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自動車から自転車への利用転換可能性 に関する基礎分析

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Academic year: 2022

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1

自動車から自転車への利用転換可能性 に関する基礎分析

橋本 雄太 1 ・小林 寛 2 ・山本 彰 1 ・上坂 克巳 2

1非会員 国土交通省 国土技術政策総合研究所 道路研究室(〒305-0804 茨城県つくば市旭1番地)

E-mail:hashimoto-y924b@nilim.go.jp

2正会員 国土交通省 国土技術政策総合研究所 道路研究室(〒305-0804 茨城県つくば市旭1番地)

E-mail:kobayashi-h92qs@nilim.go.jp

クリーンかつエネルギー効率の高い持続可能な都市内交通体系の実現にあたり,自転車は有効な交通手 段の一つである.特に,自動車から自転車への利用転換を図ることは重要な視点と捉え,その転換施策推 進にあたっては,交通利用実態を把握することが必要であると考える.

そこで本稿では,既存の統計資料情報を基に全国の市町村を対象とし,各交通利用モードの交通分担率 特性の分析および自動車から自転車への利用転換が期待される領域に関する分析を行った.その結果,自 動車および自転車の交通分担率の都市規模による特性の違いを明確化するとともに,各交通利用モード間 における交通分担率の関係性を示した.また,現状利用されている自動車トリップのうち,自転車への利 用転換が期待できる割合を示し,その十分な転換余地を見出した.

Key Words : bicycle, share of trips by traffic modes, conversion of transportation

1. はじめに

近年の地球環境問題やエネルギー問題から,クリーン かつエネルギー効率の高い持続可能な都市内交通体系の 実現が必要となっている.そのなかで,自転車はガソリ ンなどの化石燃料を必要としない乗り物で,かつ移動す るために必要なエネルギーが他の乗り物に比べ格段に優 れており,クリーンかつエネルギー効率が高く,環境に 優しい交通手段といえる.

一方,自転車利用においては,通勤通学や生活交通以 外にも利用の幅が広がってきている.例えば,健康増進 を目的とした自転車利用の増加のほかにも,「チャリガ ール」なる自転車愛好女性の出現,女性向け自転車雑誌 の発行や地方自治体が市民向けパンフレットとして自転 車の楽しみ方を紹介するなど,自転車利用の目的やイメ ージが変化してきている.また,スポーツタイプの自転 車や電動アシスト付の自転車の販売台数の伸びが一般の 自転車と比較しても顕著であり,自転車利用スタイルに 多様化がみられる.さらには,東日本大震災時での自転 車の活躍や,昨今の節電意識の高まりによる自転車利用 者の増加など,これまでとは違った自転車利用意識が芽 生えてきている.

以上を踏まえると,自転車は今後とも重要かつ可能性

を有している交通手段であり,特に自動車から自転車へ の利用転換については環境負荷の軽減やエネルギー改善 に資するところが大きく,その取組が求められている.

そこで本稿では,国勢調査や道路交通センサスなど既 往の統計資料情報に基づいた交通実態について分析を行 うことにより,自動車から自転車への利用転換に関する 潜在的な可能性を示す.具体的には,自動車,自転車,

公共交通など都市の人口規模等による交通分担率分析を 行い,それぞれの交通利用モード間の相関性について考 察する.また,自転車が有利となる距離帯における自動 車利用の実態について分析することにより,自転車への 利用転換が期待できる領域を示す.

2. 分析の着眼点と分析方法

(1) 分析の着眼点

自転車の利用距離については,5km未満の移動が自転 車利用全体の95%以上を占める1)といわれている.また,

図-1のように,5km程度以下の短距離移動が,自転車に とって有利となることを示している.これらを踏まえ,

自転車への利用転換が期待される移動距離として5km未 満を設定する.

(2)

2 (2) 分析方法

a) 交通分担率特性の分析

各交通利用モードの交通分担率特性の分析について,

平成2年および平成12年国勢調査を用いて比較を行った.

なお,国勢調査では,通勤・通学時における交通分担率 について調査を行っている.また,市町村およびその人 口については,平成12年国勢調査のデータを使用した.

交通利用モードの分類については,国勢調査における利 用交通手段(31区分)を,自動車,鉄道・バス,自転車,

鉄道・バスwith自転車(公共交通機関の端末交通として の自転車利用),オートバイ,徒歩,その他の7区分に 分類した上で,市町村別に集計した.次に,都市特性別 の交通分担率特性を示すため,市町村を人口別・人口密 度別に区分し,その区分ごとに分類した交通分担率の集 計を行った.

b)

自転車への利用転換が期待される自動車トリップの 分析

分析にあたっては,平成17年度道路交通センサスにお ける自動車起終点調査(OD調査)を用いた.また,市 町村およびその人口については,平成17年度道路交通セ ンサスとの整合を図るため,調査時期の近い平成17年国 勢調査のデータを使用した.自転車への利用転換が期待 される領域を分析するにあたり,自動車トリップの目的 を考慮する際には,自動車の所有形態について転換の可 能性の薄い商業車やタクシーを除いた「自家用(個人使 用)」に限定し,分析を行った.

