解説 Review
大学生・留学生を対象とした自転車利用の 遵守意識に関する意識調査
寺 内 義 典*
Consciousness of Obeying the Bicycle Regulations among University and Foreign Students
Yoshinori Terauchi
*Key words: 交通安全教育Traffic safety education, 意識調査Awareness survey
1.はじ めに
警察庁による平成24年交通事故統計によれば,交通 事故件数13万2,048件に占める自転車事故件数の割合は 2割程度で推移している。なかでも若年層の自転車事故 についてみると,全死傷者の約4割が24歳以下となって いる。人口千人あたり死傷者数を年齢層で見ると,16 歳から24歳で2.64人と最も高い。一方で自転車による 加害事故件数も2万2,227件(平成23年)に上り,自転 車事故件数の約15%を占める。こうした統計を見ると,
若者の自転車運転は社会問題化しており,その交通安全 対策は急務である。
大学生は,心身の成長の途上にあり,成人と同様に発 達した身体能力に対し行動原理が未熟な若者に属する者 がほとんどである。他者に及ぼす危険性について自覚に 欠けた自転車の運転を行う者もいるだろう。また,自転 車利用ルールに対する遵守意識が未熟な者もいると想像 する。こうした若者への自転車交通安全を考える上で交 通安全教育がひとつの対策として考えられるが,小学生 と比べ高校生や大学生への教育機会は少ない
1)。そもそ も大学生を含む若者の自転車利用が社会問題となる一方 で,駐輪対策たとえば
2)や走行空間整備との組み合わせ たとえば
3)など,多くの取り組みがなされてきたもの の,その自転車の利用実態と遵守意識そのものについて は相原
4)による高校生の意識調査などがある程度であ る。大学生については警視庁調査
5)等で調査対象の一部 となっているが,十分に明らかになっていない。さら に,平成25年の現在で200万人を超える在日外国人(法 務省入国管理局調べ)については,藩ら
6)による限定的
な調査があるのみで,自転車のルール認知と遵守意識,
交通安全教育の実態について,まったく明らかになって いない。
そこで本研究は,大学生及び外国人留学生を対象とし た自転車意識調査を実施し,警視庁が実施した一般人対 象の調査と大学生調査との比較および大学生調査と留学 生調査との比較を通じて,その自転車利用と自転車安全 意識を明らかにする。
2.調査 方 法
まず,国士舘大学理工学部の学生を対象としたアンケ ート調査を実施する。このアンケートは,自転車の交通 安全教育に関する設問と,自転車の遵守意識に関する設 問から構成されている。まず,交通安全教育の受けた回 数・時期・内容・印象に残ったものなど,交通安全教育 経験の実態と意識を明らかにする。次に遵守意識の現状 を明らかにする。
次に,在日留学生を対象としたアンケート調査を実施 する。アンケート調査は,理工学部学生の設問と同じく 自転車の利用状況,遵守意識,交通安全教育に関する設 問である。ただし,在留期間などの設問を追加した。こ れらについて集計し,遵守意識については一般人と大学 生の比較と大学生と留学生の比較から,大学生と留学生 についての傾向を示す。
最後に交通安全教育に関する集計結果もふまえて,大 学生と留学生を対象とした交通安全教育のあり方につい
* 国士舘大学理工学部理工学科
Kokushikan University, School of Science & Engineering
表 1−1 交通安全教育の実施校数(H23・東京都)
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て検討する。
3.大学生の自転車意識調査 3. 1 アンケート票の作成
アンケートは,個人属性,自転車安全教育の経験,安 全教育に対する意識,ルール遵守意識の4点について問 うものとした。今回の対象者が特定の大学・学部の学生 に偏るため,一般的な大学生と比較をするために,警視 庁が実施した一般市民向けのアンケート
1)と同じ設問と している。
