《17. 語彙レベル》《18. 助詞、表記》 《19. 狭義の敬語》《20. 社会言語・パラ言語》のうち四つが相違点となった。 相違点《17. 語彙レベル》《18. 助詞、表記》《19. 狭義の敬語》《20. 社会言語・パラ言語》 17 語彙レベル 6 相違点 (JJ2–11)面白いのが「ですね」と「でしょうね」がこんがらがる。これを同じ意味に捉えてしまうんです よね。うちの会社の子、電話に対応するとき「でしょうね」って。「でしょう」がやわらかい表現とおもって、 それに「ね」をつけてもっとやわらかくなると勘違いしてる。「でしょうね」は半分疑った気持ちで聴いて るわけだから、お客さんに言ったらあかんのやけど、「ですよね」が「でしょうね」になっちゃう。 18 助詞、表記 4 1 相違点 (JJ4–6)例えばメール送るのに、カタカナ、メールの中にカタカナが混じってるけど、結構それを間違えて いて。教えてあげましたね。こういったほうがいいよって。(どんなことを教えてあげたんですか)まあ、 表現だとか助詞、かたかなですね。 (JF2–1)通訳として雇われているという、彼女がベトナムの政府からきた人の通訳をするというか、その日 本語聞いていてやっぱり、結構しゃべれると思うんですけど、やっぱり、外国人の日本語だって分かる感じ で。助詞の使い方が「ん?」とか。 19 狭義の敬語 2 相違点 (JJ7–6)敬語を使おうとしているのは分かる。往々に間違っているが気持ちは分かるので、それでいいんじゃ ないかと思う。注意はしない。 20 社会言語、パラ言語 1 相違点 (JJ5–23)声の音量。あとテンポ。一対一の時には、相手に合わせないと、相手の不快感になるし、早くしゃ べる人に対してゆっくりしゃべるとこっちすっごくいらいらするんですよね。でも、お客様に対しては相手 に合わせるわけですけど、勝手にどんどん、どんどん言っちゃう人って評価が下がると。 相違点の中でもバリエーションが多いのは語彙レベルの間違いに対する意識である。 《17. 語彙レベル》では、「ですね」と「でしょうね」の混乱、部下からの「でしょ」に困 惑する上司、「でも」の多発への不快感、否定疑問文に対する回答、「かしこまりました/ 承知しました/了解です/承りました」の否定形などの例が挙げられている。次に多いの

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が《18. 助詞、表記》で、助詞の間違い、カタカナ表記の間違いが指摘されている。学習 者が最も気にする敬語についてであるが、《19. 狭義の敬語》で敬語の間違いを指摘する声 は 2 件と少ない。JJH が気にするのは敬語文法の間違いではなく《2. 待遇表現》であるこ とは、前述の通りである。 共通点《16. 報告》 《16. 報告》には、バリエーションが 8 件あり、このカテゴリーでは一番多い。JF10–5 では、「ポイントをつかめない=要約力の欠如」という事実について JFH も言及している ので共通点とした。また JJ5–29 にあるように問題の影響が FJH の実務能力判断にまで及 ぶという点を考慮しても、ビジネス日本語教育の内容として、力を入れるべき学習項目で あろう。 16 報告の仕方(要約力や報告の要素 / 構成) 7 1 共通点 (JJ5–29)ビジネス上では、話し長い人は全然だめで、でも多いんですね。コミュンケーションのコストの 高い人って解雇の対象になっちゃうんですね。あいつはうっとうしいと。で要領わかっていないって、どん どん能力の評価さえも下がってしまう。たったコミュニケーション一つとって。ってことになっちゃうので、 それを鍛えなきゃいけない。分かりやすい言葉、サマライズ能力ですね。 (JJ7–8)日本語がうまくてもビジネス向きの話し方ができない人が多いです。報告させると、何が結果で何 が意見で何が結論なのか分からないの。まず結論を言ってから、事実、調べたこと、意見そしてもう一度結 論といった順序で話せる人材が少ないですね。うちは人材派遣会社なので、そうしたことができるかどうか を面接で見ますが、なかなか。そういう教育はコストがかかるので、うちではしませんが、語学教育ではし ないのですか。 (JF10–5)むずかしい単語を使いたがる割に、ポイントをうまく表現できない人もいる。 なお、《16. 報告》では、報告における語彙選択や報告の順序など報告のテクニック的な ことについての基礎データを分類しているが、【対照言語行動】の《10. 報告》では、報告 自体がいつ行われるのかなど、報告という言語行動の意味の違いなどを取り扱っている。 5.2.4 【日本語能力の判定基準】 その他:2 概念 Ⅳ.日本語能力の判定基準 17(14.2%) 0(0%) 21 日本語能力:社外対応可 8 その他 (JJ5–2)この表でレベル 4 というのは、え∼セールスのかたで、お客様と日本語でやり取りしなければなら ないときにレベルの 4 と。