以上を踏まえ,市町村の人口規模別に自転車への転換 が期待される自動車トリップの集計を行った.

3. 各交通利用モードの交通分担率特性

(1) 都市規模別の交通分担率特性

図-2に,通勤・通学時における自動車の分担率を,都 市人口別に区分し集計した結果を示す.これによると,

人口が少ない都市ほど,自動車の分担率は高く,かつ増 加傾向も顕著であることが分かる.また,この区分によ ると,東京23区のみ自動車の分担率が減少している.次 に,図-3に,自転車の分担率について集計した結果を示 す.自転車分担率については,人口10万人以上の都市に おいては,都市規模にかかわらず概ね15~20%とほぼ同 じシェアを占めている.一方で,都市の人口規模が大き くなるほど自転車分担率は増加傾向にあり,人口10万人 程度が昨今の自転車利用の盛衰の境界であると考えられ る.

図-4および図-5は,自動車および自転車の分担率につ いて,都市の人口密度別に区分し集計した結果である.

自動車分担率においては都市人口別の場合と同様に,人 口密度が小さくなるほど自動車分担率およびその増加も 大きくなる.一方,自転車では,人口密度が高くなるほ ど分担率も高く,かつ増加傾向も顕著となることが分か った.人口別に区分した場合ではみられなかった傾向が,

人口密度別に区分することでみられたことから,自転車

0 10 20 30 40 50

60 徒歩 バス

自動車

鉄道

自転車の所要時間が 最も短い距離帯

所要時間(

0 5 10 15

移動距離(km)

自転車

徒 歩 :4.8km/h 自転車 :入出庫4分+ 15km/h 自動車 :入出庫7分+ 17.5km/h 鉄 道 :17分+ 32km/h バ ス :10分+ 14km/h 徒歩12分(発着地計)

徒歩6分(発着地計) 駅内移動3分(1駅)

待ち時間4分 待ち時間2分(1駅)

MATT関東圏時刻表 2002年11月:八峰出版、

東京都交通局ホームページ (http://www.kotsu.metro.tokyo.jp)

平成7年 大都市交通センサス :財団法人運輸経済研究センター、

平成11年 道路交通センサス:建設省道路局、

自転車駐車場整備マニュアル :建設省都市局 監修、

自転車歩行者通行空間としての自歩道等のサービス水準に関する分析、

土木計画学研究・講演集 No.22(2) 1999.10 を基に分析

-1 都市内交通手段の移動時間の特徴

2)

‐4.0%

‐2.0%

0.0%

2.0%

4.0%

6.0%

8.0%

10.0%

12.0%

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

80.0%

差分(H12‐H2)

H2 H12

自動車分 自動車分

人口別市町村区分

-2

人口規模別による自動車分担率特性

‐4.0%

‐2.0%

0.0%

2.0%

4.0%

6.0%

8.0%

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

25.0%

30.0%

差分(H12‐H2)

H2 H12

人口別市町村区分

自転 自転車分担率差分

-3

人口規模別による自転車分担率特性

(3)

3

は人口密度の高い,つまり都市機能の拡散しないコンパ クトな都市において,利用しやすい交通手段であること がいえる.

(2)

交通利用モード間の相関性

図-6に,各交通利用モード間の関係性を示す.縦軸,

横軸にそれぞれ交通利用モードの分担率を示し,グラフ 内の点はそれぞれ該当する1市町村を示すものである.

これによると,鉄道・バス分担率や,自転車分担率が高 い都市は,自動車分担率は低くなる傾向が分かる.一方 で,自転車分担率と鉄道・バス分担率は,特段の関係は なく,競合状態にないといえる.ただし,公共交通の端 末利用としての自転車分担率は,鉄道・バス分担率と正 の相関がみられる.つまり,自転車への利用転換を推進 するためには,自動車交通からの転換を図ることと,鉄 道・バスの利用を伸ばすことが有効と推察される.

4.

自動車から自転車への利用転換が期待される 領域

(1)

自転車の利用距離

図-7は,平成

17

年全国都市交通特性調査集計結果から,

距離別の交通分担率を示したものである.これによると,

自転車は

5km

未満の距離帯において,交通手段の

2

割程 度を担っており,この距離帯で重要な都市交通手段とな っている.また,図-8に示すように,平成

17

年度道路交 通センサスから算出した自動車移動の距離帯別割合をみ ると,全体の

42%

5km

未満の短距離移動であり,自転 車への利用転換を図るターゲット層となりうる.