作成したアンケートの項目は,以下の通りである。
①個人属性
(年齢/性別/留学生/免許保有 他)
②自転車安全教育の経験 (回数/年齢/内容/方法)
③自転車安全教育に対する意識 (対象者/希望する方法 他)
④遵守意識
(走行行為13問/駐輪行為2問)
3. 2 アンケートの実施概要
各学系・学年の必修科目を中心とした授業を対象とし て,担当教員の許可をいただき,授業時間内でアンケー
トの説明と配布回収を行った。698枚の回収を得たが,
同じ番号の回答が連続したもの等は無効回答とし,有効 回答数624枚を得た。回答者の学系・学年について表
3-1に,個人属性別の集計結果を表 3-2に示す。なお,
留学生等の海外出身者30名については,ひとつの属性 とし,それ以外の者は東京・神奈川・埼玉・千葉とその 他の5地域に分類した。
実施概要は以下の通りである。
調査期間:平成24年9月29日〜10月29日 対 象 者:国士舘大学理工学部学生
回 収 率:回収数 698人,有効回収数 624人
3. 3 アンケート結果
(1) 自転車の利用状況
対象者の自転車利用頻度を図 3-1 に示す。半数近くが 毎日の利用と回答するなど,日常的な自転車利用者がほ とんどである。自転車の利用目的における通学の割合は 3割程度にとどまる。利用場所をみると,東京都在住者 における大学周辺の割合は約45%程度だが,他県在住 者はほとんどが自宅周辺である。学生の自転車利用が,
大学から認知されにくい状況にある。
(2) 交通安全教育の経験と意識
交通安全教育の経験について図 3-2 に示す。全体では
「1回」「2〜4回」「5回以上」が全体の7割を占めるも
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表 3−1 アンケート回答者の学系・学年
表 3−2 アンケート回答者の個人属性
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図 3−1 自転車利用状況
図 3−2 交通安全教室の受講回数
のの,「0回」を選択した人が30%に達した。地域別に みると「神奈川」「千葉」で「0回」の割合が高く50%
に近い。留学生は多くが交通安全教育の経験がある。内 容や時期についても,地域により違いがみられた。県境 を越え広い地域から学生が通学する大学では,交通安全 教育の経験の個人差が大きくなると言える。
交通安全教室の内容別に受講経験のあるものと印象の つよいものについて回答率を図 3 に示す。「実技」は受 講経験も多く印象に残っている割合も高い。「スタント マンによる実演」は,受講経験は少ないが印象に残る人 が多く,普及が望まれる。一方で,講義は受講経験が多 いが印象に残る人が少ない。
今後の受講の希望については,「受けたい」「どちらか といえば受けたい」をあわせても30%を超える程度で,
特に1年生は20%台である。入学後は教育のひとつの契 機であるだけに,懸念が残る。また受講希望時間は70
%以上が30分以下を希望しており,短時間で効果の上 がる内容の検討が求められる。
(3) 遵守意識
遵守意識の設問は,それぞれの違反行為について,行 ってしまった頻度を問うものとなっている。設問を表
3-3に,結果を図 3-4 に示す。「全くない」と「ほとんど ない」の2項目に該当する者をおおむね遵守していると みなし,その割合(以後,遵守率とする)で設問を並べ ている。駐輪に関するものや,ベル,二人乗り,夜間転 倒に関するものは遵守率が低い。若者の特有の問題とし てあげられることの多い「⑥携帯使用」も高い。一方 で,標識でルールが明示される「②歩道通行」「⑫一時 不停止」「③一通逆走」や,広く呼びかけられている「① 右側通行」について,遵守率が高い。
警視庁による一般大学生の調査
1)と遵守率を比較した ものを図 3-5 に示す。国士舘大学生と一般大学生につい て,χ
2検定により,1%有意で差があるものに**を付記 した。これによると「⑬飲酒運転」と「⑩二人乗り」以 外のほとんどの項目で,国士舘大学生と一般大学生に差 があるとは言えない結果となった。
表 3−3 遵守意識の設問 ၥ タ 䛧