4 はお客様と日本語で会話ないしメール等で仕事が出来る。お客様の頭の中では、 こういう風に定義されているのではなく、日本語能力試験一級、2 級とかですね。1 級レベルを機械的に言 うと 4 なんですね。 22 日本語能力:社内用 9 その他 (JJ5–2)この表で多くの日系企業が言ってくるのは 3 レベルで、簡単に言うと 3 というのは、社内で日本語 を使う仕事、対お客様ではなくて。こんな風に言っています。で、大体の企業は、香港にある企業はです ね、日本語が必要となると、社内でボスが日本語以外できないから、代わりにお話して欲しいと、含めて社 内のための日本語能力と言うこと、あるいは、日本とのやり取りの中で、どうしても日本側が語がしゃべれ ないので、日本語で出来たほうがいいや、まあ経理の一部ですね、そういうところで必要となる、あるいは セールスコーディネーターの方々で直接日本人との会話はあまりないけど、ボスと日本語でやれるようなと いうところでレベル 3 ということです。機械的に言うと 2 級レベルが 3 です。(JJ5–2) 香港の日本語人材市場は、社内用・対外用で二分化され、その評定基準である日本語能 力についての意識が述べられている。《21. 日本語能力:社外対応可》と《22. 日本語能力: 社内用》からは、日本語人材の線引きは外に出せるかどうかを基準に行われ、一応の目安 として旧日本語能力試験 1 級か 2 級かを具体的な線引きの目安にしているが、インターア クション上の理解力と産出力を、最終的能力判定の材料としていることが窺える。しかし、 何を理解でき、何を産出できたら社外対応可であると判断されるのかは、ここからは読み 取れないが、カテゴリーⅠの【対照言語行動】の各概念に現れている問題意識を解決でき

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るような日本語能力が社外対応可であり、情意的な内容を理解・伝達することはできない が、比較的単純なタスクを達成できる日本語能力が社内用であろう。 さて、筆者は当初《21. 日本語能力:社外対応可》《22. 日本語能力:社内用》には、 JFHからの意識が見られないので、相違点を付けようと考えていた。にもかかわらず最終 的にその他のラベルを選んだ経緯を説明したい。説明が後先になるが、カテゴリーⅤ【ビ ジネス接触場面の背景 1】の《25. 外国人の日本語》JF2–1 では外国人の話す日本語に対す る JFH の意識が述べられている。「イベントにおける通訳の日本語はうまいのだけど、助 詞などの間違いや表現におかしなところがあり、社外では使いたくない」というものだ。 相手の意図を理解しなければならないという行為(コミュニケーション)は、一種のスト レスである。ビジネス接触場面では、それに「仕事」という要素も加わりストレスの度合 いは高まる。こうしたビジネス接触場面に言語上の問題があれば、さらにストレスが高ま る。特に訛や中間言語が多い「外国人が話す自分の母語」に対応する術を持たない単一言 語話者にとっては、その度合いはより強まるだろう。もし、自社の取引先にそうした日本 人が多い場合は、ビジネスにマイナスとなるストレスは客に与えたくない。筆者は、こう した「配慮」から JF2–1 のような「ビジネスでは使いたくない」という意識が発生してい るのではないかと考えた。つまりここから、JFH は、普段日本語以外で仕事をしていても、 こうした「相手(顧客)に対する配慮」という日本的な配慮のあり方を「(対外的)ビジ ネス接触場面で使える言語能力」の判定基準の拠り所としていることが窺える。そして カテゴリーⅣ【日本語能力の判定基準】特に《21. 日本語能力:社外対応可》は、同じ拠 り所の上に設けられた判定基準ではないかと推測した。このような観点から、《21. 日本語 能力:社外対応可》《22. 日本語能力:社内用》と《25. 外国人の日本語》は深い関連があ ると判断し相違点ではないと判断した。また共に、対外的ビジネス接触場面を期待される JFHの判定基準というビジネス接触場面の背景について述べているのでその他とした。 5.2.5 【ビジネス接触場面の背景 1(当事者)】 その他:3 概念 接触場面の当事者は、異文化 / 外国人に対してどのような考えを背景にビジネス接触場 面に対峙しているのだろうか。このカテゴリーには三つの概念が分類されている。 24 第三言語使用の功罪(丁寧さや配慮表現の欠如の要因?) 7 その他 (JF1–3)あの香港人が使う英語だからだと思うんですけど、割りに物事をストレートに言ったりとか、あと まあ、業界的に 1 分 1 秒を争うので、文章がすごい短いんですよ。だから「No !」だけで返ってきたりと か「too late」とか「too Expencive」 とか。最初のころはちょっと落ち込みました。