(2)

自転車への転換が期待される自動車トリップ 自転車への転換が期待される領域については,自動車 移動の5km未満のトリップのうち,運行目的が出勤や登 校,買い物,食事,観光,帰宅などのトリップとし,送 迎や荷物運搬,保養,通院などを目的とするトリップは 自転車への転換が困難と考え,転換が期待できるトリッ プから除いた.なお,道路交通センサスによるトリップ 目的区分において,帰宅については送迎や保養などを目 的とした自転車への転換が困難なトリップに付随するも のも含まれると考えられるが,その内訳は不明であり,

ここでは転換が期待される領域に含んでいる.

図-9は,自動車の

5km

未満のトリップについて,前述 した自転車への転換が期待される利用目的と転換の期待

‐4.0%

‐2.0%

0.0%

2.0%

4.0%

6.0%

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10.0%

12.0%

0.0%

10.0%

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30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

80.0%

差分(H12‐H2)

H2 H12

自動車分担率 自動車分担率差分

人口密度別市町村区分

(単位:人/km2)

図-4 人口密度別による自動車分担率特性

‐4.0%

‐2.0%

0.0%

2.0%

4.0%

6.0%

8.0%

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

25.0%

30.0%

差分(H12‐H2)

H2 H12

自転車分担率 自転車分担率差分

人口密度別市町村区分

(単位:人/km2)

図-5 人口密度別による自転車分担率特性

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

80.0%

90.0%

100.0%

0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0%

自転車分担率

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

80.0%

90.0%

100.0%

0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0%

鉄道・バス分担率

自動車分担

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0%

鉄道・バス分担率

駅端転車

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0%

鉄道・バス分担率

自転担率

-6

交通利用モード間の交通分担率の相関

(4)

4

が希薄な利用目的に分類した上で,トリップ数の割合を 都市規模別に集計したものである.これによると,自動 車トリップのうち,5km未満かつ自転車への転換が期待 される利用目的であるトリップの割合は,東京

23

区が若 干低いものの,どの地域も30~35%と,転換が見込まれ る領域は一定程度あるといえる.また,図

-10

に示すと おり,東京23区についても,郊外区部においては,自動 車移動

5km

未満のトリップの割合は意外に高く,自転車 への転換の余地は十分あるといえる.

5.

おわりに

本稿では,自動車および自転車の交通分担率の都市規 模による特性の違いを明確化するとともに,各交通利用 モード間における交通分担率の関係性を示し,自転車利 用環境整備を推進することによる自動車から自転車への 利用転換の有効性を確認した.さらには,自転車が本来 有利となる距離帯の利用において,現状利用されている 自動車トリップのうち,自転車への利用転換が期待でき る割合を示し,その十分な転換余地を見出した.

今後は,交通分担率特性の分析において,市町村等の 年齢構成や公共交通サービス水準,地形条件,自転車利

用環境の整備状況などの要素を考慮することにより,自 転車利用への転換可能性について詳しく分析していく予 定である.これらの分析により,自転車利用推進を図る ターゲットや施策の方向性をマクロな視点で明確化でき るなど,今後の交通施策の立案に向けた有効な基礎資料 となると考えている.

参考文献

1)

諸田恵士,大脇鉄也,上坂克巳:我が国の自転車利 用の実態把握,土木技術資料

51-4

pp.6-9

2009.

2)

齋藤博之:平成

13

年の道路構造令改正における自転 車走行空間の確保の考え方,交通工学,

Vol.38

増刊 号,

pp.26-32

2003.

(

2011. ?. ?

受付)

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

1km 1-2km 2-3km 3-4km 4-5km 5-6km L06 L07 L08 L09 6-10km L11 L12 L13 L14 10-15km L16 L17 L18 L19 15-20km 20km

その他・不明 鉄道 バス 自動車 バイク 徒歩 自転車

移動距離

交通分担率

-7 距離別の交通手段利用割合

0% 20% 40% 60% 80% 100%

42% 25% 32%

5km未満 5km~10km 10km以上

-8 自動車移動の距離帯別割合

0% 20% 40% 60% 80% 100%

東京23区 200万人以上 100万人以上 50万人以上 30万人以上 10万人以上 5万人以上 5万人未満

距離帯別トリップ数割合

口別市町村区

5km未満_自転車への転換が期待される領域 5km未満_自転車への転換の期待が希薄な領域 5km以上10km未満

10km以上

-9 自転車への転換が期待できる目的を抽出した

距離帯別自動車トリップの割合

10%

15%

20%

25%

30%

千代⽥区 新宿区

港区

⽂京区 豊島区

中野区 台東区

中央区 江東区 墨⽥区

江⼾川区 葛飾区

⾜⽴区

荒川区 板橋区 北区

練⾺区

杉並区

世⽥⾕区

⽬⿊区 渋⾕区

品川区

太⽥区

-10 東京23区における自動車5km未満トリップの割合

参照

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