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図 3−3 交通安全教室の受講回数
図 3−4 遵守意識
4.留学生の自転車利用・安全意識調査 4. 1 調査概要
外国人留学生を対象として,自転車利用の実態と遵守 意識を調査する。調査対象は,比較的自転車利用者が多 いと考えられる東京として,そこに所在地を持つ玉川国 際学院(日本語学校)ならびに国士舘大学(世田谷キャ ンパス・町田キャンパス)とした。実施概要は以下の通 りである。調査は,各学校にお願いし,学内で実施し た。各学校別の配布回収数と有効回答の数を表 4-1 に示 す。
調査期間:平成25年4月1日(月)〜4月19日(金)
対 象 者:東京都在住また東京都に通学する留学生 回 収 率:回収数 450人,有効回収数 394人
4. 2 アンケート結果
(1) 自転車の利用状況と安全教育受講経験
自転車の利用について聞いたところ,「利用する」と 答えたものは210人,全体の53%と約半数の学生が利用 していることがわかった。在留期間が長くなるにつれ て,自転車の利用率・利用頻度がやや高まる傾向が見ら れる。
一方で,交通安全教育の経験については,母国で受講 したことがあるものは4割にとどまり,日本での受講経 験者はわずか2割にすぎない。
(2) 交通ルールの認識
留学生については,そもそも交通安全教育を受けてい ない者が多いと考えられることから,自転車の交通ルー
ルについての自己認識と小テストを実施した。まず認識 の程度については,在留期間が長くなるにつれて,全体 の8割が一定な認識を持っていると回答した。図 4-3 に その結果を示す。情報の入手先としては人からの伝え聞 きが多く,正しい情報を入手できていない者が多いと想 定される。
図 4-4にその結果を示す。こうしたことから,
伝え聞きや実際の路上における自転車利用者のふるまい から,経験的に自転車のルールを習得しているだけの者 が多いと想像される。
(3) 交通安全教育への参加希望
交通安全教育への参加希望を問うた結果を図 4-6 に示 す。「受けたい」と「どちらかというと受けたい」をあ わせて5割以上を占めた。特に在留期間が短い「1年未
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図 4−1 自転車の利用状況
図 4−2 交通安全教育の経験 䜋䛸䜣 䛹ẖ᪥
100ே 25.4%
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ᮍ⤒㦂
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図 4−3 在留期間別のルール認知状況 図 3−5 国士舘大学生と一般大学生の比較
満」と「2年未満」が参加希望者の6割を占め,参加意 志が強い。受けたい理由の一位は「自身安全のため」,
受けたくない理由の一位は「自転車を利用しないため」
である。また一部の参加理由は「日本の文化を知りた い」,「知っておいて損がない」となっている。受講希望 時間は9割以上が30分以内を希望しており,参加場所は 日本語学校を含め,学校に集中している。
交通安全教育の内容については,留学生も講義形式が 多い。また講義形式は,印象に残る回答者の割合は少な く,スタントマンによる実演のような経験を通じた内容
は,強く印象が残る。ただ,日本の大学生と比べ,経験 者が少ないことが問題である。来日後,早い時期で交通 安全教育の実施が有効であろうと考える。内容は経験を 通じたものだが,日本語学校等を想定しある程度の人数 が同時に受講できるものにしていく必要がある。
(4) 遵守意識
15のルールについて遵守率を問うた。図 4-7 にその結 果を示す。「まったくない」と「ほとんどない」の回答
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図 4−4 留学生の情報の入手先
図 4−6 留学生の交通安全教育への参加希望
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16.9%
11.9%
14.7%
62 7
6 63 66.