英語でもきついですね。 きつい物言いを、人生の中でされたことがなかった。英語ネイティブじゃないから仕方がない部分はもちろ んあるんですけど、それにしてもこれはないだろうって。 (JF7–3)香港人も日本人も母語でない英語で会話すると、お互いきつくなる傾向が感じられる。 (JF10–6)一般的に香港人は日本人より英語を話すが、うまくないのに自分の英語が正しいと信じてる。 英語も北京語も香港人に分かるように変えていかないと通じないので、英語圏と言われているのに英語が下 手になる。中国なのに北京語も下手になる。 《24. 第三言語使用の功罪》この概念のバリエーションをみると JFH からだけで、ここ では 北京語や英語の母語話者とコミュニケーションをとってきた JFH が、第三言語で実 務をこなしている FFH の北京語や英語について評価している。香港の多くの企業では長 年、母語ではない英語を公用語として使い、一般的に FFH は英語に自信がある。しかし JFHは英語母語話者の英語に比べ、FFH の英語は待遇表現上の問題があること(JF1–3)

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や、第三言語を使用していると情意面を表す表現に疎くなる傾向(JF7–3)などに気がつ いている。接触場面の使用言語が当事者のどちらかの母語である場合、母語使用者は言語 が表す詳細に目がいく。しかし、使用言語がどちらの母語でもない場合には、お互いがモ ダリティー等の詳細を操ることができないことが多いと仮定すれば、ビジネス・コミュニ ケーションにおいて優先されることは、実務をこなすことになる。コミュニケーション における伝達内容には、情緒的内容と知的理解を目的とした内容の二つの要素があった が、第三言語を使用していると、そのうちの情緒的内容を表現する配慮表現などは省略・ 削除されても気にならなくなってくるのではないだろうか。この概念には JJH の意識が ないにも関わらず相違点ではなくその他となっている。カテゴリーⅠの【対照言語行動】 の《2. 待遇表現》で触れたように、実は《2. 待遇表現》も《24. 第三言語使用の功罪》も 共に使用言語は異なっても接触場面で意識した待遇表現にまつわる問題である。そういう 観点で、《2. 待遇表現》では JFH からのバリエーションが見られないが、《24. 第三言語使 用の功罪》のバリエーションも《2. 待遇表現》の JFH のバリエーションも「接触場面で 意識した待遇表現にまつわる問題事例」と考え、《2. 待遇表現》には共通点を付けた。そ こで同様に考えれば、《24. 第三言語使用の功罪》も共通点になるはずである。しかしその 他を付けたのはなぜか。《24. 第三言語使用の功罪》のバリエーションは待遇表現に対する 問題だけではなく、そこから「FFH の英語に待遇表現上の問題を感じるのが JFH だけだ としたら、それは日本語の待遇表現が問題センサーとして働いているからではないかと推 測できる。しかし英語母語話者も FFH の英語に問題を感じていることから、FFH の母語 の待遇表現に関わる問題ではないのだろうか。第三言語を長期にわたり使用してきたため FFHの母語自体から情緒的内容を伝える表現に対する意識が弱くなったためではないか」 という《2. 待遇表現》からは展開できなかった考察が得られたからである。 25 外国人の日本語:下手なら聞きたくない 2 その他 (JF2–1)彼女の日本語レベルも結構上だと思うんですけど、通訳として雇われているという、彼女がベトナ ムの政府からきた人の通訳をするというか、その日本語聞いていてやっぱり、結構しゃべれると思うんです けど、やっぱり外国人の日本語だって分かる感じで。やっぱり(聞いてて分かる?)ん、分かるけど、でも それビジネスで使ったら日本人なら聞いていて嫌だと思う。でもビジネスでは使いたくないなと。日本人の お客さんって、適当な日本語聞くぐらいなら、もうなんかもういいですみたいな、そういうところあるじゃ ないですか。 《25. 外国人の日本語》では、「取引先の日本語母語話者は外国人の話す下手な日本語は 仕事では聞きたくない」という内容を JFH が揶揄している。この概念でも「相手(顧客) に対する配慮」を「ビジネスで使える」日本語能力を評定するときの拠り所としており、 5.2.4 のカテゴリーⅣ【日本語能力の評定基準】で説明を加えたように、《21. 日本語能力: 社外対応可》《22. 日本語能力:社内用》の評定基準の拠り所と同じであると考えている。 筆者の興味を惹くのは、他言語習得の苦労をわかっている JFH からこうした意見(単 一言語使用者 A が非母語話者の話す A の母語に対する寛容度が「ソト」の人物に対して は厳しいことを揶揄している)がでることである。仕事で日本語を話す外国人の受け入れ を真剣に考えるならば、FJ に完璧な日本語を求めるばかりではなく、外国人の日本語を 理解する心づもりと能力が必要であろう。こうした問題は、様々なところで使われ、もは “Englishes”と呼ばれるようになっている英語の変容の研究を参考にして考えていく必要 があるだろう。