56.5
0% 20% 40%
2.4%
64.6%
6.5%
61.5%
61.2%
50.0%
3.9%
7%
5%
16.7%
7.7%
8.8%
10.3%
14.9%
13.6%
16.9%
16.7%
25.9%
% 60% 80% 1 2.3%
0.0%
1.5%
2.6%
1.5%
4.5%
2.4%
4.8%
2.9%
100%
図 4−5 情報の入手先別でのルール認知
䛹䛱䜙 䛛䛸䛔䛖
䛸ཷ䛡 䛯䛟䛺䛔
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䛹䛱䜙 䛛䛸䛔䛖
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77 52
70 90
98 79
116 112 105 101
135 15
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59
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図 4−7 留学生の遵守率
図 4−8 国士舘大学生と留学生の遵守意識の比較
を遵守意識が高いものとし,遵守率を求めた。飲酒運 転・二人乗り・信号無視の禁止等について,高い遵守率 が見られる。一方で,社会問題となっている対歩行者の 保護に関する「(歩道通行可の)標識の認識」や「(歩道 上の歩行者に対する)ジグザグ運転」などが低い遵守率 となっている。
4. 3 国士舘大学生との比較結果
遵守意識について比較すると,留学生の遵守率は国士 舘大学生より高くなっている。留学生は特殊な立場に立 っているため,飲酒運転や灯火のルールを守る傾向があ ると見られる。また,全般にバイアスがあることも否定 できない。歩道通行や右側通行,歩行者非優先などの項 目は,周知が難しく,日本人の遵守率も低いため,留学 生に対して重点をおいて教育が必要であろう。
5.おわり に
国士舘大学生及び在日外国人留学生を対象として,自 転車の交通安全教育と遵守意識のアンケートを実施し た。その結果,国士舘大学の学生の自転車利用実態は大 学側から見えにくく,捉えにくいものであるが,一方で 遵守率は必ずしも高いとは言えない。若者らしい行動も 見られることがうかがえる。
さらに留学生では,日本人の学生と遵守意識は大きく 異なっている。留学生の回答には,その立場上から正常 化バイアスのかかった結果になっていると考えられる が,一方で広く周知している左側通行等の遵守率で問題 がある。このようなことから,特に留学生を対象とした 来日後早期での交通安全教育の必要性が示された。また 交通安全教育の方法としては,体験型のものがよいと言
える。スケアードストレートだけでなく,さまざまな体 験型の教育プログラムの開発が必要であろう。
謝辞:国士舘大学理工学部ならびに玉川国際学園におい
て,多大なる調査協力をいただいた。また,警視庁より 自転車総合対策推進検討委員会の情報をいただくことが できた。ここに記して感謝を申し上げる。
参 考 文 献
1)自転車総合対策推進検討委員会:みんなで学び,みんなで 守る〜自転車利用のルール遵守とマナー向上のための提言
〜, 警視庁, p.7, 2012.
2)村上ひとみ, 喜多村俊朗:自転車レーン整備に向けた課題 整理と左側通行遵守の意識啓発手法:山口県宇部市での取 り組み, 日本建築学会中国支部研究報告集, 35, pp.769- 772, 2012.
3)羽鳥 剛史, 福田 大輔, 三木谷 智:モノに関する記憶の想 起が愛着意識に及ぼす影響:自転車に対する愛着意識と放 置駐輪問題を対象として, 科学・技術研究, 1(2), pp.107- 114, 2012.
4)相原 良孝:高校生の自転車交通マナー意識の把握と安全 教育ソフトの検討について, 交通工学研究発表会論文報告 集, 26, pp.105-108, 2006.
5)自転車総合対策推進検討委員会:みんなで学び,みんなで 守る〜自転車利用のルール遵守とマナー向上のための提言
〜 別冊資料, 警視庁, 2012.
6)池上 徹, 松田 文子, 岸田 孝弥, 肝付 邦憲:自転車利用者 の意識と行動特性(その1):大学生の事故事例をもとにし て, 日本人間工学会大会講演集, 39, pp.400-401, 1998.
7)潘 哲, 山中 英生:自転車への態度と道路環境が将来利用 意向に与える影響─日本・中国・フランス・韓国の大学生 意識分析をもとに, 交通科学, 40(2), pp.55-62, 2009.
8)自転車総合対策推進検討委員会:みんなで学び,みんなで 守る〜自転車利用のルール遵守とマナーの向上のための提 言〜, 警視庁, 2012.