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23 異文化接触の衝撃:外国語使用/長期海外滞在の影響 3 2 その他 (JJ4–10)(「ですから」と言うべきところを「だから」といったということを問題視していらっしゃった方 もいますが)まあ、私はあんまり日本人らしくないのかもしれませんけど、そういうところはのみこんでま すんで。 (JF3–10)私はね、もう中国も長いし、慣れてしまってるから、あまりそうそこまでは思ってないけど、で もそういう風に思っていることは大切かなって、その人にそういわれてそう思ったり…こういう前から人が 歩いてきたらどけたほうがいいよとかね、なんかさあ、そういうマナーの悪い人にはさあ、注意したほうが、 してあげたほうがいいのかなとかほんとは思うけど 《23. 異文化衝突の衝撃》では、JJH、JFH ともに海外滞在期間が長くなると、言語やマ ナーの違いに対する寛容度が高くなり、問題に対する指摘が行われなくなる傾向が述べら れている。この状態が長期にわたると、《24. 第三言語の功罪》に見られるような待遇表現 やモダリティーの欠落の恒常化に至るのではないだろうか。 以上、このカテゴリーの概念《24. 第三言語使用の功罪》、《25. 外国人の日本語》の特 徴として、JFH の問題意識が多く、JJH の意識はないことがあげられる。これだけから判 断すると相違点になるのではと思われるが、他の概念に目をやると、JJH からのバリエー ションしかない《2. 待遇表現》や《21. 日本語能力:社外対応可》との関連性が高いこと が分かった。つまり、一見 JF からの意識ばかりで、JJ からの意識がないという理由だけ では、日本語教育の内容とは関係が薄いと判断することはできないということを示唆す る。また「JJ の意識だけが現れている概念」と関連性が高い「JF だけの意識が現れてい る概念」は、接触場面で意識する問題から日本語という変数要因を除いたときに現れる 「JJ の意識の変容後の姿」でもあると推測される。それは日本語という変数要因がある時 よりも、日本語母語話者の意識をより概念的に伝えているというメタメッセージ性が高い と考えられる。この点については、5.3 でもう一度詳しく述べる。 5.2.6 【ビジネス接触場面の背景 2(日本関連)】 その他:4 概念 このカテゴリーは「日本 / 日本企業 / 日本人」に関する意識である。各概念ともに JJH、JFH からのバリエーションが見られるが、接触場面で発生した問題ではなく、その 背景であるのでその他とした。 26 海外から見た日本的企業の問題点 3 9 その他 (JJ5–12)逆に言うと GM クラスにも GM の仕事をさせていないから視野が狭いんですよ。日系企業のポイ ントは、任せていないんですよ。課長の仕事、評価までさせていないんですよ。評価まで自分でやってしま うんですよ。そういうところで日本側が問題点でもある。他の会社に言って通用しない人がいっぱい育って しまっちゃってるのが日系企業。日系企業で、優秀な管理者は育っていないんですね。だから大学生を送り 込むのに危機感があるんですね。、形として日本的な仕組みを持って来すぎて権限委譲してない企業は人が 育ちにくいですね。グローバルマネージメントがやはりしっかりしてないんで、権限委譲を行うかどうかで、 中途半端に権限委譲をするかしないかで、日本本社が OK をだせなかったりして、現場も諦める、そして 3、 4 年たったら帰って来る。で、問題が残っていくケースが非常に多い。 (JF1–2)日系企業って、サボる人の温床になるときもありますよね。マネージメントとか役職とかはみんな 駐在の日本人がなる、だからそこそこでいいわけです。そこそこお給料をもらえて、自分はそんなに上に上 にっていう上昇志向がなければ、日本ってそんなに意味のない首切りとかないし、日系企業は楽かなと。上 にはいけないけど、上に行くと責任もついてくるし、うちみみたいに日系で物流ですと 24 時間体制で仕事 になっちゃう。でもそれはないし…。お給料は、同じ仕事だと日系のほうが高いともいます。上に立ちたが る人は、日系に向かない。だから絶対どんなにがんばっても、職員、いつか帰る人なのに、絶対その上に立 てないし、日本の本社に転勤させられるってわけでもない。だから日系は(やる気のある人には)嫌がられ ると思う。 《26. 海外からみた日系企業の問題点》には、JFH が働く現場に対し抱く問題意識が多い。

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